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ー後戻り不可能ー


キル、シュール、ネリルと、白猫の三人と一匹はその後何事もなくシダンという街にたどり着いた。

「あぁ~、ここがシダンか」

キルが街を見渡す。

「あたしここで王子に会ったんだ~」

ネリルが後ろに手を組んで話しかける。

「は?王子ぃ?」

キルが目を細めてネリルを見る。

「そういえば、先ほど黒いコートを着ていた背の低い男性にそう言っていましたね」

「に」

コクンと頷く。

「お前なぁ・・・、名前で言わないのかよ?」

「に?なんで?」

「なんでって・・・」

「王子は王子なの!」

「つまり名前・・・ではなく、愛称を変える気は全くないと」

「に」

即頷く。

「即答だな!!」

「何故王子なのですか?」

「あたしの王子様だから」

「のってお前限定かよ」

「ま。いいんじゃないですか?愛称があるのはそれだけ親しまれている事ですから」

「そういうもんなのか?」

「はい」

「………納得いかね…」
「ねねね、ここに着いたのはいいんだけど、どうするの?」

「とりあえず…、ぶらついとくか」

「いいでしょう」

「そんなのんきでいいの!?君たち」

「いや、なんかとくにやることねーし…」

「こちらの街は確か、限定食品は勿論、ここだけの専門店が数多く立ち並んでいるんですよね」

「え?そうだったか?」

「そうなの?」

二人ともシュールを見る。

「キル~、ネリル嬢はわからなくて仕方ないとして、あなたはこの前すごーく前にシダンについて話しましたよね?」

「あ、いや、そうだったかも…」

冷や汗をかき、ふと視線をはずすと、ある店の前に街の住人が沢山集まっているのに気付く。

「なんだぁ?あれ」

「なにかの専門店のようですね」

「行ってみよ!!」

ネリルが興味津々でキルとシュールの腕を引っ張って、人だかりの方へ向かう。

「引っ張んなって」

「おやおや」

だが人が沢山いて、更に身長が足りなく前が見えないネリル。


「に~…、見~え~な~い~」

一生懸命見ようと頑張って背伸びをする。

「俺らは余裕で見えるぜ?お前身長ちっこいなー」

「背が小さいのはまだ子供なんだもんもん!」

「もんもんって…」

白猫はシュールの足下で座っている。

「どうやら一人の男性にみんな集まっているようですね」

シュールが人だかりの奥を眺める。

「お。なんかトランプ使ってるな」

「手品?」

ネリルが顔を上げて聞く。

「マジックじゃないですか?」

「別にどっちでもいいだろ…」

「に~。あたしも見たい~。先生抱っこして~」

「謹んで遠慮します♪」

満面の笑みで即答するシュール。

「に~……………。じゃぁ…………」

ウズウズし、キルをジッと見る。

「…………?…なんだよ?」


「………抱っこ♪」

両手をキルに向ける。

「はぁ?何で俺がお前を抱っこしないといけねーんだよ」

「だってだって~、見えないんだもん!」

「嫌だ。だったら自分一人で前にいけ」

「う~。じゃあ無理やり!」

ピョンっとジャンプしてキルの背中に乗る。

「重っ…!勝手に乗るな!?」

「あ。これ触角?」

キルのツンツン髪を二カ所握るが、足をそのまま背中にたらしているので髪を後ろに引っ張るような形になる。

「いでででで!!いって!!いてーってのっ!!早く肩に足乗せろ!」

だっこではなく肩ぐるまを自然と許可してしまってるキル。

「んしょ…」

一応肩に足を乗せて、髪の触角を両手で掴んだまま座る。


「なかなか滑稽な姿ですよキル」

面白そうな表情でニヤニヤ笑いかけるシュール。

「俺は子守役か?」

「に!!ホントに本当だ!トランプが浮いてる!」
「あ?」

キルとシュールも店の前にいる男性へと視線を移す。




〈ー…さて……、今宵は皆様に素敵な幻想マジックをお見せ致しましょう〉


見たところ、年齢が若く二十代ぐらいに見える男性が立っている。肩にかかる程度の黒髪を後ろだけすいた男性が、複数のトランプを自分のまわりでクロスさせるように無限に回転させてる。


「すげ。どうやってるんだ?あれ」


「あれはおそらく奉マジックでしょうね」

「に?なにそれ?」

「この前話した通り、奉術には気奉体、液奉体、固奉体と三つの性質に変化出来ると言いましたよね?」


「お!じゃあアレって気奉体を使ってトランプを浮かせているんだな?」

キルが理解したように男を見る。


「………???」


分からない表情をするネリル。


〈…………ん…?〉


男がふと、話してる三人に視線を移し、少しニヤっと微笑する。


「つまり、奉術を気奉体に変え、人の目に見えない物質でトランプを上に押し上げ、浮いてるように見せかけているという事です」

「ご名答…ー」

シュールが説明した後、男がその場で両手を軽く上げると、トランプも上空にクロスさせながら上がり、一つの大きな丸い球体を作り上げた。

続けて人差し指と親指をパチンと鳴らす。


「ん?」

キルが上空を見る。


トランプが複数の黒い球体に姿を変え、ゆっくりと地面に向かって降り注ぐ


「………わぁ…」

ネリルがキルの肩から降り、黒い光りの球体を眺める。


「next(ネクスト)……ー」


もう一度指をパチンと鳴らすと、黒い球体が全てはじけ、中から黒い羽根がヒラヒラと舞い落ちる。それと同時に観客からは壮大な拍手が送られた。


「……………」

男が微笑しながら観客に目もくれず、三人の方へゆっくり近づいて来る。
左目に黒のモノクル(片眼鏡)をかけ、服装はタキシードに似た藍色の服。下は長ズボンを着ている。身長がシュールと同じ位で、スマートなりによく着こなしている。

