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ー白猫探しにてー


キル、シュール、ネリルの三人は草が生えてる広い草原歩いていた。


「でもでも先生ー。こんな広いお外で猫をどうやって見つけるのー?」

ネリルが左で歩いてるシュールを見上げる。

「とりあえず“奉術”を周囲にバラまき、検索しようと思います」

ネリルを見、歩きながら言うシュール。


「その方が手っ取りばえーよな」

「……………???」

キョトンとするネリル。

「これだけ広範囲な場所なんです。キル。アナタも奉術をバラまいて下さい」

「へいへい。わーってるよ」

キルが返事し、右手を歩きながら前に出すと、手のひらから赤い粉状の煙りのようなものが沢山周囲に散らばる。

シュールも同じようにして、左手から緑色の奉術を周囲に放出する。



「にぃ~…、これが奉術なんだー」


ネリルがジッと見る。

「今は実体化していますが、目に見えない気奉体や、液状化してる液奉体、あと氷みたいに個奉体という奉術へ変化することも出来ますよ」

「この奉術は、個奉体から気奉体のに変化しているんだよな?」

キルがシュールに聞くと、頷く。

「えぇ、そうです」


「ふーん。奉術にも色々沢山あるんだねー♪」

「常識的ですけど?………まぁ…、奉術は誰でも使える訳ではないんですけどね…」

「へえ~。なるなる程~」

「………………つか、最初から思ってたけど……、お前のその変わった口調はどうにか出来ないのか?」

キルがネリルに向かって呟くように聞きだす。

「んえ?変わってるかなー?」

人差し指を頬にあてて首を傾げる。

「本人では余り自覚が無いのでしょうね」

「そうなのか?」


「にひ♪きっとバッチリそうだよー」

「お前に言われたく………………っ…!」


キルが言いかけると、近くの草むらから突然魔物が飛び出してきた。

「うおっ!?」


右足を上げながら後ろに避けるキル。

「おや。さっそく先程購入した武器が役にたちますね」

シュールが動じず、リングから旗をだして左手を前に出して握り、構える。

「うっきゃあぁ~!?何コレ何これ何なのコレ!?」

ネリルが叫ぶ。よく見ると、全身がフサフサな黄色い毛で覆われ、口には巨大な鋭い牙が両端に二つ。目は虚ろでライオンのような魔物がキルの目の前に立ちはだかっている。


「いや、どう見ても魔物だろ?」


キルが後ろ腰に装備した双剣に手をかけながら魔物を見る。

「んえ?二人共戦えるの?」


「まぁ~。ある程度は戦えますが、久しぶりなんで分かりません♪」

「うえぇぇ~?」

「ま。なるようになるだろ」

キルがそう言いながら両手に剣を構え、左に持っていた剣を魔物の上空に投げて向かう。

「せ、先生。あたしも戦った方がいい?」

「どうせ一体だけですから、見ていて下さい。すぐに済みますよ」

ニッコリしてネリルに言い、旗を左脇に挟んで右手で棒を掴み詠唱を始める。


「双刃斬(そうじんざん)!!」

キルがまず右手で構えた剣を魔物に向かって上空に跳びながら斬りつけ、先ほど投げた剣を左手で持ち直して下降しながら斬りつける。


〈ー……淡い力に中性を…〉

旗を左手で持ち直し、先端を魔物に向ける。

「キル!離れて下さい!」

旗の先端から小さく緑色の奉陣が現れ、微かに光りだす。
 
 
「分かった!」


高くジャンプしてネリルの横に立つ。

「“ニュートゥラライズ”!」


まわりに二つの丸い緑色の球体が回転しながら現れ、一気に魔物の中心に向かい攻撃する。


ギュイイイーッ!!


