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ーもう一つの夢現ー


「…………くくく…」

………………。


うわ。コイツ後で殺す。



「なら安心ですね。あ、何か飲み物を召し上がりませんか?お茶、コーヒー、紅茶全て作れますよ。リクエスト受け付けます」


「何から何まですみません。じゃあコーヒーのブラックで」

「ご所望早いな」

キルが前からつっこむ。

「えっと…、じゃあ私は紅茶で」

「種類は希望ありますか?」

「あ、ダージリンで」

「承知しました」


「俺はいつもの紅茶でいいからな」

キルも希望すると、笑いかける。

「分かってますよ。出来上がるまで多少時間がかかるので、そこのソファーで寛いでいて構いませんよ」

一礼し、言い残しながら台所へ向かう。



「……妙に礼儀正しいな…」

「ホント。執事みたい」

シュールの背中を見送る二人は、言われた通り白いソファーに座り、ロリはコートが入ってる袋をそのまま机に置く。


「案外前は執事だったりして…」


冗談混じりで呟き、俺もロリの隣に座ったあと、またある疑問が頭に浮かび上がった。


「あれ?そういえばお前ら、俺やシュールの記憶ある程度知ってたけど、シュール自身の記憶は知らねーの?」


「うん。私達はキルが知ってる記憶だけしか知らないから、キル以外の記憶はあまり分からないよ」

ロリが応え、赤毛がソファーに体重を乗せる。


「まあ、俺達も知ってる記憶はあんま無いしな。十三枚のカードにした記憶は俺やコイツだって記憶にねーし」

「記憶に無い……。んじゃ、お前らは属性でも、ちゃんと記憶する脳も感情も自我を持ってるんだな?」


「そうだね。って言っても、一緒に属性に変化した肉体を使ってるだけなんだけど」

「ふーん………」


生半可な返事で返し、ついでなんでカードの事も聞いてみる。

「記憶を全部取り戻したら、俺がここにいる謎が分かって、この夢みたいな世界から目が覚めるんだよな? カードの枚数にも、何か関係があんのか?」


「…………トランプ」


「は?」


「トランプの1からK(キング)までの数字の数だよ」


あー、そうゆう事。



「なかなかシャレた事してんな」


「まあな。ランダムでカードに収めようかと思ったんだが、出来た枚数が丁度トランプの枚数だったからな。それに合わせて分かりやすいように、出現時間の順番通りに数字を付けた」

「ダイヤのマークは何だ?」


「四つのマークに分けるのが面倒だったから適当に全部とっさに思い浮かんだダイヤにした」


うわ。
そこら辺は適当なのかよ。


「うん…。大体分かった…。何か、俺の記憶って改めて思う。無駄に便利だ」


「本当だね」


にっこり笑うロリだけど、若干嫌みが入ってるのに気づいてないな。

別にいいけどよぉ…。



「おや、お三方盛り上がってますねー。出来上がったのでどうぞ」

トレーに乗せたカップをそれぞれソファーの目の前にあった机の上に置く。


「冷めない内にどうぞ」

「わぁ。有難う御座います」

「………ズズズズ…」


ロリが嬉しそうに紅茶を丁寧に飲み、赤毛は音を出してコーヒーを一口飲む。

「とっても美味しいです」

「……うまい…」

「テメーら飯は食わないのに飲み物は飲むんだな?」


「えっ、な、何の事かな?」

とぼけてもそんな口調だとバレバレだぞロリ。



「それで、まだ名前を聞いてませんが、お二人の名前はなんと呼べばいいですか?」


『…………………』

その質問に二人共カップの中を見たまま黙り込む。


忘れてた。

名前ねーし!!
ちゃんとした名前がねー!
あるのは俺がつけたあだ名みたいな名前だけだぞ!?


「おや、どうしましたか?」


首を傾げるシュールに、なかなか言えずにいる二人を見て変わりに俺が教える。


「コイツら名前で呼ばれるの嫌でさー。あだ名で呼び合ってんだよ」

我ながらナイスフォロー。


「あだ名…ですか?」

「こっちが『ロリ』で、そっちが『赤毛』だ」

二人を指差しながらシュールを見ると、不思議そうな顔をしてる。


「ほー…。なかなか個性的なあだ名ですね。恥ずかしく感じないんですか?」

「う………」

もっともな疑問だ。

「んーん。ぜんっぜん!全然恥ずかしくないよ!だって私このあだ名すっごく気に入ってるんだもん!」

ロリが顔を真っ赤にして頑張ってる。自分でも恥ずかしいのを自覚してるらしい。

そんなに無理しないでくれ…。
つけた俺が泣きそうだ。


「そんなに好きなんですかー。とってもいい子ですねー」

シュールものるか。
というか、いい子なのか?