顔だちはといえば他の一般男性と比べものにならないくらいに整っている。もし笑顔を向ければ多くの女性は見惚れてしまうだろう。



「…よくタネが分かったね」

距離をおいてキルとシュールに話しかける。


「私達も奉術を扱えるのでね」

シュールが冷静に微笑しながら会話をする。


「ほぉ……。…おっと」

舞落ちてる黒い羽根を一つ片手でパッと掴み、ネリルの方へ歩み寄る。

「可愛いお嬢さんにプレゼントだよ」


「に?」


ネリルが見上げると、にこっと微笑を浮かべて羽根を差し出していた。

「あっりがとー!」

無邪気に笑い、両手で羽根を受け取る。


「なんだコイツ…」

キルが目を細める。

「おっと。君たちには何もないけどね」

「別に何も欲しくありませんから。キザなモノクルさん」

ニコニコしてシュールが答える。


「……言ってくれるねぇー……」

眉をピクッと上げて、シュールを見る。

〈きゃあぁ~!〉


突然、人だかりを払いのけ、数十人の女性がこちらへ走って来た。

「おっと、俺はここで失礼させてもらうよ」

指をパチンと鳴らすと、地面から黒い煙が現れ、男を覆い隠す。

「あ!待てや!」

「おやおや」

「に!?」

少しずつ煙りがはれると、男はもう姿を消していた。


「な、何だったんだよ結局…」

キルがそう言った途端、さっきの女性の集団がキル達の目の前で立ち止まった。

よく見ると、全員白と銀色の制服のような服装をしてる。



「あぁ~もう!いなくなっちゃったじゃないですか~!」

キル達から見て前にいる三人の内の右、ワインレッド色のロングヘアーで、丸眼鏡をかけた女性が慌て口調で言う。


「全く…、でも、こうゆうところがハイド様らしくていいですね…」

左にいる青のボブカットヘアーの女が冷静に言う。

「あら…、アナタ方は?」

最後に真ん中にいる金髪のロングカールを前肩にたらしてる女が三人を見る。

「お前ら誰だよ」

キルが聞く。


「な!私達の制服を見ても分からないのですか~!?」

ワインレッドの髪の女がのんびり口調で目を見開く。

「わたくし達はミスティルという街の聖堂院、“ダイヤモンド女学院”の生徒ですわ」

金髪の女性が自分の髪のカールを人差し指でクルクル回しながら説明する。

「ダイヤモンド女学院ですか。確か…、七大学院の内に入ってる聖堂院ですね?」

シュールが詳しく聞くがネリルは首を傾げる。

「七……大?」


「よくご存知で。とはいえ、常識でしょうね」

青い髪の女が淡々と話す。

「お前らなんでそんな遠いとこからこっちに来てんだよ!?」

「お、お前!?アナタレディーに対して失礼ですわよ!?」


「レディーって…」


「ところで、ハイド様とは…、先ほどの藍色のタキシードに似た服を着ていた人物の事ですか?」
「そうですわ!ミル!この方達にご説明を!」


「は~い!ハルお嬢様」

ワインレッド色の髪をしたミルという女が一歩前に出て、大袈裟に右手を自分の胸にあて、左手を肩まで上げて説明しだす。

「ハイド様という方は、私達ダイヤモンド女学院も含め、七大学院全ての理事、つまり、理事長を務めている偉大な方なんですよ~」

体勢と似つかわしくないおっとり口調で説明するミル。

「理事長?」

キルが眉をひそめる。

「普通の理事を務めていませんよ~?七大学院ではたった二人しか理事になれないんです~」

「に!?二人!?」

ネリルが驚く。

「リン。続きを」

青い髪をしたリンという名前の女が今度は前に乗り出す。

「ハイド様は最高機関の組織、“ダーク・アイ(闇の瞳)”の一員なので、七大学院の理事長となられたのです」


「七つの聖堂院をたった二人で…。しかもダーク・アイの組織の一員………、ですか……」

シュールが眼鏡の中央に手をかける。


「説明はこれぐらいで宜しいでしょう。というよりも、わたくし達もハイド様についてはこれ位しか知りませんから」

金髪のハルが両手を上げて顔の横でパンパンと二回叩く。


リンとミルが合図を聞いたように一歩後ろに下がる。

「わたくし達はハイド様の絶対的なファンで、ちょうどここへは学院の遠足で来ただけですわ」

「え、遠足ぅ!?ここまで!?」

「そうですわ。高級車で来ましたので、退屈でしたわ」

「遠足じゃねーだろそれ!?」

「最近学院にいないと思ったら…、まさかこちらでハイド様を見かけるなんて思いもよりませんでしたわよ…」

ギリっと親指を噛む。

「アナタ方の遠足の方が思いもよりませんよ」

シュールがニコニコする。

「まぁ、いいですわ。アナタ方、ハイド様はどちらへ行かれましたの?」

ハルが三人に聞く。


「知らねーよ」

キルが真顔で応える。


「知らない?目の前にいたではありませんか!正直に仰り下さい!ツンツン!」

キルを指さす。

「ツっ!?あぁ?なんでツンツンなんだよコラァ!」

ギロっと睨むと、女性陣全員たじろう。

「キ~ル~。女性を脅してるように見えますよ~」

シュールが棒読みで話しかける。

「はぁ?だってよぉ…」

「ハイド様という方ならあちらに行かれましたよ」

普通の大通りの方へクイッと顔を軽く振る。


「そうなんですの!?ほら皆様!他の女学院に遅れをとってしまいますわ!行きましょう!」


ハルが後ろにいる女学生に声を出し、全員煙りを出してシュールが教えた道を走って行ってしまった。



「遠足というよりも、只の追っかけだな…」

「元気な方達ですねぇー」

「あたしついていけないよぅ~」

ネリルが正直に呟く。


(お前が言うか………)

キルが気づかれないようにネリルを見る。

「それより、本当にそこ行ったのか?シュール」

視線をシュールに向けて質問する。


「はったりに決まってるじゃないですかぁ~。あのままだと長く言い合いになるかと思いましたので」


「だと思った……」


目を横に瞑り、汗をかいて呆れるキル。

会話が終わったと判断したのか、白猫が立ち上がり背伸びをして体を伸ばす。


「なんかこの白猫ちゃん、先生に似てるね」

ネリルがシュールと白猫を見る。

「おや。どこが似ていますか?」

「にー…。雰囲気とか…」


「目つきとか」

キルも隣から喋る。

「目つきねぇ~…」


猫を見ながら呟くシュール。


(…王子……、だいじょぶかな…)

