-短編集-
12月24日、クリスマスイヴという別名ホワイトクリスマスと呼ばれる日。
粉雪がちらほらと降り注ぎミスティルの街の地面と屋根を白銀色に照らす。
「だーからー!!なんでこんな生クリームばっかついてるケーキなんだよ!!」
「に!だってだって、明日は年に一度のクリスマスだよ!?そんな日に甘いケーキ買わないなんて損だよぅ~」
「俺がその生クリーム食えないの知ってるだろ!?」
「ま、まぁまぁ・・・・」
宿屋に宿泊しているみんなの部屋の中央で、キルとネリルが顔を見合せながら言い合いをし、その真ん中にフィリが困り顔で二人を落ち着かせようとしている。
「クリスマスと言えばケーキ!ケーキと言えば甘いクリームケーキ!これは常識なのだよ」
たくさんのケーキの種類が載っているチラシをバッとキルに見せる。
「誰だよおまえ」
‘ガチャ’
「なんだよ朝っぱらからうっせーなこらぁ。なんの騒ぎだよ貴様ら」
部屋の扉を開けて赤い帽子を取って寝癖がついた髪をかきながらハンナが話しに入り込んできた。
「あ、ハンナさんおはようございます」
「何ってケーキの話しだよケーキの」
フィリがあいさつし、キルがハンナを見て返事する。
「ケーキぃ?」
三人の前で立ち止まり、声を裏返らせる。
「ほら、今日ってクリスマスイヴでしょでしょ?明日はちゃんとしたクリスマスだから、今日と明日のクリスマスケーキを買おうって事になったんだけど、キル兄がクリームのは嫌だって・・・」
「なんだ、そんな事で争っていたのか貴様ら」
「そんな事じゃねーよ。確かにクリーム系は食えるけど・・・ネリルの言ってるクリームケーキ見てみろよ!?」
「んん?・・・・・・・・・・・・・・・・う゛っ」
キルがネリルが持っているチラシをぶん捕って、あるケーキを指をさして見せると、顔を引きつらせるハンナ。
見ると、想像していた普通のクリームケーキとは程遠いお菓子で、棒キャンディー、飴、ワッフルにクッキー、プリンや和菓子と様々なお菓子類がチョコの生クリームにところせましと盛り付けられている。
しかもケーキの大きさが通常サイズよりもでかい。
かなりデカい。
「・・・・・・・・なんだ。このモンスターは・・・」
「に!モンスターじゃないよクリスマスケーキだよ?」
「これのどこがクリスマスケーキなんだ。ケーキというよりもウエディングケーキに近いぞ」
チラシのケーキを指さしてネリルを見下げる。
「いや、ウエディングケーキにこんなケーキでてくるのか?」
キルが疑問ぎみにツッコミを入れる。
「を。朝っぱらからでも冷静なツッコミは変わらないんだな。感心感心」
「どんなとこに感心してんだよ」
「に~。おいしそうなのに~。皆で食べたら美味しいよ絶対。デリシャスでゴージャスだよ!」
「おい、ゴージャスの意味分かっていってんのかネリルちゃん」
「本当に美味しそうですねー・・・。今はこんなに飾られて華やかなホールケーキが売られているんですね」
ハンナの持ってるチラシを覗き込み、ケーキをまじまじと眺めるフィリだが、段々目を輝かし、
「この程度のクリスマスケーキなら、僕全部食べられると思います・・・」
若干よだれが垂れそうになっている。
「おいフィリ君、よだれよだれ」
「ハっ。す、すみません。はしたないですねテヘヘ」
頭を軽くかく。
「に!王子も美味しそうって言ってるよ。ね、買おうよぅ~」
「別に買ってもいいが・・・、この値段はさすがになぁ・・・」
ケーキの値段を見てみると、4万2000ギルと、軽く半端な桁数に達している。
「・・・・これは・・・・、すごい値段ですね」
「ケーキの値段とは思えないな」
フィリとキルが汗をかきながら呟く、
「に・・・、値段、見てなかった」
言ってた本人までも汗をかいてる。
「つー事で、このケーキじゃない別のケーキを買うんだな。ネリルちゃん」
チラシを机にひらりと投げ置き、
「俺は顔洗ってくるわ。その間にどんなの買うか貴様らで決めておくんだな」
と言い残して洗面所へ向かっていった。
「う~にぃ~」
残念そうにチラシを見て唸るネリル。
「さてと、さっさとどのケーキ買うか決めるとしようぜ。フィリ」
「あ、はい」
少し名残惜しそうな表情をするが、キルはケーキが載っているチラシを手に取って見る。
「随分とイベントを楽しんでいますね~」
突然、椅子に座って机にコースターを置いて紅茶を飲んでいるシュールが声をかけてきた。
「うっおっ!?お、お前いたのかよ!?」
「に!?全然気付かなかったよ先生!?」
「それは当然ですよ。今さっきこちらに座ったのですから」
「そうなんですか」
『(全然足音聞こえなかった・・・)』
三人そろって心の中で思う。
「まぁ、大体の話しは一通り聞いていたのですが・・・」
「おい、聞いてたってなんだよ。盗み聞きかよシュール」
「はい。盗み聞きです」
「普通に応えるな!?」
自分で聞いといて否定させるような事を言うキルに、全く気にしないような素振りを見せるシュール。
「お三方は今日と明日、どんなケーキを購入するか決めている最中なんですよね?」
「はい。ですけど、皆さん意見がなかなかまとまらなくて・・・」
「成程。つまりキルとネリル嬢が話しをややこしくしているのですね?」
『ちげーよ!!
