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-短編集-


-サイエンス学園Ⅰ-

 

‘ピピピピピピピピー’

「うっおー!?も、もうこんな時間かよ!」

朝8時30分。
目覚まし時計の音でガバッと起き上がり、起床するキル。


急いで制服に着替え、ドタドタと騒がしく走って階段を下り、机に置かれていた牛乳をガブ飲みする。

ちなみに額にはバンダナをしていない。


「ぷはー!やっぱり朝は牛乳だな」

飲み干したコップを机に置き、時計に目を通すと、この時点でもう8時35分。

学校が始まるのは8時50分からで、家から学校まで歩いて20分の距離。

ギリギリ間に合わない時間帯で、朝っぱらからしかも出だしから今まさにピンチである。







「やっべー!遅刻する!」

カバンを持ち、すぐに家を出ようと玄関で靴を履くと、後ろからロリ(キルが勝手に付けたあだ名)が一枚のトーストがのっている皿を両手で持って歩いてきた。


「あ。キル。朝ご飯のパン、食べないの?」

「あ!忘れてた!サンキュー母さん」

パンを口にくわえ、ドアを開けながらロリを見る。

「じゃぁ、遅刻しそうだから行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい。キル」

バタンと勢いよくドアを閉め、日常らしく、慣れたように手を振り見送った。





‘タッタッタッタッタッタッタッターーー…’

「ハァ…、ハァっ、や、やふぁい!まふぃひこくふる!
(訳:や、やばい!まじ遅刻する!」


トーストをかじりながらカバンを片手で抑え持ち、歩道を走る。

と、曲がり角にさしかかる。


‘ドカッ!’

「うっわっ!」

「………ー!!」


曲がり角を曲がった瞬間、誰かと衝突し、くわえていたパンとカバンを地面に落とし二人ともしりもちをついた。



「いっててて…。あ!だ、大丈夫か!?」


頭をおさえながらバッとぶつかった人を見る。


「ぐぬぅ~。私なら大丈夫だぁ」

見ると、同じ学校の制服で、ピンクの触角のような球体がついているカチューシャをした緑色の髪の子が返事をする。

だが、どう見ても格好だけ女子で、顔や体が男だ。
しかもがに股で、膝まである赤の体育着ズボンが丸見えだ。

「…………………」



「む、同じ制服という事は、サイエンス学園の生徒か。いやぁ、すまないすまない。実は私も急いでいたところだぁ。どうだ?君も私と一緒に…ー」

‘バキッ’


言い終わらない内に右の頬を拳でストレートパンチをかまし、すぐにカバンを持って立ち上がり走るキル。


「最悪だぁー!こんな朝っぱらから変態に会うなんてぇぇぇっ」

















ーサイエンス学園Ⅰー
~1時限目~

その1!
ー『転校生は変態!?』ー 

ドタドタと校門を抜け、廊下を走る。


「ハァ、ハァ…っ」


‘ガラララッ’

三年一組のドアを乱暴に開け、教室に息を切らしながら入る。


「はーいキル。ちーこーくー」

担任のシュール先生がキルを見てチョークを一本持つ。

「罰としてあげます」

「くっ!」

チョークをキルに投げるが、パシッと顔の目の前で両手で挟むように止める。

オー、と回りから歓声がおこる。


「へ。いつも当たると思ったら大間違いだからな?」

「遅刻常習犯が偉そうに言う台詞じゃないですよ」

そう言いながら教卓をバンっと片手で強く叩くと、キルの真上からカネダライが落ちてきて直撃する。







‘ガシャーン’