猫を見てシェアルの森での事を思い出したのか、フィリの事を心配するネリル。


「成り行きとはいえ、せっかくこの街にたどり着いたんです。失礼ですが、この街の図書館へ向かっても宜しいですか?」

「は?なんでだよ」

キルが問いだす。


「キルー。忘れた訳ではないですよね~?」


シュールがニヤニヤして顔に黒い影を宿す。

「あ…。わ、忘れてねーって!」

若干焦り、すぐに言い返す。

「忘れていたりしたら投薬地獄の刑に称しますから」

満面の笑みを浮かべる。

「…ぅ…………」


顔をひきつらせるキル。

「に?何の事?」


ネリルが分からない表情をする。


「あ………」

気づいたようにネリルを見て、シュールに顔を向ける。


「なぁシュール。一応聞いてみた方がいいよな?」


「………そうですねぇ…」

眼鏡の縁に手を一端かけ、答える。

「に?」

キョトンとして二人を見てる。

「なぁ、ネリル。お前街の人とか植物が止まったのを見た事あるか?」


「ま…ち…?」

人差し指を頬にあて首を傾げる。


「ビデオで一時停止した感じに人や物がそのまま止まってるとか」


「……………に…?」

反対側に首を傾げる。


「じゃ、じゃぁよ。水が止まってるとかは…ー」
「………んー………」

少し考える素振りを見せるように目線を上に向け、キルを見る。


「全く全然ない♪」

キッパリと答えた。


「…………やっぱりか…」

腕組みして横を向き、声を静める。


「に?なに何?」


「いえー。ネリル嬢が気にする事ではありませんから」

「んに~。き~に~な~るぅ~」

「どうせ言っても信じねーだろ」

「信じるよ!……多分…」

最後の言葉だけ自信なさげに言う。

「多分かよ…」


「それで、行きますか?」

話しを無理やり強制終了させ、キルも合わせる。

「しょうがねーなぁ。おいネリル。図書館に行くぞ」

「に…、気になるぅ…」

ぶつぶつ言うも、ふいに閃いたように表情を明るくする。

キルが歩き出そうとすると、待ってと呼び止める。

「は?何だよまだ何かあんのか?」

「にひ~」

両手を前に出す。

「おんぶ♪」


「…………………」

ピシッと凍りつくキル。

「………いい加減にしろよテメー…」


「だってだって~。歩くの疲れたんだもん~」

手足をジタバタ動かす。

「こんぐらいで疲れるか!自力で歩け!」

「いいんじゃないですか?おんぶしちゃっても」

横からシュールが了承する。



「に!先生も同じ意見だよキル兄。だからおんぶして?」


「だから俺は…っー!」

「ほら。お願いします♪」

シュールがネリルの両脇を掴み、キルの背中に無理やり乗せる。


「軽っ!」

「先程は重いと言ってましたよね?」

「どうでもいいだろそれ…」

ネリルの腕を掴み、肩に足を乗せるようにする。


「にひ~。否定しないって事はいいんだね~」

「あ」

自然と承知してしまってるキル。


「じゃ。図書館までお願~い」

触覚(?)を左手で掴み、右の人差し指を前方の図書館に向けるネリル。

「…………クソ…」


「頑張って下さいね子守役さん」


「人事だなお前……」

ハァっと溜め息をつき、図書館までネリルを肩ぐるまして向かった。

「で?コイツはどうするよ?」


図書館の中に入り、肩に乗せてるネリルを親指で指差す。


「そこら辺に置いてていいでしょう」

「それもそうだな」

腰を下ろし、ネリルを降ろす。

「ちょっと君たち!あたしは物ではないのだよ!?」

「さっきまでは物だっただろ」

「酷い!あたしも人間なのに!酷くなくなくない!?」

「だからその言葉止めろって!言語変換が意味分かんなくなるんだよ!」
「お二人共~。図書館では静かにしましょうねー」

シュールが本棚にそのまま顔を向け、本を選びながら注意する。


『…………あ…』


まわりを見ると、図書館内にいる人達が迷惑そうにキルとネリルを見てる。

『……………はーい…』


揃って返事をする。

「さてと、なんか手掛かりねーかなぁー…」


キルが広い図書館内を歩きながら独り言を呟く。

(……そういやぁ…、あのシェアルのとこで会ったコートの奴ら…、…前会った奴と別人なのか…?)

本を探さずにふと立ち止まり、シェアルロードの泉で会った二人を思い出す。

(身長が高いのと低いのは一致してたけど…、口調が全く違かったし……。まてよ?んじゃあ、最初に洋館の方で会った奴も別人なのか…?)