違うよ先生!』
‘ガチャリ’
フィリが説明すると、今度はエラが洗面所から出て来た。
「あれ?皆してどうしたんだ?何かの策を練っているのか?」
「あ!エラ姫ちゃんおっはよー♪」
「おはようございますエラ嬢」
シュールとネリルがエラに挨拶してキルとフィリも続けて挨拶をする。
「はよ」
「エラさんおはようございます。実は、今日と明日の為に、どんなケーキを買おうか皆さんで決めようかと思っていたんです」
「ケーキ?何故今日と明日なんだ?」
首を傾げてフィリを見る。
「それはですね?キルとネリル嬢が急にケーキが食べたいとダダをこね始めたからですよ」
『違うわ!
違うよぅ!?』
二人揃ってハモリ、シュールの発言を否定する。
「え、どっちなんだ?」
「ちょ、話しがややこしくなります。え、えーっと、今日はクリスマスイヴで、明日は本格的な行事であるクリスマスなので、皆さんと何か食べる為にケーキを買おうという事になっているんですエラさん」
「へー。じゃあ、現段階で誰がこの事知っているんだ?」
「んー、今は・・・俺とネリル、フィリとハンナにシュールと、お前も合わせて六人だな」
キルが考えながら名前を出す。
「クロルさんとリリーさんはまだ伝えていないってことなんだ?」
「なぁ、エラはどんなケーキが食べたいんだ?」
「え?私か?私は・・・・」
「抹茶のケーキはありませんよ?」
シュールがすかさず言うと、口をグッとまごつかせる。
「うっ・・・!そ、そうなのか・・・」
「図星かよ」
「ちなみに、私はなんでもいいですよ。一般的に食べられるケーキならば」
「だよな。んで、フィリはどうなんだ?」
「え?僕ですか?」
「お前甘いもん好きだろ?」
「うーん・・・、そう、ですね・・・僕はこの“ミックススペシャルビッグチョコレート”が食べたいです」
チラシを指さして笑顔で言うフィリ。
「どれどれ?」
全員フィリが指さしているケーキを見る。しかし、シュール以外皆ピシっと固まる。
フィリが指さしていたケーキは、さっきネリルが食べたいと言っていたケーキを指さしていた。
ケーキ名称:ミックススペシャルビッグチョコレート←
「ってこれさっきネリルが食べたいって言ってたケーキじゃねーか!!どんだけ引きずってんだよこのケーキ!」
「あ、す、すみませんなんだか印象が強すぎて頭から離れなかったので」
「に!お、王子、そんなにあたしのケーキ食べたかったんだ・・・///」
ネリルが頬を少し火照らせて照れる。
「いや、これお前のケーキじゃないし・・・。なんでケーキで照れるんだよ」
ネリルの様子を見てすかさずツッコミを入れる。
(こ、こんなケーキが世の中にあるなんて・・・、最近の食べ物は進化しているんだなぁ・・・)
変なところに関心をもっているエラ。
「凄いですねー。このケーキ」
シュールがにこにこしながら発言する。
「だろ?こんなドでかいケーキ食べれるかって・・・」
「値段が」
言葉を付け加えるシュール。
「って値段かよ!?」
「はい。確かにこれは普通のケーキの値段よりも大きな額ですね」
「あの、このケーキを買っても・・・ー」
「無理です」
「ですよね・・・」
即答するシュールにショボンとするフィリ。
‘ガチャ’
扉が空き、今度はクロルがあり得ない寝癖がつきながら目をこすり部屋に入ってきた。
「・・・・・・おはよ~・・・」
「お、おいクロル・・・、寝癖やべーんだけど・・・」
「え・・・・?」
「猫っ毛ですから、こうなるんでしょうね」
「凄ーい・・・、クールの寝癖っていつ見ても驚くぅ~」
「そうかな・・・・?」
ぼーっとしてみんなに近寄る。
「今洗面所ハンナが使ってるから後で行ったほうがいいぜ」
「わかった・・・・。なんの話ししてたの・・・?」
「ケーキの話です」
「ケーキ?」
紅茶を静かに飲むシュールをボーッと見る。
「クリスマスケーキはなにがいいか決めてるんだよ。あ、なんかリクエストがあったら言ってみてもいいぜ」
「リクエスト・・・・」
キルに言われて少し上を向いて考える。
