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ーもう一つの夢現ー


「別に何にもなかったぜ?」


「ん…。そうか」

「良かったぁ。何か悪い事が起きるんじゃないかひやひやしてた」


「いや、だったら調べてくれよ。お前らがカードにしたんだし」



「ね。キル」

大人しく眺めていたトレスがキルの傍に立ち、にっと笑いかける。



「そろそろ自分自身の記憶、戻さなきゃね」

「…え…、自分自身って、今戻してるじゃねーか」

「起こった記憶じゃなくて、それ以前の記憶だよ」


「は…?」

「俺、元は名前を知らなかったキルの事、調べてた時期があったからよく分かるんだよね」


無邪気な笑みなのに、威圧感が生じる。






「……だから…、ここでしか戻せない記憶、今見せてあげるよ」


人差し指を目の前まで近づけ、フッと視界が暗転しだした。




「…………っ…」

ザッザザ…ー…ッ…ー




ザァァァァァー……ー







ノイズと共に雨の音が入り混じって、白い視界が永遠と続く。




雨……?








ー……ーザザザ…ッ









ザ…ッーーー





















 

ー…タッタッタッタ…ッタッタッタ…-









「…ハァ、ハァ…。…ハァッ…、ハァ……ッ-」


銀と白の市松模様の壁と廊下で、息をきらして走っている。

白いレザーロングコートと黒のタートル、長いズボンにロングブーツをはいて。


「…はぁ! …ハァ! ……ハァ…っ!」


来るな! くるなくるな来るな!!

誰も俺を追うんじゃねー!



瞳が全部紫色に染まりきっている。





‘ドクン…-’




「………あ…っ…!」

その場で立ち止まり、左胸の心臓部分を右手で抑えて膝を落とす。


「…………く…っ…!」

汗を流し下を向く。すると後ろから男の声が響いた。



「ーいたぞ!向こうにいる!まだ無傷だ!」


「……………!」


顔だけ振り向いて後ろを見ると、黒い白衣を着た沢山の科学者がこちらへ走ってくる。



「……………くそっ!」


なんで俺がこんな奴らに……!
…あんな扱いされて…!

もう嫌だ…!

もう…、あんな思い……ー


立ち上がり、左胸を抑えながら走りだす。


「いたぞ!」


目の前の曲がり角から三人の科学者が出てきて、声を張り上げて知らせる。



「……っ…!」


とっさに立ち止まり、後ろからも向かってくる。



「…ハァ……、…ハァ…!」


なんで……、なんでお前らは……
……なんで俺を追いかけるんだよ…ー



「……くる…な…。…来るなくるなくるなくるな!」


紫色の瞳が段々と中心だけ反時計回りに黒く染まり、回転しだして前にいる科学者を睨む。

「テメーらは…、全員俺の敵だ…」


三人の一人の科学者が片耳にかけたマイク付きヘッドホンの機械に、声をだして誰かに情報を伝える。


「錯乱をおこしかけています。いえ、もうおこして……ー」



「来るな!俺を追ってくるなっ!!みんな敵なんだ!」

地面を蹴り、前にいる科学者に叫びながら突っ込む。



「あぁあぁああアアアーっっ!!!!」



「ー……なっ……!!」


三人の科学者が突っ込んでくる男にふいをつかれ、目を見開く。


























『うわあぁぁー!!』









ドシュッ、ザシュ、ブシュッ








廊下内を何かで皮膚を切り裂いた音が響き渡り、三人の科学者が腕や腹部、足から血を大量に噴き出してドサッと倒れる。







「…ハァ! ……はぁ…っ。 ……みん…な…、敵なんだ…! ……俺の敵…!!」





‘ドクン…ー’




「…ぐっ…ぅ!!」



また心臓が高鳴り、右手で抑える。

瞳は先程と同じ紫色で、回転が止まっている。





「大変だ! 仲間が殺されているぞ!!」



後ろから追ってきていた他の科学者に気づかれ、ハッとしてまたすぐに長い廊下を走る。





「…イヤ…だ! ……嫌だ!」



目を見開いて必死に逃げ惑うように走る。







俺の居場所はここじゃない…!