「ロリ壌と赤毛ですね?では私もあなた方の事をその言葉で呼びましょう」


「からかう為に呼びそうでならない…」

赤毛ー。ストレートすぎだー。


「まっさかー。赤毛にも赤という色で沢山の特徴をもっているじゃないですかー」


「例えば…?」


「血」


「…………………」


いや、生ぐせーよ…。


「冗談です」

「…冗談に全く聞こえなかった……」

「すみませんね~」


ここでもやっぱりいつものシュールで、俺は苦笑いしながらさりげなく赤毛の顔を伺う。

「……………………」



……………。


…なんだろうか。

外見は全く普通の人に見える。
けど、無表情な顔にはハッキリとした生気を感じられない。

生に諦めてるようにも見えるけど…、本心はどんな事考えてるんだろうか…。

「………ん?…………なんだよ」


顔をこちらに向けてきたので、慌てて目をそらす。

「い、いや、別に」


「…………………」

無言で何も言わず、コーヒーに視線を移し飲む。

何も考えてないのかもな。ホントに。

「ねえキル」

ロリが紅茶が入ったティーカップを持ったまま俺に声をかけてきた。

「ん?」

「ちょっと話し、いいかな?」

すると、シュールがニコニコして明るい声をだす。

「いいですよ。貸出し無料です。ですけど必ず返してくださいね。お持ち帰りはできませんから」


「ちょっと待て、俺はレンタル商品扱いか」

「うん、わかってる。すぐ返すから」


「シカトパターンかよ」


でもすぐに話しをしたいのか、
残った紅茶を飲み干して机に置き、ソファーから立ち上がって隣で座ってる俺の手を取る。


「いこ?」


「あ、あぁ…」

そんなに長くならないと思うから、まだ少し残ってる紅茶を机に置いて立ち上がり、手を引かれるまま外に出た。

あんまり遅くもないし、今の時間帯なら変な奴とかいないだろ。

外に出ればやっぱりまだ他の家や店やらで多少明るい。家の前にある街灯がサイドに設置されていて、ほんのり赤い色で地面を照らしている。


「で、何の話しだ?」

横に立つロリに話をもう一度持ちかけると、微笑を浮かべたまま手を離し目を合わす。

話しの内容は大体察してるけどな。


「あのね?キルの記憶の事なんだけど、明日から記憶を戻しに行くじゃない?その事で少し心配事があって…」

やっぱりか。

俺に話しをする事といったら記憶の事だな。
けど、心配事ってなんだ?


「いま現時点のキルは十三の記憶の内一つだけ取り戻したけど、少し後の記憶で内容がよく分かってないじゃない?」

「ん…、まあ……」

シュールんちで赤毛と似た黒いコートを着た二人が、俺の事で何かワケの分からない事言ってたけど、確かに話しの内容を未だに理解出来ない。それに、なんで家の中で俺とシュールを襲ったのか……。



「本当は順番通りに記憶を取り戻させたかったんだけど、説明する為に…ね。明日の記憶戻し、出来れば出現するカードを一枚も逃さないようにして欲しいの」

「一枚も、か?」

「うん。一枚でも逃しちゃったら、後からその記憶を戻しても記憶の順番がごちゃごちゃになっちゃうと思うの」

「………………」


確かに。後回しにして次に記憶を取り戻したとしても、何から先でどれが後だったのか分からなくなりそうだ。

って、結構非現実的な事言われてるしそれについて真剣に考える俺はある意味すげーな。


「だから、その………」

「出現したカードを逃さないように慎重に取ればいい。だろ?」

ロリが言いたい事を俺が変わりに言うと、うん、と笑みを浮かべて頷いた。

「…分かってる。俺自身の事だからな」


本当は出現時間をもっと長くすれば軽く済む筈だけどな。


………にしても、赤毛の無表情とは違ってロリはロリで分からない。

笑ったり、泣きそうになったりと感情を表に出すけど、大体が微笑を浮かべているし、その笑った表情はちょっとだけ作ってるようにも見える。

「…………な、なに?」

ジーッと顔を眺めていたので、ロリがどんな反応をすればいいのか迷ってる。目を泳がせる動作は本来の人間と変わりないな。これは本当に困ってるのかも。
 
「親切に忠告、ありがとな」

くしゃりと頭に手を置いて銀髪を軽く握り撫でると、見上げていた顔を照れるようにはにかむ。

「えへへ…。どう致しまして」

……………。

分かんねーな。
やっぱ人間にしか見えない。

だけどドアを開けて中に入ろうとする足を止め、最後に放った言葉に疑問を持った。


「あ、でも自分の記憶を嫌にならないでね?」


そう言い残して先に中に入って行った。


嫌にならないで?

それってつまり悪い記憶しかないって事なのか?

