ー最初の助言者ー
「・・・・・・・・・・っ・・・あ・・・」
「んん?やっと教える気になったかぁ?ふふふー。やはり殺されるのは嫌なんだなぁー。」
「・・・・・・・・・・・っ・・・-」
‘ドクン・・・ドクン・・・ーー’
前と同じだ。
この感覚・・・、鼓動が早くなってきて・・・
それで・・・・・・-
「ぐぬ・・・。なんだ、早く口を開いてほしいもんだな。一体どこまで私に遊ばせるきなのだ。そろそろ飽きてきたぞぉ?」
顔を横に振り、腰に手をおいてため息をつく
「そもそも何故この私を不完全な同位体なんかを拉致る任務にいかせたのだ。一体何を考えておいでなのだ、最高機関のお偉方は・・・ー」
周りに突き刺さっているキルによけられたナイフを一つ取り外し、話しながらその辺に投げ捨て再度、キルを見る。
シャリン、と両手の指の間に三本ずつ黒いナイフを出し、ナイフとナイフをこすって音を出す
「この場で・・・・、この者を殺す事は指令されていないが・・・、やむをえないなぁ。」
ゆっくりとキルの目の前まで近づき
「許してくれよ?・・・・・・私は・・・、人を“殺して”遊ぶ人なんだからなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・--!」
‘トクン・・・っ、トクントクントクントクンッッ・・・-’
「ぐっ・・・・・-!」
駄目だ、この感じ・・・・!
やめろ・・・、これ以上は・・・・俺は・・・・・-
グッと表情を歪ませ、息があらくなってくる。
「ぐふふ・・・・・・・うごっ!?」
徐々に距離を縮めていく飛天勝だが、急に横にバランスを崩した
「なな、なんだ君たちは!?」
「お、お前等・・・・!」
見ると、倒れる飛天勝の両足にエメラルドとアクアマリンが動きを封じるようにしがみついている
「このこのこのこの~!旦那をいじめるのはいけないッスよ!!」
「そうです!キルお兄さんに突然手を出すなんて、卑怯ですよ!!」
「ぐぬぬぬ!こんの・・・・・・、さっさと離れろぉ!!」
「ぴゃぁー!!」
「うぁ!!」
足を曲げ、ナイフを持ったままの手の甲でエメラルドとアクアマリンを吹き飛ばし、地面に転がり落ちた
「・・・・・・ぅ・・・・いたたた・・・。・・・・・・・・ぴ!」
ざっとエメラルドの目の前に仁王立ちでナイフを向け、怒りに満ちた顔で睨む飛天勝
「よくも私の邪魔を~・・・。」
手を後ろにまわし、攻撃体勢をとる飛天勝を見てとっさに何をするのか気づいた
「やめろ!!」
身体を無理やり動かし、力を入れて立ち上がろうともがくが、声が届かない
「消してやるー!」
「エメラルド!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ー!」
ギュッと目を瞑り、ナイフが振りおろされた
「ーやめろォォォォォォォォォ!!!!」
叫び声をあげた途端、キルの身体が赤く光り輝き、上体だけ起き上がって強い波動が飛天勝の振り落とされる手に放たれた
「ー・・・・っな!?」
バチンッ、と音が鳴り、黒い手袋をはめている手の甲が一瞬赤い炎でつつまれ焦げ跡が残り、その衝撃でナイフを落とした
「これ以上手を出すんじゃねー!!」
右膝を地面につけ、左足を強く踏み込むと、また強い波動が起こって周囲の突き刺さっていたナイフにヒビが入り、草原がキルを中心に風が起こったようになびく。
青い髪が混じった黒髪とバンダナが浮きたち、怒りをあらわにしている
「・・・・・・・・・な・・・、なんだ・・・こいつは・・・・!」
(私の力を無理やり吹き飛ばした!?そんなっ、あり得ない!何故この者に・・・-)
「不完全ではなかったのか!?」
驚愕し、動揺する飛天勝に向かって双剣を握りしめ、地面を勢いよく蹴り腰をかがめたまま飛ぶ。
「あああァァァァァァー!!」
徐々に目の中心が赤くなり、双剣に青い炎が絡まりつく
(ーこの目!)
