-短編集-
ーサイエンス学園Ⅲー
~3時限目~
ー『ドキどき☆ラブレター』ー
「なんだろう、これ」
とある朝。
いつものように朝起きて、
いつも通りに先生の作るリアルな目玉焼きを食べて、
いつもと同じように制服に着替えて、
いつもみたいに登校して、
いつも通う学校に着いて、
いつものように……
下駄箱を開けてみたら、
いつも入ってる上履き以外の物があった。
ドキどき☆ラブレター
「それラブレターじゃね!?」
真っ先に話しを聞いたキルが机にバンッと手を置いて、リリーに声を張り上げる。
「ラブレターって…なに?」
「おいおい嬢ちゃん、ラブレターの言葉まで知らないのは、相当危険ゾーンだぜ?」
へらへらと笑うハンナに不思議な表情を浮かべるリリーなのだが、わなわなと震えているキルはもう、笑うどころではない。
凄い形相だ。
「キル、大丈夫?」
「大丈夫っちゃぁ、大丈夫なわけないだろ!!」
「どっちだよ」
ハンナが隣で小さくツッコミを入れる。
「こっちに来て二日目でもうラブレターだぜ!? 早すぎるだろっ」
「いやいやどうかなぁ~。ラブレターだなんて一目惚れしちまえば、直ぐに行動するタイプもいるだろ~。早いにこしたことはないって」
キルの発言にクッションを乗せるように、ソフトな言い分で解説するハンナなのだが、こうゆう話題となるとあのナンパが黙っていられない。
「ねーねー、なんの話し? なんかラブレターって聞こえたんだけど」
「あ、シャドウ。おっす」
「おはー」
「ちっす」
銀髪で猫っ毛の髪と三本立ったアホ毛。目立つ青いブレザーという身なりの壱無シャドウが、キルとハンナに挨拶を交わす。
黄色と青色のオッドアイの瞳をリリーに合わせると、ハッとして口を手で覆う。
「……な、なにこの子…っ~」
「あー。貴様、昨日学校サボってて知らないのか。転校生のリリーだ」
「はじめまして…」
ぺこっと小さく頭を下げ、サラリとストレートなピンクの髪が肩から流れる。
挨拶され、その流れた髪を手に取り、スッとリリーの右手を握り締める。
「君、とっても可愛いね。俺壱無シャドウ。宜しくね。取り敢えずメアド交換しない?」
おい。とキルとハンナが真剣な顔で口説くシャドウにツッコミを入れる。
「いいけど…、赤外線でいい?」
「うん。可愛いね」
「いや、早く交換しろよ。二回言うな」
ハンナの冷静なツッコミをした後、ガラリと教室のドアが開き、レイヤーがかかった赤茶髪のクールな人物、零裂刹那が入ってきた。
「おはよう」
「おはよ、刹那」
「おは~」
「刹那おはよ~」
直ぐに近寄り、抱き付こうとするシャドウなのだが、ひょいっと横に避けて普通にリリーの所へ近寄る。
「朝早いんだね。改めて宜しく。僕は零裂刹那」
「私はリリー・フィルネ。宜しくね」
「ちょっと二人とも、俺の事忘れないで」
避けられたシャドウが戻ってきて、また会話に入る。
「毎度毎度抱き付こうとしないでくれる? 避けるのに疲れるんだけど」
「や~、僕っこの刹那って美人だし、なんだか絡みやすいからつい抱き締めたくなるんだよね」
「キモいよその発言」
「言われてらぁ」
二人のやり取りにへらへらと面白そうに笑うハンナ。
キルはといえば、じっとリリーの机に置かれているラブレターを直視している。
「あ、でもリリーちゃんも可愛いし、何だか守ってあげたくなるなぁ~。ねね。抱き締めてもいい」
「別にいいけど…」
「何了承してんだよ」
直ぐにキルが反応してダメだとシャドウに訴えかける。
「え~、本人がいいって言ってるじゃん」
「お前そんなんだから女子に引かれるんだぞ」
「うぐっ、図星パンチキタコレ」
言葉のパンチに腹を抑えて耐えるシャドウ。その隣で確かに…と呟く刹那。