悲鳴をあげながらドサリと勢いよく倒れた。もう動く気配はなく、数秒すると白く光り粉になって消えた。



「こんなところです」

シュールが旗をリングに収め、にこっとネリルに顔を向ける。

「久しぶりにしちゃあ、おまえ奉魔術覚えてんじゃねーか」

キルも双剣を鞘に収め、シュールを見る。


「んに~!君たちすっご!みちゃくちゃカックイいー♪」

拍手しながら目を輝かすネリル。

「…みちゃくちゃ?カックイい?」

言葉に反応するキル。


「アナタにもちゃんと特殊属性を備えているみたいですから、いずれ奉術を扱えるようになると思いますよ?」

「んえ?ホントに本当?」

「えぇ。ホントに本当です」

「お前らその口調やめろ」


『ごめんなさーい♪』

二人してキルに言う。

「キッショ!?特にシュールが!」


自分の両肩を掴んで鳥肌が立ち、二人を見る。

「すみませ~ん。キショくてぇ~」

頬に汗を垂らし、ふと何かに気づく。

「…………あ…」


「んえ?キル兄どしたの?」

「……奉術が感知してる……」

「もしかしてもしかすると、さっき粉みたいなのまいたのが?」

「でしょうね。ここから余り遠くないようです」
「シュール。位置をわり出せるか?」

「もう少し近くへ行かないと正確な位置を確定出来ません。とにかく、奉術が反応している場所に行ってみましょう」

シュールがチラッとネリルを見る。


「に?」


「すみませんが、猫探しを優先にしてから、ネリル嬢が話した人物を探しに行ってもいいですか?」

「あは♪だいじょぶ大丈夫。りょうか~い!」

ネリルがピョンピョン跳ねながら言う。

「有難う御座いますー♪」

すると、キルが自分の頭に右手をあて、下を向きながら眉間にシワを寄せる。

「ー……ん?…ちょい待て。…………もう一つ反応があるぞ…」


それを聞いたシュールも奉術を探ってみる。

「…なんでしょう。……もの凄い速さで移動しているようですね………」
「に?猫ちゃんじゃないの?」

ネリルがキルを見上げる。

「…これは……、猫が走るスピードじゃねーよな?」


キルが頭にあてていた手を降ろし、シュールに聞く。

「えぇ。…それに、人間の走るスピードも遥かに上回っていますね…」

「じゃじゃ、何なの?」
「分かりませんが、始めに感じた反応の方へ向かっているようです」

「うえぇ!?早くあたし達も行かないと!!」

「言われなくても行くって!行くぞ!」

「えぇ」


シュールとキルが先に走って行く。


「え?あ、ままま、待ってよぅ~」

ネリルも急いで後ろから走り二人を追いかける。
 
ーーーザッザッザッザッザッザッザ

三人はしばらく走った後、ある森の入り口についた。


「…………!二人とも、止まって下さい」

シュールが先につき、キルとネリルに指示する。


「…に~…、…にぃー……。……つ…、づがれだ……」

息が上がり、両膝に手を置き立ち止まるネリル。

「…………ここ…」


「【シェアルロードの泉】という場所のようですね」

平然と涼しげな表情で森を見る二人。

「んに!?君たちなんでそんなに涼しげなの!?」

「何でって…、鍛え方が違うだけだ。入るぞ」

キルが先に森へ入る。


「せっかちな方ですね~。ま。そうゆう事ですネリル嬢。行きましょう」

続けて森の中に入り、キルの方へ歩くシュール。

「に……。…先生とキル兄って、いつから一緒にいるんだろ?二人共初対面には全然全く見えないし…」

〈おいネリル!!早く来ないと置いてくぞー!!〉

前からキルの声が響く。

「に?あ、君たち早いよぅ~!」

慌てて中に入り、キルとシュールの間に並んで歩くネリル。


「ねねね。ここってどんなトコ?危険な場所?」

ネリルがシュールを見上げて質問する。

「いえ、そんなに危険という場所ではないのですが、シェアルロードの泉と言って、この森の中心部に広い泉があるんですよ」

「変わった名前だよねー?“ロード”って、道の事だよね?何か関係あるの?」

すると、今度は隣で聞いていたキルがネリルに話す。

「結構昔の話しだけど、ここの泉に満月の夜、一人の旅人が迷い込んだんだよ。その日は魔物一匹いなくて、妙に静かだと思っていたら、突然月と泉が緑色に光って…、数分後、その旅人は忽然(こつぜん)と姿が消えた……って話しだ」

歩きながら平然と言うキル。

「んええ!?じゃじゃじゃ、その旅人はどこに行ったのか誰も分かんないの!?」

シュールが歩きながらネリルを見る。

「えぇ。しかも、旅人だけではなく、この森と泉に生息している魔物なども数体、必ず満月の夜に減少していったので、誰もこの場所に近寄らなくなったんです」
 
「で、近くの街ではここはどこか別の世界への道があるんじゃないか?って噂されて、“シェアルロードの泉”って名前がつけられたんだよ」

「……あ、あたし達…、ここを歩いてるけど…、だいじょぶなの?」

「…ふむ……。…結構昔の話しなので、しかも実話なのかハッキリしていないんですよ。それに、今は昼間なので私たちは大丈夫だと思いますよ?」

「に~。安心良かったー♪」

「俺はお前のその奇妙な言語が気になる…」

キルが隣でボソッと言う。

「…………う~…」

キルの言葉に少しヘコむ表情を見せる。


「ほら。着きましたよ」

「ん?」

「に?」

シュールが立ち止まり、二人もつられて立ち止まる。

「…………ふぁあ~。ここが泉?」


ネリルが目の前の風景を見て目を輝かす。


広く聡明にすんだ泉が広がっており、まわりの木々や青空が反射して鏡のように水の表面に映し出されてる。

「へぇ~。こんななってんだな」

「に?キル兄ここ来たの初めてなのなの?」

「私も初めてですよ」

シュールも隣で言う。

「みんなお初なんだー」

「……………うーん…。…どうやら私たち以外誰もいないようですね」

「さっきの別の反応の奴、感知できなくなったぜ?」

「んえ?って事は、どこにいるかわかんないって事?」

「ここにいるという確証がないだけです。奉術は広範囲を感知出来るとしても結局、範囲に限界がありますからね。奉術の効果がきれたんだと思います。もしいるとしたら…、ま。その時はその時でしょう」