そんな疑問を考えていると、後ろからネリルが抱きついてきた。

「キールにっ!」

「うぉわっ!?」

顔だけ後ろを向け、ネリルを見る。

「ヒマ暇だったからついて来ちゃった~」

「暇って、シュールは?」

「あっちで物凄いスピードで本とか資料を見て調べてたよ?」

「………あぁ~…。そっか…」

汗をかき、曖昧に返事をする。

「は?だからってなんで俺んとこ来んだよ?」

「先生が暇でしたらキルと遊んで構いませんよって言ってたからぁー」

「あんの野郎…」

若干冷めたようにキレつつ、ま、いっかと溜め息をつく。

「俺あんま勉強とか進んでやる方じゃねーし。んで?どうするよ?」

「んーとー…。奉術で遊びたい!」

「ハァ?奉術ぅ?っつか、奉術は遊ぶもんじゃねーんだけど」


「だってだってー。キル兄や先生だけ扱えるなんてズルいよぅ~。あたしも未知な術とか使いたいし」

キルの右腕を掴みブラブラと振る。


「やめろ!あのなぁ、奉術なんてのは誰でも扱えるようになるけど、結構難しいもんなんだぜ?」

「に?どして?」

手を離し見上げる。

「どうしてって…、まずお前の場合、魔術すらまともに扱えてねーだろ」

「失礼な!あたしだって魔術くらい扱えるよ君!?」

「じゃあ今やってみろよ!」

「分かっ…ー」

ネリルが言いかけると、館内にいた図書員の男性が二人に注意してきた。

「お二人共、図書館内ではもう少しお静かにできませんでしょうか?」

「あ。…すいません」

「…ごめんなさい」

二人共謝り、顔を見合わせる。

「…………外で話すか?」


「…に……」

コクンと頷き、二人共図書館の外に出る。

「おいシュールー。俺らちょっくら外出るわ」

扉に手をかけながら、背を向けて机で調べ続けてるシュールに伝える。

「お気をつけてー」

背を向けたまま左手を振り、すぐにまた調べ作業に取りかかる。

「よっと」

扉を開け、二人共外に出てすぐ近くの人が少ない広場まで向かった。


「ほら。魔術使ってみ?」

キルがネリルから少し離れる。


「に!」


頷くが、突っ立ってるだけのネリル。



「…………何やってんだ…?」


「キル兄…」


「あ?」

「……マイク…、無くしちゃった…」


泣きそうな表情をする。


「ハアァ!?マイク無くしたぁ!?どこにだよ!?」


「分かんないよぅ~。今さっき気付いたんだもん~」


うぇ~んと泣き出し、キルに抱きつく。


「ぎゃぁ~!くっつくなバカ!?」

肩を上げ腕や体中から鳥肌をたたせる。


「どうしよキル兄~」

「とりあえず離れろっ!」


ネリルの頭を掴み、引きはがそうとする。


「にぃ~…。分かったよぅ」

しぶしぶ離れると、いきなりキルとネリルの間からさっきの白いコートの男がぬっと出てきて叫びだしてきた(顔は相変わらずフードで隠して見えない)。


「俺は見たぁ!!」

「うおっ!?」

「にっ!?」


ビクッとして二人共後ずさりして男を見る。


「見たぞぉー?お二人が人気のない場所のここでイチャイチャしちゃってるのをー」

「イチャついてねーよ!?」


「あ。君はさっき会った人」

ネリルがキョトンとして見上げる。


「いやぁー。お若い人はいいなー。俺も若くなりてーよ。っつってもこれでも若い方なんだけどなー」

うんうんと頷きながら二人の肩に手を置きポンポン叩く。


「図々しいなお前」

キルが肩を下げて苦い表情を見せる。


「誉めてんの?ありがとなー。おそうだ。ネーリル♪」


「に?な~に?」

〈これ。この兄ちゃんに投げてみそ〉

右手をネリルの耳にあてて耳打ちした後、小さな薬サイズの赤い玉を渡す。


「に。分かったぁ。キル兄ー」


「あ?」

「に!」


「ぶっ!」

玉を顔面に投げると、もろ鼻に当たりはじけ、液体のようになってトマトの匂いがする。


「………………」

二人を黙って見るキル。


「イッエーイ!見事命中したなネリルちゃーん♪」

「イエーイ♪」

ネリルと男が意気揚々として片手のひらをパンと一度叩きあう。


「……テメーら………」

怒鳴ろうとした瞬間、男の後頭部目掛けて青いスケボーに乗った白いコートの女が思いっきり当てる。

「うらぁ」

「ごふぅゥ!!」

ガンっと鈍い音を出して地面に倒れる男。

スケボーの下端を踏み縦に上げて地面に降り立つ女。

「おら貴様。何またちょっかい出してんだゴラァ。死にたいのか?んん?」

ゲシゲシと片足でうつ伏せに倒れてる男の背中を踏みつける女。


