このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ー戸惑いと狂いだした時間ー

「な、なに?」

目を開くともう光りは見えなく、静かになっている。

どうしても気になり、ベッドからすぐに降りて茶色い布を身体に覆うように巻く。家のドアを開けると、冷たい風が身体を優しく撫でる。

外は夜なのか、真っ暗で満月が雲に隠れている。星空は全部曇り空で覆われて見えない。

「…なんだろう?」

すぐ目の前に赤く光っている物が見える。
ゆっくり歩いてしゃがみ、手にとって見てみると、片方の赤いイヤリングだった。

「綺麗…。でもなんで片方だけ? それに、さっきの光りは…-」

少し離れた草むらからガサっと音がして驚いて向くと、人影が見えた。身長が高い事がわかるけれど、性別は顔が見えなく一瞬後ろ姿が見えただけなので分からない。

「もしかして、このイヤリングの持ち主かな」

空を見ると、雲が多くなっていて今にも雨が降りそうな天候であったが、右手でイヤリングを握りしめて人影を追いかけるように走りだす。

「待って…!」

少女は森の中を走る。
だが体力があまりなく、すぐに息切れしだすがそれでも走るのを止めない。

「はぁ…、はぁ……っ」


森の中追いかけていると少し狭い空間が見え、人影がピタリと背中を向けたまま立ち止まる。
私も同じように少し距離をおいて立ち止まり、目の前にいる人物を見つめる。

服装は男服で黒く、曇り空でそのうえ夜なので、下半身しか見えなく肝心の顔の方が見えない。

でも、聞いてみなくちゃ…。

「…あの……、…落とし物があるんじゃないですか?」


初めて人に話しかけたような気がする…。
なんだか不思議な感覚…。

そんな事を思っていると、満月が雲から少し顔を出し、少女の後ろから前にいる男にかけてゆっくりと月の光りが照らされ、姿がはっきりと見えてくる。


「…………………」


男が黙って振り向くと、少しだけ光りが顔を照らし、目が合った。

「………え…」

少女が無意識に声をもらす。


男の瞳の色が赤く…、時計回りにゆっくりと綺麗に回転してる。

「……………………」

…きれい…………。



真っ赤で……、

透明に透き通ったような目で……、


……幻想的な瞳の色がゆっくりと渦巻いている……。


誰が見ても思わず見とれてしまうような…、そんな瞳……。





「“………ーー”」


男が口を開き、何か言葉を発する。
が、大きな稲光が起こり、音で声がかき消される。



「あっ…!」


突風が起こり、少女が羽織ってた布が風で飛ばされ、空に舞って流されてしまった。
と同時に男がまた背を向け、森の中を走り去って行ってしまった。




「ー……あっ! 待って!」


突然の事で反応が遅れ、直ぐに男のあとを追いかける。






「…ハァ…! ……………ハァっ」





息が乱れても尚、走り続ける。

彼がどこに向かって走っているのか分からない。


…でも…………、



「…会わなきゃ……」




何故だかそんな気持ちが溢れてくる。



やっと森を抜けると、どこに行ったのか男の姿を見失ってしまった。




「…ハァ……。ハァ………。………どこに行ったんだろう…」


あたりを見渡すと広く殺風景で、地面は草が枯れたように乾いた土になっている。

少し離れた場所に高くて白い塔が建っているのがわかった。見た目は真新しく、人が中に入れそうだ。

「…時計塔……かな…」


塔の一番てっぺんを見ると、大きな時計が組み込まれていて、円柱で建っている塔の上に景色を見渡せそうな空間がある。


「………あ」

そこに人影が見え、何かが動いた。



「………さっきの人…、かな…」


イヤリングをギュッと握りしめ、時計塔らしき場所へ走る。
中に入ると、塔の中は螺旋(らせん)階段になっており、ずっと上に続いている。



「階段になってるんだ…」


一瞬登ろうか戸惑ったが、ここまで来た以上引き返す訳にもいかず、何より、もう一度さっきの人物に会いたいと思っていた。



(……あの人………、私は知ってる…)



上を見ながら螺旋階段をゆっくりと上り始め、心の中で呟く。






ー…夢で見た人物?


…初め見た森での夢は…、性別や声はちゃんと分かるけど、顔だけよく見えなくて分からない…。それに、服装も違ってた…。


ならさっき見た夢の人物?