更に解釈しようと思ったけど、今日は今日で色々ありすぎて深く考える気にはなれなかった。

というより、考えても考えても、結果はどうせ分からないと思うし。







……………。











「………これからも、変わらない日常だと思ってたのにな…」







夜空を見上げ、微かに見える星を見て目を閉じる。







これからも……。





俺がシュールの家に住まわせてもらって、さほど長く経っていない。ここに居て何もない日常が続いたから、そのまま普通が続くかと思ってた。


けど……………、

何かが起こるんじゃないかって、内心では感じていた。








“何も起こらないワケがない”







誰だか分からない声が、俺に何度も言い聞かせるように。







馬鹿な事考えてるよな…、と思っていても、それでもそんな気がしてならなかった。



「………………」

目線をドアに合わせて、まだ電気がついてる家の中に入る。


記憶を戻すのは明日から。

今日何から何まで一気に聞かされ、記憶まで戻されたのだからここが夢だと信じざるを得ない。例え信じなくても、無理やりにでもアイツ等が探させる気もする。

特に赤毛が。




とにもかくにも、こうして現実のような夢の世界で、早かったようで遅くも感じた1日目が終わった。

…………………



ー現実時刻ーPM9:40ー














 「………………。…キルの様子はどうですか?」

シャンクがすぐに手配してくれたおかげで、シダンの宿の内一室を借りる事ができた。

あったかいミルクティーを片手で持ったままドアを閉め、シュールがベッドの前で椅子に座っているハンナに声をかける。

「………特に変化はないが、眠ったままだ…」

腕組みをして眠ってるキルを見下ろしたままそっけなく返す。
だが、いつもの気迫ある声とは違い、ちょっとだけ抑えてるように感じる。

持ってきたミルクティーをどうぞとハンナに差し出すと、ゆっくり顔を向けて中身を確認し、黙って受け取るとボソっと不満をぶつける。

「ワインとかがよかった…」


「わがまま言わないで下さい。キルの事も気になりますが、一番気になるのは、彼女ですね…」

そう言ってキルの隣のベッドで眠ってるであろう少女に視線を移す。

「………………」

ハンナも少女に目を向けるが、ふいっとキルをまた見下ろす。


「チョイーっす」

シャンクが宿の主人との話しを通し終えたようで、ドアを開けて中に入って来た。

「にー。おっかえりー」

ネリルがハンナの隣でベッドに両手を置いてぴょこっと顔を出す。


「どうですか?いつまでここを貸してくれます?」


「んー。あんまり長くは貸す事は出来ないんだけど、一週間はこの部屋貸す事できるってさ」

そうですかと頷き、ハンナを見ると両手でミルクティーの入ったマグカップを膝に置いて持ったままで、飲んでない。


「けど良かったなー。共同の割にはベッドの数も多いし、一人残るけどソファー使えば済む話しだしなー」

中を歩き、ハンナ達の方で止まる。

「キル兄ぃ………」

ネリルが涙ぐみながら名前を呼ぶ。

「もう…、このまま目を覚まさないの?」

ハンナを見上げるが、表情に変わりはなく、無表情で応える。


「…どうだろうな……。あの時間じゃ、本部に制限かけられていたから…、操作されるのを止められなかった…。ここで俺らの機関に伝えていても、どうすることも出来ない」

シュールが眉をひそめ、質問する。

「…先程から意味深い名称を並べますが、その《本部》や《機関》とはなんですか?何かに対して集まった団体ですよね?」


「………………。……シャンク」

目を閉じてシャンクに声をかけると、ほえ?と軽く返事をする。

「今なら誰も居ない。俺ら機関と彼奴等の事、話してくれ」


「いーけど、このツンツンがまだ寝てるのに?」

それでもいい、と静かに了承を得させる。
わかったと返し、シュールとネリルに説明を始める。



「んーと。結構ややこしい話しになるんだけどさ、コイツと俺、“ホーリー・アイ”っつー機関に所属してるメンバーで、ミスティルの機密情報部で活動してんだよねー」

「に?ホーリー…?」


「ホーリー・アイ。直訳で『聖なる瞳』かな。この組織はミスティルに協力支援してもらってて、ある組織と直結を免れながら対抗中なんですね」

「何故敬語かはさて置き、ホーリー・アイという機関、耳にした事はあります。ですが、ある組織とは……」


「…………ダーク・アイ…」

シャンクの代わりにハンナがボソッと教える。

「闇の瞳の機関で、貴様等が本来いた時間空間で最近、妙な動きを始めてやがるんだよ…」


「…………!」

ハンナの発言に驚き、シュールがとっさに慌てたように質問をぶつける。


「ダーク・アイ?あの最高機関の組織ですよね?ですが…ー」

「何故その機関か疑問に思うか?分かってる。貴様が言いたい事は」


シュールが珍しく驚く姿に、ネリルが首を傾げる。


「な、なに?その機関に何かあるの?」


「ダーク・アイという機関は、情報機関で最も最高の位置にあり、特殊な武器や防具、道具とあらゆる物質を製造している機関なんです。大規模な人材と財力にも恵まれ、中心都市のミスティルとは支援を拒否しているのですが、製造よりもこの世界全体に目的がある集団だと聞いています」


