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-短編集-


「ねぇ…。俺ってドジっ子?」

早朝からぬっと細い目にしたまま、寝癖が酷いクロルが宿屋の部屋で全員に質問した。

珍しくどこか腑に落ちないような顔で。

「………………は?」

全員がキョトンとしてキルもクロルの発言が不思議に聞こえて首を傾げた。


サングラスをしていないのでムスっとしたクロルの表情にも疑問を感じて。



-クール・ドジ-


「なんだよ急にお前らしくない事言って」

キルからそう言われてもう~んと唸るだけで、朝食で用意されていた宿屋オリジナルのチュロスを口に運ぶ。

その光景を見ていたハンナがリスみたいだなと然り気無く呟いたが、お構い無く細い目でキルにボソッと話を続ける。




「うん。俺って…、ドジなのかもなぁー…と思って…」


「いや、そうでもないっていうか、…………………。

………んー……………、あ、ん~…。

あー…………、やっぱそうかもしれねーわ」


「キルさん、全くフォローになってませんよ」

フィリがすかさず指摘すれば、あーもー!!と今度はキルがガタッと椅子から立ち上がり机に手を置いた。




「なんでクロルの短所みたいな事を俺が判断しなきゃならねーんだよっ。思ってる事は人それぞれかもしれないだろ!」

「別にキルだけに聞いてたわけじゃないんだけど…………」


ポリポリ食べながらボンヤリと言い返すクロル。

で、キルが今度はソファーで寛いでるハンナに話の流れを持っていく。

「ハンナはどう思うんだよ。クロルがまじでドジに見えるか?」

「見える」

「即答…………」

「見えるってか、アホにも見える」

「なんでそこまで言われないといけないの?」

クロルの指摘も無視して、ハンナは言いたい事だけ言ってふわぁ~と眠たそうに欠伸をする。

「あ…。もしかして昨日あまり寝てなかった?」

「んー。まぁなぁ~…」

ポスっとそのままソファーの上で横たわり、頭に巻いていた赤い布をシュルリと外して肩の方にかける。

「正直、貴様がそんな事で悩んでても、対して変わらねーと思うぞ」


「ん…?」

「何が原因でんなちっせー事を気にしたか知らんが、らしくない事で悩んだって貴様に変わりないだろ。そのままでも十分じゃねーの」

「…………はぁー」

「ネリル、毛布」

何気なさそうに言えば、パシりの如くネリルに毛布を持ってこさせてに~っと楽しそうにバサッとかぶした。

「つーワケで以上が俺の感想。眠いから後の事は貴様らで楽しんでおけ。俺は寝る」

「相変わらずマイペースな奴だな」

直ぐに背中を向けてはものの数秒で眠りに入り、ん~…とポリポリチュロスを口に運んでいく。

低血圧なのか、朝はほぼ無気力に近い位にボンヤリとしてるクロルだが、普段でもあまり大差ないので、いつも通りにも見える。


「みんなおはよう」

ガチャっと寝起きのエラが目を軽くこすりつつ洗面所の部屋から出てきた。


といっても長い緑の髪は結っていなく、そのままストレートにおろしたままの状態だが。


「はよ」

「おっはよーエラ姫ちゃん」

「おはよう御座います、エラ嬢」

「……………おはよー……」

「エラさんおはようございます」

「おはよう…、エラ様………」

言い方だけで誰が喋ってるか分かるこの挨拶。

で、案の定クロルの髪がまだ寝癖のままで凄い事になってるので、起きて早々エラはギョッとする。

ク、クロルさん。…前よりは多少見馴れた光景ではあるけれど、起きたら直ぐ寝癖を直す気って起こらないのか…?」

「んぇ…?」

ポリポリと食べながらボンヤリ眼(まなこ)でエラを見上げては、チュロスを口だけで頬張りながらコテンと首を傾げた。

「あふぉでふぃーふぁはーと……」

「兄さん、食べ終わってから言わないと聞き取りずらいかと…」

フィリが苦笑を浮かべて教えると、ゴクンと飲み込んで、「後でいいかなー…」とハッキリと喋った。

「俺らん中でクロルって二番目にマイペースっぽいよな」

「おや。ということは一番はやはり寝てる方と?」

だな…と眠ってるハンナに視線だけ向けてはもう一度クロルに目を移す。

それから立ったままジト目でネリルを見れば呟きをいれる。

「けどクロルってネリルみたいな典型的なドジじゃないんだよな。思い返しても」

「に! あたしもドジに入ってるの!?」

長いチュロスを手に持ったままガタリと立ち上がり、直ぐにキルの発言に食って掛かってきた。

「だってお前、いつも変な所で転んだり、たまに奉術を出すのに失敗したり、詠唱も噛んで間違ったりするじゃん」

「あぅうっ」

