WISH
奇跡の魔法
禁断の書に手を出せば永遠に支配される
支配された心は2度と元に戻らないのかもしれないと 彼に会うたび思わされる
地下牢にいれば いずれ自らの行いを反省してくれるのではないか…
けれど思いに反し 彼はいつまでも自分以外全てへの怒りを口にするばかりだった
禁書のせいだとわかっているが これは彼の本性なのかもしれないと思ってしまうこともある
自分の行いを省み 今一度この国を作るに何を思ったか 出会った頃の彼が何を願ったか思い出してくれれば…
元の彼に戻って欲しかった
彼を助け出す方法を国民に何も言わずに探すことはできない けれど今の彼を外へ出すことを国民が快く思うのだろうか
「…わかったわ いつかあなたが落ち着いて話をしてくれると思っていたけれど…私の顔も見たくないなら しばらく会わない方が良さそうね…」
時間さえ取れればほとんど毎日様子を見ていたアマヤだったが ついに諦め 引き止めるマグニフィコの言葉も聞かず地下牢の階段を上がった
鏡を強く叩き 後悔する声が地下牢に聞こえる
マグニフィコは禁断の書に支配され暴走していたが 鏡の中に閉じ込められてしばらく経った今では その支配がだんだん弱くなっているように感じていた
あの日の出来事を思い出し自身の行動に罪の意識が芽生える…だがまた声が聞こえる
願いを使い力を手にしろと声が言う
星を手に入れれば全て支配できると声が言う
その声に喜んで従ってしまう 自分の願いはなんだったのかわからなくなる
国を守りたい 願いを 国民を 守るのは どうやればいいのか
力があればいいと声が言う
杖を作り上げる 何を材料にしただろうか
手段を選んではいられないと禁断の書に手を出して 守り続けると誓った願いを壊した
何のために 禁断の書を開いたのかすらわからなくなっていた
それにすら気付けない 願いを犠牲にした杖をアマヤに向ける時の彼女の顔を思い出せるか
彼女の言葉は偽りだと声が言う
妻も国民もみな 私を裏切り 国の破滅させると声が言う
彼女の愛は偽りで 国民たちは願いを叶えてもらうことばかり
ならもういいじゃないかと声が言う
そんな奴らの願い 全て力に変えて 自分の願いを叶えるべきだと 声が…
誰がそれを言っているのだろう
「私はお前だ あぁハンサムで偉大な魔法使いが映っている」
鏡に映る自分が 恐ろしい笑みを浮かべる
「願いを壊したことは気にするな あんな連中の願いなど 叶えるに値しない この私の力になれたなら それでいいじゃないか なぁ?」
本当にそれが私の願いだったのだろうか
「こうなったのも あの星が来たせいだ アーシャのせいだ アマヤのせいだ 民のせいだ 私は精一杯国のためにやったのに 恩を仇で返した 連中の願いを上手く使ってやったのに 今じゃ地下牢だ」
何日アマヤはここに来ていないのだろう
地下では今がいつかもわからない
鏡に自分が映る アマヤがいない
「アマヤは本当に薄情だ あっさり裏切って 今では女王様 今までずっと側でお前を支えて 全てを知っていたのに 彼女に罪はないかのように慕われて」
時間が経つほど この声の言うことが正しいのか 疑問に思うようになった
願いを壊すことだけは 望んでなかった
それだけは確かだ
「壊されて当然だ」
守られるべき願いはあっても 壊されていい願いは…
「返さなくて正解だっただろう おかげで魔法が…」
奪われた…ままの…願い…
「叶えば危険な願いを守ってた 返すだなんて あんなに美しいものが 戻れば願いを諦めあの輝きが消える日がくるかもしれないのに その悲しみ を抱くくらいなら忘れた方がいいのに なぁ?」
「黙れ!!」
地下牢にマグニフィコの声だけが響く
暗闇の中 未だ来ないアマヤを待ち続ける
この声を無視すべきだと思うようになった 声に従えば自分の願いまで壊してしまいそうな気がしていた
だが少しするとまた怒りが湧いてくる
聞こえてくる声はその様子を知ってなのか静かになった
王である自身への侮辱 裏切り アマヤも国民たちも誰もが許せない感情と共に またマグニフィコは闇の中で文句を言い
しばらくしてもアマヤは来ず 怒りが不安になり 罪悪感が芽生えるより前に声に従うように心を闇に染める
ずっと不安定で 理性を取り戻す前に心を掴み戻されるような感覚がした
自身の行動を肯定し続ける自分の声だけが時折聞こえ それは自分の口からなのか 頭の中なのかわからず
深い闇の中 寝転がったり立ち上がったりを繰り返し 誰かがまた地下牢に来るまでの間 ただ待つしかなかった
いつぶりだろうか 階段を降りる靴の音が聞こえる 駆け降りているように聞こえる
そんなに急いで何事だろうかと不安に思っていると地下牢に光が入る
久しぶりの明かりに目を細めながら足音の主を見ると そこにいたのは息を切らしながら光る杖を持つアーシャだった
彼女は何も言わずに急いで地下牢の扉を開き 乱雑にマグニフィコの入った鏡を掴み鞄に押し込む
「アーシャ!?なんなんだ!」
揺れる鞄の中で叫ぶがアーシャは何も答えず走り出した
鞄の中では何も見えないので音で予想するしかないが ただただ彼女がどこか走っているらしい音しか聞こえない
時々立ち止まってゆっくり歩いたり また駆け出して急に止まり…それを繰り返すと次に馬の声が聞こえる
そして馬に乗って走り出すと森を抜け 波の音が近づき どうやら海に来たらしく 馬を降りたアーシャは今度はボートに乗り 漕ぎ出した
「アーシャ!私の声は聞こえているだろう!どこにいくつもりなんだ!」
「ついたら…説明しますから…!」
ようやく目的の場所についたのか歩きながら鞄が開けられる 外は夜だった
側の小島についたらしく アーシャはマグニフィコの入った鏡持ったまま島の中心に向かって歩き出す
「あなたを隠すように女王様から頼まれました 禁断の書に書かれた杖の一部だから奪われたくないと…」
「なぜだ 何かあったのか?」
アーシャは鏡を城が見える方向へ向ける
港には巨大な船が何隻かいて灯りが見える
だが普段ロサスを訪れる船と何か違うように感じ嫌な予感がした
「禁断の書を手に入れるために…魔法使いが大勢の盗賊を仲間にしてロサスを襲ってきたんです…」
「なんだと…!?」
マグニフィコがいなくなった後のロサスは全てがうまくいっていたわけではなかった
彼のおかげで保たれていた平和も確かにあった
願いの扱いに関してこそ誤ったマグニフィコだったが それ以外の面では大勢の人々を受け入れ 多くの移民たちが住みながらも平和な国を作り上げ 今の今まで綻びもなく保っていた
願いの自由も戻った今 よりよくなるかと思われたが マグニフィコのやり方を支持する者が少なからずおり ロサス国内で彼への評価が大きく分かれ またアマヤが見て見ぬふりをしていた事実はどうなるのかと不信感を抱く者も少人数出始め国民たちの間で意見がわかれるようになっていた
いきなり変わることは難しいためこの問題は時間をかけ解決するしかないとアマヤも真摯に向き合っていた
国民同士の意見の相違やマグニフィコも危惧していた危険な願いについての問題もアマヤの味方となった者たちと共にひとつずつ解決していった
様々な問題が起きては解決策を考える日々の中 スターからもらった魔法の杖を使って人々を手助けするべく練習するアーシャ
ある時 ロサスを頼ろうと訪れた船の人々に国を案内していた
その中で魔法の杖を持っていた彼女に強く興味を抱いた白髪の男がいた
