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-短編集-



「さてと。そろそろここも用済みだな」


ダイヤモンド女学院前でハンナが一息つき、歩いてくるクロルを見る。


「おいクロル。そっちも終わったかー」


「…………終わったー…」


スコップを手に持ってハンナの前にくる。


「にしてもなんであのケバ嬢ちゃんは花を植え付けるのを俺達に頼むのかねぇ~」

「……ケバ嬢ちゃんって…、ハルって人の事…?」


ったりめーよと普通に返事するハンナ。


「…お金がピンチだから俺達から頼んだからでしょ……?」


「まぁな。キル君達は学院の中で掃除や整理させられてるし、ちょっとしたアルバイトって感じだなこりゃ」


ハンナが学院の高い門を開けようとすると、服の裾を誰かが掴みくいっと引っ張られる。


「おいクロル。馴れ馴れしく服を引っ張るな」

「…え?…俺じゃないよ…?」

隣に立ってるクロルがハンナを見て言う。


「…を?じゃぁ誰だ」


「お…かぁ…さん……」


「……………?」

声がしてクロルと一緒に後ろを振り向くと、ハンナの裾を掴んでる小さい男の子がハンナを見上げてる。髪は金髪で短く、瞳は真っ黒で茶色い短パンと黒いTシャツのような無字服をつけてる。


