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ー深い眠りと現実ー


ー最初から知っていた……… 

奥に進み歩むにつれて………

自分が自分でなくなっていく事に…………


ザァアァァァアァァー……ー


 激しく降る雨の中、木も草も全て燃え焦げ、広い焼け野原に一人の藍色の服を着た男性が立っている。

 ズボンの左足には腰の方に銀色のチェーンが飾られ、髪は肩まであるが、多くすいたようにほとんど全てが藍色に染まっている。

「……………………ー」

 男性の目の前にピンク色のロングヘアーの少女がうつ伏せで倒れ、顔を横にして眠っている。

その顔のすぐ横には蝶の髪飾りが落ちてる。

「…………フフ……」

 激しい雨に打たれ、ベルトを腰に巻いた黒い服を着た少女を、鼻で笑うように見下す男。

「…やっと……、か…」

 バッと両手を腰まで横に広げ、赤い瞳で少女を見下し、声を張り上げる。

「やっと!オレを邪魔する者が全て消えてくれた!」

 近くの方で雨と共に激しい落雷が鳴る。

「さぁ!もう後には引き下がれないよ!ここに居た君達も、この世界にいる住民も生物も!全て俺の力で消してみせるさ!!」

 雷と激しい雨が降る雲がない暗い空を見上げ高らかと笑う男。


ザァアァァァァー…………ー


 声がかき消されそうになる雨の音に、誰かの声が響き渡る。

 誰にも予測出来ない状況に、ただ一人だけ…ー

「“…まだ…、終わってない…………だろ…ー?


『………ーーーー』”」


 名前の部分だけ、雷の音によってかき消され、ゆっくりと立ち上がった…ー

ー…………………

ー…始まりは……………
 
 ほんの些細なキッカケから生まれたのだろうな………。
 
 …短い青の髪が混じり、少し浮き立った黒髪の男が、腕組みをしてある古びた洋館の尖った屋根の上に立っている。
 曇って隠れていた満月が顔を出し、黒いレザーコートのような服装を身にまとった男と洋館全体を照らし出す。
 
 
ー…………必要な存在は自分自身で見つけるものなのか…………ー
 
ふいに冷たい風が吹き込み、黒髪が優しくなびく……。
 
……それとも……………ー
 
思いかけると、満月が赤く光り、洋館の庭の地面に文字が刻まれた大きな魔法陣のような紋様も赤く光り出す。
 
「………行くか…………」
 
 
そう呟き、前にジャンプして急降下で陣に向かって落ちる。

………‘ドボ…ン……ー’
 
 
陣が描かれた地面を水の中に入ったような感覚で通り抜ける…。

まわりは何もなく、青と水色のマーブリングされたような背景に、ただ丸い小さな白い玉が下降する男のすぐ横をゆっくりすり抜ける。

 
「…………楽しみだな……」
 
男は楽しそうに呟き、真っ赤に燃え盛るような赤い瞳で、目の前の白く光り輝いている場所を見つめる。
 
 
 
ー…さぁ………

…行こうか…………。
 
…………終わりの無い……
 
……『未来』へと………………ー

…………………ー
 

 
「…………………………」
 
 
 
 
 
ある人物の家のソファーで頭に手を置き、全く起きる気配のない男。

額に白いバンダナを巻き、後ろでしばって足の膝ぐらいまでバンダナの布が二つにわかれている。

首筋まである黒髪に少し青い髪が混じり、服装はというと、胸に白い三日月模様がある黒いコートのような服で足首まである裾。腰に白い紐で結びつけ、長い裾が腰から分かれてるような状態になっている。

ズボンも長く真っ黒で、裾の部分にも三日月形の白い模様が描かれてる。



……‘バタン’



