第2章

「お前の目的は聖剣と、英雄の血を受け継ぐ俺とシャークを狙っているのではなかったのか?」
ラスレンはアシェドを見ながら確認するように質問した。

「英雄?伝説の聖剣?別に興味ありませんよ。俺には関係のないことですし」
全く関心がないため、アシェドは他人事のように答えた。

「オレは、アシェドはシュヴァの一員ではないと思うぜ」
シャークが話を切り出した。
おそらく誰かから話を聞いたのだろう。

シャークは更に話を続ける。

「そもそも、本当に闇の力を持つ物はこの街にすら居られねぇだろ。シュヴァのような闇の力を持つ連中なら明らかに気付かれてるはずだぜ」
シャークは確信するように言う。

ヴィシャスの街にも、街の入口を始め各地域にも、闇の力を感知できる特殊な力を持つ門番が配置されていた。

(へぇ。なら俺は、つまみ出されてるはずなんだけどなぁ)
アシェドは心の中で答えた。

「確かに、今のアシェドからは闇の力を感じない。闇の力を感じたのはアシェドが魔法を使った時だけだったな」
ラスレンは思い出したように言う。

(あれ?普段は俺の闇の力に全く気付いてなかったのか?ラスレンは光の力を持っているのに、なぜだろうなぁ?)
アシェドは疑問に思っていた。

「つまりアシェドの闇の力は、門番や光の力を持つオレたちにもわかんねぇくらい微かな力なんだろう」
シャークは、脅威を感じるような力ではないと思った。

(俺の闇の力が弱い?何言ってるんだろうねぇ。闇魔法は俺の得意技なんだけどなぁ)
また心の中で得意気に言うアシェドだが、表面には出さなかった。

あの時、ラスレンが来る前に使った闇の魔法は、たまたま最低レベルの闇魔法を使っただけだった。

(誰も俺の闇の力に気付かないのか?まあ俺にとっては好都合だからいっか)
アシェドは軽く考えていた。

「アシェド。なぜお前は闇の力を持っているのだ?」
エリレオが怪訝な顔でアシェドに質問をする。

「さあ…物心ついた時には身についていましたから」
アシェドはさらりと答えた。
一瞬、その瞳はどこか暗くなったが、すぐに普段の顔に戻った。

「そういや、聞いた話じゃ、昨夜アシェドが傭兵二人にからまれていたんだとよ」
シャークが言いだしたのは、ガラの悪そうな傭兵がアシェドに言い掛かりをつけて暴力を奮おうとしていた話だった。

「そうだったのか…俺は勘違いしていたんだな」
ラスレンはアシェドが闇の力で傭兵を襲ったと思っていたのだ。

「アシェド。それならそうとラスレン隊長に説明すればよかったのではないか?」
エリレオは、アシェドの性格そのものに不信感があった。

「俺、ラスレン隊長と戦ってみたかったんで。つい黙っていてしまいました」
あっさりと答えるアシェド。

「ついとはなんだ?お前がそういう態度だったからややこしいことになったのだぞ」
エリレオはアシェドに対して怒ったような口調になる。

「まあまあ落ち着けエリレオ。お前の言う通り、アシェドがきちんと言わなかったっていう理由もあるけどよ」

「エリレオ。俺も悪かったんだ。状況も知らずにいきなりアシェドに闇の力のことを聞いてしまったからな」
シャークとラスレンがエリレオを宥めるように言う。

「兄貴もさ、街の外にいる時は、シュヴァの刺客や闇の力を持つ奴が狙ってくることが何度かあったからピリピリしてたんじゃねーのか?」

「…そうだな、お前の言う通り、俺は気を張り詰めすぎていたのかもしれないな」
シャークの言葉にラスレンの顔が穏やかになってきた。

「もう少し落ち着こうぜ。兄貴は頭に血が昇りやすいタイプだからな」
シャークは昔からのラスレンの性格を知っていた。

「ソルゴ兵士長にも言われたよ。お前は少し冷静さに欠ける部分があるってな」
自分の欠点を自覚しているラスレンは苦笑した。

「ところで、シャークさんはどうしてラスレン隊長のことを兄貴って呼ぶんですか?」
アシェドが二人を交互に見て言った。
疑問に思ったことをそのまま聞いているようで、ニヤリともせず、目も泳いでいない、その様子からして本当にわからないようだ。

「それはオレの兄だからさ。なっ兄貴!」
「ああ、シャークは俺の弟だ」
シャークとラスレンはそれぞれ自分の口から、兄弟であることをアシェドに伝えた。

「へぇ…兄弟か…」
アシェドが独り言のように呟やき、一瞬だけ無表情になるがすぐに消えてしまった。
 

7/43ページ