第1章

兵士エリレオは、夕食を食べるため食堂へと歩いていた。

「エリレオ」
銀の髪に青い瞳の兵士が声をかけた。
エリレオとは年が近く、温厚で優しそうな兵士だ。

「おお、カシル。お前もこれから夕食なのか?」
エリレオは親しい口調で返す。

「うん。今日の訓練が早く終わったんだ。行こうか」
慣れた様子で答えるカシル。

カシルはエリレオの友人だった。



あれは4年前――

カシル13歳、エリレオ15歳、まだ兵士の見習いになったばかりのころだった。

城の修練場。
見習い兵士たちと部隊に所属している兵士たちが訓練をしている。

練習のため、剣は真剣ではなく木製の剣を使用していた。

「おい。そんな受け方じゃ体勢が崩れてしまうぞ」
「はいっ。すみません」
カシルは20代くらいの兵士から剣を習っていた。

「お~い!そこのお前ちょっと来てくれ!」
兵士が、黒の短髪で10代半ばくらいの見習い兵士を呼ぶ。

「はい。今行くであります」
返事をした見習い兵士はエリレオだった。

「確か、お前たちは同時期に入隊していたな。なら、二人で手合わせしてみろ」
兵士がカシルとエリレオの二人を見た。

「僕はエリレオであります。よろしくお願いしますであります」
エリレオは生真面目な口調でカシルに挨拶した。

「僕はカシル。こちらこそよろしく。僕たちは同期だから敬語はいいよ」
カシルは穏やかに挨拶を返した。

「では、俺はこれで失礼するぞ」
兵士は用事でもあったのか早足で歩き出した。

カシルとエリレオの剣の腕は、ほぼ互角のように思えた。
だが、控えめで争いを好まないカシルの性格が災いし、カシルはエリレオに押されてバランスを崩してよろめいてしまった。

その二人の手合わせを見ていたのか、先程とは別の兵士がやってきた。
現れたのは、30代くらいの上級兵士だった。

「お前がゴーケンさんの息子のエリレオだな?」
上級兵士はエリレオの父の知り合いのようだ。

「はい。そうであります。僕は父のような立派な兵士になるために志願したのであります」
エリレオは真剣な表情で答えた。

「お前はシディエス隊長の弟なのに、へっぴり腰だったな」
上級兵士は厳しい顔でカシルを見る。

「…!」
兄の名前を出されて比べられ、カシルは黙ってしまう。

カシルの兄のシディエスは隊長で、天才的な剣術に加え魔法の使い手でもある魔法剣士だった。
容姿にも恵まれており、美形の天才剣士として有名な存在だった。

「えっシディエス隊長の…」
驚いたエリレオがそこまで言いかけると、

「私がきっちり稽古をつけてやる。来い!」
上級兵士はカシルを連れて行った。


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