ー…しばらくして、黄色い白衣と眼鏡をかけた男が部屋の扉を開けて中に入る。


「おや。またここで寝ているんですか」



表情はニコニコしていて、眼鏡の右縁には首ぐらいまで短い糸のようなものに緑色の石が垂れ下がっている。

上着は白のダイヤ型のボタン、腰には白い紐で縛り、裾は膝ぐらいまででわかれ、波線の黄緑色のデザインになってる。

ズボンは長く灰色で、裾も波線で明るめで黄色い。

髪型はというと、長いのか、黄色い髪を後ろに青い布で一つに結び、肩の部分まである。



…ちなみに二人共土足であり、少しデザインが違って黒い靴を履いてる。

「さてと……」


ポケットから小さいビンの薬品を一つ取り出し、男の方に歩み寄る。


「キールー♪これを飲んで下さーい」



口に無理やり飲ませようとした瞬間、キルがガバッと起き出す。


「…シュール………、……何やってんだよ……」



「あ。起きちゃいましたかぁ~。残念」

とっさに薬をポケットに隠すシュール。


「……なんか…、夢見てた気がする…」

「おや。どんな夢ですか?」


「覚えてねーよ。起きた途端忘れちまったし」

「そうですか」


「……………………」

寝起き最悪でボーっとしてるキル。


「相も変わらず、寝起きは本当に最悪ですね」

「…………うるせぇよ……」



ゆっくり起き上がると、シュールが何の前触れもなくニコニコして話しだす。


「さて、キル。起きたところで早速ですが、私に付き合って下さい♪」


はぁ?っとしてシュールに顔を向ける。


「なんだよいきなり?」


「私が現在研究している材料を買いに行くんですよ」


「何の研究してんだぁ?」


「しいて言えば、企業秘密という奴です♪」


「……………………」

黙り、ジッと見る。

「ささ。行きましょう」

「…………わかったよ…」



面倒くさそうに答えた後、キルとシュールは家を出た。







「んで?どこに行くって?」


両手を頭の後ろで組んでシュールを見る。


「すぐ近くの薬品店です。材料といえばやはりそこしかないでしょう?」

人ゴミを歩きながら説明する。

「んじゃぁ…そこ。行くか」


二人が薬品店まで歩いて向かおうとすると、途中、人ゴミの中を一人の黒いコートを着た人物が歩いているのにキルは目にとまった。



「…………………?
……なんでこんなクソ暑い時期にコートなんか着てるんだ?」


キルが不思議そうに男を目で追いながら、小さく呟く。


「さぁ?何故でしょうね」


「うおっ!聞こえてたのかよ!?」


「怪しいですよねー」

何がおかしいのか、ずっとニコニコして会話をするシュール。



「…………お前も十分怪しいぞ……」

目を細めてシュールを見るキル。


「おやぁ。言われちゃいましたねー」


そんなやりとりをしながら、二人は少し大きな白い四角型の建物になっている薬品店に入る。

「……………へぇ~…色々あるんだなぁ…」


店の中を見渡すキル。


「私は何度も通ってる常連客なんで、気にもとめませんよ」


薬品を見ながら話すシュール。


中は研究所のように広く壁一面真っ白で、店を更に白く照らす証明機器は少し風変わりなデザインをしている。

透明な段になってる棚にはフラスコや調合に使うような薬品と、科学物が所狭しと並んでいる。


「俺にはんな言葉、何か企んでいるようにしか聞こえねーんだけど…」
 
 
「そうですか」
 
 
ある程度、薬品の種類をいくつか選び会計をしに行くシュール。

店内には沢山の街の住人がいて、賑やかな声がする。

キルはまだ売られてる薬品を見ていたが、ふと店の壁に設置されてる丸い時計を見ると、コッコ…、と音を鳴らして二時五五分に針がさしていた。


「もうすぐ三時だな…」

時計を見て呟くと、ふいに頭に直接何かが聞こえてきた。


〈ー……キ……ル…〉


「へ?」


振り向くが誰も居ない。


「ん?どうしましたか?」

