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-短編集-


ーーーそれは…、ある一人の人物の言葉がキッカケだった…。


「あ~あ。なーんか最近暇で暇でしょうがねーなおい」


ハンナがギシギシと自分が座ってる椅子を鳴らし、だらけながら天井を見上げポツリと呟く。



「最近ねぇ…。いつもそれ言ってるよな。つか毎日言ってる気がする」


キルが眉をひそめてハンナの発言にいちいちツッコミをいれる。




「おい貴様ら!“サイエンス学園七不思議”を解明するぞ!」


『ええぇぇぇェェェっ!?』

















ーサイエンス学園Ⅱー
~2時限目~

特別授業!
ー『解明!サイエンス学園七不思議』ー


「待てまて待てまて!! 今の流れでなんでいきなりその話しに着くんだよ!?」

黒板消しを握り締めたままハンナが座ってる方を振り向く。


「いや。だって暇だし。なんか暇だし?」


「思いつきかよ」



「あの…今居るメンバーで行くってわけでは…ないですよね…?」


鞄に道具を詰め込んで帰り支度を行っているフィリがハンナにおずおずと聞くと、ぐっと親指を立ててはにかむ。


「おうよ。当然拒否権は無しだぜ!」


「うぜえなその顔」



毒舌をはくキルをスルーして立ち上がり、机に突っ伏して眠っているクロルの頭をパシンと叩き起こす。


「いた」

叩かれた箇所を押さえつけのっそりと起き上がり胸倉を掴まれ顔を近づける。


「当然貴様もやるよなぁ?」


「…ぇ…、なにを?」


「しらばっくれてんじゃねーよカス! 貴様には最初っから拒否権なんてもんはないんだよナマケモノ!」


バンバンと机を叩きつけ連打するハンナにキルが若干ブチギレる。


「るっせぇっ!! 教室内でデカい音出すな! あと声もでけーんだよアホ!」


「こういう時だからこそデカい音を出すんだよキル君。俺の長所はなぁ。小さい事を気にしない事なんだ。覚えとけ!」


「履歴書に書けるようなやつだから尚更腹立つ…~っ」


「んー…、べつにいいけど、暇だし」

何も聞かされていないのにあっさり頷くクロル。


「ってーと、やっぱ怖がりとか何人かいて欲しいから…」


ゆっくりとフィリに目を向ける。


「…え、えっと…、あの…僕がいると色々と迷惑じゃ…」


「いいや。全然」


「ほら、握力が強いんでいざという時に何か破壊しちゃったり…」

「いざという時に破壊して欲しい」


「う…っ、あ、あの、悲鳴とか大きくて…」


「ばっちこい」


「…ぁ……はい……」


「……押されたな…フィリ」


隣に立ってドンよりとするフィリにキルが一言かける。



「あとはぁ…」


きょろきょろと誰かを探すように見渡し、教室を出ようとしていたネリルを見てぎくっと肩を上げられる。

「あ…えと、あたしそろそろ帰るからその、じゃあねみんな!」

「フィリもいくのに貴様は帰るのか?」

「あぅ…、あたし用事があるから…」


「フィリもネリルが居た方がいいと思うよな?」

「え?」

ハンナがフィリに顔を向けるがきょとんと首を傾げる。


「な?」

「あ、どちらかと言えば…はい」

「ほらな」


「フィリ…、また押されてるぞ…」


キルが隣で静かに言うがネリルがあわあわと迷い、う~う~唸っている。



「お、王子が言うなら…」


「よっしゃあ決まり! もう後には引けねーからな!!」

「にぃ~!?」


無理やり決めて腰に手を置く。


