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-短編集-


う~ん…。


うーーーん……。


私はどうすればいいのだろうか…。


草原に油座りをして、エラが眉間にシワを寄せてうんうんと腕を組みながら悩んでいる。

街から街への移動中、休憩がてらにキルさん達全員で川がひいてる付近までたどり着き、その周辺には木々が点々と生えている。

まだ午後の時間なので、日は傾かないくらいに晴れているのだが、こうして一人になってみると、自分自身の欠点や苦手な事を克服する手段や対策を考えてしまい、

今でも厄介だと思っているあがり症をなおしたいと切実に思ったりしてる。

戦闘技術は心得ているのに、小さな頃から極度のあがり症だったので、こればかりは性格に関係して直ぐには克服できそうにない。

本当に、どうしたものか…。

「…エラ様…………?」

ふいに背後から声をかけられ、見ればリリーさんが心配そうな顔を私に向けていた。


「深刻な顔して考え事をしてるみたいだけど…、なにかあった…?」

「あー…、ちょっと自分自身の事を考えてて…」

やっぱり顔に出てたかぁ…。

「私で良ければ話しを聞くけど…」

「いや、対した事じゃないんだが、その…、極度のあがり症をなおすことができないかなぁと………」

「に!」

私が素直に悩みを明かせば、リリーさんの後ろからひょこっとネリルさんも顔を出して近寄ってきた。

いつからそこに居たんだろう?

「エラ姫ちゃん、そのまんまでもあたしはかぁいいと思ってるよ?」

「うっ、そんなサラッと可愛いと言われると全否定したくなるくらいに耐性がないんだ…っ」

うぐっと口を一文字にぎゅっと閉じれば、やはり相手の目も合わせられなくなり、地面に向けてしまう。

あぁ…、目の前に敵が居たら本当に弱点として利用されてしまう。

これだけは何としてでも慣れなければ…!

第一…、私は皆よりも可愛いわけないのだし…。

あ…、だめだ自分で言ってヘコんできた。


「え、エラ様…?」

「…エラ姫ちゃん?」

ズーンと沈んでいく様子に、リリーとネリルは余計に心配してしまっている。


くっ。やめやめ!

悪い方へ考えるのも私の悪い癖だ。

もっとシャキっとしなくては!

「んーと、あたしも時々あがっちゃう時があるけど、ハンナひ…、ハンナさんに聞くのはどうかな?」

「はっ、そうかハンナさんなら全くあがってる様子を見たことがないな」

思い返せばどんな事態でも臨機応変に対応していて、テンパってる所なんて一度も見たことなんてなかった。


「よ…、よし! 早速ハンナさんの所へ言って、聞いてみるよ!」

「あたしも行く~」

「…お手伝いします……」

こうして二人のお供を仲間に率いて、3人はハンナの元へ向かって行った。

「あがり症を直すだぁ?」


「いや…、いきなり眉間にシワを寄せないでほしいな…。これでも真剣に悩んでるんだから…」

今夜の夜食用にか、川のほとりで釣りをしていて、隣にはフィリさんも一緒に魚がエサに食いつくのを待っていた。




やはりハンナさんは気迫があって、ちょっと怖い所がある。


こうしてキルやシュールさん達と八人で揃ってからは、仲間としてとても頼りがいがあって慣れた方だけど、

初対面の時期は本当にビクビクしていた。


どこか押しが強いから、更に怖かった。



あと、ネリルさんはフィリさんを見つけるや否や隣でちょこんと座って泳いでる魚を眺めている。

もう自由行動って早くないだろうか…。


「んなの貴様次第だろ。俺があまりあがらないからって言われても、それってちっちぇー頃からの環境が反映されてるようなもんだし、あがらないように自分で踏ん張らなきゃこのままだろうよ」