爽やかスマイルをネリルに向ける。


「あは。その時~」

「よく意味が通じない言葉が通じるな…。お前」

キルが呆れた表情をする。

「それでは、猫がここいるか捜してみましょう」

「おー…」

「ねねね。奉術使って位置を割り出せないの?」

ネリルが二人を見て質問する。

「あぁー。大間かな範囲を特定することは出来ますが、一人対象として正確に位置を割り出すのは奉術を使っても難しいんですよ。言うならば、“場所”の特定に使いますね」

シュールがネリルに説明する。

「こうゆうのが不便だよなぁー」

「おやキル。奉術を使って人や物を捜せるだけマシじゃないですか~。これほど便利な術はなかなかありませんよ」

「奉術ぅー…」


少し考え。

「あたしも一応奉術使えるんだよね?」

「まぁー…、このリングの色が変わる位ですから、努力して技を磨いていれば使えるでしょう」

「に?ホントに本当!?」
「でもすぐには無理だろうな」

キルが横で言う。

「んにぃ~。なんでぇ~」

キルの右腕をブラブラ揺らすネリル。


「それやめろっ!」

振り払い。

「俺は最初から奉術使えてたけど、シュールは小さい頃からいろんな魔術を鍛え磨いて、約3ヶ月…………だったか…?」

シュールに確認する。

「えぇ」

キルに返事をする。
  
「それぐらいしてからやっと奉術使えるようになったんだよ。……つーか、普通なら半年かかるのに更に割って三ヶ月って…お前……」
 
細い目でシュールを見る。

「あははは」

笑うだけだ。

「んー。『魔術』と『奉術』って違いがよく分かんない…」

ネリルが自分の頬に人差し指をあてる。

「魔術と奉術の違いは……ー」


シュールが言いかけると、突然、木が落ちる音が林の方から聞こえた。

「んきゃ!?なな、なに何?何の音!?」

ネリルがビックリして肩をあげ、キョロキョロと辺りを見渡す。

「音がした場所に行ってみようぜ!」

キルが二人に言い、三人共林の中に入る。







「うっわ!?なんだこれ!?」

ついた途端、すぐに声を出すキル。

「木が倒れ落ちてますね…」

「……………」


三人の目の前に大きな木が横に倒れてる。

「………先ほどの音はこの木が倒れ落ちた音だったのでしょうね」

木に近づき、しゃがんで調べるシュール。

「…誰もいないな」

「んにー…、なんで倒れたんだろ…?」


「……………………!…………なる程…」

シュールが眉を少し上げ、立ち上がる。

「何か分かったのか?」

「…この木が不自然な切り方をされていますね…」

「んん?どれどれ…」

「に?」

キルとネリルも木に近づき、切り落とされてる部分を見る。

「…………なんだこの丸い粒みたいなのは?」

倒れた木と切り株になって切られた部分を見ると、僅かに丸い小さな粒で穴があいてる形が所々にある。

「……に?……ホントだ」

ネリルも見て疑問に思う。

「あきらかに不自然ですよね?木の根元部分が腐って倒れるのなら分かりますが…、この木は比較的まだ樹齢が新しい」

「…つまり………ー」

キルが言いかけると、ネリルが横から、

「木が自分で分裂したの?」

‘ゴンッ’

