-短編集-
「わぁー。凄いですねー」
シダンの入り口でフィリが両手を横に広げながらちょこちょこ歩く。
「イベントや専門店と、多くの店が立ち並んでいる街ですからね。毎日祭りのようで賑やかですよ」
シュールがにこやかに言うと、フィリが振り向き両手をパチンと叩く。
「久しぶりに来たんですから、皆さん今日は自由行動を取りませんか?」
「自由行動か。いいんじゃねーか?俺たちも初め来た時、全然見てまわれなかったし」
「そうですね…。私もここの専門店に多少興味がありますし、いいんじゃないですか?」
キルが街を眺めながら賛成すると、シュールもお腹部分に左手をそえたままフィリの提案に賛成する。
「あたしもその意見に賛成する~。姫ちゃんもいいよね!」
「…うん………」
ネリルを見てこくんと頷く。
「では、各自自由行動をとって、ハル嬢の宿泊所に集合するとしましょうか」
「有難うございます。皆さん」
ー天然ロリショタ☆クラッシャー!ー
「どこを見ましょう。前は兄さんと立ち寄ったんですけど、なかなかゆっくり見ることが出来なかったですから…」
きょろきょろしながら歩くフィリの隣で、キルが頭に手を組ながら空を見上げる。
「あー。そういやぁ、ここで王子に会ったとかなんとか言ってたな。アイツ」
「はい?王子って?」
キルを見上げる
「お前の隣で一緒に歩いてるヤツが言ってたんだよ」
目を細めてフィリの向かい隣にいるネリルに視線を向ける。
「ネリルさん?」
「は、はははい!?なんでしょう王子!」
ドキッとしてフィリを見上げるが、どこかぎこちないネリル。
「あ、あの、僕は王子じゃなくて、ちゃんと名前が…」
「王子は王子なの!あたしがつけるあだ名だと思って!」
「う、あ、はい!?」
何故か必死に名前を呼ばないように話しをもっていくので、気迫におされ苦笑いするフィリ。
「はぁ~……」
〈この場所であたしと王子が出会ったんだ…。あたし、あの時前をちゃんと見てなくてシューリング追っかけてぶつかっちゃったんだよね。フードがはずれて顔が見えちゃった時は本当にドキドキが…ー〉
「ネリルさん?どうかしましたか?急に上の空になってますよ?」
「今妄想モードに入ってるんじゃね?」
キルが真顔で言った途端、ネリルがハッとしてフィリの腕を掴む。
「そ、そだ!王子!ケガは!?」
「うぇえ?け、ケガって?」
突然腕を掴まれて驚くが、なんの話しをしているのか分からず聞き返す。
「あたしとぶつかった時のケガ!だいじょぶ!?何ともない!?」
「あ、もしかして、僕とネリルさんが初めて会った時の事ですか?それなら全然問題ありませんよ?」
「ほ、ほんとにホント?」
「はい。ホントに本当です」
にこっとすると、またぐっとして赤くなる。
「よ、良かったぁ…///」
「ネリルさんも怪我がなくて、僕も安心しました」
「お、王子……///」
「おーい。なんでそんな前の話しを普通に出来るんだー。痛みがあるわけないだろー(棒読み)」
キルが二人の会話を聞いてツッコミをいれる。
「にっ!キル兄はあたしと王子がぶつかった所見てないから分かんないんだよぅ」
「いや、だからって痛みの期間にも限度はあるだろ……」
反論するも、キルの一言に言いかえせなくなり、にぃ~、と唸り声をあげてしまう。
「あれ?」
前方を見たフィリが不思議そうな声をあげる。
「ん?どうした?」
「あの魔物………」
フィリが眺めている場所を見ると、ピンク色のスライムに似た物体がぷよぷよと揺れている。
「え、何だあれ」
「行ってみよ!」
「あ、おいっ」
先にネリルが走って向かい、しゃがみこんでジッと見る。
「に~。なんだろこれ」
「ん~…。何だか見覚えがあるのですが…」
「知ってんのか?」
後から歩いてくる二人も立ち止まり、小さい物体を見る。
「触れないかな?」
「えぇ~。やめとけよ。得体のしれない物体を触ると危険かもしれないぜ」
「でもでも、なんか気になるよぅ」
「う~ん」
ジッと見てると、いきなりピンク色の物体がぽよぽよとバウンドしだす。
「わわわっ」
「王子!!」
物体がフィリに向かって飛んできて、避けようとしたが遅れてしまい腕に当たってしまった。
「いたっ!」
ピンクの物体はそのまま跳ね返るように離れ、ぽよんぽよんとバウンドしながら街の奥へ逃げてしまった。
「フィリ、大丈夫か!?」
「お、王子~」
「あ…、平気です。ちょっと軽くぶつかっただけみたいなので」
ははと苦笑し、二人に心配させないように笑いかける。
「なんだよ。あの生物は」
逃げて行った物体の方向を見るが、もう姿を消していた。
「ほんと、あれって何だったのかな? 魔物?」
「どうでしょう。見覚えはあると思うんですが、どうも思い出せないんですよね…」
「へー。珍しいなフィリ。お前でも思い出せない記憶とかあるんだ」
