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ーもう一つの夢現ー


更に耳なりが起こり、汗がドッと出てきた。両手で頭を覆い、ドサッと膝を地面に落とすと、頭に直接映像が流れ込んできた。


「……ぁ……ーーー」

目を見開くと、流れ込む映像を見るかのように、白銀に輝く光りを真っ直ぐ見つめる。




















…………………ーーー

〈お、おい!なんだよこれ!!〉



〈…………っく…!!〉




















〈…なんですか?アナタ達は…。私たちに何か用ですか?〉




〈………………………〉



〈おい!答えろよ!〉



















〈……おい、本当にコイツらなのか?とてもそうには見えないが……間違えたんじゃ………〉




〈間違いではないさ…、“正式的感覚意志確認”の調べから言うと、この二人のどちらしか合わないからね。それに、“クラミルⅣ”と、“シリアングルⅢ”の同位も既に確認一致の把握もしている………ー〉



















〈キル!早く逃げて下さい!!〉




〈え…、……うわぁぁ!!?〉






















……キィィ……ン………ー

「ーーー……………!」


突然視界が元に戻り、目を見開いて真っ直ぐ顔を前に向けたまま両手を頭からゆっくり下ろす。


「…………………」


あんなに痛かった頭痛と激しい耳なりもいつの間にかおさまり、手を見るとカードも無くなっていた。


「……………今の……」


「まずは一つ、取り戻したようだな」

キルの隣に立つ男を見上げ、質問しようと口を開くが、あまりにも沢山記憶が流れ込んできたために、混乱して何も言えない。

そのまままた地面に目を落とす。





「………キル…、……大丈夫?」

女性が心配して前でしゃがみ、肩に右手を置くと、目を合わせる。

だが、視点が揺れてうまく合わさらない。



「……………キル?」


もう一度呼ぶと、やっと口を開いて立ち上がる。

「…平……気だ…」


「………………」

それでも気が晴れない女性は手を離してキルを見上げるが、遅れて立ち上がると、男性が静かに口を開いた。



「……今のはお前の記憶の一部で、実際にシュールって野郎もあの記憶をもってる…」


「…………………」


「この世界じゃない場所だと、お前の記憶はほぼ知ってる……」


「……………この世界のシュールは……」


途中まで言った言葉を繋げるように、男は頷く。

「…今の記憶を知らない」

「…………………」



「この世界とお前がいた世界は全て似ていて全く似ていない。こっちの住人にお前の世界で知ってる住人が存在していないかもしれないし、ただ存在していてもどこか別の場所でお前に会わずにいるかもしれない。そうだな…、例えるなら……ー」


一度言葉を切って考え、また発言する。


「…“パラレルワールド”のような世界だな……」


「…………………」

説明していく男性とはまだ目線を合わせず、ずっと人形のように聞いていたがぼそりと声を出す。

「……あれだけで、一部の記憶なのか?」


「まあな…。俺たちがお前の記憶をカードに物質化して別々にしたのは、記憶がデカすぎて一枚のカードには抑えきれなかったからだ。出現時間も極端に短かったのも、一枚であれだけの記憶が圧縮されて長時間出来なかったんだよ。だから……」

顔を女性に向け、またキルに視線を移す。

「お前が薬品店に居る時、コイツにコンタクトをとってもらって記憶を物質化した」


「薬品……………。…………それって、あの時の…!」


ハッとして顔を上げて女性を見ると、にこっと微笑む。



三時になる前、まだ不思議な感覚を感じない五分前に時計を見上げた時、誰かが俺の名前を呼んだのをハッキリと覚えている。コイツが言ってる事が本当なら、あの時の声は………ー



「…………お前だったのか…」


ようやく確信をもって女性に言うと、こくんと頷いた。


「……そっ…か…………」


段々落ち着きを取り戻し、聞きたい事を思い浮かべる。



「…なら、最初に聞いたけど……、お前らは誰なんだ?俺がさっき知った記憶の世界に、お前らと会ったのか?それに…、この世界で意識をもってる俺は、あの世界でもいるのか?」


「私たちはこの世界にだけ存在する、アナタがいる本当の世界には居ないよ」

女性が優しく話す。


「さっきも言った通り、ここは夢でアナタは元の世界で眠った状態に陥っているの。その世界で意識を持っていない代わりに、ここに意識が飛んでるよ」


「ここにしか存在しない……。……なら、“人じゃない”……のか?」


人じゃない。


そう質問すると、二人は数秒黙る。


「…………元は…、人だった…」


「え………?」


男の発言に一瞬理解出来なかったが、女性が話しを続ける。


「私たちは本来、《形を持たない存在》だから、今こうしてキルの目の前で会話を交わせられるのは、アナタの眠ってる意識を借りてるからなの。…だからここでしか存在出来ない…」


