-短編集-
中央都市であるミスティルの街。
キル達八人の団体は三日間の間この街で最近、怪しい集団が回っているということで、陛下直々に警備を頼まれた時期の事。
まだお昼にもならない朝の時間。
その時彼らは…………、
服屋に居た。
ーファッションショーー
「っつーか、この店変な服も多くね?」
そんなに広いとはいえない店内であるが、普通の服もあれば少しデザインが変わってる物もあり、アクセサリーである小物も何だか不思議な形なのも売られている。
その品々にざっと目を通したキルが何気なく口にすれば、おや、とシュールがそうですか?と何でもないように応えた。
「俗に言うコスプレというような服装は、ミスティルでもイベントがあって時々購入するそうで、何かしらコミュニティーの団体さんやグループでも年齢層が若い方から中年期の方まで買う方がいるとか」
「ふーん」
「にぃ~。やっぱりここって服が充実してるよぅ。あたしが好きなフリフリ系とかレースを使ってるのも多くてすきだなぁ~」
きゃっきゃと目を輝かせながらエラやリリーの頭にリボンをそえながら嬉しそうにはしゃぐネリル。
その横からハンナがスッとハットを手にしてはポスッとキルの頭に被せてネリルの話しに入る。
「なんならここで試着して服でも買っとくか? そろそろ着替え用の服も替え時だろ。着まわしばっかで生地もボロくなってる事だしな」
「に! いいねそれ! さんせ~い」
「なんでハットを被せた」
「いや、何となく。結構似合ってるぞキル君」
被されたハットを取れば、クロルがうーんと唸り声を発する。
「俺は特に今持ってる服でも構わないんだけど…」
「おいおいクロル君。ここで色々見た方がいいって。俺がコーディネートしてやるからさ」
「……それはちょっと不安だなぁ……」
が、ハンナはお構いなしにクロルの後ろの襟を掴んでズルズルとメンズコーナーへ引っ張って行った。
強制なのは確定らしい。
「私も替えの服を新調しようか考えていたので、丁度いいですね。しばらく見て回るとしますか」
シュールもハンナの提案に賛成で、そのままクロル達が向かったコーナーへと向かった。
キルとフィリも取り敢えずそちらへ向かおうとすると、ネリルが二人に待ってと声をかけてきた。
「試着してみたいのが多いから、出来たら変な格好に見えないか見てほしいなぁ~なんて」
両手をパンっと重ねてテヘッと首を傾げる。
お願いのポーズを見せては、ついでにエラ姫ちゃんや姫ちゃん(リリー)にも洋服を合わせてみたいからたくさん試着したいと注文を加えた。
その発言にエラがえ!?と驚いて直ぐさま拒否する。
「いやいや、その、私はいいよ見てるだけでっ」
「え、でもエラ姫ちゃん、先生がコンピューターの中に入って助けて貰った時、スッゴくかぁいい格好してて似合ってたよ?」
以前、ネリルが間違えて奉術がかかった未完成のパソコンに触り、中へ閉じ込められてしまった事があったのだが、
その際にエラがその制作者と関連があり、電子機器に強いハンナが居なかった為、代わりにシュールとエラでパソコン内部に入る事となった。
その時期は丁度エラが自らの生まれ育ったミリッツ家に戻っており、その家の次女であったが、それでも長女がこの家を空けている間戻る約束で格好もしっかりと家系に合わせていた。
少し裕福でありながら、社交界を放棄してしまったお嬢様であるエラにとっては余り滞在したくはなかったのだが、父親の容態の変化と姉の長女の留守にやむ無く屋敷へ帰る事となった時期である。
「う…、あの時は必死で……、そりゃあ、あの格好でダイブしたのもちょっと抵抗はあったけど…、う……、駄目だ。あぁ~、思いだしてしまって…」
はわわと両手で急に赤くなった頬をバッと隠し、皆に見えないように俯く。
その反応にあー…とキルがぼんやりとあさっての方向に目を向ける。
「シュールがエラに言った口説き文句としか聞こえない発言を思い出したのか。あれは素で言ってたから本人は多分、気にしてないと思うぜ?」