「…………今…、なんつった?」


ハンナが間をあけて聞く。


「……お母…さん」


「おっ…!?」


「お母さん!!」

足に抱きつく男の子にピシりと石のように固まるハンナ。



「…………わー…」


真顔で子供を見るクロル。





ー迷子の親子ごっこー


「…………何かの間違いだよなこれ」


ハンナが門を開けながら男の子に言う。


「僕間違ってないよ?」

キョトンとした顔でハンナを見上げる。


「ありえないだろ!?てか貴様は誰だ!」


「んと、ハセって名前」


「へー。あっそ。とりあえず貴様家に帰れ。ここは貴様が来るところじゃない」


「……直球だね…」

クロルがハンナを見る。


「僕もお母さんと一緒に行く」


「そのお母さんは止めろ。虫酸が走る」


「…お母さんっぽいよ…?」

はぁ?とクロルを見るハンナ。


「貴様、俺がこうゆう女らしい呼び方好まないのを知ってるだろ。それに全く嬉しくない」


「そうかなぁ…」


「僕も行く僕も行く!」

走って学院の中に入り、庭園に向かう男の子。


「あ、まて貴様!追うぞクロル」


「…うん……………」

二人共男の子が向かった庭園に向かって走る。





「ん?あっちにいるのはキル君とシュールじゃないか?」


「……本当だ……」


ペースを落とし、庭園の中央に立ってる二人に向かって歩くハンナ達。


「おい貴様等」


「ん?おうハンナ達じゃねーか」


「もう花植えは終わったのですか?」

キルとシュールが気づき聞いてくる。


「おうよ。楽勝楽勝。それよりも、ここにちっこいガキが来なかったか?」


「男の子ぉ?俺は見てねーけど?」


「私も知りませんねぇ…」


二人共首を傾げて教える。すると4人の隣から男の子が歩いて来た。


「あ。いたいた」

ハンナが気づき、みんな男の子を見る。


「………ぁ…」


クロルを見るハセ。


「………?」

下を向いてハセを見下ろすクロル。すると…


「…お父…さん!」


「……え……………」


「お父さんだー」

クロルの足に抱きつく男の子。



「を。今度はクロル君だ」


「お父さんって…」


キルが子供を見る


「おい貴様、やっと見つけたぞコラ」


ハンナが近寄ると、今度はハンナの足にしがみつき


「お母さん!」


と言う。



「お母…さん…」

「おやぁ……」


キルとシュールが子供とハンナ、クロルを見る。



「…お、お前らいつの間に子供なんかっ!」

「つくるわけないだろっ!」


キルに言い終わらせる前に右ストレートをかますハンナ。


「いって!」

赤くなった右頬をさする。

「だって髪の色とかハンナの金髪とおんなじじゃねーか?」


「俺が知るか!」


「探検たんけ~ん」

ハセがハンナから離れて走り、学院の中に入って行った。


「あぁ!!貴様待てコラァ!」

すぐにハンナが走って追いかける。

「・・・・・・・・・ぁ・・・」


ぼーっとしたままハンナとハセを見るクロル。


「・・・・・・おいクロル?」


「・・・・・・・・ん?」

ゆっくりとキルを見る。


「行かなくていいのかよ?」



「・・・・・・・・・・ぁ・・・・。・・・そっか・・・」


凄く遅れてクロルも学院に向かってゆっくり走り、中に入る。


「・・・・・・・・・・なんなんだ・・・?」


キルが首を傾げ。

「ふー。何やら面白い展開になりそうですね~」


眼鏡の中心に左中指を引っ掛けてクイッと上げる。


「まさかと思うけど・・・、見にいくつもりか?」

もちろんですと笑顔でキルに言うシュール。

「ささ。もうこの庭園のお手入れは完了しましたので、私たちも学院内に入りましょうか」


手のちょっとした汚れを払うようにパンパンと手を叩き、

「あ」

まわりをよくよく見ると、広い庭園が綺麗に整えられてられているのに気付く。

「さっきまでと全く違うな!?」


シュールにツッコムために振り向くと、そこにはもう居なく、あれ?っときょろきょろ探すとすでに学院に向かって歩いている。


「お、おいシュール待てよ!」


慌ててキルもシュールの方へ走り、中に入る。

「あぁ、クソ。あのガキどこ行きやがった」

学校内の階段下のホールで立ち止まりまわりを見渡すハンナ。

後ろから遅れてクロルも立ち止まる。

「とてもお母さんとは思えない発言だよね…」

貴様は黙れと冷静にツッコむハンナ。

「おいっ!クソ餓鬼!いるなら返事しろ!じゃなきゃ貴様の関節をズタズタにするぞ!」


「関節って・・・・」


「あれ?ハンナさんにクロルさん?」

「ん?」


声をかけられ見ると、エラが鉢に植えられてる観葉植物を両手で持ってハンナとクロルを見て歩いてきた。


「あ・・・、エラ・・・・」


「もう作業は終わったのか?早いな」


「まぁな。それよか貴様、この辺りで金髪の小っさいガキ見かけなかったか?」

「ガキ?子供の事か?」

「そ」


「う~ん・・・、見ていないが?」


「そうか」



「なにかあったみたいだな?私でよければ力になるが?」