「………つまり?」





「……俺たちは互いに違う、お前の中に眠ってる“属性の一種”だ」



「なっ!?」


違う属性………。

俺の中に眠ってる力…。

今まで魔術や奉術を使ってる時、火炎系の火の属性が多かったけど、他にも属性があるなんて知らなかった。

や、知るはずがない。


「属性に自我を保てるのか?」


「普通は無理だ。けど、俺達はお前の知ってる属性とは全く違った属性なんだよ」


「火とか、雷みたいなのじゃないのか?」


「うん。多分、私たちの属性が存在してる事すら知らないと思う」

「何の属性なんだ?」


そこまで質問すると、二人共黙って俯いてしまった。

「……それは……………」

女性が複雑な表情で目を逸らすが、男が表情を変えずキルに目を合わせる。


「……今は知らない方がいい…」


「…え……、何で……」


「知っても、意味がないから……」


あまりにも表情を全く変えずに真っ直ぐと目を合わせるので、それ以上聞けなくなってしまった。

それに、無理に聞こうとしても女性の表情を見た限り、教えてくれそうにない。


「………分かったよ。なら質問を変える。何で俺は眠っていて、お前ら俺に謎を解かせたいんだ?そもそも何だよ謎って」

沢山分からない事だらけで、いっぺんに質問をぶつけると、男から意外な言葉が返ってきた。


「“誰かが操作したから”」


「……………は?」


「お前をどこの誰だか知らない野郎が、いきなり記憶回路を操作したんだよ」

「操作って…、俺はロボットでもアンドロイドでもないんだけど?」


「とにかく、なんか知んねーけどお前を誰かが操ったから眠ってるんだよ…っ」


微妙に苛立ち、声を強くする。


「逆ギレかよ」



「何で操作されてるのか、記憶もここにあるのか分からないから、キル自身に行動させてるの。私たちじゃ所詮、ただの能力の一種だからいつかはこの姿だって見えなくなる。だから自我をずっと保てるキルに頼るしかないんだよ」


「ずっとねぇ………」


「俺たちにもこの姿に限りがある。現実世界とこっちの世界でも時差は変わらないしな。多分もって3日間が限度だろ。つってもこの状態でも力が使えるし、お前の役にも少しはたつだろ」

「じゃあ、一緒に記憶を探そうぜ?お前ら俺の記憶が出現する時間分かるんだろ?」


「えー…………」

露骨に嫌そうな顔をする。


「何だよその顔…」

「面倒くさい」


「今のこの状況で面倒もへったくれもないだろっ!?」

「だって動き回るの嫌だし、疲れる」

「お前………っ」


苛立ちを抑えるキルに、女性が苦笑いする。

「ごめんねキル。黒って面倒くさがりだから」

「うるせーよ」


男がそっぽを向くと、隣にいる女性に目だけ向ける。

「……お前は行くよな?」


「勿論だよ!だって私はキルの味方だよ?」

にっこりと笑いかける顔を見て、素直に嬉しさがこみ上げる。


「そう言ってくれると助かるな。どっかの赤毛と違ってよ…」


「んだとオラァ…」


キルの発言に反応するが、ニヤリと男に笑いかける。

「お前の事だって一言も言ってないだろ」


「テメー………」


「け、喧嘩は止めなよ二人とも!」


こうなると、お決まりのパターンになって定着してしまってる。


「最初は黒も一緒がいいと思うよ?出現時間を教えたとしても、場所がどこか詳しく分からないし、キル一人じゃ探しようもないよ」

ナイスフォローをいれてく女性に、男が頭の後ろに両手を組んで、面倒そうに返事をする。


「分かったよ…。俺もついてやる」


「お。マジで?」


「但し明日からな」

ビシッと人差し指をキルの顔に突き出す。

「今の時間帯から記憶を取り戻しても、さっきみたいにお前の記憶が混乱するだけだ。どうせ明日も明後日も、今日と同じ時間がリセットされるんだし」

「リセット?」

どういう意味か分からず繰り返すと、女性が説明してくれた。

「ループするんだよ。同じ日を何回も。キルの散らばった記憶は一日の24時間の内で全部収まっているから、更に時間が進んで現実世界で矛盾が起こらないように、キルがこの世界から覚めるまで私がループさせたの」


