短編

デイビーとトビー

21世紀になり 彼らは再びこの世に生を受けた

突然記憶が蘇り 自分が何者だったかを知った
しかし今いる世界においては 彼らの過去は物語として存在していた
つまりはゼロの知る世界と同じであり
Otherworldly Storyの世界は一つにまとまり 互いに互いの世界が物語であったという設定を優先した結果のようだった

本も 舞台も 映画も存在し 自分たちと同じ顔 同じ声の俳優がいて 彼らの人生の一部を演じている


ロンドンで家族と平穏な日々を送っていたデイビー・ダニエル・コリンズは成人する前に記憶を取り戻した
150年ほど前の辛い日々 蘇る罪の意識 そして死の記憶

突然の変化にいち早く気づいたのはリドルフォ・ピレリだった
かつてデイビーを救い 師となった恩人
彼もまた前世の記憶を持っていた

リドルフォ「…実をいうと パトリックにはぼんやりとだが記憶があるらしい だがあまり…辛い記憶を思い出させてもいけないからな 説明はしていない」

デイビーはリドルフォに謝罪した リドルフォもまた デイビーに謝罪した

デイビー「なぜ俺に…」
リドルフォ「あの頃の私はどうかしていた」
デイビー「…互いにだ」

ベンジャミンとルーシーが偶然リドルフォの元を訪れていた
腕に抱かれた娘 ジョアンナは静かに眠っている
顔を合わせると ベンジャミンは彼らの表情から全て悟った
彼もまた前世の記憶があった ただし断片的に
それでもデイビーに何をしたのかは覚えていた その理由も なんとなくだが思い出せる

ルーシー「あなた どうしたの?」

ルーシーも ジョアンナも 何も思い出すこともないままでいてくれるならと願うベンジャミンの思いを彼らは理解していた

3人だけになり それでも何を言い合ったらいいのかわからない 気まずい時間が流れる

ベン「何を…言えばいいのかわからない…ただきっと2人は前のことをちゃんと覚えているんだな」
デイビー「…罪も全て」
リドルフォ「だがその全ての過去は 物語の中の出来事になっている だから全て無し…だ 何も気にするな」

しばらくの沈黙のあと リドルフォが笑顔で2人の肩をバンバン叩いた

リドルフォ「前世の罪は前世までだ 今回はみんなで幸せになれればそれでいいじゃないか 親友と弟子にそんな顔を毎回されては前世君らを止められなかった私の罪悪感がだな…」
デイビー「リドルフォはなにもわるくないじゃないか」
ベン「あの時は全て私の判断でやっていた!」
リドルフォ「じゃあこの話はここで終わりだ」

成人して デイビーはパトリックと店に立っていた


ある時 ちょうど誰もいなくて暇な時に 飛び込んできた少年がいた

デイビー「トビー!?」
トビー「やった!記憶があるんですねピレリさん!」

満面の笑みでデイビーに飛びつき 嬉しそうに跳ねる
前世とは全く違う反応 綺麗な格好でいるので 今世での彼は平穏に暮らしていたように見える

デイビー「なんでここにいるんだお前…」
トビー「探したからですよ 全部思い出したので」
デイビー「探した?私をか?!」
トビー「はい だってリドルフォがいたならいると思ったので あとあなたがデイビー・コリンズなのは知ってるので演じなくても大丈夫ですよ!」

知ってるって何をだろうかと考えているうちに トビーは勝手に店の中を歩き回る

デイビー「お前 今いくつだ 親は!」
トビー「13です 2人とも記憶は無いですよ 今は服屋です」
デイビー「前と年齢が…」
トビー「同じってわけじゃないんですよね…前は21離れていたのに」

以前とデイビーに対する態度が違うため調子が狂う 自分が死んだあと何があったのか知らないが リドルフォから何か聞いていなければ自分がデイビーであることを知ることはできないのだけはわかる

トビー「リドルフォのことはずいぶん前にたまたま見かけたんです ぱっと見ですぐにわかりました ゼロが僕らをまた作ったんですかね」
デイビー「それは俺にもわからないが…」

デイビーが戸惑う理由をトビーはわかっていた
そもそもトビーは前世において彼よりも長く生きていた その分の記憶があるので年齢に対しかなり大人びている

トビー「コリンズさん 僕は大人になったらまた同じ仕事に就こうと思うんです あなたやリドルフォと同じです!」
デイビー「そもそも理髪師になったのか?」
トビー「はい 僕50年近く理髪師やってたので」
デイビー「俺より圧倒的に歴が長い」

トビーの様子を見ていると 前世のことで何か仕返しだとか 文句を言いにきたとか そういうわけではないのはわかる
彼もまた前世は前世と切り離し生きているのかもしれないと デイビーは思った


やがてデイビーとトビーは共にリドルフォの店で働くようになる パトリックが少し寂しそうにしているが デイビーはあくまで修行のためだと説明していた

そして5年後 パリへ小旅行に来ていた2人は そこでギュスターヴと再会することとなる


END
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