序章

石とレンガで造られた壁と、見上げるほど高い天井に、広々とした空間が広がっていた。

その中央を、傷だらけのまま重い足取りで歩いていく。

「く…っ」
苦しげな声。

赤い短髪は乱れており、大きめの金色の瞳には強い意志が見える。

中性的な外見で、10代半ばぐらいの人物だ。

長い間休まる時がなかったのか、服は汚れ靴も磨り減っていた。

左手には、手のひらに収まるくらいの光る石が握られている。

『お前が持つ光の石を使うのだ。これ以上苦痛を味わいたくないだろう』
声の主の姿は見えず、声だけが空間中に響き渡っていた。

『光の攻撃から逃れる方法はただ一つ。光の石を天に向けて石の力を使い、この空間の光の力を封印するしかない』
声の主は厳しい口調だった。

「ここで使えば、光の石は効力を失い、ただの石になってしまう」
持っている光の石を見た。

『さあ、その光の石を…』
「嫌だ…っ!」
遮って叫んだ。

「ぼくには…この石が必要なんだ…!」
真っ直ぐに足を進める。

その瞬間すさまじい光が襲った。

魔法で防御したが魔力が足りず、光の攻撃を受けてしまった。

「う…っ」
更に傷が増え、膝をついた。
細い腕で体を支える。

「もう、後戻りはできない…!」
ゆっくりと立ち上がった。

「この石を最上階まで持っていって願いを叶えるんだ!」
強く言いきって歩きだす。

『光の石を使わなければ、この空間に漂う光の魔力が、お前を排除しようと攻撃し続けるぞ』
声の主が警告してきた。

再び光が襲ってきた。
微量な魔力を使って防ぐが、直撃に近い攻撃を受けてしまう。

耐えきれず、その場に倒れてしまった。

「ううっ…こんな…ところで…っ」
体を動かそうとするが、その度に痛みが走る。

空間の出口の扉までは後少し。
魔力も底をつき、次の攻撃を防ぐ方法はない。

止まっている時間はなかった。
この空間にいる限り、光の攻撃は避けられない。

「ここまで来たことを…無駄にするもんか…っ!」
最後の力を振り絞って立ち上がる。

「ぼくは、諦めないっ!」
体を引きずりながら必死で歩く。

「最上階まで行くんだー!」
空間の出口の扉に手を伸ばす。
それと同時に光の攻撃がくる。
力強く扉を開いて飛び込んだ。
そのまま扉の外へ出て、力尽きたように座り込んだ。

「…出ら…れた…」
最後の難関を越え、体力も気力も限界だった。

外を見ると、柱と柱の間から空が見え、雲が同じ高さで浮かんでいた。

あとは階段を上がって、最上階に行くだけだ。

そして、願いを叶える。

これでぼくは…
自分のことを誰も知らない場所へ行けるんだ。


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