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第七章 Otherworldly Story

Otherworldly Story

1月18日

彼らは扉を開いた


【Otherworldly Story】
エピローグ


万物の大時計の下で タイムはゼロを待っていた
今日ようやく集会所へ戻れるので 一緒に行こうとしていた

大時計の文字盤を見て 今の時刻を確認する
約束の時間は間も無くだが まだ来る気配は無い

針や歯車の動く音が聞こえるこの場所は 永遠の城の中で唯一大勢集まる賑やかな場所だった
ミニッツたちが歩き回り チクタク声を出す
大時計を眺めながら待つタイムの周りにどんどん集まり 大時計以上にチクタク騒がしくなる

しばらくするとウィルキンズが慌てて中から現れて すぐに列を作ったミニッツたちを連れて中へ戻っていった

タイムの横の空間がわずかに揺れ 何もない宙から顔を出し ゼロが出てきた

ゼロ「時間ぴったり?」

恐る恐る尋ねる
タイムが返事をする前に 長針が動き 時間を告げる鐘が鳴る

タイム「ぴったりではないが 遅れてはいない」

タイムは振り返り ゼロと共に集会所へ向かう

薄暗い城内の広い空間に低く響くのは 下層から聞こえる機構の動く音だろうか
1人であるくと 少し不気味さがある
青は恐ろしくも優しい この城はタイム自身のような雰囲気だった

一体何回この道を歩いただろうか
大時計から書斎の方を通り 生者の部屋と死者の部屋付近の道を少し下に向かう

集会所へ繋がる扉がある斜塔まで辿り着き 一度立ち止まる

道中タイムと会話はしていなかった
過去 この場所で過ごした日々を思い出していた

冬の日に出会い 互いを知り 時に些細なことで衝突していた
仮の友人は友になり 親友になっていった

振り返る度 戻りたくなる

夢のような時間だった
…ゼロにとっては


思い出の品は 今もあの場所にある
美しい青の薔薇を 机に飾ろうと思った

何度も読み返した本
何度も見返した映画
その度に彼らのことが好きになる

別の世界の物語
交わるはずの無い世界
近くて遠い彼らの時代
異世界

出会いと別れを経験し 悲劇は繰り返されてきた

彼らにあるはずの 過去と未来
全て想造の中

最後にこの部屋の中で 本当の“END”を書き本を閉じるつもりだ

書きたかった彼らの過去と未来の物語
変えられたらと望んだ未来



扉に手をつき ゆっくりと押す
薄暗い城内から真っ白な壁や床のある集会所へと入ると 少し眩しいように感じる
照明類を置いていないので影ができない白の部屋はあの頃と変わらない
長机とその上の花瓶 六脚の椅子と写真立ての置かれたチェスト
正面にある3枚の扉の前には 出会った日と同様に 扉前に立つ人を三方向から囲むようにカーテンが吊るされている

ゼロ「さて…と」

手を握って開く動作を2回行い 開いた手の上にこの物語の本が現れる
最終巻を開き 一番最後のページをめくる

ペンを取り出し 書き始める
たった3文字なので すぐに書き終わる


私の想造はこれでおしまい


…本を閉じる
扉の上の揺れる文字は すでに21世紀を迎えており ゼロにとっては馴染みある年代になっていた

ゼロ「今日は薔薇を飾って帰ろうか」
タイム「そうだな 明日は彼らの荷物の整頓をしに戻ることになる」

ゼロがタイムの庭園から摘んでいた青い薔薇を花瓶に挿す


扉の開く音がしたのは ちょうどその時だった


ゼロは驚き 全ての布を消し去る
レ・ミゼラブルの扉の前に よく知る面々が立っている

なぜ彼らが 同じ扉の前に 今この時代に 全員揃って
驚きと感動で何も言えず 溢れる疑問も解決しない
何がどうなっているのか

ゼロ「な…なんで君ら…」

あの頃と着ている物が違う
全員21世紀の今に合っている格好で立っている

ゼロ「何が何だかわからないよ 4人揃って…」
ティナ「なぁゼロ 扉を繋ぐ力はそのままだが 翻訳は消えてるぞ」

混乱するゼロだったが テナルディエからの言葉を受けてすぐに想造をした
彼らは部屋の中をぐるりと見回し あの頃と変わりがない集会所を懐かしんでいた
全ての扉の時代が統一されていることにも気づいた