キルの瞳の中心を見て何かに気付く
「や、やめろっ、貴様はっ-」
後ずさりし、一気に恐怖におののいて背中から地面に倒れた。
その上を覆いかぶさるように左手を地面におき、飛天勝の顔に向かって炎をまとった右の短剣を縦にする
「・・・・・・・・・・・・・やめ--!」
本気で殺気を感じ取り、涙を目に浮かべて言いかける飛天勝に容赦なく剣を振り落とす・・・・が、ある人物の怒声により阻止された
「ーーさっさと落ち着きやがれ!!このアホんだらけェェェェェ!!!!」
「・・・・・・・・・・ー!?」
‘ガシィィンッッ!!’
目をカッと開き、とっさに飛天勝の顔の真横ギリギリに短剣を突き刺し、青い炎が頬をかすめるように火傷を負わした
「ー・・・っあ・・・ぐ・・ふぅ・う・・・・」
ゆっくりと炎が消えていき、目を開けたまま息をあげ涙を流す飛天勝
「・・・・・ハァ・・・、ハァっ、・・・・・・・・・・・ぐ!」
乱暴に剣を地面から抜きとり、俯いたままゆっくりと立ち上がる。
赤くなっていた目の中心が元の青に戻りだしていった
「はぁ、なんとか間に合ったな・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
呼吸を整え、顔を横にあげて声のする方を静かに見る。
そこには白いコートを着て、フードが少し切れている長身の人物が腰に手をおいて立っていた
「・・・・・・・・・・・・ハン・・・ナ・・・。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・!』
アクアマリンとエメラルドもキルが名前を言った人物を見て驚く
「あーあ。無理に力をだしちゃってー。結局こうなっちゃったか。キル君。」
キルが倒れていた場所と、飛天勝の顔の横の地面に生えていた草が黒く燃え焦げているのを見て、淡々と話しかける。
まるで最初から分かっていたように。
「にしてもしくじったなぁ。俺がついていながらもこのザマかよ。
できればダーク・アイの機関の連中には見られたくなかったんだけどな…」
キルから目線を変え、口を開いて驚愕した顔でハンナを見つめている飛天勝を見る。
「…ハンナ?ハンナ……だと?」
「そ。俺がハンナだ」
「何故……、何故こんな場所に…。貴様は7年前には…既にっ」
身体を起こし、自分の片腕をつかみながら立ち上がるが、信じられないような目でハンナを凝視する。
「初めて見る面だけど、ダーク・アイのお方、おひさー」
右手を顔の横に上げ、五本の指を曲げるハンナ。
今の現状を見ても全く驚いていない。
「…ぐふ……ふふふ………。そう……かぁ。やっと理解できたぞぉ…?キル君」
「………?」
キルを見て小さく笑い、話しを続ける。
「キル君。君は“デスサイド”と接触を持っている人物だな?」
デス……サイド?
「そこにいるハンナという人物がここにいるのがその証拠だぁ。デスサイドはまだこの世のどこかに生存している」
バッとハンナに目を向けるが、わずかに見える口は微笑を浮かべていてさほど驚いていない。
「そうだろう? 君が存在しているのに不思議はない。確か…“エクトプラズム・クラッシャー”だったかな? 君の愛敬ある渾名は。ぐふふぅ」
「へー。よく御存じで。貴様でも俺の事分かるんだな。その気色悪い笑い方は気にいらねーけど」
「気に入らなくて結構だぁ」
にたにたと笑い、頬についた涙のあとを袖でぬぐう。
「……………………」
(なんか…、身体が重い…………。まだこいつの術にかかってん…のか…?)