「ごふっ」

頭を両手で抑えしゃがみ、プルプルと痛そうに無言で震える。


「いやぁ~、そろそろ慣れる頃かと思って二重トラップを仕掛けておいたんですよ」


「んの野郎……」


「ほら、さっさと席について下さい。今日は二人の転入生が来ているんですよ」


「え!?マジかよ!」

ガバッと立ち上がりシュール先生を見る。

と、他の生徒もすぐに食いついてきた。

まずハンナが真っ先に聞いてきた。

一番前の右から三番目の席に座って、腕組みしながらミニスカートとニーハイにスパッツファッションだというのに、足を組んで机にふてぶてしく置いている。

「おい貴様」

「貴様じゃありません」

「じゃぁ、眼鏡」

「眼鏡ですが意図がよく分かりません」

「ならセンコー」

「いいですよ」


「いいのかよ!?」

まだドア付近に立っているキルがツッコミを入れる。

「その転入生とやらは、二人共男子なのか、女子なのか?」

「教師に対してタメ口とはいい度胸ですねハンナさん。一人男子で一人女子となってますよ」


「男子女子か。別にどうでもいいな」

「なら聞かないで下さい」


「はいセンセー!」

今度はハンナの縦列から二番目に座っているネリルが元気よく右手を上げる。

「はい。何ですか?ネリルさん」


「名前は何ですかー?」

「それを今から本人達に紹介させます。ここは小学校でも中学校でもありませんよ?高校ですからねネリルさん」


「にー」


「変な返事だよなそれ…」

ネリルの返事に対してツッコミを入れるキル。

すると、ドアに立っていたキルの後ろに一人の学生服を着たピンクと深紅色のロングヘアーの女の子が姿を現した。


「おや、来ましたね。ほらキル。邪魔ですからさっさとどいて席について下さい。殺しますよ」


「さり気なく殺すとか言うなよっ!?」

シュールに声を張り上げながら後ろに立っている転入生にチラッと目をやると、見るからに華奢な身体で両手で前にスクールカバンを持ち、眠そうな瞳をしているが、どこか意志のこもった深紅色の目でキルと目が合う。








「………………ー!」


一瞬ビクッと何か電気が走るような感覚を感じたが、すぐに我に帰り、慌てて目をそらしてハンナの左隣の席にカバンを置いて座る。


「はい。どうぞこちらへ」

シュール先生が丁寧に転入生を教卓の隣へ立つように指示し、ゆっくりと軽やかな足取りでそこに立ちみんなの方を見る。

「はい。この方が先程話した転入生の一人です。名前をどうぞ」


「………リリー・フィルネです…」


聡明な声で静かに名前を言う。

「リリーさんですか。では一言で宜しいので、皆さんに挨拶をして下さい」


「三年生に転入してきたけど…、今日からこのクラスの一員に入る事になったので、みんな…、宜しくお願いします…」

途切れ途切れに淡々とした口調で礼儀正しくお辞儀すると、クラスにいる男子(一部)がワー、と歓声を上げる。


超美人じゃん、めっちゃタイプなんだけど、血液型はなに型?、神に感謝!

などなど、何やら意味不明な発言も混じった歓声が起こった。

「ほらほら皆さん。ほざかないで黙って下さい。リリーさんの席はネリルさんの左の席なので、そちらに座って下さい」

コクンと頷き、ネリルの隣、そしてキルのすぐ後ろの席にカバンを置いて両手を膝にそえて座る。

「………………」

黙ってリリーを目で追い、席についたのを見ていると、バチ、とまた目が合った。

「……宜しくね…」


ふんわりと微笑してきた。


「え…、お、おぅ……」

ドキッと一瞬して直ぐに目をそらす。と、隣の席にいたネリルもリリーに元気よく挨拶する。

「宜しくねーリリーちゃん」

「宜しく…」


「あらら~。随分とお姫様系で美人系の転入生が来たなこりゃ。な。キル君」

「え?あ、あぁ…」


そっけなく返事するキルに、ハンナが首を傾げる。

「を?どうしたキル君?」


「な、なんでもねー」

「…………?そうかぁ?」

「あぁ」



目をそらすと、ネリルの右隣に座っているフィリがシュール先生に質問をしてきた。


「先生。もう一人の転校生はまだ来ていないんですか?」


「えぇ。そうみたいです。どうやら転入早々、遅刻のようですね」

先生がそう言うと、廊下からバタバタと誰かが走る音が近づいてきた。
  
‘ガラララー’


「遅れてしまって申し訳ない!」


キルと今朝ぶつかった男性が、半開きになっていたドアを勢いよく開けて立ち止まる。

(げ。アイツ転入生でこのクラスだったのかよ)
心の中で呟く。


「はい。アウトです」

先生が笑顔で教卓の机をバンっと強く叩くと、
上からドラが落ちてきて、頭を直撃…(以下省略)









‘ゴワーンッ’

