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ー最初の助言者ー

「はいはいはーい!オレっちの名前はエメラルドっスよー!」


「無駄にテンションたけーな。」

「旦那ぁ、一言キツイっすよ~。」


「そ、そうかぁ?」

意外なところを言われたので頭を軽くかく


「僕はアクアマリンです。どうぞよろしくお願いします。お兄さん。」

最初顔を見合わせたときと同じようにぺこっとお辞儀するアクアマリン。


「僕達は見ての通り、ただの魔物でもそこらへんの一般の動物でもありません。ちゃんとれっきとした“種族”を持っています。」


「種族?魔物でも動物でもないんなら、なんなんだよ?」

「オレっち達の名前を聞いて何かピンとこないっスか?」

今度はエメラルドが話を続けてきて、んー、と考えるように上を向いて二匹に目を向ける

「『エメラルド』と『アクアマリン』って、どっちも宝石の名前だな。」

「そう。宝石といってもあなたが思っているその宝石のことではありません。“特殊石”の宝石の名前を抜き取って僕達は“名づけられました”」


「名づけ・・・られた?どういう意味だよ?」


「七大女学院の全ての学院に各一つずつその特殊石が管理されていると言われている宝石です。お兄さん、当然ご存知でしょう?」


「えーっと・・・・。」


ごめん。全然ご存知じゃないんだけど・・・





曖昧な反応をするキルの様子を見てエメラルドとアクアマリンは同時に顔を見合わせて首をひねる


「ご存知ではないようですね?おかしいなぁ。」


「なにがおかしいって?」

「この時間の方なら、ほとんどのかたはみんな特殊石についてご存知のはずなんですけど・・・」


「そうッスよね。あんな事件を知らないはずないッスよね。」


「事件って・・・・」


うーんと本を持ったまま腕組みして考えるアクアマリン。

「どうもお兄さんと僕達とでは話がかみ合っていないようですね。このまま話をしても理解できそうもないですし・・・・」


「そうっスねぇ。旦那と一緒に落ちてきた女の子も・・・。ぴゃ!!そうッス!女の子はどこっスか!?」

「な、なんだよ急に?」

声を大きくするエメラルドにびっくりし、少しキルの後ろで離れた場所にあおむけに横たわっている少女に顔を向けるエメラルド

「あ、いたっス!」


ぴょこぴょこと小さな足で少女の元へ走っていくエメラルドとアクアマリン。

キルも疑問に思いながら遅れて少女の元へ歩く





「大丈夫ッスか!起きてるッスか!?返事できるッスか!?」


「いや、寝てるんだから起きてもいないし返事もできないだろ・・・」

「お兄さん冷たいっスよ!こんな場所に落ちてきた人なのに!」

「俺も落ちたのを見ただろ!?」


「お兄さんはなんの外傷もなく平気なので、ずっと倒れている女の子は僕達とても心配なんですよ。心配じゃないんですか?」


「そりゃぁ、心配だけど・・・。大丈夫なんじゃねーの?」

「え」


アクアマリンが柄にもなく口を開けて目をまるくする

「そんな確証どこから・・・」


「え、えーっと・・・・、なんか知らねーけど・・・・。こんな場所で死ぬような奴じゃないって・・・思って・・・・ー」




あれ?俺今なに言ってんだ・・・?

こいつの事全然知らないはずなのに・・・・・・





「なんなんスかそれ?」

「こいつはすぐに死ぬようなやつには思えないんだって事だよ」

「この女の子とは知り合いだからそう言えるんですよね?」


「知り合いじゃない・・・と思う」


一瞬次元断層空間で少女と落ちた事を思い出す


「思うってなんだか変な言い方をするッスね?じゃあ知り合いじゃないってことッスか?」


「そうともいえないような・・・・って、ああー!もうそんなこといいんだよ!俺にもわかんねーんだから」


「なんだかよく分からないッスねー」


「ねえ、お兄さん。この包帯、お兄さんのですか?」

いつに間にか少女の横に落ちていた包帯を手にとってキルに質問するアクアマリン。

「それは俺のじゃねーよ。その女の右腕に巻かれていたやつ。」

「この子に・・・ですか?でも・・・この包帯、血液のようなものがありますけど・・・」

少女に目を向け

「この子の腕、袖は破けてはいますが傷跡らしきものはありませんよ?」


「なんでッスかねー?」

「俺だって知るかよ。」


まじまじと少女を観察するようにみるが、結局なにも分からなかったのか、包帯を小さく巻いてキルを見上げる

「呼吸は安定しているみたいですし、お兄さんの言うとおり大丈夫そうですね。」


「おまえ、結構動物の割にはしっかりしてるよな。」

「動物という種族ではありません。訂正を要求願います。」

「いちいち細かい・・・ιじゃあ、なんて種族なんだよ?」

「“スペクトル”です。詳しい説明は省きますが、僕達は七つの特殊石に近い存在なので、そうゆうあなた方のような人間でも動物でもなく、ましてや魔物という存在でもなく《スペクトル》という新しい種族なんです。なので、喋る生命体として認識していただきたいです。」