会計を済ませて戻ってくるシュールが、キルの表情を見て質問する。


「あ、今俺の名前呼んだか?」

「私がですか?いえ。呼んでませんが…」


「そっ…か」


確かに声が聞こえた筈なのになぁ…。


「…………………?」


複雑な表情をするキルを見て疑問に思うが、問いただしたりせず、購入した薬品が入った小さな袋をポケットにしまうシュール。

「ん?それだけでいいのか?」


「はい。今回はただの材料不足なだけで、小さな薬品で済みましたから」

「あ、じゃぁ店出るか」

「えぇ」

先にシュールが歩き出し、後からキルも店を出ようと足を一歩前に出した途端、また声が聞こえた。
今度ははっきりと…。




〈ー…やっと見つけた……〉


「……………ー!!」


目を見開き、どこから声を出しているのかバッと店内を見渡すが、誰もキルに対して話しかけている人はいなく、続けて声が響く。


〈ー……これから、避ける事の出来ない記憶を刻み込んであげるよ…〉


「…………っ…ー!」

なんだ?どこから声が…。
みんなには聞こえてねーのか?




店の入り口に向かって歩いてるシュールに声をかけようとした途端、外が急に眩しく赤く光りだした。

「…な…っ…ー!!」


あまりの眩しさに一瞬目を瞑り、再度目を開くと、店内の様子がおかしいのに気づく。





ーー………ーー………








さっきまで賑やかだった声も、時計の音も、何一つ聞こえない無音。


「……………え…?」


音だけではなく、店内にいた客も一切“動かず止まっている”。


「…………な…んで……」


突然の事で反応出来ず、時計を見てみると、小さな針と大きな針は三時を刺しているが、秒数を表示する細い針は丁度12という数字から動かない。


「ー………まさか……」

シュールの声が聞こえ、ハッとして見ると、微かに動いているのが分かった。

「シュール!!」

止まっていないシュールを見て少しホッとして、後ろから小走りで近寄る。


「良かった。お前も……ー」

後ろから肩に右手を置きながら横に並んで見るが、唖然としている。



「………外が……」


声を押し殺して呟くシュールを見て、キルも前を向いて外の様子を見る。


「………………ー!!」











………ーー




ー…外にいる住人が、


止まっている……。





…言い直せば、その場で街の全ての住民が止まっている………。




「…嘘…だろ……?」


目を見開いて小さく声に出すキル。

シュールはゆっくりと足を動かし、すぐ前で歩いているように固まっている男性に近寄り観察するように見る。


「これ…、………何があったんだよ…」


理解できないキル。


「………………。みんな生きているようですね…。なんらかの現象で、時間が止まったか…、あるいは別のなにかか……」
 
 
信じがたい光景にシュールも少し戸惑うが、落ち着いてキルに言う。


「まじかよ……。……お前…よく冷静に言えるな……」


「………冷静で……いるつもりです……」

キルの問いに若干否定するように返す。


「…………とにかく、私たちの他に動ける方はいないか探してみましょう…」


「え…?」


返事を聞かずにすぐ歩き出すシュールに、慌ててついて行くキル。



しかし、どこを歩いてもみんな止まっている状態。

「……どこもかしこも、みんな止まってやがる……」


止まってる人や犬、猫などの動物を見ながら歩くキル。
 
 
 
 
「キル。見て下さい」
 
 
シュールが噴水広場で止まっている水を触る。
 
 
 
だが、手は突き抜けられず、石のように固くなっていた。
 
 
 
「……………水が……」
 
 
 
「これ以上は突き抜けられないですね。水というよりも、石を触っている感覚です」
 
 
 
「じゃ、じゃぁ……!」
 
 
キルも試しに空中で止まっている一枚の葉っぱを掴む。
 
 
 