「それって、コンタクトを取った時にか?」


「うん。そうすると物質化する時もあまり力を使わずに済むからね」


「…………なる程」


話を聞くと、結構成り立ってるんだなと思う。


「あ、そういや俺の記憶ってカードになって沢山散らばってるんだよな?いくつあるんだ?」



「全部で十三枚だ」

「じゅうさん!? そんなにあるのかよ!?」

「まぁな。本当言うとずっと目に見えるように物質化しておきたかったんだが、これだけの数を長時間圧縮出来ないからな。時間を抑えて五分にした」


「いや、五分は流石に短すぎだろ!?」

ツッコミをいれると、女性が言いずらそうに手を小さく上げる。

「ご、ごめんねキル。私がコンタクト取る時、時計を見ながらだったから失敗してついうっかり五分にしちゃった」


「うっかりにも程があるって!!」

「あー、うるせー…」

耳をふさいで目を逸らす。


「くっそ…~」

いつかぜってー弱み握ってやる。また会えるかわかんねーけど…。


「思ったんだけど、シュールの奴帰ってこないよな。結構時間が経ってるのに」

「それなら安心しろ。あの眼鏡なら別の場所に行ってるから」

「何で分かるんだ」

「この世界なら知ってる。全部見えるから」

「……………ふーん…。お前ら神?」

意味深な発言が引っ掛かり、冗談で言ってみる。

「んなわけないだろ……」

「神じゃないよ?」


普通に返された。
まぁ、そうだよな……。うん。


「んで、今日は何をすればいいんだ?明日からっつっても、まだ全然時間が余ってるぜ?」

腕組みをして目を細める。


「何もする事ない」

「だよな…………」

予想通りの返事をする男を気にせず、今度は女性に顔を向ける。


「どこか行きたいとこないか?どうせ今までこんな風に人の姿で動けなかったんだろ?」

「え…。そう言われてみれば……、そうかも…」

今気づいたようで、考えはじめる。

「キルは行きたいとこないの?」

「ない。あんまり街の外も出ないし、店に入るってーとシュールの付き添いか買い物くらいだしな」

 
「そっか」

「お前、結構な暇人だな…」

「うるせーよ…」

いちいち一言多いんだよコイツ。正直、どこでもいい。

すると、行きたい場所を思いついたのか、人差し指をたてて俺に顔を向ける。


「じゃあ、あそこに行きたい!」

「行きたいとこって………」


そこまで言って巨大な建物を見上げる。そこはコルティックの街で唯一大きな企業が経営してる「CLARK」という店だった。縦横ともに長く奥行きもあり、外側から見れば青いビルに近い。


