-短編集-
「作るのなんて面倒じゃねーか貴様ら」
「え?そうですか?でも、オリジナリティがあっていいかもしれませんよ?ハンナさん」
「オリジナルねー・・・・」
どんなケーキを作るか一瞬想像する。
(・・・激辛ケーキとか、ワインケーキとか、分量とか材料をワザと適当に混ぜて作ったスポンジケーキを、誰かに食べさせればいいのが見れそうだな・・・・)
「いいかもな、オリジナルケーキも」
「おいハンナ。今もの凄くいらん事考えただろ?」
髪をとかし終えたキルがすかさず言う。
「では、この宿のキッチンを使用して皆さんで作業分担してチーズケーキを作りましょう。あんまりスペースがないのでね。明日のケーキは今で買ってもいいですしね」
「それもそうですね。じゃぁ、あした食べるチーズケーキは普通のケーキにしてもいいですか?」
フィリがそう言うと、みんな承知して、ケーキを購入してそのままMNPを閉じる。
「これでオッケーです」
リングにしまうと、ハンナが声を張り上げる。
「よーし!んじゃ、貴様ら。とっととケーキ作るぞー」
と、いうわけで(どうゆうわけだ)、サイエンスメンバー全員そろって宿屋のキッチンを借りてチーズケーキを作る事になった。
なってしまった。
「よし。とりあえずクロル君の寝癖を直そうか」
「忘れてた・・・・・」
‘ジャーァァァァァァ’
一言によりようやくクロルの寝癖をハンナの手によって無理やり洗面所で直される
「寝癖放置って・・・・・」
「おーいキルくーん。この薄力粉ってそんままボウルにぶっこんでいいのかー」
「駄目だろ!?まず分量を量れ!」
「にー、キル兄~。卵がうまく割れないよぅ~」
「いちいち俺に聞くなよ!?ちょっと貸せ、こうやって罅(ヒビ)を小さく入らしてそんまま半分から割って黄身を出すんだよ」
「に♪あっりがとー」
「キルー・・・」
「なんだよ!?」
「・・・・・調理用計量器壊しちゃったー・・・」
クロルの両手のひらに無残にも落としたようで破壊されてる計量器がある。
「おまっ、お前!!なにいきなりぶっ壊ししてんだよ!?とっとと直せ!!」
「はーい・・・・」
後ろをむいて青い光りをはなつクロル
「全くまとまりがないパーティーですね」
シュールが笑いながらボウルに入った卵を混ぜる。
「・・・皆さん、チーズケーキの作り方分かるの?」
みんなの様子を椅子に座って眺めたまま隣にいるシュールに質問するリリー。
「多分知らないからこんな状態でまとまりがないんじゃないですか?どちらかと言えば私とキルが何をするのか指示していますし、フィリはといえば足りない材料を買いに行っててその他の人は全く料理経験を持っていませんからね。特にネリル嬢が」
「・・・・・・・・・・・・じゃぁ・・・、まともに料理ができるのはシュール様、キル様、フィリ様だけですね」
はい、とにっこりして混ぜ続ける。
‘ガチャ’
「皆さんお待たせしました。チョコレートとデコペン、それにバニラエッセンスを買ってきたのですけど、これでいいんですよね?」
フィリがビニール袋に大量に入った材料を片手に持って入ってきた。
「を。上出来だ。・・・・って、なんかお菓子が大量に買いこんでいるな・・・・」
「あ、安心してください。僕のお金で買ったんです。一応皆さんで食べようと思いまして」
「おや、気が利きますね」
「あ、ありがとうフィリさん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
リリーがすくっと立ち上がる。
「・・・・少し風にあたってきます・・・ね」
「ん?一人で大丈夫か?」
「・・・・・・・・うん・・・」
スタスタと調理室から出る。
「気をつけてな」
「お気をつけて」
‘ボンッッ!!’
シュールとキルがリリーに言った途端、突如何か爆発音が響いた。
「に!?」
「ど、どうしたネリル!?」
「どどどど、どうしよー。
ケーキがー!
ケーキがー!
ケーキがー!
