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-短編集-


ー……うぅ~ん。

なんだか頭が嫌にボーっとするな…。



キルがシュールの家のソファーで眠っている状態から目を覚まし、頭に手を置きながら上体だけ起こす。


「……ア゙ァ゙ァ゙ー…。声がすれでや゙がる゙…」
↑寝起き最悪



う~んとまわりを見ると、この部屋にはキルしか居なく、机の上に何か小さな小瓶が置かれているのに気づく。

「…ん?なんだありゃ」

ソファーからおり、小瓶を手にとって見るが何も書かれておらず。


「…シュールは出かけたのか?もしかして忘れもんか……」

机に小瓶を置き、まだ朝早いので静かな部屋である。


「……この頃戦闘続きだったからみんな疲れちまってんだな…」


フゥっと一息つくと、また頭がグラリと不思議な感覚で揺らぐ。


「う…お…!」

頭をおさえ、


「………う~ん…。やっぱボーっとするな…。ちょっと顔洗ってまた寝るとするかな」


フラフラしながら洗面所の方へ歩いて行く事になった。




















ー変わった彼ー

洗面所に向かうと、ザーッと音が聞こえ、見ると、ハンナが先に起きて顔を洗っていた。

いつもかぶってる赤い帽子は隣の小さな机にちゃんと置いてる。



お?と言って近寄る。

「はよ。ハンナ」


を?といって背を向けて顔を洗いながら喋るハンナ。


「おはー。その声はキル君だな」


「おー。早いんだな」

「貴様こそ起きるの早いな。いつもはグーたら寝てる癖に」


「グーたらって余計…ー」

ちょうどハンナが顔を濡らしたまま振り向きキルを見る。


「……だ……ろ…」


最後の方は声が小さくなり、ボーっとハンナを見る。


「を?どした?」

キョトンとした顔で見る。髪の毛先から水が一滴二滴、地面に滴(したた)れ落ちる。


「…………ハンナ……」

声を低くして近寄るキル。

「…?なんだ」


「……濡れてる状態も、悪くないよな…」

目の前で立ち止まってハンナの毛先を指で優しく撫でる。


「…っはぁ!?///」


突然の事でビクッと肩を上げ、一瞬顔を赤くする。

「な、なっ、何気持ち悪い事言ってんだ貴様!//」


ハンナの反応を見てニヤリと笑い、


「そうゆう反応も…、強気なところ。良いな」

からかうように言うキルにピシッと固まるハンナ。

「………!!??/////」



「……って…、あれ?」

ハッとして我にかえり、

「…俺今なに言ったんだ?」


頭をかき、記憶がない様子でハンナに聞くが、顔を真っ赤にして口をパクパクとしたまま話しを聞いてない。


「うっお!?大丈夫かよハンナ!?」


「……ぁ…、あぁ…////」

頭から煙が出てバッと両手で顔を覆う。


「うぁぁ~////」

その場から走って離れて行ったハンナ。


「は?ちょ、なんなんだよ。何かあったのかぁ?」


首を傾げ、とりあえずま、いっかと言ってバンダナをはずし、顔を洗い始めるキル。


「ふぅ」


タオルで顔を拭き、洗顔が終わってバンダナを結ぼうかと思うと、後ろから誰かが抱きつく。


「キール兄♪」


「うぉ!」

