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ー黒いコートー


「…なんだろう………」
 
少女はゆっくり起きだし、外の黄色い満月を見ながら静かに声にだした。
 

「一瞬緑色に月が光ったような………」

 
疑問げにそう言いつつ、じっと空を見つめた。
 

……少し心配になったが、また眠りにつく……。
 

何かを感じながら……。
 
 
…………朝日がのぼり始め、キルはようやく山ずみになっている地理学や現代世界地図やら、地理関係の書物を放り投げた。
 
「あ~もぉぉ~!!なんで徹夜までしてこんな事しなくちゃなんねーんだよ!!………っつーか、テメーもなに優雅に茶でも飲んでくつろいでんだよ!!俺に対する嫌がらせか!?」
 

「おっと、これは失敬、もう私が調べる範囲は終わったんで先に休ませてもらいました」

「だったら手伝えよ!」

「今手伝おうとしたらちょうどアナタに声をかけられたんですよ。いやーまさかあんなタイミングよく怒鳴られるとはねぇー」
 
「…テメーわざとだろ?」
 
「ははははは」
 
「…うぜぇ………」

「…………………」

 
急に黙り込むキルにシュールは少し笑った顔で問いただす。
 

「どうしたんですか?急に黙り込んで、何か言いたいことがあるんじゃないですか」

「……昨日の事なんだけどよ…」
 
「なんでしょう?」

「なんでほかの奴らと違って俺らだけ動けたり会話が普通に出来たりしたのか……」

「それを私に言って何になると?」

「……お前だって、分かってんだろ?
……へたに関わると絶対目をつけられるに決まっている…」
 
「……それで?」
 
「……それで…、…やっぱり今みたいにあいつらに関する事はやらない方が身のためじゃねーか…?」

「なるほど。それであなたはもう関わりたくない…ということですか…」
 
「あぁ……………」

すると、さっきまで紅茶を飲んでいたカップを机に置き、微笑を浮かべながらキルの方を向いた。
 
「確かにあなたの言ってる事は正しい、ですが、それではダメなんです」
 
「何でだよ?」
 
「仮に私たちがあなたが言ったとおりに何も調べず、なんの関わりを持たないで日常を過ごすとしましょう」
 
「…それで?」
 
キルが腕組みをして聞く。

「………私たちはそれで良いと思いますが、昨日会った方には非常に都合の悪いのを見られたとなると………………、
あなたならどうしますか?」

「…えぇ?………俺なら、見た奴を探して…、………………!」

「そうです…。あなたが考えたように、まず私たちを探しだして、居場所が見つかれば……」
 
 
「……アイツなら……殺しにくる……」
 
「そのとおりです。あるいは、何かで脅したり、逆に放っておくという選択もありますがね。
ですが、今言ったとおり、殺しに来る方が可能性として高いと考えられますが…………
それでもあなたは関わらないと?」

「…………………ったよ…」
 
「はい?今なんと言いましたか?よく聞き取れません。もっと大きな声で、ハッキリと」
 
「うるせぇよ。わかったって。もうしばらくお前に付き合ってやるよ」 
 
「いやぁー、分かってもらえましたか。ありがとうございます」
 
「いや!ほとんど強制的だったよな!?お前どんだけSなんだよ!!」
 
「突っ込みを入れ忘れない所はあなたの良いところですよ」
 
「それほどでもねぇーよ。って!なんでまた話しそらすんだよ!!」
 
「認めてたじゃないですかー。自分で」

「なんなんだこのやりとり!!誰か止めろ!」

「ハハハハハ、ムリですよ。それに誰に言ってるんですかー」

「誰かにだよ!!俺にも知らねー!!」
 
「答えになってないじゃないですかー」
 
「う、うるせぇーよ!……!!」
 

 
ー…………20分後…。
 
 
 