「お~。先生意外に詳しいなー」

シャンクが関心し、話を進める。

「製造なら、機関というより会社と呼ぶのが普通ですが、ダーク・アイに所属してる集団はそれは表側で、本来の目的は“魔物と人間の生態調査”…」


ハンナがピクリと眉を上げ、キルからシュールに顔を向ける。


「以前話しを聞いたところ、私達のいた時間から言うと、この機関は約八年前でつい最近設立したようなんです。それからたったの一年で急激に高性能な武器が作られていき、今ではダーク・アイの知名度もミスティルと同じくらい高いですね」

「に、でもでも、何で会社じゃなくて機関って事みんな知ってるの?」

「一時期その機関の団体が世界中の街全てで魔物の生態を街の人に聞き込みをしたり、外で調査を行っていたりしていたからです。確か…、七年前でしたか…。その時に調査していた方が自ら教えたらしいんです。本当の目的が製造とは別にあるのを殆どの方が知ったので、《会社》でなく《機関》と認識しています」

「にー………。何だか凄い…」

「今でも武器や防具はそのダーク・アイが製造して世界中の店に売られてるのは全てその機関からですね。だから知名度も高く、機関を探りに行かないんです。物がなくなれば、職を失う者が続出しますし、何よりその本部自体どこにあるかも分かりませんしね」

意味深げな発言に更に首を傾げる。

「に、それっておかしくない?武器を店に届けて、調査までして知名度も高いのに、何で誰も場所が分かんないの?」


「店に届けるのは、その本部からではなく、別の場所から届けているんです」

すると長々と話していたシュールの隣でシャンクも説明してきた。

「そーそ。武器製造は機関内でなんだけど、完成品はまた別の場所にいって、そこで街の店から依頼が来たらそのまま送るんだよねー。しかもミクロバックを使った研究員が」

「け、研究員…?」

「いつも届ける人は一人で違う人なんだけど、全員白衣着てていかにも研究してますみたいな格好してんだよねー。んで、武器やら道具は箱詰めされたやつをミクロバックリングから取り出して、そんまま帰る」

あそーそ、と思い出しながら指をパチンと鳴らしてネリルに人差し指を顔の前で立てる。

「行き帰りが傑作なんだぜ~?予め機関から届けられる黒い伝書鳩に依頼を書いた手紙を足にくくって飛ばしたら、一時間後にどこからともなく黒い霧で店の前に現れ、帰る時もその場で黒い霧に包まれたかと思えば浚われたみたいに消えるんだ」

「き、消えるっ!?」


「跡をつける事も出来ないし、連絡先の住所なんてのも鳩しか分かんないしさー、その送り先の場所も誰も分からないんだわ。俺ら機関も」

「一時期凄い噂が広まってましたよ。キルも私が言った話しも噂も聞いて分かるので、今話してもいいでしょう。ダーク・アイではその魔物や人間の調査を行ったのは、多くの研究員が「何かの実験をする為ではないか…」とか、「死者を蘇らせる実験の為」との推測が口コミで出回っていましたね…」


「にぃ…………」


少し青ざめて視線をキルに向け、またシュールやシャンクを見上げて質問をする。


「だ、だったらミスティルに調べさせたら良かったんじゃないかな。中心都市だし、城もあるでしょ?」

「最初にも説明した通り、ミスティル自体ダーク・アイ機関とは関わりを一切もっていません。武器道具の輸出はあちらが全て手配していますし、ミスティルはこの世界を支配してる唯一、一つの街です。王宮はありますが、その陛下だって世界の秩序と平穏を保っているんです。ダーク・アイとは直接敵に回したくはないと考えるでしょう」

「うぅ~……。難しいね…」

キルが寝てるベッドに顔を突っ伏し、うなだれる。


「ぶっちゃけ、俺ら機関とあの機関がどうゆう関係に見える?先生」

シャンクの問いかけに、そうですね…、と間をおき、自分の考えを述べる。

「あなた方は、ダーク・アイの機関と敵対しているように見えますね」


へー、と関心したように軽く笑いかける。
どうやら当たってるようだ。


「………その言いぐさだと、俺ら機関が何故ダーク・アイに対抗してんのか、大体は察しがついてるようだな?貴様」

ハンナがシュールに答えを求めるように問うと、力なくニコッと笑いかける。


「妙な動きというのは、その噂である可能性があり、それを調べさせる為にミスティルが協力支援を依頼して、あなた方機関はダーク・アイの裏側を調査してる……。あってますか?」

その通りと右手を上げ、ニヤリと笑いかける。

「なる程…。以前の話しをして分かりました」

「ただ、俺らホーリー・アイはダーク・アイよりも遅く結成した団体で、人数も比べものにならないくらい少ない」

マグカップに入ってるミルクティーを眺め、ハァ、と息を吐く。


「あの時間じゃ俺らが貴様らを助けた事バレてるだろうし、この時間でもあの機関は存在してるから警戒は解けない。俺ら機関の本部の場所を、アイツらがまだ知らないのが幸いだな……」