「…ここかよ………」


顔をひきつらせ、女性に向けると、ニコッとする。


「一度は行ってみたかったの。こうゆう大きなところ」


「行ってみたかったって、人の時にいっ」


「はい。その話しは禁句ー。さっさと入るぞ」

キルの話しを男が遮り二人は中へと足を踏み入れる。

「えー……」

不満な声をあげながら自動ドアが出迎え、キルも中に入る。中はやはり人で賑わい、壁や床が明るい白を強調されて支店も並んでいて広い。


「わー。すっごーい!」

「そうかぁ?」

「うん!あ、見てみて!色んな帽子が売られてる!」

近くに売られてる帽子に目が入り、ぱたぱたと行ってしまった。


「すげーはしゃぎようだな」

「まぁ…、これだけ広いとな。正直俺も驚いてる」

真顔でそう言うが、全然驚いてるように見えない。

「………驚いてるのか?」

「当然だろ」

「全く驚いてるように見えねー」

「テメーの目は節穴か?」

「は?は?今なんつった?声が低すぎて聞こえねーんだけど?」

「んだと……っ」


今にも殴り合いになりそうなオーラを放つ二人に、いつの間にか洋服がある場所にいる女性が呼びかけてきた。

「ねー、二人ともー、ちょっと来てー」


「ほら呼んでるぜ花火頭」

「お前もだろトマト頭」

お互いに言い合いながら寄ると、女性が前にかがみながら、あるアクセサリーに指さして二人に聞く。

「これってどの部分に飾るの?頭?」

指差しているのは銀色の青い石がついたネックレスだった。

「それ首から下げるやつだろ?分かんねーのか?」

「へー。首に…。知らなかった」


どうゆう育ちしてたんだよ……。

「ま、まさか首を絞める物じゃないよね!?」

「んなワケないだろ!?なんでそう思うんだ!」

「だっ、だって前に本で読んだ事あって…、犬の首輪みたいな頑丈そうなのを、人の首にはめて…」

「どんな本読んでんだお前!?拷問道具じゃないからな!?」

「よ、良かった…」


ホッと胸をなで下ろす。どうやら本気で不安になってたようだ。


「惜しいな…」

隣でネックレスを見ながら舌打ちする男性。

「なにがだよ?」

「拷問道具なら…、お前の首絞めたのに…」

「なに平気で人殺し宣言してんだよ!?」

「安心しろ。半殺し程度にしてやるから」

「そうゆう問題じゃ…っ」

ふと視線を感じたのでまわりを見ると、通りすがる客が不思議そうに三人を見てる。


「…ん………?」

「どうしたのキル?」

顔を二人に向けると、質問する。

「なぁ、お前らってこの世界の奴らにも姿が見えるのか?」

「まあ…、ここだけなら」

「その着てるコート、どうにかなんねーの?」


二人の対照的な色のコートに目を向けて眉をひそめると、女性が両手を広げて自分の格好を見る。

「うーん…。私も着替えたいな…。中は普通のシャツとズボンだから、地味だもの」

「俺は別にこのままでいい」

女性と違ってサラッと深く考えない男にキルがビシッと指差す。

「いや、着替えてくれできれば!んな目立つ格好されてたら見られてる俺も恥ずいんだよ」


「えー…。面倒くせ」

「ま、まあまあ。この際なんだから動きやすい格好に着替えようよ。最後に着てたのがこの姿だったんだし、ここで着替える事もできると思うよ?」

女性が説得すると、男もコートの襟を掴んで考える。といっても相変わらず表情に変化はないが。

「動きやすい格好か…。確かにそうだな。コートの裾が長ったらしくて邪魔だ」

「じゃあここで何か買うか?」

キルが二人に聞くと、うんと女性は返事して男性はコクンと頷く。
それから男だけ手を前に出してきた。

「何だよその手は…」

「金」

直球でねだってきやがった。


「金ないのかよ!?」

「ない」

「お前は!?」

「わ、私も……。はははは…」

気まずそうに愛想笑いをする。


「……なんでここに来たんだよ…」

「俺じゃねーぞ。コイツだ」

女性に指差すと、ギクッと肩を上げて俯く。


「い、行って見るだけならいいかな…、と思って………」


びくびくする女性と全く他人ごとの男の様子を眺め、ハァ、と疲れたように息をはく。


「…仕方ねーな。俺が今持ってる分だけで服買ってやるよ」

「え、悪いよそれじゃあ…」

急に顔をあげて慌てるが、それでも決めた事を言いきる。

「別にいいって。お前の話し聞いてると、ネックレスといいこの店といい、何か変にいたたまれなくなるし…」

「え…、何のこと?」

目をそらすキルに首を傾げるが、決めたように断言する。

「と、とにかく俺がいいって言ってんだからいいんだよ!どうせお前らとは今日しかこうして店まわる事出来ないだろうし!」

「………キル…」

感動して右手を口にあて、目をうるうるさせる。

「そんな目で見るなって…」

「今いくらあるんだ?」

苦笑すると、男がいくらあるのか聞いてきた。
 
「ん?えーっと…」

ガサゴソとポケットに手を突っ込んであさぐり、黒い財布を取り出して中を確認する。

「軽く五万ギルはあるぜ?」

「す、凄いね」

「へー…。金持ちー…」

「あまり使わないからな。これくらいあれば余裕で買えるだろ」

「あ、じゃあ…、私から選んでもいい?」

うずうずして上目づかいをする。

「いいけど、もう買いたいやつ見つかったのか?」


「まだだけど、あそこの服見てみたくて…」

そう言いながらピンクの壁で、フリフリの服が沢山飾られてる店を指差す。いかにもロリータ系のイメージを感じる。


「あ、あそこか…」

「うん!」

三人揃ってその店へ向かう。近くで見るとやはり、ピンクや白、黄色といったレース付きのスカートが多い。


「わー。沢山あってどれがいいか迷うなー」

中に入って服を選んでいく。その様子を眺めて、ぼそりと男に聞く。


「こんなの好きなのかあいつ?」

だがいくら待っても返事が返ってこないので、隣を見るとさっきまで立ってた男が居ない。

「あれ?」

きょろきょろと探すと、後ろにあるベンチに足を組んで座っている。

「何でくつろいでんだテメー…」


「だって面倒だから」

「面倒くさがりすぎだろ」

「あー…、どうせ長くなると思うぜ?あの調子だと」

女性に顔を向けると、二着の服を眺めて迷っては戻し、また別の服を手に取り見比べてる。


「まあ…、そうかもしれないけど…」

「ほっときゃいずれ決まるだろ」

言いながら寝る体勢に入る。

「けどなぁ…。一人にさせるのはちょっと…」


「あんなとこ入るのか?」

「うっ……」


女性には入りやすいだろうが、男性にはとても入りずらい。

「やっぱ、一人にさせるのはなぁ…」

そこまで言うと、男が上体だけ起こし、ジッと見る。


「な、何だよ?」

何も言わずに見るので聞いてみると、逆にキルに質問を返してきた。


「……お前、何でそんなに一人にさせたくないって思うんだ…?」


「え…………?」


「好きなのか」

無表情で聞く男に一瞬顔を赤くする。

「バッ!んなワケないだろ!」

「…だよな………」

直ぐに冷静になり、男を見据える。


「そうゆう感情よりも、別の感情にしか見えねーしな…」

「……………?…それ、どうゆう意味だよ」


片方だけ目を細めると、少し黙って金色の目で見つめる。


「お前が…、“独りになりたくない”と思ってるんじゃないのか…?」


「……………!」

ピクリと手が動き、無意識に視線を落とす。


「…………………」


「図星か?あー…分かった。一人じゃ記憶を探せないからだろ」

からかうようにニヤリと笑うと、顔を見せてはっと笑うが、目は笑っていない。


「…なに言ってんだ……。…お前の言ってる事、よくわかんねーよ………」

そう返すと、背を向けて女の方へ向かって行ってしまった。


「……………ふーん…」

反応を見て面白くなさそうに呟く。


「俺にはお前がわかんねーよ……」


独り言のように呟くと、またベンチに寝転んで目を閉じた。

「あ、キル」

近寄ってきたキルに気づいて笑いかける。


「黒となに話してたの?」

「…………別に……」

「…………?」

そっけない態度に疑問を感じると、服に目を向ける。

「まだ決まってないのか?」

「あ、うん。可愛いのが沢山ありすぎて迷っちゃって」

そう言って左右に持ってるピンクの服と緑の服を見比べる。だが、何故だかよく聞き取れない。


「…………………」

視線を落とし、さっきの会話を思い出す。









《お前が…“独りになりたくない”と思ってるんじゃないのか…?》








独りになりたくない…。

今はそう思ってた。

けどそれは、誰だって思う事じゃないのか?