グサっと全て的確に言葉の針を刺されては、図星を突かれてしまった。

「そ、そんな頻繁じゃないよぅ。あたしだって魔物と戦う時はいつだって慎重に真剣で集中してるもん! …多分」

「多分かよ」

にぃ~と頭を抱えて、パッと自分の話から反らすようにクロルの話題に戻す。


「あ、でもでもあたしからするとクールはホントにクールドジだと思うの!」

「……………あ、どっちにしたってドジが入るんだね……。俺………」

「あたしが見たクールのお茶目な所は氷の床をツルっと滑ってもそのままボーッとしたまま何事もなく立って歩いてたり、ちょっとだけ弱い魔物から不意討ちで頭の横に体当たりされても無表情で痛いって言ってただけとか」

「で、その魔物を私が処理しましたね♪」

「そだったねー♪」

シュールとネリルがニッコリ笑い合えば、そんな事あったっけ?と首を傾げるクロル。

「クロルって記憶力良いのか忘れっぽいのかよくわかんねーな。機関や特殊属性や大事な事は相変わらず情報が頭に入ってて、時々スラスラ言えたりしてるけど…」

「兄さんは頭がいいですよ? 言ってないだけで一応、いくつかの国家試験の資格も取得してますから」

「はっ!? まじで!?」

バッと驚きのあまりクロルに顔を向けても、まだずっとチュロスをポリポリ食べ続けていて話を聞いてる本人。

「んー…、大分前に取ったから、今役に立てる知識かどうか…」

「実際立ってますよ! 情報機関に所属していた頃、その内部ではよく武器の修正と設計の組み立てをしたりデータ管理の処理をしていたり。そういった繊細な業務は殆ど全てミス無しでしたよ」

「ぁー…、あったねそんな事してた頃」

「はー。やっぱすげーなクロルって。そのあたり才能あるんじゃね?」

と、みんなの話を聞いていたエラも自分の長い髪をクシでとかしながら凄いなーと呟いて会話に交える。

「私の姉さんが機械やそういった類いの物に相当詳しかったけど、よくよく思い返してみればリカバリーをかけなくてもクロルさんは故障したパソコンを直ぐに直す事が出来てたな」

「構造をちょっとだけ覚えてたから…、何となく見たら直せそうだったからかな…」

「ふむ。やはりネリル嬢のドジとは全く違いますね」

「ちょ、あたしと比べないでよぅ」

うぅ~と複雑な気分で持っていたチュロスを両手で持って、ポリっと食べる。

「に、もうちょっと砂糖欲しいかも…」

物足りない糖分に味気なかったらしく呟けば、フィリが小さな器に入ったミルクを近くに置いた。

「牛乳に浸しても美味しいですよ、ここのチュロス」

「に、ありがとー王子!」

「…………………………」

ポケーっとクロルがみんなの様子を眺めては、また口へチュロスを頬張ったまま椅子にぎしりと体重を乗せ、何気なく天井を見上げる。

(特に考えた事もなかったけど…、こんな頼りないような俺でも………みんなは普段通りで変わらないなぁ………)

んー…と落とさないようにポリポリとそのまま食べて飲み込み、今朝見た夢の事を思い出した。

(実は今日見た夢の中で今みたいな光景でみんなが揃っていたけど…、その夢の中で皆からずっとドジだドジだって言われ続けたんだよねぇ…………)

天井を見上げていた顔をゆっくりと正面に戻し、机に並んで朝食を取りながら雑談しているみんなを眺める。

流石に夢だとしてもずっとメンタルな事を言われ続けたらヘコんだけど…、今聞いてみたらやっぱりみんなは俺のどこか良いところを見つけて言ってくれた…………)

ボーッとしていると、キルがクロルにもう一度目線を合わせ、表情を和らげた。

「そうそう。お前が自分の事で悩んでるんなら今みたいに聞いてやるけど、みんなクロルのドジ加減も性格も分かりきってるし、今回の事は特に考えなくてもいいと思うぜ?」

「ん…………」

「にー、クールはそのまんまがクールらしいから、あたしは気にしないよっ」

「貴女の方がドジ加減が勝ってますもんねー♪」

「そんな事ないよぅ~」

シュールから指摘されまくるネリル達のやり取りにフィリがあははと笑い、兄であるクロルにも笑みを浮かべる。



「もしも他に悩みがあれば言ってくださいね? 僕だって兄さんの弟ですから」


「……………………うん」


ぁー…………。


やっぱり俺は

みんなと会えただけでも良いなって…、思える……。


たまにはこうして自分の思ってる事も悩んでるのも話していくのも悪くないかも……………。


それが凄く、俺にとって居心地がいいから………。


「ありがとう…。みんな……」


ーendー
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