この夢もいつもの夢よりも更にぼやけていて、最後の方は記憶にないから結局分からない。



…でも、私はあの人を知っている。
あの瞳に見覚えがある。

きっと夢じゃなく、どこかで会った事があるんだ。





そう考えていると、無意識に登るスピードが早くなっていて、何か希望感を感じながら走って階段を登り続ける。





「………私……、“…あの人に会いたい”…」


心からそう願い、口に出した。

カツンと足音をたて、やっと階段を上りきる。

見ると、少し狭いが景色を見渡せるように手すりのような壁がある。高さは腰ぐらいまでで、大きな四角い枠で窓のようにまわりは壁で囲まれていた。丸い床で、やはりこの空間も真っ白な色となってる。


「…………」


誰もいない。
確かに人影が見えたのに…。


両手を枠の上におき、景色を眺めると高くまで登ったらしく、少し遠くに森に囲まれた茶色い洋館が見え、その近くに街らしい場所も見えた。

「近くに街や洋館なんてあったんだ…」


今日初めて見た。全く知らなかったし、外出すらした事がない私は、この時計塔がある事さえもわからなかったのだから。

ふいにふわりと優しい風がピンク色の髪をなでる。



「あの人に…、また会えるかな……」


会いたい。

何故かは分からないけれど、会わなくちゃいけない。


そんな気持ちが強くなっていく。


外を眺めていると、また雷が大きく鳴り、ハッと背後から何かの気配を感じ取って後ろを振り向くと、黒いコートを着た、フードで顔を隠している人物が一人立っている。

冷たい風でコートの裾が揺れながらも、少女をジッと様子を窺うように見ていた。


いつの間に…。



「…あなたは?」


少女がおずおずと聞くが、コートの人物は無言でこちらに歩きだし、少女の隣を横切って洋館を見下ろす。


「…………?」


誰だろう? さっき会った人じゃ…ないよね?



「……ドール(人形)が消滅したようだ…」


男性の声で、綺麗な声。
小さく呟いてもはっきりと聞き取れる。



ドール?

一体何のことを言っているのか私にはわからない。


「あの。あなたは…?」


男が振り向き少女を見る。

「ふふ。君は記憶がまだ不安定なんだね…」


「…え? 記憶…?」

「やるべき事は済んだ。後はあの子を連れ戻すだけ…」


あの子?


「おっと。安心してくれ。俺はもう君のような“欠格品”には用がないからね」


欠格品?