独り言のように呟くと、ようやくカップに口をつけて飲む。


「ここの時間は、私達の時間から言えば何年間なのですか?」


ん?とカップから口を離し、顔を向ける。


「………ここは三年前だ」


「……………………」


三年…、と静かに呟き、そうですかと小さく返す。

何か心当たりでもあるのか、声に元気がない。


「なら、少し機関の話しから逸れますが、この時間に洋館で起こった出来事を、アナタ方は知っていますか?」


「……………………」

シュールの問いかけにハンナとシャンクは心当たりがあるようで、直ぐには応えずシュールを眺めるように見つめる。


「…外部にはもらしてないと思うが…、勿論俺たちは知ってる。だが、何故貴様もその件を知ってるんだ?」

逆にハンナからも質問をする。
だが隠す必要もないようで、返事はあっさりと返された。


「私も一時期あの洋館にはお世話になったので」

「ほー……………」

信じてるか、信じていないのか、曖昧に理解した反応を見せる。


「え、じゃあアンタあの洋館のい…ー」

驚いたシャンクが何かを言いかけるが、途端にハンナが人差し指を顔の前に立てて制止する。


「この話しは後だ」

「…けどなぁ………」

「………………」

手を下ろし、キッとシャンクを睨みつける。表情は無表情に近く落ち着いてはいるものの、誰かに聞かれては困るように声を押し殺す。


「…言いたい事は分かるが、今重要なのはこの話しじゃない。寝てるコイツらだ。ここで話す事じゃない……」

「………………」

グッと言葉を飲み込み、ハンナの後ろに座って見上げているネリルを一度見ると、肩を下ろし息を吐く。


「………わーったよ」

シュールに視線を戻すと、いつもと変わらず笑みを浮かべている。

少し、落ち着いた笑みで。

「あ、そうそう。言ってなかったですが、今私達やネリル嬢が指にはめてるミクロバックリング、これもダーク・アイの機関が製造した物なんですよ」

ネリルに左中指にはめてるリングを指差して見せ、話しを戻す。

「に!そなの!?」

「ええ。ついでに説明すると、マイクやキルが購入した双剣、あの店に売られていた武器防具も、全て機関の製造物です」

「あそこにあったの全部!?じゃじゃ、先生の旗もなの?」

ネリルの質問に、可笑しいようではは、と笑いかける。

「これは違います。ほら、アナタも見たでしょう?主人と取引したのを。本来は旗は武器の扱いをしないのですが、私の場合は例外です」

そう言って、優しく笑いかけた後、もう一度ハンナに向き直る。

「あくまで私の考えですが、アナタ方はそのミスティルから援助してもらいながら、本部の情報を伝って私達の居場所を特定していたんですよね?なら、シダンで助ける事も始めから予定に入っていたんですか?」

あぁー…とハンナが声をもらすと、シャンクが横から明るくシュールに身を乗り出す。


「それなんだけどさー。シダンに居るのは知ってたんだけど、他の事で色々と手間取って危うくあんたらを助けるの忘れそうだったんだよね~。ま、あん時に偶然オレが部屋に入ったから良かったものの………っごふぅ!!」

最後の言葉を言い終わった途端にハンナが座ったまま頭にかかと落としを食らわし、地面にグリグリと踏みつける。

「手間取ったのは誰のせいだ誰の?あと、部屋に飛ばしたのは俺だ。貴様は足手まといなんだよこの脳内馬鹿が」

「や~ん。ハンナちゃん毒舌~…」

「ちゃん?」

「あ、すみません間違えました。ハンナさんです」

謝ると、ようやく足を離す。


「アナタ方はいつもこんな感じなんですね」

ニコニコと現状を面白そうに眺めるシュール。


「で、単刀直入に聞きますと、アナタ方キルの“何を”知ってるんですか?」

ん?と二人揃ってシュールに顔を向けると、まずはじめにシャンクが不自然に声を明るくする。


「あっはははー。え、何?キル?誰?あ、もしかして寝てもバンダナを外してないこのツンツンの事~?やだの~。そんな知る事なんて全然、全くナッシングですぜ旦那~」

「有り得ない位に反応し過ぎです。初めてお会いした時も、シダンの部屋でお会いした時も、誰かを探していたような発言をしていましたからね。もうそろそろ、言い逃れは出来ないと思いますよ…?」