持っていた鉢を階段の端に置いてハンナ達に話すと、真顔でエラに応える。

「本当か?なら頼む。金髪の短い髪で、黒の服と茶色いズボンを着ている。見かけたらここに連れて来てくれ」


「分かった」


「それじゃ、行くぞクロル」

「うん・・・」


二人は左のとある部屋へ走って入って行き、エラは二人を見て、


「あ、今はまだ授業中だからあまり騒音を出さない方がいいから」


クロルがドアの隙間からうん、と返事してバタンと閉めて行った。

「おーい、エラー」


「ん?あ、キルさんにシュールさん」


エラの前に小走りで走ってきて二人共立ち止まる。


「こんなところで何してんだ?」


「あぁ。たった今作業が終わったんだ。キルさん達も?」


「まぁな」


「お疲れ様ですエラ嬢。ところで・・・、こちらにハンナさんとクロルさんが来ませんでしたか?」


「来たけど、それが?」


「どっち向かったんだ?」


「あっちの部屋に入って行った・・・・ー」

クロルとハンナが入った部屋を指さし、再度キル達を見ると、シュールがにこにこして立っているだけでキルがいなくなっている。

「よ・・・。・・・・・・・・・・て、あれ?」


「サンキュー!エラ!」

見ると、キルがもう既に部屋の方に走って行っていた。

「え、ちょ、キルさん!?」


「情報提供ありがとう御座いますエラ嬢」

シュールがニコニコしたまま歩きだす。

「あ、いや、どうも。なにしているんだみんなして?」


「“遊び”ですよ。エラ嬢」


「は・・・?」


「気になるんでしたら様子を確かめてはいかがですか?」


「え、遊びって・・・」

二人共部屋の中に入って行ってしまい、ぽかーん、と部屋の方を見つめて腕組みをしながら不思議そうに首を傾げる。


「・・・・・・・・・・・・・?」

「ガキー。クソガキー!」

ハンナが学院内の赤い廊下を歩きながら呼び、クロルが横から、

「名前で呼んだ方が早くない?」


「を?名前なんてあったか?」


「あったよ・・・・」


「なんだっけ?」


「ハセ・・・だったような・・・」


「ガキー!ハセっていうクソガキー!」

きょろきょろ見渡しながらまた呼ぶハンナ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(ガキは訂正しないんだね・・・)



「はぁ、こんなに広いんじゃ探しようもねえなぁ」


「もう諦めたら?」

「だな。振り回されるだけだよな。仕方ね。戻るぞクロル」

「うん。・・・・・・・ぁ」


クロルが前を見て声をだす。


「どした?」


ハンナも前を見ると、ハセが廊下を走ってこっちに向かってくる。


「あ!クソガキ発見!!」


「でもなにか様子がおかしいよ・・・?」


両手に何かを抱えて息を切らしながら走っている。


「なんだ?なに持ってんだあの野郎?」


「はぁ、はぁ、・・・・・・あ!」


ハンナとクロル達に気づき、スピードを落とさず突進してくる。


「え、ちょっと・・・・、なんか構わずこっち来るぞ・・・」

「そうだね・・・・」


「お、お母さぁぁぁぁぁぁぁん!!お父さぁぁぁぁぁぁぁん!!」


‘ドスッ!!’

「ごふうっ!?」

「うっ・・・・!」


ハンナとクロルのお腹に頭突きをくらわすようにタックルをかまされた。



「は、腹が・・・・・っ」


「・・・・・・・・・・・」


二人してお腹を手でさすり、ハンナが怒り狂ってハセに怒鳴り散らす。


「いってーなこのタコ![A:F6BE]いきなりなにすんだコラァ!」


「お母さんお父さん助けて!」


「五月蠅い!俺は貴様のお母さんになった覚えはないぞ!」


「怖いおじさんが僕を追いかけるの!」


「おじさん・・・・?」


クロルが聞き返すと、ハセが走ってきた廊下の向こうから緑の髪をした男が走ってくる。

「き、来た!!」

「を?」


ハンナも前を見ると、横しまの青いタートルと黒のズボンを着た飛天勝がドドドドドと足音を鳴らしながら向かって来る。


「あ・・・、見覚えある顔・・・・」


「オラァァァァァ!私のカチューシャ返せぇ~!」


「カチューシャ?」


「ハアァッ!!」

両足をまっすぐにして地面を滑るように三人の目の前で急停止した。


「き、君たちはぁ!」


ハンナとクロルを見て、途端にカッと目を見開く。


「むむっ!?姉御!?姉御でないかぁ!!」


「げ」

パッとうれしそうな表情をする飛天勝を見て一言だけ返すハンナ。


「げ・・・って、一言だけ・・・?」


「何故姉御とヤクザのお兄さんがこんなところに!?まさか私を追っかけてくれたのかぁ!?」


「そんな筈ないだろ薄らハゲ」

「再会して嬉しいのだがぁ、私は今お取り込み中なんだぁ。話は後で・・・って・・・・、ん?」


下に顔を向けハセにようやく気付く。


「あぁぁぁぁぁあ!!いたー!!」


ビシっと両足を広げ、力強く指をさすと、ビクっとハセが肩を上げて怯える。


「お前ぇ!早く私のカチューシャをかえせぇ!返さないと私はただじゃすまさないぞぉ!返せったら返せぇコラぁ!返…っ」
 
‘ゴスッッ’