「コートが白だったから別の色もいいと思うんだけどね?見た目もよくしたいから………ー」






《あー…分かった。一人じゃ記憶を探せないからだろ》




当たり前だろ。

記憶も場所も分からないのに、どう探せって言うんだよ。


……そもそも、記憶なんて探すものでもないような気がするし…。






「ねえ、キルはどう思…っ」


キルに目を向けると、俯いて真剣な表情をしているのに気がつき、急に心配になる。


「…キル……………?」


「…………………」





わかんねーよ…。

ここも俺の記憶なのに、記憶を失ってる?


そんなの………っ!





ガッと右目を手で覆い隠し、ギリッと表情を歪める。


「ー…………キル!!」

ハッとしてようやく名前を呼ばれてる事に気づき、手をおろす。


「………どう…したの?また何か言われた…?」

慎重に聞くと、女性の目を見る。

「………なあ…、記憶は…大事なんだよな……。…俺にも、俺の中に眠るお前らにとっても…」

突然聞いてきたキルに直ぐに返さなかったが、コクリと頷く。

「…う、うん………」


「そっか………」


目を閉じ、にこっと口を和らげて見つめる。


「…ぁ……………」


キルの表情を見て一瞬言葉を失う。


「よし、アイツが暇してるし、お前に合いそうな服一緒に探してやるよ!」


パッといつもの雰囲気に戻るキル。


「あ…、うん。有難う………」

服を見て選びだすキルを眺める。

「……………………」



(気のせい……かな……。…一瞬だけ悲しそうな顔してたように見えたけど……)