思わずキルがネリルの発言によろけ、隣にあった木に頭の横をぶつける。

「に!?キル兄大丈夫!?」
ネリルがビックリしてキルを見、頭を抑えてネリルをキッと見る。

「………いつつ…。……馬鹿かお前はっ!?木が自分から分裂出来るなんてんな器用な事出来るか!!何で今の話しの展開でんな結論になるんだよ!?」

「んにぃ~。でも、はっきりクッキリもしかすると分裂出来るかもしれないよぉ~」

「まず奉術も知らないお前がなんで分裂なんて言葉知ってんのか疑問なんだけど!?」

「に!?」

自分で驚くネリル。

「ははは。つまりですね、誰かの手によってこの木を倒したと考えられるんですよ」

シュールが笑いながらネリルに教える。

「に?そうなの?なんで?」

「なんでってお前…」

「さぁ?分かりません。とにかく、この木が先程倒れたという事は、ここに誰かがいるという証拠でしょうね」

「そうなんだー」

ネリルが倒れてる木をまじまじと見る。

「…うん…………」

キルが何か確信を持ったように頷く。

「ん?どうかしましたか?顔が年とってますよ」

「年とってねーよ!!」

「そんな顔しているとー、オジサンになっちゃいますよー」

「俺はまだ18だ!!…って違うちがう!なんでオッサンの話になってんだ」

「に?」

しゃがんで木を見ていたネリルもキルに視線をうつす。

「…………なんか…、…面倒な事になりそうだよな…。……こうゆう展開になると………ー」

キルが目を細めて呟く。

ー…………………










「ーーわ~!ままま、待って下さい猫さん!」

フィリが草原を走って逃げる白い猫を追いかける。

「…………………」

長身の男はすぐ近くの木の枝にもたれ、その様子を見ているだけだ。


「僕は敵じゃないですから、何もしませんよ猫さん」

ぐるぐると小さな円を描くように、猫を追いかけまわる。

「………………」

「まっ…、わわっ!」

猫を追いかけるのに夢中だったのか、石につまずき前に転んでしまった。

「いたたた……」

少し痛そうな表情をしていると、長身の男がジャンプして降りてきて、しゃがんでフィリの状態を見る。


「…………傷は……ない…」

膝をおろし、傷がないのを確認すると、ゆっくり立つ。

「てへへ。また転んじゃいました」

フィリもゆっくり立ち上がり、服の汚れを手ではらう。


「…………ぁ…」

長身の男が声をだして前の木を見上げる。
枝の方に先ほど追いかけていた猫がいて、ライオンのような魔物に襲われかけていた。


「あ!猫さん!」

すぐに走るが、もうすでに魔物が猫を爪でひっかけようと腕を振り上げている。

「……あ!」

危険を察知し、走りながら左手のひらを一度横に振り、魔物に手のひらを向ける。

「“プライオリティウォーター”ーーー!」


……………………ー


しばらくして、コートを着た二人がいた場所にも、キル、シュール、ネリルは到着した。

「さっきここら辺から魔物の鳴き声聞こえなかったか?」

キルが二人に話す。

「あたしは聞こえなかったよ?空耳じゃない?キル兄」

ネリルがキョトンとしてキルを見上げる。

「そうですよー。いつまでもバカだとは思ってましたが、まさか幻聴まで聴こえるように達してるとは…」

シュールが笑いながら言う。

「ネリルの発言はまだ分かるけどテメーの発言は納得いかねーんだけど?」

「これは失敬♪」

まだ笑ってるシュール。

「お前………」
 
言いかけると、三人の目の前に上からライオンのような魔物がドサッと落ちてきた。

「って、うおわぁぁ!?な、なんだこれ!魔物か!?」

片足をあげてマジびびりするキル。

「わわっ、ごめんなさい。人がいるなんて気づきませんでした」

「は?」


木の上から声が聞こえ、三人とも上を見上げると、短く水色の髪をした男が黒いコートを着て枝に座って見てる。パッと見たところ、幼い顔だちで子供に見える。

「あ!王子!」

「王子?」
 
シュールがネリルを見る。膝に白い猫をおいて撫でながら、男が三人を見て声をかける。