「……頭はキツいっすワー…。許してちょー……」

「なんだまだ反省していないのか」


更にゲシゲシ踏む女。


「…今のすげー痛そうだったんだけど…。鈍い音したぜ?な」

ネリルに聞くキル。

「に」


「おい貴様」

女がネリルを見る。

「に?なに何?」


「これ。貴様のだろ?」

左手から紫色の光りを放ち、ネリルが持っていたピンクのマイクを出して見せる。

「に!?それあたしの!なんで何で!?」


「そりゃあ、今貴様に言っても理解出来ないだろー。とりあえず今は黙って受け取ってくれ」

「に…、でもでも…ー」

「受け取れやっ!!」

クワっと詰め寄り無理やりマイクを渡される。


「に…!?」

ビクッとして余りの気迫にマイクを握り締めるネリル。

正直…、俺も怖い……。


「よーし。受け取ったな」


「……あ、ありがと…」

「おら。貴様も早く起きろや」


倒れてる男の腕を掴み、無理やり立たせて起こす。


「へろぉ~ん…」


クラクラして目を回している。


「じゃ、俺ら行くわ」

男を引き連れ背を向けて歩き出すが、何か思い出したのか、ピタリと止まってネリルを見る。


「あ、そうそう。“何かに”襲われても魔力使いすぎんなよ。お嬢さん」

「に…?」


「あと貴様」

キルをビシッと指さす。


「な、なんだよ…」


「…自我を失うなよ……」

少し声を低くして忠告するように言う。


「はぁ?」


「んじゃ。バイビ~」

背を向けて歩き出す。

「ちょっ、待てって!どういう意味だよそれは!」

と、腕を引っ張られてる男がハッとする。


「え!?もう帰るの!?」


「あ。起きたね」

ネリルが真顔で呟く。


「バイバーイ!我が友ー!」


手を大きく振ってさよならをする男。


「誰が友だ!!待っ…ー!」

キルが追いかけようと一歩足を前に出した途端、二人共高くジャンプして木から店の屋根へと移動し、やがて姿を消した。

「にっ!!凄くなくなくない!?」

「だぁ~もぉ!!またシカトかよ!!何回目だこれで!?」

「マイクも無事に戻ったんだし、いいじゃんキル兄」

「俺にとっちゃ良くねーって!?」

「そんな事よりキル兄面白い顔~」

鼻にまだついてる赤いトマトを指さして笑う。

「笑うなっ!クソ…」





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「……………」

図書館の本棚で調べ終わった地理関係の本や資料を戻し、一息つくシュール。

「…やはり見つかりませんね」

眼鏡に手をかけ呟く。


「あの言葉さえ見つかれば、三年前の“あの日”についてわかるのですが…」

真剣な表情をして何か考えこむ。

きゃぁあぁぁぁぁっ!!!!


「…………ー!!」


外から悲鳴が聞こえた途端、図書館のドアを突き破り入ってきた“者”がいた。


「…魔物ですか!!」


身構え、図書館内にいた人たちの様子を見ると、混乱していてシュール以外壁に寄り添っている者や突っ立っているだけの人が多く、武器を持ってる人がいない。

「…………………」

(ここでは余り動けませんね…)


魔物に視線を移すと、二体の大きな魔物がグルグルと鳴きながら威嚇してる。一体は飛行系の鳥のような魔物で、もう一体の魔物は毛深く地上系である。



「…………っ…-!」


ギャアァァァァァ!!!!

二体の魔物が同時にシュールに向かって襲いかかってきた。


「くっ!」

横に避け、後ろに設置されていた本棚が魔物の攻撃によって崩れ倒れる。

「…………!」

すぐ隣にいた飛行系の魔物がシュールに向かって襲いかかる。すぐに体勢を整えるように左手を地面につき、かがんだまま前に向かって地面を蹴る。
 
 
ギュアァアァァァ!!!!


ギリギリ避けたものの、目の前に待ち構えていた地上系の魔物がシュールに爪をたてて斬りつけた。

「…ぐっ…-!」


とっさに旗をだして鉄の部分の棒で受け止めるが、力負けして図書館の窓を突き破り、外にガラスの破片をまき散らしながら吹き飛ばされた。

「……………-!」


ーーーパリィィインッーーー


何とか掴んでいた旗を地面に突き、棒がガガガと音を鳴らして後ろに滑りながら足を地面につけて止まる。

(おかしい…。何故私だけを中心的に狙うのでしょうか……)



ガアァアァァァァッッ


「…………ー!!」


まわりを見渡すと、街中が沢山の魔物で覆い尽くされている。

「………これは…っ-!」


きゃあー! うわあー!