少し前に押され、顔だけ後ろに向けるとネリルだった。


「ネリルじゃねーか。もう起きたのか?」


にっと返事し、手を離してキルを見上げる。


「キル兄こそ早いね。どしたの?」


「え、いや、別に。今日はたまたま早く起きただけだ」

にひ。と笑い見上げ、

「あたしもあたしも!」

ぴょんぴょんと小さくジャンプして自分を指さす。

「て、テンションたけーなお前」


「これがあたしの取り柄なのー」


取り柄ねぇ~と呟く。


「あ。あたしも顔洗う~」


「お、おう」

少しスペースをあけて、さっきまでキルがいた場所にネリルが立つ。

蛇口をひねようと腕を伸ばすが、身長が低く、手が届かない。


「…にぃ~」

「届かないのかよ」


「う~。もう少しで届くのにぃ~。キル兄手伝って~」


はぁ?と声を張り上げるが、

「仕方ねーな。ほら。手広げろ」

に。と返事をして両手を広げ、キルが腰を掴んで上げる。


「に~。そのままの状態を保ってねぇ~」


「分かって…ー」


ネリルが蛇口をひねり、水をジャーっと流すとまたボーっとする。


「にぃ~♪冷た~い」

バシャバシャと洗いながして終わる。


「に。キル兄もうい~よぉ~」

ネリルが言うが何故か降ろさない。



「…………?キル兄?」

顔だけ後ろに向けると、ようやく降ろすが濡れたままの両手をギュッと覆うように握り締めるキル。

「…に…?」


「……こんなに濡れると…、一瞬で冷たくなるんだな…」


「ぇ、キ、キル兄?」

「お前の手が冷たくなるなんて、俺は嫌だな…」

片頬に手の甲をそっとそえるキルに少しビクッとするネリル。


「冷たくなったお前を、俺が暖めてやろうか…?…小さなお嬢さん…」


「にっ!?////」


カーっと顔を真っ赤にしてキルを見上げたままオドオドする。


「キ、キル兄!?//どうしたのいきなり!?」


「別にどうもしないぜ…?」


「で、でもでも!何だかいつもと違って積極的というか…///えと…、その…///」

下を向いて口をもごもごとするネリルをキルがしゃがんで右手を取り、


「……に……?//」

顔を少し上げて見ると、キルがいきなり手の甲にキスする。


「~にっ!!??///
キ、キ、キキキル兄っ!?//」


顔をあげ、微笑するキル。

「……もうちょっとハッキリ言ってくれれば…、またやってもいいぜ…?」


「……ー!!??//////」


ボンっと音がして頭から煙りが吹きだし、自分の両頬に手をあてる。


「………ん…?」

我にかえったのか、ネリルを真顔で見るキル。


「……にぃ~…//////」

「……おいネリル?どうした?」


「あ、ああ、あたしは……、あたしは…!//」


「何だよ。ハッキリ言えよ?」

目を細めてズイっと顔を近づけると、後ろに下がり。


「にっ!///なななな、なんでもないよぅ~っっ!!////」


両頬を両手のひらでおさえたまま横を通り過ぎ、バタバタ走って洗面所から出て行ってしまった。



「……………は…?」


ポカーンとして立ち上がり、ネリルを見送るキル。


「意味わかんねー」

頭をかいて少し違和感を覚えつつ洗面所を出るキル。



(…俺また変な事言ったのか…?)