ハンナが飛天勝の頭にかかと落としをして地面にグリグリと踏みつける。

「五月蠅い」


「う・・・ぐふぅ~・・・・」

ひょいっと立ち上がりハンナの隣に人差し指を立てて立つ。


「そんなに私の一言一言が気にかかるか」

さりげなく肩に腕をまわし肩に手を置こうとするが普通にパシンと手をはたく。


「いや、妄想は顔だけにしろ」


「ふふふぅ~・・・。顔という事は顔が見たいのかぁ」

こんどはハンナの髪を触ろうとするがパシっと手首を掴み阻止する。

「だから妄言は壁に言っとけ」

「あ、姉御から私の手を!とうとう私とお付き合いしようと!?」


「貴様のその言葉はどこから導き出せるのか俺は凄く不思議だ」

‘ボキッ’

飛天勝の手首を握ったままもう片方の手で飛天勝の人さし指を真顔で折る。


「・・・・・・・・・・・~っ」

後ろを向き三人に背を向けて人差し指を握る。かなり痛そうで声にならない叫びをあげている。


「さ、アホはほっといてホールに戻るぞ貴様ら」


クルっと後ろを向いてハセの肩に手を置き歩きだすハンナ達にすぐさま飛天勝が立ち上がり右手こぶしを上げて涙目で声を張り上げる。


「まてまてまてぇ~!今のは悪かったから私の話を聞いてくれぇー!」


「なんだよさっきから本当に五月蠅い野郎だなぁ」

仕方なさそうに振りむくと、ふふふ、と深み笑いをする飛天勝。


「そこにいる金髪の子に話がある・・・」


「あぁ?誰が金髪だコラァ」

ぴくっと眉を上げる。

「ち、違うっ!金髪の男っ」


「俺は男じゃねー!」


ドゴっと顔面ストレートパンチをきめて地面に倒す。


「ごふぅ!!・・・・・・・っく、すまない姉御・・・。だが今回は私の身勝手な行為ではないのだ信じてくれ」


鼻を手でおおってフラリと立ち上がり、下に下げると鼻の片方の穴から鼻血が垂れる。


「そんな顔でいわれても・・・・・」


クロルが無表情で言う。

「その子供が私の頭についていたカチューシャを取ったんだよぉ!!」


「はぁ?」

ハセを見ると、確かにピンクのカチューシャを抱え持っている。

「を。ホントだ」


「さぁ、返してもらおうか」

「・・・・・・う・・・、い、嫌だ!!」


ブンブンと首を横に振る。


「なにぃ?」


「おい貴様・・・」


「嫌だ!これは僕のだ!僕の物なんだ!誰が返すもんか!」


「私のだぁ!!」


「ー・・・・・・・・・っ!」


ハンナとクロルの横を通りすぎ、反対方向の廊下を走って行ってしまった。


「あぁー!!泥棒~!」


飛天勝もハセを追いかける。



「あのガキ・・・、なんであんなに必死なんだ・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・」


無表情でハセ達が走って行った廊下を見ながらクロルがハンナに話す。

「・・・・・・追いかけてみよう」


「ん?」


「飛天勝はオフみたいだけど、俺達の敵だからハセが危ないかも・・・・」


「あ、そっか。よし、行こうぜ」


「うん」

コクンと頷き二人同時に廊下を走る。

‘バタン’


「お?あれハンナとクロルじゃねーか?」

ハンナ達を探していたキルがドアの扉を閉めながら廊下を走るハンナ達に気づく。


「実際、学院の廊下は走ってはいけないんですけどねー」

シュールが二人を見て呟く。


「おーいハンナー、クロルー」


「を?」

二人ともキルとシュールの前で立ち止まる。


「ちょうど良かったキル君。この学院内に飛天勝がいるんだが・・・」


「飛天勝!?」


「俺達が探してたガキを追っかけてどこか行っちまったんだよ」


「おや、それは穏やかな話しではないですね」


「その言い分じゃぁ、貴様ら見てないんだな」


‘カツン・・・・’


