第2章

昼過ぎ――

城の中を歩いていたアシェドは、エリレオが同じ年くらいの兵士と話をしているのを見つけた。

距離が離れているためか、二人はアシェドには気付いていない。

わざわざ出ていく必要はないと思い、退屈なのでこっそりと見ることにした。

「それで、手紙は読んだのか?カシル」
エリレオは嬉しそうに相手の名を呼ぶ。

「うん。父さんや母さんも元気そうでよかったよ」
カシルと呼ばれた少年は、銀髪に青い瞳で、人の良さそうな顔をしていた。

親しげな雰囲気を見たところ、二人は友人同士なのだろうとアシェドは思った。

「ところでエリレオは、アシェドさんと二人で仕事に行くんだろう」
カシルは穏やかな口調で聞いた。

「ああ…だが、不安なのだ」
エリレオはやや下を向く。

「そんな、心配ないよ。アシェドさんは強いし、悪い人ではないと思うよ」
カシルは笑顔で答える。

アシェドの素顔を知らず、偽りの顔を信じてしまっているのだ。

真っすぐでお人好し…

アシェドの苦手なタイプだった。

「いや…そ、そんなことはないと思う。あいつは…」

「やあ、エリレオ」
エリレオが訂正しようとするのを遮って、タイミングを見計らったアシェドが二人の前に表れた。

急なことだったので、エリレオは慌てた。
「ア、アシェド!さてはお前…どこかで隠れてこっそり見ていたのではないか?」
エリレオはアシェドを訝しげに見ている。

「俺は今ここに来たんだぞ。ひどいなぁ」
偽りの顔で嘘をつくアシェド。

「そうだよエリレオ。アシェドさんがそんなことするわけないだろう」
カシルはアシェドを少しも疑っていなかった。

「初めまして、俺はアシェド。君は?」
アシェドは初めて話をするカシルに偽りの笑顔を向ける。

「ラスレン隊長の部下のカシルです。エリレオとは友人で、一緒に剣を習っていました」
カシルはもの柔らかに自己紹介をした。

(こいつラスレンの隊にいたっけ?)
アシェドはカシルの存在に気づかなかった。

「そうか」
アシェドは作った笑顔のまま一言だけ返す。
関わる必要はないと思った。

そこへ、体格のいい二人の兵士がこちらへ歩いてきた。

「お前、シディエス隊長の弟か?」
兵士の一人が無愛想にカシルに尋ねた。

「はい。シディエスは僕の兄です」
カシルは少し緊張して答える。

(シディエス…隊長…?隊長がもう一人いるのか)
アシェドは、隊長はラスレンだけだと思っていた。

兵士二人はカシルを見ながら不満そうな表情を浮かべている。

「カシルに何の用でありますか?」
エリレオは兵士二人の態度を不審に思った。

(あ〜面倒くさ。俺は関係ないもんね)
アシェドは、他人のフリをしていた。

「ラスレン隊長は、なぜこんな頼りない奴を入隊させたのかねぇ?オレらの方が長くいるのになぁ」

「だよな。オレ達が二軍なんてさぁ。こいつが、シディエス隊長の弟だからじゃないの?」
兵士二人は文句を吐き捨てる。

おそらく、この二人は、自分達が隊員に選抜されなかったことが腑に落ちないのだ。

カシルがシディエス隊長の弟であることを妬み、カシルの外見が弱々しくおとなしそうなので納得がいかないのだろう。

「僕が隊に選ばれたのは兄とは関係ありません。それにラスレン隊長はそんな理由で隊員を選ぶ人じゃない」
カシルがはっきりと言い切った。

「カシルの言う通りだ」
冷静な口調の男の声が聞こえた。

声のした方から背の高い男が現われる。

銀の長髪に青い瞳。
人目を引く綺麗な顔立ちをしていた。

「シ、シディエス隊長!」
兵士二人が、現われた男シディエスの姿を見て慌てた。

「兄さん」
カシルはシディエスの方へ歩いていく。

「不服であるなら直接ラスレンに申し立てるべきではないのか?」
シディエスはきつい口調で兵士二人を見る。

シディエスの冷たい威圧感に押され、兵士二人は何も言えなくなってしまった。

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