ー声ー


「きっと、みんながいる現実に覚めると思うよ」

ゆっくりと後を追って歩き、二人の前で立ち止まる俺にヒカリが優しく教える。


けど、まだ俺は…。


「分からないんだ。まだ、分からない事が多すぎて…お前らに」

「いや、もう分かったんだ」


え、と黒に目をやる。

「この建物に入って、ようやく分かった。俺らは、あの人とアイツで生まれたのが」


「あの人とアイツって…?」


「お前が、一番分かってる…。今は俺らが言える事じゃない」

「なんで…」


「キル自身が思い出さなきゃいけないからだよ」


ヒカリと黒の言葉が、頭に一つずつ入ってくる。


「今でも思い出せていない記憶にあるから…。大丈夫、いつか絶対、分かるから」

そっとヒカリが俺の両手を握り締めて、祈るように目を閉じる。


「だからキル、前へ進んで」

「俺らはお前の直ぐ近くに居るからよ」


「………………」


身体の様々な箇所が粉となっていって、俺の手を握っていたヒカリの手も、触れられなくなってしまった。

それでも二人は、穏やかな顔をしている。


ここで始めて会って、三日間しか同じ時間を過ごしていなかったのに、ずっと前から一緒にいたみたいで…。

急に別れが来たみたいで無性に寂しい気持ちが込み上げてきた。


「あぁ…。思い出してみせる」


「私、楽しかった!色んな所へ行ったり、一緒に服を見れて」

グッと涙をこらえるように笑みを零すヒカリ。

「人と話したり旅をして楽しかった。団子も…うまかったしな」

目を閉じ、珍しく小さく笑う黒もどことなく悲しいのをこらえているように見える。


「俺も、二人と出逢えて良かった。すっげー楽しかった」


最初は何も信じられなかったけど、どうしてか、コイツらと居ればいるほど、信じれていって、一緒に居るのが楽しく思えてきていた。


「だからまたいつか、“会おうな。黒、ヒカリ”」


「うん、またね。キル」

「キル…、またな」


光りが差し込む扉の中へ入り、振り向いて二人に手を振った。

扉が閉まっていく隙間で、二人も手を小さく振ってくれた。


閉まる直前、ヒカリの目から涙を流していたのが見えた。



「…ありがとな」


身体は浮いた状態で光りのトンネル空間を突き進んでいるようで前を見る。

よく見ると、誰かの後ろ姿が見え、その人の一定の距離で俺は止まった。

この人…。




ジッと見ていると、長く毛先が緩い銀髪が僅かに揺れた。



「長い終わりと結末に…従えられるか…」

ふいに話しかけてきた彼女は、ゆっくりと振り向く。


その姿は肖像画で見た女性と一致し、銀髪の髪と淡い桃色のドレス。

そして、光りの宿らない人形のような藍色の瞳をしている。



「ここは夢と現実の狭間の内、無いものも有るものも互いに打ち消し合う場所…」


「あの二人の事、言ってんのか」

問いかけてみると、ゆっくりと首を横に振り、否定の言葉を返す。


「アナタが本来見ている現実と、アナタ自身の内側の夢という意味…。だから私は、あの子とアナタを通していられるの…ー」


「あの子?」


「あの子は私の生まれ変わりのような存在。アナタは何度も会ってる」


ふいに、ピンク色の髪をした彼女を思い出した。


現実でも夢でも出会い、“リリー”という名のあの子を指しているんじゃないだろうか…。


「最後の記憶はあなたが掴むしかないの…」


胸に手をあて、空いた手の平を前に出してゆっくり開くと、ぼんやりと黄金色に光る懐中時計が現れた。



「あんたは一体…」



「いずれ知る事になる未来に、アナタは今も運命に従えられる…?」



微かにだが、彼女と懐中時計が消えかけ、考えるよりも先に手を伸ばした。



黄金色の懐中時計は更に光りを広げていき、いつしか、彼女や自分自身が見えなくなる位に白い光りに輝いていく。






〈それは所詮、“夢”でしかないのだから…ー〉







あの時と同じ声が、頭の中で直接響いた。


掴んだ筈の懐中時計は光りとなり、彼女も見えないまま目を閉じた。


眩しい。


光が強すぎて目を開けていられない。











俺はこのまま…ーー





        ー声ー
          -完了ー
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