こんなところじゃないんだ!!









「……うっ…ー!」




悲しい表情をして目から涙を流し、走ったまま後ろに涙が流れ落ちる。

















……俺は…


……俺のいる場所はどこなんだ…?



………どこにいれば、いいんだよ…。














「ー……誰か……



………………教えてくれよ……。










……俺の居場所……ーー」






















ザッ…



ザッザッザァ……ーーー

「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「…………ー!?」




バッと目を見開いて叫び、白と黒が一瞬の間に何が起こったのか驚く。



「違う! 俺の場所はここじゃない! こんなとこじゃないんだ!」


「き、キル!?」

頭を抱え、三人から後ろに後退っていく。


「落ち着けキル!」


「止めろ! 来るな! 俺を追いかけるな! 俺は…、俺は…っ」


「キル!」

白が声を張り上げて名前を呼ぶと、ハッと意識を取り戻す。



「…キル……。…わたし達…だよ…」

今にも泣きそうな顔をして俯き、震える声で伝える。





「……お…、俺…」


「テメー、何見せやがった…っ」

黒がトレスの胸ぐらを掴み問いただすが、微笑を浮かべたまま動じない。




「さっき言った通り、元の失っていた記憶を戻してあげたんだよ」

「…何言って……」

「キルはね? 子供の頃の記憶から、今から三年前の記憶を“消され”ちゃってるんだよ」



「………………」


「それ…、どういう事…?」

白が聞くと、顔だけ向けて人差し指を立てる。


「うん。つまりさ。その失っていた記憶の一部分を、さっきキルに戻してあげたんだよ。君たち属性が互いに共存する前のね」


「……なに…」


黒がグッと力を強めて握ると、冷ややかな目に変わる。



「俺、知ってるんだよ? 君たちが“どんな属性なのか”って事…」

「…………!」

二人共驚き、まだ頭を抱えて俯いているキルに視線を移す。



「…記憶を消されたのは、彼のチップに関係する。脳の中に、特殊なマイクロチップが内装されていて制御されてるんだよ」


「………なんでそんな事まで…」

「だから言ったじゃん。キルを調べていた時期があったって。今沢山の記憶が散らばっているのだって、そのチップを通じて奥にしまおうとしてたからだよ」


「………テメーがやったんじゃねーだろうなぁ!」

掴んだまま睨みつけると、苦笑を浮かべる。


「まさか。そんな事俺じゃ出来ないよ。だって制御出来る場所が別のとこにあるし、俺はただキルの意識に通じてハッキングしているから、偶然記憶を見つけただけだよ」


目をキルに向け


「…あー…、ヤバい、気付かれたかも…」


「………?」


黒に向き直り、苦笑いを見せてゴーグルで目を隠す。

「んじゃ、早いけどそろそろ落ちるね。感づかれたらしくて、強制的に遮断されたらこっちにコンタクト取るの不可能になるから」


「…は? 待てよ」


「んじゃ。バイバイ」


シュンっと姿が消え、掴みを失った手を下ろしまわりを見渡すが、何処にも居ない。



「…………くそ…」

「キル…!」

膝を落とすキルに白が近寄り、黒も傍まで近づく。



「……あの記憶…、あれは俺…? 俺は…あの場所で…」

「キル………」


「…………違う…、違う! あれは俺の記憶じゃない! あんなの知らない…!」

必死に言い聞かせるキルに、白もしゃがみ込み、前からぎゅっと抱きしめる。




「…………!」


「……ごめんね…。…ごめん。…………私たち…こんな事しか出来なくて………」


「………………」



ジッとして、ポツリと問いかけるように声を出す。



「……俺は……何なんだ…?」


「………………」


「俺は本当に…人間なのか…?」


「………………」


二人共黙り込んだままで、遅れて黒が応える。


「………わからない…」



黒を見上げる。




「…わからないから、俺達はここにいる…。……キル、記憶を戻したくなければ、無理して進まなくていい」


「………ぇ…?」


「自分がツラくてどうしようもなくなりそうなら、いっそ何も知らずにこのまま街へ戻ればいい。…そうすれば、いつものお前でいられる…」


「………………」


白も少し離れ、視線を落とす黒とは別に心配そうな表情を向ける。


「………………」




本当に心配してる。

このまま戻って、いつもと変わらない日を繰り返す。


そうすれば、ツラい記憶、悲しい記憶、嫌な記憶を思い出さなくていい…。





……………このまま…、日常に戻れば…。


























「…………そんなの…、間違ってる…」


ボソリと吐き捨て、二人を見上げる。





「ここは俺の記憶で、意識でもある。けど、俺の現実はここなんかじゃない。俺がここで留まっていたら、今現実に居るネリルやシュールはどうなるんだ? 今までの記憶を思い返せば、危険な事に巻き込まれてる」