「そりゃぁ、僕だって人間ですからそうゆうのもありますよ」
当たった腕をさすりながら、何ともないのを確認する。
「まぁ怪我がなくてよかったよ。フィリって細い体なのに俺らより頑丈だもんな」
怪力だし…とボソッと口にすれば、あははとキルに苦笑いを浮かべる。
「むぅ~、あたしは強い王子で凄くカックイイと思うよ」
ぷくーっと両頬を膨らまし、ご立腹の様子なネリルに悪かったよと目を反らして謝る。
そんな二人のやりとりにくすりと笑みをこぼせば、ふと視界に入った建物を見る。
そこは見るからにオドロオドロシイ見た目で、デかでかと建てられている看板には『ゴーストハウス』と手書きで書かれていた。
「あれは…、お化け屋敷でしょうか?」
ふと疑問を呟けばキルは聞こえたようで、あー…と細い目で合図ちをうってきた。
「だろうよ。行きたいのか?」
「いえ、ただ気になっただけなので…、それに…」
チラリと隣で立ち止まっているネリルを見れば、先ほどとうって変わって大人しく、青ざめた顔で建物を見つめていた。
「ネリルさんが怖がりますから」
やんわりと微笑すれば、だよなとキルも同意し、その場を通りすぎて他のお店を巡りに向かった。
様々なお店が立ち並ぶシダンの街を観光していたら、ふと懐かしい記憶を思いだし、ふぅ…と息をはく。
「…色々な物を見て、沢山のお店を見ていると、前に会ったゼルさんを思いだします……」
「ゼル……か」
フィリもキルも染々と会話を始めれば、あまり詳しく知らないネリルが首を傾げる。
「ゼル?」
「はい。少し前にゼルという人工ロボットとして製造された方の名です。
僕としては、友達であり、人間のような彼で認識していますけど、その方と今みたいにこうして出歩いていたんです」
ほえーと人工ロボットが想像出来ないのか、曖昧な声を発するネリル。
その様子に小さく笑いかければ、ぼんやりと青い空を見上げる。
「………………」
少しの間だけそうしていれば、ふぅ…と息をついてニコッと笑いかける。
キルから見ていたら、少しだけ寂しく感じたんじゃないかと思い、なんとなく別の話題を持ち出してみた。
「そうだ。ここらで何か旨い物でも買って食べるか?」
「に! そういえばお昼まだだったし、見て選ぼ!」
ぴょんぴょんとジャンプしてキルの意見に賛成するネリル。
はい、とフィリも同意してその場から歩き始める。
と、どこからともなくポーンとサッカーボールが飛んできて、おやっと思えば足元にコロコロと転がって止まった。
「お兄さーん。それ俺たちのだからごめんだけど軽く蹴って飛ばしてー」
少し離れた所から声が聞こえて見れば、お店が立ち並んでいない場所に遊技場のような小さな空間に何人か人が居る。
殆どが高学年の年代でサッカーを遊んでいたらしく、手を振ってるのが見えた。
「あ、はい。蹴るのはあまり得意じゃないので、手で投げますねー!」
右手にそのまま構えれば、軽くそちらへブンっと振って投げた。
…が、投げたボールは物凄い速さの豪速球で飛び、学生達の横スレスレを掠めてドンっと音が鳴り響いた。
後ろの木に当たっては、ミシミシと音が鳴ると、
ズドンッと幹が横に折れて倒れてしまった。
「「………………………………」」
シン…と静寂が起こり、誰もが青ざめて無言になる。
サッカーボールは無事なものの、形が変形してラグビーボールのように変わってしまっていた。
「………………………………」
「………………いや…、……………え?」
キルがまず第一声に声を出したが、訳がわからないような顔でフィリに向ける。
彼はといえばやはり青ざめていて、ポカーンとしていた。
そしてようやく口を開くが、その声はワナワナと震え声になってしまっている。
「…………すみ……ません…。
…あの、軽く投げたつもりなんですけど…、なんであんなにスピードが出たのか僕自身でも…」
そんな彼の状態に相手側がハッと意識を取り戻し、慌ててフィリに応えた。
「い、いやいいよわざとじゃないらしいし、そっちにボールが飛んだ俺らの非でもあるからさ。な、なぁ?」
友人たちに声をかければ、コクコクと頷く。
というよりも、あまりに衝撃的な事が起こったので未だについていけてない様子である。
結果的には許してもらえたが、場の空気がなんともいえず、その場を後にするも落ち込んだ状態のフィリは肩を落としてトボトボと歩いてゆく。
「うぅ…、最近は力加減がしっかりとコントロール出来ていたと思っていたのに…」
「いや、まぁ…あの腕力の強さは久しぶりに見たけどさ…、なんつーか、珍しいよな。フィリがあれだけ加減を失敗するのも」
うーんと目をあさっての方向にずらしつつ微妙なフォローを入れるキルなのだが、それでもトボトボと歩いてるので、
相当落ち込んでいるのが伝わった。
「王子! あたしはさっきの凄いと思ったよ!