「いやぁ~、結構みんな行きたがってくれて良かったわ」

「全部強制だけどな」


「キル君。あんま言っちゃうといつか締めるぞ」


「………冷静…」


冷静に一言言うので、別の恐怖を感じて押し黙る。



「後は…」


「あの……」


すっと小さい声が教室に響き渡った。



「七不思議って…、なに…?」


声のする方を見ると、リリーが困ったような表情を浮かべていた。



「あー、リリーは確か知らないんだったな」


ハンナがリリーに気づいて腕を組む。


七不思議ってのは…と説明しようとすると、別の声がキルの後ろから聞こえてきた。


「今…あなたの後ろにいるよ…」


全員キルの後ろを見ると、ほうきを持ったスティマが背後に立っているのに気づき、キルはビクッと肩を上げてバッと振り向き後ろに引く。

「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」

「や、みんな」


ピシッと軽く手を上げてみんなに合図をする。



「お前いつからそこに居たんだよ!? ビビっただろ!!」

「面白い話しをしてたんで何となく」

金色の瞳で小さくほんのりと笑いかける。


「なんだスティマじゃねーか。掃除終わったのか」


「うん。エラさんの方も廊下のほうき終わったから、僕も一緒に戻ってきたんだ」

そう言われ、遅れてエラも入って来た。


「おつー、二人とも」

「ありがとう。もう教室閉めるのか?」


エラがほうきをロッカーに入れながらハンナに聞くと、首を横に振り、


「今日の夜、七不思議を解明するって話しをしていたんだ」


「七不思議って…、この学園の?」

「ん」


「僕達にも話しを聞かせてもらえないかな?」

ほうきを戻し、黒い毛先の白髪を軽くとかしながらみんなの方へ向かう。


「…ぇっと……、スティマ君…だっけ?」


リリーが曖昧そうに尋ねると、こちらの方を見て笑いかける。



「うん。宜しくねリリーさん」


小さくほんわかと笑みを見せる。


「…なんか、フィリとは違う癒やしがあるよな。スティマって」

キルが真顔で喋ると、リリーがこちらを見る。


「ぁ…それで、学園七不思議って…」


「あー、それか。中学や小学校の七不思議って聞いた事ないか?」

「ぇっと…?」

「階段が一段増えてたり、夜中に音楽室からピアノがなったりとか」


「……………」


眉をひそめ、首を傾げる。



「まじで知らねーんだ…」

「ほらキル君、リリーはお姫様育ちなんだから仕方ねーよ」


両手を肩まで上げてやれやれとキルに溜め息をつく。


「その人を見下してるような態度は治ってくんねーかなぁ」


「無理だろうな」


無理らしい。

「えっと、学園七不思議っていうのは、要するに幽霊のような怪談話が学校で七つ起こる現象なんです」


スティマがう~んと考えながらリリーに簡略して説明をする。



「それってどんなのがあるの?」


「この学園だと、『教室の少女』、『トイレの紫』、『コバト伝書』、『合わせ鏡』、『美術室の音楽』、『ドッペルゲンガー』、『プールの七番目』の七つです」


「沢山ある…」


聞いていたリリーが数えるように指を曲げ、クロルが人差し指を立てて会話に入る。


「でもこれって…、全部ガセって聞いたけど…?」

「え? そうなの?」

「あのなぁクロル君。七不思議なんて一般常識人なら信じる奴信じない奴のふたパターンで分かれるもんなんだよ。俺は夜に残った事がないから何ともいえないが、実証してこその価値はあると思うな」