「ん?」


足音が近くで響き、顔を向けるとリリーがキル達の近くに来ていて立ち止まる。


「お。姫っち」

「リリーじゃん。どうした?」


「・・・・・・・・・・。・・・・闇の属性を感知したの・・・・」


静かな声で話す。


「よくわかったなぁ~。ここに飛天勝がいるんだよ」


「近くにいる・・・・・」


「え、本当か!?」


こくんと頷くリリー。


「場所は分かるけど・・・・、案内する・・・?」

「もち!よっしゃ。野郎ども行くぞ!」

「お、おう」


「・・・・・・・・・・・・・・・こっち」


リリーが後ろを向いて走り、みんなも走る。




「良い子の皆さんは廊下を走ってはいけませんよー♪」


シュールが最後に言い残し走る。


「それじゃぁ、お二人はそこの花が咲いている鉢を持っていって下さい」


「はい」

「にー。分かったー」

ハルのクラスのみんなが庭園教室で花や植物の位置変えをして、フィリとネリルはその手伝いをしている。


「すみませんハルさん。一時限の授業に僕達まで参加させてもらって」

「全く問題ありませんわよ。人が沢山いたほうがこちらも作業しやすいですもの。特にフィリさんはとっても役にたっていますわ」

両手の片手に巨大なプランターを持っている。

「そうですか?ありがとうございます」


にこっと笑いかけ、プランターを指定位置に置く。


「それに比べて彼女は・・・・」


ちらっとネリルの方を見ると、小さな鉢を両手で重そうに持って一生懸命歩いている。


「にぃ~・・・お、重いよぅ~・・・」


「危なっかしいですわね」


「あ、ネリルさん無理しないでください手伝いますよ」


「に、ありがとう王子!」

ネリルの持っている鉢を一緒に持っていく。


「相応、バランスが取れてていいですけど」


二人を見ながら呟くように言うと、大きな足音が聞えてきた。


「あら?どこからか音が・・・」


‘バタンッ!’


庭園教室のドアが勢いよく開き、ハセがカチューシャを持ちながら息を切らして立つ。


「・・・・・・・・あら?」


ハルがハセを見て、クラスの女子みんなとフィリ、ネリルもドアに突っ立っているハセに気づく。

「あれ?あの子誰でしょうか?」

「に?分かんない」


「・・・・・・・・・・・・ぁ・・・」


「追いついたぞぉ!」


がばっと飛天勝が後ろからハセの首に腕をまわし、上に上げて確保する。


「なっ・・・・・・!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!』

ハルが驚いて声を小さくあげ、ネリル達も驚く。

「は、離せぇ~!」


ジタバタと身体を動かして暴れる。

「暴れるなぁ。そのカチューシャは私の大事な・・・っ」


言い終わらないうちにハセが飛天勝の腕をガブッと噛みつく。

「いたぁぁぁぁぁ!!」


緩んだ腕から下にすり抜けて地面に着地し、庭園の一番巨大な長方形型のプランターによじ登る。

「あ!それは!」


ハルが何か言おうとすると、六ヶ所に設置されてる丈夫な針金でつるされ、ガタンと音が鳴るとゆっくり上に上がりだした。


「な、どうしたんですかあれ!?」


フィリが驚いてハルに聞く。

「あのプランターは装置で天井に吊るす予定でして、タイマーが起動すれば自動的に上がるんですの!」


「う・・・・わわ・・・・!」

落ちそうになりながらもなんとかプランターの上に片手で掴んだまま足を引っ掛けて土にしゃがんで怯えながらみんなを見下ろす

‘ドン!’