「ごっはぁぁ~っ」




バタンとドラの音が教室に綺麗に響き渡り、ドサリと前に仰向けで倒れる。


「おい先生!?なんでまだトラップがあるんだよ!?」

キルがガタっと立ち上がり転がり落ちたドラを指指して聞く。


「先程言った通り、二重トラップを仕掛けておいたからです」

ニコニコフェイスで問いに答えた。


「しかも遅刻ってアイツだけ罰あるのかよ!!」

「リリーさんは校長室で待機していたので、遅刻にカウントされないんですよ」


「あ、そうなのか…。納得した」


納得してしまった。

すると、倒れてピクピクと震えていた男性がゆっくりと立ち上がる。
幸い、カチューシャの球体は前にぶら下がっていたので無事だった。

「うぐぐぅ…。今の衝撃は一体…?」

後頭部をおさえながら立ち上がり、ハッと女子の制服姿で先生を見る。


「せ、先生!転入したばかりに遅刻してしまってすみませんんー!」


90度腰を曲げてお辞儀する。


「いえいえ。ではこちらに立って下さい」

リリーが立っていた場所に立たせる。


「ここで自己紹介を?いいだろう。私の名は…ー」

「まずその格好の自己紹介をしてもらいましょうか。アナタどう見ても男ですよね?見てるだけで吐き気を催しますよ」

先生が姿を見てすぐさま言う。



「む、これか。実はな、ここの学校の制服を男子ではなく女子の制服と間違えて取り寄せてしまったのだぁ」


「だからその格好なのですか…」

「そうだぁ!今男子用の制服を取り寄せ中だぁ」


「間違えたなら無理して女子の制服を着なくとも、普通にこちらの体育着を着てもいいんですよ?」


「ぬわぁ!そ、そうだったのかぁ!」

今更気づいた表情。


「もう着ちゃったものはしょうがないので、明日からは体育着を着て下さい。さて、では名前をどうぞ」

「むむぅ、そうだな。私の名前は飛天勝。飛・天勝でも飛天・勝でもないぞぉ?紛れもなく飛天勝だぁ!」


「飛天勝って、変な名前だな」

キルがストレートに発言すると、直ぐにビシッと指をさす。


「くらぁ!変な名前ではないわぁ!」


と、今度はフィリの右隣に座っているクロルが質問してきた。

「…名字はないの…?」

「ないな。私には一つの名前しかないからなぁ」

「カワイソー…」


キルがからかうように棒読みで言うと、また反応してくる。

「可哀想いうなぁ~!」

「五月蝿いですよ飛天勝。人体実験にされたいですか?」


先生がにこやかに言うので、ただならぬ気配を感じておとなしくなる飛天勝。


「ぁ…、い、いやぁ…、遠慮しておくとする……」

「そうですか。では、飛天勝の席はあちらのハンナさんの右隣の席となっています[A:F37E]」

手を空席になってる机を指すようにそえる。


「うげ。俺の隣かよ」

ハンナが真っ先に棒読みで呟く。


「………………ー!!」

途端、飛天勝の目の色が急に変わり、ハンナを直視(ガン見)する。

「何ガン見してんだコラァ…」

ギロッと睨み返すと、ビクリと肩を上げて後ろに後ずさりするが、ふるふると興奮するように体を震わす。


「くっう~!な、なんて華麗で美人な人なんだぁ!私の目に写っている君のまわりには花びらが舞っているように見えるぞぉ!!こんなにも綺麗な人は初めてだぁ!」


どたどたと至近距離というのにすぐ前にいるハンナの机にバン、と両手を置く。


「お名前はなんですか!ハンナさん!」


「五月蝿い。名前知ってるだろーがボケ」


真顔で即答。


「あぁあぁぁ~。何故わたしはもっと早くハンナさんに会えなかったのだろう!こんなにも身近な場所に素敵な人が存在していたなんて…っ」


自分の両手を頬の方で握りしめ、微かに頬を赤くしている。


「なんだこの虫は。気持ち悪いな」


「その声も透き通っていて素敵だぁ~。この細い足もなんともー」


いきなり机に組んでる足のスネを両手の指先でなぞりだす飛天勝。

その予期せぬ行動に足のつま先から頭のつむじまで一気に鳥肌が立ちながら悪寒を感じたハンナ。

「なに人の足触ってんだこの変態がぁっ」


組んでいた足を解放して片方の足を上に上げ、飛天勝の後頭部にかかと落としをかます。


‘ドゴッ’