傷を隠すため仮面で顔の半分を隠した男は魔法使いで 同じ魔法使いのマグニフィコに会うためにロサスを訪れていた
それを知ったアーシャはマグニフィコがいないことをその理由も含めてあった事全てを話した
男は非常に残念がった そして禁断の書は今どうなったかを彼女に尋ねた
禁断の書は今マグニフィコの魔法がかかった扉の中に厳重にしまわれていることを話すと男は満足したように頷き アーシャと別れ ただ1人ロサスには留まらず同じ船で帰って行った
次に彼が来た時には 大きな船数隻と共にだった
魔法使いは盗賊たちと手を組みロサスを襲わせた
いつものようにアリーナに集まり意見を言い合っていた国民たちをその場で人質にしアマヤを脅した
アーシャはその騒ぎの中 アマヤに頼まれ1人城に入りマグニフィコをここまで連れてきたのだった
「私が話さなければ禁断の書のことは知られなかったのに…」
国民同士願いのことなどで言い争ってなどいなければもっと早く船や盗賊たちの存在に気づけたかもしれない
「私は戻ってみんなを助けます 石でうまく隠せばきっと大丈夫」
マグニフィコに何か言われるに違いないと思っていたアーシャだが 予想に反し彼は黙っていた
すぐにでも町へ戻りたかったアーシャはその反応を気にしている場合ではなかった
家族や友達が今もあそこで恐ろしい思いをしている
アマヤが禁断の書を渡してしまったらロサスはどうなってしまうのだろうか
アーシャは鏡を石の上に置き周り石を置いて周りからは陰になるようにした
砂を適当にかけ 杖を持って意を決し立ち上がる
「待て その杖で私をここから出せ」
マグニフィコはアーシャが隠そうとあれこれ試す間 ずっと考え事をしていた
「それはあの星がお前に与えた魔法だろう ここにいてもし偶然見つかっても私に抵抗する手段はない ここから出すんだ ロサスのために協力しよう」
アーシャはしゃがんで鏡の中にいるマグニフィコを見る 作った笑顔で信用ならない もし外に出したら 最初こそ協力してきても どこかで裏切りまた同じことをするかもしれない
もしかしたら あの魔法使いと協力してしまうかもしれない
今のアーシャではマグニフィコに敵うとは思えない 今回のことも外から来た魔法使いに何の警戒もなく話してしまったから起きたのだから 軽率に判断すればまた取り返しのつかないことになる
彼女が首を振るとマグニフィコは強く鏡を叩き叫ぶ
「魔法を持ったばかりのお前に何ができるんだ!1人で魔法使い相手に戦うつもりか?私が助けてやると言っているのに!」
「信じられない…!けど ここに置いていくのは…確かに良くないかもしれない…」
アーシャは隠すことを諦めてマグニフィコを持ち上げる
鞄を開けると 中にはスターがロサスを去る際にくれた赤い毛糸で編んだ星が入っている
「…絶対にみんなを助ける」
あの時はスターやバレンティノが一緒だった
友達もアマヤ女王も一緒に立ち向かってくれた
星は空で輝いている
家族の無事を祈り星に願いを呟く
アーシャは振り向きボートに戻ろうとした
だが思っていた場所にその姿は無く驚いていると 視界の端からゆっくりと勝手にオールが動くボートがやってくる
ボートの中から見覚えのある光が見え もしかしたらとアーシャは小島に戻ってきた船の中を覗く
そこには光の粉がついた赤い毛糸が置いてあった 糸は船の外にまで続き目で追うとアーシャが手に持つ鏡をじっと見るスターがいた
「スター!」
喜ぶアーシャの声を聞きスターは顔をあげ手足をバタバタさせながら笑い 鼻にチョンッと触れる
久しぶりだねと言うようにアーシャの周りをぐるぐる回ったあと目の前で笑いかける
先ほどまで暗い表情だったアーシャも久しぶりの再会で笑顔になっていた
スターは鏡の中のマグニフィコを見て怒り顔をしたあと彼が鏡の中で悔しそうにしているのをじっと見てからかうように笑った
アーシャの手から鏡を取ると先ほどまで彼が置かれていた石の上に戻し その前で準備運動のような動きをしたあと鏡の上でぐるぐる回り光る粉が鏡に降り注ぐ
何をするつもりなのかと思い慌てて止めに行くがその時には鏡から緑の光が出てゆっくりと人型になっていた
それはだんだんマグニフィコの姿と同じようになり 光が解けるように消えると元通りのマグニフィコが立っていた
「スター!ダメよ!」
アーシャはスターを両手で掴みマグニフィコから引き離す
彼の怪しい緑の目が光り 不敵な笑みを浮かべ 地面に置かれた鏡をそのままに2人の方へ歩き出した
「よくやったスター おかげで…」
続きを言う前にマグニフィコの体が地面の鏡から突然伸びた緑の光に引っ張られて後ろに倒れる
何か魔法だと思って驚いたアーシャは慌ててスターを自分の後ろに隠した
マグニフィコは地面の鏡の中を見て驚いたあと鏡を掴んでアーシャの前に投げ見るようにと指をさして伝えた
「あー…えっと…」
鏡の中ではマグニフィコが眠っているのか目を閉じている
アーシャの背後からゆっくりと上へ浮いて肩に乗ったスターは満面の笑みを浮かべている
今も鏡から少しずつ出る光がマグニフィコをじりじりと鏡へ呼び戻そうとしている
どうやらスターは彼を完全に出したわけではないらしい
「何を笑っているんだ無礼な星め…!早く私を出せ!」
スターは顔を逸らし何も聞こえないふりをする 余計に彼の怒りを勝ったがスターは気にしていない
「外に出られたら協力してくれるんですよね?」
スターにばかり気を取られている彼に鏡を手に持ったままのアーシャが話しかけた
「これが外に出られたと言えるのか?」
「協力してくれないなら スターに頼んであなたをここへ戻して 海の中に隠します 今投げても…いいんですよ?」
余裕の表情で鏡を海に放り投げる構えをしてみせると止めるためにマグニフィコが彼女の腕を掴み鏡を奪い返す
「本当に助けてくれたら 今度こそあなたを出してあげます だから力を貸してください…ロサスのために」
マグニフィコは鏡を手に持ち 乱れた髪を整えた いつの間にか 目は元の青色に戻っている
「…わかった…協力しよう」
そう言って握手のために手を伸ばすと アーシャは両手で掴んで強く振った
「よかった!じゃあ急ぎましょう!」
スターも頷き3人はボートに乗って浜辺まで戻った その後アーシャが乗ってきた馬に2人で乗りアーシャはマグニフィコの前に座る形となってしまい気まずい中 森を駆けた
スターはその横を楽しそうに飛び回り何か拾った
森を抜ける直前 マグニフィコに長い木の枝を渡し マグニフィコが手綱を持つ間代わりに鏡を持っていたアーシャに対し先端に鏡を近づけるようにジェスチャーで伝え2人が近づけると先端に鏡のついた木の杖を完成させる
以前マグニフィコが作った杖のようになったので少しだけ嫌な記憶が蘇るが スターがこれをくれたなら 彼の方はもう気にしてないのかもしれない
杖を手にした時 その手が強く握られ目が緑に光ったように見えたが アーシャは自分の恐れがそう見せたのかもしれないと思うことにした
城の前のアリーナを遠くから見ると 出られるような場所全てが魔法の壁で閉じられ中が見えない
まだ禁断の書が奪われたような様子ではないが それでも時間の問題だろう
「同じ場所にまだあるんだったな」
「はい」
「相手も魔法使いなら扉にかけた魔法は簡単に解かれるかもしれないな…とりあえず部屋に向かうとするか」
町まで来ると盗賊たちが列を作り木箱につめた荷物を運んでいた
会話を聞くとどうやら中身は“金になるもの”らしい