ケーキ・・・-」
「だから連呼すんなって言ってんだろうがー!どんだけ繰り返すんだよ内容を言えよ内容を!」
「ケーキが・・・・・、まっくろくろすけ・・・」
「はぁ?・・・・・・・・・・・・・・・う・・・わぁ・・・・|||」
オーブンを開けてみると、チーズケーキが真っ黒に焦げている。
「すげー。こんなケーキ初めて見た」
「なんじゃこりゃ。炭かこれ?」
キルとハンナがネリルをはさむようにのぞき見る。
「さしずめ、お墓ケーキですね♪」
「うまい!!」
後ろを向いてシュールをほめるハンナ。
「・・・・・・・・・・お墓ケーキ・・・。意外に売れたりして・・・」
「ど、どうでしょうね・・・」
苦笑いするフィリだが、エラは青い顔をしている。
「もったいない・・・・|||」
もっともだ。
「全員グダグダじゃねーかよ・・・・」
「仕方がないですねー。予備にと思って私が作っている途中の物でまたチーズケーキを作りましょう。それなら時間短縮しますし、私の指示にちゃんと従ってください。さもないと投薬実験か人体実験をさせますからね」
『・・・・・・・・・・・・・・・はい』
冗談に全く聞こえないシュールの発言にみんな素直に従う。
「はぁ、俺も少し外出るわ。無駄に疲れる」
「おや。そうですか。ではケーキ作りは私とフィリに任せて、どうぞリリー嬢の元へ行って下さい」
「誰もリリーのとこに行くって言ってねーよ!」
「照れるなキル君。じゃ、俺達が傑作ケーキを作ってやるから覚悟しとくんだな」
「・・・・その言い方こえーんだけど・・・。と、とにかく、みんな後でな」
言いながらそそくさと逃げるように調理室を出る。
‘バタン’
「よ、よしみんな、この黒いケーキからどうにかして白に近いケーキに戻そう」
エラが計量器を台に置いて話し、みんなそれぞれ分担作業してケーキ作りを再開した。
「………………うーん…」
ポケットに左手を入れ、空から降ってくる雪に当たらないように宿の入り口付近に置かれているビニール傘を借りて外に出る。
考え事をしているような、そんな表情でミスティルの街を歩く。
(この前、シュールからクリスマスとか、サンタの話しを聞いたけど、この街じゃこうゆうイベント普通に知ってんだなー…)
サクサクと地面に積もり、まだ固まっていない雪を踏みしめて街を眺める。
家の屋根ぐらいまで達している木の枝や葉にも雪で白くなっているが、豆電球のような物が巻き付かれていて、カラフルに光りイルミネーションのように全ての木に取り付けられている。
所々にエンジリック兵士が取り付け作業を行っているが、見る限りそろそろ終わるように見える。
(…すげーな……。…ってか、あれ雪だるまか…?)
木から目線を前に戻し、雪で作られた彫刻が幾つかある公園を見ると、小さな女の子や男の子の五人の子供達がギリギリバランスがとれている雪だるまを作っている。
雪がちらほらと降っているにもかかわらず、毛糸の帽子である程度防いでいるが、寒さにお構いなしだ。
(さすが風の子…)
公園の方へ更に近づいて行くと、見慣れた人物が公園のベンチに礼儀正しく座っているのに気付いた。
「あいつ………?」
リリーが傘もささずに膝に手を置いて座っていて、頭と肩に雪がついていて、髪も少し濡れている。
子供達の様子を只ぼんやりと見つめているようで、まだキルの存在に気付いていない。
「………………?」
少し眉をひそめるが、リリーの方へ歩み寄ってみる。
すると、雪を踏む音に反応し、一定の距離でようやくキルに気づき少し見上げるようにゆっくりと顔を向ける。
「…………………」
顔を見るものの、相変わらず何も言わずキルと目線を合わせて見つめるだけだ。
(…いつも眠そうな目してんのに、俺と話す時は真っ直ぐな目でちゃんと話しするんだよなぁ……)
深紅なピンクと紫色の瞳を眺めるように見ていると、何も話してこないキルに少し首を傾げるリリー。
その動作でピンクの髪にかかっていた雪も僅かに落ちる。
あ、と途端に何を話そうか思い出し、リリーのすぐ横に立ち止まりビニール傘を半分かざす。
「傘もささないで外出ると、風邪ひくぜ?」
「……風邪…?」
「体調が悪くなるって事」
簡単に一言だけで説明すると、曖昧に理解したようで傘を見る。
「ほら、頭と肩。雪が付いてるし」
いいながらポケットから左手を出して頭と肩に乗っている雪をはらい落とす。
少し溶けて湿ってはいるが、寒くなさそうな顔でキルを見る。
「…ありがとう…」
ふんわりと微笑するように笑いかけ、お礼を言う。