街にいる男性や女性が魔物に襲われ、悲鳴をあげている。見る限り百体は軽くいるだろう。

エンジリック兵士が複数魔物と戦っているが、数が多すぎて襲われている住民全てに手が回ってない。

「何故こんなに…」


周りを唖然として見ていると、後ろから魔物がシュールに襲いかかってきた。





「…………ーーー!?」

「…………ん?」

キルが顔を水道水で洗い流し、まわりがザワザワして様子がおかしいのに気付く。


「に?ねねキル兄」


「あ?」

「大通りから何かくるよ?」


「何が来るんだよ?」


袖で鼻を拭き、バンダナを絞りながらネリルに聞く。


「んーと…、鳥とか………人?」


「はぁ?それだけかよ」


下を向いて濡れた前髪も袖で少し拭き、バンダナを巻くがまわりの様子をちゃんと見ていない。

「んーん。他にも沢山動物がいるよ?角が生えたウサギとか、毛むくじゃらのゴリラとか♪」


「………………」


ピタっと顔を拭くのを止め、ネリルを見るキル。


「…………おい…、こっちに来る人たちってもしかしてよ……ー」


「に♪」

何故かご機嫌のネリルに聞こうとした瞬間、キルの目の前を沢山の魔物に襲われている人達がネリルを避けてドドドドと押し寄せてきた。


「に~。みんなどうして走ってるの?」


「アホかお前!?さっさとそっから離れろ!!動物じゃなくて魔物だって!」

キルが叫ぶと同時にネリルに向かってイノシシのような魔物が突進してくる。


「げ!?あぶな…-!」

助けようと動くがまわりにいる魔物や逃げている人によって身動きが取れない。

「に!?」

とっさにリングが多少白く光り、ふわっと上にジャンプしてかわす。そのままイノシシの魔物の背中に乗っかり、大通りの方へ浚われた。

「っておいぃぃぃぃ!!なんでイノシシに乗るんだよ!?余計手間かかんだろーがー!!」

怒鳴りながらネリルが連れていかれた大通りにキルも走って追いかける。


「ああ~んもう!なんなんですの!?この魔物達は!」

猿のような魔物がハルのまわりを三体ほど囲んでおり、金髪の髪を引っ張られ怒鳴る。

「お嬢様ぁ~!大丈夫ですかぁ~?」

ミルが隣でウサギの魔物にいたずらされながら聞く。

「大丈夫なわけないでしょう!?リン!なんとかしてちょうだい!」


「………この魔物…、肉球が気持ちいです…」

ミルの隣で座り、猫と犬のような魔物の肉球をふにふにと触って癒されているリン。


「ああーもう!!役にたたないですわね本当に!!」



「ハルお嬢様!危ないですぅー!」


ミルの声が響き、ハルの目の前から三体の猿の魔物が一気に高くジャンプして襲いかかってきていた。


「………きゃあっー!?」

目をギュッと瞑り、両腕で顔を隠す。

「おらぁっ!」

キルが空中で中央に飛んでいた猿(魔物)に向かって跳び蹴りをする。


「……………なっ…!」

ハルが目を開ける。


「ーふっ!よっ!」


地面に一度膝と片手をつき、空中にいる残りの魔物も回し蹴りをして遠くに吹き飛ばしハルの目の前に降り立つ。


「お前らまだこんなとこにいたのかよ」


「あ、アナタは先程の…」

「自分の身は自分で守れ」


「ちょっとお待ちになって!!」

そのままネリルの行った方へ向かおうとした途端、ハルにガシッと腕を掴まれ引き止められる。


「…ーうわ!?なんだよ?まだ何かあんのか?」


「助けて下さり感謝いたしますわ。お名前は?」

「名前ぇ?今言ってる場合じゃねーだろうが?」

「いいから教えて下さい!そうしないと気が済まないですわ!」


「こっちは急いでんだよ!いいから手を離せ!」

「嫌ですわ!」


「何でだよ!?」


「気が済まないからですわ!」


「二回も同じ事言うか!?」


「あのぉ~?私たちも助けてはくれないですかぁ~?」


「……ハァ~」

ミルが問いかけるがキルとハルは聞いていない。リンは血だらけになってるのにも関わらず肉球を触り続けている。


「リン~。大丈夫ですかぁ~?」

「………気持ちぃ~…」



「キ~ル~に~い~!た~す~け~てぇ~」


遠くでネリルが目を回しながらイノシシの毛を掴み振り回されてる。


「キル…にい…?」


手を離しネリルの方を見る。


「って結局名前言ってるじゃねーか!?おいネリル!振り落とされんなよ!?」


すぐに双剣に右手をかけながらネリルの元へと走って行った。

「……キ…ル…にい…」

キルをボーっと見送り、

「……キル……兄様…!」


大きき呟くハル。


「え~?ハルお嬢様どうかしたんでしょうかぁ~?」


「……スイッチに入ったようですね…」


リンとミルがハルを見て話す。


「素敵ですわ。キル兄様…ー!」

「にぃぃ~ん~…」


暴れるのを止める気配がない魔物にむかって、キルが両手に双剣を構えて切りつけようと魔物に剣を振り落とす。

だが…ー



“ーヴ…ウヴヴ…ーウ…ッ”