城の表は荷物を運ぶ盗賊たちだらけだった
見つからないようにその場を抜けマグニフィコについて行き城の側面に向かう
「ここから隠し通路に入れる その方が見つかりにくいだろう」
「どこに繋がるんですか?」
「厨房のあたりだ」
通路には明かりがなく暗かったがスターが先に行くことで道を照らした
しばらく黙って進んでいるとマグニフィコはあの声がまた聞こえてくるような気がした この暗さが鏡の中のように思えてくる
スターの輝きを目の前にすると手を伸ばしたくなる 手に入れて 後ろのアーシャの杖を奪って折ってしまえば 盗賊だろうと魔法使いだろうと凌駕してロサスを救える力が手に入ると声が言う
だんだんと他の音が聞こえなくなる アーシャが何か言ってる気がするが 目はずっとスターを見ている 気づけば手が伸びる
「マグニフィコ!」
先を行くスターの手を掴んだところで 前に出てきたアーシャが間に入ってマグニフィコの腕を掴み止めようとする
その目は緑色に染まっており アーシャは警戒してすぐにスターをマグニフィコから離した
「冗談でも…やめてください 名前は…その…呼び捨てにしてすみません」
「…どのみちもう王ではない 気にするな 色々と考え事をしすぎていた」
少し驚いた顔をしていたスターだが まぁいいかとまた進み始めた
アーシャは今度はスターとマグニフィコの間を歩くようにした
こちらに気付いてからまた色が変わったが やはり彼がまだあの恐ろしいマグニフィコのままなのだろうと アーシャは不安になった
信じていいのかわからない 彼が何のために今一緒に行動しているのか それは鏡の外に出るためだけの言葉だったのか…そこも注意しておかなければいけないなんて とため息をつく
もう一度マグニフィコを見る 今は大丈夫そうだった
隠し通路は城の中にある石像の台座部分に繋がっており 確かにそこは厨房の近くだった
側で人の気配を感じなかったので外で出た3人は注意深く厨房の方へ向かう
だが厨房の中で盗賊たちに間違いないであろう出で立ちの2人組がこちらに背を向けた状態で会話に夢中になっており バレないうちに養鶏部屋に一度身を隠した
「どうしよう…」
「君はその杖で何ができるんだ?」
「物を大きくしたり ちょっとだけ手を触れずに物を動かしたり…」
「使えそうだな 適当な物であいつらを…」
そう言いながら鶏たちの卵をそばにあったカゴに集めスターはマグニフィコが掴もうとした卵を掴みジャグリングを始めていた
それを見たアーシャが言葉を続けた
「でも魔法がどこに飛ぶかもわからなくて 最悪あいつらの服がドレスになるだけかも…」
えっ?という顔をして腕を下ろしたスターが落とした卵を魔法で操りカゴに入れたマグニフィコの顔はスターと同じ表情をしていた
「それは…本当に1人でどう戦うつもりだったか興味が湧く言葉だな」
「なんとかなるかなーと…」
手をくるくるしながら2人から目を逸らし 鶏たちに謝りながら卵をいくつか集めてマグニフィコの持つカゴに入れる
「だ…大丈夫ですよ 貸してください絶対うまくいきます」
そんな勢いで行かせていいのかわからなかったが止める間も無くアーシャが扉を開けてしまったため 互いに思っている作戦が何かもわからないまま2人組の前に立つことになりそうだった
アーシャは杖を振り卵に魔法をかける キラキラとした光をまとった卵は2人組の方にゆらゆら踊りながら近づいていく
宙を歩く卵たちに驚く2人が気味悪がって卵を手に取ったタイミングでアーシャの操る鍋がそれぞれの頭上に浮かび パッと魔法が消え頭の上に落ち 鈍い音と共に2人組は鍋を被ることになった
突然の出来事に驚いて互いにぶつかり見事に倒れたところをマグニフィコの光のイバラが捕え何が起こったかもわからないまま身動きが取れなくなった
アーシャがまだ騒ぐ2人に慌てて杖を振ると鍋が鐘を鳴らすように揺れ かなり乱暴な方法で黙らせることに成功した
マグニフィコは盗賊を完膚なきまでに叩きのめしたかったがアーシャの前であまり暴力的なのも良くないだろうとイバラで捕まえるに留めたにも関わらず アーシャが思っている以上の攻撃をしているのを見て自分が感情を抑えているのが損な気がしていた
卵を大きくして下敷きにしてから捕まえるか投げつける程度だと思っていたマグニフィコに対しアーシャはマグニフィコならこれくらいすると思っていたが彼の反応が思っていた感じではなかったので少し不安になっていた
「やりすぎました…?」
「…これくらいがちょうどいいような連中だ」
誰もいないことを確認して厨房を出る 禁じられた魔法を持つマグニフィコは感覚でまだ敵が本を手にしていないのは理解していた
盗賊が城の中の物を漁っている 禁断の書よりそちらが優先されているのはなぜなのだろうか
…アーシャがマグニフィコの鏡を持って逃げ島につきやり取りをした後再び戻るこの間に魔法使いが禁断の書を手に入れてもおかしくはなかった
陰に隠れている時聞こえた会話の内容からすると どうやら魔法使いと盗賊たちはあくまで一時的な協力関係でしかなく 人質をアリーナから逃がさないようにする役目を果たす代わりにまずは金目の物を一隻の船に積ませ 先に島から出すよう魔法使いに要求していた
アリーナから逃げられないようにかけた魔法を本を手にするなり解かれれば宝どころではなくなる可能性は十分にあるためだ
魔法使いは仕方なく本より先に彼らへの報酬の時間を取った
それが終われば魔法使いの番が来る
マグニフィコは飛び出すなり杖を地面に叩きつけ そこから手のように伸びた光が盗賊たちを次々捕らえ その様子を口をぽかんと開けたまま眺めるアーシャは捕まった盗賊にちょっかいをかけようとするスターを止めながら彼の後ろをついていった
手助けしようと杖を振った結果飾られていた甲冑が軽快に踊り出しスターが一緒になって踊る甲冑を増やしマグニフィコがうまく誘導して踊る甲冑対盗賊たちが繰り広げられたりしつつ なんとか書斎の階段までたどり着いた
中から誰の声もしない ゆっくり扉を開け覗き見るとどうやらまだここには来ていないらしく 禁断の書もガラス戸の中に置かれている
3人は中へ入りマグニフィコが本を取り出そうとすると部屋の外から怒鳴り声が聞こえた
「宝を運び出す時間は十分与えただろう!このままでは日が暮れるぞ!」
魔法使いの声だとわかったアーシャはマグニフィコに伝えスターの手を掴む
かつて願いを保管していた部屋の前に立ち腕を上げて扉を開き急いで中に入り閉める
「…隠れちゃいましたけど 本を隠しておくべきでしたか…?」
「それだとアマヤが危険だ」
小声で話し合い その後マグニフィコは部屋を見渡す
道具類は処分されることなく綺麗に保管されており 心の中でアマヤに感謝し必要な器具や薬品を一箇所に集める
その間アーシャは壁に耳を当て様子を伺う
どうやら魔法使いと盗賊たちがずっと言い合いをしており目的の本を手に入れるところまで話が進んでいないらしい
本を目の前に余裕があるからこそ魔法使いたちはそのくだらない言い合いをしているのだろうが こちらとしては勝手に時間を稼いでくれていてありがたい限りだった
儀式の際に使っていた演出用のキラキラとしたカケラを器に放り込み 色付けの薬品や煙を出すための材料などを離れた場所から魔法でフラスコを引き寄せ中身を注ぐ
「多分外には女王様と魔法使いと…あと3人くらいいます」
「3人?まぁいい 一度アマヤを安全な場所に逃す 本を持って…アリーナの民たちも解放して…その魔法使いの対処は最後だ…」