「別にいいって。それより、何見てたんだ?」
キルが質問すると、目線を先ほど眺めていた雪合戦をして遊んでいる子供達に向ける。
「……あの子達を見ていたの…」
「子供…か?」
こくんと目線を動かさずに頷く。
「私にも…、子供の頃があったのかな…って考えていたの……」
「お前のガキの頃…?」
真顔でリリーに顔を向けて聞き返す。
「……キルも自分も、互いに幼少期の記憶が欠けている部分があって…、年齢も一つだけしか変わらない近い年…」
すく、と立ち上がり、前に歩んでしゃがみこみ、左手で雪を手のひらに乗せるように触る。
リリーを目で追い、話しを聞き入る。
「…自分もキルも、それに…、シュール様やハンナ様、皆さんにもそれぞれ過去と未来、現在(いま)の時間に何らかの出来事があり、思い入れがある…。
どうして…、こんなにもみんなが皆、縛られている記憶があり、自分もキルも今現在、縛られているのかな…」
サラサラと地面に雪を落とし、呟くように話す。
「………リリー……」
発言に少し驚いた表情で、後ろ姿を見つめる。
「………それって…さ…、…お前は俺と投影してるって…、事なのか…?」
言いずらそうに、途切れ途切れに言葉をきりながら質問する。
「投影……。………前に教えてもらった言葉…」
そう呟き、ゆっくり立ち上がる。
「…重ねる事が…、今の自分には出来ない…。投影なんかじゃなくて、自分は自分自身の過去を理解したくて、キルの過去に関係している時間がきっとどこかにあると思ってるから…、幼少期の事を考えたんだと思う…」
長い髪を揺らしながら振り向くが、目を見るとどこか寂しそうな、そんな瞳でキルを見つめる。
「……お…まえ……ー」
「…無限に続くようなこの世界にも、無限なんて存在しない。いずれ、必ず世界の終わりがあるのは事実。
その世界の崩壊を起こらせない為に現代の人間や未来の人間は生きているのかもしれない…」
顔を横に向け、目線だけ背後の子供達に向ける。
「今自分達が生きている時間がここであってここではない…。過去と未来の時間から直接接触したにも関わらず、ハンナ様が言っていたパラドックスが起こらないのにも、そこには必ず理由がある…」
「…………………」
…なんで………。
「終わりを導く為に行動するのも…、終わりを阻止する為に行動するのも…、世界の終わりと存続とはどこか違うような気がする…」
なんで…だ……?
「キルや皆さんのように、感情を強く持っていない自分には、世界の終わり、崩壊が起こるとしても、どうも思わない…。思えない……。ただそれだけ…………」
なんで……
そんな悲しい目をするんだよ…………。
静かにキルに顔を向けるが、雪のせいか、よく表情が見えない。
だが、キルにはリリーの表情がはっきりと見え、ジッと見つめる。
「………………」
さく、さくと、雪を踏む音を鳴らしながらリリーに近づく。
「…なぁ……、聞きたい事あるんだけど…、お前の“幸せ”って、一体何なんだ…?」
一定の距離を保って立ち止まると、キルの質問に少し考えるような表情をする。
「………しあわ…せ…」
「自分の過去の記憶が分からないのはお互いあるけどさ…、その記憶がなくても、世界の終わりがあっても、“今は”どうも思わないんだろ?
けど、それとは別に考えて、今生きていて、何が幸せだって、お前は実感するんだ…?」
「……………………」
キルをジッと観察するよう見て、視線を少し落として近寄りだす。
「…………………」
ピタリとキルの目の前で止まり、何も言わずに数秒間黙るリリー。
「…………………?」
すると、ふいにキルにひっつくように両手を肩に置き、視線を落としたまま抱きついてきた。
「………は!?/」
いきなりの行動に驚く。
「お、おいっ…ー」
「…みんな……」
ボソッと一旦小さく呟き、再度言葉に出す。
「……………?」
「……キルや…、みんなと一緒にいる時が…、一番幸せ……」
顔だけ離し、見上げる。
「仲間だから…、みんなといるだけで安心して、今が幸せと思う……」
そう言った後、優しい表情で微笑する。
嘘偽りのないような、そんな瞳で…。
「…………そっか……。…………お前の幸せ、ちゃんとあって良かったよ…。俺も、お前やみんなといるのが幸せって思う……」
安心したように笑いかけると、さっきまで雪で遊んでいた子供達がキルとリリーに声をかけてきた。
「あー。カップルがいるー」
「抱きしめてるー。ヒューヒュ~」
「………なっ/」
現状に気づき、とっさにバッとリリーから離れて子供達を見る。