フッと地面に目を向け、拳に力を込める。

「ここは俺の夢だ。

だったら、俺は最後まで知って、アイツらを助けたい。…トレスが危険な状況になってるって言ってたなら、尚更だ」


「………キル…」


すくっと立ち上がり、黒を真っ直ぐ見て意志のこもった瞳を向ける。


その眼は青く澄み切っていて、綺麗な瞳をしている。




「行こう。次の場所に」


「…………分かったよ」


息をはき、頭をかくと小さく微笑を浮かべる。



「お前がしたい事をすればいい。俺らはそれに乗っかるだけだからな…」


「…………サンキュ…」


あ、と声を出し、まだしゃがんでいる白に顔を向ける。



「さっきはありがとな…」


「……キルぅ…~」

うるっと目に涙を溜め、嬉しくなってばっと泣きながら抱き付いてきた。



「ばっ、また抱き付くんじゃねーって!?」


「だって、だってぇ~」

わんわん泣く白に頭をぽんぽんと撫でるように手を置く。



「おら行くぞ。次の記憶に間に合わなくなる」


先に歩く黒に言われ、キル達も次の場所へ向かう為歩き出す。


「おう」

「うん!」

「やべーなこりゃ…」


赤い服を着た金髪の人物がぼそりと呟く。

周囲はどこかの荒れ果てたビルの中で、朽ち果てたガレキの横にピンクの髪をした少女が眠ったままで、その隣でネリルが座った状態で見上げる。



「どうしますか?」

「ふん。どうもこうもねーよ。わざわざこっちまで来させたんだ。キルをちゃんと送り届けなきゃな」


隣で旗を構えているシュールにそう言うと、遠くでシャンクが立っており、眠った状態のキルが傍らで眠っているのを確認すると、真っ直ぐ前を向く。





「そんじゃ、いくぜ!」

「えぇ!」

「わぁ~」


賑やかな大通りと沢山の支店が並ぶ街の入り口で、キル達三人は中の活気ある雰囲気を見渡す。



「ここがシダンか」

「みたいだな」


「俺、こんな街まで来てたんだな」

「だな。白がすげーはしゃいでるし」



きゃっきゃと子供のように街中を見ながらはしゃぐロリを見て、フッと鼻で小さく笑ってしまう。



「ん? どうしたんだ」


「いや、なんかさ。子供だとあーやってすげーはしゃぐよな。新しいものや、見たことのない物を見るとつい興奮して、好奇心と探求心が強いのも含めてよ」


「白は子供みたいなもんだからな」

「お前は逆に大人みたいだろ」

横目で見て、街中を歩きながら前を歩くロリに目を向ける。



「ここに来た俺…、それにシュールとネリルって奴は、なにしてたんだろうな」


「案外遊んでたんじゃねーの?」

「それお気楽すぎるって」

おかしそうに笑うキルを見て、赤毛がふと思った事を口に出してみた。





「お前、無理に笑ってないよな…?」


「無理なんかしてねーよ」


意外にも直ぐに返事を返し、後は何も言わず歩くまま。


「…………………」



本当に、笑ってるようには見えねーのに…。





暫く街中を楽しみながら歩いていると、先を歩いていたロリが公園の方で手を振って呼び掛ける。



「こっちにあるよー」


「おぉ」

近寄り、正常に浮き上がっているカードを見ると、ある事に気がついた。


「…あれ? これ…8って数字になってるぜ?」


「え? ほんとだ。あれ? なんで…」


「さっきのトレスってガキだろうな」


疑問を浮かべていたキルとロリの後ろで、赤毛が冷静に口に出す。


「トレスって…」


「やっぱりか…。さっきからどうもおかしな感覚があったんだよなぁ。出現時間帯が若干早まっていたし、違和感があったのも恐らく、トレスってガキが元々あった記憶に上乗せしてお前に戻したんだろ」


「え…、ってーと、どういう事だつまり」


「本来の記憶のカードに一枚、別の記憶で上書きしたって感じだ」


「あ、じゃあさっきキルがトレスって人に記憶を戻された時が、七番目の記憶だったんだね?」


「だな。どうりで一カ所、出現しなかったわけだ…」


やれやれと溜め息をつく。

「出現しなかった場所があったのか?」

「シュールって眼鏡の家で一度泊まっただろ。その翌日の早朝に出る筈のカードが出なかったんだよ。まぁ…、順番的にちゃんと一番目から戻せたし、場所を間違えたと思ってたから間違いかと思ってたが、あれが七番目だったらしいな」