あー…、う~…と目をあさっての方向に逸らすシャンクに、変わらず落ち着きを保つハンナがぽつりと言ってきた。


「キルの命が狙われてる…」

その言葉にネリルが目を見開いて驚く。


「な…、なんでキル兄が…。もしかして…、今までアタシ達を襲って来た人たちって…」

「ダーク・アイの連中だ」


隠す素振りもなく冷静に言うので、シュールがもう一度確認する。


「確かなのですか…。それは…」

ああ、と頷き、目の前で眠っているキルを見下ろす。


「何の目的で…………」


「それが分かってたら俺たちはこんな面倒な事態になんかならないだろ。…恐らくは魔物と人間の生態調査と、何か関係を持っているのかもな…」


重々しい空気に、ネリルが涙を目に溜めてキルの顔を見る。


「なんで…、キル兄が………」


「………………………」


全員キルを見つめ、シュールはただ黙って見下ろすだけで何も聞こうとはしない。何かを思い出しているのか、それとも……ー

「ダーク・アイの連中が何を考えてるのか今のところ分からないが、キルを殺しに動いてるのは確かだ。おい眼鏡」


ハンナがシュールを見て呼ぶ。

「シュールです。なんですかハンナさん」

苦笑しながら訂正すると、まわりを見渡しながら何気なく聞いてきた。

「貴様らがコルティックっつー街で最初に襲われた時に、何か言われなかったか?特にキルに対して」


「何か………」

記憶を探り、途切れ途切れに声に出す。


「…クラミル…、シリアングル…だとか、何かの専門用語のような言葉を言っていましたが…」


「…それか…、ならチップでキルをコールドスリープ状態にしたのか……」

「チップ…。それって何?」

「俺らが何年か前に、あの機関を探ってる時にメラニア大陸付近の山道で見つけた黒いマイクロチップだ。そん時にミスティルの研究員チームに協力を取ってもらって詳しくデータを取ってもらったら、どうやら普通の技術よりも優れた最先端技術で作られていて、更に詳しく調べたら人間の脳に組み込まれていたみたいなんだよ」

ネリルが質問すると、スラスラとこたえていき、サッと青ざめる。

「の、脳…に?」


「そ。発見したのが真新かったからか、髄液が検出された。どうも気になって必死にダーク・アイの関係者が居ないか手当たり次第に世界中をまわってみたら、半年くらいしてようやく月光の森で研究員の男を見つけてな。チップについて聞き出した」

「えっ!?」

驚くネリルにシャンクがケラケラ笑ってハンナを指差す。

「あん時のこいつ凄かったぜー?聞き出したっつーか聞く前にほぼ半殺しでフルボッコして脅迫してたし」

「余計な事言うなカスが」

ギロっとシャンクを睨みつける。
 
「まあちゃんと話してくれたんだよそいつ。このチップは人間の脳に組み込み、そいつの脳の神経を操って記憶や肉体を操作できるんだとよ。まだ最終段階までいってなくて完璧なチップではないってほざいてたがな。イライラしたからとっさに…ー」

「こ、殺しちゃったの?」


「いや。頭を思いっきり蹴って気絶させた。起きたときには記憶はぶっ飛んでたし、それはそれでアイツらにバレないからいいかと思って今俺らのとこで働いてもらってる」


「……………………………」

聞いた事を後悔するように苦い表情を見せる。

「それで、コールドスリープとは…?」

「人体を低温状態に保ち、老化を防ぐ睡眠状態の事だ」

「…………?ですが、今のキルの体温は平均的で、体温が正常ですよ?」


「俺らの場合、使い方がちょっと違うんだよ。睡眠をして時々覚醒する《冬眠タイプ》と、長期に渡って覚醒する《冷凍タイプ》で分けられてる。ただ、使い方も意味も違いがあるから、冬眠タイプを《Aタイプ》、冷凍タイプを《Bタイプ》と分かりやすく区別してる」

「に…、ただ眠ってるんじゃないの?」

「コールドスリープは区別がつきやすい。なんせ、今のこいつは呼吸してないんだからな」


二人とも驚き、シュールがキルのお腹部分に手を置いて確認する。

「…………確かに…、動いてませんし、呼吸してる音も聞こえません」


今度は手首を握り、脈を計るとかすかに脈を打ってるのが分かり、手をそっと元の位置に戻し離す。


「……体に支障を起こさないんですか?」

「今はな」

「…歯切れの悪い言い方ですね……」


「もしもだが、こいつ自身このまま何年も目を覚まさないBタイプかもしれないし、数日して目を覚ますAタイプかもしれない。聞くが、こいつの中に組み込まれてるチップにインストールされてるのが、貴様がさっき言った『クラミル』と『シリアングル』だ。研究員が言った情報だから間違いはない。クラミルには“Ⅳ”しかないから分かったとして、シリアングルにはⅠ、Ⅱ、Ⅲに分けられているようだ。どれだか覚えてるか?」


