第2章

扉を開けると、広い空間に出た。

手のひらくらいのサイズの光る球体が、周りにいくつも散らばり、バラバラの高さで浮いている。

真ん中の奥の壁側に、白くて太い柱が中心に立ち、その上には銀色の巨大な杯の形をしたような器が置いてある。

その手前に一人の人物が立っていた。

後ろ姿だが、肩まで伸びた青い髪に小柄な体格、フリルのついた服やスカートで少女だとわかった。

少女は、セディルとユーリスの気配に気付く。

「誰?」
少女は振り返った。
目が丸く可愛らしい顔立ちをしている。

「…!」
少女は視線をユーリスに向けた時、一瞬目を見開き、ユーリスの近くまで走って来た。

「え?」
ユーリスはびっくりする。

「あなたは…」
少女はユーリスをじっと見ている。

「おれ…い、いえ。僕がどうかしましたか?」
思わず猫を被ってしまうユーリス。

初対面の女の子に見つめられて、ユーリスの顔は赤くなっていた。

「とても不思議な感じがする…」
少女は更にユーリスに近づく。

「えっ?僕がですかっ」
少女との距離があまりにも近いためユーリスはますます動揺した。

「ユーリス…今更かしこまることないだろう」
セディルが苦笑する。


「…っ!」
急にユーリスが顔色を変え、右手で頭を押さえた。

「ユーリス!大丈夫か?」
セディルが声をかける。

「だめだ…っ!今出てきては…っ!」
ユーリスは目を瞑り、見えない誰かに語りかけるように言う。

「ユーリス?」
セディルはユーリスの様子に驚く。

「悪いっ!おれ、ちょっとトイレっ!」
ユーリスは急に言いだし、部屋から飛び出してしまった。

「どうしたんだ?一体?」
おそらくトイレは口実だろうとセディルは思った。
 
様子が気になる…

「ごめん。君はここで待ってて。ぼく、ユーリスの所へ行ってくるよ」
セディルは少女に言った後、部屋から出て行った。


――


セディルがユーリスを探し歩いて廻っていると、

「え?そうなのか?」
どこからかユーリスの声が聞こえた。

セディルはゆっくりとユーリスの声がした方へ歩いていく。

「じゃあ、あの子が天上人に関係があるってことか?」
ユーリスが尋ねている。

誰かと話しているのだろうか。

セディルは塀の影から静かに覗いてみる。

「そうか…だからあの子がおれに何かを感じたのか」
ユーリスの声だけしか聞こえない。

それもそのはず。
周囲には誰もいないのだ。
いるのはユーリス一人だけだった。

(ユーリスは一体誰と喋ってるんだ!?)
セディルはユーリスに疑問を抱いた。

秘密の会話なのだろうか。
見つかったら気まずくなるかもしれない。

そう思い、立ち去ろうとすると、

「…フェルシウス」
ユーリスが一言口にした。

出てきた名前を聞いたセディルは更に驚く。

フェルシウス――

レハラルドに追い詰められていた時、助けてくれた天上人。

200年前の世界から来た事を知っている唯一の人物。

フェルシウスのことを知っているのか?

誰もいないのに誰と話をしていたんだ?

様子がおかしくなったのはどうしてだろう?

ユーリスに対し疑問だらけになるセディル。


聞きたいけど聞いてはいけないことなのかもしれない。

そういった話を、お互い話せるような仲ではないし、まだ友人と呼べるほど親しくはない。

ユーリスとの間には距離がある。

…むしろ、壁を作っているのは自分の方かもしれない…

闇の力を知られてしまうことを恐れている…

拒絶されるのが怖い…

もう嫌なんだ…

――

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