「そっか。分かった。」


「いろいろと話が込み合ってしまいましたが、お兄さんのお名前はなんといいますか?」


またすぐに話を切り替えたので、言葉につまったが名前を教える


「俺は『キル』。『キル・フォリス』だ。」


「え・・・・?キル・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ー!!」

多少名前に反応するアクアマリンだが、エメラルドは目を見開いて身体をガタガタと震えだす

「・・・そ、そんな・・・・・・・・・、旦那が・・・、キル・・・・ッスか?」


「そ、そうだけど・・・、なんだよ?どうした?」


恐怖に怯えだし、ピンっと立っていたエメラルドの耳がしおれるように下に垂れさがる

「エメラルド・・・」

「お、オレっち達にまたなにか・・・・・っ」


「・・・・・・エメラルド」


耳を両手でつかんで自分の両目を隠すようになおキルに喋るエメラルド


「お・・・、おい・・・?どうしたんだよ急に・・・」



「お、おれ・・・っち達は・・・・、もう・・・・・・・・・!」


「エメラルド!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」


ビクっとして耳から除くようにアクアマリンを見る



「・・・・・・・・。・・・・・・この人って確証は、ないだろ・・・・・」


アクアマリンの言葉を聞いて耳をピンっと立て、キルを見上げる


「・・・・・・・・・・・・・・・?」


一体なんだってんだ?



「すみませんキルお兄さん。弟が少し気が動顛してしまっただけです。今のは気にしないでください。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・? キルお兄さん?」




「あの・・・さ・・・、・・・・・・・・その、“キル”って奴、お前等なにか知ってるんだよな?」


「え、あ・・・、はい。」


突然の質問を聞いて意外そうに返事をして、


「もう《過去》の事なんですけどね・・・。」

と付け足した


「過去・・・・?」





・・・・やっぱ、こいつら見たことないし、全然記憶にないよな・・・・・・





ずっと警戒してキルを見ていたエメラルドがキルの表情を見てそわそわしながら肩の力を少し抜く


「旦那は・・・、本当におれっち達のこと知らないッスよね?」


「まぁな。てか、知ってたら自己紹介とかしないだろ?」


「た、確かにッス!」

ぱっと最初の明るさを取り戻したように耳をピクピク動かす


「その、お前らが知ってるキルってやつのこと聞きたいんだけど・・・」


それは・・・、とアクアマリンが口を開こうとした途端、別の男性のような声がキル達に向かって割り込んできた


「火事だ!いや、森林破壊ですよぉ~!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・-!?」


「え、」

「ぴゃ!?」


キルとアクアマリン、エメラルドの一人と二匹一斉に声がした方向を向く。

足元が草むらで隠れ、キル達から距離がある場所に黒いコートを着た一人の男が仁王立ちで立っている。

髪の毛は短く髪先だけ外はねで緑色、そして口の左端に飛び出ている八重歯。

意地悪そうにキリっとした目に灰色の瞳。

フードをせずにもろ顔が見えている。

「とう!!」


「な!」

突然男がガサっと草むらから出るようにキル達の方へジャンプする・・・・・・・・・が、

目の前で着地した途端、足元がぐらついて左足をグキッ、と鈍い音を鳴らしてひねり前に転んだ


「おごぅっ!?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」






「ぎゃぁあああああー!!いやぁー!足ひねったぁ!痛いぃぃぃぃ!!」


その場で左足首を両手で支え、涙を流しながらゴロゴロと草原を転がりまわる。

よく見ると、頭にはピンクのカチューシャをつけ、虫の触覚に似た丸い大きな玉が取り付けられている



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



「なんなんスかこの人?」

「僕も見たことがないけど・・・。」


「・・・・・・・・・・・俺もだ・・・。」



「君たち!!」


「うおっ!?」

ばっと涙目でキルの真下から顔を出して来る男。



「私は今すごく痛かったんだぞ!どうしてくれるんだ!」


「え・・・、いや、んな事言われても・・・・」


後ろに身体を引いて目を細めてそらすキル



「どうやら私を本気で敵にまわしたようだな!」


「はぁ!?どう考えても今のはお前の自業自得だろ!?」


「黙らっしゃい!私はこれでも特殊部隊なんだぞ。最高機関、いぃや、高い組織のそのまた高い地位にいるのだ!今はエディン君とペア…、いや、チームを組んでるんだがどうゆう訳だか私を一人ぼっちにしてどこかにさっさと行ってはぐれているのだよ。いやぁ~、全く私の身にもなってほしいものだ。」