腕組みして首を傾げ、元いた広間に戻ると、エラが棚の上に置いてる薬箱をガタガタとあさっている。


「……………?」

後ろから近寄り、少し距離をおいてエラに声をかける。


「おいエラ」


「うわ!な、なんだキルさん」

ビクッとして振り向き。


「何してんだ?」


「うん。見ての通り、絆創膏を探してるんだ」


またガサゴソと薬の箱をあさり


「は?絆創膏ぉ~?どっか怪我してんのか?」


眉を潜め


「ま、まぁ…。ちょっと手裏剣を滑らせて指を切ってしまったんだよ」

右手の人差し指を見せ、切り傷があり多少血が滲(にじ)んでるのが分かる。


「うお。マジで痛そうだな」


「うん。まぁ、もう慣れたんだけどね。お前は何故ここに?」


「俺は朝早く目覚めちまったから顔洗って来たんだよ」

そう言った後、あ。と思い出し


「なぁエラ。さっきハンナとネリル見なかったか?」


え?と首を傾げ、

「う~ん…。そういえば、ハンナさんはさっき外を走ってたのを見かけたけど、ネリルさんは廊下を走ってたが…、それがどうかした?」


「あぁー…。いや…、なんか二人共俺から逃げるようにどっか行ったからさぁー」




「逃げるって…、そういえば二人共顔を真っ赤にしてたような…。……キルさん、あんた二人に何か言った?」


えぇー?と眉を上げ、

「言ってないと思うぜ?だって記憶にねーもん」


「そうなのか?」


んー、と考えながらやっと絆創膏を見つけた。

一端下を向いてため息をつき、


「あんま怪我しないようにしろよぉ?お前らは俺と違って……ー」

顔を上げ、エラの右人差し指に傷があり、血が多少流れ出てるのに目が止まった。


「わ、わかってるよ!」

若干冷や汗をかいてキルを見ると、ぼーぜんとして指を見てるのに気づく。

「…………キルさん…?」

絆創膏を持ったまま名前を呼んでみると、いきなりエラの右手首を掴む。


「……その指…」

血が流れてる指を見て呟く。


「え、あ、あぁ~。さっき怪我したって言った場所がここなんだ」


説明するように言うと、怪我してる人差し指を軽く握る。

「…………い…っ…!」

一瞬痛みが神経に伝わり、訳が分からずキルを見る。

だが、キルは真剣な表情で人差し指を握ったままエラを見ている。


「………痛い…か…?」

「い、…痛い…けど…?」


「……血、流れてるぜ…?」


「あ、あぁー、そのまま絆創膏をはるから気にしなくても…ー」


「……気にするって……。………それに、流れ出る血ってのは出さねーと菌が入るんだぜ…?」


「え、じゃ、じゃぁ、水で洗い流しに…ー」


そう言いかけた途端、掴んでた手首をグイッと自分の方へ引き寄せ、傷がついた指をキスするようにつける。


「…え……………」

一瞬理解出来ず、目を丸くしてキルを見るエラ。

そのまま少し流れてた血を一端吸い、すぐ前の開いた窓の外にペッと血を出すキル。


「…………………」

状況が分かり、段々と顔が赤くなる。


「……え…、ええぇぇ…っ///!?」


「ん…。これで安心だな」

外からエラに視線を戻すキル。


「…キ…、きききき…、キキ…キルさん!!?//」


大声で名前を呼ぶエラに、ん?と返事して見る。


「な、なななな、何っ、なにやってるんだ!!///」

「なにって、この場で血を抜き取ったんだよ」

「え、ええ、えぇ?//
ち、血なら…、ああ、洗い流せば…ー!」

テンパりまくりながら話そうとすると、キルが自分の右人差し指をエラの唇に優しく触れるようにおき、


「……やらなきゃ…、良かったか…?…俺……」


また一瞬目を見開いてキルを見、唇から指が離れると同時にハンナやネリルたちと同じように顔を急激に真っ赤にさせるエラ。


「……あ…、あ…わ…わわわわ…!///」

「どうしたんだ、エラ?」

近寄り両肩に手をおいて耳に顔を近づける。


「……もしかして…、口が良かったか…?」

耳元でボソッと小さく囁き、エラの肩がビクッとして上がる。


「……ひぅ…っ!/////」

「…………ん…?」


真顔になって顔を離し、手を離してエラを見るキル。


「………なんで…、お前の肩に手を置いてたんだ…?俺…」


「…あ、あぁ、…あぁ~////そそそそ、それは…///」


真っ赤になりながらキルから少しずつ後ろに離れながら説明しようとするエラ。


「…………?」

反応を見て眉をひそめ、


「…………おい」


「あぁ~!!/////あぁ、あああ!わ、わわわ、私はそそ、その!キルさんの事なな、なんとも思っていないから!!////だからごめん!じゃ!///」

テンパりながら早口で言い、後ろを向いて部屋に走って行った。



「え!?お、おい!?なんでお前までそんな赤くなってんだよ!」

手を伸ばして声を出すがもうこの場から居なくなってしまった。


「……………なんなんだよ?俺、やっぱ何かしてるよな…」

頭をかき、ふと窓に反射した自分の顔を見てバンダナがないのに気づく。



「あ、いけね。バンダナ洗面所に置きっぱなしだったっけ。取りに行こっと」


少し小走りでさっきいた洗面所に戻り、


「………あれ?バンダナがねーな?」

洗面所の手すりにバンダナをかけていた場所を見るが、どこにも見当たらない。


「……ん~…?おかしいな。確かにここにあったんだけど…」

洗面所から離れ、


「あ。もしかしてフィリかクロルが持ってるとか」


そう考え、二人が居るはずの部屋に行ってドアをノックする。


「おーい。入るぜー」

トントンと二回ノックするが返事がなく。


「…………?おい二人共ー」


もう一度ノックするも、相変わらず返事がなく、ドアを開ける。


「勝手にはいるぜ?」

開けてみると、部屋には誰も居ない。


「あれ?二人共居ないのか」


部屋のまわりを見てドアをバタンと閉める。


「行き違いか?じゃぁ、フィリが行きそうなキッチンに行ってみるか」

少し考えながらキッチンに向かって歩く。


(…それにしても、マジ三人共どうしたんだぁ?顔真っ赤にして俺から逃げるように離れるし……)