出来上がった物が入った器を魔法で持ち上げ壁に向かう
「開けたらこれを床に叩きつけ本の戸にかけた魔法を解くからすぐに取れ 私はアマヤを抱えて部屋から出るからついてくるんだ あとそこのオイルを手に塗るんだ 念のためな」
やるしかないとアーシャは頷き 杖を鞄にしまってから言われたとおり黒曜石のオイルを手に塗った
スターがやる気に満ちた目でピッと手を前に伸ばし上げると扉はゆっくり開いた
壁の方に目線を向けていたのはアマヤだけだった 他の4人は器の割れる音でようやく自分たち以外の誰かが部屋にいたことを知った
地面に広がった煙はマグニフィコが腕を振り上げるとキラキラとしたカケラを生み出し4人の周りにまとわりつき 突然眩い光と共に弾けた
その場が混乱しているうちに戸の魔法を解き開ける
白い光や青い煙で視界が悪くなったが本を手にしたアーシャはスターに導かれてマグニフィコの方へ向かう
一方マグニフィコは4人に目眩しをした後即座にアマヤに駆け寄り驚く彼女を腕に抱えた
久しぶりに彼女に触れ顔を見て抱きしめたのに状況はあまり喜ばしくない 残念だが今は逃げなければならない
「あなた…!?どうして…!」
「説明はあとでする」
走り出そうとしたがその視界の悪さをものともせず仮面をはめた魔法使いがマグニフィコの前に立ちはだかる
「本をよこせ!」
杖を振ろうとする魔法使いの腕を光のイバラで掴むが赤い光がそれを剥がすように動きそのまま杖を振ると地面から伸びた赤い光の腕がマグニフィコとアマヤに襲いかかる
マグニフィコは自身の魔法でアマヤの体を掴み背後に隠すように移動させ 右手に握った杖を振り光を操り地面に叩きつけ消失させた
アマヤの背中にスターがぶつかり 続いてアーシャがぶつかりかけ4人が視界の悪い中部屋の中央で固まっていた
室内で強い風が吹いた
魔法使いの男が書斎の扉を開け バルコニーへの扉も開け放ち 風を起こして煙を外へ出してしまった
そして気づけば男と3人の盗賊に囲まれていた
単純な魔法では男が簡単に解いて消してしまう
「噂より程度の低い魔法しか使わんようだなマグニフィコ そっちの杖だけ立派な魔女はお前の弟子だったのか?」
「…違うが」
「なら相当大したことがなかったようだな お前の魔法は…俺の方がうまく扱える さぁ本をよこせ」
アーシャが手に持つ本をアマヤに渡し 振り向いて杖を両手で構える スターはアーシャの横で敵を睨みつけている
マグニフィコは杖を右手に持ち 先端を魔法使いの方へ向ける
やる気だと判断し魔法使いも杖を構え直し盗賊たちは剣を向ける
マグニフィコは魔法使いの背後で開けられたままの扉を確認した後 杖を振り上げ地面に叩きつけそこから伸びた光が背後のアマヤとアーシャを掴んだ後 今度は杖をやり投げをするような持ち方に変え 彼らがそれに反応して動き出すより前に杖を扉の外に向かって投げた
自分に向かって杖を投げる気だと思った魔法使いは咄嗟に横に避けたが それによって道を開ける形となった
投げられて扉の外へ飛んでいく杖の先にある鏡から緑の光が腕のように伸びマグニフィコを掴み彼は杖に吸い寄せられていく
その彼の魔法に捕まっているアマヤとアーシャも同じような勢いで引っ張られ体は宙に浮く
スターはアーシャの服を掴んでそのまま全員が扉の外へ出ていってしまう
突然のことだった魔法使いたちは反応が遅れ 男は杖を振ったがアーシャの足が書斎の扉を抜けたところで開けられていた扉全てが勢いよく閉まりイバラで覆われた
杖は塔の下まで落ちていく
心構えをしていたマグニフィコは冷静に地面との距離を測っていたが アマヤとアーシャはこの後どうするつもりなのかもわかっていないので悲鳴を上げながら落ちていた
杖に引っ張られている分マグニフィコは早く落ち 魔法の腕でクッションを作りすぐさま立ち上がり 落ちたきた2人を順番に受け止める
服にくっついていたスターは普段縦横無尽に宙を舞っているだけあって平気そうに笑っていたが アーシャにはとてもそんな余裕はなかった
ようやく落ち着くことのできたアマヤはなぜか鏡の外に出てスターやアーシャと共にいる夫を複雑そうな表情で見ていた
「説明をして どうやって出たのか なぜここに…それもアーシャやスターと一緒に…」
禁断の書を持ったまま彼を強く睨み 先に本を受け取りたいマグニフィコに取られないよう避け アーシャとスターを自身の後ろに隠すように立つ
「女王様 スターが彼を解放したんです 協力してもらうために」
マグニフィコは杖を彼女に見せる 鏡の中で目を閉じる彼の姿を見て アマヤは彼が完全に解放されたわけでは無いのを理解した
禁じられた魔法も使っている 彼は以前のまま それでも協力をしている
「全て解決したら…ちゃんと出す約束を…すみません 勝手に…」
「…けれどそのおかげで助かったわ…ありがとう」
アーシャとスターに微笑み マグニフィコにもお礼を言った
完全に信頼しているわけではないが 今は彼の力が必要だった
「今はあなたを信じます」
「それはどうも…」
人々はまだアリーナに囚われている マグニフィコのいない中 ただ1人女王として恐ろしい魔法使いや盗賊を相手に自身を崩さないように保っていたが ようやく助けられ気が緩んだのか 恐怖で震えるが アマヤはもう一度勇気を抱く
女王として今すべきことを…
「…あれ?あのっ本が…」
アマヤが腕に抱えていた本が段々と透けてきている
マグニフィコはゾッとする感覚がして天井を見上げた
今までで1番大きな声が自分の中で響く
「本を開いた!」
驚いて声を振り払うように腕を動かすと 2人が驚いた顔でマグニフィコを見た
アマヤの手の中の本が消えた
部屋から逃げる時 気づかないうちに奪われ 幻を掴まされていたようだった
「奴が部屋を出る前に…アリーナに向かうぞ」
4人はアリーナへ向かって走り出した
一方書斎に閉じ込められた盗賊たちは魔法使いが本を開いた途端緑の光が現れ彼が笑っていたので何か強力な魔法でもかけて外へ出るのかと思っていたのに その後も本を読み続け イバラ相手に剣を振り続ける彼らを手伝おうとしないので腹を立てていた
魔法使いが顔を上げ 部屋を見回し マグニフィコたちが出てきた奥の部屋で何かを探し その後また戻り 床をじっと見た後手をかざし軽く振った
すると床に隠された部屋への階段が現れ そこから出られるのかと思い盗賊たちは魔法使いについていった
降りた先には小さな部屋があるだけで そこに出口はなかった だが魔法使いの目的のものはそこにあった
本を置き 鍋を取り出し 材料を揃える
開かれたページは以前マグニフィコが開いていた杖の作り方が書かれたところだった
「おい!目的のものは手に入れたんだろ さっさと魔法で部屋から出してくれよ 仲間が待ってる」
だが魔法使いは手を止めず調合を続け振り返る
「協力すれば…全ての願いが叶う魔法をお前たちにかけてやろう 仲間全員に どうだ?」
盗賊たちは少し話し合い 頷いた
この魔法使いが本物なのはわかっている 彼の持つ本にそれに関することが書かれており だとすれば自分たちの力を借りてまで手に入れたかった理由がわかる
手を貸せばさらなる報酬
魔法使いが杖を振り盗賊たちの胸の辺りから光を抜き取る
「3人の願い その力を手にすれば…杖は完成だ」
彼は手に持っていた杖を鍋に突き刺すように入れた
…続く
禁断の書に手を出せば永遠に支配される