ハンナの言い分に全員が納得する。


「確かに、このままただの嘘ならガッカリだし、ガセネタだと私も何だか嫌な気分だな…」


机にもたれかかるエラに続き、ネリルも机に身を縮ませて声を震わせる。


「あ…ぁ、あたしは…ガセなら嬉しい、かなぁ…」


「因みに何だけど、まさか俺も行くメンバーに入ってるとか?」

キルが自分を指さすと、こくんと頷く。


「っていうか、この教室に居る奴みんなだけどな」

「え!?」


エラが声をもらす。


「むりむり無理無理! 私はムリ! そんな怖いし得体の知れない事に関わりたくないぞ!」


両手を顔の前に出してブンブンと横に振る。


「エラもネリルと同様に怖がりだったな。というか一番の怖がりって…」

「うあぁぁぁ!! 違う! 私はビビりなだけだぁ!」


「いや、自らチキン宣言してるし」


「なんにせよ、スティマ君も行くが、拒否権は?」


「無いです」


「ちょっ」


即答するスティマにスルーされたエラが顔を青ざめる。



「あー…」

みんなの様子を眺めていたキルが目を細め、ハンナに確認を取る。



「何時に学校に忍び込むんだ?」


「やだキル君。俺何も言ってないのに忍び込むとか」

「なにコイツ消えて欲しい」


手を口元におさえ、冗談だよと呟き下に下ろす。

「無難に10時、正門前に集合したらいいだろ」


「それまで自宅に戻っていいの?」


「まぁ。っても、夜厳しい奴もいるよなぁ…」


ハンナがリリーやフィリを見る。


「あ、僕は今日出掛けると言ってるので大丈夫です」

「いぇい」


「フィリ…、用事がないって言っとけば行かなくて済んだんじゃねーか…?」

キルがこそっと汗を流して教えると、ハッと気づきうなだれる。

「ぅ~…」



「リリーはどうだ?」

「私は…」

俯いて押し黙る。


「別にリリーには強制しないが、無理なら無理だと言ってもいいんだぞ」


「…でも……」

グッと何かを決意したようで顔を上げる。


「行く…! 私もみんなと」


「ぇ、でもリリー、シュールセンコーの家に住んでるし」


「約束があるから大丈夫だと思う。一度帰宅して話してみる」


「そ、そっか」


「あのよ、リリーお嬢ちゃんは携帯持ってるか?」

ハンナが腕を組んで聞くと、ポケットから白い携帯を取り出す。


「持ってるけど…」


「全員と連絡取れるように今で交換しとかね?」


「あ、それいいな」

全員携帯を取り、それぞれが赤外線やメールでアドレスを交換送信を行う。



「よし。全員アドレス行き渡ったな。んじゃ今日の夜10時、また正門前で。じゃぁな」


鞄を持って手を振り教室を出ていく。それに続けてみんなも教室を出て行き、キルも鍵を持ち鞄を肩に下げて出て行こうとすると、まだ残っていたリリーが名前を呼びかける。


「キル…」

「ん?」

振り向いて顔を見ると、ぎょっとする。

何故か凄く寂しそうな表情をして見ていたからだ。


「ど、どうしたよんな顔して」


「…あの……ちょっとだけ…、私の家まで来てくれないかな…」


「……ー!?」

いきなり凄い事を言われどきっと肩を上げて一歩後ろに下がる。


「な、は? な、何で」


「………その…」


言いにくそうに目を逸らし、ほんのりと頬を赤く染める。

動作もどこかぎこちなく、自分の手をこすり考えるように黙っているので、意識が高まってしまった。

(な…なんだこれ。 誘ってるんじゃ…ないよな? ってか最近来たやつで特にきっかけとか特別な事なんてなかったのに…、まさか…ー)


「キル…!」


パシッと両手を手に取られジッと目を見る。


「な…なに…」

ドキドキしながらリリーを見下ろすと、意外な事を言われた。


「傍に居てくれるだけでいいの…。お願い…!」


ボカーンッッ!