「・・・うーん・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「適当に考えろよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え~・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・なにかあるかなぁ~・・・・・・・」
「なにかって・・・」
「う~ん・・・と・・・・・・・・・」
「うんと?」
「えっと・・・・・・・・・・・、じゃぁ・・・・・・」
「早く決めろ」
パシンとクロルの後頭部をパーで叩くハンナ。
寝癖をなおしたらしく、いつも通り赤い帽子をかぶっている。
「いた・・・・・・」
「あ、ハンナさん。お帰りなさいです」
フィリがハンナに気づき、クロルが叩かれた事を気にせず見る。
「・・・・・・・・うー・・・・・」
叩かれた後頭部を両手でさすりながらハンナに顔を向けると、クロルを見て腕組みをしながらかったるそうに話しかける。
「もっと適当に考えろアホ。聞いてるこっちがイライラするわボケ。まぬけ、なまけもの」
「次からつぎへと汚い言葉が出てくる・・・」
むなしそうに小さく呟く。
「俺もともとケーキ食わない方だし、食べろって言われれば食べる感じだからすぐには決めれないよ・・・」
そう言って手を降ろす。
「こんなもん適当でいいんだよ適当で。ってか、まだ決まってなかったのか貴様ら・・・」
キル、ネリル、フィリの順に目を細めてみる。
「俺だって早く決めたいけど、みんな好みも違うしどんなケーキを配分すればいいかでなかなか確定できないんだよ。特にこのチビ達のせいで」
キルを挟むように立っているネリルとフィリの頭に手を置く。
「す、すみませんキルさん」
苦笑いしてキルを見上げるフィリだがネリルは侵害そうにバッと顔を向ける。
「に!ちょ、あたし達だけケーキの案を邪魔してるように聞こえるよ!?」
「実際そう思うぜ?」
「あたし達はただ同じケーキが食べたいって言っただけだよ!」
そう言いながらチラシのドデカイケーキを指さす。
「それが話を狂わせて全く決めれない理由なんですけどね・・・」
シュールが飲みほした紅茶を机に置きながら静かに言う。
「ケーキごときでこんな時間かける必要なんてねーっての」
ネリルのチラシを取り、目を通す。
「こうゆう決めごとは・・・・・・、ぱっぱと終わらすもんなんだよ。を、これなんかみんな食べきれるだろ」
チラシを机の中央に置き、指さす。
「どれどれ・・・・・?」
キル達みんな円を描くように上からのぞき見る。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
名称:もっちりチーズのこんがりベーコンデラックスピザ
《ケーキじゃねー!!!!》
シュールはにやにやして、クロルは気にしないようにピザを眺め、他のみんなは冷や汗をかいてハンナにゆっくり顔を向ける。
「これ、ケーキじゃねーんだけど・・・」
「ケーキで悩むからなかなか決まらないんだ。だからいっそのこと別物にして食った方がいいだろ?」
「そりゃ、そうかもしれねーけど・・・・」
すると、ネリルとフィリがキルの腕を掴む。
「ぼ、僕甘いものも・・・・」
「あたしも甘いもの食べたいよぅ~。クリスマスと言えばケーキでしょでしょ~」
ネリルがブンブンとキルの腕を揺らす。
「キル兄もそう思うでしょ?ね?絶対確実そうだよね?」
「うるせぇぇぇぇ!!腕振るなお前!!」
両腕を振り払うように振るキル。
「あぅ…」
「なんだ。じゃぁピザもケーキも両方買えばいいだろ」
「さも当然のように言うなハンナ」
「に!じゃあこのおっきいケー・・・」
「それは駄目だ」
「にぃ・・・・・・」
即却下され落ち込む。
「このドデカイモンスター(&チビ達)のせいで話がまとまらないんだ。クソ」
チっと舌打ちをする。
「あれ・・・?今なんで舌打ちしたの・・・?」
クロルが触れる。
「ま。ピザだけじゃ寂しいし、ケーキなんかは二つに絞って多数決とかで決めるか」
シカトだ。
「うーん・・・。二つにか」
エラが考える。
「みんなそれぞれ選ぶケーキが違うから難しいような・・・」
「おや。それなら今定番のケーキランキングにそって二つに絞ればいいのでは?」
