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-短編集-


~登場人物・話の詳細~

†吸血鬼†
キル

:血に飢えるイケメソヴァンパイア。夜にしか活動出来なく昼はお肌が焼けないように日々努力をしています。鉄分は取れずともカルシウムは誰よりも取るよ。


‡お姫様‡
リリー

:世間知らずと天然さは誰よりも負けない!気品に溢れる美人お嬢様。ある日血を飲みに来たキルに同情を買い自ら飲んでと頼む。影でしか会えない彼と会う内に段々…


†召使い†
シュール

:髪をおろしてもにこにこフェイスな美形を保つドS召使いさん。どんな時でも眼鏡は欠かさず眠る時さえもかけてるほどだよ。お嬢様(リリー)とキルの接点に対しては全く気にしないが、ついS心が覚醒して色々と邪魔をしちゃう困ったさん。


‡半吸血鬼‡
ハンナ

:女吸血鬼で人間と吸血鬼の1:1な美女。時々夜の外を出歩いては無理やりキルをつき合わせてワインを飲む図々しさ。昼間も平気でバーに行ったりと女とは思えない程もうワイン三昧。ワインの為なら例えキルが恋に落ちようが血に飢えようがどうでもいい。



ーその他登場人物ー

†青年†
フィリ

:ハタチには全く見えない幼い男性。おばあちゃんからは孫扱い、女性からは子供扱い。そんな幼さを唯一気にしてくれない女の子、ネリルとは結婚したばかりの純粋天然さん。


‡メイド‡
ネリル

:妄想万歳、フィリが王子ビジョンに見えて仕方ないちょっとお年頃の女の子。これでも17で、はれてゴールインしちゃった。普段はリリーの着付けや掃除を全般。


†騎士†
クロル

:リリーが住んでるお城の騎士。クラスが高くお嬢様の部屋で見張りをしてる割には吸血鬼であるキルをあっさり中へ招き入れるドジっこさん。彼曰く、どうしても悪い人には見えないとの事。だから今日も無意味な警備を黙々クールドジをふりまく。


‡女騎士‡
エラ

:クロルと同じクラスでお嬢様の部屋に不審者が侵入しないよう見張る真面目な騎士。けれど会話は苦手で極度な上がり症はカワイい一面を持っている。恥ずかしさがなんだ!今日も吸血鬼であるキルをとっとと中に入れて平常心を保つんだ!