呼吸が少し乱れながらも、飛天勝の様子を探るように見る。
「それよか、そこの嬢ちゃんも無事みたいだな。よかったよかった」
眠っている少女に顔を向ける。
「ふふふ。私が少女に手を出すワケがないだろう」
「そうだな。もし貴様がそこのカッワイらしい少女に手ェ出したりしたら、ロリコンで変態ジジィとして俺が木端微塵にしてやるよ」
「そうかぁ。うぐっ!? こここ、木端微塵!?」
「あぁ~。木端微塵だ。
まずは貴様を頑丈な縄で縛りつけてぐるぐる巻きにし、手も手錠で抑える。
そんでもって脳みそを手で握りつぶし…、お、神経がたくさん通っているからそれにそって俺の爪で切り裂くか。ん、それがいいな」
「……………………」
グロテスクな内容を平然と話していくハンナの言葉を聞き、徐々に顔を真っ青にしていく飛天勝だが、お構いなしに話を続ける。
「それが終わった後は足、体、手、顔の順で葵光で一気に消しずみにしてやる。
顔以外消している間、さぞかしでかい断末魔の声が聞けるだろうなぁ~。
なんだったら内臓をぐちゃぐちゃにして生かしてやってもいいんだぜ?
そんなもん無くても人間生きれるんだからな」
「そ、そそそそそ、そんな脅しは私に聞かないぞぉ!? 大体、内臓なんてそんな事…!」
顔を引きつらせながら一歩後ずさりする。
だがその様子を楽しむかのようにハンナも一歩前に足を踏み入れる。
「貴様がもがき苦しんだり、どうあがいても俺は決して逃がしたりしない。そうだなぁ…」
間をおき、
「取り出して伸ばして回して結んで解いて潰して引き千切ってそのまま跡形もなく、原形をとどめなくなるまで引き裂く……」
声が一気にどす黒くなり、少し顎を引いて上目使いで睨む。
「………ヒッ!」
ビクッと肩を上げ、ブルブルと汗だくになりながら小刻みに震えだす。
「う…ぐ。…ふ、フフフ…。そんなに言うのならば、君の実力を見せてもらおうじゃないかぁ…」
冷や汗をかきながらも、目に力を込めてハンナを睨む。
「強がっちゃってー。そんなんだからいつまでたってもヘタレなんじゃないのか?貴様」
「は、初めて会った者に対して発言するセリフかこのぉ!!」
「ふん」
顔を横に向け鼻で笑うハンナに対し、両足を交互に上げてその場で地面を踏みつける飛天勝。
「これは、強がりではない!」
3本のナイフを出し、ハンナに投げつける飛天勝。
だが、上体を低くし、横に走り避ける。
三本のナイフがハンナを追うように草地に突き刺さる。
(…ここにいちゃ危ない。どこか離れて…)
剣を鞘に戻し、少し息を上げながらアクアマリンとエメラルドのところに近寄るキル。
「お…い。お前等…」
「だ、旦那。大丈夫ッスか?」
「え…?」
「顔色が悪いように見えるッスよ?」
心配そうな顔つきでキルを見上げて言うエメラルドを見て、数秒黙るがすぐに、
「大丈夫だ…」
と静かにこたえる。
「お前等、あいつらの攻撃に巻き込まれないように草むらに隠れとけ」
「お兄さんはどうするんですか?」
「俺は…、アイツを背負ってこっちに戻る」
少し離れた場所に横たわっている少女に目を向けて、二体に目を向ける。
「そうッスか…」
「気をつけてくださいね?」
「お前らもな」
会話が終わり、すぐに後ろを向いて近くの草むらの方へ走り、キルも少女の方へ向かおうと後ろを向く。
‘ザッザッザッザッザ’
ナイフが地面に刺さり、走って避け続けるハンナ。
逃げるハンナを追い、ナイフを投げ続ける飛天勝。
「ぐっふふふー。逃げてばかりではラチがあかないぞぉー!」
