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-短編集-



「わぁ~。凄い雪だー…」

外の寒い中、街中をサクサクと多少積もった雪を踏みしめながら呟くクロル。

その隣では常に頭に巻いていた赤い布を首に巻いて、マフラー代わりにしているハンナがブルブルと身震いをする。


「んな寒い中よく元気でいられるなこの体力馬鹿。俺は直ぐ様宿に帰りたいわボケ」

「なんで語尾に暴言を吐くの? 流行り?」


いつもの如く、お使いへ向かう二人なのだが、今は雪は降っていない正午の時刻にも関わらず、朝方に降った雪によって、街の地面に所々塊のように敷き詰められていた。

店のまわりや街の兵士によって歩きやすいように雪をかき分けられてはいるが、地面が滑りやすくなっているので周囲の人々はゆっくりと歩行している。


で、この二人はというと、例により食材の買い出しに行く人を決めるジャンケンに負け、こんな風が少なく冷気が漂う街中を絶賛、移動中なわけである。



「あーあ。俺は寒い季節よりも暑い季節の方が好きだなー」

「そう? こっちはどっちの季節も好きだけど」

「貴様は氷の属性使えるもんな。そんなので耐性ついてんじゃねーの」

ただ思った事を口にしても、クロルはう~ん?と首を傾げるだけで特に何も言わない。

自分でも季節の好みがよく分からない感覚らしい。



「俺って葵光(レイチョウ)の力で体内を維持してるし、そうゆう環境的な属性じゃないから寒さはどうにも出来ないしな」

逆に暑ければスケボーに乗って風を感じればいいしと暴走族のような発言を付け足したが、それはふーんと軽く流したクロル。


「ハンナってミクロバックリング持ってなかったよね」

「そうだな。あればまぁ…、どうってこともないが…。便利だろうな」

「俺らは武器を収納してるからよく愛用してるけど、零力ってのも色んな意味で凄いよね。確か葵光と魔力を統合したのだっけ。

物体を別の物体に変えられるし、武器にしたり出来るうえに零力に変えて体内に保管出来るし」

「確かに便利だが、後者には限度があるぞ。そもそも葵光ってのは俺が持ってしまった力を今のホーリーアイ(聖なる瞳)の部隊に分け与えた物だ。

オリジナルである俺の力でも、完全な葵光じゃないって事だ」


はぁーっと白い息を空へ向けて吐き、マフラーを人差し指でくいっと調整する。

「ま…、他のやつらに分け与えてなければ、今頃人間でいられなかっただろうよ……」

「………………」

突然ピタリと無言で立ち止まるクロルに、先の距離で遅れて気づき振り向く。



「ん?どうした?」

「……………………」

「……………………?」


「…………は……」

「は?」

ぐらぁーっと顔を真上にしたかと思えば、ピタッと一時停止し、そのまま勢いよくクシャミをしてきた。

「ハックション!!!!」

「うげっ!? バッチィ!!」

ズザザと直ぐ様クロルから距離をおき、ズビビと赤くなった鼻をすする。
幸い、鼻水は出なかったようだが、ハンナは苦い顔をしている。



「人を目の前にしてクシャミすんじゃねーよアホ!! もし鼻水が俺に降りかかったらどうしてくれんだ雑巾!!」

「もはや人ですらなくなった…………」

雑巾の言葉にだけ反応を示し、ごめんと頭をぺこっと下げて謝る。

クロルらしいといえばクロルらしいので、はぁあーと自分の巻いてる赤い布を取っては、クロルの肩に投げるようにかける。



「寒いんなら何か巻いてこいよな。ったく世話のかかる野郎だなぁ」

肩に掛けられた布を見て、じっとハンナを見下ろす。


「……でも、ハンナが寒くなっちゃうよ?」

「いいんだよ。貴様からヨダレやら鼻水がかかるよりマシだ。それ使えよ」

寒そうに身震いしながらポケットに両手を突っ込み、また背を向けて歩きだそうとする。


「……………………」

スッと布を手に取り、離れる前にハンナの方へ距離を詰めては、そっと後ろから布を首へかける。


「………………!」

少し驚いて振り向けば、クロル自身も伸びた布を首に軽く巻いて、ふぅ……と白い息を吐く。


「こうすればお互いに暖かいでしょ…?」

さも平然と、普通に首を傾げながら言うクロル。

二人で一つの布をマフラー代わりにしている状態で、ハッとそれに気づいたハンナは直ぐ様バッと自分に巻かれた布を両手で外す。


そのままクロルの首へ一回転して巻くが、ギギギと力強く締め付ける。



「貴様…、なに許可なく恥ずかしい事してんだゴラァ…ッ」

「ぐ…、ぐるしいハンナ…っ、たんまたんま……ッ」

バシバシと締め付けるハンナの手を叩いては、あまりの苦しさに青ざめていくクロル。

パッと緩めて解放されたが、そのまま地面に横たわり息を整える。

「ったく…、ほんとに迷惑な事ばっかするよな貴様は……」

結局自分の首に布を巻いて溜め息をついたが、横たわったままのクロルがその様子を見ては素で思った事を声に出した。

「…やっぱり、ハンナが一番似合うね」


「は……?」

ずっと横たわったままで、髪にも雪がかかった状態のクロルに目を細める。


「赤い色って、一番目に届く色だから…、きっと見失わないね……」


「……………………」


しばらく間を置いて、サクサクと雪を踏みしめながらクロルの方へ歩み寄った。


「大抵貴様が気付かない事を指摘してんのに、なんで俺が気づかなかった事を逆に貴様も気づくんだろうなぁ」

その場でしゃがみ、膝に手を置いては空いた手でクロルの髪にかかった雪を払い除ける。


「そうかな……?」

「そうだよ」


自覚が無かったのもお互い様だなと心の中で思いつつも、立ち上がったクロルの額にでこぴんをくらわす。

案の定、痛い……と遅れて呟き、両手で額を抑える。



「ま、一緒に居ても何とも思わないし、これが俺らの相性なんだろ。複雑な気分だが、良い方なのかもな」

その言葉に耳を傾けていたクロルは、額をおさえていた手を下ろし、そっか……と何となくといった感じに頷いた。


「悪くなくて良かったね」

「だな。じゃなきゃ今ごろ貴様を雪だるまにして放置だろうよ」

「…………えぇ……………………」


そんな他愛ない会話をしつつ、買い出しを再開する二人だった。



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