「ぎゃ!」


後ろから飛天勝をひっ叩いてどかし、ハンナ達も教室に入ってハセを見上げる。


「な、なんであんな場所に・・・」

ハンナが冷や汗をかいて呟く。

「あ、皆さん」

「に、みんな!」


フィリとネリルが気づいてみんなに声をかける。


「おい貴様ら、これはどうゆう状況だ」


「え、えっと・・・・」


「あの子供が自らあそこに行ったのだよ・・・」


頭を抑えながらゆっくり立ち上がり説明する飛天勝。


「なんだと!?貴様嘘ついてないよな!?」

「う、ウソじゃないやい!」

「すぐに降ろしに・・・・-」

キルが助けにいこうとするが、

「く、来るな!」


「・・・・・・・・・・・!」


ブルブル震えながら、みんなを見て涙を溜めている。


「ぼ、僕・・・、僕、間違った事してない!」

震えるハセにハンナが一歩前にいき見上げたまま表情を崩さず話しかける。


「おいガキ。なんでそんなにそのカチューシャにこだわるんだ」


「え・・・・・?」


「大事そうに両手で抱え持って・・・・、それってカチューシャに思い入れがあるって事だろ」


「・・・それ・・・は・・・・・・・・・・」

戸惑い、口を閉じる。


「言えないんなら・・・・ー」

地面に落ちていたハサミを三つ持ち、一つのハサミに紫色に光る煙りをまとわりつかせてプランターを吊るしている右奥の針金に投げる。

‘ヒュン’

ガクン、と少し後ろに傾くが、五本の針金でかろうじてもっている。


「わ、ぁ・・・っ」


「ハンナ!」


キルがハンナを見る。


「貴様をそこから落としてやる」


「・・・・・・・・・・・・・・!」


「さぁ、どうする?」


「・・・・・・い、嫌・・・だ・・・・」


‘ヒュン’

今度は真ん中手前の針金を切り、残り一つのハサミを人差し指でくるくる回す。


「う・・・・・っ!」

グッ目を瞑り俯く。

「本当言うとこうゆう面倒事嫌いなんだよ俺は。なんだってこんな事態に遭遇しなきゃいけないんだか・・・。貴様は貴様の意志でこの事態にけりをつけなきゃいけねー。それが貴様にとって成長の一歩になるんだからな」

頭を軽くかく。


「あ、姉御・・・・・」

飛天勝がジーン、と心を打たれたように見る。


「貴様がやってる事はな・・・、俺より下なんだよアホ!!」


《・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?》


ハンナと飛天勝、ハセ以外みんなハンナの発言に理解できなく、妙な間があく。




「そんなもん盗るんだったらなぁ!俺みたいに相手を殴ってフルぼっこして気絶させて遠くに逃げるんだよ!そうすりゃどこに逃げたかバレないし運が良けりゃぁ記憶もぶっ飛んで一石二鳥だ!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


凄い自信げにハセにいらん事を言ってるハンナを目を細めてみるキル。


「・・・・・・・・・・・・お前・・・・」

「最高だー!最高だ姉御ぉぉぉぉ!!」


《最低だろぉぉぉぉぉ!!》


凄い笑顔で感激する飛天勝に、汗をかきながら目を瞑り、キルが両手拳を腰の方で握り心の中で強く否定して叫ぶ。



「まぁ、そんなのはなんの意味もないか」


くるくるはさみを回し言うと、ハセが小さく話し始める。


「・・・・・・・・ぼ・・・く・・・」

「ん・・・?」


「・・・・ぼくのお姉ちゃんが・・・、前にピンクのカチューシャを無くして・・・・、それで・・・、ずっと探していたんだ・・・・。でも。どこにも無くて・・・、今日諦めようかと思って学院内を歩いてたらあのおじさんがピンクのカチューシャをつけて寝てたから・・・」


「おい貴様、なんで学院内で寝てるんだ…」


飛天勝の胸倉を掴んで問い詰める。


「え、えぇ~っと・・・、学院内でちょっと巡回していたら眠くなってしまってついぃ・・・」


汗をかいて目をそらす。




「このカチューシャ、なんか変な球がついてるけど同じピンク色で簡単な作りがよく似ていたから・・・、僕・・・・」


う・・・、と俯いたまま涙を流しだし、カチューシャをギュッとする。


「成程な。姉ちゃんのためか」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「いい弟だな。貴様」


「え・・・?」


「姉ちゃん、嬉しいと思うぞ。けど、そのカチューシャは貴様の物じゃない。その二つの触覚がついてるのがその証拠だ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「今助けるから、そこ動くなよ」