そもそも俺が何をしたのかも記憶にねーしなぁ。

……ってか、なんで俺はこんな一人になりやすいんだろうなぁ…。


確か前にも迷宮のとこで迷ったし…。


「まわりは鏡だらけで自分が写った複写にビビって炎を出し、誤って一部の鏡を溶かしたり、全然出られなくて走りまわって暴走したら鏡割りまくったりしてそりゃぁ、手がつけられませんでしたよー」


「そうそう」

腕組みして目を瞑り、二回頷くがん?と隣を見るとシュールがニコニコしてキルを見ていた。


「って!!おまっ!お前っ!いつの間に居たんだよ!?」


「先ほどから居ましたよ?」


「いきなり話しかけんじゃねーって!」


「いやぁ~。面白い事考えていたのでつい」


「面白い言うな!……て…、あれ?俺が考えてる事なんでお前が知ってんだよ?」


「それはですね…」


少し間を溜める。

「………それは?」


「ひ・み・つ・です♪」

シーッと人差し指を口元で立てて爽やかフェイスで応える。


「…………はぁ?」


「フィリとクロルなら買い出しに出掛け居ませんよ」


「え?そうなのか?」


「ま。試しに居間の方に向かってみて下さい。面白い事が起こると思いますから」


ニッコリして背を向け、廊下を歩き出すシュール。


「は?面白い事ってなんだよ?」


あそうそう、と立ち止まり、顔だけキルに向け

「居間のデスクに置いてあった小瓶ですが、ご自由に使用して構いませんからね」

「は?」


では、と左指を動かして手を振るようにし、キルから離れて行く。


「おいシュール!」

呼びかけて追いかけようとした瞬間足を止め、首を傾げる。


…俺、フィリ達を捜してる事言ってないよな?

「おいシュー…ー」


前を向くと、もう既にシュールは居なくなっていた。



「………………」


しばらくぼーぜんとして、若干キレる。


「おい!また俺一人じゃねーかよ!って最近俺独り言増えた気が…」

すぐに冷めて自分をツッコむ。


(自分で自分をツッコムってのも悲しいな……)

ハァっと溜め息をつき、


もういいか。フィリもクロルも居ないって分かったし、居間に行ってみるか。

俺のバンダナもあるかもしれねーし。


そう考え、廊下を歩いて居間に向かった。

「・・・・・・・・・・・・?」


居間に戻ってみると、台所の方にリリーが突っ立っていて、何かを見ている。


(なに、見てんだ?あいつ…)


目を細めながらも、近づいて後ろから声をかけてみる。


「何見てんだリリー?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


少しピクリと反応し、ゆっくりとキルの方を振り向く。


相変わらず眠そうな目をしているが、どこか人を強くひきつけるような瞳でまっすぐとキルの瞳を見る。

「・・・・・・・眩しっ!」

思わず声にだし、目を瞑るキルにキョトンとした表情で見つめるリリー。


「あ、いや」

頭をかいて目をそらすキルをジッと見て、視線を台所の台に置かれてる小瓶に向ける。


「あれ?なんでこんなところにあるんだ?」

「…………?………知ってるの…?」


「え、いや、う~ん…」


朝見かけたけど、そん時は全く眼中になくて普通にスルーしたから中身が何なのかわかんねーんだよなぁ。

てか俺がこの瓶の中身知りてーよ!

「あ、やっぱ、なんでもねーかも」

「………そ…う…?」

「そうそう」


さっきシュールが面白い事が起こるって言ってたけど…、この瓶に関係してるんじゃねーよな?

顔を歪ませるキルを再度リリーが聞く。
  

「………なにか…、焦ってるの…?」

「へ?い、いやいやいやいや!全っ然焦ってねーよ!?」


「……何だか…、様子がおかしい……」


「き、気のせいじゃねーの?」


「…………………」


無言で視線をまた小瓶に向けるリリー。


(なんか、鋭いなお前…)


若干冷や汗をかいて頬を軽くかいてると、リリーがまた話しかける。

「……さっき…、ハンナ様とネリル様、エラ様が自分の所に来たの…」

「は?」


い、いきなりなんだ?