支配された心は2度と元に戻らないのかもしれないと 彼に会うたび思わされる
地下牢にいれば いずれ自らの行いを反省してくれるのではないか…
けれど思いに反し 彼はいつまでも自分以外全てへの怒りを口にするばかりだった
禁書のせいだとわかっているが これは彼の本性なのかもしれないと思ってしまうこともある
自分の行いを省み 今一度この国を作るに何を思ったか 出会った頃の彼が何を願ったか思い出してくれれば…
元の彼に戻って欲しかった
彼を助け出す方法を国民に何も言わずに探すことはできない けれど今の彼を外へ出すことを国民が快く思うのだろうか
「…わかったわ いつかあなたが落ち着いて話をしてくれると思っていたけれど…私の顔も見たくないなら しばらく会わない方が良さそうね…」
時間さえ取れればほとんど毎日様子を見ていたアマヤだったが ついに諦め 引き止めるマグニフィコの言葉も聞かず地下牢の階段を上がった
鏡を強く叩き 後悔する声が地下牢に聞こえる
マグニフィコは禁断の書に支配され暴走していたが 鏡の中に閉じ込められてしばらく経った今では その支配がだんだん弱くなっているように感じていた
あの日の出来事を思い出し自身の行動に罪の意識が芽生える…だがまた声が聞こえる
願いを使い力を手にしろと声が言う
星を手に入れれば全て支配できると声が言う
その声に喜んで従ってしまう 自分の願いはなんだったのかわからなくなる
国を守りたい 願いを 国民を 守るのは どうやればいいのか
力があればいいと声が言う
杖を作り上げる 何を材料にしただろうか
手段を選んではいられないと禁断の書に手を出して 守り続けると誓った願いを壊した
何のために 禁断の書を開いたのかすらわからなくなっていた
それにすら気付けない 願いを犠牲にした杖をアマヤに向ける時の彼女の顔を思い出せるか
彼女の言葉は偽りだと声が言う
妻も国民もみな 私を裏切り 国の破滅させると声が言う
彼女の愛は偽りで 国民たちは願いを叶えてもらうことばかり
ならもういいじゃないかと声が言う
そんな奴らの願い 全て力に変えて 自分の願いを叶えるべきだと 声が…
誰がそれを言っているのだろう
「私はお前だ あぁハンサムで偉大な魔法使いが映っている」
鏡に映る自分が 恐ろしい笑みを浮かべる
「願いを壊したことは気にするな あんな連中の願いなど 叶えるに値しない この私の力になれたなら それでいいじゃないか なぁ?」
本当にそれが私の願いだったのだろうか
「こうなったのも あの星が来たせいだ アーシャのせいだ アマヤのせいだ 民のせいだ 私は精一杯国のためにやったのに 恩を仇で返した 連中の願いを上手く使ってやったのに 今じゃ地下牢だ」
何日アマヤはここに来ていないのだろう
地下では今がいつかもわからない
鏡に自分が映る アマヤがいない
「アマヤは本当に薄情だ あっさり裏切って 今では女王様 今までずっと側でお前を支えて 全てを知っていたのに 彼女に罪はないかのように慕われて」
時間が経つほど この声の言うことが正しいのか 疑問に思うようになった
願いを壊すことだけは 望んでなかった
それだけは確かだ
「壊されて当然だ」
守られるべき願いはあっても 壊されていい願いは…
「返さなくて正解だっただろう おかげで魔法が…」
奪われた…ままの…願い…
「叶えば危険な願いを守ってた 返すだなんて あんなに美しいものが 戻れば願いを諦めあの輝きが消える日がくるかもしれないのに その悲しみ を抱くくらいなら忘れた方がいいのに なぁ?」
「黙れ!!」
地下牢にマグニフィコの声だけが響く
暗闇の中 未だ来ないアマヤを待ち続ける
この声を無視すべきだと思うようになった 声に従えば自分の願いまで壊してしまいそうな気がしていた
だが少しするとまた怒りが湧いてくる
聞こえてくる声はその様子を知ってなのか静かになった
王である自身への侮辱 裏切り アマヤも国民たちも誰もが許せない感情と共に またマグニフィコは闇の中で文句を言い
しばらくしてもアマヤは来ず 怒りが不安になり 罪悪感が芽生えるより前に声に従うように心を闇に染める
ずっと不安定で 理性を取り戻す前に心を掴み戻されるような感覚がした
自身の行動を肯定し続ける自分の声だけが時折聞こえ それは自分の口からなのか 頭の中なのかわからず
深い闇の中 寝転がったり立ち上がったりを繰り返し 誰かがまた地下牢に来るまでの間 ただ待つしかなかった
いつぶりだろうか 階段を降りる靴の音が聞こえる 駆け降りているように聞こえる
そんなに急いで何事だろうかと不安に思っていると地下牢に光が入る
久しぶりの明かりに目を細めながら足音の主を見ると そこにいたのは息を切らしながら光る杖を持つアーシャだった
彼女は何も言わずに急いで地下牢の扉を開き 乱雑にマグニフィコの入った鏡を掴み鞄に押し込む
「アーシャ!?なんなんだ!」
揺れる鞄の中で叫ぶがアーシャは何も答えず走り出した
鞄の中では何も見えないので音で予想するしかないが ただただ彼女がどこか走っているらしい音しか聞こえない
時々立ち止まってゆっくり歩いたり また駆け出して急に止まり…それを繰り返すと次に馬の声が聞こえる
そして馬に乗って走り出すと森を抜け 波の音が近づき どうやら海に来たらしく 馬を降りたアーシャは今度はボートに乗り 漕ぎ出した
「アーシャ!私の声は聞こえているだろう!どこにいくつもりなんだ!」
「ついたら…説明しますから…!」
ようやく目的の場所についたのか歩きながら鞄が開けられる 外は夜だった
側の小島についたらしく アーシャはマグニフィコの入った鏡持ったまま島の中心に向かって歩き出す
「あなたを隠すように女王様から頼まれました 禁断の書に書かれた杖の一部だから奪われたくないと…」
「なぜだ 何かあったのか?」
アーシャは鏡を城が見える方向へ向ける
港には巨大な船が何隻かいて灯りが見える
だが普段ロサスを訪れる船と何か違うように感じ嫌な予感がした
「禁断の書を手に入れるために…魔法使いが大勢の盗賊を仲間にしてロサスを襲ってきたんです…」
「なんだと…!?」
マグニフィコがいなくなった後のロサスは全てがうまくいっていたわけではなかった
彼のおかげで保たれていた平和も確かにあった
願いの扱いに関してこそ誤ったマグニフィコだったが それ以外の面では大勢の人々を受け入れ 多くの移民たちが住みながらも平和な国を作り上げ 今の今まで綻びもなく保っていた
願いの自由も戻った今 よりよくなるかと思われたが マグニフィコのやり方を支持する者が少なからずおり ロサス国内で彼への評価が大きく分かれ またアマヤが見て見ぬふりをしていた事実はどうなるのかと不信感を抱く者も少人数出始め国民たちの間で意見がわかれるようになっていた
いきなり変わることは難しいためこの問題は時間をかけ解決するしかないとアマヤも真摯に向き合っていた
国民同士の意見の相違やマグニフィコも危惧していた危険な願いについての問題もアマヤの味方となった者たちと共にひとつずつ解決していった
様々な問題が起きては解決策を考える日々の中 スターからもらった魔法の杖を使って人々を手助けするべく練習するアーシャ
ある時 ロサスを頼ろうと訪れた船の人々に国を案内していた
その中で魔法の杖を持っていた彼女に強く興味を抱いた白髪の男がいた
傷を隠すため仮面で顔の半分を隠した男は魔法使いで 同じ魔法使いのマグニフィコに会うためにロサスを訪れていた
