第1章

「わっ、とと…」
セレディンの近くを通る数冊の本を抱えている人がよろめいた。

本のバランスが崩れ、セレディンが見ていた本のすぐ近くに二冊ほど滑り落ちた。

「すみませんっ」
その人は、目が大きく可愛い顔立ちをしていた。

(えっ!?男!?)
セレディンは声変わりした声を聞いてハッとなった。

少女に見えた目の前の少年は、本を手に持ち直す。

「大丈夫かい?」
セレディンは、少年に声をかけた。

「はい。たくさん持っていきすぎましたね」
水色の髪に青い瞳の少年は穏やかに笑う。

少年は、女の子と見間違われそうな顔をしていた。
見たところ14、5歳くらいだろう。

「これは、カトレリア一族のことですね」
少年は、セレディンが開いていた本が目に入った。

「ちょっと調べたいことがあったんだ。君も興味あるのかい?」
セレディンは穏やかに返した。

まともに人と言葉を交わしたのは、いつ以来だろう…。

「実は、今でも一族の生き残りの血を受け継ぐ者がどこかにいると言われているんです」
「それ!ホントなのか?」
セレディンは少年の話が気になった。

「本当です。しかも最近では、北西の地方で光の力を持つ女性がいたという噂を聞いて…」
「ユーリス!」
少年が話している途中で、また別の少年の声がした。

「どうしたんだ?」
呼ばれたユーリスが振り返ると、少年が落ち着かない様子でやって来た。

「早く家に帰ったほうがいいぞ。お前の親父に急いで連れて来いって言われてるんだ」
「えっ!?わ、わかったよ!」 
少年の話を聞いたユーリスは慌てた。

「すみません。僕はこれで失礼しますっ」
ユーリスは少年と一緒に早々と行ってしまった。


ーー


セレディンは図書館を出て町の中を歩いていた。

さっきの話…もし本当だとしたら…

だが、その女性に会えたとしても、自分はカトレリア一族の者だと言うのか。

(光の力を持たず闇の力を持つぼくが…)

何よりも、200年前の人間であるということを誰が信じてくれるのだろう。

会ってどうしたらいいのかわからず考え込んでいた。


――――
 
 
8/24ページ