シュールが提案する。
「ランキング?」
「えぇ。ショートケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキなど一般に知れている定番ケーキの1位と2位のケーキで決めるんです。どうでしょうか?」
「ん。それいいな。よし、それに決めよう」
パチンと指を鳴らして人差し指をシュールに向けるハンナ。
「んじゃ、PCから検索してみっか」
棚の上に置かれてる果実が入ってるバスケットのフルーツナイフを手に取り自分の右腕に刃先を向けて切ろうとする。
「ちょちょちょちょー!ちょっとまてー!」
キルがとっさに手を伸ばして止めに入る。
「ん?なんだどうした?」
ギリギリで止めてキルを真顔で見る。
「どうした?じゃねーよ!わざわざお前の腕切ってまで機械使用したくないって!」
「を?なんでだ」
「グロイからだよ!こんなところでいきなり真っ赤な液体見たくねーって!」
「クリスマスといやぁ、赤だろ?別になんの不快感も・・・」
「あるわ!!」
必死に説得するキルを見て、その場でポイっとナイフをバスケットに投げ入れ戻す。
「冗談だから気にするな。ツッコミを見れて面白かったよキル君。明日の朝もこの調子で頑張ってツッコんでくれ」
「俺が自らツッコミを好んでいるような言い方するな」
「でた。冷静ツッコミ」
「・・・・・・・・・疲れる・・・|||」
真顔なハンナから目をそらすと、フィリが両手を合わして手を鳴らす。
「あ。パーソナルコンピュータですね?僕、ミクロバックリングにMNPのマイクロノートパソコンが収納されているんで調べてみましょうか?」
エラがいつの間にかハンナから離れ、シュールのすぐ隣で机に伏せるように両手の指を机に置いてブルブルと涙目でフィリに目を向ける。
「そ、そうしてくれ・・・・」
「はい♪」
にこっとして左手の人差し指にはめられた水色のリングから小型のMNPを取りだした。
「エラ・・・、そんなに恐怖感があったのか・・・」
「あの時のを見てトラウマになったのでしょうね」
キルがエラの様子を見て、シュールがさらに詳しく話す。
MNPを机に置き、小さなボタンを押して開くと、少し透明な四角型のスクリーンが浮いてる状態でデスクトップが瞬時に表示された後、また透明なキーボードも机から数ミリ浮くように現れる。
「これっていつ見てもすげーよなー」
MNPの機能を見入るキル。
「このMNPは開発中でまだ非売品なんです。これは僕達組織の方によってちゃんと自己修正をして、細かなバス機能、最新式に構造されたCPUを内装され販売できる段階のMNPです」
透明なデスクトップを見ながらタッチタイピングをして、小さい微かな機械音を鳴らしながら検索をして説明する。
「ば・・・、バス・・・?CPU・・・?」
「パソコンの内部情報です。CPUは中央処理装置で、コンピュータの中心的な処理装置の電子回路。バスは・・・、各回路のデータを交換するため共通の経路を繋げる機能の事ですよ」
シュールがにこにこスマイルでキルに説明する。
「その通りですシュールさん」
「よく分かるなお前・・・」
「以前ちょっとこの知識が必要になりまして、専門言語もいつの間にか覚えていたんですよ」
「へー。ちなみにその知識なにに必要・・・ー」
「そろそろ検索しましたか?」
キルの言葉をさえぎるようにフィリに質問する。
「あ、はい」
「質問をちゃんと聞こうぜ先生!?」
「あなたには先生と呼ばれたくはありませんよ」
「そんなさわやかに・・・・?」
「皆さんランキングが表示しました。見てみますか?」
フィリがデスクトップのあるアイコンをダブルタッチすると、机の上に数ミリ浮いた状態で水平になり、今度は画面を手のひらで二回左右に振ると、画質を倍増させてみんなに見えやすく表示してくれた。
(フィリって結構気のきく事をいつもしてくれるよな・・・・・)
キル達全員デスクトップを見る。
「に!一位はショートケーキだよだよ!」
ネリルが元気に発言する。
「二位はチーズケーキですか。定番と言えば定番ですね」
シュールは普通の発言。
「へー。ほー。案外こんなのがランクインしてんだな」