それから服を選ぶのに試着したりと意外に時間がかかり、一時間半後、ようやく膝まである白のスカートに赤い色の柄が入った服に決まった。


「お前…、迷いすぎ……っ」

ぐったりとしてしゃがむキルに、試着室で買ってもらった服に着替えた女性が苦笑いする。


「ぐぅ………」


男性の方へ戻ると、まだベンチにいて気持ちよさそうに眠っている。


「呑気に眠りやがってコイツ…」

呆れた顔で呟き、女性が起こす。

「黒ー。もう買ったから起きてー」


「う…ぅ~…」

むっくりと起き上がって背伸びをしながら欠伸をする。

「あー…。やっと終わったのか………」


「うん。次は黒の服探そ」


「あー…、やっぱこのままでいいや」

「え?なんで…」


「面倒になったからだろ?」

「正解」

キルが変わりに言った後、女性に目を合わせる。


「ずっと思ってたんだけど、お前ら名前ねーの?」


「うーん…。そうだね。はじめから名前なんてつけられなかったから、私は黒って呼んでる」

女性が応えると、今度は男に目を合わせる。

「で、お前は白って呼んでんのか?」


「いや。俺の場合、おいとかお前って呼んでる…」

「もはや名前でもなんでもないな」


「それがどうかしたの?」


「名前ないって不便じゃね?お前ら只でさえツッコミどころ満載なのに、名前まで無いってそりゃないだろ」


「あるからツッコミが出来るんだ」


「裏事情的な発言するな」

もう雑談じゃなくて殆ど戯れ言になってるよなこれ。


「キルも私たちのこと白と黒って呼んでいいよ?」


「いや、そんな記号みたいな呼び名じゃなくて…、もっとこう、呼びやすい名前が…」


そこまで言って三人共考えはじめる。

「名前かー…。自分の名前を考えるのなんて初めてだからよく思いつかないや」


いや、普通考えない。


「別に名前なんてどうでもいいじゃねーか。今までもそうだったんだし」

「んー…………」

腕組みをして二人を眺めていると、ふと女性の格好と男性の髪に目が入った。

〈ロリと赤毛…………〉

ぼそりと自然と口に出すと、二人がえ、と声をだした。


「なんか、考えても思い浮かばねーし、どっちかってーとロリ服と赤い髪が印象強いからお前が『ロリ』でそっちが『赤毛』でいいんじゃねーか?」


『…………………』


二人とも黙り込む。


「ど、どうしたんだよ黙って」


「だって………」

「ネーミングセンス悪すぎ……」

女性が微妙な表情で苦笑いを浮かべると、男が正直に口にだす。


「何だよ仕方ねーだろ!?他に呼び名が見つかんねーし!」


「そうは言っても、もう少し良い名前があっても……」


「じゃあ何て呼べばいいんだよ」


「白と黒しかないだろ」

「………………」


やっぱりそこは譲らないのか。



「いや、やっぱ俺の好きなように呼ばせてもらう。女が『ロリ』で、男が『赤毛』で決定な」


「ろ、ロリ…………」

「赤毛………………」




というわけで、半ば強制的に二人の名前が決まった。

「あ~あっ! 一体世界はどこにいくんだろうねー!?」


一方。

シュール、ネリルと空に向かって世界を叫ぶシャンク達は、シェアルロードの泉の出口付近で円になるように座り込んでいた。


「本当に、私たちは一体どこへ向かってるんでしょうね。ゴールが見えません」


現在時刻は午後の四時五七分。夕刻に近いがさほど日は傾いていない時間帯。

「俺だってゴールを見つけたいよー。人生という名のゴールを」


「無駄に上手い事言わないで下さいこの状況で」

ニコッとしてシャンクに顔を向けるや否や、今の現状を説明するように言い聞かせる。


「そもそもあなた方、私達の意志を普通に無視してこんな場所に連れ込んでますよね? それに、話しを聞いていればこの世界は私達が先程居た場所よりも更に過去の時間だというじゃないですか。いくら物分かりがいいと言っても流石に私も驚いていますよ」


「おう。なかなか説教じみた事言ってくれるな~。俺には真似できんさー」


「話をそらさないで下さい♪ キル達も一向に戻ってくる気配がありませんし、もう私は心配で心配でどうしようもない気持ちで胸が押し潰されそうです」


「に?先生凄く笑ってて心配そうな顔してるように見えないよ?」

ネリルが正直に発言する。

「そうですかー?」

とぼけるように声を高くする。


「は~あ。なにやってるんだろハンナのやつ~。俺たち待ちくたびれちゃうぜー」

空を眺め続けて首が痛くなったのか、ぐりんぐりんと回して二人にある提案をぶつける。


「あ、そーだ!暇つぶしに“しりとり”なんかど?」

「に!しりとり!?やりたーい」

早くもネリルが食いつく。直ぐに返事を返さないシュールはまわりを見渡して、それから口を開いた。


「この付近は魔物もいませんからね。どうせ暇ですし、やりましょうか」

と、全員が満場一致したところで、シャンクが親指を自分の顔に向けて明るく始める。



「んじゃ、俺からで順番は時計回りな」


「に~。ジャンケンで決めたーい」

「えー。それだと俺負けちゃうじゃーん。ジャンケン弱いもん」


「こんな外でほのぼのトークをしている事にはあえてツッコミを控えて…、私はあなた方に順番決めを任せます」

にこにこと見物人のように二人を眺める。

「よーっし!じゃあ俺も男だ!正々堂々とジャンケンしよーネリルちゃん!」


「分かったー!」


バッと二人とも立ち上がり、ジャンケンの構えを取る。


「いくぞ~?最初はグー!じゃ~んけ~ん…ー」

二人とも勢いよく手を前に振る。


「ポンっ!!」


結果はというと…………
























「にー。それじゃああたしからねー♪」


パーとチョキでネリルの勝ちだった。シャンクはといえば少し地面に視線を落として落ち込んでいる。


「たかがジャンケンでそんなに落ち込まないで下さい」

「だって…、だってぇ~…」

体育座りして顔を伏せてるシャンクを軽く元気づけるシュール。

「それに、先程のジャンケンだってお二人共とっても息が合ってましたよ。私も羨ましいと思うくらいに」


「え、本当に?」

バッと顔を上げてスカッとした表情で見る。

機嫌の直りようが早い。

「ええ」


「おふ。なんか嬉しいな~。ありがとな先生」

「いえいえ」


「に?なんだか優しいね」

ネリルが不思議そうにシュールを見上げると、ニッコリと顔を向ける。


「いつまでもテンションが落ちていると、“ウザイ”ですからね」


「…………………」


「さて、始めましょうか。まず始めはネリル嬢で、時計回りで私、シャンクの順番でしましょう」

(本気なのかな……、あれ…)

汗をかいてシュールを眺めていると、機嫌を直したシャンクがネリルに声をかける。


「ほらネリルちゃん。しりとりの『し』からねー」


「に。じ、じゃあー…、シクラメン!」

『………………』



早くもしりとり終了。





「に?二人共なんで黙ってるの?次は『ん』だよ?」


「もう終わりですよ」

「えっ!?」


「ねーネリルちゃん。しりとりのルール分かる?」

「うん。最後の言葉を別の言葉で繋げていけばいいんだよね?」


「最後に『ん』がついたら負けですよ」

「に!?」

今知った顔。


「じゃ、じゃあ気を取り直してもっかいネリルちゃんからやろうぜー」

シャンクがまた再開させ、今度は慎重に考える。

「んーと…、じゃあ、仕事!」

「次は私ですね?時計」

時計回りの順でシュールがしりとりを続けていく。

「い、いー…、インターネット!」

「時計!」


『………………』


しりとり、終了。



「はははは………。同じ言葉も言ってはいけませんよー…」


流石にシュールも苦笑いを浮かべる。


「にぃいぃ~!?」


「ネリルちゃん…。……弱っ」





シャンク、ストレートパンチ!