うんうんと腕を組んで二回頷く



「エディンって…、ようするにお前がはぐれたんだな。」


「ち、ちちちち、違うぞぉ!?私ははぐれてなどいない!たださっさと行くエディン君を見失っただけだ!これははぐれてるとは言わない!迷子と言うぞぉ!」


「殆ど同じ意味だろっ!!」


「さっきからやたらと私に口を挟むね君は。なんだい?名前を聞きたいのかい?いいだろう。お安いご用意だぐふふふぅ。」



「何も言ってねーよ。てか笑い方気持ちわりぃし近い、早く離れろ|||」


嫌な笑い方と会話のペースが早すぎて苦い表情を男に向ける。

バッと片手のひらを自分の胸に誇らしげにあて、ザッと後ろに引いて声を張り上げる


「聞いて驚いてくれお兄様たちぃ!私の名は『飛天勝』!飛、天勝でも飛天、勝でもないぞぉ!?紛れもなく飛天勝だぁ。どうだ。驚いただろぅ~。」


高々と仁王立ちで先程の下品な声で←(失礼)
大笑いし、カチューシャに付いてる触角のような玉がみょんみょんと揺れる。


キル、エメラルド、アクアマリンは一人で大笑いしている飛天勝をポカーンと口を半開きにしてしばらく黙って見ていた




「…………………。」



「なんだ?君たちぃ。驚き過ぎて反応も出来ないかぁ。いやぁ~。私もなかなか名の知れた人物になったものだぁ~。ぐっふふふぅ~」



「えーっと……。」

キルが言いずらそうに頭をかいて冷や汗をかき、苦笑いを浮かべながら目をそらす


「驚くとか依然の問題で…、俺、アンタの事“知らない”んだけど。」


細目でちらっと笑ってる飛天勝に目を向けると、発言した途端ピシッと石のように固まった



「……………あえ?」


マヌケな声でキルの顔を見る飛天勝の表情は、小さいやんちゃ系の子供のような顔をしている。



「今、なんと仰いましたですかお兄様。」

「え、いや…、名前とか言われても聞いた事ないって事なんだけど…」


「な、なななな、なんだとぉ~!?私を知らない!?何故だぁ!」


「はぁ!?何故ってこっちが知るかよ!?」


「そんなまさか!あの機関に入って特殊部隊に入団できた私を知らないだなんて…ー、そ、そんな事、認めないぞぉ!?認めてなるものかぁ!」


キルの襟を両手で掴み必死に弁解しようとするが、キルは口の端を歪ませ嫌そうな表情を浮かべる

「俺に聞くなよ!?だったらコイツらに聞いてみろって!」


怒鳴り口調でキルと飛天勝の横にいるエメラルドとアクアマリンをビシッと指差す


「え!?お、オレっち達っスか!?」


「…………………!?」



「こんな動物に聞いても私は痛い人と思われるだろぉう。動物が話しをするなんて…ー、って、あれ?今誰か喋った!?」

一旦、二体のスペクトルを見てキルに顔を向けて大声を出すが、エメラルドの声を聞いてキョトンとした顔で若干汗をかく

「いや、だからちゃんとコイツらを見ろって……」


ずっと下に指差したまま呆れた様子で言うキルから、ゆっくりとエメラルドとアクアマリンを見る。

「失礼な。僕達は動物ではありません。スペクトルですよス・ペ・ク・ト・ル。」

アクアマリンが眼鏡に手をかけながら飛天勝に言葉を訂正する


「な、なんとぉ!?本当に喋った!いや、まさかそんなぁ!」


「喋る事がそんなに珍しいっスか?オレっち達には感覚がよく分からないっスよ?」


わなわなと顔を青ざめて襟から手を離すが、ハッとして何かに気付く



「そ、そうか分かったぞぉ!?つまりアレだろぉ。さっきこのお兄様が独り言をしていたのではなく、実はちゃんと君たち動物と会話を通していた。そういう事だろぉ!」


両足を大きく横に広げてアクアマリンとエメラルドを交互に指差す


「独り言ってなんだよ!?俺をそんなふうに見てたのかよ!ってか、気づくの遅くね!?」


「どうなんだ喋る動物ぅ!」


「だから、僕達は動物ではなくスペクトルですって何度言えば分かるんですか!!」


くわっと怒りだすアクアマリンにビクッとして指を引っ込め、両手の人差し指をちょんちょんとオドオドしながらくっつける


「う、ご、ごめんなさいぃ…。今のは私が悪かった…よね?」

隣に立ってるキルに質問するが、飛天勝を見て冷静に返事をするキル


