短編

テナルディエ探し

デイビー「…で 思うんだが 俺とお前は同じ世界だったわけだから世界が続いていて…ってわけでもないんだよな」
ダステ「レ・ミゼラブルとヒューゴとアリスの本はある もちろん フィクションとして…それと調べたら 君の物語の…ミュージカル作品もある」

デイビーとギュスターヴ トビーの3人は ギュスターヴが持ってきた3作品の本と ミュージカルのパンフレットを前に 腕を組む

ダステ「映画見たことあるか」
デイビー「自分のはない お前たちのはあるがな」
ダステ「私も流石に自分のは…あとお前のもない」
デイビー「まぁ同じ顔の俳優だよな」


元々自分たちがいた世界の共通点である原作は存在しない という点が当てはまらない
俳優はいる ゼロのいた世界とよく似た 自分たちの過去が存在しない世界

ダステ「…ところで テナルディエはいるのか?」
デイビー「いるんじゃないのか?俺たちだけってことはないだろ…」
トビー「2人とも これを見てください」

トビーがパソコンで見せてきたのは どこかのホームページ
見てみると どうやらホテルのページらしい

デイビー「オドューラホテル?結構な高級ホテルだな パラスに五つ星に…」
トビー「テナルディエって名前で調べると…レ・ミゼラブルも出てくるんですけど このホテルグループのオーナーの名前も出てくるんです」

グループのオーナーの名前を見ると 確かにテナルディエだった
四軒の五つ星ホテルと一軒のパラスホテル どれもが高級なオドューラホテル

トビー「テナルディエ…で ホテルなので もしかしたら…」
デイビー「けどなぁ…フェリクス=ジャン・テナルディエ…って あいつの名前なのか?」
トビー「うーん 違いますね…」
ダステ「…フェリクスではないな…だが」

自分のスマートフォンで調べていたギュスターヴが 画面を見せてきた
そこには オーナーのフェリクス=ジャンの写真 何かしらの取材の時に オーナーファミリーも紹介されたようで そこに見覚えのある顔が写っていた

ダステ「オーナーの甥で オドューラ・ドゥ・ミュールホテルの支配人を任されている…テオドール・テナルディエ」
トビー「テナルディエさんの名前!」
デイビー「お前ら…名前まで…」

自分だけが知らないことが多すぎて 落ち込むデイビーにはもう慣れたもので ギュスターヴもトビーもスルーして話を進める

ダステ「五つ星ホテルの支配人か…以前のことを思うと すごいところにいるな」
トビー「今回はお金に困ってなさそうで安心しました」
デイビー「会って6年は経ってたはずなのに 知らないことしかない…」

まだ落ち込むデイビーに対し

トビー「それはこれから知っていきましょう…」

とりあえずの対応をしておくトビー

ダステ「会いにいくか」
デイビー「そうだな…でもどうやって連絡をとる?支配人ってホテルに連絡でもすれば 会えるもんか?」
ダステ「ホテルにいる日なら…呼び出せないものか…」
デイビー「……とりあえず予約するか?」

もう一度 トビーにホームページを開いてもらう
予約のページを見て 値段を確認する

デイビー「たっか!!」
ダステ「一番下でも…これはこのためだけに払うには…」
トビー「連絡先知る方法なんてありますかね…」

しばらく考えた後 デイビーがものすごく難しい顔をしながら

デイビー「……リドルフォにちょっと…たのむか?」

デイビーとトビーの頼みとなると財布の紐が緩むとはいえリドルフォに甘えると申し訳ない気持ちで溢れる2人は頭を抱える

とりあえず知り合いを見つけたかもしれないとメッセージを送ってみる

デイビー「うわ!私たちの名前で速攻予約取ったこの人!!泊まりで行ってこいって…手配が早い!!」
トビー「僕らはともかくなんでギュスターヴの休み把握してるんですかこの人!!」
ダステ「その日ロンドン行くかもしれないと教えてたからか」
デイビー「この日テナルディエいなかったらただの小旅行じゃないか!」
トビー「ユーロスターのチケットも取ってます」
ダステ「結果はともかくとりあえず行けば運良く名前を見て気づかれるかもしれない むこうに行ったら知り合いってことで一応伝言頼んでみるか…」