「ち、ちげーよっ!恋人でもなんでもねーって!!//」
「でもギュッてしてたよなー」
男の子が女の子に言うと、コクンと頷く。
「だっから、違うって言ってんだろうがー///!!」
顔を少し赤らめて全否定するキルの様子を見て、クスっと口元に手をそえて笑うリリー。
「な、お前まで何笑ってんだよ!?」
「キル、早く行かないと、子供達(仲間)が待ちくたびれちゃうよ・・・」
「はっ!?/」
冗談で言うと、一瞬理解できなかったらしく、目を真んまるくする。
「あー。やっぱりお父さんお母さんなんだー」
「嘘つきー。嘘つきお父さーん」
「ちょ、お前まで何言ってんだよ!?嘘じゃねーってテメー等!!//」
ずかずかと宿の方に歩きだし、振り向きながら声をだす。
「早く行くぞリリー//」
先を歩くキルに、くすくすと面白そうに笑いながら小走りで隣に来て一緒に来た道を戻った。
「・・・・・・・・・・・・・・で。なんだこれは・・・」
宿屋に戻り、部屋のドアを開けて突っ立ったままシュールに聞く。
「いやぁ~。私の講師力を持ってしても、悪の力には勝てる事が出来ませんでしたー」
「清々しいほど腹立つ言い方だなテメー」
机の上には確かに大きなウエディングサイズのケーキがでかでかと乗っかっているが、何がケーキでどの辺がケーキかもう分からないくらい黒い。
カラスの色より黒い。
「おまけに焦げくさい・・・|||」
鼻と口を右手で覆ってう、と苦々しい表情をするキル。
その隣で何なのか理解していなく、興味津津に黒いケーキを見上げているリリー。
「どうだ小僧!これがブラック=(イコール)黒のケーキ!名づけて!『お墓ケーキ』だぁ!!」
何故か偉そうに言いながらイスに体重を乗せ、足を組んでフハハハと笑うハンナ。
「なんで自信満々に偉そうな態度なんだよ!しかも演技でもねー!!」
「ご、ごご、ごめんなさいキルさん・・・。私も全く料理とかお菓子なんて作った事なくて・・・」
エラがキルにおどおどしながら近寄ってきた。
両手に持っているのは、皿にクッキーのような形の茶色い物体が乗っている。
「・・・えーっと・・・・?なにこれ・・・」
キルがそれを見て質問すると、リリーがキルの隣から覗き込む。
「・・・・・・・・。・・・・・お墓クッキー・・・?」
「うっ・・・・|||」
リリーが見上げて一言発すると、ズーンと落ち込むエラ。
「墓だらけじゃねーかよ・・・・」
苦笑いしながら目を細めてリリーを見るキル。
「このケーキ、どうしましょう?僕でもこんなに巨大なお墓ケーキ食べられそうにありませんよ」
「あれ?その名称で決定してんのか?このケーキ」
「そうですね。このまま捨てるのももったいないですし、使い道としては、ハンナの葵光(レイチョウ)で物体に変えましょうか。
例えば、そうですね・・・・。食べ物に変化出来ないので、完全に物体化させてこの部屋をクリスマス風に飾り付けるというのはどうですか?」
シュールが提案する。
「確かにそれでいいんじゃねーか?こんだけデカイなら、ツリーとか出来そうだし」
「そうか」
天井ギリギリまで達しているお墓ケーキを見上げながら言うキルに、あっさりハンナも承知する。
「見ているだけで目が汚れて虫唾が走るからな。そのくらいお安い御用ってもんだ。
いいだろう。貴様らの言い分につきあってやる。ありがたく思うんだな下僕共」
椅子から立ち上がってケーキに両手をかざし紫色に光り出す。
「いや、だから一言余計なんだよおまえ・・・・」
ケーキが分裂し、大きなツリーを造る。壁にもリースやカラフルな鈴玉、綿を作成して部屋を飾り付けた。
「こんなんでどうだ?」
「に~!すごいすごーい」
ネリルがクロルの隣でピョンピョン跳ねる。
「・・・・・・・・・・・・」
パチパチとゆっくり手を上品に叩くリリー。
「あ。シュールさん、これ。これで今日は皆さんと食べましょう」
「おや。いいのですか?フィリのお金で買ったのでしょう?」
「いいんです」
フィリが先ほど大量に買ってきたお菓子や飲み物が入った袋をシュールに持ってきた。
と、シュールが受け取りながらにこにこし、袋の中から緑色の瓶を両手で丁寧に持ち上げて、みんなに話しかける。
「そうですか。ではお言葉に甘えて。ケーキはありませんが、ちょうどフィリが買ったお菓子や飲み物があるんですから、これでプチパーティーしましょうか」
そう言うと、みんな表情を明るくする。
「たまにはいい事言うじゃねーか眼鏡」
ハンナが言う。
「眼鏡というのは軽く失言なんですよ、ハンナさーん」
にっこりとする。