「ぐふうっ!」

見事命中。

「ハンナさん。一応まだホームルームの時間なので、音を最小限に手加減して下さいね?」

先生が音だけを注意する。


「ぐふぅ…。少し乱暴な部分もあってなんだか姉御肌みたいだなぁ。でもそんな個性的な部分が魅力的なんだなぁ……。…………………あ」



顔を上げる目線が丁度ハンナのスパッツが若干見える位置で、一瞬ジッと見る。


「どこ見てんだ!このゴキ○リがぁっ!!」


後頭部から足を引き、そのまま顔面をストレートに蹴りあげ飛天勝の顔が後ろにのけぞりながらシュール先生の方へ吹き飛ぶ。


「ごふぅっうぐぅ」

「おや」


ベシッと背中から向かって来る飛天勝の右の頬を黒板消しで横に飛ばす。

ドサリ、と頬が白くなり、横に倒れる彼を笑顔で見る。



「ダメじゃないですか~。転入初日にこんなハメをはずしては、クラスで浮きますよ。コオロギさん」

「ケッ」


ニコニコしてさっきのやり取りを軽く受け流すようにピクピクと気絶しかけてる飛天勝に話しかける先生に、そっぽを向くハンナ。


『……………………………』


他のクラスのみんな(クロルとリリー以外)は、さっきのやり取りを見て汗をかいてシーンと静かに三人を見ている。



《……ひでー………|||》

「さて、この章の1の題名通り、変態が登場したわけで、朝のホームルームはこれで終わります。キル。号令を」


「きりーつ」


ガタガタとみんな立つ。

「れい。着席」


「では」


全員気絶している飛天勝をシカトして無理やりホームルームを終わらせた。







その1!
『転校生は変態!?』終了

その2!
ー『令嬢!リリーお嬢様』ー



休み時間。


「なぁ、リリー。前の学校ってどこだったんだ?」

キルが後ろの席に座っているリリーに何気なく話しかける。

「…パラレル女子校……」


「に!パラレル女子校!?そこってスッゴく頭よくってお嬢様学校だよね!?」


隣の席にいるネリルが驚くと、その前の席に横を向いて座っているハンナも話しに入り込む。


「なる程~。だからそんな礼儀正しくておとしよかなのか」


「でもおかしくね?なんでそんなお嬢様学校からこんな平凡な学校に転校して来たんだよ?」


「……自分のおかあさんが、この学校に勤めているから…。それに、“瞬間記憶能力”を備えているから、この特殊クラスに入る事になったの…」

「へー。お前も瞬間記憶能力なんて持ってんだな。すげー」


感心するキルに首を傾げる。


「も…?」


「リリーちゃんの他にも一人、このクラスに瞬間記憶能力を持ってる人がいるんだよー」

ネリルが元気に言うと、フィリが丁度リリーとキルの間に歩いて立ち止まってきた。


「皆さん、何の話しをしているんですか?」


次の授業に使う教科書を左手で抱えながら質問する。


「を。フィリ君ちょうどいいとこに来たな。この野郎が瞬間記憶能力を持ってんだよ」


ハンナが親指でフィリを指差し、リリーに教える。


「そうなんだ…」


「あ、もしかして、アナタも瞬間記憶能力者なんですか?」


フィリが質問すると、コクンと頷く。


「わぁ。なんだか嬉しいです。同じ能力を持っている人がいるなんて」


無邪気な笑みを浮かべると、ネリルが頬を赤く染めだす。


「にー。やっぱり王子はカッコイいよぅ///」


「王子…?」


「あー、気にすんなよ。こいつ全員あだ名で呼ぶクセがあるだけだから」

キルが説明すると、ネリルがリリーを見て笑いかける。

「ねねね。このがっこーにおかあさんが居るって事は、誰がおかあさんなのなの?」


「えっと…、“サラ・ネイン先生”です…」


その名前を聞いた途端、みんな驚く。

「サラ先生!?マジかよ!?」


「うーわーお。なんか俺段々怖くなってきちゃったよー」



「………?おかあさんに何かあるの…?」


「噂があるんだー………」

キョトンとするリリーにクロルがぬっ、と寝起き眼(まなこ)でリリーの机に手の指を置き、顔だけ出して話しに参加してきた。

「うぉおー!?お前いたのかよ!?」

キルが座ったまま後ろにひいてビクる。


「さっき来た…」

顔だけぐるんと後ろに向けて一言いうと、今度はエラがハンナとネリルの間に立って話しかけてきた。


「サラ先生は実は結婚していて、隠し子が居るって噂があるんだ」

ネリルの机に左手を起き、キルがツッコミを入れる。

「お前も話し聞いてたのかよ」


「ま、まぁね」

目をそらす。



「おかあさん…、自分の事話していなかったんだ…」

呟くように言うと、ハンナが帽子をかぶっていない頭を軽くかく。


「んー。話していないと言うよりも、話す必要がないみたいな感じだなぁ」

「え?」


「そう言われるとそうですよねー」

フィリが人差し指を顎にあてて思い出すように上を向く。

「あまり感情を表に出さないですし、先生と言っても、この学校の管理職員みたいな役割を持った先生ですからね。専門科目はこの学校で少ない保健ですから、たまに会話する程度です」