「大丈夫ですか~?」

猫を抱えたまま距離をおいて下に降りると、キルがバッと指をさして叫ぶ。


「あぁあぁあああ!!」

「え!?な、なんでしょうか!?」
 
何かしたかと思い、ビクッとする。

「テメー!この前はよくもっ…ー」


「王子~!」

「いてっ!?」

後ろからキルの背中を叩き、ネリルが男の前に来て目を輝かす。


「お久しぶりです王子!あたしの事覚えてる?いる?」

「あ。アナタはこの前会いましたね。お久しぶりです」

ペコッとお辞儀する。

「まさかこんな所で二度も会えるなんて…」
 
 とっさに後ろを向き、ぶつぶつと何か独り言を言いだすネリル。

〈もしかしてもしかすると…、これが運命?運命的決定的必然的!?〉

「んきゃあぁ~///」

両頬を両手でおさえ、赤くなりながら大声をだすネリル。

「うるさっ!?何だよいきなり!?」

片目と片耳をふさぎ、ネリルを見るキル。


「……………?」

男はキョトンとするだけだ。


「……………フィリ…」

少し離れた場所から長身の男が歩いて来た。

「あ」

フィリと呼ばれた男はパッと安心した表情になり、長身の男の方へ駆け寄ると、キルが呼び止める。

「あ、おい待てコラァ!!」

一歩前に乗り出す。

「え?」

「ん?」

コートを着た二人が同時にキルを見る。

「テメーらこの前会っただろうが!!」

「…え…………。……………知り合い…?」

長身の男がフィリに間をおいて聞く。

「え、ぼ、僕はアナタ達に会った事ないと思いますけど…」

「とぼけんな!ちゃんと覚えてんだぞ!?家で俺にした事と、黒いコート着ていたのも!確か洋館でも会ったよなぁ」

「……………???」

「……言ってる意味が…、……分からない…」

フィリは首を傾げ、男がキルに言う。

「ハァ?何言ってんだよ!」

「に?知り合いなの?」

ネリルがキルを見上げ、シュールがなだめるように話しかける。

「とりあえず落ち着きましょう。何か話しが食い違ってるようですよ?」

「は?でもよぉ…」

「すみませんが、アナタが抱き抱えている猫、見せてくれますか?」

「え?この猫さんですか?」

近づき、とりあえずキルは構えるが、そのままなんの攻撃もなくシュールに猫を渡す。



「どうも。…………ふむ…」

両手で猫の脇を掴み受け取り、白い猫がジッと大人しくシュールを見る。


「………この猫で間違いなさそうですね」

「あ。もしかして、この猫さんアナタのでしたか?」

フィリが無邪気にシュールに質問する。

「いえいえ。この猫はちょっと依頼で捜していただけです。捜す手間が省けましたよ。ありがとうございます」

ニコッとして猫を下におろし、左手をお腹にあてて丁寧にお辞儀をする。

「てへへ。こちらこそ」

フィリも小さくお辞儀を返す

「おい、何親近感わかしてんだよ」

キルがシュールを細い目で見る。

「礼を言うのは行儀として当たり前ですから」

「いや、確かにそうだけど……」

すると、下にいた白い猫がシュールを見ながらまわりをぐるぐるとゆっくり歩きまわる。

「…………ん?」

キルが猫を見る。

「猫ちゃんずっとまわってるね」

ネリルも横から見る。

「………………」

一瞬だけ真剣な顔つきで猫を見るシュールだが、猫が目の前に座って赤い眼で見られると、表情を和らげる。

「ニャ」

 
「………どうやら、気に入られたようですね♪」

一瞬間をおくが、またニコニコしてみんなの方に顔を向ける。

「ふーん」

キルが猫を見て曖昧そうに納得する。

「……………ぁ……ー」

長身の男がみんなに聞こえないくらい小さく声をだす。

「猫は解決したっつーわけで、俺はお前らに聞きたい事が……ー」

キルが一歩足を前に踏み入れた途端、フィリも何か感知したようにハッとしてキルを見る。

「“キル”さん!」

「え、………ー!」

キルも危険を察知し、何かが物凄いスピードで向かってきた。

「……………ーー!」

‘ガッ’