それを知ったアーシャはマグニフィコがいないことをその理由も含めてあった事全てを話した
男は非常に残念がった そして禁断の書は今どうなったかを彼女に尋ねた
禁断の書は今マグニフィコの魔法がかかった扉の中に厳重にしまわれていることを話すと男は満足したように頷き アーシャと別れ ただ1人ロサスには留まらず同じ船で帰って行った
次に彼が来た時には 大きな船数隻と共にだった
魔法使いは盗賊たちと手を組みロサスを襲わせた
いつものようにアリーナに集まり意見を言い合っていた国民たちをその場で人質にしアマヤを脅した
アーシャはその騒ぎの中 アマヤに頼まれ1人城に入りマグニフィコをここまで連れてきたのだった
「私が話さなければ禁断の書のことは知られなかったのに…」
国民同士願いのことなどで言い争ってなどいなければもっと早く船や盗賊たちの存在に気づけたかもしれない
「私は戻ってみんなを助けます 石でうまく隠せばきっと大丈夫」
マグニフィコに何か言われるに違いないと思っていたアーシャだが 予想に反し彼は黙っていた
すぐにでも町へ戻りたかったアーシャはその反応を気にしている場合ではなかった
家族や友達が今もあそこで恐ろしい思いをしている
アマヤが禁断の書を渡してしまったらロサスはどうなってしまうのだろうか
アーシャは鏡を石の上に置き周り石を置いて周りからは陰になるようにした
砂を適当にかけ 杖を持って意を決し立ち上がる
「待て その杖で私をここから出せ」
マグニフィコはアーシャが隠そうとあれこれ試す間 ずっと考え事をしていた
「それはあの星がお前に与えた魔法だろう ここにいてもし偶然見つかっても私に抵抗する手段はない ここから出すんだ ロサスのために協力しよう」
アーシャはしゃがんで鏡の中にいるマグニフィコを見る 作った笑顔で信用ならない もし外に出したら 最初こそ協力してきても どこかで裏切りまた同じことをするかもしれない
もしかしたら あの魔法使いと協力してしまうかもしれない
今のアーシャではマグニフィコに敵うとは思えない 今回のことも外から来た魔法使いに何の警戒もなく話してしまったから起きたのだから 軽率に判断すればまた取り返しのつかないことになる
彼女が首を振るとマグニフィコは強く鏡を叩き叫ぶ
「魔法を持ったばかりのお前に何ができるんだ!1人で魔法使い相手に戦うつもりか?私が助けてやると言っているのに!」
「信じられない…!けど ここに置いていくのは…確かに良くないかもしれない…」
アーシャは隠すことを諦めてマグニフィコを持ち上げる
鞄を開けると 中にはスターがロサスを去る際にくれた赤い毛糸で編んだ星が入っている
「…絶対にみんなを助ける」
あの時はスターやバレンティノが一緒だった
友達もアマヤ女王も一緒に立ち向かってくれた
星は空で輝いている
家族の無事を祈り星に願いを呟く
アーシャは振り向きボートに戻ろうとした
だが思っていた場所にその姿は無く驚いていると 視界の端からゆっくりと勝手にオールが動くボートがやってくる
ボートの中から見覚えのある光が見え もしかしたらとアーシャは小島に戻ってきた船の中を覗く
そこには光の粉がついた赤い毛糸が置いてあった 糸は船の外にまで続き目で追うとアーシャが手に持つ鏡をじっと見るスターがいた
「スター!」
喜ぶアーシャの声を聞きスターは顔をあげ手足をバタバタさせながら笑い 鼻にチョンッと触れる
久しぶりだねと言うようにアーシャの周りをぐるぐる回ったあと目の前で笑いかける
先ほどまで暗い表情だったアーシャも久しぶりの再会で笑顔になっていた
スターは鏡の中のマグニフィコを見て怒り顔をしたあと彼が鏡の中で悔しそうにしているのをじっと見てからかうように笑った
アーシャの手から鏡を取ると先ほどまで彼が置かれていた石の上に戻し その前で準備運動のような動きをしたあと鏡の上でぐるぐる回り光る粉が鏡に降り注ぐ
何をするつもりなのかと思い慌てて止めに行くがその時には鏡から緑の光が出てゆっくりと人型になっていた
それはだんだんマグニフィコの姿と同じようになり 光が解けるように消えると元通りのマグニフィコが立っていた
「スター!ダメよ!」
アーシャはスターを両手で掴みマグニフィコから引き離す
彼の怪しい緑の目が光り 不敵な笑みを浮かべ 地面に置かれた鏡をそのままに2人の方へ歩き出した
「よくやったスター おかげで…」
続きを言う前にマグニフィコの体が地面の鏡から突然伸びた緑の光に引っ張られて後ろに倒れる
何か魔法だと思って驚いたアーシャは慌ててスターを自分の後ろに隠した
マグニフィコは地面の鏡の中を見て驚いたあと鏡を掴んでアーシャの前に投げ見るようにと指をさして伝えた
「あー…えっと…」
鏡の中ではマグニフィコが眠っているのか目を閉じている
アーシャの背後からゆっくりと上へ浮いて肩に乗ったスターは満面の笑みを浮かべている
今も鏡から少しずつ出る光がマグニフィコをじりじりと鏡へ呼び戻そうとしている
どうやらスターは彼を完全に出したわけではないらしい
「何を笑っているんだ無礼な星め…!早く私を出せ!」
スターは顔を逸らし何も聞こえないふりをする 余計に彼の怒りを勝ったがスターは気にしていない
「外に出られたら協力してくれるんですよね?」
スターにばかり気を取られている彼に鏡を手に持ったままのアーシャが話しかけた
「これが外に出られたと言えるのか?」
「協力してくれないなら スターに頼んであなたをここへ戻して 海の中に隠します 今投げても…いいんですよ?」
余裕の表情で鏡を海に放り投げる構えをしてみせると止めるためにマグニフィコが彼女の腕を掴み鏡を奪い返す
「本当に助けてくれたら 今度こそあなたを出してあげます だから力を貸してください…ロサスのために」
マグニフィコは鏡を手に持ち 乱れた髪を整えた いつの間にか 目は元の青色に戻っている
「…わかった…協力しよう」
そう言って握手のために手を伸ばすと アーシャは両手で掴んで強く振った
「よかった!じゃあ急ぎましょう!」
スターも頷き3人はボートに乗って浜辺まで戻った その後アーシャが乗ってきた馬に2人で乗りアーシャはマグニフィコの前に座る形となってしまい気まずい中 森を駆けた
スターはその横を楽しそうに飛び回り何か拾った
森を抜ける直前 マグニフィコに長い木の枝を渡し マグニフィコが手綱を持つ間代わりに鏡を持っていたアーシャに対し先端に鏡を近づけるようにジェスチャーで伝え2人が近づけると先端に鏡のついた木の杖を完成させる
以前マグニフィコが作った杖のようになったので少しだけ嫌な記憶が蘇るが スターがこれをくれたなら 彼の方はもう気にしてないのかもしれない
杖を手にした時 その手が強く握られ目が緑に光ったように見えたが アーシャは自分の恐れがそう見せたのかもしれないと思うことにした
城の前のアリーナを遠くから見ると 出られるような場所全てが魔法の壁で閉じられ中が見えない
まだ禁断の書が奪われたような様子ではないが それでも時間の問題だろう
「同じ場所にまだあるんだったな」
「はい」
「相手も魔法使いなら扉にかけた魔法は簡単に解かれるかもしれないな…とりあえず部屋に向かうとするか」
町まで来ると盗賊たちが列を作り木箱につめた荷物を運んでいた
会話を聞くとどうやら中身は“金になるもの”らしい
城の表は荷物を運ぶ盗賊たちだらけだった