そしてその日がやってきた

支配人に確実に会えるかはまだわからないが 3人はとにかく値段だけ思い出さないように 今日という日を迎えた

オドューラ・ドゥ・ミュールホテル

もし叶えばかなり久しぶりの再会になるため 緊張していた


トビー「テナルディエいるといいですね…」
デイビー「いなかったら…ただただ…」

フロントへ向かうと 受付のスタッフがこちらと目を合わせた後 他のスタッフと慌てたように話し その後またこちらを見る

デイビー「…なんだ?」
トビー「同じ顔だからじゃないですか?」
ダステ「…驚かれてるってことか?」
トビー「わからないですけど…」

ギュスターヴが受付を済ませようとしたが 何か問題が起きているようで 3人でロビー椅子に座って待つことになってしまった

「お待たせして申し訳ありません…お客様?」

背後からの声は 聞き覚えがあった
後ろから 椅子に手を置く
振り向くと 上から覗き込むように 赤髪の 彼の姿があった

ダステ「テナルディエ…!」

静かに とサインを送り 笑うテナルディエ
スーツ姿は見慣れないが確かに 彼だった

ティナ「ご案内します どうぞ」
デイビー「…え なんでずっとその話し方…」

そう言われると テナルディエの目つきが鋭くなる
他の利用客もいる中 立ち振る舞いを変えるわけにはいかないのか 仕事モードのまま話しているようだ

そのままテナルディエは3人を連れて エレベーターにのる すると 本来予約した部屋がある階数ではなく 最上階のボタンを押す

ダステ「…最上階?」
ティナ「俺からすればVIPだ 普通の部屋に案内するわけにはな」

4人だけの空間 ようやく テナルディエはかつてのままだったと思える彼になった
出会った頃より若い彼と 思っていたよりスムーズに再会し なんだか不思議な感じだった

ティナ「話はゆっくり…部屋でしよう このために 今日はこれ以外の予定を全部ずらしたんでな」

オドューラ・ドュ・ミュールホテルの最上階には 一つしか部屋がない
そこはホテルの名前がついた部屋だった
エレベーターを降りると 扉に続く道がある
そこは壁も床も真っ白で 懐かしい気分になった
集会所に続く あの道だった

ティナ「予約一覧に見覚えしかない名前があった わざわざ部屋をとって会いに来るなんてな…ホテルに一言言えば俺に繋げられたろうに」
デイビー「リドルフォが会いに行くなら泊まりで行ってこいと全部手配してくれたんだ…」
ティナ「あぁリドルフォか」
デイビー「自分で普通に名前を出しておいてアレだが お前もあの人や俺のことを全部知ってるのか」

部屋の中にはパリの景色が一望できる大きな窓
半円形のソファへ誘導され 部屋の中央へ

ティナ「俺の元の話に限らずお前たちの元の話まであったんで てっきりゼロの世界にでも来たのかと思ったが…世界線はひとつに戻ったみたいだな」
ダステ「そのようだな」

テナルディエは現在叔父の手伝いでこのホテルの支配人をしている
いずれは全ての事業を継ぐべく修行中らしい

トビー「ロザリーには会えたんですか?」
ティナ「あぁ会ったぞ 流石に今世じゃバハビエもまともみたいでな あいつだけ全部思い出したみたいだ」

左手を見る 指輪はないので今世では結婚してはいないようだが それに気づいたテナルディエが笑う

ティナ「あいつは7つ下なんだよ 成人するのは今年だ」
トビー「じゃあ…今世でも?」
ティナ「…何回も断ったがな そもそも前の俺のことを知ってるってのに…5回も言われるなら本気だろうからな」

良心の呵責に苛まれる日々 罪を償うようにとにかく正しい人であろうとし続けた
叔父の事業を手伝い 貰った給料は慈善団体に寄付し続けた
ホテルの従業員にはこの若い支配人を慕う者ばかりだった