あんなに速く投げれるなんて、出来ないもん!」
「うぅ~……」
「ネリル、頼むから今は何も言わないでくれ」
余計に居たたまれなくなるフィリなのだが、いつまでも引きずっていてはいけないと感じたらしく、シャキっと背筋を伸ばしては自らの頬をパンパンと軽く叩く。
「落ち込み続けても僕らしくないですね。次こそ加減を間違えないようにします」
「そうだな」
正直、木を潰す程の力なんて普通は無いけど、今それを言ったら余計な事になりそうだから言わないでおく。
「あ、王子。パン屋さんがあるからあそこ入ろ!」
そう指差す方向を見れば、確かにパン屋さんが建っている。
お昼はパンでもいいかもしれないと全員思い、そちらへ向かう事にした。
「にしても久しぶりにパンを食べるな。長持ちしないから、こういう時にしか食えないから」
「はい。パンも好きなので、せっかくなので他の皆さん用にいくつか買っておきましょうか」
キルに言いながらドアノブをひねる。
バキッ。
「………………………………」
何やら鈍い音がして、普通にドアノブごと、パン屋のドアも外れてしまっていた。
「ちょっ、お、お客さま!?」
流石に中で接客をしていた店員さんが慌てて此方へ駆け寄ってはアワアワと慌てふためくフィリに声をかける。
「ごごご、ごめんなさい!? ドアを開ける為に少し捻って引いただけなのですが…、何故かドアごとっ」
そう言うなり元の位置にドアを置くも、木造のドアを両手で握りしめた場所がバキャっと音をたて、縦に真っ二つに割れてしまった。
「…………えっ」
唖然とするフィリに店員さんや他の客も絶句してしまい、またもや沈黙して静かな空間が出来てしまった。
「フィ……、フィリ………?」
何とか冷静を保つキルがフィリを呼んでも、まだ思考停止しているらしく、固まったままである。
「あ…、えーっと…………」
放心状態のフィリから店員に向き直り、バッと頭を下げて謝る。
「すみません! 必ず今日中に直しますから…!!」
直ぐに特殊石の力でクロルへ連絡し、こちらへ来てもらった。
「……凄いねこの壊しかた………」
真っ二つに割れたドアを見てボソリと呟くクロル。
一応リカバリーをかけて直ぐにドアを以前の状態に戻し、何とか弁償もせずに設置して許してもらえた。
「悪い、ここまで足を運んでもらって」
「いいよ。どうせこの街に居るんだし、近くに居たから……」
それより…とお店の隅っこで山座りをして背中を向けているフィリを見れば、どんよりと落ち込んでいる姿に何事かと疑問を持つ。
「いつからこんなに力を制御出来なくなったの?」
「に、確かサッカーをしてた人たちにボールを返す時にだったよ」
ネリルの発言を聞いても、うーんと微妙な声をもらし、また別の質問を投げ掛けてみた。
「じゃあ、その時かそれ以前に何か変わった事が起こったとかない?」
その質問に真っ先に思い浮かんだ事は、何やら見たこともない生物にフィリがぶつかった事だった。
その時の事をキルが説明すると、クロルがもしかしたら……と何か心当たりがあったらしく、緑色のピアスを通じてシュールとコンタクトをとりはじめた。
ここではお店の迷惑になるので、落ち込み続けているフィリを無理やり連れ出し、全員噴水広場へ集合した。
「パワーラメントという魔物ですよ」
顔を会わすなりサラリと爽やかに発言するシュール。
説明も何も全てを真っ先にぶっ飛ばしてこの言葉である。
「そっか……、やっぱり」
クロルは納得していて、思っていた通りの返答に普通の反応を返した。
だが、シュールとクロル以外、全員が知らない魔物の名前だったので、もう少し説明を加えた。
「パワーラメントという生物は、状態効果を触れた物に与える少し珍しい魔物の種類です。
皆さんが知らないのも無理も無いでしょう。
私もこの目で見たことがないのですから」
「え、じゃあなんで知ってんだ?」
「キルはご存知の通り、コルティックの街では知識を覚える量や情報量が他よりも高いでしょう?