「それはそうなんだが、やはりハンナさんのテンパらないように心がけてる事はないかと。私も死ぬ気で参考にしたいと思ってるんだ」


「いや、死ぬ気は止めておけ。貴様ときどき若くしてその人生を悟ってるような発言する時あるよな。怖ーい」


うーんと釣竿をくいくいっと動かしながら、ルアーが浮かんでいるのを真顔で眺めて話しを続けた。







「突然驚いた事があったとしても、

俺の場合「なんだ?」と思うよりも

「なにが原因だ?」って根本的な疑問に思考を促してるんだ。

そうすると何が何なのか全く分からない状態で慌てふためくよりも、

周囲や事態に集中したら驚きよりも答えの解決が瞬時に見つけやすくなって落ち着きを保てる感じだな」



「! なるほど…、それは凄く参考になるよ!」



「あー…、あとな…」



ルアーがくいくいと浮き沈みを繰り返し、キッと目を鋭くさせる。

両手で握ってる竿をギュッと強く握り締めたかと思えば一気に上へ引き上げた。



「今の状況から直ぐ予想外な事が起こるかもしれないって予想しておくのもいいぜっ!!!!」




‘バッシャアアアァァアァァンッッ!!!!’



「うわあぁぁぁぁぁぁ!!???」

「キャアアァアアァーーー!!??」


ハンナさんが引き上げたのは小さな魚ではなく、何故か巨大な魚の主でエサに食いついていた。


当然、いきなりだったので私もネリルさんも悲鳴(どちらかと言えば絶叫)をあげ、上空を舞う大きな魚の影を見上げた。


普通の釣竿ではあんな大きな魚を釣れるわけがないので、チラリと見えたハンナさんの葵光(レイチョウ)の属性で魚の体を覆っていたのが見えた。




僅か一瞬の出来事だというのに、スローモーションに思え、背後から離れた場所にドシャン!と巨大魚が落ちた。



結局わたしとネリルさんだけその場でカチーンと固まったままで、リリーさんやフィリさんの二人は慌てることもなく巨大魚を眺めていた。

「わー。凄い大きい魚が釣れましたね! これ一匹だけなら、全員分足りるかと思いますよ」

目をキラキラとさせて嬉しそうなフィリさん。

あー…、そういえばフィリさんって食欲旺盛だったなぁー…。


もう既に焼いた魚のメニューを考えてるのが分かる。


「ってな感じで、日常生活でも何かが起こるかもしれないって肝に免じておくのが教訓だ」

分かったか? と暴れないように巨大魚を葵光で固定しつつ話の続きを再開。


日常生活でもなにかしら起こるんじゃないかと気をはりつづけていたら苦行だよ……。


で、ネリルさんはあまりの驚きにずっと固まったままで、仕方なく私とリリーさんでこの場を後にして他になおす方法を探す。


「というか、何故リリーさんはさっきみたいなのも、色々と驚くようなことが起こっても平常心でいられるんだ?」

反応がいまいち薄いところがクロルさんに似てる気がして、リリーさんに思ったことをぶつけてみた。

「……………。」


真顔で私を見たあと、一旦間をあけて口を開いた。

「………なんとも思ってないから…?」

「え、ちょっと待ってなに今の間。
その部分で何を考えたのか凄く気になるのだが…」

無表情だったのがまたゾッとした。

「そんなに深く考えてはいなかったけれど…、驚く表情が少ないと言えばクロル様もかと思うけど…」