「…質問…、『キルに何かされなかった?』と顔を真っ赤にして問われたの…」


「お、俺!?」

「……………」

黙ってキルに顔を向け、質問する。


「………何か…、あった?」


「…あぁー……」

やっぱ…、なんかやらかしてんじゃねーかよ俺…。


「………もしかしたら、この瓶に関係…するかもしれないよ?…キル」

台の方に行って小瓶を持ちキルに見せる。

「これがか?なんかわかんのか?お前」


「分からない…けど…。……でも、そんな気がするの…。…自分は」


「…………これがなぁ……」


目を細めて近寄り、持ってる小瓶を取ろうと手を伸ばした瞬間、ハッとしてリリーの後ろの窓を見てピタリと手を止める。
さっきまで晴れていた空がくぐもっていて、急に雨が降り出す。


「…………………」

「……………?」


ボーっとするキルを不思議そうに見るリリー。


「………どうしたの…?」


「……………………」

ゆっくり窓からリリーに視線をうつす。


「……だい…丈夫?…キル」


「……………リリー…」


止めていた手を動かし、リリーの背中を腕で覆うように肩を掴む。

「………?…何?」

動じずキルを見上げる。


「………俺…、お前の事…、本気で好きかも…」

リリーの身体を引き寄せ、顔を近づける。


「……………す…き?」

間を溜めて聞くように言葉を返すが、もう片方の手でリリーの頬と耳を軽く覆うようにあててゆっくりと顔を近づける。


「……そう…。………好き…」


目を閉じてギリギリまで口を近づけてくる。


「…………………」


全く反応せず、ただされるがままの状態のリリー。

「………キ……ル…ー」

もう少しで口が触れそうになった瞬間、開いていた窓からいきなりスケボーに乗ってビショビショに濡れているハンナがキルに向かってきた。


「おらぁぁぁっっ!!!!」

‘ドゴッッ!!’

「い・・・・・・・っー!?」


頭のこめかみ部分にクリティカルヒットし、リリーから離れるように後ろに背中から倒れこむ。

「ーだっ!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・」

リリーは倒れるキルを無表情で見て隣に降り立つハンナに顔を向ける。


「貴っ様!!なに姫まで手ぇ出そうとしてるんだコラァ!!」

ビシっと力強くキルに指を指して大声で言うハンナ。

「・・・・・・・・・・・・く・・・・」


フラリと額を片手でおさえながら立ち上がる。


「いきなり何しやがるんだテメー!?」

バッとハンナに拳を向ける。


「五月蠅い喚くな!姫が怖がっているだろアホ!!」

「・・・・・・・・・・・・・」←


「どこが怖がってんだよ!?全然怖がってねーじゃねーか!むしろお前に怖がってんだろリリーの奴!」


「・・・・・・・・・・・・・・」←


「俺に怖がる筈がないだろ馬鹿野郎」


「だぁれが馬鹿だ誰が!?」


「貴様しか馬鹿はいないだろうがカス!」

「あのな!せめて馬鹿かカスのどっちかにしろよこの男女!」
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」←


「おとっ・・・ー!?貴様!誰が男だコラァ!!」


リリーが手に持っていた小瓶をとっさに奪い取り、キルにブンっと投げつけた。

「ゴフっ!!??」


‘パリーンッッ!’