「貴様に言われる筋合いは……ー」
白い手袋をはめた手でナイフを一つパシッと取り、走りながら飛天勝に投げる。
「ないって!」
「むぐっ」
突然投げ返されたので、後ろにジャンプする。
そのまま両手に四本のナイフを構え、右手の指に挟んでいるナイフを真っ直ぐハンナに投げつけた。
「おっと」
軽々と上にジャンプして避けるが、
「くふ。甘いわぁぁ!」
空いていた左手に構えているナイフを一気に上空にいるハンナに投げつけてきた。
「…………ー!」
‘ガキイィィイッ’
「ハンナ!?」
少女の腕を自分の肩に回して立ち上がり、音を聞いてとっさに上を見上げるキル。
しかし、紫色の煙りがハンナを覆い隠して落ちる様子もなく姿が見えない。
「…むうぅ?」
飛天勝が目を細めて煙りを見つめていると、中からハンナの声が聞こえてきた。
「あっぶねーなぁー」
「…………!!」
煙りの中から飛天勝が投げた四本のナイフが高速で回転しながら戻ってきた。
「…ぐっ、う!」
二本のナイフをその場で避け、残りの二本は両手で受け止めるように掴みすぐにハンナの方を見る。
口元がにやりと笑っていて、煙がはれると、紫色に光る煙りが足と青いスケボーにまつわりついているのが見える。
スケボーを横にして乗って、腕組みをしながら飛天勝を見下す。
「おい貴様。そんなひょろいもんばっか出して疲れないか? 同じ攻撃パターンでもう飽きちまったぜ?」
「んなっ! 私の武器はナイフだからそれで攻撃しているのだバカたれぇ!!」
「バカたれはどっちだあぁ?」
「お前だぁ!」
〈…キルお兄さん〉
「………ん?」
〈早くこちらにお嬢さんを…〉
草むらの影からエメラルドがキルに小声で呼び掛ける。
「お、おう…」
「む…」
キルが少女を肩に背負いながら草むらに向かって歩いているのを飛天勝が気づき、ジッと見下ろす。
「…そうだ。私の目的はあのキル・フォリスという人物を本部へ連れて行かねばならない」
「………?」
眉をひそめ、飛天勝を見るハンナ。
「任務は実行し、完了せねば…」
持っていたナイフを構え、キルの方を向く。
「………………な!」
コイツ!
飛天勝の行動を察した途端、地面を蹴ってキルを背後から襲いかかる。
「私は指令をこなす身! 覚悟ぉ!!」
「キル!! 避けろ!!」
助けに動くが、距離があったためにもうキルの近くまで来ていた。
「……え?」
背後から声が聞こえ、ゆっくり後ろを振りむいた瞬間、飛天勝がキルに近づきナイフを横に振りあげる。
「う、わっ!?」
少女をかばいながら片腕を顔に上げて目をギュッと瞑り、とっさに身を守る。
向かってくる飛天勝だが、澄み渡った声がどこからか聞こえてきた。
〈孤独に満ちた雪の姫君よ…、その悲しみを嘆きの果てへ落とし捨てよ…-〉
『………………!』
女性の声が響き渡り、ハンナとアクアマリン、エメラルドは声のする方へ顔を向ける。
そこにはピンク色のスカートとひらひらとした袖の服装に、長い紫と黒が混じったツインテールの少女が、両手でマイクを持ったまま地面に一歩一歩不思議な音を鳴らして踏み込んできていた。
「いっくっよー♪」
両足をそろえて立ち止まると、地面に丸い陣が少女の足元に光って現れ、オレンジ色の瞳でキルと飛天勝にマイクを振る。
「………ぐぬ!?」
すぐに声と光りに気づき、横を向いて少女に顔を向けた瞬間、螺旋状に高速回転する吹雪が向かってきた。
「ー“ブリザード”!!」
‘ゴオオオォォォォォオッッ!!!!’