「…………………」

真剣な表情で横を向き、なんとかして記憶を引き出すが、ハア、と息を吐くとこう言った。

「すみません。細かな部分までは覚えていません」


そうか、と視線を地面に落とす。

「俺らの事、ちょっとは理解できた?んじゃ、ツンツンの事はこれでいいとして、次この謎のお嬢ちゃんの話しに移そっか」

シャンクの発言によって、全員キルの隣のベッドに横たわってる少女に目線を移す。

キルとは違い、静かに寝息をたてて安らかに呼吸をとって眠っている。


「キルを未来へ飛ばしたのは、どこの誰だか知らないお嬢ちゃんだったな」

「そうだなー。てか、なんなのこの娘、めっちゃくちゃ美人でかわいいなー」

「注目すべきはそこですか…」

シャンクがまじまじと眠っている少女の顔を見ると、シュールも近寄り顔を見る。


「……………………ー!」


途端に目を見開き、一歩後ろに下がる。

「この方は…………」

「なんだ、もしかして知り合いか」

「…………………………」


ジッと少女を見つめると、俯き目を閉じる。


「いえ、私の知り合いに酷似するほど似ていたので、それに驚いただけです…」

そう言ってまた少女の顔を見下ろす。


「俺がキルを見つけた時も、この嬢ちゃん寝てたからな。…………あ」

口を開けて何かに気づく。

「に?どしたの?」

「会ったときに二人共水で濡れてたから、もしかすると体調悪くして寝てるのかも」


「あなた、濡れたままここに連れだしたのですか」

「仕方ないだろ。シェアルからこっちに空間を繋げる事が出来なかったからな。そのまま別の時空間ポイントに向かったんだよ」

「あ。だから乾いてんのかー」

シャンクがほへーと二人を見比べる。


「その時空間ポイントとは、何箇所に存在するんですか?」


「年代に関係なく、八年前から全て存在し、【シェアルロードの泉】、【洋館】、【月光の森】、【トランシュ】、【アクアテレス】の計五ヶ所にポイントされてる。つっても、この次元移動が出来たのも俺自身で見つけたわけじゃないし、“誰かが移動できるように”見えない空間で隙間をつくったのかもしれない」

「誰か?あなたがつくったわけではないんですか」

「隙間を見つけられたきっかけが、元々持っていた俺の能力に反応して、近くに寄ったら偶然見つけたんだよ。その隙間を。零力(ゼロリョク)と葵光(レイチョウ)の二種類しか持ってないが、可能性としてはこの二種の力に反応するように空間が開けるようになるんだろうな…。現実的に考えればすげー事だけど、その“誰か”がこんな誰にも出来ない事を実現させるなんて、もはや神としかいいようがない」


「神…ですか……」

シュールが少々控えめに呟く。
それからシャンクが腰に手を置いて開いた手の人差し指をくるくると上に掲げてまわす。

「だから俺らが思うに、八年前にダーク・アイが設立したと同時に、その年代と同じ年に次元断層空間も見つけた。いつから“それが”つくられたのかは分からないけど、推測するにこの断層空間の扉をつくったのはダーク・アイの連中、もしくはそいつら機関をしきってるリーダーとか…かな」


「……………。そう考えるのが最もですね…。通常ならば」

ん、とハンナが眉をひそめる。


「その言い方、妙に引っかかるな。ダーク・アイ以外に別のやつが空間移動をつくったとでも?」


「確証へ変わっていないので、私もどう話せばいいのかわかりません。ですが、それに似た能力を扱っていた人物を見た事があるので…」

それは…、とハンナが言いかけると、無言で俯き、首を横に静かに振る。


「……誰かとは言えません。言えないんです。……その人物がたとえ、アナタ方が知っている人物だとしても………」


「なんでそんなに……」

フッと目を開けると、水色の瞳の中心の赤い色が、ハンナを直視するかのように、これ以上何も聞くなと訴えるように見つめる。


「………すみません…」


その眼は一瞬だけで、またまぶたを閉じると俯く。


「…………………」


ハンナとシャンクは互いに顔を見合わせ、


「謝るな。誰にだって言えない事がある。俺たちだって、貴様らに言えない事を黙秘してるんだからな……」

そんな重々しい空気が漂う空間で、キルに顔を向ける。

「なんにしても、俺ら全員、彼女の事知らないんだ。唯一長くいたキルが、何か少しでも知ったかもしれない。今俺達にできる事は“キルが目覚めるのを待つ事”…。そうだろ?」

表情に変化を見せないハンナに、シャンクがフッと笑いかける。


「そうだなー。それしかないよな。下手に動いても、この時間でダーク・アイの連中に目をつけられてもこっちが不利になるだけだし、時間も気にしなくていい。まずはこの眠ってる少年が自力で目覚める事を祈ろうや」