「それ出発した時とかに言えよ」


「面倒だった」


「………だと思ったよ…」


呆れた顔をして、目の前に浮かぶカードを見つめる。



「…………よし」


準備を整え、カードに触れる。





最初と同じように、視界がフッと真っ白になり、記憶が流れ込んできた。

「あぁ~、ここがシダンか」


キルが街を見渡す。


「あたしここで王子に会ったんだ~」



ネリルが後ろに手を組んで話しかける。


「は? 王子ぃ?」


















〈ー…さて……、今宵は皆様に素敵な幻想マジックをお見せ致しましょう〉


肩にかかる程度の黒髪を後ろだけすいた男性が、複数のトランプを自分のまわりでクロスさせるように無限に回転させている。


「すげ。どうやってるんだ? あれ」


「あれはおそらく奉マジックでしょうね」






























「お前ら誰だよ」

「な! 私達の制服を見ても分からないのですか~!?」

ワインレッドの髪の女がのんびり口調で目を見開く。

「わたくし達はミスティルという街の聖堂院、“ダイヤモンド女学院”の生徒ですわ」

「俺は見たぁ!!」

「うおっ!?」

「にっ!?」


ビクッとして二人共後ずさりして男を見る。


「見たぞぉー? お二人が人気のない場所のここでイチャイチャしちゃってるのをー」

「イチャついてねーよ!?」

「あ。君はさっき会った人」

ネリルがキョトンとして見上げる。


「いやぁー。お若い人はいいなー。俺も若くなりてーよ。っつってもこれでも若い方なんだけどなー」


「うらぁ」

「ごふぅゥ!!」

ガンっと鈍い音を出して地面に倒れる男。

スケボーの下端を踏み縦に上げて地面に降り立つ女。



「おら貴様。何またちょっかい出してんだゴラァ。死にたいのか? んん?」

ゲシゲシと片足でうつ伏せに倒れてる男の背中を踏みつける女。


「……頭はキツいっすワー…。許してちょー……」

「なんだまだ反省していないのか」


更にゲシゲシ踏む女。


「…今のすげー痛そうだったんだけど…。鈍い音したぜ? な」

「に」






















「じゃ、俺ら行くわ」

男を引き連れ背を向けて歩き出すが、何か思い出したのか、ピタリと止まってネリルを見る。


「あ、そうそう。“何かに”襲われても魔力使いすぎんなよ。お嬢さん」

「に…?」


「あと貴様」

キルをビシッと指さす。


「な、なんだよ…」


「…自我を失うなよ……」

少し声を低くして忠告するように言う。


「はぁ?」


「んじゃ。バイビ~」

背を向けて歩き出す。

「ちょっ、待てって! どういう意味だよそれは!」


「え!? もう帰るの!?」

「あ。起きたね」

ネリルが真顔で呟く。


「バイバーイ!我が友ー!」



「誰が友だ!! 待っ…ー!」

キルが追いかけようと一歩足を前に出した途端、二人共高くジャンプして木から店の屋根へと移動し、やがて姿を消した。






「だぁ~もぉ!! またシカトかよ!! 何回目だこれで!?」

「……………」



ゆっくり目を開け、周りを見渡す。



「慣れてきたのか、あんま吐き気もしなくなったな。にしても…」


ぼーっと空を見あげる。




「なんか、変な記憶しかなかったな…」



「な、なに、どうしたのキル」