リリーの発言に顔を真っ赤にさせ、頭から煙りが吹き出し固まってしまった。



「……ぉ……ぉ…う…」


口が回らずそれだけ返すと、ほっとしたようで手を離し照れた表情で笑いかける。



「…ありがとう……」


鞄を両手で持ち、先に廊下を出ると、ハッと気づいて教室を出て鍵をかける。



「……………」

何も言えず黙々と無言のまま職員室で鍵を返し、正門に出る。



「良かった…、一人だと心細かったから…」

学園を見上げてそう呟き、歩き出す。そんな彼女の言葉にまた顔を赤くしてついて行くキルだが、歩き方がギクシャクしている。


「………キル?」


「な、なな、何だ…!?」

「大丈夫…? 顔が赤いけど…」


「ゆ、夕日のせいだろきっとっ!?」

無理やりな言い方に不思議そうに首を傾げるリリー。




「……夕日…下校…か…」


ゆっくりと歩きながら夕日でオレンジ色に染まる空を見上げる。


「………こういうのも…いいな…」


「え?」

立ち止まって空を眺めるリリーに、キルも立ち止まり横顔を見る。



「…私…、いざという時になると何も言えなくなるの…。今日の学園七不思議を調べる為の事も…、自分で言うべき筈なのに…」


ゆっくりと見上げた顔を地面に向ける。


「でも…誰かが傍に居てくれるだけでも…力になるから…」


すっとキルに顔を向けると、困った表情を見せる。



「誰かを誘いたくて言おうとしたんだけど、皆直ぐに帰って…。……ごめんね…? シュール先生には私がちゃんと全部言うから、もし行くのが駄目だったらみんなに伝えてね」


「…お、おぅ……」


そっか。先生に話すからか。


………ってそれって…

《結局誰でも良かったのか…っー!?》


ズガーンとショックを受けると小さく力なく笑う。

「は…はは……。………泣けるぜ…」


「え…?」


「や、何でも…」


相当ショックを受けたらしく、目を逸らす。


(期待した俺って…)


若干恥ずかしくなって地面に顔を伏せ歩き出す。


それに続いてリリーも歩き出し自宅まで向かった。



リリーの家、もといシュール先生の家はアパートで、それなりに良さそうなアパートらしい。

高い建物を見上げ、ふと頭に浮かんだ言葉をぼそっと口に出す。


「そういや先生の家には初めて来るな…」

「そうなの?」


「まぁ…。なかなかセンコーの家とかには行かないしな」


「そうなんだ…」



軽く流して階段を登るリリーにキルも後からついて行く。


「そうゆうの生返事って言うんだぞ」

「そう…?」


「因みに何階まで上がるんだ?」


「二階。エレベーターを使わなくてもいい高さだから、いつも階段で上がってる…」

「なる程…」


結構高いもんな、このアパート。


階段を登り、204号室のドアに立ち止まる。


「ここが先生の部屋」

「思ったんだけど、今センコーは帰って来てんのか?」


キルが問いかけるとこくんと頷く。



「私達が帰るの遅かったし、今日は特に何もないから」

「そっか」


「じゃあ私、話しを通してくるね」


ガチャリとドアノブに手をかけてひねり、中に入って行った。


「大丈夫かな…あいつ」


多少の心配をしつつも、廊下で待っておく。と、階段から足音が聞こえてきて、誰かが上がってくる気配がしてそちらを見る。


「………げっ!?」


上がって来た人物を見て表情を歪める。


「……おや?」

それはシュール先生であり、スーパーの帰りなのか、マイバックらしき袋を持っていてキルに気づき、目の前で立ち止まる。


「キルじゃないですか。何故私のアパートの前に?」


「先生こそ何で、帰ってるんじゃなかったのかよ」


「私は今日の夕飯の為、買い出しに向かっていたんです。私の住んでる場所、教えた事ありましたっけ?」


「いや…その……」


目を逸らすと、ガチャリと中からドアが開き、リリーが出て来た。


「ごめん、今はまだ帰って来てないみたい…」


キルに教えるが視線が別の方を見ていて辿って見ると、シュール先生に気づく。

「………………」


全員黙り込み、妙な間が空くがシュール先生が口元を緩めて微笑を浮かべる。


「ほぅ……」



ようやく動き出し、玄関に入りつつキル達に中へ招き入れる。


「いいですよ。何か話しがあるなら入っても」


「……………」

キルとリリーが互いに見合わせ、妙な気分で頷き中に入る。


「失礼しまーす…」


「どうぞ。椅子に座って構いませんから」


恐る恐る中に上がり込むと、机と椅子がありそこに座る。


「お茶でも飲みます?」

「あ、ども」


学校と違って緊張してしまっている。リリーも、悩んだ末、向かいの椅子に座る。



「……………」



コポコポとお茶を入れる音が室内に響き、お互い、無言が続く。



「………………」


(お…、重てぇー…)