「あー!早く帰ってくれよハンナー!俺もう待ちくたびれて…ー」

立ち上がり、みんなから離れると、シャンクの目の前から突如として青い光りが現れた。


「どけっ!!」

「おふぅっ」


光りの中からハンナがシャンクの横の頭を邪魔そうに叩き飛ばし、ズシャっと地面に滑り落ちた。

「おや。ハンナ嬢」

「に!?」


ドサッと膝を落とし、息を上げて両肩に腕を乗せたキルとピンクの髪をした少女を横にする。

「ぐっ……、ハァ…ハァ…っ」


四つん這いになり、背後の光りが徐々に消えていく。


「ど、どうしたの二人とも!?」

ネリルが慌てて駆け寄り、眠ってるキルと少女を見る。

「ハァっ…、ハァっ……。

…………っ…!

…………早く……、近くの街で休める場所っ……」

破けたフードが外れ、汗が頬を伝って流れ落ちてネリルを見る。艶のある金髪で、体中から何か紫色の煙りがまとっている。

「いったたたー。あり?どったのハンナ。普通の次元移動使わなかったん?」


シャンクが頭を抑えながら立ち上がると、キっと茶色い瞳で睨みつけ声を張り上げる。



「………っ! いいから!!早くコイツらを休ませる場所探せっつってんだよ!!」


『………ーーー!!』

険しい表情で怒鳴るハンナに皆驚き、ようやく事態を把握したシャンクが耳に手をあて、どこかと連絡を取り合う。


〈こちらホーリー・アイ機関本部所属、No.3のシャンクとNo.1のハンナのペア、“白雪”(しらゆき)。
至急五人分空いてる宿屋を借りたい。現在地シェアルロードの泉出口付近……ー〉


どこかと通信をとってるようで、話し込んでる。


「…………この方は…」

シュールが近寄り、見慣れない少女に気づく。


「…………………」


腹部が僅かに動いてるのを確認し、呼吸しているのが分かりハンナに目を向ける。


「くそ!! こんな時に操作しやがって!!」


グシャっと草を握りつぶし、怒り狂った表情を見せる。


「…一体何が…………」

「…っ……! 知るか!」

イライラしてシュールに怒鳴る。


「にっ………」

ハンナの声にビクッとするネリル。

すると、連絡を終えたのか、シャンクが耳から手を下げてハンナの前に歩み寄ってきた。


「八つ当たりはよせってー。どうせ近い内このツンツンに何か起こるのは、予測済みだったんだし」


「………っ……~

………っくそ…!!」


ダンッと怒りを抑えるように、拳を地面に叩きつけた。
 
「取りあえず、近くの街にシダンってとこの宿を予約とってもらったから、そっちに向かおうぜ。急いでるんだろ?」


「………………」


息をはき、あぁ…、と静かに返事を返す。

どうやら少し落ち着きを取り戻したようだ。

「んじゃ、俺がツンツン担ぐから~、そっちの見慣れないお嬢ちゃんは誰が持とっか」

ガバッとキルを肩に乗せ、眠ってる少女を指差すと、ネリルが小さく手をあげる。

「あ、あたし同じ女の子だし、持つよ?」


「気持ちは有り難いんだけど、ネリルちゃんじゃすぐぺしゃんこになりそうだぜー」

「に………。そ、そだよね…」

自分でも無理だと思っていたようで、手を下ろす。


「…………俺がもつ…」

ハンナがよろつきながら立ち上がると、シャンクが首を横に振る。


「だーめだ。今のアンタ、力使いすぎてフラフラじゃん。これはやっぱり頼りになりそうなシュールさんに任せるっきゃない」


ビシっとシュールに元気よく指差すと、おや、と反応する。

「ばかっ。一般の野郎に手伝わす気か貴様」


「いいですよ」

「ほら、嫌だって……、………は?」

さらりと承知し、ふわっと眠っている少女を両手で優しく抱き上げる。


「これくらいたやすいものです。シダンまでの行路なら、体力も持つと思いますよ?」


「あー………。あそう。じゃあ任せた」

妙な間があくが、スタスタと全員、シェアルから離れてシダンまで歩き出した。

…………………






ー夢時刻ーPM7:51ー













「うーん………。お前ら見れば見るほど普通の人間にしか見えないよな」

シュールの自宅前で、街灯を頼りに二人の姿を見て呟く。


「え?そうかな?」

白、もといロリが前に立ってるキルを見る。

「元は人だったんだろ?」

「そうだな」

赤毛がそっけなく返す。
ロリの服装は店で購入した白が多めのワンピースに赤リボンの服を着ているが、赤毛は結局、黒いコートを脱いで黒のシャツと長ズボンの格好となってる。