私の自宅に様々な本棚があるように、魔物に関する知識も図書館の図鑑等でいくつも頭に取り入れてるからです」
あー…成る程と納得した。
両腕を組んでうんうんと頷いて聞いていたハンナが、閃いたと人差し指を立てて話を進める。
「ってーと、その魔物の名前から察するに、今のフィリ君は魔物からの体当たりと同時に力が増幅する状態効果を受け、元々の力を制御出来なくなってるってわけか」
なんともありがた迷惑な魔物だなと呟けば、クスクスとシュールは苦笑を浮かべ、本来はそうでもないですよと魔物に変わって弁解の意を唱える。
「珍しい魔物であるが為に、私たちのように外で戦闘を繰り返す側からすればありがたい魔物なんですよ。エンジリック兵士の上官だって、この魔物を時と場合に捕まえては合理的に戦闘へ連れて行く程ですからね」
「に…、先生。王子はこのままずっと制御出来なくなったままなの?」
心底、心配しながら見上げるネリルにニコッと笑みを見せては、いいえと応える。
「そこまで影響力の強い魔物でもないので、この状態効果にかかったとしても一時的です。
きっと今は元の状態に戻っていると思いますよ」
それを影ながら聞いていたフィリが山座りのままえ、と顔を上げる。
「ほ、本当ですかシュールさん」
「ええ。試しにキルが愛用している牛乳パックを軽く握ってみて下さい」
すっといつの間に忍ばせていたのか、小さな牛乳パックをフィリに差し出すシュールにおい、と声をどす黒く出すキル。
「なに人の物で試そうとしてんだテメー」
「ほら、仲間を信じる事も大切ですよ」
最もな言い方だが、実際は綺麗に言いくるめているだけでやろうとしているのは残酷である。
「も…、もし戻っていなければ確実に牛乳が無駄になってしまいますよね…」
うぅ…と葛藤するフィリだが、覚悟を決めてゆっくりと牛乳パックに手を伸ばす。
だが慎重な行動とは裏腹に、意外にもあっさりと牛乳パックを普通に持てた。
「……あ」
ホッとして安心すると同時に、ネリルがブワッと泣き出して王子ー!と抱きついてきた。
「わわ、ネリルさん!」
「よかったぁ~! なおってて良かったよぅ~!」
「は、はい。僕も嬉しいです!」
てへへとネリルを支えて微笑みかければ、相手はハッとしてボッと真っ赤な顔に変わる。
「ご、ごごごごめん王子!!
嬉しくってつい…~っ!」
「い…いえ……。………………うっ」
あわあわと慌てて離れようとすれば、フィリもブワッと泣き出して、逆にネリルをギュッと抱きしめてしまう。
その行動が予想外で、びっくりしてカチーンと固まってしまった。
「ほ…、本当に…良かったです…っ」
「…は…わわわ…………」
そんな二人が微笑ましく見えて全員小さく笑いかけ、ふとクロルがぼんやりと話しはじめた。
「俺らが小さい頃にも、パワーラメントって魔物に会った事があったんだよね…」
「ん? そうなのか?」
きょとんとしてクロルを見れば、コクンとゆっくりとした動作で頷く。
「大分小さかったから、多分フィリも覚えて無かったんだと思う」
「ふーん。そっか」
「何にしても、何ともなくて安心した…」
そう呟くように短く言うクロルにキルは笑みを浮かべて、
この日のクラッシャー騒動は幕を閉じたのだった。
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