顔面ストレートに小瓶が当たり、割れながら中の液体がキルに飛びかかった。


「・・・・・・・・・・・・・・ぁ・・・」

リリーが思わず声に出すが、キルはピタリと反応せず、目を見開いてボー然と突っ立っている。

「・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・れ・・・?」


「おい!さっさと訂正しろコラァ」


ハンナがキルの胸倉を掴むがキョトンとして見るだけ。

「・・・・は・・・?・・・・・・・・何の事だよ?」


「とぼけんな!」

「だから何の事・・・っー!」

「きぃぃぃるぅぅぅにぃぃぃぃ!!!!」


ドドドドと何かが走ってくる音が聞こえ、バンっと家のドアが開いてネリルが泣き叫びながら抱きつく。


「うぅおぅっ!?」

よろけながらも背中にひっつくネリルに顔だけ向ける。

「お願いキル兄!いくらあたしと年が近いからってあんな事してまでアピールしないで!!」


「はっ!?」

「あたしじゃなくてもハル姉ちゃんやハンナさん、エラちゃんや姫ちゃんみたいに沢山いるよ!?」

「え、いやっ・・・・。だから何がだよっ!?てか濡れてて気持ち悪っ!!」

全く状況が分からないキルの後ろの壁からまた声をかける者がいた。

「・・・・・・・・・・キル・・・さん・・・・・」

「なんだよ!!」

若干キレながら後ろを振り向くと、エラが何故かキルのバンダナを持ってる。

ずぶ濡れで何かの黒いオーラを纏わりつかせ、俯いてキルから目をそらしている。

「・・・・・・・・・・ー!?」

「を」


ハンナは反応薄く、キルはギョッとして何事かと顔を引きつらせる。

「わ・・・わわわ・・・・、私は・・・その、キルさんとはまま、まだ・・・・///」


噛み噛みでぼそぼそと言うエラに目を細めるキル。

「・・・・・・・・・・・は?」


「まま、まだその、キキキキ、き、ききき・・・-!」


「・・・・いや、だから。・・・・・・・・・・は?」


「キキキキキー!キスとかそんな事できないって!!////」

バンダナをキルの足元にベシっと投げつけるエラ。

「・・・・・・・・・・・・はあぁ!?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


リリーが黙って二人から少し離れた場所から見ていると、シュールが廊下から歩いてきた。

「おや。なんですか?朝から皆さん騒がしいですね」


「・・・・・・・・・・」

ゆっくりと隣に立つシュールに顔を向ける。


「・・・あれは・・・・何?」


「あれですか?知りたいですか?」

「・・・・・・・・・・知る・・・、知りたい・・・」


「実はですね~。昨日の夜中、私がこの街の薬品店に向かったら店員に声をかけられまして、仕方なく話を聞いてみたら薬剤師である店員から水に反応する属性薬品を差し出されたんですよ」

「・・・・・・・・水?」

「はい。ですが、その薬品はまだ投薬実験中の段階でして、ためしに動物なんかで試してみてくれないかと言われ面白そうだったんでこころよく引き受けたんです」


「こころ・・・よく・・・」

「ですが、夜遅かったので身近にいる方で試そうと思い、ソファーで眠っていたキルに試しにカプセル型の薬品を飲ませてみたんです。そしたら・・・・ー。あのような症状に」

なんの悪気もないようににこにこして説明するシュール。

「・……………」


「驚きましたね~。まさか水属性に反応するのではなく、水に反応する“女性属性”になるとは」

「・・・・・・・・元凶はシュールなんだ・・・」

声を少し低くして言うリリーに構わず話す。


「あ、ですが安心して下さいリリー穣。キルが起きた途端に机に置いていた空っぽの小瓶に解毒薬の液体をちゃんと作っておいたので」


「・・・・・・・・・・解毒薬って・・・・?」

「台所の方に置いていた小瓶ですよ。あのキルですから、面倒だったので飲ませなくても効果あるように作りました

・・・まぁ、今のキルのように起きた後から今までの記憶は、女性属性薬と解毒薬の副作用で消滅しているようですね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


黙ってキル達を見るリリー。


「・・・・・シュール様って、黒いね・・・」


「ははははは。あなたも黒いですよ」



‘ガチャ’

玄関のドアが開き、フィリとクロルが濡れた黒い傘を持って入ってきて袋を持ったままキル達を見て立ち止まる。

「だぁから!!俺がなにしたってんだよ!?全然記憶にねーよ!?」

「はぁ!?貴様しらばっくれるなよ!?」

キルの顔に指をさすハンナ。

「誰もしらばっくれてねーよ!」


「にぃぃ~ん。キル兄目を覚まして~」


ネリルがキルにしがみついたまま揺らす。

「だから揺らすなしかも濡れてるし!?」


「・・・・・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・//////」

壁に向かって顔を真っ赤にしてぼそぼそと呟くエラ。

「なんかこえーな!?」





「な、なんですかこれ」

「・・・・・何かあるのかな・・・・・・」


「何かって、もう起こったみたいですよ?」


困った表情をするフィリだが、クロルはぼーっとしてみんなを見るだけだ。


結局この騒ぎは夕方まで続いたとのこと・・・・・-






「だぁぁぁ~もぉっっ!!なんだってんだよ!!」







ー終了ー

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