「あー。確かにな。次はクロルさんに話を聞いてみようかな」

それからリリーさんと一緒にクロルさんが居るだろうと探し回ってみたが、なぜか一向に見つからない。


この場所はセーフポイントではないが、魔物も少ないのでやられたとは考えにくいし、第一クロルさんは氷の特殊属性は手慣れている。


奉魔力も高い方だし、易々とやられはしないだろう。


「居ないなぁ。あの人」


「もしかしたら…、木の上で寝ているんじゃ…」


「いやいや、ちょっと休憩して出発するんだから、流石に今寝るって事は…―」

といいかけたところで横に生えてる木の上をふと見上げれば、枝を上手に使って寝転がっているクロルさんを発見してしまった。

「って居たよ!! 普通に!!」


ツッコミの後にクロルさんに声をかければ、う~んと眠そうに目を指で擦り、ガサッと草地にジャンプして降りてきた。

「もう出発………?」

眠気眼でボーッとしているので、あまり頭が回っていないようだ。

というか、少し寝癖が………。


「ちょっと聞きたい事があって、まだ出発ではないけどさ。

クロルさんってあまりビックリしないから、どうしてかと思って」

「唐突な疑問だね………」

んー…とぼんやりと上の空になったかと思えば、ピンっと閃いた様子を見せた。

「特になにも考えてないからかも」

「えー………」

ハンナさんとは違い、参考に出来そうにない回答だ。

「いや、流石に大事な事が起きたら何があったのかと考えるのでは…」

「あー………」

うーんとまた考えては、もう一度閃きを見せてキリっとする。


「その時にならないと分からない…!」

いや、もう貴方が分からないよ。

「うん。ありがとう。そうゆうのも覚えておくよ」

「皆に質問しに回ってるの?」

そうだなぁと曖昧な返事をかえせば、それならシュールに聞いたらいいかもと提案を持ちかけられた。

「あの人なら、冷静な判断力に優れてるから、きっと俺よりも明確な事聞けると思う」

うん。そんな気はしてた。

これパーティー全員に聞いて回る勢いかも。

そんなわけで、一旦クロルさんと分かれた後、全員が集合場所にと決めていた付近に戻った。


案の定、シュールさんとキルさんが雑談しながらミクロバックリングに入ってる品々を整理していた。

前から一緒に居ることが多いみたいだけど、腐れ縁でもなく知り合ってまだ一年も経ってないらしい二人。

詳しく聞いてはいなかったが、どんな境遇で知り合ったのか未だに謎だ。

「いや、あん時の戦闘、ぜってー後衛からの支援が必要だったかもしれねーって」

「前衛の立ち回りがおろそかになりかけてたので、敢えて様子見していましたが、やはりギリギリだった辺り危なっかしいですねぇ~」

「だったら回復してくれよ!?」

キルさん達は相変わらず言い合いみたいな会話を繰り返してるな。


「おや、エラ嬢にリリー嬢。まだ出発しませんが、もう戻って来たんですね?」

「ん? なんかエラ疲れてね?」


ギクッ。


あちこち歩き回っては色々と驚く事があって、やっぱり顔に出やすいのかな…。


「い、いやそんなに疲れてはいないよ。その…なんだ。少し悩み事を解決したくてな」


「あがり症ですか?」

「なぜ分かったんだ!!??」


エスパーかこの人は!?