黒い氷の鋭く尖った先端が、キルの顔の目の前でピタリと止まった。


「……お…、…お前…」

止まったのではなく、長身のコートを着た男がいつの間にかキルの横に立っていて、片手で氷を掴み止めていた。

「……………来る…」

「は?」

男がそう言った途端、持っていた氷がシュウ…、と音をたてて粉のように消え、もうすでに行動にうつっていた。

「う、わっーーー!?」


キルを手で地面に押し倒し、もう片方の手でさっきより小さく尖った黒い氷が複数向かってくるのを青い奉陣を出して防御する。いや、消したといった方がいい。

「キル!」

「キル兄!」


シュールとネリルが動こうとするが、二人の足下にも黒い水のような液体が飛び散り、地面が丸く沢山の粒になって穴があく。

「……!“プロテクト”!」


フィリが二人の前に来て防御術を唱え、水色の丸い膜で一時期おおって守る。

シュールの下にいる白い猫は落ち着いてまわりを見てるだけだ。

「“シュールさん”、今ここにいるのは危険です!どこか別の場所に皆さんで身をひそめて下さい!」

「……………!」

シュールがすこし驚いた表情をするが、フィリは急いで早口を唱える。

「僕達が敵の目を引きつけておきます!この森を抜けた先に【シダン】という街がありますので、そこへ!」

そう言うと、キルの腕をつかんで一度引き寄せ、複数の氷の刃を避けてシュールとネリルをおおってる膜へ軽々と投げる。

「………ー!?……だっ!」

地面に背中からうち、膜自体が更に大きくなる。

「お、おい!どうゆう訳か説明しろ!」

「…………説明は…後だ…」

長身の男が奉陣で防御しながらキル達を横目で見る。

「行きましょう!」

フィリが長身の男を見上げ、男もコクっと頷いたあと二人とも森の奥へ走って行ってしまった。

「あ、おい!?」

キルが右手を前にだして声をだすが、何も襲ってこず、音も鳴り止んだ。
 
「……なんだったんだ…?」
 
キルが腕組みをして首を傾げる。
 
「に?」
 
ネリルが膜を見ると、上から下に向かって消えていき、術が解ける。

「……あのお二人が向かったのはコルティックの方向でしたね…。このまま街に帰れそうにありませんから…、シダンという街に向かった方がよろしいのではないでしょうか?」

シュールが眼鏡の縁に指をかけ、ニコニコして二人に言う。


「……この状況でよく笑っていられるな…。お前」

キルがシュールをゆっくり見る。

「こうゆう顔ですから」

「に?そうなの?」


ネリルがシュールを見上げる。

「えぇ」

「んなわけねーだろ!?信じるなよ」

声を張り上げ、コホンと咳払いして平常心を取り戻す。

「まぁ、またあんな奴らに会うのは嫌だし、このチビも…ー」

そこまで言ってネリルを見下ろす。

「そういやお前王子ってやつ見つかったよな?ならもう俺らといる意味なくないか?」

「に!そっか!」

「に!そっか!…で済ませるだけかよ」

「真似しないでよぅ~」

「それに、お前まだガキ何だし」

「キル兄だって子供だよ?」

「お前は17、俺は18。ギリギリ大人に入るだろ」

「一つしか変わらないよぅ~」

「おや、ならばお二人は私にとってはガキですね♪」

「何だとコラァ」
「そんな事ないよ!?」

二人同時に声を揃える。

「一般的に人は二十歳からが成人で、二十歳以下が未成年=子供といわれています。よって、私は二十歳で大人であり、アナタ方はそれ以下なので子供です」

「うぅ~ん……」

眉を上げて眉間にシワを寄せて反論出来ないキルに、ネリルがくいくいっと服の裾を引っ張る。

「ねーねーキル兄~」

「何だよ」

「《ハタチ》って何?」

「…………………」


汗を僅かに流し目を閉じて黙る。

「ね~、キル兄ー聞いてる~?」

何も言わないキルの裾を引っ張るネリルに、シュールがご丁寧に説明する。

「ハタチというのは20歳という意味ですよネリル嬢」

「にー、そなんだー」

納得したネリルに、キルが目を開けて溜め息をつく。

「………説明サンキュ…」

「いえいえ」

「に?に?」

二人を交互に見上げる。

「とにかく、お前家に帰った方がいいって。またさっきみたいな奴らに会う可能性があるし、家どこだ?送ってってやるよ」

「に~、あたし武器の修理させたいから次の街まで行きたいの!」

「はぁ?お前なぁ……。リボン破けてるだけで修理するほどじゃないだろ」

「でもでもっ………」

必死になるが、言葉が見つからないのか、シュンとして黙る。

「まぁいいじゃないですかキル。こんなに頼み込んでいますし、街も近いですしね」

「そんなんで決めていいのか?」

「に!先生の言う通りだよキル兄」

「………………」

眉間にシワを寄せたままで考えるが、ようやく諦めがついて息を吐く。

「分かったよ。もう少し一緒に居させてやる」

「やった~!ありがとーキル兄!」

ガバッといきなり前から抱き付いてきたので後ろによろける。

「だっから抱きつくなって!!」

頭を鷲掴みし、引き剥がすように離す。




「では、早くここを出るとしましょう」

猫をチラッと見ると、座っていた状態から立ち上がり、出口に向かってゆっくり歩き出す。


「…………この猫…、状況分かってんのか…?」


キルが片眉を上にあげる。

「さぁ?どうでしょうね」

「猫ちゃんかぁいー♪」
ネリルが猫を追いかけるように歩き出す。

「まいいか。行こうぜ」

「………………えぇ……」


キルも歩きだし、シュールが多少微笑を浮かべるもゆっくり歩き出し、三人はシェアルロードの泉を出た。

「……………」

シュールの横に並んで歩いてる白い猫を、キルが不思議そうにジッと見る。
 
「ん?どうしましたか?」

シュールが歩きながらキルを見る。

「あ?…んー……。………この猫、なんか普通の猫より変わってるよな?」

「に?そかな?」

ネリルがキルを見上げる。

「尻尾が長いとことか、耳がキツネみたいとかさ。それに、シュールになついてるぜ?」

「えぇ~、そうですかぁ~?気のせいでしょう」

シュールが眉を下げて笑いながら話す。

「そうだよ」

「かぁいいよねー。この猫ちゃん」

ネリルがしゃがみこんで頭を撫でるものの、猫は無表情のまま赤い目でシュールを見る。

「……何故こちらを見るのですか…」

猫に向かって静かに言う。

「へへ。随分と好かれちまったなシュール」

ニヤニヤにてからかう。

「でも触られても嫌がらないね?」

ネリルが体を撫でながら二人を見る。

「特に気持ち良さそうな顔してないし、表情が読み取りにくいなマジで」

キルが目を細めて猫を見ると、猫がいきなりピクリと立ち上がる。

「に?猫ちゃん?」

ネリルも立ち上がる。

「…………………」
  
自然に、ゆっくり空を見上げる。

「…………?」

「……に?」

「………………」

キル、ネリル、シュールが猫につられて空を見上げると、どこか遠くの場所の青い空に一カ所だけ渦巻き状の黒い雲が集まり、その真下に今まで見たことがないくらいの紫と緑、黄色が混じった大きな落雷が落ちた。



‘ドシャァアァアアンッッー’!!!!