「何で俺に聞く。」



「だって…………ね?」

「ね?じゃねーだろ。てか聞かないのかよ。」


「あ。そ、そうだったぁ!危うく忘れるところだったぁ。動物さん!」


『スペクトルっ(ス)!!!!』


今度はエメラルドもアクアマリンと一緒に言い直す。

あまりの気迫に汗をダラダラとかいてひくひくと口を歪ます飛天勝


「ス…、スペクトルさん、ハッキリと聞きます…。ズバリ!私の事を知っていますかぁ!?」


自分の顔を親指で指して質問する。

だが二体は、

「知りません。」

「オレっちも見たことも名前も知らないっス。」

と普通に答えたので、妙な間があく




「……………………」

「……ぐふぅう…っ」


膝を落として四つん這いになり、ズーン、とかなりショックを受けたようにしくしく泣く


「いいもん。いいもん…。私はどうせ変態で変人だい…」


汗をかきながら飛天勝の様子を眺めるように見るキル

「…………………。」


自覚あったのか。




「何もしていないのに人さらいや不審者、ストーキング扱いされて…、私はなんて不幸なのだろぅ。エディン君…」



うわ。しかもすげーかわいそう…



「……………………」


しばらく沈黙が続き、いきなりガバッと立ち上がってキル達を涙目で笑いかける


「ぐわぁっはっはっはぁ!そんな回答をする事を私はあらかじめ予測していたぞぉ?…あれ、なんだこの水は。おかしいなぁ、前がかすれて見えないぞ。」


自分の涙が溢れてとっさに言い訳を並べる飛天勝を見て、目を細めて口元を緩めるキル達


「……マジ可哀想なんだけど…」


「そうっスね…」

「これは…、あまりにもヒドいですね。」



ゴシゴシとコートの袖で目をこすって涙を拭き、ふと、草原に横たわっている少女に気付く飛天勝

「…んん?………あえぇ?」


首を傾げて少女をまじまじと見る飛天勝の様子を見て、キル達はどうしたのかといった顔で見る。

「……何故、『アブソーブ』がここにいるんだぁ?」


腕を組んで首を傾げ、疑問そうに発言する


(アブ…ソーブ…?)



「今は確かコールドスリープに入ってると連絡が入ってたんだがぁ…。しかも服装も鮮やかだなぁ。ね?」


今度はアクアマリンに聞く飛天勝

「僕は知りませんよ。」

あっさりとした回答である


「うぇえぇ~。私には全く理解不能だ。アブソーブアプリケーションがここにいて…、いやいや、青いメッシュが混じった黒髪ツンツンの男を早く見つけて生け捕りにしなければ………ん、まさか…、いや、まさかぁ!」

いきなりキルを見てビシッと大袈裟に指を指す


「な、なんだよι」


「忘れてたぁ!私の任務は黒髪ツンツンを生け捕りにっげふんげふん!」

早口で興奮し過ぎたせいか、言葉をかんでむせてしまう。



「大丈夫っスか?」

「私は大丈夫だ!任務に表示された人物を丁度迷子中にホーリー・アイの者と一緒に動向していたお兄様を発見してウハウハしながら攻撃していたというのに私とした事が、何故か君等の元気ハツラツの会話に思わず参加して花を咲かせてしまったぁ。なんて事だぁ、私のバカぁ!」


バシンと自分の頬を叩きつけ、強く叩いてしまって痛いと呟いて涙目で赤くなった頬をさする


「なんか、すげー説明口調のうえに言葉の使い方間違えてるな。」

冷静にツッコミを入れる。
キルらしいといえばキルらしい冷静なツッコミ


「ん…?ちょっと待てよ…。じゃぁさっき黒いナイフみたいなのが襲ってきたのって……ー」


キルが気づいたように言葉を区切ると、飛天勝が顔を見てニヤリと意地悪げに微笑する



「そう。私だ……。“キル・フォリス君”」


右手拳を顔の横に上げ、三本の黒い煙りで作成されたナイフが指の隙間に挟まれて現れる


「…………ー!」

俺の名前…っ




「私はこれでも優しいぞぉ?どうやら今この場にいるお嬢さん(眠ってる少女)もコールドスリープ状態のようだから、手を出したりしない。いや、狙撃してしまうとこの時間のアブソーブはクラプティカルを使用出来ないからな。」


さっきまでの雰囲気から一変し、意地悪な顔で更に目をキリッと細める


「…………………」

アブソーブ…、クラプティカル…?