以上主な登場人物



※注意※
この章には過激な内容やグロなどの表現、少し裏に近い恋愛が含まれています。





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今日は月が綺麗だな…。

金色に輝いて、暗い夜の街を仄かに照らしてくれる。


そんな明るさが、俺はどんなものよりも好きだ…。






中でも血は絶品だ。

人間の中で流れる血。人それぞれ味が違い、サラサラで真っ赤な血は美味しい。

逆にドロドロで流れが遅い人間の血は、微妙に味が深すぎて不味い。男性は殆どが不味いな。


けど、女性の血はみんな綺麗だが、やはり皆普通の味だ。俺が求める血は、サラサラで綺麗に流れ、どの血よりも真っ赤に染まっている赤い血液だ。



そんな血が欲しい………




だが、最近は夜に出歩く女がいない。俺がこの街にいる女性を殆ど飲んだからか…。




嗚呼……、




血が欲しい…。













そうだ。確かあの白い城に女がいると耳にした事がある。行って捕まるのも面倒だったので行かなかったが、そろそろ行って探してみるか。

多分だが、俺の求めている血を持っているかもしれない。





何故血を飲むか。








そうだ…。

俺は夜だけでしか動けないが、人間の血を呑む。






血を呑んで生きる、


吸血鬼だからだ…………。

†ー城内ー†










「リリーお嬢様。そろそろ就寝のお時間です。メイドをお連れしていますので、お部屋の中へお戻り下さい」




「はい…。分かりました……」


召使いのシュールに頷き、自分の部屋へ向かう。

彼女はこの城の令嬢であり、お嬢様である。まだ17歳という若い年齢でありながら気高く美しい容姿と気品に満ち溢れ、とても礼儀正しい。

幼い頃から時々兵士を連れて外に出ては、街の人に挨拶を交わしみんなには好かれている。


優しく穏やかな性格でありながら、透き通った声に整った顔立ち。その全てが光に包まれているような存在が、この街全体では誰もが“リリーお嬢様”を知っている。



「こんばんは、リリーお嬢様」

「こんばんは…。お嬢様…」


部屋の前まで来ると、いつものように見張りの騎士が敬礼する。


「こんばんは…。いつも見張りをしてくれて有難う…」

「そう言って頂き、私も嬉しい限りです」

緑色の長い髪で、真面目な目をした女性、エラが応える。その隣で眠そうな目をした青い猫毛のクロルも、リリーに小さく敬礼する。


「今日も一日、お疲れ様です。お部屋でメイドが待機していますので、着替えが済んだらごゆっくり、お寝むり下さい」


「はい…。お休みなさい……」


騎士にお辞儀し、ドアを開けて中に入る。白い壁、白い床、白いクッション、白いふかふかのベッドと、全てが全て、白い部屋。豪華な調度品も所々に飾られている。

黒と白のエプロンドレスを着た紫色のツインテール、メイドのネリルがにこっと笑いかける。



「あ、お待ちしていましたリリーお嬢様。寝間着の服に着替えるね[A:F37E]」


両手に持ってる可愛らしいレースと赤い紐のリボンがついてる白い寝間着を広げ、白いドレスを脱いで着がえる。


紅色が混じったピンク色の長い髪が揺れ、リリーを椅子に座らせると、ネリルがゆっくりとクシで髪をとかす。


「いつ見ても綺麗な髪だよね」

「そう…かな?」


そうだよ、とクスリと笑い、とかし終えると、ドアへ向かいまたリリーにお辞儀をする。


「それではリリーお嬢様、お休みなさい…[A:F37E]」

そう言って、廊下へ出てバタンとドアを閉める。





「……お休みなさい…」

誰も居ない部屋でドアを見つめてボソッと返す。

いつもと変わらず、毎日同じような日々を過ごす、変わり映えのない時間。

例え優雅な暮らしが出来るとしても、夜の外出は危険だと注意を受けられ行けない。昼間でさえも兵士を連れなきゃ外出出来ず、行動範囲は街とその近くにある湖だけ。






「……もっと、自由になりたいのに…」



そう呟きながら大きな窓ガラスを開け、バルコニーに出る。少しだけ冷たい風が髪をなびかせてくれて、気持ちが良くなる。


「………夜だけが、別の世界に見えて楽しいな…[A:F37E]」


街の明かりとその近くにある湖を見下ろす。この時間がなによりも好き。

昼間では見られない綺麗な街と、水面に映し出される月が見え、仄かに金色に輝く月の光りがつまらない時間を忘れさせてくれる。


とても幻想的で、いつ見ても不思議な場所へと誘い込むように、その月の光りを眺めている。それが私にとっては一番の楽しみだった…。











いつか、このお城から遠くへ出られる日が来るのかな…………。






「………………」


ふと不安を感じて俯いてしまった。





そうだ。私には普通の日常を知らない。物の価値観だって、街の人とは違う。外に出なければきっと何もかも知らないまま……、このお城で生涯を迎えてしまうかもしれない。




「…………外に、…行きたい……」


自然に声に出し、綺麗な満月を見上げる。とても美しく、暗い夜で見えなくなる場所を優しい光で照らしてくれる。



すごく…、


綺麗で心地いい………。