「にっ!?」

ネリルが耳を塞ぎ、目を閉じながらしゃがむ。

「な、…なんだよあれ……?」

キルが唖然とする。

「……………雷……」

まだ空が落雷によって光り輝いているのをシュールが見ながら呟く。

「な…、なになに!?今の一体全体何だったの!?」

ネリルがまだ耳を塞いだまま立ち上がり、渦巻き雲を見る。


「……“自然現象”、には見えませんね…。奉魔術か、それとも本当にただの落雷でしょうか……」

「……あんな落雷初めて見たぜ?」

と、猫が突然毛を逆立て、三人の真後ろから後ろを向いてシャーッと鳴きながら警戒しだした。

『…………?』

三人共後ろを振り向くと、今度は白いコートでフードを深くかぶり、顔を隠してる人物が一人こちらを見てる。

「…………………」

黙っているだけで、黒いコートと少しデザインが違い、その人物はキル、シュール、ネリルと左から順番に顔を動かし最後に警戒してる猫を見下ろす。

「おま…、誰だよ?」

キルが質問すると、コートを着た人物が顔をキルに向ける。

「んー……。コイツ等…ねぇー…」


フードで隠してる頭をかいて喋る。少し声が高めだが、男性特有の低さもあり、男なのだろう。


「は?」

「アナタはどこのどちら様ですか?まさかまた私達を襲う敵ですか」

表情はにこやかだが黒い笑みで話しかけるシュールに、両手を前にだして首を横に振る。

「そんな敵だなんて滅相もない。俺はただある任務でこっちに来てるだけなんだって。これマジ本当だから」

ヘラヘラ笑いながら両腰に手をあてる男(俺と言ってるので)。

「に?じゃじゃ、お仲間さん?」

ネリルが上目づかいで話しかけると、男が一歩前に乗り出す。

「おぉ!?アンタネリルちゃんじゃん!久しぶり~。大きくなったな~。って、顔見えないから分からないよなそりゃ」

自分から言葉を言って自分でつっこむ。

「に!?アタシのお知り合いさん!?」

驚くネリル。

「知り合い知り合い♪なんなら顔見せようか?」

「冗談だろ?」

キルが笑いながら言うと、男が腰に手をあてて胸をはる。

「冗談じゃないってマジでー。待っとけよ?」

本当に取ろうと両手でフードを掴んだ瞬間、後ろからいきなり頭をスパンと綺麗な音をたてて誰かが男を叩いた。

「………ぁ…」

キルが思わず声をもらす。

「いったぁ~」

頭を両手でおおい後ろを向く男。

「アホ。易々と素顔見せるバカがいるか。貴様それでも俺の一員か?んん?」

もう一人の同じく白いコートを着た人物が横に並んで男に話しをする。身長はなかなか高いほうだが、横の男の身長よりも少し低い。いや、男の身長が高すぎるからか。声は男っぽくもあるが、少しトーンが高く女っぽくも聞こえて性別が判断しずらい。