全部聞いたことない言葉だし…、アブソーブってコイツの名前なのか…? 

「さてさて、最近【月光の森】が全て燃焼してしまったらしいが…、心当たりないかね?キル君。」


「心当たりって…、月光の森自体どこの事言ってんのかわかんねーんだけど?」


「んえ?」

予想外な返答だったらしく、目をまん丸にする


「なんだ。じゃぁ名前違いか。」


「あ、あの!」

エメラルドが飛天勝を見上げて声をかける


「ん?なんだ君ぃ?」


「飛天勝さんは月光の森の事、知ってるッスか?」


「知っている。知っているともぉ。何せ、私はその森に一時居たのだからなぁ。まぁ、あの事件が起こる時にはもうその場を離れていたがぁ。」


「…………!」

アクアマリンが飛天勝をジッと見る



「なぁ、その月光の森が燃焼したってのは…、燃え焼けたって事か?」

キルが質問すると、右手に構えていた黒いナイフを口の前に持って横にする


「む。その通りだチミ。この【嘆きの岩】の近くに、最近まで存在していた月光の森という場所があったんだがぁ、ある一人の男の手によってその森ごと焼き尽くされてしまったのだぁ。」


「一人の…男……。」


「その男の名は『キル』と言って…」


「ちょ、ちょっと待て。なんで名前知ってるんだよ?」


「むむぅ?私が所属している本部に連絡が入ってな。アブソーブもその事件に関わっていたので、名前や詳細を掴めたんだぁ。」


「アブソーブって…」

チラッと眠っている少女に顔を向け


「じゃぁ、お前らは何で名前分かるんだ。」

アクアマリンとエメラルドに聞く


「おれっち達は“契約者”の人から聞いたッス。」


「契約者?」

「僕達、スペクトルという存在をつくってもらった方です。名前は申し訳ないですけど教える事が出来ません。ですが、僕達もその月光の森に居たんです。」


「おうぅ!そ、そうだったのかぁ!」

キルではなく飛天勝が驚く


「そ、それで……、その男は…」


「はい。記憶を辿れば、強力な黒い炎をどこからともなく出し、その黒炎(こくえん)で月光の森全てを燃え尽くしたんですよ。」


「……………ー!」


たった一人の人物でかよ…



「それで…、お前らは…」


「おれっち達は契約者であるマスター(主人)が守ってくれたから、こっちの嘆きの岩に現在様子を見て住んでるッスよ。」

「そ、そっか………」


なんか、同じ名前の奴っていっても、嫌な気分だな…。

「まぁ。その後の事は私も今報告待ちだ。そこの動物諸君。」


すかさずアクアマリンとエメラルドはスペクトル!と大きい声で飛天勝に言うと、また少したじろう


「ぁ…、えと……、ゴメンナサイ…|||」



「全く。これだから人間という種族は困るんですよね。」

「全くっス。」


「…………………。」

二体して飛天勝に呆れ口調で会話され、ものすごくテンションが下がっていく飛天勝を見て哀れみに満ちた目で見るキル




………かわいそうだよなぁ…




「それで、何ですか?」

「えーっと…、君達スペクトルは月光の森で助けられた後、そのキルという人物の行方は分からないんですかぁ?」



「そう…ですね。というか、僕達はマスターにキルという人物から少し離れた場所に避難させられたので、顔や姿を見ていないんです。見ているとすれば……」


「森が黒く燃えてるところっスね。」


アクアマリンの言葉を繋げるエメラルド。

その話を聞いて飛天勝は何やら考え込む姿勢をする



「……ぐふぅ…。なかなか明確な情報は手に入れにくいものだなぁ。しかし私はこれでも機関の特殊部隊の一人。むやみやたらな行動や発言は避けるべきか。」


(思いっきりむちゃくちゃな行動をとったりペラペラと俺達に発言してるよなっ!?)