「でも、この学校の間じゃ、一番クールで美人女先生って言われて不思議と人気があるんだよね」

フィリの言葉を繋げるように、エラが言う。



「そう…、なんだ……」

「でも、言われて分かったけどさ。マジでサラ先生とリリーって似てるよな。顔だちとか、物腰とか」

キルが言うと、みんなリリーを見る。



「あ…。…なら、お父さんはシュール先生なの……?」

クロルがそう言うと、リリーが普通に頷く。

《……………ー!?》


みんな驚愕したようにピシッと石のように表情を強ばらせる。


「ま…、マジかよ……」

顔を引きつらせるキル。


「どうして知ってるの…?」



「どうしてって…、さっき自己紹介した時は親子だって素振り全くなかったし……。それに、これにも噂があったんだよ…」

ハンナが目を細め、口の端を歪め苦笑いして話す。


「サラ先生の結婚相手はシュール先生で、隠し子もいるかもって話しだよぅ」


冷や汗をかいて噂話しをするネリル。

そして、クロルがまた続ける。



「…最近になって流れた噂で、サラ先生に聞いてみたかったけど…、今は臨時で5日間いなくて聞けなくて…」

「んでよー、あの担任眼鏡センコーに聞いても…」




~回想~

〈おや。みんなはそう見えるんですか。ならそうかもしれませんね〉





「って、曖昧な返答しか返してくれねーんだよ。だから噂が本当が全然分からなくて半分信じて半分信じてなかった状態だったんだけど……………、なぁー……」


話しの終わりに溜め息をつく。


「まさか本当にサラ先生とシュール先生が結婚していたなんて…|||」


エラが寒そうに身震いする。



「意外な事実が発覚したよな。あ、でもよー。サラ先生とシュール先生、たまに一緒に歩いて会話してた事もあったし、雰囲気も今考えたらなんか…、それっぽかったから納得いくよな?」


キルがそう発言すると、みんな少し間をおいて頷く。



「んー。確かにそうかもな。だが、納得いかない部分があるな」


「に?どこに?」


「ズバリ!眼鏡センコーに似てる部分がお嬢ちゃんに全く無いってとこだ!!」


ビシッと人差し指をリリーに向けると、みんなオー、と納得する。


「だよな。雰囲気も顔も喋り方もサラ先生に似てるけど、シュール先生に似てる部分が全然ないよな?」


「そう…かな…?」


また首を傾げるリリー。
 
「みんなー…、いきなりだけど挙手してもいいー…?」

クロルが小さく手を上げる。


「を?なんだクロル君」


「今さら思ったんだけど…、俺たちの名前、まだちゃんと知らないよね…?」


「ぁ……………」

クロルの言ってる事に気づいたような表情をするリリー。

他のメンバーも真顔で気づく。


「そっか。まだ名前ちゃんと言ってなかったんだよな。忘れてた」


「せっかくですから、皆さん今名前を……ー」


フィリが言いかけると、授業が始まる鐘が鳴ってしまった。


‘キーンコーンカーンコーン……、キーンコーンカーンコーン…ー’


「あらら、授業始まっちゃったなー。次は連続で移動教室だし、名前とか雑談の方は余裕あるお昼時間にでも話そうぜ」

「そだね[A:F7EE]」


「分かった」

ネリルとエラが返事をし、キル、クロル、フィリも頷く。


「楽しみにしてるね…[A:F37E]」


リリーがニコッと笑いかけ、みんな席に戻ると、国語の担当をしてるスピア先生が扉を開けて入ってきた。


‘ガラララ’