ハンナが意外そうな表情し、
「じゃ、このショートケーキとチーズケーキのどっちかで投票するか。みんな、どっちも食えるよな?」
「大丈夫だ・・・」
エラがやっと立ちあがって答え、みんなも返事する。
「みんな一斉にどのケーキがいいか指さすぞ。俺が合図するからせーので・・・-」
「えい!」
ネリルがいきなり画面に表示してるショートケーキの画像を指さす。
「あ・・・」
クロルもネリルを見てゆっくりチーズケーキを指さす。
「貴様等話しを最後まで聞けやぁぁぁ!しかもネリルが指さした後に指さしてもおせーんだよグラサン」
怒声を撒き散らしてさりげなくクロルにツッコミを入れるハンナ。
「ご、ごめんなさいでございまするぅ・・・|||」
「・・・・間違えた・・・・・・・」
指を離す。
「ってか、もうこいつらが決めたの分かったよな・・・」
キルが呟く。
「とにかく、クロル君とネリルちゃん以外で指さすぞ。せーの!」
ハンナの合図と同時にみんなそれぞれケーキを指さした。
キルとシュール、ハンナはチーズケーキ、フィリとエラはショートケーキを指さした。
「4人チーズケーキ、3人ショートケーキ。っつーことで、クリスマスケーキはチーズケーキにけってー。はくしゅー」
「ぱちぱち・・・・・」
ハンナが言うと、クロルがぱちぱちと言葉を言いながらのろのろと拍手する。
どちらかというとぺちぺちという音に近い。
「ショートケーキも捨てがたかったですけど、チーズケーキも美味しそうですね」
「に・・・!そ、そだね王子///」
フィリがネリルにニコッと顔を向けると、少し顔を赤らめる。
「ついでなんだし、そのままこれでチーズケーキを探したらどうだろうか?」
エラが言うと、フィリがまた操作する。
「それもそうですね。ちょっと待ってください」
ピっと画面をタッチしてケーキ関連ページをサーフィンして検索していきすぐ見つける。
「このチーズケーキなんてどうですか?」
「んー、飾り付けがゴテゴテしてないシンプルなのがいいな俺は」
キルが言うと、ネリルがやはり反論する。
「に!あたし飾り付けられてるのがいい!」
「はぁ~?」
「私はある程度飾り付けられてバランスのとれたのがいいですね」
「僕は自分でデコレーションするデコペン式のしてみたいです」
「俺は・・・・・・、なんでも・・・」
「私は・・・、まぁ、クロルさんと同じく」
みんなそれぞれ話すと、ハンナが仁王立ちでみんなを見る。
「なんだなんだ。貴様ら意見がほとんどわれてるな。こんなに好みが違うと逆に感心するくらいだ」
「お前にも感心するよその言葉使いとせっかちな性格に」
「五月蠅い黙れ」
キルの冷静ツッコミに淡々と返事する。
「くじで決めるっていうのはどうだ?」
エラがまたも提案する。
「くじ・・・・・・・」
「いいなそれ。くじ作るの面倒だから俺が今この場で作ってやる」
チラシを右手で拳にして握り、みんなの前に出すと、手の中からチラシが紫色の光りをおびながら7枚の細長い紙に変形させる。
「この7枚の紙に青、赤、黄色の三色に印がつけられてる。青はデコレーションが沢山やられてるケーキで赤はシンプルなやつ。黄色はバランスが取れたチーズケーキな。
手の中で色がランダムに変わっているから細工なんかできねーし、誰がどの色を取るか分からない。必ず2:2:3で別れるようにするから3つ同じ印があればそれに決定な」
「デコレーションだけはとりたくねーな」
キルが言うと、ハンナが、
「もしデコレーションになっても、上に乗っかってるやつ取ればいいだけだろ」
「まぁ・・・な」
「よし。そんじゃ、各自取れ」
みんなそれぞれ一枚ずつ紙を取り、印を見る。
「あ。俺青だ」
「あたし黄色ー」
「私も黄色です♪」
「僕は赤です」
「わたしは青だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・赤」
「俺は青。・・・げ」
「げってなに!?」
ハンナの最後の言葉にすぐ反応するネリル。
「デコレーションのケーキになっちまったな。ま、いいけど」
「に~。やったー」
ピョンピョンと跳ねる。
「仕方ねーな」