すると突然、満月が何かでかぶさり、視界が暗くなった。


「…………見つけた……」


見上げると、赤く光る二つの瞳に、耳に同じように赤い十字架のピアスが背後の月の光りでキラリと反射し、誰かが目の前にいるのだと分かった。





「…………ぇ…?」



本当にあまりにも突然だった。一瞬思考が停止して見つめていると、ガシッと赤い爪が見える両手で私の肩を掴み、後ろに押し倒されてしまった。

「………ーっ!?」

ふわっと髪が上がり、ドサッと背中を打った衝撃を受けて目を閉じる。


おかしい。


こんな場所に人が来れるわけがない。

ここはお城で高い位置に私の部屋がある。勿論近くに木や掴めるものなどない。兵士や騎士も侵入者がいれば直ぐに追い払う筈…………


…にも関わらず、何故人がここに、それも一瞬にして私の目の前に現れたのか。



「うまそうだな……」

目を開けると、目の前に青い色が混じった黒髪の男性が、両手首を掴んで床におさえつけながら覆い被さっていた。

何がなんなのか分からない。


「……っぁ…、貴方は…だれ…? …………誰なの…?」

声が震えているのが分かる。突然の出来事で思考が追いつかず、聞く事で精一杯。だけど彼は質問に応えず、ぐいっと顔を近づけニヤリと笑いかけた。

「……………ー!」


口の両端に、他の並んだ歯とは違う牙のようなものが見えた。


「お前の血は…、美味しいだろうな…?」


確認するように首もとへ口を近づけ、吐息を吹きかける。



「なぁ…?お姫様………」


「…………っ…//」


耳元で甘く低い声で囁かれ、一瞬唇が当たり一気に体が熱くなる。おさえられた手は驚く程冷たく、肌が雪のように白い。
抵抗すればするほどおさえる力を強め、段々力が出なくなってきた。




「…血……、飲ませてくれよ…」


スッと左手を鎖骨の方へ滑らせ撫でる。






血………?




私の血を呑みたいの…?

「…どうして…、…私の血が……………欲しいの……?」


震えながらも精一杯声を出して聞いてみた。すると、彼は首から私の頬へ移し、ニヤリとしたままこう言った。


「……生きる為に、決まってるだろ…?」



「………………」


生きる為……。

血を呑んで生きる。


牙があり、それで血を流して呑む…。






それって…、つまり………ー







「…貴方は……、“吸血鬼”なの…?」


そう聞くと、一瞬真顔になったけど、また直ぐに口の端を伸ばし私に笑いかける。



「そうだよ…。俺は……、吸血鬼だ………」


ゆっくりと顔が下りてきて、口を広げる。そのまま血を呑む気だと分かった。













…私……、こんな場所で死ぬの?






まだちゃんと外に出てない。知らない事も沢山あるのに…?





そんなのイヤ…。



嫌なのに……、抵抗しようとは思えなくなった。



彼は生きる為に、ここへ来た…。


だったら………ー




















「…いいよ…………」


ギュッと空いた右腕を彼の首に回し、目を閉じて告げる。その発言に驚いたのか、ギリギリで近づけていた口をぴたりと止め、閉じかていた目を開ける。







「…今……、…………なんて言った…?」




「私の血…、呑んでいいよ…」


優しく抱きしめ、小さく声にだす。


生きる為に彼は血を呑む。私のせいで、例え吸血鬼である彼であっても、“死ぬ”のは見たくなかったから…。






「……………本気で…、言ってるのか…?」


顔を引き、信じきれないように私の顔を見る。



「…じゃなきゃ貴方……、死ぬんでしょう?……………だから、いいよ…」


にっこりと笑いかけると、グッと口を閉じ、ジッと私を睨みつける。



「……そんな事言って、後悔しても知らねーぜ…」


そう言って、また首もとへ口を近づけていく。



「…………うん…」




この時、何故私はこんな事を言ったのか分からなかった。どうして突然来た見ず知らずの彼に、血を呑ませようと思ったのかも…。



口を開け、牙を向けて肌に触れる。だけど、なぜかそこから動かず、踏みとどまるようにしてバッと離し上体を起こした。
「………やめた」



「え…?」


無表情のままガシッと手首を掴み、グイッと上体だけ起こす。


「ぁ…、ありがとう…」
二人共座った形になり、見上げると、月の光りでやっと彼の顔がハッキリと見えた。

整った輪郭。微かに見える赤い十字架のピアス。それから…、真っ赤に燃え盛るような赤い瞳…。


「………………」

綺麗………。


そっと無意識に右手を頬に滑らせるが、彼はジッと見つめる。


あまりにも綺麗で…、言葉が出ない。
見ているだけで引き込まれそう………。



「おい。いつまで手を置いてるんだ」


「え……?」

ハッとして手を下ろし、下を向く。


そ、そういえば私…、さっき血を呑まれそうになったんだ。



「ど…、どうしてやめたの?」


「んー………。勿体なく感じたから」


「も、勿体ない?」


彼の顔をもう一度見るが、変わらず無表情のままでジッと私に目を合わせる。いつの間に握られていたのか、私を起こす時に掴んでいた左手を、ギュッと指を絡ませている事に気づきまた目を伏せた。