彼の過去は 全てが本来のとおりフィクションということになっている テナルディエの記憶を持つ彼は今の時代に生まれ 健やかに育ったからこそより罪の意識があった

ロザリー・バハビエはトビーと同じ年に生まれた
思い出したのは偶然リュクサンブール公園にいるテナルディエを見た時 様々な記憶が駆け巡り 最終的に彼女は彼に話しかけに行った
覚えているのかも その本人かもわからない ただ顔が同じだけの彼を それでも良く知るテナルディエであると思い声をかけた

結果彼は彼で 初めて会った時のような優しい彼だった

約束をした ずっと一緒にいると
家族になりたかった 本当の家族よりも優しい人と
今は穏やかな両親と仲の良い兄弟といる それでも彼女は彼といたかった もう一度やり直せるなら 今度は彼の助けになりたかった
子供たちがもう一度 自分の元へ来てくれるなら

彼女もまた 罪の意識を持っていた
娘も息子も分け隔てなく 1人でも2人でも関係なく 大切に 愛し続けることができる心を持って生まれた
誰かを恨むことも妬むこともなく 貧しさを持たない

どうしたらいいのかもわからない ただあの手をもう一度取りたかった
奇妙な経験 最後の数年間だけは 彼が昔のように接してくれていた

ティナ「お前にどう償えばいいかわからない」
ロザリー「私もわからない 子供たちにも 私たちが酷い行いをした全ての人に対し 何ができるかわからない」
ティナ「お…俺といたせいで お前は不幸になったんだ せっかく良い親の元に生まれたんだ わざわざ同じ相手を選ぶ必要はない」
ロザリー「あなたといなければ 私は暗い路地で死んでたの 逃避行の日々でも 最後に家の中で死ねたのはあなたのおかげよ」

一度は牢獄で死んだのだ そのことこそ覚えてはいないが 全てはテナルディエが仕組んだことのせいで

ティナ「違う 俺のおかげじゃない 俺たちをここに呼んだ神がくれたチャンスのおかげで…」
ロザリー「でもあなたがやってくれたんでしょ?」
ティナ「ロザリー…とにかく成人してもいないうちからそんな話はよせ」
ロザリー「じゃあ18になればいいのね?」

その頃には7つも上のかつての夫より良い奴が見つかるだろうと思っていたが 成人する歳になってなお彼女はテナルディエとやり直したいと言い続けた

ティナ「よりによってなんで俺なんだ」
ロザリー「今のあなたは前よりもっと素敵じゃない」
ティナ「どこがだ…」
ロザリー「…牢で死んだのは 私の夢じゃないわよね?」

少し怒るような口調に変わる
その記憶は起こった出来事共に消えたはず
しかしそれでも マリウス・ポンメルシーは思い出した

ロザリー「牢獄の中で死んだ記憶があるけど 実際私はすぐ釈放されたはず あの日関わらせないようにしたのは捕まるのが分かってたから?」
ティナ「だとして…なんだ」
ロザリー「…なんでそんなことができるのか ぜひ教えてもらいたいわね でも無理ならいいわ ねぇ私は本気なのよ あなたの家がお金持ちだから言うんじゃないの あなたが変わったなら私も変わったの テオドール あなたがいかに素晴らしい人かちゃんと知ったわ もう一度一緒にいたいの 私は1人じゃない あなたも1人じゃない だから寂しさから言ってるんじゃないの あなたは私を助けてくれた 今度は私が助けたいの」


今度こそ 一緒に幸せになれるだろうか
こんな自分といてもいいのだろうか
ロザリーは一度も気が変わらなかった 過去のことがあるからと自分を突き放すのは 自分を不幸にしたくないという優しさからだ そんな風に思われてると知っては尚更離れられない


今後のことはたくさん話し合った
贖罪に生きるテナルディエの心を支え 少しずつ彼自身のためにも生きられるような考え方に変えていった
産まれてくる子供が 前世の子供たちかはわからない そうであってもそうでなくとも 彼らがどう行動していくかは決まっていた

それを聞いてトビーたちは安心していた 彼らもまた幸せな道を歩んでいた…


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