「にー。やったー。王子、沢山食べようね♪」
「はい♪」
「おいフィリ、少し限度して食えよ。すぐ無くなるから」
キルが忠告すると、素直に頷く。
「んじゃ、俺達も中に入るか」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
部屋の中に入り、バタンとドアを閉める。
外は相変わらず白い雪がちらほらと降り注ぎ、ミスティルの街全体を白銀に照らしだす。
少し曇った空からは、微かに鈴のような音が鳴り響いていたのだが・・・・、
一体どこから鈴が鳴っていたのだろうか・・・。
-Marry Xmas end-
「え?そうですか?でも、オリジナリティがあっていいかもしれませんよ?ハンナさん」
「オリジナルねー・・・・」
どんなケーキを作るか一瞬想像する。
(・・・激辛ケーキとか、ワインケーキとか、分量とか材料をワザと適当に混ぜて作ったスポンジケーキを、誰かに食べさせればいいのが見れそうだな・・・・)
「いいかもな、オリジナルケーキも」
「おいハンナ。今もの凄くいらん事考えただろ?」
髪をとかし終えたキルがすかさず言う。
「では、この宿のキッチンを使用して皆さんで作業分担してチーズケーキを作りましょう。あんまりスペースがないのでね。明日のケーキは今で買ってもいいですしね」
「それもそうですね。じゃぁ、あした食べるチーズケーキは普通のケーキにしてもいいですか?」
フィリがそう言うと、みんな承知して、ケーキを購入してそのままMNPを閉じる。
「これでオッケーです」
リングにしまうと、ハンナが声を張り上げる。
「よーし!んじゃ、貴様ら。とっととケーキ作るぞー」
と、いうわけで(どうゆうわけだ)、サイエンスメンバー全員そろって宿屋のキッチンを借りてチーズケーキを作る事になった。
なってしまった。
「よし。とりあえずクロル君の寝癖を直そうか」
「忘れてた・・・・・」
‘ジャーァァァァァァ’
一言によりようやくクロルの寝癖をハンナの手によって無理やり洗面所で直される
「寝癖放置って・・・・・」
「おーいキルくーん。この薄力粉ってそんままボウルにぶっこんでいいのかー」
「駄目だろ!?まず分量を量れ!」
「にー、キル兄~。卵がうまく割れないよぅ~」
「いちいち俺に聞くなよ!?ちょっと貸せ、こうやって罅(ヒビ)を小さく入らしてそんまま半分から割って黄身を出すんだよ」
「に♪あっりがとー」
「キルー・・・」
「なんだよ!?」
「・・・・・調理用計量器壊しちゃったー・・・」
クロルの両手のひらに無残にも落としたようで破壊されてる計量器がある。
「おまっ、お前!!なにいきなりぶっ壊ししてんだよ!?とっとと直せ!!」
「はーい・・・・」
後ろをむいて青い光りをはなつクロル
「全くまとまりがないパーティーですね」
シュールが笑いながらボウルに入った卵を混ぜる。
「・・・皆さん、チーズケーキの作り方分かるの?」
みんなの様子を椅子に座って眺めたまま隣にいるシュールに質問するリリー。
「多分知らないからこんな状態でまとまりがないんじゃないですか?どちらかと言えば私とキルが何をするのか指示していますし、フィリはといえば足りない材料を買いに行っててその他の人は全く料理経験を持っていませんからね。特にネリル嬢が」
「・・・・・・・・・・・・じゃぁ・・・、まともに料理ができるのはシュール様、キル様、フィリ様だけですね」
はい、とにっこりして混ぜ続ける。
‘ガチャ’
「皆さんお待たせしました。チョコレートとデコペン、それにバニラエッセンスを買ってきたのですけど、これでいいんですよね?」
フィリがビニール袋に大量に入った材料を片手に持って入ってきた。
「を。上出来だ。・・・・って、なんかお菓子が大量に買いこんでいるな・・・・」
「あ、安心してください。僕のお金で買ったんです。一応皆さんで食べようと思いまして」
「おや、気が利きますね」
「あ、ありがとうフィリさん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
リリーがすくっと立ち上がる。
「・・・・少し風にあたってきます・・・ね」
「ん?一人で大丈夫か?」
「・・・・・・・・うん・・・」
スタスタと調理室から出る。
「気をつけてな」
「お気をつけて」
‘ボンッッ!!’
シュールとキルがリリーに言った途端、突如何か爆発音が響いた。
「に!?」
「ど、どうしたネリル!?」
「どどどど、どうしよー。
ケーキがー!
ケーキがー!
ケーキがー!