この人…、さっきから何を言っているんだろう。

「それにしても、どうやって逃げ出したんだか」

また背を向け、曇り空に覆われている景色を眺める。


「ドールが厄介物を作り出していたおかげで、完璧な人形が完成できたというのに、全く…、俺の目を盗んでまでね。まんまとやられたよ…」





……………。

…………人形。
ドール。

………まってよ…?
この言葉、聞き覚えがある。


「まぁ…、こっちで始末出来たらそれでいいかな」



「………あの」

私が呼びかけると、男がん?と振り向く。


「あなたは私の事、知っているんですか?」


それを聞き、面白そうに少し斜め下を向いてくすりと微小する。


「知っているもなにも、君は………-」


説明しようと言いかけるが、少女の持っている物を見てハッとして言葉をきりジッと見る。


「………それは…」


「え?」

視線をたどると、右手に握りしめていたイヤリングに気づき手を開いて見せる。


「あ、これはさっき拾って…」

「どこで拾った!」


男が少女の両肩をガシッと力強く掴み尋ねる。

「いっ…! ……も、森のほうで……」

痛みが走ったがちゃんと応えるも、男は更に肩を揺らし問いかける。

「森で拾った時、誰か見なかったか!?」


ど、どうしたんだろう…、急に。


「誰かって…」


確かさっき…、


「…男の…人に……」


「…………! …まさか…! 貸せっ」


なにかに気づいたように、少女の持っているイヤリングを奪おうと手を伸ばしてきた。


「きゃっ!?」


男の手が赤いイヤリングに触れると、途端に光りだし、赤い閃光が弾くように輝きだした。

「…………!」


「痛っ…-!」


赤の閃光が少女の怪我をしていた右腕にあたり、電流が走ったような痛みが伝わる。


「っく! …妨害システムか?」


触れた手をかばうようにして、少女を見すえる。

「ー………そうか…! 君があの時逃がしたのか!」


「なにを言って…ー」


両手でイヤリングを守るように胸の方で握りしめ、後ろに後ずさる。



「教えろ!“秘眼者”はどこにいるんだ!」


男が一歩足を踏み入れ、前に乗り出し問い詰める。


「………っ…! ……さっきから何を言ってるの!? 私は居場所も知らない! アナタは誰なの!?」


後ろに走り、枠の方で男を見て問い返す。



「…くっ! ……完全構築する前に目覚めたのか…っ」


少しずつ歩き詰め寄り、黒い手袋をはめている右手を少女に差し出す。


「……………!」


後ずさりすると、枠の壁に足が触れ、後ろを見ると少しでもバランスを崩すと下に落ちそうだ。

イヤリングをグッと握り、男を見る。



「…そのイヤリングをこちらに渡して貰いたい…」



「………………」




イヤリングを…?
……でも…。




迷うように男を見る少女。


「……どうして、これを…?」


「………………」


少し黙り、深みがあるように応える。


「君が一番よく知ってるよ…」




え…、………私が…?

私がこのイヤリングと何か関係があるの…?



「どうしたんだ…? 渡さないのかい…?」


男が一歩足を踏み出し、もう一度問いかけるように詰め寄って来る。

「…………いや…」


なにかを思い出そうとしている…。


…私、記憶の奥底で大事な記憶を忘れてる…。




「…………ん…?」

何故か震えだし、呼吸が荒くなっていく少女を見て、様子がおかしいのに気づく。


「……わた…し………。…あの時…っ…ー」



目を見開き、途端に一部の記憶を思い出す。まるで脳の神経が通るように。





















ーー……コッ…コッ…コッコッコッー




誰かがどこかの施設を走っていて、ある大きな白い部屋に入る。

中央に一つの白と透明な棺桶のようなカプセルがあり、中に誰かが安らかに眠っている…。


まわりは何もないただの白い部屋という空間。

そのカプセルが開き、中で眠っている人の手を両手で握りしめ、何かを言っている…。



…この記憶は…………?






















「ー……い…や……、やめ…て…っ」


「………この子…、錯乱しかけてるのか…?」


男が震える少女を見て眉を潜める。

「いや………ー」


自分でも分かる。震えが止まらない。

忘れていた記憶を一気に思い出そうとして、途端に恐怖感に襲われている。

視界がグラリと揺らぐ。



それに、何かが…、体の内側から“何か”が…ーー





いや…いや…っ

やめて!












「いやあぁあぁぁっ!!」



目をギュッと瞑り、両手でイヤリングを握りしめると、身体が突然白銀に光り輝き始める。


「ー……っな…!?」


男が後ずさりし、少女を見つめる。

(この反応…、それにこの光りの属性は…)



「…………くそっ!!」


感ずいたように、自分の身を守ろうととっさに手のひらから藍色の光りを出し、少女に向けて放出する。


「ぁっ…ーー!」

「ぐぁっ!?」


白銀の光りと藍色の光りが互いに衝突し、その反動で男は後ろに飛ばされ壁に背中を強く打ち、少女も後ろに飛ばされ、時計塔の外に吹き飛ばされてしまった。



「…………ーー!!」



一瞬無重力に侵されたように、頭から地面へ落ちる。

急速に落下速度を増していくなか、忘れていた記憶を完全に思い出した。



……そうだ…。

…私があの時…、イヤリングを…ー





右手で握りしめていたイヤリング。

落下の影響で緩んだ手から離れて少女の目にうつる。




「…やっ…と……、………思い出したのに…」



落下しながら悲しみに満ちた瞳でイヤリングを見つめ、涙を流す。



「…ごめん……ね…? ………私…、…あの時…ー」



そう言いかけるがフッ…と意識がなくなると、落下するイヤリングと少女を白銀色と青い光りが包み込み、少女のまわりを白く光る蝶が螺旋状に飛び回る。



「………っ…!」


上から男が壁枠に両手をかけ、落ちる少女を確認する。
と同時に眩しい光りが白く輝き、空に達する柱が現れる。


「ー……なっ…!?」

あまりの眩しさで目を腕で隠し、しばらく続いた光りの柱が消えたのを見計らい下を見ると、そこには落下していた少女の姿がなくなっていた。



「………消えた!?」


驚き、男はあたりを見渡したあと、すぐに右手を上にかかげる。

(ドールの反応も完全に途絶えた…。とすれば空間移動か…?)