「ー………………っ!!」
「ぎゃっ!?」
キルの目の前で突風と吹雪が横切り、飛天勝が直撃して遠く吹き飛ばされ地面にドサリと倒れた。
「…………? って、うお!?地面が!?」
目をゆっくり開けると、飛天勝がいた地面の草が凍りついてる。
「なんだよこれ!?」
驚いて声を出すと、飛天勝を吹き飛ばした少女が高いキンキン声を出してキルに走ってきた。
「キル兄~」
「……………ネリル?」
ネリルが目の前で両膝に手をおき、キルと少女を覗き込むように見る。
「良かったぁ~。やっと見つけたよぅ」
ぼんやりと眺めるように、途切れ途切れに口を開いていく。
「え、いや…、今の吹雪、もしかしてネリルが出したのか?」
「うん。そだよ?」
「マジかよ!?」
「に! そ、そんなに驚くかな…?」
「普通に驚くって! 最近まで武器まで落として奉術もまともに扱えなかったお前が術を使ってんだぜ!?」
「そ、そなの? でも最近じゃなくて前からあたし特殊属性使えるけど……」
「は…?」
複雑な表情で苦笑いするネリルを見て更に理解しにくくなるキル。
(あ…、そ、そっか。こいつ俺が知ってるネリルじゃねーんだった)
ネリルの顔を眺めるように見て、眠っている少女に視線を移す。
「ごめんねキル兄。あたし、ここにあの人がいる事だけは知っていたけど、どの場所で襲ってくるのか分からなくて…、助けるの遅くなっちゃった」
両手で持っていたマイクを口元でギュッと握りしめて謝る。
「謝らなくても…、って…ん?」
ネリルのマイクに目を向け、よくよく見ると、リボンの布が破けているのに気づく。
「そのマイク…、布が…」
「あ、これまだ直してなくって。ちょっと壊れ気味なの」
マイクを見ながら説明すると、ハンナがスケボーをわきに挟めて持ったままネリルの横に歩いて来てのぞき見る。
「その程度なら、俺が直せるぜ?」
「に!? ほんとに本当!?」
バッとハンナを見上げ、ほんとにホント、とネリルの口調を繰り返して返事をする。
「…?」
(え、じゃぁ、今俺が持ってるマイクって…)
シダンで拾った時、ミクロバックリングに入れておいたマイクの事を話そうとすると、ネリルが持っていたマイクが途端、何かにぶつかり手から離れ飛んだ。
「に!? マイクが!」
地面にガサリと音を鳴らしてマイクが落ち、その横にナイフも落ちる。
見ると、マイクに当たった衝動で破片が飛び、完全に罅が割れて壊れてしまっている。
倒れていた飛天勝に全員目を向けると、息をあげながら弱よわしい顔をあげ、ナイフを投げたであろう右手を震えながらネリルに向けている。
「ふ…ぅ。これで…、マイクは使い物に…ならない………ぞぉ?」
力を振り絞ってネリルのマイクを破壊したようだが、ガクリと顔を地面に落とし、うつ伏せる。
「あたしのマイクうー!!」
ガサガサと小走りでマイクを手に取り、う~、と唸るネリル。
「あの虫野郎…、最後まで面倒な事しやがって…」
ハンナが声をどす黒く低くして飛天勝を睨む。
「壊れちゃったよキル兄~」
マイクを両手で持ったままキルの方を向き、うるうると涙を目に溜める。
「俺に言われても…、修正出来ないか?ハンナ」
「出来はするが…、奉魔術を出せないかもな」
「に!? そ、それじゃああたしさっきみたいな術出せなくなっちゃうの!?」
「そうかもな」
「さっきのか…」
飛天勝を一撃で吹き飛ばした技を思い出す。
「ま。安心しろ。今はちゃんと修正出来ないが、俺の本部でならちゃんと元通りになるさ」
「ほ、ほんとに本当!?」
「ほんとにホント」
「その言葉、流行ってんのか?」
キルが二人を見て冷静に言う。
「キルお兄さーん」
「旦那ー」