ケーキ・・・-」
「だから連呼すんなって言ってんだろうがー!どんだけ繰り返すんだよ内容を言えよ内容を!」
「ケーキが・・・・・、まっくろくろすけ・・・」
「はぁ?・・・・・・・・・・・・・・・う・・・わぁ・・・・|||」
オーブンを開けてみると、チーズケーキが真っ黒に焦げている。
「すげー。こんなケーキ初めて見た」
「なんじゃこりゃ。炭かこれ?」
キルとハンナがネリルをはさむようにのぞき見る。
「さしずめ、お墓ケーキですね♪」
「うまい!!」
後ろを向いてシュールをほめるハンナ。
「・・・・・・・・・・お墓ケーキ・・・。意外に売れたりして・・・」
「ど、どうでしょうね・・・」
苦笑いするフィリだが、エラは青い顔をしている。
「もったいない・・・・|||」
もっともだ。
「全員グダグダじゃねーかよ・・・・」
「仕方がないですねー。予備にと思って私が作っている途中の物でまたチーズケーキを作りましょう。それなら時間短縮しますし、私の指示にちゃんと従ってください。さもないと投薬実験か人体実験をさせますからね」
『・・・・・・・・・・・・・・・はい』
冗談に全く聞こえないシュールの発言にみんな素直に従う。
「はぁ、俺も少し外出るわ。無駄に疲れる」
「おや。そうですか。ではケーキ作りは私とフィリに任せて、どうぞリリー嬢の元へ行って下さい」
「誰もリリーのとこに行くって言ってねーよ!」
「照れるなキル君。じゃ、俺達が傑作ケーキを作ってやるから覚悟しとくんだな」
「・・・・その言い方こえーんだけど・・・。と、とにかく、みんな後でな」
言いながらそそくさと逃げるように調理室を出る。
‘バタン’
「よ、よしみんな、この黒いケーキからどうにかして白に近いケーキに戻そう」
エラが計量器を台に置いて話し、みんなそれぞれ分担作業してケーキ作りを再開した。
「………………うーん…」
ポケットに左手を入れ、空から降ってくる雪に当たらないように宿の入り口付近に置かれているビニール傘を借りて外に出る。
考え事をしているような、そんな表情でミスティルの街を歩く。
(この前、シュールからクリスマスとか、サンタの話しを聞いたけど、この街じゃこうゆうイベント普通に知ってんだなー…)
サクサクと地面に積もり、まだ固まっていない雪を踏みしめて街を眺める。
家の屋根ぐらいまで達している木の枝や葉にも雪で白くなっているが、豆電球のような物が巻き付かれていて、カラフルに光りイルミネーションのように全ての木に取り付けられている。
所々にエンジリック兵士が取り付け作業を行っているが、見る限りそろそろ終わるように見える。
(…すげーな……。…ってか、あれ雪だるまか…?)
木から目線を前に戻し、雪で作られた彫刻が幾つかある公園を見ると、小さな女の子や男の子の五人の子供達がギリギリバランスがとれている雪だるまを作っている。
雪がちらほらと降っているにもかかわらず、毛糸の帽子である程度防いでいるが、寒さにお構いなしだ。
(さすが風の子…)
公園の方へ更に近づいて行くと、見慣れた人物が公園のベンチに礼儀正しく座っているのに気付いた。
「あいつ………?」
リリーが傘もささずに膝に手を置いて座っていて、頭と肩に雪がついていて、髪も少し濡れている。
子供達の様子を只ぼんやりと見つめているようで、まだキルの存在に気付いていない。
「………………?」
少し眉をひそめるが、リリーの方へ歩み寄ってみる。
すると、雪を踏む音に反応し、一定の距離でようやくキルに気づき少し見上げるようにゆっくりと顔を向ける。
「…………………」
顔を見るものの、相変わらず何も言わずキルと目線を合わせて見つめるだけだ。
(…いつも眠そうな目してんのに、俺と話す時は真っ直ぐな目でちゃんと話しするんだよなぁ……)
深紅なピンクと紫色の瞳を眺めるように見ていると、何も話してこないキルに少し首を傾げるリリー。
その動作でピンクの髪にかかっていた雪も僅かに落ちる。
あ、と途端に何を話そうか思い出し、リリーのすぐ横に立ち止まりビニール傘を半分かざす。
「傘もささないで外出ると、風邪ひくぜ?」
「……風邪…?」
「体調が悪くなるって事」
簡単に一言だけで説明すると、曖昧に理解したようで傘を見る。
「ほら、頭と肩。雪が付いてるし」
いいながらポケットから左手を出して頭と肩に乗っている雪をはらい落とす。
少し溶けて湿ってはいるが、寒くなさそうな顔でキルを見る。
「…ありがとう…」
ふんわりと微笑するように笑いかけ、お礼を言う。
「別にいいって。それより、何見てたんだ?」
キルが質問すると、目線を先ほど眺めていた雪合戦をして遊んでいる子供達に向ける。
「……あの子達を見ていたの…」
「子供…か?」
こくんと目線を動かさずに頷く。