「で、でも…、呑まなきゃアナタ…、死ぬんじゃ……」

「そんな直ぐには死なねーよ。俺を誰だと思ってんだ。それに、お前の血を呑まないんじゃない。とっとくんだよ」


「どうして?」

「上手い血は直ぐ呑んでも勿体ないだろ。だからまた別の時にじっくりと……、って、何で顔を合わせないんだ」

そこまで言って、ずっと俯いてるリリーの顎に手をそえ上に向ける。


「ぇ…っ…あ……//」

「話しする時は目を見れ。人間はそれが常識なんだろう?」


「…その……、手……」

「手?手がどうした?」

「いつまで…、握ってるんだろうと思って……///」


「あ、そっちかよ。別に意味はない。ただ握ってるだけだ。嫌ならいいぜ?」

ニヤリと笑い、今度はぎゅっと抱き締めてきた。


「逆に抱き付いてやるから…」

「……………っ///」

体を密着させ、冷たい体温を感じてビクッと肩を震わす。



な、何でこんな事彼は平気でやるんだろう。

さっきも耳元で囁いたり、押し倒したり……。


……………。

…押し…………?

「や…、やめて…!///」


やっと今の自分が別の意味で危険な事に気づき、グッと離れようと押す。が、ニヤリと薄く笑ったまま両手を掴み、顔をズイッと近づけてきた。


「……………!」



「俺から逃げられると思うなよ…?」


急に声を低くし、至近距離で囁く。微かに吐息が肌に触れ、彼の赤い瞳がすぐ間近にある。


「お前の血はまだどんな味か知らないが…、取っておく価値はあるだろうからな。


……絶対に逃がさない…ーー」




「ん…っ……ー」


突然、彼がフッと目を閉じ私の口を重ねる。一瞬だけ何が起こったのか分からなく目を見開いて現状に気付くと同時に、更にグッと深くキスを交わしてきた。


「んんっ…ン///」


離れようと手を動かそうとしたけど、逃がさないように両手首を掴み防がれる。


「………っ…///」

抵抗しても離してくれず、息が出来ない。段々苦しくなってきて、手に力が入らなくなると、そっと重ねていた口を離した。


「は…ぁ……っ///」

何とか呼吸をして息を上げていると、彼がようやく手を離して目の前でスッと立ち上がる。


「…出逢った印だな。忘れんなよ、またお前の前に来るからな……」


何事もなかったかのように言うと、背を向ける。

「じゃあな?お姫様…」

意地の悪い微笑を浮かべて言い残し、高い場所にも関わらずバッと飛んで地面に落ちて行ってしまった。


残されたリリーは、まだ俯いたままで唇に指をそえている。



「…………………」


な…に……?

今の……。


…………キス…された…?


どうして…?






どうして血を呑まずに?








様々な思いがぐるぐると思考を巡り、混乱する。

また、“会いに来る”の…?


私に。





「………………」

顔を上げて前を見ると、姿を消した彼の立っていた場所を見つめる。




なぜか、最初の彼に対する恐怖感は一切なかった。

変わりに、今まで感じた事のない思いが、彼女の中に出来ていたのだが、それが何なのか、まだ分からなかった。



「……彼の名前は…、何だろう…」



血を呑みにここまで来たヴァンパイア。名前も言わず、なぜか血を呑まずに去っていった彼。

「………………」


立ち上がり、手すりにそっと手を置いて下を見たが、もう既に彼は見あたらなかった。もう、別の場所に行ったのかな……。


顔を上げ、雲がなく仄かな光りを放つ満月を見上げる。先ほど見た彼の赤く引き込まれそうな瞳を思い出し、今度は自分から彼に伝えるように優しく囁く。





「…待ってる……。…待ってるから…、今度逢えたら名前…、教えてね?」












その言葉に応えるかのように、満月の光りが僅かに増したような気がした……ー


















 
【一 了】
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