ハンナがハサミを地面に放り投げて向かおうとすると、右の手前にある針金がグッ、と伸び、天井に固定されてるネジが外れた。

「ネジが!」

ハルが両手で口をおおい、ハンナが目を見開く


「ハセ!!」



「ぇ・・・っう、わぁぁぁぁー!!」


ガクンとバランスを崩し、地面に向かって落ちていくハセ。


「だ、駄目っ!!」

ネリルが頭をかかえて目を瞑りしゃがむ。


が、教室の開いてるドアから突風が起こり、みんなの後ろから風が通り過ぎる。


「わわわ!」

「うおっ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・!!」


フィリは帽子を抑えキルは腕で目をすこし隠して風が目にはいらないようにし、ハンナはハセを見上げジッと見ている。


緑色に光る風がハセにまとわりつき、空中で浮いた状態になっている。

「・・・・・・う・・・。・・・・・・・・・あれ?」


閉じていた目を開けてキョロキョロするハセ。

すると、ドアの入り口からエラの声が聞こえた。


「ふぅ・・・、あ、危なかった。もう少し遅かったら落ちてたかな…」

「え、エラ!」

「エラ姫ちゃん!」

ネリルがバッとエラに抱きつく。

「わ、ネリルさん」


「ありがとー!もう駄目かと思ったよぅ~」

エラを見上げてわんわん泣きだす。


「え、えーっと//」


「ありがとうございます。エラ嬢」


シュールもにこにこしてお礼を言う。


「う・・・・・ど、どうも・・・」


少し照れてハセをみてゆっくり地面に下ろす。



「・・・・・・・・・・・・ぁ・・・」


ペタンと膝を地面につけてボー然とする。

すると、ハルがハセの方へ走って行く。


「ハセ!」

しゃがみ、前からハセを抱きしめる。


「良かったですわ無事で・・・」


「・・・・・・・・・お姉ちゃん・・・」


ハルに向かって小さく言う。


『お姉ちゃん?』


キルとハンナが声をそろえてハルとハセを見る。



「お姉ちゃんんっ!?」


キルが驚き声を張り上げる。


「あ・・・、そう言えば皆さんにはまだ言ってませんでしたわね。紹介します。この子はわたくしの“弟”、ハセです」


ハセの両肩に手を置いて一緒に立ち上がり紹介する。

「お前の弟だったのかよ!?」


「えぇ。ほら、同じ金髪でしょう?」


自分の髪をくるくる人差し指で回す。

クロルがそれをみてようやく気づく。


「あ・・・。だからハルの弟なんだ・・・」



「おせーよクロル君」

ハンナがクロルを見る。



「助けていただき感謝いたしますわ。また一つかりができてしまいましたわね」

ハルが微笑してハンナ達みんなを見る。


「ほら、ハセ。あの人に返して」


「・・・・・・・・うん」


とてとてと飛天勝のところに小走りで行き、カチューシャを両手で渡す。


「ごめんなさい。おじさん」


「私はおじさんではないぃ!」

バッとカチューシャを取り、ビクッとするハセだが、頭にカチューシャをかける飛天勝に優しく訂正する。


「ありがとう・・・、お兄ちゃん・・・」


「む・・・ぅ・・・・」


腕組みしてハセを見て、横を向く。
そのままハルの方へ走って行き、ハンナ達の方を向く。


「ありがとう。みんな」


ハンナがニヤリと笑いハセの頭に手を置く。


「いいってこった。追いかけっこ。結構楽しかったぜ。ハセ君」


「うん・・・・。なんだかんだ言って結構楽しかったね」


クロルもハンナの隣で言うと、ハセがキョトンとしてまたにっこりと笑う。


「ありがとう。“おかあさん”、“おとうさん”」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ー!?』


ピシっとハルとハセ、学院のみんな以外みんな固まる。

「・・・・・お、お前等・・・・、まさかと思うけど本当にハルとハセの親なんじゃ・・・・」


「んなワケないだろうがぁ!」

キルの発言を撤回する。


「あら。またですのハセ」


