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-短編集-


「眼鏡の弱点ってなんだろうな」


宿屋の談話室で揺り椅子に座って、ハンナがぼやっと呟きをいれる。

朝ごはんをとっていたクロルとキルが必然的に耳にするのだが、キルが無言で考えて何となく、「レンズ…?」とハンナに返してみた。

「眼鏡本体の事じゃねーよ黒ウニ。シュールの野郎の事だ」

「だから黒ウニって言うなパッキン」


「…シュールの弱点かぁ………」

眼鏡ではなくシュールと分かれば、クロルもぼんやりと今までのシュールの過去を思い出す。

「……よくよく考えてみれば、あの人の弱点って見たことも聞いたこともないね…」

「だろ! だから俺は今気になって仕方がないんだっ」

揺り椅子にガッとバランスよく立ってはクロルに向かって勢いよく指差す。

そんなハンナの状態にまたかと察したキルが、食べかけのハムエッグトーストをシャリっと食べながら軽く受けながそうと会話を続ける。

「下手に詮索しない方がいいと思うぜ? アイツ自分の事を模索されんの毛嫌うし、逆にお前が痛い目にあうかもしれねーぞ」

「そんときはそん時だ。アイツもあいつで、隙のない戦いかたするし手練れだからな。

俺とアイツで真っ向勝負となれば苦戦するかもしれないが…、んなの覚悟の上だ」

ふんっと鼻を吹かしてそっぽを向くと、また弱点はないかと思考をはじめる。

「やっぱ単純に考えて虫とかどうだキル君」

もう一度揺り椅子に座ってギシギシと揺らし、牛乳を飲んでるキルに聞いてみる。


「俺が見てた限り、アリとか毛虫とか見てもなんの反応もなかったなぁ」

「んじゃあ犬とか猫は?」

「ぜってー普通だと思う。街を歩いてる動物を見ても特に怖がってる感じもないしな」

その言葉で一瞬だけだが、もしも犬や猫に怖がるシュールを想像し、あまりの似合わなさにゾクッと寒気がしてしまった。

「んー。その辺は分かった。取り敢えず蛇を捕まえに行くか」

「いや取り敢えずの流れがどう考えてもおかしい」

揺り椅子からスタッと立ち上がると、一度腕を伸ばしてぐっと伸びをし、貴様らも来いと誘う。

「え~。やだよ面倒くさい」

当然の如くキルが真っ先に拒否した。

クロルはうーんと微妙な反応で、特に返事もしない。

「アイツの弱点が分かれば、これから嫌みもからかわれる事が無くなるかもしれないだろ?」

「いや、たぶん弱点を知ったところで俺らがアイツの弱みをそう簡単に握れるとは思えねーんだけど……」

力なく言いながらどんよりと目をそらすキルに、確かになとキッパリして頷く。

が、やはり直ぐには諦めないようで、人差し指を一本立てて話を続けた。

「いいかキル君。そん時は役に立たないかもしれねーけど、いつかどこかで役立つ時があるかもしれねーし、そうゆう知識を知らないよりかは知ってる方が後々使える時があるだろ。

あの一見なんでも出来る完璧な奴でも、必ず苦手なものがあるはずだ。

まじで完璧な人間なんて、いるはずがないんだからよ」

じっと真剣な顔で言葉を綴るハンナに、何故か不思議と説得力があるのを感じてしまい、少し気分が揺らいでしまった。

「いつもそれくらい真剣ならいいのにな」

「うっさいボケ」

‘ゴンッ’

直ぐ反応してはキルの頭をグーで殴った。

「いった!? なんで殴る!?」

「余計な一言を言ったからだ。じゃあ貴様は強制参加な」

「はっ!?」

「クロル君はどうだ?」

キルの反論する隙も与えず、くるりとクロルへ顔を向ければゆっくりとハンナに目を合わせる。

「俺も気にはなるけど…、これからフィリと一緒に出掛けなきゃならないから…」

「おっと。じゃシュールの弱点探しは俺らに任せろ」

「おい俺は行くって一言も言ってない」

「ごめんねキル…」

「止めろ! そんな哀れみな目で見んな!! なんか惨めな気分になってくるから!」

というわけで、その場からクロルにテレポートを頼み、近くの森や茂みからハンナの零力で蛇を捕まえに向かった。

道中、野生の飛天勝らしき生物がオスのゴリラと何やら闘いを挑まれているようだったが、無視して森を後にした。

「よっと」

森の入り口でドサッと蛇を捕獲した専用のケースとついでにトカゲやクワガタカブトムシ、何故か野生の兎も居たのでハンナが零力で作った柵にいれ、それらを地面に一旦置いた。