ダラダラと変な汗を流し俯く。


(何だこれ。何でこんな事になってんだ? まさかと思うけど先生、俺らが付き合ってるからとか勘違いしてないよな…。そうだとしたら今の状況ってすげー気まずい…)


リリーの方をちらっと見ると、先生の方を見たり目を逸らしたりして話すタイミングを伺っている。
だがなかなか切り出せないらしく、俯いてしまう。


(~…あぁ~、仕方ねぇ。当たって砕けろ!)


ガタッと立ち上がりお茶を入れているシュール先生を見て話を切り出す。


「先生! 今日の10時から肝試しあるんだけど、リリーも連れていいか!」

いきなり話しをするキルを、リリーが驚いて見上げる。

シュール先生は相変わらず微笑を浮かべたまま振り返る。



「リリーさんは行きたがってるんですか?」


「あ、おう…まぁな」


「理由は何でしょう?」


リリーに顔を向けるので、キルも見る。

少し不安そうな表情を見せるが、ちゃんとシュール先生に目を合わせこう応えた。


「…思い出を…作りたいから…」


「いいですよ」


「そっか…いいのか…。…ってえ!?」


聞き間違いかと思ってシュール先生を見るがにこっとする。

「思い出作りなら仕方ありません。学生は勉強する場であって、交流も含め学びますからね。見逃してあげますよ」

「そ、そんな緩い事言っていいのかよ」

「リリーさんもどうしても行きたそうな様子でしたし、無理やり止めるわけにもいかないじゃないですか~」

「……………」

あっさりと承知してくれた先生に、また互いに顔を見合わせるキルとリリー。


「まぁ注意点を言えばですが、余り騒がず他の先生や夜間管理人に見つからないように。それから何か壊さないように努力して下さいね。なんせ、あなた方全員、特別な力を持っている生徒ですから」


「ど、努力してみる…」


物凄く笑みを浮かべるので若干後ろに引く。

と、入れたお茶をキルに差し出す。


「今なら丁度飲める熱さでしょう。どうぞ」


「お。サンキュー先生」


お茶を一口で飲み干し、机に置くと身支度を始める。


「じゃぁ俺帰るな」


「ぁ…、キル…」

リリーが目の前に来てペコッとお辞儀をする。


「来てくれてありがとう…」

「別にいいって。俺もスッキリしたし」


「真に心配なのはアナタの方なんですけどね」

先生がニヤニヤと言うと口を歪めて玄関を出る。


「なんで俺を心配するんだよ。じゃあまた学園でなリリー」

「うん…」


手を振って見送り、バタンとドアが閉まる。


ふと小さな声でシュール先生が呟くように話しをしてきた。



「…キルが暴走しかける事がないよう…、見張っておいて下さいね…、リリーさん…」

「え…?」


先生を見上げるとニコッとするだけで夕飯の準備を始める。


「……………」


(どういう事なんだろう…)