「私にも…、子供の頃があったのかな…って考えていたの……」
「お前のガキの頃…?」
真顔でリリーに顔を向けて聞き返す。
「……キルも自分も、互いに幼少期の記憶が欠けている部分があって…、年齢も一つだけしか変わらない近い年…」
すく、と立ち上がり、前に歩んでしゃがみこみ、左手で雪を手のひらに乗せるように触る。
リリーを目で追い、話しを聞き入る。
「…自分もキルも、それに…、シュール様やハンナ様、皆さんにもそれぞれ過去と未来、現在(いま)の時間に何らかの出来事があり、思い入れがある…。
どうして…、こんなにもみんなが皆、縛られている記憶があり、自分もキルも今現在、縛られているのかな…」
サラサラと地面に雪を落とし、呟くように話す。
「………リリー……」
発言に少し驚いた表情で、後ろ姿を見つめる。
「………それって…さ…、…お前は俺と投影してるって…、事なのか…?」
言いずらそうに、途切れ途切れに言葉をきりながら質問する。
「投影……。………前に教えてもらった言葉…」
そう呟き、ゆっくり立ち上がる。
「…重ねる事が…、今の自分には出来ない…。投影なんかじゃなくて、自分は自分自身の過去を理解したくて、キルの過去に関係している時間がきっとどこかにあると思ってるから…、幼少期の事を考えたんだと思う…」
長い髪を揺らしながら振り向くが、目を見るとどこか寂しそうな、そんな瞳でキルを見つめる。
「……お…まえ……ー」
「…無限に続くようなこの世界にも、無限なんて存在しない。いずれ、必ず世界の終わりがあるのは事実。
その世界の崩壊を起こらせない為に現代の人間や未来の人間は生きているのかもしれない…」
顔を横に向け、目線だけ背後の子供達に向ける。
「今自分達が生きている時間がここであってここではない…。過去と未来の時間から直接接触したにも関わらず、ハンナ様が言っていたパラドックスが起こらないのにも、そこには必ず理由がある…」
「…………………」
…なんで………。
「終わりを導く為に行動するのも…、終わりを阻止する為に行動するのも…、世界の終わりと存続とはどこか違うような気がする…」
なんで…だ……?
「キルや皆さんのように、感情を強く持っていない自分には、世界の終わり、崩壊が起こるとしても、どうも思わない…。思えない……。ただそれだけ…………」
なんで……
そんな悲しい目をするんだよ…………。
静かにキルに顔を向けるが、雪のせいか、よく表情が見えない。
だが、キルにはリリーの表情がはっきりと見え、ジッと見つめる。
「………………」
さく、さくと、雪を踏む音を鳴らしながらリリーに近づく。
「…なぁ……、聞きたい事あるんだけど…、お前の“幸せ”って、一体何なんだ…?」
一定の距離を保って立ち止まると、キルの質問に少し考えるような表情をする。
「………しあわ…せ…」
「自分の過去の記憶が分からないのはお互いあるけどさ…、その記憶がなくても、世界の終わりがあっても、“今は”どうも思わないんだろ?
けど、それとは別に考えて、今生きていて、何が幸せだって、お前は実感するんだ…?」
「……………………」
キルをジッと観察するよう見て、視線を少し落として近寄りだす。
「…………………」
ピタリとキルの目の前で止まり、何も言わずに数秒間黙るリリー。
「…………………?」
すると、ふいにキルにひっつくように両手を肩に置き、視線を落としたまま抱きついてきた。
「………は!?/」
いきなりの行動に驚く。
「お、おいっ…ー」
「…みんな……」
ボソッと一旦小さく呟き、再度言葉に出す。
「……………?」
「……キルや…、みんなと一緒にいる時が…、一番幸せ……」
顔だけ離し、見上げる。
「仲間だから…、みんなといるだけで安心して、今が幸せと思う……」
そう言った後、優しい表情で微笑する。
嘘偽りのないような、そんな瞳で…。
「…………そっか……。…………お前の幸せ、ちゃんとあって良かったよ…。俺も、お前やみんなといるのが幸せって思う……」
安心したように笑いかけると、さっきまで雪で遊んでいた子供達がキルとリリーに声をかけてきた。
「あー。カップルがいるー」
「抱きしめてるー。ヒューヒュ~」
「………なっ/」
現状に気づき、とっさにバッとリリーから離れて子供達を見る。
「ち、ちげーよっ!恋人でもなんでもねーって!!//」
「でもギュッてしてたよなー」
男の子が女の子に言うと、コクンと頷く。
「だっから、違うって言ってんだろうがー///!!」
顔を少し赤らめて全否定するキルの様子を見て、クスっと口元に手をそえて笑うリリー。
「な、お前まで何笑ってんだよ!?」
「キル、早く行かないと、子供達(仲間)が待ちくたびれちゃうよ・・・」
「はっ!?/」