「遅れてすまないなみんな」

中に入った瞬間、ドカッと何かを蹴った。

「ん?」

真顔で下を見ると、女子の制服姿でまだ気絶していた飛天勝が横たわっている。


「なんだこの変態は。オイ、起きろ。授業を始めるぞ」


国語の教科書でバシンと頭を叩き起こす。

気絶しているのに誰も保健室に連れて行く気がなく、先生に至っては容赦ない。


「ぐ、ぬぅう…。わ、私は一体?」


ようやく起き上がり、ゆっくり立ち上がる。

「見ない顔だな。転入してきたやつか。ほら、さっさと席につけ」


「むぅう~…、そうだったぁ…」


フラフラと自分の席につこうと歩くと、何故かバナナの皮があり、それを踏みつけて滑る。


「ぬぅおうっΣ!?」


そのまま教室の後ろまで吹き飛び、ズザザザーとスライディングするようにうつ伏せで転びまたも気絶する飛天勝。


「ぐふぅう~」


「おい誰だ。あんな所にバナナの皮を落としたのは」


と、フィリが正直に手をあげる。


「あ、すみません僕のでした。食べ終わったあと誰かとぶつかってどこにいったのか分からなくて」


「次からは気をつけろよ。じゃぁ授業を始める」


結局、飛天勝はスルーされ、授業を始められたという。






その2!
『令嬢!リリーお嬢様』終了

その3!
ー『自己紹介が遅すぎる件』ー





昼食時間。

学校の屋上で、サイエンスメンバー(本編の)はいつものようにお昼ご飯を食べる為に集まっていた。



「いつもここでご飯をとっているの…?」

リリーがお姉さん座りで膝に弁当を置いたままハンナに聞く。


「まぁな。雨ん時は教室だが、大体はここだ。教室じゃ生徒共の雑音が五月蝿いからな」

男座りをして、たこさんウインナーを口に運ぶ。

「こんなに大勢で…、楽しそう…」


小さく笑いかけると、キルが休み時間に話した事を持ちかけてきた。


「なぁ、そろそろ俺達の名前、コイツに紹介しようぜ。ついでに特殊クラスって事で、どんな特殊能力を持ってるかって話しもまじえてよ」


「おや。それはいいですね」


突然、爽やかな声がキルとハンナの間から響いた。

見ると、シュール先生がいつの間にかみんなと混じってちょこんと腰を下ろし、膝に腕を置いて参加していた。


「あ…、シュール先生こんにちは…」

リリーが普通に挨拶すると、先生も挨拶する。


「いきなり会話に参加してくるなよΣ!?」


キルがツッコミを入れると、すくっと腰に片手をおいて立ち上がる。



「おや。いつも私も皆さんの昼食に参加してるじゃないですかキルー」

「確かにそうだけど…」


「…先生も、ここで…?」


「はい」


「おいセンコー。聞きたい事がある」

「なんですか?ハンナさん」


「さっき休み時間に話したんだが、貴様、コイツの親なのか?」


《ストレートすぎだろハンナΣ!?》


キルが心の中でツッコむ。

「おや。もう聞いたんですか。はい。そうですよ」


なんの反論もなく素直に応えた。


「ほ、本当そうだったんですね。でも、サラ先生と似てるんですけど、先生とはなんだか、あまり似てないような…」


フィリが言いかけると、先生がにこにこしてフィリを見て話す。


「それはそうですよ。私の遺伝子はこの子には入っていないんですからー」


サラリと重要発言をかまし、全員驚く。


《えぇえぇぇェェェΣ!?》



「な、なんで!?だったらサラ先生とはー」

「結婚していませんよ」


「はっ!?」



「噂が広まった事に事実か嘘かは皆さんに判断するため、ああ言った返答を下しただけであり、サラはこの子を自分自身、個人で産んだんですよ」


リリーの頭を撫でながら説明する。
と、エラがまだ確証していないように質問してくる。


「え、えーっと…、つまり。本当の親はサラ先生だけであって、シュール先生は…、何故…?」

「私はただ手伝いをしているだけです」


「手伝い…?」

クロルがストローからカフェオレを一口飲んで聞くと、はい、と返事をする。


「サラは今の通り、臨時が多くて忙しいですからねー。最近、サラの居ない時に私がこの子の世話をしているんですよ」

「ほほー。納得なっとく」


ハンナがリリーを見る。


「にー。じゃじゃ、先生は結婚してなかったんだね」

「そうですね」


「んじゃよ、サラ先生と一緒に会話してたのもその話しだったんだな」


「そうですね。お父さん代わりですね」


ネリルとキルの質問にも即返事をする。

「さて、謎が解明したという事で、皆さんで自己紹介しましょうか」


「あ。だった」

ハンナがそう言いながら箸を持ったまま親指を自分の顔に向ける。