「えぇ。デコレーションもたまにはいいでしょうね」
「おら、紙返せ」
全員紙をハンナに返し、また紫色に光ると元のチラシになり机に置く。
‘ガチャ・・・’
みんながやっとケーキを決め終わった途端、リリーが少しゆるゆるになったロングヘアーで部屋に入ってきた。
「・・・・・・おはようございます・・・、皆さん・・・」
いつも眠そうな表情が寝起きでさらに寝むそうな目をしている。
このまま立ったまま眠っているか、夢遊病で歩いて眠っているようにも見える。
「おはー。姫っち」
「はよ。リリー」
「・・・・みんな・・・、なにか話していたの?」
「に!なんで分かったの!?」
「なんとなく・・・?」
首をかしげるリリー。
「相変わらず勘が鋭いですねリリー嬢」
紅茶を片づけながらリリーに話す。
「クリスマスケーキの話ししてたんだけどよ、今さっき決まったんだよ」
「・・・・なにに決まったの?」
「デコレーションされたチーズケーキだよ~」
ネリルが元気よく教える。
「・・・・・・・チーズ・・・ケーキ?」
首をかしげる。
「あ、そっか。チーズケーキ知らないんだなお前」
キルが気づく。
「リリー嬢ー、ちょっとこちらの席に座ってくださーい」
シュールがさっきまで座っていた椅子を軽く叩くと、ゆっくりと軽やかな足取りで向かう。
「髪をとかしてあげます」
スト、と椅子に座り、シュールは言いながらクシを引き出しの中から取って戻ってくる。
「ありがとうございます・・・。シュール様」
「いえいえ」
髪を内側から優しく手のひらにとって慣れた手つきでくしを通す。
「・・・・・なんか、本当に執事とお嬢様みたいだな・・・」
キルがシュール達のやり取りを見て呟く。
「おや。ならアナタも髪をとかしてみましょうか?」
「え?」
手をとめていきなり問われたので変な声を出す。
「い、いいよ俺は。あんましこうゆうの得意じゃねーし」
「まぁまぁ、こうゆうのは経験が大事なんですよ。試しにということでやってください」
キルに近づきクシを手に握らせる。
「ほぼ強制的だな?いいけどさぁ・・・」
椅子に座ってるリリーの後ろに立ち、シュールがやっていたように髪に触れる。
(あ、案外サラサラだ・・・)
髪を手にとってゆるゆるした髪と違って意外そうにクシを通す。
すると、4、5回通すとすぐにストレートになる。
(すげ。なんかおもしれーなこれ)
別のところもクシを通したり、ピンクと深紅の色が混ざった髪を珍しそうに触る。
「お前の髪って綺麗だなー。すげーさらさらしてるぜ?」
「・・・・そう?」
「ほら見てみろよ」
耳元の髪を手にとってリリーに見えるようにクシでとかす。
「・・・くすぐったい・・・」
「あ、わり」
クスっと微笑するリリーとはにかむキル。
「・・・・・・・うわー。なんだこのふんわりとした空気ー。なんなんだこの入りずらい感覚ー」
ハンナが棒読みでキル達を見る。
「ものすごく似合っていますよねあのお二人ー」
にやにやと笑っているシュール。
「では早速注文しますね」
フィリが画面を見ると、あ、と声をだす。
「に?どしたの王子?」
「そ、それが・・・・、さっき皆さんと満場一致して決めたチーズケーキなんですけど、たった今売り切れになったみたいなんです」
「えぇぇ!?」
「まじか。まさかの売り切れかよ」
冷静に言うハンナ。
「どうしましょう?」
「・・・・・別のチーズケーキを頼むとか・・・」
「それじゃぁ、またくじをするのか?」
クロルとエラが言うと、リリーがみんなの様子を眺めながら一言言う。
「・・・・・ケーキって、作れるの?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・!!』
全員一斉にリリーを見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
きょとんとした顔。
「あ、そうか。ケーキを作るって手段があったな」
気づいたような口調をするエラ。
「やー、すっかり忘れていましたよリリー嬢。どうもありがとうございます」
「・・・・・・・・・?・・・・・・・こちらこそ・・・・」
なにを感謝されているのか理解していない。