「……う…っ…動かねー……」
 
力をいれてもびくともしない。
 
 
「どうやら、全ての物体の時間を止められているようですね……」


「…………………」



無言で手を離すと、シュールが急に立ち止まったまま声を潜めて話しかけてきた。


「少し気になっていた事があるのですが…、…先程、薬品店の中にいる時、男性のような声が聞こえました」


「え!?お前も聞こえたのか!?」


驚いてシュールを見る。


「お前も、という事は、キルにも聞こえたのですね?」


「まぁ…。でも、どこから声がしていたのかわかんなかったし、他の客も聞こえてなかったみたいだったぜ?」

「……………。私達二人にしか聞こえてなかったんでしょうね…」


「俺達だけ?」

眉を潜め


「声がした人物が、この現象を引き起こした可能性があるという事です。何故、私達二人だけが行動出来るのかは分かりませんが…、そう考えてもおかしくはないでしょう?」


キルに問うように解釈するが、あまり確証に満ちた表情をしていない。


「…そう……だな………」


シュールから視線をはずし、まわりを見渡して歩き出し広場を出る。

続けてシュールも広場を出て、キルのあとを追うように歩く。

「………ん?おいシュール」


「なんですか?トイレですか?」


ニコニコしてキルに聞く。



「ちっげーよっっ!!お前何こんな非常時にふざけてんだよ!!前の建物見ろよ!」



「前………?」



広場から出てしばらく森道を歩き、街から若干離れた場所にある誰も住んでいない洋館を見ると、門の方に黒いコートを着た人物が立っている。



「あいつ、さっき見かけた黒いコートの奴だよな?」



キルがシュールに言うと、コートを着た人物が手を動かす。



「…………………!
…あの方も動いています…!」



門に右手をかざしている。



「じゃあ、アイツも俺たちと同じじゃねーか?行ってみようぜ!」



「あ、待って下さい。キル!不用意に近づいては………………!」



だが、キルはコートを着た人物の方に走って近づく。



「なあ、おい」


少し距離をおき、後ろから声をかける。



「………………!」



びっくりしたようにとっさに後ろをふり向く人物。



「あんたも俺たちと同じように動けるんだな」


「……………な!」


一歩足を後ろに引き、何故か動揺している様子。

 「あんた一人か?他の奴は………」


「何故だ……!」


「え……?」


「何故お前ら動ける!」



キルの胸ぐらを掴む。



「え…、いや、あんたも動いてるじゃねーか……」


「そんな事はいい!!どうやって動けたんだ…っ…!!」


「キル!」


シュールが後ろから走って来る。


「知らねーよ!俺たちは何もしてねーから!」



「……………くっ!」



掴んでいない手でキルを黒い煙の波動のようなものを出し、シュールに向かってキルを飛ばす。



「うっわ…っ…!?」



「くっ……!」



シュールがキルの両肩を掴み、受け止める。


「……わりぃ…」

離れ、男を見る。




「……仕方ない…。………………ー」


男は黙って黒い氷の剣を構える。

「……………!お前、何する気だ!」



「お前らには悪いが…、見られた以上は死んでもらう…」



「…はぁ?」





「………この状態をつくったのは……、あなたですね…?」





「…………………」





何も応えず、そのままキルとシュールに向かって切りかかる。
 
 
 
「うわわっ!?」
 
 
 
「……………っ…!」



ギリギリ二人とも横に避けて飛び、男が勢いよく真ん中を切りつけると、地面に数センチのヒビがついた。


‘ードゴッッォ…’



ゆっくり体勢を立て直し、シュールを見る。



「……………いくぞ…」



男はシュールに向かって走り、切りかかる。

「私からですか……!」


腹を切ろうと向かってきたが、シュールは後ろに避ける。
 
 
 
「…“矛煙双”(むえんそう)……」
 
 
すぐに体勢を立て直し、男は剣に黒い煙をまとい、黒い陣を出してシュールを吹き飛ばす。
 
 
 
「…………あっ、……くっ!」
 
 
 