疑問に思うが、特別な力に関係すると思い、一緒に夕飯の支度を始める。

ー午後10時
 サイエンス学園正門前ー




「よーっし、全員集まってるかー」


「にぃ~、待ってよぅ~!!」


ネリルがバタバタと遅れて到着した。



「これで全員だな」


「ハンナさん」

スティマがすっと手を上げてハンナに質問をする。


「どの七不思議からいくんですか?」


「言うと思ったぜ。これを見ろ」


一枚の紙を見せ七不思議の題が隠れて七本の直線が描かれている。



「下に数字をかいて、自由に縦線を書きあみだくじにする。そしたら順番が完成するって寸法だ」


「おー。ハンナにしてはよく考えてんじゃん」

「余計な言葉はいつか身を滅ぼすぞキル君。みんなこれに線と数字を書きやがれ」


半ば強制的に全員が従い適当に記入する。


「んじゃ始めるぞ。ジャジャン」




線を全て辿った結果、以下の通りになった。





1、『教室の少女』
2、『合わせ鏡』
3、『プールの七番目』
4、『美術室の音楽』
5、『トイレの紫』
6、『コバト伝書』
7、『ドッペルゲンガー』





「ふ~ん。まぁまぁな組み合わせじゃねーの?」

「だな。そんじゃ野郎共、夜の学園に忍び込むぞ」


「その言い方止めろ」





という訳で全員、正門の隠し通路から中に入り、ハンナがまず入る前に荷物チェックを始めた。


「とりま全員何か持ってきたか? 別に手ぶらでもいいが」


「に~。あたしお菓子持ってきたー」


そう言って小さいリュックサックを見せる。


「ネリルお前…、マジで遠足気分だな…」


肩を落とし呆れるが、キルの話しを聞いても笑ってごまかす。


「他には何かあるか? 武器でもいいぞ」

「武器って…」


エラがガシャンと音を鳴らし、何かと全員注目すると、鎖や手錠、作業用の鎌を出していた。



「ほ、ほら、もし幽霊が来たら少しでも役に立つかなぁ…と思って…」



青ざめた表情で武器をジャラジャラ見せつけるので、皆ゾッとする。


「エ、エラ…。お前今顔がギリギリだぞ…」

「怖くないとも!」


どう見ても顔をひきつらせ、入る前からビビっている。

「他には何かあるか?」


「あの、ハンナさん」

「なんだスティマ」


「ハンナさんは霊が見えるのは百も承知何ですけど、本当に全員が危険な状態になりそうになったらどうするんですか?」

「まぁ…………」


上を見て考え、


「そん時は逃げれば勝ちだろ」


「おいハンナ。今仕返しをイメージしなかったか」

「それはないぜキル君」


話しが落ち着いたところでようやくクロルが何かをみんなに見せてきた。

「…特にこれといったのは持ってなかったけど、懐中電灯ならあるよ…」


「に! クール気が効くね」

「いいもん持ってんじゃん。やっぱ懐中電灯は必須だな」

「じゃあもう入るか?」


「あぁ。まずは『教室の少女』からだ」



各々が覚悟を決め、中に入っていった。
まず始めは靴箱がずらりと並んでいる場所であり、クロルがフィリに懐中電灯を渡す。


「良かった…。明かり無しだと凄く恐怖感がありますから、懐中電灯で照らせば…ー」


カチっと懐中電灯で前の廊下を照らすが光の影響で奥が見え、周りが全く見えない。






「逆に怖いです!!」

力強く叫んで青ざめる。





「いや、確かにそうだけど…」

キルが靴を履き替える為、ギィ、と開ける。


「いやぁあぁぁぁっ~|||」

今度はネリルが音に反応し、エラがサッと鎖を構える。

「な、なんだ!?来るなら来いっ|||」


「うるせぇよまだ何も出てない内に騒ぐな!!」

「……………|||」


ネリルの悲鳴でピキっと固まるフィリに、ハンナがやれやれと溜め息をつく。


「これじゃあ先が思いやられるな」


「…………」


きょろきょろと周りを見渡しているリリーの様子に気づいたキルが近寄って呼びかける。