パソコンの世界へはキルとリリーも後からダイブしたので、その時のシュールとエラのやり取りを何となく思い出して察した。
「そ、それでもあまりあの時の事は思い出したくないんだ…」
うぅ~と今度はエラがクロルと同じように唸ってしまう。
その様子にはは…とキルとフィリは苦笑を浮かべるしかなかった。
「に、そういえば姫ちゃんはどこ?」
ずっと無言でいたリリーがいつの間にか近くに居なく、キョロキョロと店内を見渡す。
「あ、居た」
キルが直ぐに見つけたが、何やらこの店の女性店員に捕まっていて、色んなアクセサリーや服を合わせていた。
なにやってんだと思いつつ皆でリリーと店員さんの方へ向かえば、あらあらとキル達全員を見渡してにこーっと笑みを浮かべてきた。
「まぁまぁ。皆さんも本当に整った顔立ちで良いスタイルで。こちらのお嬢さまがあまりにもお人形のように可愛らしかったので、ついお声をかけてしまいました」
うふふと笑う店員の隣にはレースのリボンを頭のサイドテールにつけられたリリー。
手には元々つけていた蝶の髪飾りをしっかりとリリー本人が持っている。
「遊ばれてんなぁ。お前も」
他人事のようにキルが言えば、店員さんがおほほほとわざとらしく笑い、ネリルに顔を向ける。
「あ、ちょっと小耳に入ってたのですが、試着室でどうぞ、お気に召すまで使って下さい。私も皆さんのより良い服が見つかるのを楽しみにしておりますので」
と最もらしく服を販売する店員さんの接客スマイルに、ネリルがわーいと無邪気に喜んではありがとーとお礼を言う。
店員の方も少々ネリルと似たようにモデルを着飾るのが楽しいタイプなようで、半分楽しみにしているようだ。
と、店内の人からの了解も得たところで、結局キルとフィリはそんなファッションショーに付き合う事に。
それから何故か審査員のように合流したシュールやハンナ、クロルもネリルの企画(?)に乗り、なん着か服を見てはアクセサリーもざっと選んでリリーに着せる為に試着室へ押し込んだ。
「何を選んだんだ?」
キルが何となくネリルに聞いても、それはお楽しみにーとニッコリと笑いかけるだけだった。
数分で着替えを終えて、シャッと試着室のカーテンをスライドさせてリリーが姿を見せた。
「……ウサミミ…」
キルがボソリと呟き、どんな服かと言えば水色のエプロンロングドレスで、頭には白のウサミミカチューシャをかぶっている。
それがどこか不思議の国の…を連想させるが、リリーのピンクの髪に白のウサミミで、空色をしたエプロンドレスが何とも、自然過ぎるくらいに着こなしていたので違和感が何処かにぶっ飛んでしまっていた。
「着方と付け方はこれで合ってる…?」
確認の為にネリルに聞けば、バッチリだよぅと親指を立ててきゃーっと歓喜の声をあげて近寄る。
「かぁい~! すっごくかぁいいよ姫ちゃん! やっぱり姫ちゃんはこうゆう格好似合うと思ってたの!」
ぴょんぴょんと跳ねるようにして喜びを表現する。そんなネリルの反応にそうかな?と垂れてるウサギの耳をちょこんと指でつまむ。
顔を動かすとひょこひょこと揺れ動くので、またそれがリアルというか、どこか心をくすぐられる。
「……ま、まぁ…、似合ってるっちゃぁ…似合ってるよな…」
キルも満更でもなく、ボソリとネリルの反応に同意する。
それを無言でハンナがニヤニヤと白目で笑っていたのをキル本人は気付いていなかったが…。
「いやー、ほぼコスチュームプレイというような感じですが、これはこれで面白いですね」
「リリーだから違和感を消してる服って感じだね」
シュールとクロルはそこはかとなくコメントしては、ハンナがエラにくるっと顔を向けて声をかける。
「次、貴様が着る番だぞ」
「あ、ごめんちょっと腹痛が…」
「仮病はバレバレだ。おら行った行った」
ネリルが両手で持ってた服を取り、エラに無理やり持たせてグイっと試着室へ押し込んだ。
と、ネリルもとてとてとある服とアクセサリーを取り、空いてる試着室へ向かって行った。
「ついでにあたしも着たいのあるから、それ試着するねぇ~」