『・・・・・・・・・・ん?』


ハンナとクロルが同時にハルを見る。


「この子、金髪の髪をした人を一度見ると“おかあさん”って言うんですの」


「・・・・・・は?ってーと、貴様・・・、ワザとか・・・・」


「うん。だって金髪だもん」

無邪気に笑うハセの両脇から腕を掴み待ち上げるハンナ。


「ざけんなクソガキー!!」


「あはは。でもおかあさん、最後に僕が落ちる時名前で呼んでくれたよね。それって認めてくれたってことでしょ?」


「・・・・・・・・・・ぅっ」



「あ・・・・、言葉が詰まった・・・」


「えい!」

ハンナの腕からすり抜け地面に着地し走りながらハンナに顔を向ける。


「ねね。おかあさん、おとうさん。おいかけっこして遊ぼー」

タッタッタと先に走りだすハセにハンナが身体を前に乗り出す。


「あ、クソ。おいクロル!追うぞ!」


「えぇ~・・・・?また~・・・・?」

「つべこべ言わず、ほら!」


「は~い・・・・・」


ハンナとクロルが庭園内でハセを追いかけまわす。


「おいかけっこしてんじゃねーかあいつら・・・」


キルが二人をみて呟くと、ハルが首をかしげる。


「でもおかしいですわね。おかあさんという言葉なら言うのですが、おとうさんとまで言った事がないんですの」


「え?そうなのか?」


「それにふざけて言うのもあるのですが、あんなに長く言い続けるのも初めてですわ」

「なんでクロルとハンナを見てそう言うんだろうな」


「さぁ・・・・?……でも」

「でも?」

「わたくしはキル様とおかあさん、おとうさんと言われても全然気にはならないですわ」


ギュッとキルの腕を組んで言う。


「う・・・・・・、え…、遠慮しておきます・・・・」


「あら、残念ですわ」


にこっと微笑しながら面白そうにおいかけっこしてる三人を見る。



「待てやおら~!ってか、ガキのクセに速いなおい。速さなら負けないからな俺はー!!」


「こっちこっちー」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ー数日後ー













「おかあさーん。おとうさーん。あーそーぼー」


「ぶっ!!」

学院内のハルの部屋でみんなお茶をしている時、ドアからいきなり入ってきて大声を出すハセ。


その声に驚き飲んでいた紅茶を噴き出してしまったハンナ。



「・・・・・・・・・・なんの用だ・・・」

ポタポタと紅茶を顔から垂らしながらクルっとハセを静かに見る。


「うん。だからあそぼ。ね。おとうさんも一緒に」


「おっとっと・・・・・・」

拳銃を磨いていたクロルの腕を掴んでハンナの近くに行き、顔を見る。


「あれ?おかあさんどうしたの?顔濡れてるよ?」


「・・・・・それはな、貴様のせいだよクソガキー!!」


「きゃー!おかあさんが怒ったー」

部屋を出て逃げる。


「この、待てクソガキこらぁ」

ガシッっとクロルの腕を組み、部屋を出て行った。


「あぁー・・・・。デジャヴー・・・」


‘バタン!!’





「結局あの親子ごっこは治らないな・・・」


「確かに。ハンナさんとクロルさんにすごくなついていますし、わたくしではもうどうする事もできませんわ」


ふう、と頬に手をあてて笑いながらため息をつく。


「・・・・なんで嬉しそうなんだよ・・・・」


「だって、面倒を見てくれますし、何よりキル様との時間もとれますもの」


椅子に座ったまま隣にいるキルの腕にまた組むハル。


「相応、とっても面白いことになっていいじゃないですかキルハセは遊び相手が増えて嬉しそうで、ハルは暇ができてキルとより一緒にいられる時間ができた。まさに一石二鳥ですよ」



「うるせーよ!!余計な解説いらねーよ!!」

はぁ、とため息をつき、


「もう、好きにしろよ・・・・・」



ガクッと頭を下に落とす。



    ー親子ごっこ終了ー
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