ゼロ「い…いっかい…落ち着こう みんな座って!」

ゼロとタイム側にある椅子を一脚反対側に動かし 4人は並んで座る
出会った頃と同じくらいか 若い姿の彼らもこの状況に驚いてはいるようで 少しそわそわした様子だった

ダステ「その様子だと 君がやったわけでは無いんだな」
ゼロ「もちろん…私はただ集会所の時間を統一しただけ」

持っていた本を机の上に置いた
何とか緊張をほぐしたかったが 彼らの顔を見るとより手が震える

ゼロ「みんなとまた会えるなんて…」

彼らは簡潔に なぜ今ここに来たのかを説明した


ゼロはそれを聞いてこの世界に転生という要素が存在することを理解した
彼らは突然記憶が蘇り 自分が以前誰だったのかを思い出した

彼らは同じ姿と名前で同じ家族の元に産まれていた
物語に関わった人物たちは同様に生きているが 記憶があるか無いかは人それぞれだという

記憶が戻った後 様々な再会を繰り返した
そしてある時 ギュスターヴがピレリとトビーに再会した
場所はモンパルナス駅の中で 仕事中のギュスターヴが駅構内のパン屋で買い物をしていた2人を見つけた形だった

互いに記憶があることを理解し合い 久しぶりの再会を大いに喜んだ

繋がっている世界の彼らの再会だが 実は互いにある理由から出来ないかもしれないと考えていた

彼らの物語の本や映画などが存在していたのだという
もちろん自分自身のもそうだが この世界では自分たちが経験した全てはフィクションという扱いになっていた
どれかと言えばゼロの世界に近い場所に生まれたのかと思っていた

物語は存在するが 彼らは再会し かつての世界の記憶がある

そんな世界なら テナルディエはどうなのだろうか
もしかしたらと思い 彼を探してみることになった
時間はほとんどかからず 彼は見つかった

テナルディエという名前で検索をかけると レ・ミゼラブルの他に高級ホテルの経営者の名前が出てくる
高級ホテル 経営者 テナルディエ家
貴族だった父を持ち 宿屋を経営する叔父を持ち 自身も安料理屋兼宿屋をやっていた彼なら…と思いよく調べると 名前が一緒だった

コンタクトの取り方もわからないのでひとまず彼がオーナーのホテルに泊まり 色々調べようとしていると テナルディエが現れた

再会を果たした4人は部屋で昔を懐かしんだ

そしてゼロとタイムは今どうしているのかという話になった
別世界なのだとしたら 壁は繋がるのだろうか そもそもその力は 今でも使えるのか

ものは試しとテナルディエが壁に触れると通り抜けた
見覚えしかない白い道 黒い扉

開けてみると 初めて来た時同様布が吊るされていた
時間が巻き戻ってしまったのかと思っていると布が消える
そこには全く変わらない姿でゼロとタイムがいた
机の上にある花瓶には青い薔薇が挿され チェストの上には写真
時間は巻き戻っていなかった
ここは間違いなく あの後の世界…


ゼロ「そうなんだ…他の人も…」

何が起こったのか整理するため呼び出されたテンプスは 話を聞いて少し考えてみた

テンプス「世界はひとつになったようだな」

テンプスがかつて彼らに説明した この世界の成り立ち
ひとつの世界が2つに分かれ それぞれの世界で2つの物語が進んでいた
やがてその世界は物語が終わるとともに 徐々に同じ世界になっていく

その合流地点は元々2つに分かれる前の世界線へと変化した…というより戻った
つまり全てが物語だったことになり ゼロの世界同様 本も舞台も映画も存在し 彼らを演じた俳優も存在する世界になった

変わったのは世界だけだった
転生が起きた時 魂はその合流した世界の中で誕生した
魂の記憶は分かれた世界のものだが 世界線は全てが物語の世界

それによる問題が起こることはないまま 彼らは誕生できた

テンプス「無かったことにはならなかった 記憶としては存在している…」

テンプスの見解を聞いたゼロは しばらくこの世界を作る際どのような想造したかを思い返す

ゼロ「変わったり戻ったというよりは…もうひとつ別の物語が始まった…かも」

本の表紙に手を置く
詳しい原因はわからない
確かなのは再び彼らと会えたこと

ゼロ「…もし君らがいいなら」

おずおずと告げるゼロの言葉をテナルディエが遮る
ティナ「俺たちはそのつもりで来てるぞ?」
ダステ「君がいいなら またここで」
トビー「デイビーに色々話さないといけないですし!」
デイビー「聞きたいことはたくさんあるぞ…」


ゼロは笑顔で頷いた



もう一度 ここで乾杯を

物語が終わっても
『Otherworldly Story』の世界は終わらない


今でもこの場所で
彼らの集会は続く


END
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