心の中で強くツッコミを入れるキル。

だが飛天勝はまだ構え持っていた三本の黒いナイフを縦にして、にたりと口の端を伸ばす



「くふふぅ~。だがだが!ここでキル・フォリス君を見つけたという事は私にもちゃんと指令をこなす義務があるのだぁ!ならばぁっ!」

ビュッとナイフを一度横に振ってかがんで、一歩後ろに下がり、ちゃんと構えを取る



「私はキル君。君をこの場から力ずくでも本部へと連行しなければならないのだぁ。」


「俺!?何で俺なんだよ!」



「おぇ?え、えーっと。……………何でだろ…」


どうやら細かい報告や指令を下されていないようで、構えた状態で首を傾げる



「知らないのかよ……」

「う、うう、五月蝿いぞぉ!?わ、私にだって知らない事が一つや二つ…ー!」


「いや!これはただの情報不足だろ!?それにお前、エディンって奴に置いてけぼりにされてるって事は、あんまり好かれてないって事じゃねーの!?」


「な!なななな!?」

目をクワっと見開き、身体を震わせる


「侵害だぁ、キル君!私を嫌う者など世界中どこを探してもいないぞぉ!?何故そんな確証も証拠も根拠もない戯れ言をほざくぅ!」


大声で叫びながら黒いナイフをキルに向けて投げつける



「うっわ!」

いきなり投げつけられたものの、間一髪上空にジャンプして避け、よろけながらも地面に着地するキル


「あ、危ねーだろ!いきなり投げるな!」


「何を言う。私と君はもう既に敵対同士なんだぞぉ。私が君に攻撃しないだなんて、これじゃぁ敵ではないじゃないかぁ!あほぉー。」

俯きながらバッと両手を横に広げ、黒煙と共にまた三本ずつナイフを出してキっと顔を上げてキルを睨む。

それを見てすかさず左右の剣を沙耶から取り出し両手に構える


「あほって言うな。あほって!」



「五月蝿いわぁ~、ぐひぃ~!」

奇妙な声を出しながら今度は右腕を体の外側に振り、二度、左右に振って三本のナイフを投げる


「くっ!」


一本目のナイフが飛天勝から見て左腕に向かってきたので、右足を一歩後ろに引いてかわし、二本目のナイフは左足に向かってきたので今度は地面を思いっきり蹴って右に避ける。

だが、三本目のナイフが空中にいるキルの顔目掛けて向かってきた


‘キンッッー’

両手に持っていた二つの短剣で顔を隠すように前でクロスさせ、ナイフを地面に跳ね返し着地した

「むむむ!なかなかやるものだなぁチミー。」


休ませる暇を持たせないように左手の指の間に挟んでいた三本のナイフを同時にキルへ投げつける

「へっ。これでも前に戦闘訓練してたんだよ。最近はあまり外に行かなかったから体が鈍ってたけどな。」

真ん中のナイフを避けるように間に入って避け、後ろにナイフが通り過ぎる。

しかし、飛天勝は避けられた事を気にもとめないようにニヤリとする


「だが、これはどうかなぁ~?」


左の手のひらをキルに向け、グッと何かを握り締めるように拳にすると、黒煙に覆われた三本のナイフが滑らかに方向転換し、キルを囲むように背後から向かってきた


「う、わっー!?」

飛天勝の言葉を聞いてとっさに背後からの危険を察知し振り向くも、剣でふさぐ事が間に合わず、後ろにそれながら腕を交差させガード体勢をとる。

「ぐっ!」

片目を閉じて頬、腕、髪の毛先がナイフで僅かに切れ、かすり傷から血が滲み出る



「ぐふふ。なんだなんだぁ、キル君。君はこの程度の者だったのかぁ?もっと自分の実力を出せるだろう。」


「・・・うるせーよ。」

両手を下に下げ、ピクリと眉毛を動かす


「もう少し楽しませてくれるかと思ってはいたのだがぁ・・・。」

ふぅむ、と顎に手をそえ

「“アトリビュート”。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・!」


飛天勝の言葉に反応し、目を見開くキルの様子に意地悪く笑う


「くふ。反応した。やはり使えるようだなぁ、アトリビュートを。どうだぁ?今この場で私の前で見せてくれないかなぁ?」


「・・・・・・・・アトリビュート・・・?」

アクアマリンとエメラルドがキルに視線を向ける


「・・・・・・・は。」

顔を横にして鼻で笑い、再度飛天勝を見る


「アトリビュート?俺が?特殊属性の事だよな。そんな大それた能力扱えるわけねーよ。」


「ほっほー。そう断言するとはぁ。だがキル君、君にはそんな発言できないはずだ。何故ならばっ!」


両手に先ほどのナイフより大きめのサイズが一つずつ現れ、まず右手にナイフを持った腕を上に振り投げてきた。

初めから予測していたように、足元に向かってくるナイフを横に移動してよける


「ー・・・くっ!」


「私は“ダーク・アイ”の機関の者だからだぁ!」


「なっ!?」


ダーク・・・アイ?