シャっとカーテンを閉めて数分後、渋々と着付けたエラとるんるん気分のネリルが皆にお披露目する。
「おや。お二人共よくお似合いですよ」
エラの服はミリッツ家で着ていた服よりも少しレースがあしらわれていたが、髪の毛が濃い緑色に合わせてか、黄緑色のパステルカラーに近い色のワンピースドレスで、膝下の丈だが上品に着こなしている。
カチューシャは元々の紫のではなく、この店にあったこれまた薄いピンク色の花と硝子が疎らにあしらわれたカチューシャをかぶっている。
「はっ。このコーディネートは俺が決めたんだ」
ハンナが鼻で笑い、良い仕事したと言わんばかりにどや顔を見せる。
「へぇ~、確かに髪の色が濃い緑色だから、こうゆうパステルカラーの色だと優しいカラーで結構花になるな」
「…とっても似合ってる……」
ハンナの反応をスルーしつつエラの格好が悪くないとキルが言い、その隣に立つリリーは先程の格好のままポーっと眺めてはうんうんと頷く。
「あ…、その格好のままなのな……」
目を細めてリリーを見下ろしては耳にぶつからないように注意する。
対するネリルはいつものフリフリなピンク色の服とは対照的に、意外にも大人しめな白と黒のクラシックなメイドドレスを着ている。
長くて緩いカーブをえがいているツインテールはそのままだが、白いメイドカチューシャをかぶり、青い硝子玉の髪飾りの代わりに長い白のリボンで止めている。
「わぁ~。ネリルさんの格好、とても似合ってますよ」
「え、えへへー。ありがとう王子」
てれっとして頬を指でかくネリルに、ハンナが思ってたのと違かったとぼやいては、
「なんだ。てっきり貴様好みのピンクでふりふりで滅茶苦茶恥ずかしいくらいにレースとリボンをふんだんに使ったドレスかと思ってたぞ俺は」
とずけずけと物申した。
「うぅ~、あたしだってこういうのも好きなんだよぅ~。
姫ちゃんみたいにナチュラルなのも、エラ姫ちゃんみたいに清楚なタイプのデザインでも何でも好きなんだから。
メイクだって色々出来ちゃうんだよ?」
「そういえばそんな特技あったな。忘れてた」
腕組みしてツーンと目を細めてネリルを見下ろす。
エラはといえば、うあぁ~と恥ずかしいと言いながらリリーの後ろに隠れるように背中に引っ付いてる。
そのリリーの隣に居たシュールに見られてるのに気づき、ハッとしてそちらへ見上げれば、ニコッとして爽やかスマイルを浮かべる。
「とてもよくお似合いですよ。エラ嬢」
「わぁ~、お願いだから誉め言葉を言わないでくれ! 私の性格知ってるだろっ」
ひぃ~っと皆の顔が見れなくなって余計リリーの背中に顔を隠す。
リリー本人はじっとしていて困るわけでもなくただ壁のように立ってるままだ。
「おや。本当の事を言ったまでですが、相変わらず恥ずかしがりやさんですね」
「あんま言い過ぎんなってシュール」
フォローを入れるようにキルがシュールに苦笑を浮かべる。
「あ、そうだハンナ…」
ふと思い出したかのようにクロルが店員さんの所へ向かい何かの衣装を手渡されながら声をかけては、
「これ、店員さんが似合いそうなのでってオススメされたんだけど、試着してみたら?」
そう言って赤い色のドレスをハンナに差し出す。
を?まぁいいぞと素直に受け取り、試着室で着替えを始める。
物の数分で着替えを終えては、普通にカーテンを開けた。
「またすげー服をチョイスしたな店員も。なんだこのドレス。着やすかったからまぁいいが…、網タイツて…」
元が赤いスポーティーな服だったのが、一気に女性らしい真っ赤なロングドレスを身につけている。
ドレスと言っても外側と内側に二枚重ねのスカートになっていて、外側の長いロングスカートが前開きで左右に分かれて内側のスカートが膝上の丈になっている。
所々アクセントとして小さなスケッチ風に長い袖の部分とスカートの裾付近にぐるりと360度赤茶色のリボンが縫われている。
首もとは同じように赤茶色のレースがついた立ち襟に、左右対象に分かれるローブタイプで胸元には細い赤茶色のリボンで巻かれた青色の硝子で出来た卵形のブローチがつけられていた。