「俺はハンナ。特殊能力は霊力だ」

「霊力…?」


「初めはみんな信じてなかったが、ただ霊を見るだけじゃねーんだよ」

キルとリリーの間に移動し、それぞれ肩に手を置く。

すると、屋上にはさっきまで見えなかった年寄りや若い人、子供と若干透けている人達が色々な場所で昼食をとっているのが見えた。


「わぁ……」


「うおぉー!?」


リリーは動じず、キルはマジびびりする。


「誰かに触れて見せる事もできちゃって、あのクラスの全員、信じちゃったんだよー」


手を離して笑いながら自分の位置に戻る。




「えっと、私はエラ。特殊能力は、胴体能力かな」

「胴体能力って…?」


「例えば、私が持っている箸を、一度上に投げてケースにそのまま入れたりする」


言った通り、二本の箸を上に投げ、縦にケースを片手で持って配置すると、落ちてきた箸がケースの中に綺麗に収まった。

「わぁ…、凄い…」


「エラの場合、胴体能力とか視力、反射神経がすげー上だからこのクラスなんだよな」

キルがパンを食べ終わって言う。


「僕は、フィリと言います。朝話したとおり、能力は瞬間記憶能力ですね」

フィリが言った後、クロルも話す。


「俺はクロル…。能力は……、超能力…というか、エスパー…?」

隣に座っているネリルに聞くように言う。


「に。あたしに聞かれても…」


「クロルくーん。このスプーン曲げてー」


「はーい…」


ハンナが自分のスプーンをクロルに渡し、クロルがスプーンを触れずに右手をかざすと、スプーンがぐにっと曲がる。


「わぁ………」


ぱちぱちと静かに拍手する。

と、ネリルがぴょんっとジャンプするように立ち上がる。


「に!あたしはネリルだよぅ。能力は芸術ー」


「芸術なんて特殊能力あるの…?」


「に!見ててよー」


コンクリートの地面を撫でると、撫でた場所だけピンクと水色が混じったマーブリングの模様が現れた。


「色が変わった…」


「ネリルさんは、クロルのエスパー能力に近い能力なんですよ」

先生が説明すると、ハンナが目を細めて話しかける。

「美術以外は赤点三昧だよなー。ネリルちゃんは」


「にぃ~。それは言わないでよぅ~」


「…えっと…先生は…」

シュールを見て、考える素振りを見せるリリー。


「あれ?世話してもらってるのに、先生の事あんま分からないんだな?」

「うん…。詳しい話しは…、学校でって言われたから…」

キルの問いかけにコクンと頷く。


「私はまぁ、アナタ達三年一組の担任、シュール・コルクです。専門教科は化学ですよ」


「化学なんですね…」


「特殊クラスの担任という事で、勿論、私もちゃんと特殊な能力を持っているんですよ」


そう言って、クロルをジッと観察するように見る。


「う~ん………ー」


弁当をジッと見てるクロル。


(玉子食べようかな…)
中身が見えない弁当の中から、プスっと玉子をさすと、先生が手を前に出して止める。

「ストップ。クロル」

「え…?」


「いま玉子をさしてますね?」


「あ……」

箸を上に上げると、卵をぶっさしている。

リリーがそれを見て疑問に思う。

「先生、なんで分かったの…?」


「私の能力はテレパシーです。大抵は使う時にだけ使っているんですけどね」


「そうなんだ………」


「そうゆうやべー能力を持ってんのがたち悪いんだよなぁ~」


キルが目を細めると、先生がはははと棒読みで笑う。


「アナタは…?」


リリーがキルを見る。


「あぁ…、俺はキル。能力は…ー」


「二重人格ですよね[A:F37E]」

繋げるように言うと、勢いよく立ち上がる。

「二重人格いうなっ!」

「おや。違うのですか?」


「違わなくはないけど…」


「キル君だけはみんなと少し違うんだよなー。能力が」

ハンナが食べ終わり、片付けをしながら話すと、リリーが首を傾げる。


「どんな能力なの…?」


「まず、性格がクールになって、戦闘能力アップする」

腕組みし、


「性格…?」


「キル兄、スッゴく性格変わるんだよー。言動もすごく違うし」

ネリルがちょこんと座る。


「なんか…、今の俺がすげーなんでもないって言い方だよな……」


「そうかぁ?それはそうかもしれないなー」


「お前っ…」

シニカルに笑うハンナを睨みつける。

と、リリーがキルを真顔で見つめる。

「でも、“キルはキル”なんでしょ…?」


「ん………?」

キルとハンナがリリーを見る。

と、エラが抹茶ジュースにストローをさしながら口を開く。