「キルはいいよね。モテて」
「は? モテてねーよ」
「実際モテてるよ。このクラスの女子なん人かが、キルの話題で花を咲かせてたよ」
「あー…、そういえば財閥系クラスで、キル君の親衛隊が出来てたね。隠れファンも他クラスに居るから、モテモテだよね。容姿がいいし、優しいし、イケメンだし。ほんと、シャドウとは大違いだよ」
「あの…、さり気なく俺を悲観するの止めてくれません?」
冷静に刹那に言う。
当のキルはというと、全く知らなかったようで、頭をかいて複雑な表情を出す。
「そうでもない気がするんだけどなぁ…」
「キルはカッコいいよ?」
話しを聞いていたリリーが、さも当然のように話しかけてきた。
「へ…?」
「だってキル、凄く整った顔立ちだし…、誰にでも心配して、優しいもの…」
「そ、それ言ったらお前もだろ。第一、誰にでも優しくなんかないし」
「そうかな?」
う~んと首を傾げるが、ふわりと笑みを浮かべる。
「でも、カッコいいよ…、キル…」
「……………」
優しい笑みに、思わず目を逸らしてしまった。
「…さ、サンキュー…」
「や~ん、リリーちゃん笑うとすっげー可愛い」
がばっと抱き付いて頭を撫で撫でするシャドウで、リリーはジッとする。
「だから、抱きつくなってシャドウ」
「良かったねキルキル。カッコいいってさ」
「キルキル言うな」
「それはいいとして、だいぶラブレターから話がそれているが、開けて読んだのか?」
ハンナが真顔でリリーに本題へ戻す。
すると、首を横に振る。
「まだ読んでいないの」
「そもそもラブレターなのかすらまだ分からないからな。嫌なイタズラだという可能性も考えられるし」
冷静に考えを述べるハンナだが、そん時はそん時で、相手をボコるとか物騒な発言をしれっと呟いた。
「開けてみるね」
ピリッと丸い金のシールをはがし、中から手紙を取りだす。
「ハートのシールじゃないのな」
またハンナが手紙についてツッコんだが、折りたたまれていた手紙を開く。
内容はやはり恋文というか、告白というか、案の定よくある貴女が好きですとそういった文章が一枚に書かれていた。
字は少し尖っていて、筆跡が男性のようだ。
「まぁ…、知ってたけどな…」
明らかなラブレターである事を認識したキルがボソリと言う。
「なになに~? 今日の放課後○時、正門で待ってます。その時に僕へ返事をお願いします…、だって!」
ひょいっとシャドウがリリーの後ろから顔を覗かせ、そのまま最後の方を読み上げる。
そうして刹那がうーんと声をもらしては、
「でも僕ら、結構情報を知っちゃったけど、この手紙を読んでも名前が表記されてないから誰からのか分からないね」
「うん…。まだ学校に来たばかりだから、みんな覚えてるわけじゃないし…、もしかしたら知らない人の可能性もあるかな…」
困った表情に変化していくリリーに、他クラスの可能性も大だなと予想するハンナ。
昨日の自己紹介といい、転校生というだけあってやはり、注目の的だったのは事実である。
「休み時間とか凄かったもんな。特に男子共が中にまでは入らなかったが、教室前の廊下で群がりっぱなしでよ。まるでゴミのようだったよな」
「ハンナ、ゴミって例えはきつくないか?」
キルが冷静にツッコミをかます。お互いこういった会話が多いのか、特に言いあいもせずに話が流れた。
文章をジット読んでいた刹那がリリーに顔を向けて口を開く。
「でも気を付けた方がいいかも。君はここに来たばかりだから、もしこれを書いた人が本当に男の人で、他のクラスの人だったとしても、
性格までは分からないから無理やり付き合えとか言い出すこともあるんじゃないかな」
考えすぎかもしれないけどねと、最後に付け加えたが、全員それには同じ気持ちを持っていたので否定的にはならなかった。