「リリー、怖かったら無理しなくてもいいからな? あいつらいつもあんなんだし」

「………大丈夫。怖いのがよく分からないから…」

「え…?」


なにその返し。
こっちが分からない。


「キル」

「ん?」

「『教室の少女』って…、どんな事が起こる不思議なのかな」

「ぁー、俺はあんまり七不思議の事詳しくないから、ハンナに聞いた方が…」

「『教室の少女』というのは、“さっちゃん”が関係しているみたいです」

「へ? っう、わあぁぁぁ!!」

リリーとキルの間にいつの間にかスティマが人差し指を立てて立っていた。


「お前いつの間に…っ」

「さっちゃん?」

それは…と聞こうとしたが、顔を廊下へ向ける。


「歩きながら話そ。みんな先に向かってるから」

二人とも廊下を見ると、確かに全員の歩いてる後ろ姿が微弱な懐中電灯の光りで見えた。


「そうだな」

みんなを見失わないように直ぐに歩き出し、先程の話しをスティマが穏やかな表情のまま続ける。











「さっちゃんっていうのは知ってますか?」



「知ってるけど、あの歌とかに出るさっちゃんだよな」

「私も知ってる」


「そのさっちゃんが、教室に出るんですよ」


「ってーと、あれか。さっちゃんってのはやっぱ幽霊って説があんのか」

「幽霊…?」

どういう事なのか理解していないリリーに、スティマが詳しく教える。

「リリーさんは、さっちゃんの歌を全て知ってますか?」

「…あまり…、一番くらいしか…」

「さっちゃんの歌、歌詞が何番もあるんですけど、実話を元にしてる歌詞があるんです」

「うわ、まてまてスティマ。こうゆう時に実話とか止めろって寒くなってくる」

自分の肩を握って身震いするキルだが、リリーが聞きたそうな表情をしているので、話を続ける。



「全部の歌詞は流石に教室まで間に合わないんで、途中から。

五番目の歌詞なんだけど、さっちゃんが引っ越した後の歌詞かな。

サッちゃんはね 線路で足をなくしたよ
 だから お前の 足を もらいに行くんだよ
 今夜だよ サッちゃん

さっちゃんはね、恨んでいるんだホントはね 
 だって押されたからみんなとさよなら、悔しいね
 あいつらだ さっちゃん」


「うぁぁぁ~っまじ止めろよそうゆうの。歌わなくていいから!」

「キル、この歌知ってた?」

「知ってたけど、俺結構前に聞いたから正確に覚えてなかったんだよ。踏切は覚えてたけどさぁ」


「七番目はさっちゃんが仲間がほしく、八番目は生きてる子に対して羨ましんでる。九番目は死んだ日って歌詞があるから一年が経ってる。

で十番目では歌をあの世で一緒に歌おうと生きてる子に対して言ってるから、その子は連れて行かれたって事かな」


「じゃあ、この歌詞が本当って事なの?」

「実話の踏切事件がちゃんとあったから、この歌がその踏切事件を元にしたか不明かな。でも近いんだよね」

「は? 実話って、踏切事件があったのか?」

キルが歩きながらスティマに聞くと、こくんと頷く。



「まぁ本名なんかはネットで探せば見つかると思うんですけど、僕もちゃんと覚えてるわけじゃないから…、確か14才の子だったかな。
踏切を渡ろうとしたら雪で線路のみぞがかくれていたみぞにはまって、足をくじいたんだって。

逃げようとしたけど、電車に引かれて身体の胴のあたりでまっぷたつになったらしい」

「うぁぁぁぁぁ~!!」

前を歩いていたエラがちょうど話しが聞こえていたらしく、叫び声を上げて振り向く。



「なななな、なんだそのグロい話しは聞いてないぞ!?」

「そりゃさっちゃんの実話だから聞いたことないと思う」

スティマが冷静に応えると、リリーが無表情で続きを促す。


「続きは…?」

「お前…、よく平気でいられるな…」


「冬の時期だったから、寒さで血管が一時的に固まってて、即死はせずに数分、苦しみながら生きてたんだけどね。
彼女は死ぬ寸前まで自分の下半身を探して苦しんで息を引き取ったんだって」