「…くっ…! ……どこに行ったんだ…!」


そう言い、足下から黒い煙りが男を覆い隠し、しばらくして煙りがはれると、姿が消えていた。







カツンと赤から白に変わったイヤリングが、固い地面に音をたてて落ちたのに気づかずに…ー

しばらくしてポツポツと小雨が降り、やがて雨が増してきて水が地面にあたりはじく。




「ー…………………」


時計塔の真下に落ちた白いイヤリングの目の前に、別の黒いコートを着たフードで顔を隠した人物が立ち止まってイヤリングを拾う。



「………………」



大雨に激しくあたりつつ、イヤリングを見てフッと軽く笑い、塔に設置されているシルバーの時計を見上げる。



ー……コッ…コッ…コッ…コッ………。


カチッと長い針が3時を差し、音が鳴り響く。








ー……………ゴーン…







………ゴーン…







……ゴーン…ーー






音が大きく三回、時計塔や森、少し遠く離れた街と洋館まで微かに鳴り響きわたった。






























…………………ーー






「……なん…だ……?」




リモートコントロールから逃れるため、シェアルに来て緑色に光り輝く泉に白いコートを着た人物と一緒に突っ込もうとした直前、キルが何かを感じ取り横を向いて遠くの森の方角を見る。

そこには高い夜空の雲から青白い光りとなって森へと落下する物体が見えた。



(…………あれって…)




ーー…ドクンッ!



猛スピードで彗星のように落ちるのを見て、心臓が大きく高鳴る。



「次元断層に入るぞ!!」

「………………!」


隣で青いスケボーに乗って急降下していく女性が声を張り上げ、泉に視線をうつすと、緑に光る泉に一直線で突っ込む。


「…………っ…!?」


ドボンと水の中に入る感覚がしてギュッと目を瞑る。

だが水の中にいる感覚が一切しなく、そっと開けてみると、視界にうつったのは水ではなくまわりが丸い緑色のマーブリングに回転している壁を通過している。


「な…、なんだここ!?」


驚いてまわりをキョロキョロと見渡すキル。


どこまでも続く丸い空間の前から透明な白い光りの球が横をすり抜ける。たまに球が腕などに当たるが、透けているので通り抜けてしまう。




「ここは次元断層空間だよん」


キルを乗せて誘導していた男性が説明する。


「次元…、断層……? …ここが?」


空間を見渡しながら疑問げに返す。

「さっき貴様らがいた時空間から道を作りだし、過去の時空間へ向かう為に移動してんだよ」



「時空間…ですか……」

シュールがまわりを見渡し、

「つまり、今私達がいた“現在”から、現在の時空間と過去の時空間の間に挟まれた次元の歪みという“道”を使い、“過去”へと移動しているというわけですね?」


「そーゆー事」



「どうどう? 凄いでしょ~?」

男がまだ頭に刺さっていた羽根を手に取って自慢する。それを後ろからキルが黙って見る。



「……………………」

(まだ刺さってたのか…)