ズバリと言い当てたシュールさんはにこやかで、アハハと眼鏡の縁に手をかける。

「以前からコンプレックスを感じているようだったので、言ってみただけです。ドンピシャとは思いませんでしたが」


「そ、そうか。なら話は早いな」


ちょっと心を読まれたのかと思って心臓がバクバクしてるが、まだ大丈夫な方だ。

「シュールさんみたいにあがらずに冷静な状態を保つ為には、どうすればいいんだ?」

「おや。そんなに冷静だと思われていたのなら光栄な事ですね。

しいていえば、平常心を保つ事を常日頃に心がける事でしょうか」


「平常心…」


「あがってしまうのはパニックに近いですが、それは個人差があります。

貴女の場合は確かに極度のあがり症で落ち着きが無くなってしまいますが、そうならない為にもまずは、落ち着きを取り戻す事を最優先にするべきではないかと。

自分が今の境遇でどんな状況であれ、軽く深呼吸したりして感情をやわらげるといいですよ。

そうするだけで、コンディションを取り戻せるのではないかと私は思います」

「………そうか…。なるほど…」


どうしよう。今までのアドバイスを聞いた中でとても重要で凄くまともな意見が聞けた気がする。

ちょっと感動までして泣きそう。

「わかった。ちゃんとなおるまで長くかかるかもしれないが…、それでも実行して続けてみるよ。ありがとう! シュールさん!」

「いえいえ。かげながら応援はしておきますよ」

はぁ。やっぱりシュールさんに聞けてよかった。

ハンナさんのアドバイスも良かったし、クロルさんから促されなかったらきっと迷走していたかもしれない。


それに、最初だってリリーさんやネリルさんから声をかけられなければ、こうやって回る事もなかったな…。

そう考えると今みんながいるこの空間は…、なんだか………―


「おーい。夜食用の分、フィリのミクロバックリングに整理して保管したからもうこっちは準備いいぞー」

川辺にいたハンナさんとフィリさん、ネリルさんの三人がこちらに戻って来て、後からクロルさんも合流した。

「おいクロル、貴様ガチ寝してただろ。寝癖やべぇぞ」

「う~ん…、一度起きたら覚めたんだよねぇ………」

「面白い髪だし、このまま次の街の宿屋までそのままでいるか」

ハンナさんが真顔で言えば、シュールさんがハハハと他人事の返しで会話に混ざった。

「それは構いませんが、街に入ったら極力離れて下さいね? 注目をあびるので」

爽やかに毒舌だ。

「いや、せっかく川があるんだから寝癖くらい戻してもいいんじゃね?」

キルさんは呆れてはいるが、やはり優しい言葉をかけてくれる。

戦闘でも私と共に前衛になることがメインだから、気配りがうまいから何度か助けられているんだよな。

「さてと、こちらも整理が終わったので、出発するとしましょうか」

合図とともに、フィリさんが私のところへ近寄ってきて一声かけてきた。

「エラさんも準備は大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。問題ないよフィリさん」

フィリさんは丁寧な動作で気さくに声をかけてくれる。

とても礼儀正しくて面倒見がいいから、皆と平等に接してて私にも何度か会話を持ちかけてくれていた。

こうして思い返せば、ちょっとだけ家族みたいな感じだな………。

「………………」

ホッとしてふとそんな事を思ったら、自分の意思とは関係なく涙がぶわっと溢れてしまった。

「え、エラ!?」

「エラ姫ちゃん!?」


案の定、キルさんとネリルさんが驚いていて、他の皆も何事かと不思議な顔を浮かべていた。

「ご…、ごめ…っ。色々考えてたら、
今のみんなが居るこの空間が凄く…、
居心地がいいなって思って………っ」

あぁ、だめだ。感極まって泣いてしまった。

「あはは…、やっぱり…、直ぐ感情が高ぶってしまうな…。私は」


驚くのも無理はないよな。

急に泣き始めるだなんて。


「別にいいんじゃねぇの?」

「…え」

ハンナさんが腕を組んでジッと私を見る。

何気ないように言葉を発して。


「それが貴様の弱点でもあり、良いところでもあるからな。普通なら素直に感情を全面に出しきる方が少ないしよ」

「ハンナさん…」

「ちょっとばかし謙遜し過ぎる部分があってセンチメンタルだが、自らを棚にあげてないのも天狗にならずに自分を保ってる事でもあるからな。誇りに思えよ。エラ」

「……うぐっ。うあぁぁ~、ありがとうみんなぁ~」

とっさに隣に立っていたリリーさんの肩に顔をふせ、感激のあまり余計泣いてしまった。


一通り落ち着きを取り戻す事が出来た後、私たちはこの場を後にして次の街への旅路を歩んでいった。

考える意見はそれぞれ全員違ってても、違う事もみんなで共有出来るから仲間同士のいがみ合いも全く起こらずにこの空間を保てるのだろう。


私の悩みを否定しなかったけれど、


少しずつでもいいからあがり症をなおしていけたらいいな。


みんな、ありがとう。


ーendー
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