第1章

それから時間が経った。

「あの少年を見たらすぐに知らせろ!」
「そう遠くには行ってないはずだ!早く探して捕まえなければ!」
「闇の力を持つ少年はどこへ行った!」

夜の町の中をあちこち駆け回る警備兵や術士達。



「まいたかな?」
セディルは、人気のない誰もいなさそうな古ぼけた建物の影に身を潜めていた。
額には汗が滲み、息切れしていた。


「!」
セディルは高い魔力が近づいてくるのを感じた。

「そこにいるのはわかっているぞ」
男の声が聞こえた。
「この声は…!」
セディルの心搏数が更に上がる。

「たとえ微量でも、闇の力を感じ取ることができれば目に見えずともわかる」
この声はセディルの力を見抜いた僧侶レハラルドの声だった。

居場所がバレているのなら隠れていても意味がない。セディルはレハラルドの前に姿を見せた。

「いい加減に観念しろ。もう逃げられんぞ」
レハラルドは静かに歩いてくる。
セディルの後ろには高い塀が立ちふさがっており、逃げようにも逃げられない。

なら、残された道は…

「ぼくは、あなた方に捕まる気はありません」
セディルは静かに構えた。

戦いは避けたかったが、他に方法がない。
しかし、レハラルドは並の魔力の持ち主でない。
おそらく、まともに戦える相手ではないだろう。

「あくまで抵抗する気か、ならば仕方あるまい」
レハラルドの目付きが険しくなった。



星も月の光も照らさない暗い夜空の下で、静かな風が吹き抜ける。



先手はレハラルドだった。

「聖なる神よ力を貸したまえ。我がリューエル一族の名において、今ここに、聖水の力を解き放て!」
レハラルドは呪文を唱え魔法を繰り出した。

複数の水がセディルに向かって伸びていく。
それは生きた水の縄がセディルを捕まえようと襲って来るようにも見える。

「!」
避けられる余裕はないため、セディルは防御態勢に入った。

次の瞬間、セディルの周りに魔法の壁ができ、レハラルドの魔法を完全に防いだ。
セディルが自分の魔力で防御したのだ。

「どういうことだ?闇の力を持つ者は聖なる力には弱いはずだが…」
レハラルドは全く無傷のセディルを見て疑問を口にした。

(確かに、この人の言うとおりだ)
セディルは、なぜレハラルドが不思議そうな顔をしているのかわかっていた。

聖なる力は光の力と同じ属性で、闇の力に対して特効のある貴重な力だ。

たとえ、防御していたとしても、闇の力を持つ者に対しては、多少は聖なる力の影響を受ける。

それほど、闇の力は光の力が弱点だった。

「どうしてぼくには効かないんだ?」
セディルは自分でもよくわからなかった。

光の一族の血を引いているから?

このペンダントの石が護ってくれているのか?

そのどちらかか?両方か?
それとも他に何かあるのだろうか?


再び静かな風が吹く。

しばらくの沈黙…


セディルとレハラルドはそれぞれ考え込んでいる。



突然辺りが光った。
「!?」
周りは光ったままで眩しくセディルは目を細めた。

『今のうちに逃げなさい』

声が聞こえた。
レハラルドではなく、天から聞こえるような別の声。

誰なのかはわからないけど逃がすチャンスを与えてくれたので、セディルはその場から駆け抜けていった。


『そのまま真っすぐ進め』
また天からの声がする。

「一体誰なんですか?」
セディルは上を見上げるが、まださっきの眩しい光は消えないままなので見えなかった。

『詳しい話は後でする。今は君を安全な場所まで逃がしたいんだ』
天の声はセディルを助けてくれているようだ。
声を聞いても怪しい感じはせず、むしろ誠意が伝わる真っすぐな口調だった。

「わかりました」
セディルは天の声の持ち主の言うことを信じるてみることにした。

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