「…………ハァ、…ハア………、…もういい。突っ込みやりすぎなんだよ。疲れた……」
 
「今回は新記録ですねー。(時間が)
いやー、いじめっ……、…会話をしたかいがありましたよー」
 
「お前今いじめがいがあるって言いかけたろ!?」

「いえいえ、そんなめっそうもない。こういう性格ですから」
 

「性格って、認めてるじゃねーかよ」
 
「はい。…………………ん?」
 
突然、シュールが奇妙そうな表情に変わる。

「ん、どうした?」
 

「………何かが近づいて来てますねぇ…」
 
「はぁ?何かって………。
………まさか、昨日の奴じゃ…!!」
   
「……そのようですね…」
 
 
「それじゃぁ、早く逃げないと……!!」
 
「いえ、もう遅いですよ」
 
「はぁ?なにいって……、…って、うお!!」
 
突然、キルの目の前から黒い煙が渦巻いて出てきた。
 
「お、おい!なんだよこれ!!」
 
「…………っく…!!」
 
強い風に二人は身動きができず、ただジッと身構えるだけ。

煙は少しずつはれ、二人組のコートを着た者が立っていた。
 

「…なんですか?アナタ達は…。私たちに何か用ですか?」
 

「………………………」
 
「おい!答えろよ!」
 
「……………………」
 
それでも二人とも何も答えない。
 
「……………おいシュール………、なんかこいつらこえーんだけど…。
なんで何も喋んねーんだよ。話し聞こえてんのか?」
 
「さぁ?喋れないからじゃないですか?」
 
「え!? そうなのか!?」
 
「…………違う…」
 
一人のコートを着た者がやっと口を開いた。
 
「うお!? 聞こえてたのか!?」
 
「きっと私たちがなに言っているのか分からないから適当に答えたんですよ」
 
「マジか!?」
 
「…違うと言ってる……」
 
「かたくなに違うって言ってるぜ? やっぱ聞こえてるんじゃねーか?」
 
「いえいえ、あれは同じ言葉を何度も言えばなんとかなると思って言ってるんですよ」
 
 
「へぇー、なるほどな」
 
「違うと言ってるだろ!! 何度言えば分かるんだお前ら!! それと!! そこのメガネかけてる解説者! 知っててワザと言ってるだろ!?」

「おや? バレちゃいましたかー」
 
「バレるわ!! そりゃ!!」

「なんか、コイツ意外に喋るな」
 
キルがニヤニヤした顔で言う。
 
 
「逆に隣の奴はまだ一回も口を開いてないしよー」
 
そう言われると、さっきまで怒ってた黒いコートの男が隣の背の低い男に話しかけた。
 
 
「……おい、本当にコイツらなのか?とてもそうには見えないが……間違えたんじゃ………」
 
そう問われると、急に口を開いた。

 
「間違いではないさ…、“正式的感覚意志確認”の調べから言うと、この二人のどちらしか合わないからね。それに、“クラミルⅣ”と、“シリアングルⅢ”の同位も既に確認一致の把握もしている………ー」
 
 
 
………一瞬の出来事だった。
 
しいて言えば、初めて聞く人には何を言ってるのか聞き取れないくらいの言葉だった…。

………多分。


キルはシュールの落ち着きと違ってポカーンと口を開けたまま眺めるように見つめ、それからやっと声を出す。 
 
「…………………は?」
 
この言葉しか返せない。
 
「コイツの言った通りだ。分かったか」
 
「いや、全然分かんねーよ!?
なんだよ今の正式的なんちゃらかんちゃらって!
適当に喋ってるようにしか聞こえねーよ!!」
 
 
「さっきからごちゃごちゃうるさいな、俺達は時間がないんだ!おい、記憶を抜き出せ!」

「はぁ?記憶?そんな事出来るわけ…………っ…」
 
キルが言いかけた途端、命令した男の隣にいた仲間がゆっくり手を前に上げた。

それを見てシュールがとっさに何らかの危険性に気づく。
 
「キル!早く逃げて下さい!!」
 
「え…、……うわぁぁ!!?」
 
キルの体が突然、床に倒れ込んだ。

手を上げた男が見えない速さで動いたかと思うと、一瞬の瞬きでいなくなり、いつ移動したのか、キルの目の前に立っていた。

同時に額に右手を当てる。
 
 
…キィィ……ン………ー
 

男の右手がかすかに青白く光輝いているのを、シュールは何か違和感を感じる。
 
 
「………これは……ー…っ。くっ…!
何をするんですか!!」
 

キルを助けに動こうとした瞬間、目の前から何か青い固まりが横切った。
 
「………………っ!」 
 
立ち止まり、バッと背の高い男を見る。
 

「今は邪魔されては困る…、おとなしくするんだな…」
 
 
 
床をみると、横切ったのは青い氷がころがり落ちていた
。 
 
 
(………氷?…この前の男なのか……?)
 
 
キルを見る。
 

「………っ!!……キル!!」
 
キルを呼びかけるが、まだ男に額を当てられていた。
 
(………う…っ…!
………なんだこれ………ー頭の中から何かを抜き取られている感じが…………!)
 
目を見開き、苦しい表情をするキル。

キルの方にいる男が何らかの異変に気づき、眉をひそめる。

(…おかしい……、記憶がうまく読み取れない…………)
 
すると、キルが無理やり足を動かして男のお腹を蹴ろうとした。
 
「………っなに…しやがんだっ…!!」
 
危険を察知したのか、男はひらりとジャンプしてかわし、元の背の高い男の隣に立ち戻った。
 
「なんだ、記憶を抜き取らなかったのか?」
 
「……抜き取ろうとした。だが何故かうまく読み取れなかった…」
 
「なんだと!?読み取れないとは一体どういう事なんだ!そんな事一度もなかったぞ!」
 
信じられないように前に体を傾ける。
 
「原因は不明だ…。今回は一度撤退した方が良さそうだ…」
 

「しかし……っ…!」
 
「他言は無用、行くぞ……」
 
まだ納得できない様子だが、それに従いキッとキルとシュールを睨むように顔を向ける。
 

「…………っくそ!
…………お前ら、またこんど来るからな……!」
 
そう言い残すと、来た時と同じ様に、黒い煙りが二人を包み込み、強い風と共にいなくなった…。

 
「……キル!……無事ですか?」
 
 
シュールがキルの方に駆け寄り、状態を確認する。
 
 
 
「……ん?……まぁ、なんとか………」


「なにか変わった事はありますか?」
 

「…いや?……全く……」
 
ぎこちなく答える。 

「………そうですか…」
 

しばらく沈黙が続く…。
 
……それから、シュールがやっと口を開いた。
 
「……あなたは、…今の会話の意味に…、心当たりがありますか……?」
 
いきなりの問いかけにキルは少し戸惑ったが、今は否定する気力も起こらない。

「……………あぁ……」

「…そうですか。……やっぱり、あるんですね……」
 
シュールは優しく問いかけただけで、それ以上何も言わなかった…… 
 
ー………世界には…、説明のつかない事がある…………。
 

どんなに頭のいい科学者でも…………


どんなに雑学に優れても…………
 
 
言葉では表せない事が沢山ある………。
 
 
 
私自身もまた、誰にも説明出来ないだろう……。
 
 
…………今の私は………
 


    本当に人間?
 
 
 


    ー黒いコートー
          ー完了ー
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