シャンクの発言に心に落ち着きを取り戻したのか、ニコッと優しく笑みを浮かべる。


「そうですね。キルなら、目を覚まします。信じる事は、何よりも大事ですから…」

に、とネリルも頷き、パッとみんなに笑いかける。


「そだね…。うん!あたし、キル兄が起きること信じる!それまでここにいる!」

ネリルの断言にシュールが笑いかける。

「ははは。目が覚めるまでそこにいたら、アナタが疲れて寝てしまいますよ。時間を挟んで交代しましょう」


「もしかしたら、この嬢ちゃんが先に目を覚ますかもしれないし、そん時に話しを聞いてみようぜ。一人だけで次元空間を渡るなんて、シェアルや俺を省いて不可能だからな」


そう言いながら、全員に顔を向ける。

「今日は俺がこいつらを見ている。だから貴様らはもう眠っていろ。ダーク・アイの連中がまた襲いに来た時の為に、体力を温存しておいたほうがいい」

全員頷くと、シャンクが背伸びをしてバフンと空いてるベッドにダイブする。

「じゃ、お言葉に甘えて寝るわ。俺もちょっち疲れたし」


そう言って、一分も経たない内にいびきをかいて眠りに落ちた。
 
「眠るのはやーい」


「無理もありません。皆、戦ったり空間を移動したりで疲れが溜まっていたのでしょう。ネリル嬢も疲れているでしょう?眠って構いませんよ。ただし、明日の朝は直ぐに体を洗って下さいね」

「はーい。先生」

にひっと笑い、パタパタと小走りでベッドの前に行き、シャンクと同じようにダイブしてブランケットをかぶる。



「貴様も寝ていいぜ。どうせ俺が見てるんだし」

「そうします。寝る前にまた一つ、聞いてもいいですか?」


「まぁ…、応えられるなら……」

真面目な顔をして聞くシュールに、声を小さくして返す。

「あなたの好きな飲物はなんですか?」


「…………………」






他愛のない普通の質問だった。

だけど、そんな普通の質問に彼の優しさを感じたのか、優しく微笑みかけた。




「ミルクじゃなくて、ワインがいいな。もしくはさっぱりした炭酸でもいい」

「そうですか。毎朝飲み物を作っているので、聞いてみたんです。明日、何をお飲みになりますか?」

「ワイン」

「わかりました。では、紅茶にしますね」

「あのなぁ………」


苦笑いを浮かべると、冗談ですと意地悪く笑い、また微笑を浮かべる。

「では、皆さんの好みに合わせて作ります。ワインは買いに行きますので、それでいいですよね」

「ああ……」

「では私も就寝に入ります。キルや彼女は明日の朝、私が見ます」

そう言って、ベッドへ行こうとするシュールにおい、と呼び止める。ピタリと止まり、顔だけハンナに向けると不思議そうに見る。


「………優しいんだな。お前…」

ささやくように言われ、くすっと小さく笑いかける。

「そう思ってくれて、嬉しいです。………………お休みなさい…」


そう言って、ベッドへ向かう背中を眺め、小さく返した。









「お休み…………」

……日常…………。


日常か……。







日常って、結局何なんだろう…?


どこから日常で、部分が定まらない。



今の俺は、日常を歩んでいるのだろうか…。

だとすれば、この夢も日常で、今寝てる俺の場所も日常……になるのだろうか……。






俺の夢なのに、その夢の中でも夢を見るなんてどうかしてる。


“俺は夢を見ている”…ー








多分、そうだろう。




夢で夢を見るなんて聞いた事がないけど………。

「…………………」


冷たい風が肌にあたる感触を感じ取り、フッと目を開けると、わずかに見える木々と明るく光る無数の星が見える夜空が視界に入った。


………どこだ?

ここ……。


ピクリと指を動かすと、微かに草の感触を感じ、ここで仰向けに眠っていた事にようやく気づく。起きたばかりなのに、それほどボーっとしていなく上体を起こして周囲を見渡してみると、草に混じって所々にカラフルな花が咲き誇り、周りの木々に囲まれるように小さな空間になっていた。






…………ァ…

…ザァ……




ザザ…ァ………ーー









音………。

波の音が聞こえる……。


近くには海があるのか…。

そっか。また変な場所に俺は飛ばされたのか…。不思議だな。もう非現実的な現象に慣れてるなんて。そりゃぁ、あんだけ信じられない事ばかりに遭遇してるんだから、いい加減慣れるよな。


ホント………、


“くだらない”。





「………………」


何も言わず草を踏んで立ち上がり、空を見上げる。




悩む事にも、

先が見えない事にも、

予測出来ない事態にも、

それから、誰に会うのかも、


全てに悩む事がくだらない。
くだらな過ぎる。


どうせ、これも“アイツ等”の仕業なんだろ。今の俺を操作出来るとしたら、そうとしか考えられない。







「……………?」




ずっと何も思わないように星を眺めていると、少し遠く離れた場所に誰かの後ろ姿が見えるのに気づき、顔を真正面に移すと、月明かりでわずかにピンクの髪と肘まであるオレンジのスカートを着た女性が居るのだと認識した。

誰だ…?


どこかで見覚えがある。



会った事がある気がする。

けど、何処で会ったんだっけ?


「…………っ…ー!」


突然、キーンと耳鳴りが起こり、表情を歪ませる。


そうだ、確か次元断層空間でどこからともなく現れて、一緒に未来へ飛ばされたんだ。


けど………、それだけじゃない。

俺は知ってる。

知ってるはずなんだ。


あの時よりも、

もっと前に俺たちは……ーーー

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