「相当変な記憶だったんだろうな。遠くを見てるようだ」


別の意味で心配するロリと理解する赤毛。



「やっぱ遊んでたのか俺、まじで呑気過ぎるな」


「自分に言い聞かせてんのか? 誰にだって休息は必要だ。今のがその時の記憶だったんじゃねーの」

他人事のような赤毛をジトっと目を向け、はぁ、と息を吐く。


「休息ねぇ。そう思うようにしとく」

「おう。そう思っとけ」


「じゃあ今も休息しねぇか? ずっと歩きっぱなしだったし、腹も減ってきたしよ」

キルの提案にロリがパッと表情を明るくして賛成!と言う。


「だな。俺も正直、休みたい気分だ。少しなら時間も間に合うだろうしな」


「んじゃ…どうすっかな。これだけ支店が並んでるし、あ。そうだ。お前ら食べ物食えるか?」


「食べれるけど、ちょっとだけなら」

「俺ら腹すかねーからな」


「へー。シュールんちで紅茶も飲めたし、一応食い物も食べれるんだな。味覚とかちゃんとあるのか?」

「あるよ。人だったから、その辺は大丈夫みたい」

ってーと、決まりだな。



「前にシュールから土産で貰ったもんがここ、シダンにあるんだけどよ。ちょっとそこに寄ってもいいか?」


「距離がなければいい」


赤毛とロリを引き連れ、とある店の前にたどり着いてある食べ物を注文する。



暫くして手渡されたみたらし団子を二人にそれぞれ一本ずつ手渡し、ロリと赤毛がまじまじと団子を見る。

「これってなに? 見た目美味しそうだけど」

「みたらし団子っていう食べ物だよ。世間一般に知れ渡っていて、言うなれば和風デザートっていった所だな。お茶とすげー合うんだぜ? 食ってみろよ」


説明したあと、キルが先に一口団子を口に運ぶ。

それを見て続けるように二人も食べてみる。



「…お、美味しい! それになんだか甘くてモチモチしてる!」

「変わった感触だな…。うまい」


大絶賛する二人にキルが笑いかける。

「だろ? シュールが土産にこのみたらし団子を食わせて貰った時、俺もこの味と食感にはまってさ。時々「CLARK」のデパートでも出してんだよ」


「こんな美味しいのはじめて食べたかも」

ほころび、パクパクとみたらし団子を食べる。


「良かった。気に入ってもらえて」

「キルにしてはいいもんチョイスしたな」

「してはは余計だろ」


そういう赤毛も表情に若干笑みがあり、団子を食べる。


三人共食べ終わり、ロリが満面の笑みを浮かべてお礼をする。


「ありがとうキル。こんなに美味しいの食べさせてもらって」

「さんきゅ」


「いいって。俺も小腹すいてたしさ。次の記憶んとこ、案内してくれよ」


「任せろ」

残った串をゴミ箱に捨て、次の出現ポイントへ向かった。

…………………ー。








嗚呼………。


君は何故、そこに居てしまったのだろうか。





ダーク・アイ機関本部のコンピューター管理室、暗闇に唯一の光りとなる小さく宙に浮かぶスクリーンを眺める男性。



その画面にはありとあらゆるデータが流れており、ある人物のデータが表示され流れが止まる。







……何故、君はこうも沢山の人種に好感をもてるのか。

自らに理解が出来ないよ。




小さく呟きながら画面をじっと見つめる。




ほんの少しの笑みは、キル達があの街ではじめて彼と会話した時と同じように…。








だから、

笑わないでくれ。


お願いだから、

笑わないでくれないか?