「にー…。凄~い!」



「確かに凄いですね~」


「……そんな呑気でいいのか…、俺ら」

いまいち反応が薄い感じがする。





「…………う~ん…」

周囲を見渡し、眉を潜める。

この空間の風景……、なんか見覚えあるような気がするんだよな…。


そう考えているキルの隣でシュールが二人に質問をしていく。


「道を作りだしたと言っていましたが、この次元断層の空間はアナタ方が作り出したのですか?」


「あっはははー。俺は無理だよー。だしたのはこっち」


男が持っていた羽根を女に向ける。


「作ってはいないが、出す事は出来る。次元移動は誰にでも出来ねーんだぜ? 出来るのは俺とダーク・アイの一定の連中と、あとどっかの帽子野郎だな」


「に? どっかのって?」


「目を隠してて、変な帽子を深くかぶってよ。名前も知らねーんだよ。なんか、敵なのか味方なのかよくわかんねー奴なんだよなぁ~」


思い出すように人差し指を顔の横で立て、クルクル回す。


と、ふと思い出したように男が陽気に話しかける。

「あ、でーもぉー。あのシェアルって場所は力が結構他より強いらしくて、ごくごくまれに偶然立ち寄った人とか次元断層であるこの空間に行っちゃう人がいるんだよねー」



『…………………!』


キルとシュールが話を聞いて驚く。ネリルはキョトンとして首を傾げるだけだ。


「それってあの話しの…!」


「…なる程……、ではシェアルで行方不明者がでていたという話しは事実だったようですね…」


「なになに? 謎は解けたぜって感じ? お二人共~」


「えぇ。解けました」

ニコッとするシュール。



「……に?」

ネリルに至ってはまだ理解していない。

「つーまーりー。さっき俺達がいた時代よりも前の時代に行くってわけわけ」

男がネリルにちゃんと説明するが、生返事で返す。


「にー。そうなんだー」

「生返事って…」



「…リモートコントロールは追ってきていないみたいだな」


女が少し後ろを向き、様子を見て呟く。


「なぁ。この空間ってどこまで続いてんだ?」


「を? を?」

女が聞きだすキルを見る。


「ずいぶんと落ち着かないねぇ~。キル君。なに? なんかあった?」

「べ、別に…。てか普通落ち着かないだろこんな場所に来たら」


横を向いて目をそらすキルをふーんと目を細めて前を見る。


「多分そろそろかな。時間を遡れば遡るほど、この空間にいる時間は長いからさ」


「なるほどー」

シュールが納得し、横から男が口を挟む。

「この空間で間違って落ちちゃうと、どこの時空間か検討しにくくなるから極力落ちないようにしてくれ諸君」


「に!? それもっと早く言おうよ君!?」

ネリルがびくっと肩をあげて男を見る。


「まぁまぁ。もう着くから…-」

女が言いかけると、キルがピクリと眉をあげる。


「おい。…なんか来ないか?」

『…………?』


4人共キルの言葉を聞き、耳をすますように黙っていると、突然空間がぐらりと歪みはじめた。


「…く……! なんだ…!?」


女がキルと男より少し前に行って止まり、まわりを見る。
だがすぐに歪みがおさまる。


「何かあったのですか?」

シュールが女に問いかけるが原因が分からず首を横に振る。

「知らないな。一時的な空間の歪みかも…ー」


考えながら呟くと、シュールとネリル、女のすぐ後ろの空間の壁が白く光り輝いた。


「…………!?」

バッと顔だけふり向くが、あまりの眩しさに目を一旦瞑ってしまう。




「ーー………」


光りの中からピンク色の長い髪をした少女が現れ、安らかに目を瞑って眠っている。

その少女がキルの横からもたれるようにふわりとぶつかり落ちてきた。



「うぉっ!!?」


少女に押し倒されるようにバランスを崩し、男から手を離して後ろに体が倒れるキル。



「あっ…!」

男がとっさにキルの手を握ろうと伸ばすがギリギリ届かず、そのまま棒から足が離れて少女と共に下へ落ちる。

「なっ…!! みんなー!!」


「キル!」

「キル兄ー!!」


シュールとネリルの声が聞こえたが、深く落ちていって皆が見えなくなり、青く光り輝いている場所へ落ちていく。


「くっ!」

このままどこに行くんだ?