草むらで隠れていたエメラルドとアクアマリンが出てきて、キルのところへ走ってきた。
「もうあのおじさんは襲って来ないッスか?」
「多分な。大丈夫だろ」
「良かった…」
アクアマリンがホッとし、持っていた白い本を取りに歩く。
「あの人はどうするんスか?まだ生きているんスよね」
エメラルドがキルに聞くと、代わりにハンナが口を開く。
「あの野郎は俺の本部に連絡を取って、連行させる」
「本部…な…」
本部について聞こうかと思ったが、少し表情をゆがめ、グッと押し黙るキル。
本を拾い、表面の汚れをはたきながら戻るアクアマリンが、キルを見上げる。
「お兄さん…?」
「………ん?」
「大丈夫ですか?やっぱり顔色が悪いですよ?」
「え…」
「多分、疲れが溜まっちまってんだろうな。ま、あんな野郎の相手すれば誰だって疲れるか」
ハンナが飛天勝を横目で見るように顔をそらす。
「そろそろ俺達行かないといけないしな」
「行くって、どこへ行くんですか?」
「過去に行く」
「ちょ…っ」
アクアマリンとエメラルドに隠しもせずに内容を教えるハンナを見るが、二体は平然と聞き入る。
「あー。そうなんスか」
「分かりました。気をつけてくださいね」
「お、お前等…」
「にー。キル兄もハンナさんもこれでバイバイなんだね」
ネリルまでも全く驚いていない始末。
「驚かないのかよお前等?」
「はい。時間移動は僕達、ハンナさんが出来る事を知っていますし」
(こいつら、ハンナとはもう会ってたのか…)
「それに、おれっち達はこうゆうの、“慣れてる”ッスからね」
エメラルドの言葉でしめるように、ハンナが倒れているリリーに近づく。
「んじゃ、俺が今度はお嬢ちゃんを運ぶから」
そう言いながら右手を前にバッとかざすと、何もない場所に緑色に光る亀裂が入り空間を出現させる。
「ネリルちゃん、このツンツン君が気分悪そうだから、連れて行くわ。あっち(過去)でもやることあるし、俺の仲間の誰かに声をかけて直させてくれ」
「うん。あ、でも…、あたし武器がないと技使えないし、直してる間どうしよ…」
「あ、それなら…」
キルが気づいたようにリングを左手のひらに向け、中からマイクを取り出す。
「このマイク、新しいやつだし、使えるんじゃね?」
「に! なんで持ってるの?」
マイクを渡され、驚いてキルを見上げる。
「ここに来る前に、お前がマイクを落として拾って持ってたんだよ」
「にー。ありがとー」
遠慮なしにマイクを受け取る。
(渡しても…、大丈夫だよな)
少し苦笑いをして顔をそらすキル。
「よし。忘れ物はないな」
「あるわけないだろ…って、あ。あった…」
アクアマリンが落とした包帯が、目の前に落ちていたので拾う。
が、包帯を手に取った途端、急に頭痛の痛みが激しくなる。
「い…っ」
空いている手でとっさにこめかみの方を抑える。
「んじゃ、スペクトルの方々もネリルちゃんも、元気でな」
ハンナがキルに背を向けた状態で顔を横にして別れを告げる。
(…頭が……ーっ!)
痛みが強く、今までに感じたことがない頭痛に目をギュッと瞑って俯き、トスンと包帯を落とす。
「……………ん?」
ハンナが落とした包帯の音で、ようやくキルの状態に気づき振り向く。
「………キ…ル…-」
「だ……っ…な…ー!」
「…っ……-」
ハンナが振り向いた瞬間、ぐらりと視界が歪み、横にドサリと倒れた。
声が途中で途切れ、
わずかに目の前で倒れている少女の後ろ姿が見えるが、視界が真っ白になっていく。
「…………---」
フっと意識が遠のき、完全に視界が遮られた。
なにも、聞こえない…
なにも…、見えない…
見えるのは…
真っ白な世界だけ…ー
ー最初の助言者ー
-完了ー