次々と無限に出てくるナイフをお構いなしにキルに投げつける飛天勝。

それを避け続けるキル


「エディン君や組織の一員から報告をちゃんと受けてはいるんだぞ。名前はキル・フォリス。性別、男性。身長、175センチ。年齢は今の時点の君は18歳。武器はクロスソードまたは双剣で二刀流使い。赤のミクロバックリングを装着。色から推測すると君のアトリビュートは火属性の可能性。《クラミルⅣ》と《シリアングルⅢ》の二つの同位に確認一致。正式的感覚意思確認による報告だが、新たに《ディスペンダー》の同位にも一致する可能性あり。」


一旦間を置いて立ち止り右手にナイフを構えて一瞬姿が消えたように見えなくなる

「ー消えた!?」


「消えてはいない。“トランソニック(遷音速)”を使っただけだぁ。」


いつの間にかキルのすぐ背後に回り込まれており、とっさに後ろを振り向こうと顔を横に向ける

(しまっ・・・・-!!)

「explanation end(説明終了)。」

‘グシュッッー’



「ー…っあ…!」

背中をナイフで斜めに大きく切り裂かれ、血液が飛び散り表情を歪める。

「キルお兄さん!」

「旦那ぁー!!」



「…う……ぐ…っ…」


その場で剣を持ったまま地面に膝をつき、切り裂かれた服から切創された傷口の血がぽたり、と草原に滴り落ちる


「ふぅ~。呆気ないものだぁ~。もう勝負がついたようだなぁ。」


カチューシャに取り付けられてる二つの玉をゆらゆら揺らし、素手になった手のひらをキルにゆっくり近付ける


「もう、そろそろ気絶でもさせて連れていくかぁ…」


汗をかき、痛みに堪えて息をあげ俯いていたキルが、静かに言葉を発する


「…ハァ……、ハァ…っ…。……………行かねーよ…」


「ん……?」


ピタリと頭の前で手を止める




「…俺は…、行かない…。お前のところになんか、行かねーさ…。」



「………なにぃ?」


眉をひそめる飛天勝。



「…お前ら、俺の事よく知ってるらしいけどよ………、…そうゆう回りくどいやり方で俺に近付くなよ…」


ゆっくりと顔を上げ、青く聡明に澄み切った瞳で飛天勝の目を真っ直ぐ見る



「影でこそこそされんの…、嫌いだからさ。」



「ー…………っ!?」


小さく微笑を浮かべるキルに対し、一瞬言葉が詰まり手をピクリと動かす飛天勝。

その僅かな隙を見逃さず、とっさに右手に持っていた短剣の柄の先端を飛天勝の手首に当て、立ち上がる



「いっ!?」


神経に痛みが走り、とっさに手を後ろに引っ込めて後退りする。


すぐに体勢を整え、短剣を強く握り締めたまま地面を蹴り、上体を低くしながら飛天勝の目の前で短剣をクロスさせる


「はぁぁっー!」


「ーうぐぅっ」


外側に剣を勢いよく振り、飛天勝の腹部を斬りつける。

だが、後ろにバックジャンプしてギリギリ服を切りかすり傷を負わせただけで避けられてしまった


「ぎゃぅあぁぁ~。手首いたぁー!」


キルに突かれた手首をもう片方の手で抑え、足をじたばたさせて涙目で叫ぶ。

「そしてお腹のかすり傷も痛いぃ~!何故斬りつけたんだぁー。私を誰だと思っているんだこのあほぉ~。」


「誰って、飛天勝だろ…」


「あ、いや、確かに飛天勝だ。」



「……………………」

(背中がズキズキする…。……早いとこかたつけねーと…、やばいかもな……。)


グッと眉をひそめ、双剣を握り締める


「くそーくそー。くっそぉー。私にだってまだ手はあるんだぞぉ?嘘じゃないぞ!」

頭に取り付けられているカチューシャの両端に手をそえ、丸い球体が小刻みに揺れ出すと、音波を発するように空気が振動するかのように周囲に流れだす



「……………?」

何する気だ…?