と、着替えている最中に店員さんからまた追加で手渡されていた髪飾りをクロルが直ぐに持って来ては、はい、とハンナの金髪の髪上部の横に数秒で取り付けて離れた。
「を、なんだ」
その髪飾りはまたとてもデザインが凝っていて、ドレスと同じ色をした赤い造花の薔薇一輪から二枚重ねの茶色い布と網が垂れ下がっている。
その姿にキルが真っ先に正直なコメントをした。
「う…わ……、なんかレベル高いっつぅか……、衣装の凝ってる感が尋常じゃねぇ気がするんだけど……」
「わぁ―…、似合ってる似合ってるぅ……」
ぺちぺちと緩い拍手をするクロルと少し引き気味のキルだが、シュールに至っては、
「色が赤いので、なんだか女王様みたいですね」
とニコニコしたまま感想を述べた。
「す、すごいハンナさん。私じゃそんな過激なドレス、着こなせる気がしない……」
エラの注目点はどうやら膝下から見える薄いピンクの網タイツらしい。というかよく物の数分で網タイツをはけたなと心の中で思っていたが、せっかちで何でも早くやりたがる本人の性格を思い出しては言葉を飲み込んだ。
「にしても、女性メンツだけやたらと異様というか、不思議な雰囲気になったよな」
全員服を着替えたままなので、この光景にうーんと目を細めるキル。
その発言を聞いてもはははとシュールは笑うだけだ。
と、ざわざわと周囲から話し声のようなものが聞こえて、どんどんそれが大きくなってきたのに気づいた。
「わっ、み、皆さん周りを見て下さい」
フィリが第一に何事か気づき、キルやみんなも周りを見渡す。
見れば広くも狭くもない店内で、キル達を眺めるように街の人たちが沢山、壁際にある試着室に軸を取るように距離を置いて囲っていた。
「は!? なんだこれ!?」
驚くキルにシュールが冷静に解釈というか…、解説を始めた。
「女性陣方が服を着替えていたのを見て、どんどん増えていたんですよ。リリー嬢からは多少数人が遠目から見ていたのですが、エラ嬢やネリル嬢からは外から何人か来て、閉めにハンナさんがこれを着た事によってファッションショーが本格的に完成したようです」
「お前、気づいてたのかよ……」
平常心を保つリリーの後ろでおろおろするエラ。
ネリルは見られてる事に動揺しながらも、リリーとシュールの間に近寄ってリリーの腕を取って不安を和らげている。
ハンナはといえば全く動じずにそのままで、腕組みをして周囲からの視線を見渡す。
「じろじろガンつけんじゃねぇよ貴様ら」
そんな男勝りな言葉を呟けば、おおー!!っと何人かの男性がハンナの所へ一歩近より歓声をあげる。
その付近からは今日どこかでイベントあったっけ? 店内でコスプレかファッションショー? レベル高いなぁ―とぼやきが聞こえて余計に五月蝿くなってきた。
終いにはピンクのカチューシャに虫のような触角の硝子玉をゆらした緑色の外跳ねの髪、もとい飛天勝が何故かハンナの前に来ては目を輝かせて話しかけてきた。
興奮し過ぎて地面に転び、鼻血がうっすら垂れててもガバッと見上げてはキラキラした顔をしている。
「流石姉御だぁぁぁ!! 偶然にも城からこちらに入る所まで見ていたらこんな可憐なドレスまで着こなして、ヤバい! ヤバいぞ私の鼓動はぁぁぁぁ!!」
「貴様ストーカーしてたのか!!」
赤いヒールでゲシッと顔面を蹴り、その反動でギャフンと地面に横から倒れる。
そのままゲシゲシと蹴りを何度も繰り返す様は、もう女王様にしか見えなかった。
それを見ていた変わり者の男性もいたらしく、次俺もと言い出す輩も数名いたり、リリー達に至っては一般人から一緒に写真いいですかと迫られてる始末である。
フィリは何故か数名の女性から女物の服を薦められたり、クロルはハンナをなだめていた
「えーっと…、こんなオチってありなのかシュール……」
「はははは」
もう収拾がつかない状況に成すすべもない事にキルが隣にいるシュールに声だけで会話するが、シュールは面白そうに笑うだけだった。
ーおわり☆ー