俺にも他人にも、他者に者達に影のない笑みを見せないでくれ。








ゆっくりと人差し指をスクリーンに向けてタッチすると、画面の色が真っ赤に染まりだした。







君が笑っても、






意味をもたないからーーー

















「………そろそろ…、覚醒してもらうよ…。


不完全な操作体…、“キル・フォリス”…」

「…んじゃ、これに触ってくれ」


シダンの大通りで赤毛がキルに促し、頷いて手をかざしながら触る。



キン…と耳鳴りが起こり、何時もの目眩と記憶が流れ込んでくる。




「ー……ぐっ」




















ー……ー…………



























「…………お前…!」




「久しぶり。というのが正しいかな?“不完全な操作体”の、キル君」













ザ…ッ




















「ーーーいやぁあぁァァアァァァッ!!」




「ネリル…!!」













…ザッ…ザザッー…ー















「そう焦らなくてもいいんじゃない?どうせ遅かれ早かれ、同じ時間で動くんだからさ」


「………だから…、時間構成を変化させるために俺達は行動している…」



「…何も分かっていないくせに…っ」








…ザザ…ザッー…ザー……ー

「ー…っは」

息をあげ、ガクンと膝をつき汗を流す。


「キル…!」

すぐさまロリが駆け寄るが、手に触れると身体が熱く、触れない程の皮膚になっている事に気がつく。



「…なんだ……? いつもと違う…」

赤毛も近寄り、眉を潜めてキルの様子を窺う。




息をするのもやっとのようで、激しく呼吸を繰り返している。




「…ッハァ…ハァ…、…ハァッ…っぐ…ァ」


額に手をあて、頭が激しい激痛を伴い始める。


「キル!? どうしたの!?」



「…ぁ……頭が…っ! 割れ…そうだ…ッ」

「キル…! ………ーっ」


触れた瞬間熱さにとっさに手を引き、どうすればいいのか分からない白が黒を見上げる。



「どうしよう黒…」


「……おい、おかしい…。まだ出現する時間じゃねぇのに、次の10と11がもう現れてる…」


え?と理解できない発言に声を出すと、遠くから二枚の黒く染まったカードが猛スピードで飛んでくるのに気づく。



「あれって…」


二枚のカードがキルに触れるように当たって消え、その瞬間、目を見開き何かの映像が頭の中に流れ込んできた。








「……………ー!」






























ザッザザ…ーーザッ






























この子の名は…“キル”。















“キル・フォリス”だ……。
















人を、全てを殺し、死へと導いて無くしていくキル。



姓が“フォリス”、

名が“キル”…。







違う…っ、こんなの……俺じゃない…ー
















自分の悲しみと他人の苦しみが互いに交差して、





どうしようもない位に酷い結末になったとしても、




今もアナタを…ー










ザザッザザッー…ーー







俺の居場所はここじゃない…!


こんなところじゃないんだ!!







「この子の名は、“キル”だ…。



生まれた意味を知らず、

生きる意味を持たない。

この名が最も相応しい名前だ…。











…………キル…」






止めろ…。








止めてくれ…っ

ー……知る事を…



…知ってしまう事を私は…


誰よりも恐れていた。




私がこの先の結末を、

果てしない未来が私にも、みんなにも訪れる事が怖かった…


凄く怖かった。

誰よりも怖かった。








…ーザッ…ザー









変わる事を信じても、





結局、





変わらないまま……






永遠と続く…

同じ時間……………。












悲しい……。




凄く悲しくて…、いたたまれない…。







もう…いい…。





いいんだ……。





ー……ーー……ー



















ここに居ても、どうしようもなくツラい。










私は……






私ではなくなったもの……ー







……俺は…


……俺のいる場所はどこなんだ…?