「……………ー!?」

あと数センチの所で突然、剣の刃先がピタリと止まり、藍色や青が多少混じった黒い線の光りが飛び散り、キルの剣をはね上げる。


「に!?」


「ー…う…ーっわ!?」


後ろに飛ばされてズザーっと地面に手をつきながら止まり、目を見開いて魔物を見る。


(なんだ…、今の…)


「キル兄だいじょぶ!?」


〈ーもうちょっと慎重に行動をして欲しいよ。アンタには〉


「は?」


突然声が聞こえたかと思うと、ネリルを背負ってる魔物とキルの間から黒い煙りが渦巻き、すぐに煙りがはれると短身長の黒いコートを着た人物が左手だけ地面に置いた状態で姿を現した。

「…………お前…!」

「久しぶり。というのが正しいかな?“不完全な操作体”の、キル君」

ゆっくり立ち上がる。

「…お前……、なんで俺の名前…、不完全…?」

「今の君には解らないだろうね」


「………お前…、家で襲いかかってきた奴だな…?」

「よく解ってるね。そう。僕達だよ」
 
後ろを向き、魔物の頭を撫でてネリルを見る。

「……………に…」

降りようと思ってるようで、足を動かしてる。

「君にはまだ降りてもらっては困るよ」

男が手のひらをネリルに向けると、イノシシに似た魔物がネリルを上空に上げる。

「んに~!?」

「ネリル!」

キルが見上げ、男が早口でボソボソと何か言語を唱えると、地面に落下する前に空中にいるネリルの足元から頭までかけて丸く透明の黒水の膜がおおい、その場で止まる。

「……………?」

中で口を動かしているが、声が聞こえず、膜を両手で叩きまたなにか言ってるネリル。

「…………なんだ?」

キルが眉をひそめて見る。

「……………~!」


「あぁ。無駄だよ。外からは何も聞こえないからね」


「…………………」

黙り、男を見る。

「ハッハハハ。どうしたんだい?前みたいに威勢が良くないね?」



「………お前……、俺を狙ってるんだろ…」


「………まぁね」

少し笑うように声のトーンを高くする男。フードで隠され、本当に笑ってるのかわからないが…。

ネリルは構わず膜を叩いて叫んでる。


「あ。こっちの声は聞こえてるからね」

男が付け足す。

「……もしかして…、シェアルロードの泉にいるとき、黒い氷を飛ばしてきたのもお前なのか?」

「ハっ。僕じゃなくて、もう一人だよそれは。まぁ、あの場で襲ったのは僕等なのは変わりないけどね。でも焦ったよ…。まさかアイツ等もいたなんてさ」

「アイツ等…?」

疑問を繰り返す。

「僕らと似たコートを着てる二人の事。フィリとクロル…だったかな?アンタを守る為に氷を掴んだのはクロル。で、こっちにいる女と今僕の味方が相手してる眼鏡をかけた男に防御奉術をかけたのが……」


一端言葉をきり、はっきり言う。

「フィリさ」

「………………」

(……もう一人はシュールの所かよ…)


シュールの現状を把握し、一端心の中で呟く。

「さて。余り時間が無いんだ。こっちとしては遊びたいんだけど、少々あの二人に時間をくわされてね。手こずらせてくれたけど、今僕がここにいるって事の意味…、解るよね?」

足を前に踏み入れ、キルの方へ近づいて来た。

「…………っ!」

双剣を握りしめて構えると、男がピタリと立ち止まり、剣を見てキルの顔を見る。


「………………。………アンタ、アトリビュート(属性)は使えるんだろ?」


「……………!」

目を見開く。

「……何で…、そこまで…」

「あ。図星か。ま、“今は”解らないだろうね。ほら。僕の前で見せてよ」

「……………」

チラッとネリルを横目で見ると、膜に両手をあてて、キルをキョトンとした表情で見てる。

「人の前で使うのが嫌なのかい?」

「……使えるとしても、意味ないだろ…」

「どうしてさ?君は今僕に殺されかけてる立場だよ?そんな剣だけで太刀打ち出来そうにない。君だって死にたくないんだろ?だったら今、僕やあの女の目の前で出してみなよ」

「…………っ…」

それでも剣を握りしめ、何もしないで警戒するキル。


「…………やれやれ…。…こうゆうのが“似てる”んだよ。……アンタは」

溜め息をつく男に対し、発言に耳をかたむけるキル。

「…………似てる…?………そういや…、お前ら洋館の門でも襲ってきたか?」

ネリルは構わず膜を叩いて叫んでる。

「あ。こっちの声は聞こえてるからね」

男が付け足す。

「……もしかして…、シェアルロードの泉にいるとき、黒い氷を飛ばしてきたのもお前なのか?」

「ハっ。僕じゃなくて、もう一人だよそれは。まぁ、あの場で襲ったのは僕等なのは変わりないけどね。でも焦ったよ…。まさかアイツ等もいたなんてさ」

「アイツ等…?」

疑問を繰り返す。


「僕らと似たコートを着てる二人の事。フィリとクロル…だったかな?アンタを守る為に氷を掴んだのはクロル。で、こっちにいる女と今僕の味方が相手してる眼鏡をかけた男に防御奉術をかけたのが……」