「取り敢えずゲテモノじゃないが大抵が苦手っぽそうランキングのを取っ捕まえてみた」

「兎ってランキング入らねーような…」

「うさこうは何となくノリで捕まえた。後で逃がしてやるよ」

別にいいけどさぁと半ば飽きたキルが欠伸をする。

「やっぱクロル君が居なきゃ面倒だな。テレポート出来ねーもん」

「こんな物をまた宿屋に持って行くのがそもそもヤダよ」

「そうですねぇ。ミクロバックリングにも入れたくないですよねぇ~」

自然と会話に入ってきた三人目の参加者に、うんうんとハンナとキルは頷くが、間をあけて「ん?」とその人物に集中する。

そこには対象人物となっていたシュールがこの場に立っていた。


「おはようございます。お二方♪」

「げえぇぇぇぇっ!? なんでお前がここに居んだよ!?」

ズザザザと直ぐさま後ろへ後退りすれば、顔を真っ青にするキル。

本人を目の前にしてもハンナはいつも通りで、なんだ探す手間が省けたと呟いている。



「薬剤師ですから、薬草の調達をしにこちらへ来ていたんです。丁度あなた方を見かけたので、寄ってみたら不思議な事をしているなーと」

「いやなに。貴様の苦手な物はないかキル君と探しに行ってたんだよ」


「成る程。夕飯は無しにしますね」

「サラッと笑顔で酷な事言うな」

手始めにハンナが蛇を入れた透明なケースを持ち上げて見せつけた。

「これ怖いか?」

「いいえ」

次にトカゲの尻尾を指で摘みぶらぶらと揺らし見せる。

「これは?」

「いいえ」

それから両手でクワガタとカブトムシを見せつける。

「これも?」

「はい」

「はーっ!! はいって言ったなやっと!!」
「いや、引っ掛け問題じゃねーだろ今の」

ハンナの反応に即、冷静にツッコミを入れるキルだが、アハハと他人事のように笑うシュールである。

「私の弱点を探していたのでしょうが、生憎と殆ど怖いものや苦手なものは無いので、必死に探しても時間が過ぎるだけですよ」

「ちぇ~。なんだよつまんねーの」

口を尖らせながらヒョイッと白兎を抱き上げ、腕を軽く動かして遊ぶ。

「残念でしたね。では戻りましょうか」

そう言ってくるりと反対方向へ振り向けば、また森の中から二人、誰かが歩いてきた。

「あ、皆さんおはようございます!」

フィリが森から出てきて、3人に手を振ってるのが見えた。

隣を歩いてるのはクロルで、黒い手袋をはめている手には何かを握りしめているのが見えた。

「あ? なんでクロルもこっちに居んだ」

ハンナが真っ先に眉をひそめて聞けば、近くまで来て立ち止まった。

「えーっと…、ちょっと防具に使う服の素材でシルク集めに…」

「シルクって…、こんな森にシルクなんてあるはずないだろ」

あー…とフィリもクロルも互いに微妙な反応を見せて、あはは…とフィリが苦笑いを浮かべて詳細を伝える。

「今日は防具を強化しようと僕たちが今滞在している街の防具屋に行ったら、その人がこの森に居る激レアな魔物からとれるシルクが欲しいと頼まれたんです。

突然だったので最初は断ったんですけど…」

ちょっと言いずらくなってきたのか、チラリとクロルに視線を泳がせると代わりに口を開いた。

「それを捕獲したら無料で防具を作ってくれるって交渉してくれたから、ここへ来たんだよ…」

「へぇー。んで、その魔物は見つかったのか? 激レアなら相当見つかりにくいもんだろ」

それなら見つけた…とずっと握りしめている手をスッと前に出す。

「ん? こんなに小さいのか」

キルとハンナが興味津々とのぞきこむように握ってる手を見る。

「以外とアッサリ見つけたんだよね」

「はー。さっすがラッキーブラザーズ。貴様ら二人とも運がいいよなぁー怖いくらいに」

「で、どんな魔物なんだ?」

キルが気になっていた見た目の事を質問すれば、スッと手を開いてソレを見せた。

そこには青い色をした手のひらサイズの魔物が乗っかっていて、無表情でクロルが教える。


「蜘蛛」

‘バァァァァン!!!!’

一瞬見えたはずの蜘蛛が突然黄色い閃光を放ったかと思えば、焼き付くすようにクロルの手のひらから姿を消した。


「「…………………」」


どうやら雷の属性で爆発が蜘蛛に起こったらしく、至近距離で覗き混んでいたキルとハンナの前髪が少しだけプスプスと焦げていた。

「すみません。魔物なので襲ってくるのかと思いまして」

シュールがそれをやったらしく、全員彼に注目した。

いつの間に旗を手に持っていたのか、にこやかな笑みを浮かべている。

「あ、大丈夫ですよ! 実は僕も見つけてこの捕獲箱に…-」

‘ドシャアアァァァン!!!!’

ミクロバックリングから魔物を閉じ込める捕獲箱をフィリが取り出したとたん、またもやそれを魔術で木っ端微塵にした。

流石にフィリも驚いてガクガクと顔が真っ青になってしまった。


「すみません。ちょっと手が誤ってしまったので、調子が悪いようです」

にこやかに笑ったまま魔術を発動した手をぶらぶらと振れば、キルがもしかして…と目を細めて口を開いた。


「お前 蜘蛛がきら…--」


「戻りましょうか…?

…………調子が悪いので…ね?」



にこやかな表情なのに声にドスを効かせ、体からはバチバチと静電気が起こりだした。



(あ…、これ以上言ったら殺される…)


そう悟り、全員無言でうん、といちがんになって頷き、さっさと帰るシュールから距離をおいて街に戻ったという。


ーendー
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