………どこにいれば、いいんだよ…。














「ー……誰か……



………………教えてくれよ……。










……俺の居場所……ーー」
























………ー…で……








間違えたんだろうね……















ー“キル”………ー

「ー…………ろす…」


俯いて息をあげていたキルの震えがピタリと止まり、白がえ?と声を出す。



「…今…なんて……?」



「……殺…す…」


ゆっくりと顔をあげ、見ると、青い瞳がキン…と赤い瞳へ変化していく。




「キ…っ」

白が呼び掛けるのと同時に、キルのまわりから強い突風が起こり、その衝撃で白と黒が吹き飛ばされてしまった。




「きゃっ!!」


「うぁ!!」






手を下ろし、地面から彼を中心に青い炎が現れ包み込んでいく。


白と黒が飛ばされた身体を何とか体勢を戻して着地し、彼に目を向けると、炎が足元を回転するように勢いよく出ている。


先程とは打って変わり、無表情な彼。


瞳を見ると、真っ赤に燃え盛るような赤い瞳に変化している。






「………キ…ル…」


震える声で白が見つめる。



まわりを歩いていた街の人達は、何事かとキルから逃げ出している。


黒は直ぐに状況を把握し、白に指示を出す。





「白! 守りと攻撃体勢に移れ! 出なきゃ殺されるぞ」


「…黒、もしかしてキル…」


あぁ…と小さく頷き、キルに警戒しながら顔を向ける。





「…どうやらトレスって野郎の言ってた通り、どっかの誰かがチップを制御して自我暴走を引き起こしてるらしいな…」


「そんな…!」





二人がキルを見ると、手をかざし回転していた青い炎が向かってきた。



「横に避けろ!」

黒の指示に従い、二人同時に横へ飛んで炎を避け、地面に当たり消える。




「くそっ、まさかここで使う事になるなんてな…っ」



地面に着地しつつ右手が黒く光り、同じ色でかたどったレイピアが現われ握り締める。


「………っ」

白も着地し、立ったまま右手に左手をかざすと、白い光りを帯びて真っ白な杖が現れ握る。







「………………」


そんな二人を見てもキルは眉一つ動かさず、右手を横に振ると、巨大な青い炎が一気に二人に押し寄せてきた。




「くっ!」


レイピアを振り回して闇の属性で強い風を作り、目の前でバリアを張る。


が、予想以上に押しが強く、表情を歪める。



白は杖を横にして振りかざし、炎を別の方向へ飛ばし回避した。

「…キ…ルっ」


バリアを張り続けてなんとか耐えきり炎を消す。



「ごめん…キル……」

白が杖を縦にして構え、足元に白銀に光る陣が現れると、詠唱を唱え始める。




「はぁあぁぁぁぁ!!」


地面を強く蹴ってキルに突っ込み、素手である彼にレイピアを振りかざす。


「……………ー」


無言のまま右手でレイピアを掴み受け止め、闇属性の力が激しくぶつかるが、全く影響がない。



「……ぐっ…くそ…」



ギリギリと力を強めるが、右手で握ったまま肘を曲げ、黒の横腹に強い蹴りをいれる。



「………が…っ!?」


レイピアを取られ、横に飛ばされ倒されてしまった。



「…………っ」


蹴られた箇所を手で抑えながら痛みに耐える。


休む隙もなく、黒の直ぐ上に立ち、奪い取ったレイピアで顔に突き下ろす。

とっさに察知して顔を横にずらし、レイピアを上にあげる前に握り締める。



「そうだよな…、元々お前の中にある属性なんだから…、闇も扱えるよな……」


キッと目を鋭くし、話しかける。


「正気を戻せよキル…。っ……操られるとか…、嫌だろ…?」


「……………ー」


赤い瞳は見開かれ、殺気をもったままレイピアを引こうとする。

無表情な彼に尚も戻そうと話しかける。




「…自我を失うなよ…、お前は…、お前なんだからよ…っ」


グッと握り締め、レイピアを自ら消して新しく作成し、横に振りかざす。