一端言葉をきり、はっきり言う。

「フィリさ」

「………………」

(……もう一人はシュールの所かよ…)

シュールの現状を把握し、一端心の中で呟く。

「さて。余り時間が無いんだ。こっちとしては遊びたいんだけど、少々あの二人に時間をくわされてね。手こずらせてくれたけど、今僕がここにいるって事の意味…、解るよね?」

足を前に踏み入れ、キルの方へ近づいて来た。

「…………っ!」

双剣を握りしめて構えると、男がピタリと立ち止まり、剣を見てキルの顔を見る。

「………………。………アンタ、アトリビュート(属性)は使えるんだろ?」

「……………!」

目を見開く。

「……何で…、そこまで…」

「あ。図星か。ま、“今は”解らないだろうね。ほら。僕の前で見せてよ」

「……………」

チラッとネリルを横目で見ると、膜に両手をあてて、キルをキョトンとした表情で見てる。

「人の前で使うのが嫌なのかい?」

「……使えるとしても、意味ないだろ…」

「どうしてさ?君は今僕に殺されかけてる立場だよ?そんな剣だけで太刀打ち出来そうにない。君だって死にたくないんだろ?だったら今、僕やあの女の目の前で出してみなよ」

「…………っ…」

それでも剣を握りしめ、何もしないで警戒するキル。

「…………やれやれ…。…こうゆうのが“似てる”んだよ。……アンタは」


溜め息をつく男に対し、発言に耳をかたむけるキル。


「…………似てる…?………そういや…、お前ら洋館の門でも襲ってきたか?」

「…………洋館…?…………ふーん…」

何か思い当たるのか、少し考えるように間をおく。

「……だとしたら?何か疑問点でもあんの?」


「似てるって、誰の事だよ…」


「あぁ。その件ね。そんな事教える気はないね」

「なんでだよ!」


「別にどうでもいいことだし。そっちが来ないならこちらから来るよ」

言い終わると、男はすぐに行動にうつっていた…ーーー





ーーーギャアァァァッッ


襲いかかってきた魔物がシュールの目の前で倒れる。わずかに体から電流が流れている状態で。


「……………」

黙って魔物を見下して見てると、拍手をして誰かが後ろから声をかけて歩いて来た。



「ー……まさかお前がここまで使えるなんてな…。正直、驚いたよ」



「…………アナタは…、…私の家で一度お会いした方……ですか…」


確証があるように振り向くシュール。声をかけたのは、長身の黒いコートを身にまとった男だった。


「そう。俺だ」


魔物に視線を向けながら話す男。


「やはり隠していたのか。その力…」


「別に隠してるわけではありませんよ?それよりも、何故私の前に現れるのですか?戦うという事でしょうか」


「話しが分かってるじゃないか。正確には殺しに来たという事だ。魔物共もいてこちらも好都合だしな」



「アナタ方ですか。この魔物をこの街に呼びつけたのは…」


「そう思うか?」


「……………………」


「さて…、お手並み拝見といくか」


「それはどうでしょうか」

男が近づこうとすると、図書館の窓から白猫が男の腕に飛びかかってきて、左手の黒い手袋の甲だけを鋭い爪で切り裂く。



「………くっ…ー!?」


とっさのことで驚き、手を振り払うと猫は離れ、地面に着地する。


「賢い白猫ですねー」

猫の背中を撫でるシュール。


「………貴様…っ!」

黒い氷の剣を右手に構え、シュールに切りかかる男。だが、軽々と横に避ける。


「おっと。アナタは余り頭脳労働派ではないようですね」


白猫はシュールの隣で落ち着いた表情で座って、男を見てる。

「…………………」

「私達が何故ここにいるのが分かったのですか?」


そう尋ねると、フンっと軽く笑い、氷の剣を自分の顔の前にかかげる。


「お前ら、あの泉で二人のコートを着た奴らに助けられただろ」


「…………!………では、あの時襲ったのはアナタ方ですね…?」


「そのとおり…。あの後足止めされたがな」


「その二人は今どちらにいるのですか」


「まだ暗い洋館の方にいると思うが…、さて、どうだろうな。動きを止めていてな…」


薄気味悪く笑いかける男に、少し思わしくない表情を見せるシュール。


「……………………」


「………………ー」


男が右手に構えてる氷の剣をゆっくりと左にかかげる。黒い霧のようなものが刃にまとう。


「ー……追いついた…」


「……………!」

シュールの後ろから声が聞こえ、すぐ右頬の近くを何かが通り過ぎる。


“キンッ”


「ぐっ!?」


男の持っていた剣の刃に銃弾が当たり、後ろに飛ばされ地面に先端が突き刺さった。


「くっ…!もう追いついたのかっ!?」


右手を左手でおおい、キッとシュールの後ろにいる人物を睨む男。

「…………アナタは…」

後ろを振り向き見ると、右手に白い銃を前に出している状態で、黒いコートを着た長身の男性が立っていた。フードを浅くかぶった状態なので、顔が見える。

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