見つからないようにその場を抜けマグニフィコについて行き城の側面に向かう
「ここから隠し通路に入れる その方が見つかりにくいだろう」
「どこに繋がるんですか?」
「厨房のあたりだ」
通路には明かりがなく暗かったがスターが先に行くことで道を照らした
しばらく黙って進んでいるとマグニフィコはあの声がまた聞こえてくるような気がした この暗さが鏡の中のように思えてくる
スターの輝きを目の前にすると手を伸ばしたくなる 手に入れて 後ろのアーシャの杖を奪って折ってしまえば 盗賊だろうと魔法使いだろうと凌駕してロサスを救える力が手に入ると声が言う
だんだんと他の音が聞こえなくなる アーシャが何か言ってる気がするが 目はずっとスターを見ている 気づけば手が伸びる
「マグニフィコ!」
先を行くスターの手を掴んだところで 前に出てきたアーシャが間に入ってマグニフィコの腕を掴み止めようとする
その目は緑色に染まっており アーシャは警戒してすぐにスターをマグニフィコから離した
「冗談でも…やめてください 名前は…その…呼び捨てにしてすみません」
「…どのみちもう王ではない 気にするな 色々と考え事をしすぎていた」
少し驚いた顔をしていたスターだが まぁいいかとまた進み始めた
アーシャは今度はスターとマグニフィコの間を歩くようにした
こちらに気付いてからまた色が変わったが やはり彼がまだあの恐ろしいマグニフィコのままなのだろうと アーシャは不安になった
信じていいのかわからない 彼が何のために今一緒に行動しているのか それは鏡の外に出るためだけの言葉だったのか…そこも注意しておかなければいけないなんて とため息をつく
もう一度マグニフィコを見る 今は大丈夫そうだった
隠し通路は城の中にある石像の台座部分に繋がっており 確かにそこは厨房の近くだった
側で人の気配を感じなかったので外で出た3人は注意深く厨房の方へ向かう
だが厨房の中で盗賊たちに間違いないであろう出で立ちの2人組がこちらに背を向けた状態で会話に夢中になっており バレないうちに養鶏部屋に一度身を隠した
「どうしよう…」
「君はその杖で何ができるんだ?」
「物を大きくしたり ちょっとだけ手を触れずに物を動かしたり…」
「使えそうだな 適当な物であいつらを…」
そう言いながら鶏たちの卵をそばにあったカゴに集めスターはマグニフィコが掴もうとした卵を掴みジャグリングを始めていた
それを見たアーシャが言葉を続けた
「でも魔法がどこに飛ぶかもわからなくて 最悪あいつらの服がドレスになるだけかも…」
えっ?という顔をして腕を下ろしたスターが落とした卵を魔法で操りカゴに入れたマグニフィコの顔はスターと同じ表情をしていた
「それは…本当に1人でどう戦うつもりだったか興味が湧く言葉だな」
「なんとかなるかなーと…」
手をくるくるしながら2人から目を逸らし 鶏たちに謝りながら卵をいくつか集めてマグニフィコの持つカゴに入れる
「だ…大丈夫ですよ 貸してください絶対うまくいきます」
そんな勢いで行かせていいのかわからなかったが止める間も無くアーシャが扉を開けてしまったため 互いに思っている作戦が何かもわからないまま2人組の前に立つことになりそうだった
アーシャは杖を振り卵に魔法をかける キラキラとした光をまとった卵は2人組の方にゆらゆら踊りながら近づいていく
宙を歩く卵たちに驚く2人が気味悪がって卵を手に取ったタイミングでアーシャの操る鍋がそれぞれの頭上に浮かび パッと魔法が消え頭の上に落ち 鈍い音と共に2人組は鍋を被ることになった
突然の出来事に驚いて互いにぶつかり見事に倒れたところをマグニフィコの光のイバラが捕え何が起こったかもわからないまま身動きが取れなくなった
アーシャがまだ騒ぐ2人に慌てて杖を振ると鍋が鐘を鳴らすように揺れ かなり乱暴な方法で黙らせることに成功した
マグニフィコは盗賊を完膚なきまでに叩きのめしたかったがアーシャの前であまり暴力的なのも良くないだろうとイバラで捕まえるに留めたにも関わらず アーシャが思っている以上の攻撃をしているのを見て自分が感情を抑えているのが損な気がしていた
卵を大きくして下敷きにしてから捕まえるか投げつける程度だと思っていたマグニフィコに対しアーシャはマグニフィコならこれくらいすると思っていたが彼の反応が思っていた感じではなかったので少し不安になっていた
「やりすぎました…?」
「…これくらいがちょうどいいような連中だ」
誰もいないことを確認して厨房を出る 禁じられた魔法を持つマグニフィコは感覚でまだ敵が本を手にしていないのは理解していた
盗賊が城の中の物を漁っている 禁断の書よりそちらが優先されているのはなぜなのだろうか
…アーシャがマグニフィコの鏡を持って逃げ島につきやり取りをした後再び戻るこの間に魔法使いが禁断の書を手に入れてもおかしくはなかった
陰に隠れている時聞こえた会話の内容からすると どうやら魔法使いと盗賊たちはあくまで一時的な協力関係でしかなく 人質をアリーナから逃がさないようにする役目を果たす代わりにまずは金目の物を一隻の船に積ませ 先に島から出すよう魔法使いに要求していた
アリーナから逃げられないようにかけた魔法を本を手にするなり解かれれば宝どころではなくなる可能性は十分にあるためだ
魔法使いは仕方なく本より先に彼らへの報酬の時間を取った
それが終われば魔法使いの番が来る
マグニフィコは飛び出すなり杖を地面に叩きつけ そこから手のように伸びた光が盗賊たちを次々捕らえ その様子を口をぽかんと開けたまま眺めるアーシャは捕まった盗賊にちょっかいをかけようとするスターを止めながら彼の後ろをついていった
手助けしようと杖を振った結果飾られていた甲冑が軽快に踊り出しスターが一緒になって踊る甲冑を増やしマグニフィコがうまく誘導して踊る甲冑対盗賊たちが繰り広げられたりしつつ なんとか書斎の階段までたどり着いた
中から誰の声もしない ゆっくり扉を開け覗き見るとどうやらまだここには来ていないらしく 禁断の書もガラス戸の中に置かれている
3人は中へ入りマグニフィコが本を取り出そうとすると部屋の外から怒鳴り声が聞こえた
「宝を運び出す時間は十分与えただろう!このままでは日が暮れるぞ!」
魔法使いの声だとわかったアーシャはマグニフィコに伝えスターの手を掴む
かつて願いを保管していた部屋の前に立ち腕を上げて扉を開き急いで中に入り閉める
「…隠れちゃいましたけど 本を隠しておくべきでしたか…?」
「それだとアマヤが危険だ」
小声で話し合い その後マグニフィコは部屋を見渡す
道具類は処分されることなく綺麗に保管されており 心の中でアマヤに感謝し必要な器具や薬品を一箇所に集める
その間アーシャは壁に耳を当て様子を伺う
どうやら魔法使いと盗賊たちがずっと言い合いをしており目的の本を手に入れるところまで話が進んでいないらしい
本を目の前に余裕があるからこそ魔法使いたちはそのくだらない言い合いをしているのだろうが こちらとしては勝手に時間を稼いでくれていてありがたい限りだった
儀式の際に使っていた演出用のキラキラとしたカケラを器に放り込み 色付けの薬品や煙を出すための材料などを離れた場所から魔法でフラスコを引き寄せ中身を注ぐ
「多分外には女王様と魔法使いと…あと3人くらいいます」
「3人?まぁいい 一度アマヤを安全な場所に逃す 本を持って…アリーナの民たちも解放して…その魔法使いの対処は最後だ…」