ちなみに二人が着ていたコートは服を買った時に入れられた紙袋に入れて、ロリが持ってる。


「うわ。そっけね。…それよりも、俺には帰る場所があるからいいけど、お前らはどこに行くんだ?」

「あー。その件だけど、泊まらせてくれ」

「は?」


頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。


「ここに泊まらせてくれないかな?キル」


白、いや、見た目からして学生くらいの年代であるロリまでも黒、ではなく赤毛と同じ事を聞いてくる。


「なんでっ!?」


「そりゃー、俺らには寝る場所がないからに決まってる」

「いやいや、決まってるってんな事知るかっ。俺はシュールの家に居候してる身なんだぞ!? そんなのシュールに聞いてみなきゃ分かんねーし」


「だから、今聞きにいけばいいだろ。どうせ明日にはリセットされるんだ。俺らがこっそり家を出れば済む話し…」


「んなワケあるかぁぁぁぁぁ!!」

もはや夜だという事を忘れて大声で言葉を遮る。

「今更思ったんだけど、リセットって事は俺もお前らも今日の記憶が無くなるって事じゃねーのか!?」

「いいや。元々この世界に存在していなかったお前が、自身の記憶を元に作られたのなら、当然、お前も記憶になかった俺達もキルの記憶に縛られない」


「え…。そ、そうなのか?」

結構大事な話しなんだからそれを先に言え、と思った事は心の奥にしまい込んで、ロリに聞くとコクンと頷く。

「よし。もう眠いから入るぞー」


ガチャッと木造のドアを前に押すように少し開ける赤毛。


「って!! 待てまて待てまてっ! ここは普通俺が入って事情説明するだろ!?」

「そんなの関係あるか。適当だ適当」


なんつー身勝手な赤毛だ。微妙にクセある髪だし今度から赤毛じゃなくて赤ウニに改名するから覚悟しろよ…。


と、そんな汚い台詞も心の中にしまい込み、赤ウニ……、じゃない。

赤毛の腕を掴んで制止させ、玄関に足を踏み入れると、案の定、シュールがいつものにこにこフェイスで出向いた。



「…………あ」

「おやキル。珍しく夜まで帰ってこないと思えば、そちらにいるお二人はご友人ですか?」

シュールの最後の質問に反応し、赤毛が眉をひそめる。

「友人…?なにいっ」

「あぁ~!! そう!そうなんだよ!コイツらとは前から友達で、この家にどうしても泊まりたいって言い出したから連れてきたんだ!」

「は?何いっ…」


〈いいから話し合わせろやっっ!!!!〉

ギンッとシュールに見えないように振り向いて手を離し、小声で睨みつける。


「う…っ………。ど、どうも。キルのダチです。よろしく…」

「ど、どうも」

気迫に圧倒され、赤毛が軽く礼した後にロリも頭を下げて挨拶を交わす。


「どうも。泊まりですか。別に構いませんが、夕食は食べたんですか?」

「ああ…。もう三人共食った」

「はっ!? 俺まだ食ってねーよ!?」


「ほら、まだ物足りないってさっきから言ってるんで、夕食はいらないです」

さらりとキルの言い分を無視し続ける赤毛に何も言えなくなる。


「コイツ……っ」

(何気に敬語使ってるし…っ)



「そうですか。ならいいですね。狭い家で部屋も二つしかありませんが、それでもよければ泊めて差し上げますよ」


何の疑いもなく許可を出し、どうぞと中へ招き入れる。
それに応えるように赤毛が遠慮もなしに中に足を踏み入れた。


「お邪魔しまーす」

「あ、お邪魔します」

遅れてロリも入り、キルはその場で突っ立ったままシュールに目を向ける。


「おや、キルも中に入らないんですか?ドアで挟みますよ?」

「さり気なく言うな。…何で疑わないんだよ」

そう問われると、クスリと笑いかける。
 

「私でもよく分かりませんが、中に入れないと相手にとっても私にとっても困るかと思いまして」

「は?なんだそれ」


「さあ?何でしょうね」

話しを逸らすように、ドアノブを掴み閉じようとする。

「ほら、早く中に入らないと、挟んじゃいますよ?」

「だから言い終わる前に挟もうとすんな!」


ひょいっと一歩前に足を踏み、バタンとドアが閉じる。

「あ、聞くのを忘れていましたが、入浴は済んでるんですか?」

基本的な生活習慣を聞くと、二人共無言で頷く。

「そりゃそうだよなー……」

飯食わねーし、風呂入る必要性もねーもんなコイツら。


ってちょっと待て。

俺は俺自身の記憶に影響されないって事は飯食わずに寝て空腹の朝を迎えなきゃいけないんじゃねーか!?




立ってる二人を眺めながら表情を青ざめると、キルが何を考えているのか察した赤毛が笑いを堪えるように口の端を伸ばす。


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