とりあえず余り他の人に教えるわけにもいかないので(誰が書いたのかすら分からない為)、放課後、
みんなは影で隠れて様子を見て、リリーは普通に指定時刻で正門へ向かう事となった。
廊下を歩きながら、キルが隣に来てなんとなくリリーに聞きたいことを聞いてみた。
「リリーは、告白を受け入れるのか?」
「………………」
それを聞いても直ぐには返事を返さず、何か考え込んでは首を横にふる。
「こっちに来て2日目だし、相手の事もよく分からないから…、断ろうと思ってる」
「そ、そっか」
それを聞いて内心ホッとしたのか、肩の力を抜く。
「でも…、相手にはなんだか悪い気もするな…」
少し寂しそうに呟く彼女の言葉に、無言になってしまう。
実際、告白を断る側からしても、平気ではいられないからリリーの気持ちが分かる。
俺も…、少し前に…………。
「お。アイツじゃないのか?」
ハンナの声にハッとして我に帰り、遠く離れている正門を見れば確かに、誰かが立っている。
見た感じ、平凡で悪くない顔で、眼鏡をかけている。
少し真面目な印象も見受けられるが、リリーに話しがあるから俺らは遠くから見守るだけしか出来ない。
「それじゃあ、行ってくるね」
「おうよ。少しでもおかしな素振り見せたら真っ先に駆けつけてやるよ」
誰よりも男勝りなハンナに、シャドウと刹那が揃ってイケメーンと呟く。
その軽いやり取りにクスりと笑い、緊張が和らいだのか、正門へと向かった。
暫く会話をしては、長くはかからず相手が一礼すれば、すんなりとその場から離れて行ってしまった。
「ありゃ。意外とあっさりだったね」
シャドウの呟きと共に、此方もリリーの方へ向かった。
「良かった…、なにも揉め事が起こらなくて」
ホッとするリリーに、全員安心する。
「ま、あれだね。リリーちゃんは遥か高い位置に存在する天使みたいな子だから、理解してくれるんだよ」
「シャドウのその発想ってある意味すげーな」
俺が冷静に指摘すれば、クスクスとまた笑いかけた。
「ありがとうみんな。私一人だけだと、ハッキリ断る事が出来なかったかも」
「いいって事よ」
とりあえずラブレターの件で騒動が起きずに解決したので、その場で下校する事になった。
翌日、キルがいつものように学校へ登校してみれば、リリーと正門の方で鉢合わせし、そのまま教室まで向かう事にした。
「あれ?ロッカーから何かはみ出してる…」
リリーの靴箱の隙間から紙きれのような物が見え、不思議に思ってパカッと開けると、
バサーっと何通もの封筒がそのまま雪崩のように地面に落ちた。
「………………………………」
呆然とするリリーに、キルはと言えばあー…と直ぐさま察してこめかみを指でかく。
「うん。まぁ…、告白を考えるのは一人だけじゃないって事だよな…」
「……………………キル…」
ボソリと名前を呼ばれてん?と目を向ければ、ガシッと両手でキルの手を取った。
「お願い…っ、手紙の内容が全部昨日と同じだったらまた協力して…!」
「えええええええ!?」
なんだなんだと周りにいた他の生徒を退けて、騒ぎに気づいたシャドウや刹那がこちらの会話へ入る。
「よーし、手伝ってやろうじゃーん」
「ほんと…、凄いねこれ」
「それな」
転校生であって三日目にしてこれだけの量なので、
後先も大変だなぁ…と溜め息がこぼれるばかりである。
「こういうのが置かれてたら毎回手伝う感じか?」
「出来れば…」
「だよな…。うん。俺でも一人じゃ心折れそうになる」
何だかんだで誰とも付き合う気がないリリーに安心するが、それを考えたら自分も対象外なんじゃないかと気づいて複雑な気持ちで断っていくのを見届けたという。
『ドキどき☆ラブレター』終了