出来上がった物が入った器を魔法で持ち上げ壁に向かう
「開けたらこれを床に叩きつけ本の戸にかけた魔法を解くからすぐに取れ 私はアマヤを抱えて部屋から出るからついてくるんだ あとそこのオイルを手に塗るんだ 念のためな」
やるしかないとアーシャは頷き 杖を鞄にしまってから言われたとおり黒曜石のオイルを手に塗った
スターがやる気に満ちた目でピッと手を前に伸ばし上げると扉はゆっくり開いた
壁の方に目線を向けていたのはアマヤだけだった 他の4人は器の割れる音でようやく自分たち以外の誰かが部屋にいたことを知った
地面に広がった煙はマグニフィコが腕を振り上げるとキラキラとしたカケラを生み出し4人の周りにまとわりつき 突然眩い光と共に弾けた
その場が混乱しているうちに戸の魔法を解き開ける
白い光や青い煙で視界が悪くなったが本を手にしたアーシャはスターに導かれてマグニフィコの方へ向かう
一方マグニフィコは4人に目眩しをした後即座にアマヤに駆け寄り驚く彼女を腕に抱えた
久しぶりに彼女に触れ顔を見て抱きしめたのに状況はあまり喜ばしくない 残念だが今は逃げなければならない
「あなた…!?どうして…!」
「説明はあとでする」
走り出そうとしたがその視界の悪さをものともせず仮面をはめた魔法使いがマグニフィコの前に立ちはだかる
「本をよこせ!」
杖を振ろうとする魔法使いの腕を光のイバラで掴むが赤い光がそれを剥がすように動きそのまま杖を振ると地面から伸びた赤い光の腕がマグニフィコとアマヤに襲いかかる
マグニフィコは自身の魔法でアマヤの体を掴み背後に隠すように移動させ 右手に握った杖を振り光を操り地面に叩きつけ消失させた
アマヤの背中にスターがぶつかり 続いてアーシャがぶつかりかけ4人が視界の悪い中部屋の中央で固まっていた
室内で強い風が吹いた
魔法使いの男が書斎の扉を開け バルコニーへの扉も開け放ち 風を起こして煙を外へ出してしまった
そして気づけば男と3人の盗賊に囲まれていた
単純な魔法では男が簡単に解いて消してしまう
「噂より程度の低い魔法しか使わんようだなマグニフィコ そっちの杖だけ立派な魔女はお前の弟子だったのか?」
「…違うが」
「なら相当大したことがなかったようだな お前の魔法は…俺の方がうまく扱える さぁ本をよこせ」
アーシャが手に持つ本をアマヤに渡し 振り向いて杖を両手で構える スターはアーシャの横で敵を睨みつけている
マグニフィコは杖を右手に持ち 先端を魔法使いの方へ向ける
やる気だと判断し魔法使いも杖を構え直し盗賊たちは剣を向ける
マグニフィコは魔法使いの背後で開けられたままの扉を確認した後 杖を振り上げ地面に叩きつけそこから伸びた光が背後のアマヤとアーシャを掴んだ後 今度は杖をやり投げをするような持ち方に変え 彼らがそれに反応して動き出すより前に杖を扉の外に向かって投げた
自分に向かって杖を投げる気だと思った魔法使いは咄嗟に横に避けたが それによって道を開ける形となった
投げられて扉の外へ飛んでいく杖の先にある鏡から緑の光が腕のように伸びマグニフィコを掴み彼は杖に吸い寄せられていく
その彼の魔法に捕まっているアマヤとアーシャも同じような勢いで引っ張られ体は宙に浮く
スターはアーシャの服を掴んでそのまま全員が扉の外へ出ていってしまう
突然のことだった魔法使いたちは反応が遅れ 男は杖を振ったがアーシャの足が書斎の扉を抜けたところで開けられていた扉全てが勢いよく閉まりイバラで覆われた
杖は塔の下まで落ちていく
心構えをしていたマグニフィコは冷静に地面との距離を測っていたが アマヤとアーシャはこの後どうするつもりなのかもわかっていないので悲鳴を上げながら落ちていた
杖に引っ張られている分マグニフィコは早く落ち 魔法の腕でクッションを作りすぐさま立ち上がり 落ちたきた2人を順番に受け止める
服にくっついていたスターは普段縦横無尽に宙を舞っているだけあって平気そうに笑っていたが アーシャにはとてもそんな余裕はなかった
ようやく落ち着くことのできたアマヤはなぜか鏡の外に出てスターやアーシャと共にいる夫を複雑そうな表情で見ていた
「説明をして どうやって出たのか なぜここに…それもアーシャやスターと一緒に…」
禁断の書を持ったまま彼を強く睨み 先に本を受け取りたいマグニフィコに取られないよう避け アーシャとスターを自身の後ろに隠すように立つ
「女王様 スターが彼を解放したんです 協力してもらうために」
マグニフィコは杖を彼女に見せる 鏡の中で目を閉じる彼の姿を見て アマヤは彼が完全に解放されたわけでは無いのを理解した
禁じられた魔法も使っている 彼は以前のまま それでも協力をしている
「全て解決したら…ちゃんと出す約束を…すみません 勝手に…」
「…けれどそのおかげで助かったわ…ありがとう」
アーシャとスターに微笑み マグニフィコにもお礼を言った
完全に信頼しているわけではないが 今は彼の力が必要だった
「今はあなたを信じます」
「それはどうも…」
人々はまだアリーナに囚われている マグニフィコのいない中 ただ1人女王として恐ろしい魔法使いや盗賊を相手に自身を崩さないように保っていたが ようやく助けられ気が緩んだのか 恐怖で震えるが アマヤはもう一度勇気を抱く
女王として今すべきことを…
「…あれ?あのっ本が…」
アマヤが腕に抱えていた本が段々と透けてきている
マグニフィコはゾッとする感覚がして天井を見上げた
今までで1番大きな声が自分の中で響く
「本を開いた!」
驚いて声を振り払うように腕を動かすと 2人が驚いた顔でマグニフィコを見た
アマヤの手の中の本が消えた
部屋から逃げる時 気づかないうちに奪われ 幻を掴まされていたようだった
「奴が部屋を出る前に…アリーナに向かうぞ」
4人はアリーナへ向かって走り出した
一方書斎に閉じ込められた盗賊たちは魔法使いが本を開いた途端緑の光が現れ彼が笑っていたので何か強力な魔法でもかけて外へ出るのかと思っていたのに その後も本を読み続け イバラ相手に剣を振り続ける彼らを手伝おうとしないので腹を立てていた
魔法使いが顔を上げ 部屋を見回し マグニフィコたちが出てきた奥の部屋で何かを探し その後また戻り 床をじっと見た後手をかざし軽く振った
すると床に隠された部屋への階段が現れ そこから出られるのかと思い盗賊たちは魔法使いについていった
降りた先には小さな部屋があるだけで そこに出口はなかった だが魔法使いの目的のものはそこにあった
本を置き 鍋を取り出し 材料を揃える
開かれたページは以前マグニフィコが開いていた杖の作り方が書かれたところだった
「おい!目的のものは手に入れたんだろ さっさと魔法で部屋から出してくれよ 仲間が待ってる」
だが魔法使いは手を止めず調合を続け振り返る
「協力すれば…全ての願いが叶う魔法をお前たちにかけてやろう 仲間全員に どうだ?」
盗賊たちは少し話し合い 頷いた
この魔法使いが本物なのはわかっている 彼の持つ本にそれに関することが書かれており だとすれば自分たちの力を借りてまで手に入れたかった理由がわかる
手を貸せばさらなる報酬
魔法使いが杖を振り盗賊たちの胸の辺りから光を抜き取る
「3人の願い その力を手にすれば…杖は完成だ」
彼は手に持っていた杖を鍋に突き刺すように入れた
…続く
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