「ほほぉ~う。それだったら僕なら即死を選択するなぁ~」

キルの肩に手を置き、キュピーンと眼鏡を光らし話しに入るケイ。



「ぎゃあぁぁぁ!?いきなり入ってくんなよビビるじゃねーか!」

「なに~? 僕が知らない間に君ら学校に忍び込んでる事に不信感抱いてるんだけど」


「え、えっと…」

リリーが誰なのか分からないようでキルに目を向ける。


「あー、この人学校の生徒会長でさ。この学園の取締もしてるから、出入り自由なんだよ」


「ようケイ。俺ら今学園七不思議を解明してんだよ」

ハンナがケイに一言で説明すると、ふんふんと分かったように真顔で頷く。


「それだと、今その七不思議のポイントに向かってるってわけか。ま。安心しなよ。先生には言わないからさ」

「当然だろ」

「のかわりに~、僕も動向してもいい?」

「は? 貴様生徒会室で仕事してんだろ?」

「あったっちゃあったけど、たまには息抜きしたいなーと思って。最近シャドウや刹那さんが来ないから退屈でしょうがないんだよね~」


「あー、あの二人、最近忙しそうだからな」

「………確か、同じクラスの零裂刹那と、壱無シャドウ…君だっけ…」

「お。姫っち覚えがいいなぁ~」

ハンナがリリーを見てケイに視線を移す。



「まぁ人数が多い方がいいし、生徒会長が一緒ならセンコーに見つかっても言い訳効くしな」

「やった。決まりだね」

「…………」


全員廊下を歩く姿を見て、リリーがぼんやりとする。





「ん? どうしたリリー」

「……こんなに大勢で学校を歩いたの、初めてだから…」

「あー…、俺からすれば日常茶飯事で、いっつもこうゆう暇潰しな事につき合わされてんだよなぁ~」

やれやれと息をはき、一緒に歩くと、ふいにリリーがくすりと笑う。


「…本当に、友達の意識が強いんだね…。みんな…」

「は…?」

「じゃなきゃ、キルやみんなを誘って、こうゆう暇潰し、しないもの」


「た、確かに…」

そんな事、考えた事なかった。



「キル…」

「ん?」

「…友達になってくれて有り難う。

……大好きだよ…」


「はっ、え、あぁ…//」


笑顔で自然に口にするリリーに、また顔を赤らめてしまった。


(い、いや落ち着け俺! 今のは友達として好きって言ってたよな)


ふぅっと深呼吸をして気持ちを落ち着かせるキルに、スティマが後ろからぼそりと話しかける。



「キルさん。あの様子だと自分からアタックする見込みあります」

「はぁ!?」


「頑張って下さい。応援してますから」


スタスタと前を歩いて行ったスティマの背中を呆然と見つめる。



「…い、いや好きとかまだ俺…」

下を向いて自分に問いかけるように考えていると、リリーが話しかけてきた。



「キル?」

「はい!?」

リリーの声に驚き過ぎて敬語で返事してしまった。


「…その…、みんなどこに行ったのかな…?」

「え?」


前を見ると、真っ暗な廊下が続いており、先程まで前を歩いていたみんなの姿が見えなくなっていた。

「やっべぇ!」

慌てて前へ走るが、どこにも見当たらずに懐中電灯の光さえも見当たらない。


「おいみんな! どこにいるんだ!」

呼びかけながら理科室に入り、リリーが準備室の方に入って探す。


「…居ない」

「おいリリー、居ないか? もしかしたらはぐれた可能性が…」

「じゃあ他の場所に…」


キルも入って直ぐ入り口の横に誰かが居るのかと思い、そこに近寄る。



「…あの」

近くまで来て見ると、人体模型で、暗い室内でとっさに驚き足を踏み外してしまった。


「きゃっ」

「リリー!?」

理科の実験に使う教材や銅板が詰まったダンボール、その他もろもろが棚と一緒に崩れ落ちる。


とっさの判断でキルがリリーの手を引いて引き寄せ、助ける。



「うぁっと」

壁に背中を打ち、リリーを支えて二人共座った形になる。

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