警戒しながら飛天勝の様子を見ていると、急に身体が重くなったような感覚に侵され、ガクッと双剣を離して膝をつきうつ伏せに倒れる状態になる

「ーなっ、なん…だっ…!?」


目を見開き、立ち上がろうとするが体の自由が奪われ、完全に地面へ押さえつけられているように起き上がる事が出来ない


「ぐわっはっはっはぁ。どうだぁ。足掻く事も立てる事も出来ないだろ~。」


「…お前っ…、俺に…、何しやがったんだ…っ」

無理やり顔だけ上げ、睨みつけて質問をぶつけるが、後ろに歩こうとする飛天勝の両足首から下が動けなかったようで、ビタン、と仰向けで後ろに倒れた


「おふぅっ!?ちょ、わ、私の足首まで術にハマってしまったぁ!?お、重い助けっ、助けてくれぇ!!」

一人でジタバタと手を動かし必死にキルに叫ぶ


「あほか!?俺だって動けねーよ!ってか、仮に動けたとしても助けねーよ!」


「な、なんだとぉ!それは私を特殊部隊の一員と知っての発言かぁ!控えよろーう!」


「意味分からねーよ!」

「ふぎゃぁぁ!?」

キルが怒鳴った途端、やっと足首が動けるようになったようで、勢い余って地面に頬をズザー、と強くこすり滑りながら悲鳴をあげる


「ひひぃぃ~!私の顔までも傷がぁ~。」

ガバッと立ち上がり赤くなった頬を両手でさする。



「…………………ι」


(何なんだよコイツ。短時間で怪我しすぎだろ)

「も、もう怒ったぞぉ、キル君!」


「うん。だから今のはお前の自業自得…ー」


「え?何?もう一回言えぇー!」


「今のはお前の自業自得…って!何二回言わせてんだよ恥ずかしいだろっ!!」


キルはノリツッコミを習得してしまった



「どうだ恥ずかしいだろう。私もそれと似た屈辱を何度も味わったのだぞぉ。ぐふふふぅ。グッハハハハハー…っう゛!ゲッホ、ゲホッゲホォ」


笑い過ぎてまたむせてしまい、その様子を見て哀れな目で飛天勝を見る


「…あぁー…………」


…駄目だ。なんかこうゆうかわいそうで自己中なヤツ、苦手なタイプだなぁ…



「げほぉ、ぐふぅ…。…ふ、ふふふふ。これはワザとむせていたのだぞぉ。あえて弱いと見せかける作戦、つまり計算していたのだぁ。」


「いや、それ自分で言ったらもう駄目だろ!?」



『………………………。』


エメラルドとアクアマリンはただ二人のやりとりを真顔で見ているだけだ

〈ねぇ、アクアマリン。段々話しがそれていってないっスか?〉

アクアマリンに静かに耳打ちする


〈僕もそう思う。軽くコントみたいになってますよね…〉


冷静に応えるアクアマリンだが、呆れた表情をしてキルと飛天勝を見ている


「全く。何故こんなふざけた…、いや、戯れた事を私はしているんだ。時間の無駄だ。ムダ無駄。」


飛天勝が嫌み混じりに言い、それを聞いてるキルがムッと口を動かす


(何か腹立つ言いぐさだな…。)



「ま。私としてはぁ?今の弱いひよっこのキル君など敵ではない。ぐふ。あぁ~、いい気分だぁ~。」


(…この野郎………)



ふるふると身体を震わせ、立ち上がろうとも“何か”の力で動く事が出来ず、ただ飛天勝の言葉を聞くだけだ。




(絶対に八つ裂きにしてやるからな…)


心の中で強くそう誓った。

誓ってしまった。




と、耳にかけているコードがない小さな黒いイヤホンに手を当て、何か聞きだしている素振りを見せる


「む…。どうしたぁ?」

ふんふん、と返事をして、突然目を見開いて閉じる。


(……な、何だ…?)

その様子を見たキルには何も聞こえず、何なのか理解出来ない。


耳から手を離し、目を開いてキルを見下し


「なる程、成る程。」

と言ってにたっと不気味に笑いかけた。
「キル君。一つ聞く。君は先ほど白いコートを着た人物と一緒にいたな?」


「・・・・・そ、それがどうしたんだよ。」


「ぐふふ。その人物の名前はなんと言うのだ?」


「そんなの・・・・、誰が教えるかよ・・・。」


「ほっほー?」


腕組みし、目を細めながらカチューシャの玉を揺らすと、先ほどよりも身体が重くなる


「・・・・・ぐっ・・・-!」

「今君の立場を考えておいた方が身のためだぞぉ。なにせ、私の支配下にいるのだからな。さぁ、さっさと名前を言え。」



・・・・・・むかつく野郎だな・・・
こいつ・・・



「・・・だ・・・れが・・・っく!!」

グググ、とどんどん威力が増していく


「くっふふふ!早く言え!キル君!さもなくば今この場で“殺して”しまうぞぉ!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・-ー!」






‘ドクン・・・・-’








ー殺・・・す・・・・・?




一瞬、奇妙な感覚を感じ取り、飛天勝を見上げたまま凝視する



・・・・殺す・・・・・・・・・・

殺す・・・。


なんだ・・・、今の・・・・・

何か嫌な感じが・・・・・・・・-

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