「そうだなぁ。キルさんはキルさんに変わらないな。二重人格といっても、自分の事をキルって呼ばれても否定しないからね」

ジュースを飲み始める。

「僕達は裏キルって呼んでるんですよ」

フィリがおにぎりをパクパク食べながら話すと、ネリルがイチゴを一つフォークでさしてリリーを見る。


「ちょっとエスな部分あるんだけど、スッゴく優しいんだよー」


ボーっとネリルからキルに視線を移し、両手でピーチジュースのパックを手にとり、ふんわりと笑いかける。


「………見てみたいな…」


「ぇ…………」


ドキッとし、ジュースを飲むリリーからバッと背中を向けて真っ赤になるキル。


「………~っ///」


《な、なんか…、めっちゃ可愛いんだけど…///》


それを見ているハンナが棒読みで話しかける。

「おーいキルくーん。そろそろ“アイツ”が来る頃じゃねーかー」


「は…?アイツ?」

ハンナに目を向けると、ドタバタと屋上まで続く階段から足音が響き、バンっ、とドアが開かれた。

 
「キル様!今日もわたくしもご一緒に食べますわ!」

全員ドアの方を向くと、ミニスカの学生服で息をあげているハルが歩いてきた。



「お前…、クラス違うのに頑張るよな…」

「誉めて下さって凄く嬉しいですわ」

リリーとキルの間に無理やり入ってきて、腕を組んで引っ付くハル。


「だからなんでいつも引っ付くんだよ食べにくいだろうが」


「堅いことはいいじゃないですか。あら…、アナタは…、見ない顔ですわね?」


すぐ隣でジュースを飲んでるリリーに顔を向ける。


「この子は今日からこの学校に転校してきた、私のクラスに入ったリリーです」

先生が焼きそばパンを手に持ち立ったままハルに教える。


「まぁ。ではアナタも特殊クラスなのですわね?キル様と同じクラスだなんて…、羨ましいですわ…」

左手で頬をそえ、溜め息をつく。


「わたくしの名前はハルですわ。三年三組の財閥系クラスなんですの。よろしくお願いしますわ」

「……よろしくね」


早くも馴染んでいくリリー。

「ぬぅおおー!!」


またもあの声が階段から響き渡った。


「またアイツか……」

ハンナが立ち上がり、溜め息をつくと、飛天勝がドアの方に足を開いて立ち止まる。

「姉御ー!私も一緒に昼食に参加してもいいですかぁ!!」


ドタドタと走ってくる飛天勝。
というか、女子の制服姿で真剣に走ってくるので怖い。

ハンナは布にくるんだ弁当箱を片手に装備する。


「もう食べ終わったからくんじゃねー!!」

‘パコン!’

「ぐふっ」


見事顔に命中し、結局ここでも気絶する飛天勝。


「あら、この方も同じクラスなんですの?」

ハルが動じず先生に聞くと、はい、と爽やかに応える。




「ほんと…、コイツも初日で頑張るよなぁ……」


キルがボソッと言って、ペットボトル式のコーラを一口飲んでキャップを閉める。



「また賑やかになっていいですよね」


フィリがやんわりと笑いかける。




最後の最後まで飛天勝の気絶で閉めるのであった。











-サイエンス学園Ⅰ-
    ~1時限目~

     ー終わり!ー


ーサイエンス学園Ⅱー

   ~次回予告!!~





シュール先生:
どうも。サイエンス高等学校の科学&三年一組の担任教師を勤めているシュール・コルクです。


次回のサイエンス学園では…ー?







ーーーそれは…、ある一人の人物の言葉がキッカケだった…



ハンナ
「おい貴様ら!“サイエンス学園七不思議”を解明するぞ!」

ALL
『ええぇぇぇェェェっ!?』



‘ギシ…ィ’

リリー
「…今、廊下の方から何か聞こえた…」


ALL
《でたぁぁぁァァァァー|||》




キル
「おい!ヤバい!ドアが開かないぞ!?」


…閉じ込められた夜の学校…


ネリル
「にぃい~!あ、あたし達どうなっちゃうの~!」

クロル
「そんな時は俺の能力で…ー」

エラ
「お前は鍵を壊すだろう|||」


フィリ
「じゃ、じゃぁ、僕が…ー」

ハンナ
「貴様だとドアノブ壊して余計出られなくなりそうだ」



更に…、キルに異変が…ー!?



リリー
「…………キ…ル…?」

キル
「……………フ…フフフ…ー」



そして…、ハンナが最後に見た物とは!?


ハンナ
「…お前は…………、“誰”なんだ…ー?」






ーサイエンス学園Ⅱー

【解明!サイエンス学園七不思議】


乞うご期待!


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