「…………ー!」


状況を直ぐに把握して反射して後ろに避けるが、僅かに頬をかすめ血が流れる。




「………くっ…、白!」


「うん! ホーリーチェイン!」


詠唱完了した白がキルに杖を向けると、真下に同じ白い陣が現れ、白銀に輝く鎖が三カ所から現れて手足に巻きつき束縛する。




「………っ!」


身動きが取れず、白の近くに立つ黒が彼を見る。



「……キル………」


「殺す…、殺してやる……。…全員、皆殺しにしてやる…!」


小さな含み笑いを向け、普段の彼とは違う豹変した姿に白が見ていられなくなり目を逸らす。

「なんで…殺すの…?」


「殺す……殺す…。お前も全員……」


「キル………」



「殺してやる…!」


「キル!」


声を張り上げるが、同じ言葉を何度も繰り返すキルに黒が無駄だと応える。




「今のあいつは殺す事しか頭にない。何聞こうがずっとあの調子だろうな…」


「……でも…」

「それに………」


キルのかすめた箇所を見るが、傷がどこにも見当たらない。



「…思ったより、ヤバいかもな……」



「あぁァァァァァァ!!」


拘束されていた鎖を無理やり炎をあてて解き、白の方へ走り出す。



「………!?」

とっさに杖を構えるがもう目の前まで来ており、手を振りかざして炎をあてる。


「きゃあっ!?」

手の甲に炎が当たり、燃えはしなかったが火傷をおってしまい杖を落としてしまった。



「白!」

「死ね死ね死ね死ねっ!!」


「………キ…ル…」


拳を握り締め、青い炎を巻きつけて振ろうとする。


そんな彼を怯えた表情で見上げる白が名前を呼びかけても全く反応がない。



「目を覚ませ、キル!」


「……っ……ー!!」



ドスっと鈍い音が鳴り響き、白に振る前に動きを止めて炎が消える。


黒が背後からレイピアでキルの腹部に突き刺し、抜き取ると少量の血しぶきがおこり服に血が滲んでいく。




「………っ…ー」


「黒!」


すぐさま黒の首を掴むが、ふらりと力無く横にずれて倒れてしまい、気を失ってしまった。






「…………………」


シュウと音をたててレイピアを消し、白は倒れたキルにしゃがんで駆け寄る。


「…キル……、血が…」


「見ろ…」


黒がそう言うと、破れた服から見える皮膚の傷口が徐々に治っていき、服や地面に流れ落ちた血液も傷口へ綺麗に戻っていく。



「…なに………これ…」

遂には通常の皮膚の状態に戻り、傷など無かったかのように再生した。




「…傷が……、…なんで…」

「…………………」

黙ったままの黒を、白が訳が分からないと訴えかける。


「……わからない…」

ぽつりと呟くように言葉を出し、しゃがんでキルを眺める。



「………………」


無言で眺めるように見つめて、フッと俯く。


「分からないんだ…」

彼らしくない応えに、白も黙ってすすり泣く。

ーー……コッ…コッ…コッコッコッー




誰かがどこかの施設を走っていて、ある大きな白い部屋に入る。


ピンク色の髪の…女の人…?


中央に一つの白く透明な棺桶のようなカプセルがあり、中に誰かが安らかに眠っている…。


まわりは何もないただの白い空間。

そのカプセルが開き、中で眠っている人の手を両手で握りしめ、何かを言っている…。



…この記憶は…………?





誰の記憶なんだ…?














ーやっと…、見つけた…


…やっと…、光りが補える……





〈お前は……〉






でも…、まだ駄目だな…

………本来の………自分に……覚醒しなきゃ………いけない…



〈本来の……自分………〉




…もっと導け……


















〈俺は…………、






























“まだ不完全だから…ー”

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