「だってぇ~、懐かしい人いるし他の二人もなんか愛想良いんだもんー」

そう言って手をおろす。

「貴様は本当にアホだな。いきなりですまなかったな。ほらこの通りだ」

長身の人物が男の頭を左手で鷲掴みして、無理やり頭を下げらす。

「え…、あ、いや…別にいいけど…」

キルが真顔で頭をかきながら返事する。

「いだいだいだだだ。ちょっと~。俺ただでさえ骨硬いんだからそんな無理やり曲げないでよー。それでも女?」

腰が曲がったまま頭を鷲掴みしてる女(男が女と言っていたので)に顔だけ向ける。

「うっさい黙れ」

「もー、こんなんだからこんなんなんだよー?」

手を離すと、頭を片手でさすりながら喋る。



「こんなんだからこんなんってなんだよ」

キルが目を細めてツッコミをいれる。



「こんなんだからこんなんでー、こんなんだからこんなんなる。つまりこんなんだからこんなんだから困難…。あれ?ちょっと待てよ、意味わかんなくなっちゃったじゃーん」

呑気にペラペラ喋るので、シュールがにこやかに本音を口にだす。

「アナタ五月蝿いですね♪」

「お?誉めてんの?いやー、ありがとー」

「誉めてませんよ~」

「……本当に愛想いいな貴様ら。マジで初対面か?」

女が横から声を出す。

「初対面ってコイツ等にとっちゃぁ初対面でしょー?特にこのツンツン」


男が女を見ながらキルを指差す。

「失礼だな!!ってそれどうゆう意味だよ?」

「を、やべ。これ禁則だったわ。気にすんなツンツン君」

人差し指と親指をこすってパチンと鳴らし、人差し指をキルに向ける女。


「っだから、ツンツンじゃねーってコラァッ!!」

「なんだよー。“あっちでも”ツンツンって呼んだのにー。俺的には愛称がツンツンで名前より言いやすいんだけど。き……ー」

言いかけると、女がまたスパンと手をパーに開いて後頭部を叩く。

「き…?」

キルが眉をひそめる。

「アホ。バカ。ボケ。貴様喋りすぎるんだよゴラァ」

「いっだいだい。アホとバカとボケのスリーコンボは流石にキツいッスわー…。せめてアホにしてちょー?」

「今の発言気にしないでくれ。じゃぁ、俺達はこれで」

女が左手を前にだして地面にかざすと、紫色の光をおびた陣が現れ、青いスケートボードが地面から這い出すように出てきた。

『…………!』

三人とも驚いて見る。スケボーがちゃんと出た後、女が乗っかり紫色の煙に似た光りを放ちながら浮き上がる。

「じゃな」

左手の人差し指と中指をくっつけ伸ばし、顔の横で軽く三人を見ながら一振りしたあと、上空に飛び上がる。

「おわぁー。ちょっとちょっとー!俺を忘れないでよー!」

男が慌ててスケボーの後ろを両手でガシッと掴み、ギリギリぶら下がる。

「じゃあなー」

ぶら下がったまま三人に言い残し、白いコートを着た二人は上空を高速で飛び、まだ黒く渦巻く雲がある場所まで移動し姿を消した。

「…………何だったんだ…?」

キルが軽く汗をかいて見送る。

「バイバーイ」

無邪気に手を振ってるネリル。

「私達の敵ではないと言ってましたね」

「確かに言ってたな」

「ねね、とりあえずシダンに行った方がよくなくなくない?」

ネリルが二人を見る。

「そうでしたね」

シュールが視線を猫に向けると、何事もなかったかのように毛づくろいしている。

「………この猫、本当になんなんだ?」

キルがジトっと見る。

「…………。…まぁ、気にしなくていいでしょう。」


「いいのかよ。別にいいけどさぁ…。んじゃ、早いとこシダンに行くとすっか」

いったん背伸びしてキルとネリルが歩き出す。

「………………」

シュールが白い猫を興味深そうに見る。

「…………猫また…というように見えなくもないですね……」

ボソッと独り言を呟いた後にシュールも歩くと、猫も一緒に歩き始めた。

「ー………どうして…、…どうして、アナタ達が…っ…」

街はずれにある洋館の広い庭で、黒いコートを着たフィリが動揺したように、目の前にいる別の黒いコートを着てる人物に話しかける。

「…驚いた…?……これが今の僕だ…。……今までお前みたいに扱えなかった………力だ!!」

短身長の男が右手をフィリに向け、黒い水を放出する。

「うっ!」

左手を前に出し、水色の奉陣を出して攻撃を防ぐフィリ。

「………………」

フィリの隣にいた長身の男も、短身長の男の横にいる同じく長身の男を黙って見る。

「…クク……。久しぶりだな…クロル。…俺もこの通り、お前と似た力を手に入れる事が出来たんだぞ…?」

男が笑いながら左手を前に出し、フィリの隣にいるクロルという人物に小さく黒い氷の刃を多数放出する。


「……………ー!」

黙って右手を前に出し、青い奉陣を出してガードするクロル。

「…どうして……、アナタ達………なんですか……」

少し泣きそうな表情で、フィリが声を震わせる。

「………アッハハハハ!………その表情、最高だよフィリ。昔と変わらないなホント」

高らかに笑う相手に、クロルが二人を警戒しながら静かに問いかける。


「…………目的は…?」

「目的?そんなもん一つしかないだろう?」

長身の男が答える。

「……俺達の目的はただ一つ…」

低い背の男がいったん間をおくと、黒く渦巻いてる雲から弱い雷が鳴り響き、声を低くしてこう言った。



「…まだ不完全な“感属性操作体”を……

暗殺しに来た……ー」





雷が四人を照らし、やけに不気味な沈黙が続く。


…それはまるで、最初から誰かが予測していたような…


結果を求めているかのような……




説明の出来ない“答の答え”を問いかけられたかのように、酷く雷の音が四人の耳に届かせて…ー



















     
   ー白猫探しにてー
          ー完了ー
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