後ろに吹き飛び、木に背中を当てて座り込む。



「………キル…逃げて下さい…!
…………今の私たちでは…太刀打ちできません………」



「……………次…、お前だな…」



キルの方を見る男は、フードで顔が見えないので表情がわからない。



「…………けど…」



シュールを見て戸惑う。


「私はいいですから!」

「…………うるさいな…」


左手の人差し指と中指をくっつけ、シュールの顔の前にだして黒い陣を出す。



「…………っ…!」


「シュール!」

そのまま気を失い、顔を下に向けて目を閉じるシュール。



「さぁ……、今はまだ殺さない…。後でジックリと……」
 
 
 
「……っ…この野郎……!!」



警戒しながら素手で構える。
 
 
 
「…………素手でか…。ふん…。全く相手にならないな…」
 
 
 
「うるせぇ。やってみなきゃわかんねーだろ!?」
 
 
 
「……………ふ。……………ふふふふふ…」
 
 
突然笑い出す。
 
 
「…な、なんだよいきなり…」
 
 
「………本当に、そっくりだ……。お前」
 
 
 
「はぁ?誰に」

「…ふふふふふふ………。………お前に教える事はない。…………はぁ!」

キルの後ろに素早く回り込み、横腹を強く蹴りあげる。
 
 
「くあっ…!!」
  

地面に手を置き、膝をついたまま男を見る。

「……しぶといな…」

男はまた背中を足で蹴る。
 
 
「かはっ…!!」
 
 
地面にうつ伏せになるキル。
 
「…お前らも余計な行動をしなければ…、こうはならなかったのにな……」

「………くっそ!」

シュールを見た後、ギュッと目を瞑る。
 
 
ー…………ドクン…
 
 ………ドク…ン………


「…あっ……!?…ぐぁ…っ!!………目が…っ…!!」


とっさに両目に激しい痛みを感じ、手で覆う。

「………ん…?」

異変に気づき、少し後ろに足を踏む。

「あぁァ…っ!ぐぅ、あああぁァァァァっー!?」

 
両目が赤くなり、まわりを青い炎で囲みだしながら上を見上げるキル。


「ー…………っ…!?」


男の左腕に火がうつり、すぐに後ろにバックジャンプして離れる。

「…………………ー」

渦巻いていた炎がはれ、真っ赤に燃え盛るような赤い瞳で、男をゆっくりと見据える。

(………なんだ……?………さっきと全く違う……)