冗談で言うと、一瞬理解できなかったらしく、目を真んまるくする。
「あー。やっぱりお父さんお母さんなんだー」
「嘘つきー。嘘つきお父さーん」
「ちょ、お前まで何言ってんだよ!?嘘じゃねーってテメー等!!//」
ずかずかと宿の方に歩きだし、振り向きながら声をだす。
「早く行くぞリリー//」
先を歩くキルに、くすくすと面白そうに笑いながら小走りで隣に来て一緒に来た道を戻った。
「・・・・・・・・・・・・・・で。なんだこれは・・・」
宿屋に戻り、部屋のドアを開けて突っ立ったままシュールに聞く。
「いやぁ~。私の講師力を持ってしても、悪の力には勝てる事が出来ませんでしたー」
「清々しいほど腹立つ言い方だなテメー」
机の上には確かに大きなウエディングサイズのケーキがでかでかと乗っかっているが、何がケーキでどの辺がケーキかもう分からないくらい黒い。
カラスの色より黒い。
「おまけに焦げくさい・・・|||」
鼻と口を右手で覆ってう、と苦々しい表情をするキル。
その隣で何なのか理解していなく、興味津津に黒いケーキを見上げているリリー。
「どうだ小僧!これがブラック=(イコール)黒のケーキ!名づけて!『お墓ケーキ』だぁ!!」
何故か偉そうに言いながらイスに体重を乗せ、足を組んでフハハハと笑うハンナ。
「なんで自信満々に偉そうな態度なんだよ!しかも演技でもねー!!」
「ご、ごご、ごめんなさいキルさん・・・。私も全く料理とかお菓子なんて作った事なくて・・・」
エラがキルにおどおどしながら近寄ってきた。
両手に持っているのは、皿にクッキーのような形の茶色い物体が乗っている。
「・・・えーっと・・・・?なにこれ・・・」
キルがそれを見て質問すると、リリーがキルの隣から覗き込む。
「・・・・・・・・。・・・・・お墓クッキー・・・?」
「うっ・・・・|||」
リリーが見上げて一言発すると、ズーンと落ち込むエラ。
「墓だらけじゃねーかよ・・・・」
苦笑いしながら目を細めてリリーを見るキル。
「このケーキ、どうしましょう?僕でもこんなに巨大なお墓ケーキ食べられそうにありませんよ」
「あれ?その名称で決定してんのか?このケーキ」
「そうですね。このまま捨てるのももったいないですし、使い道としては、ハンナの葵光(レイチョウ)で物体に変えましょうか。
例えば、そうですね・・・・。食べ物に変化出来ないので、完全に物体化させてこの部屋をクリスマス風に飾り付けるというのはどうですか?」
シュールが提案する。
「確かにそれでいいんじゃねーか?こんだけデカイなら、ツリーとか出来そうだし」
「そうか」
天井ギリギリまで達しているお墓ケーキを見上げながら言うキルに、あっさりハンナも承知する。
「見ているだけで目が汚れて虫唾が走るからな。そのくらいお安い御用ってもんだ。
いいだろう。貴様らの言い分につきあってやる。ありがたく思うんだな下僕共」
椅子から立ち上がってケーキに両手をかざし紫色に光り出す。
「いや、だから一言余計なんだよおまえ・・・・」
ケーキが分裂し、大きなツリーを造る。壁にもリースやカラフルな鈴玉、綿を作成して部屋を飾り付けた。
「こんなんでどうだ?」
「に~!すごいすごーい」
ネリルがクロルの隣でピョンピョン跳ねる。
「・・・・・・・・・・・・」
パチパチとゆっくり手を上品に叩くリリー。
「あ。シュールさん、これ。これで今日は皆さんと食べましょう」
「おや。いいのですか?フィリのお金で買ったのでしょう?」
「いいんです」
フィリが先ほど大量に買ってきたお菓子や飲み物が入った袋をシュールに持ってきた。
と、シュールが受け取りながらにこにこし、袋の中から緑色の瓶を両手で丁寧に持ち上げて、みんなに話しかける。
「そうですか。ではお言葉に甘えて。ケーキはありませんが、ちょうどフィリが買ったお菓子や飲み物があるんですから、これでプチパーティーしましょうか」
そう言うと、みんな表情を明るくする。
「たまにはいい事言うじゃねーか眼鏡」
ハンナが言う。
「眼鏡というのは軽く失言なんですよ、ハンナさーん」
にっこりとする。
「にー。やったー。王子、沢山食べようね♪」
「はい♪」
「おいフィリ、少し限度して食えよ。すぐ無くなるから」
キルが忠告すると、素直に頷く。
「んじゃ、俺達も中に入るか」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
部屋の中に入り、バタンとドアを閉める。
外は相変わらず白い雪がちらほらと降り注ぎ、ミスティルの街全体を白銀に照らしだす。
少し曇った空からは、微かに鈴のような音が鳴り響いていたのだが・・・・、
一体どこから鈴が鳴っていたのだろうか・・・。
-Marry Xmas end-