なんでいきなりこいつが…。



頭上から落下しながら少女に視線を向けると、目をとじたままボソっと小さく呟く。





「キ…ル……-」

「………!」


驚いた表情をするが、黙ってジっと見たあと、少女を支えるように頭に腕をまわしぎゅっと抱きしめる。


「ち…っ!」


舌打ちし、青い光りへ突っ込むように落ちていき、そのまま光に包まれていった。


















































シュウン…ー


リモート・コントロールを黒いコートを着た二人の中央に浮かべ停止させ、平たい機械に乗ったままシェアルの泉の上空で止まり、泉を見下ろす。

すると、緑色に光っていた泉が元の青い色へ変化し、正常に戻って静かになる。


「一足遅かったって事か…」


「ほんと、なにからなにまですぐ情報を掴む連中だね」

身長が小さい男が軽く背伸びをすると、二人の耳にかけられていた黒いヘッドホンから声が聞こえてきた。


〈何か反応は見られた?〉


少しノイズが入っているものの、エディンが相手に報告する。

「シェアルロードの泉で光泉(こうせん)反応が見られた」


〈光泉反応・・・?〉


「例の次元断層への道だ…」

今度はグレンが応える。


〈あぁ…。成る程ね。今通信できるって事はお前たちがそこにいるって事だね?〉


「まぁね。ご察しの通り、逃げられたよ」


〈あいつらか…〉

「…………」


二人共司令を待つように黙る。


〈まぁいいわ。お前たちはそのまま本部に戻りなさい。これ以上の行動はあの機関の仲間に居所を掴まれるかもしれないからね〉



「……了解」


エディンが返事したあと通信を切り、リモート・コントロールが光を無くして小さな黒い球体になり、エディンが手にもつ。

少し球体に発光体のような線が走っている。


「…僕たちはどこまでも追いかけるよ。過去に裏切ったあんた達を捕まえるまでは…ー」


エディンが静かに青く染まっている泉に向けて吐き捨て、二人はそのままシェアルから離れ去って行ってしまった…。

‘ー…タッタッタッタッタッタッタ…-’





「ハァ…、ハァッ…ハァ……-ッ」


銀と白の市松模様の壁と廊下を、黒髪の一人の少年が息をきらして走る。

白いレザーロングコートと黒のタートル、長いズボンにロングブーツをはいていて。


「はぁ…! …ハァ! …ハァ…っ!」


来るな! くるなくるな来るな!!


誰も俺を追うんじゃねぇ!



瞳が紫に染まりきっており、ガクッと体が揺れる。


‘ドクン…-’


「…ぅぁ…っ……!」


その場で立ち止まり、左胸の心臓部分を右手で抑え膝を落とす。


「…………く…っ…!」

汗を流し俯く。
すると後ろから声が響き渡った。



「ーーいたぞ! 向こうにいる! まだ無傷だ!」


「……………!」


顔だけ振り向き、後ろを見ると黒い白衣を着た沢山の科学員が少年の方へ走ってくる。



「…………くそっ!」


なんで俺がこんな奴らに…!
…あんな扱いされて…、




もう嫌だ…!

もう…、あんな思い……ー


立ち上がり、左胸を抑えながら走りだす。


「いたぞ!」


目の前の曲がり角からも三人の科学員が現れ、少年がいるのを声を張り上げて知らせる。



「……っ…!」


とっさに立ち止まるが、後ろからも科学員が走ってくる。



「…ハァ……、…ハァ…」




なんで…、なんでお前らは……、


……なんで俺を追いかけるんだよ…ー



「……くる…な…。…来るなくるなくるなくるな!」


紫色の瞳が段々と中心だけ反時計回りに黒く染まっていき、回転して前にいる科学員を睨む。


「テメーらは…、全員俺の敵だ…」


三人の一人の科学員が片耳にかけてるヘッドホンに似た機械に手をあて、取り付けられている小さなマイクに声をだして誰かに情報伝える。


「錯乱をおこしかけています。いえ、もうおこして……ー」



「来るな! 俺を追ってくるなっ!! みんな俺の敵だ!」

地面を蹴り、前にいる科学員に叫びながら突っ込む。



「あぁあぁああアアアーっっ!!!!」



「ー……なっ……!!」


三人の科学員が突っ込んでくる男にふいをつかれ、目を見開く。

『うわあぁぁー!!』



‘ドシュッ、ザシュ!、ブシュッ!!’


廊下内を何かで皮膚を切り裂いた音が響き渡り、三人の科学員が腕や腹部、足から血を大量に噴き出してドサッと倒れる。


「…ハァ…、……ハァ…。……みん…な…敵なんだ…。……俺の敵…!!」


‘ドクン…ー’


「…ぐっ…ぅ!!」



また心臓が高鳴り、手で抑える。

瞳はさっきのように紫色に戻り、回転が止まっている。


「大変だ! 仲間が殺されているぞ!!」


後ろから追ってきていた他の科学員に気づかれ、ハッとしてまたすぐに長い廊下を走る少年。


「…イヤ…だ! ……嫌だ!」

目を見開いて必死に逃げ惑うように走る。


俺の居場所はここじゃない…!

こんなところじゃないんだ!!


「……うっ…ー!」


悲しい表情をして目から涙を流し、走ったまま後ろに涙が流れ落ちる。



……俺は…


……俺のいる場所はどこなんだ…?


………どこにいれば、いいんだよ…。







「ー……誰か……


………………教えてくれよ……。


……俺の居場所……ーー」



 
ー戸惑いと狂いだした時間ー
          ー完了ー
2/2ページ
スキ