腕の火を振り消し、注意深く見る。

「…………………ー」

ゆっくりと右手を上に上げると、まわりの青炎が渦巻く速度が上がり、手を横に振ると同時に青炎が男に向かって飛びかかってきた。


「…………………!!……ちっ!」

黒い氷の剣を目の前で回し、青炎をバリアするものの、炎の量が多すぎて半分くらってしまった。

「うぁ…っ!?」

とっさに体を縮めるようにガードをする。

だが、火傷をしたのか、多少フラつきながら立つ。


「……………………ー」

気絶をしているシュールを、キルがジッと見る。

「………お前…、一体何なんだ……っ…!」

「…………………ー」

何も言わずに視線を男に向けなおして近づくと、頭を踏みつける。

「……ぐっ…!?」

「……………………ー」

一気に男に殺意を抱き、踏んだ足をよけて顔に左手をゆっくりかざす。

「………………っ…」

「…………し……ね…ー」

炎を出そうとした瞬間、頭に直接声が響き渡った。

《…………ダメ…ッ…!!》

「………………ー!!」

目をカッと見開き、頭を両手で抱えて崩れ座る。

「ぐ…ああぁぁ…っ………っ!!…あぁぁァァ……!!」

「…………なん…だ…?」

男は何が起こったのか分からず、ただ倒れ見てる。

キルのまわりをピンク色に光る蝶が3~4匹螺旋状に飛びまわり、身体が同じ色に光ると、目が元の青色の瞳に戻る。

「……ハァ…、…………………ハァっ…」

息をあげながら苦しそうに男を見ると、まわりを飛んでいた蝶が力を使い果たしたように粉状に消え、体の光りも消えた。

「…………………」

男は右中指にはめていたリングから、緑色の丸い薬のような物をだして飲み込むと、すくっと立ち上がる。

「………………ふん……」

そのまま歩き去ろうとする。

「…………おいっ!待てよ!!」

キルがその場で膝をついたまま、声を出して男を引き止める。

「………………なんだ…」

背を向けながら、フードで隠した顔を後ろに向ける。

「お前の狙いは何なんだよ!!」

「答えれば未来が変わる…。それに…、言ったところでどうにもならない………」

「………………」

黙るキルに、男は振り向いて言葉を発する。


「…………お前らに一つ、教えておく……………
“真っ赤な悲劇は現在………、

癒やしを拒む過去……………、

青を灰とかす未来……………、

三つの世界はいずれ………、月をうつしあげるだろう……”」


背を向けながら最後にまた付け足す。

「………この言葉…、覚えておくんだな…」

静かに男が言い、歩き去って行く。

「まっ…ー!!」

もう一度呼び止めようとしたが、男は高くジャンプし、木の先端を伝いながら姿を消した。

「……………みら…い…?」

未来って…、何のことだよ…。
それにさっきの言葉……。

ふいに木にもたれているシュールに顔を向けると、肩が微かに動く。

「…………シュール!」

立ち上がってシュールに駆け寄りながら呼びかけ、目の前で立ち止まる。


「…………う…、…………キル…」

「良かった。平気か?」

ホッとして肩の力を抜いて状態を確かめる。

「えぇ…、なんとか……」

少しふらつきながらも、起き上がる。

「……アナタこそ、大丈夫ですか?」

「…俺は…………………」

(…………何が起こったのか、俺自身知らねーし……)

「………何かされましたか…?」

真面目な表情で聞くが、目をシュールから横にそらす。

「………いや。何もされてねーよ…」

「嘘ですね♪」

にこっとするが、なお反対するキル。

「……ちげーよ!」

「あなたの性格はちゃんと熟知しています。とやかく問い詰めたりしませんよ。言いたくなればいつでも言って下さい♪」

ニッコリと笑う。

「…………わりー…」

下を向く。


「いえ。…それより、街の様子を見てみましょう。ここの洋館は、あまり人が訪れませんからね」

「あぁ…、そうだったな」

シュールが先に歩き出し、キルも行こうとしたが、ハっとしてシュールを呼び止める。

「シュール…!」
  「はい?」


キルの方へ振り向く。

「“真っ赤な悲劇は現在……、

癒やしを拒む過去…………、

青を灰とかす未来………ー。


三つの世界はいずれ……、月をうつしあげるだろう…”」

コートを着た男が言った通りに言葉を言うキル。


「……………………!
…その言葉………、誰から聞きましたか?」

シュールが驚いたようにキルに問いかける。


「………さっきの男が…、最後に言い残して言ったんだよ……」

静かに言う。

「…………そうですか…」

シュールが応えながら、街の方に歩み寄ると、少し晴ればれとした表情に変わる。

「おや。元に戻っていますね」

街の住人や、噴水の水も、全て動き元に戻っている。

「………良かった…。ずっと止まったままじゃ、気色悪いしな」

「私もそれはごめんです。では!早速調べますか♪」

満面の笑みを浮かべ、突然そう言う。

「は?何をだよ?」

「それは私の家に帰ってから教えますよ」

「………出し惜しみかよ…」


「いえ。一般人には聞かれたくないだけです」

「………ふーん…」

なんとなく声を出す。

「行きますよ。キル」

さっさと歩き出すシュールを、キルが慌てて後ろから走って追いかける。


「あ、ちょ!待てよ」

ー……思えば…、この日から…時の歪みにはまっていたのかもしれない………
 


 
ー…“現在”…………………
 
……“未来”…………………

……“過去”…………………
 
 
…“過去”があるから……“現在”がある……………
 
 

 
“現在”があるから“過去”を知っている……………
 
 
 
ー……………なら、“未来”は………………ー?
 
 
 
アバンタイトル・プロローグ

          end

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