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第七章 Otherworldly Story

ウィッツエンドの昔話

ゼロ「扉の時間を揃えるためにしばらくあの部屋を色々いじろうかなと…全部ヒューゴの時間と同じにして それから全部の世界をひとつに」

この世界は1つから2つに そこから更に4つに別れている
いつか聞いたような説明と共に 集会所に入れないという事を伝えられた

タイム「君がこの世界に来ることはできるのか?」
ゼロ「それはできるよ」

世界は元に戻っていくのだった

ゼロ「全部終わったら 最後のページに終わりって書くよ この世界に区切りをつけて 次に進む」

全ての時間が同じ場所に交わるまで 集会所とはしばらく別れることになった

タイムの書斎にある椅子でくつろぐゼロ
そこへ用事を終えたタイムが戻ってくる
まったり雑談をしたあと少し間が空いて タイムの表情が変わる

タイム「君が知りたがっていたことだが 思い出した」

その一言からゼロは聞く姿勢を変えた

ゼロ「それって…」
タイム「以前の私のことだ」
ゼロ「知りたがってたってのは…まぁ否定はできないか…でも思い出したんだね」

タイムは頷いた

タイム「イラスベスの時計が止まった時に抱いた感情を以前にも感じたことを思い出した 記憶の整理がついて これが以前の私の記憶だと理解できた」

それは愛する人を失う時の悲しみの記憶 その痛みを理解しようと以前のタイムはアンダーランド人になった
タイムはウィルキンズからそう聞かされていた
クロックもそうだと言っていた

だから過去を知った時 タイムは彼らの認識が当時の想像でしかないのだったとわかった

彼の選択が正しかったかはわからない
結果うまく行っただけの話

前置きを述べていたが ゼロが早く内容を聞きたそうにしていたので タイムは初めの出来事から順に話し出した

…昔 タルジーの森の中に 長い間打ち捨てられていたように見える古い柱時計が1台あった
しかしよく見ると 振り子が揺れている
わざわざその時計を巻くような変わり者がいるのか それとも他の理由があるのか
奇妙な時計に近づいて 扉に触れる
ゆっくりと開くと 時計内部に向かって誘い込むような風が吹く
一瞬引き摺り込まれるかと思い焦るが 数秒で風の流れは止まる
中を覗くと 奥の方に青い光がぼんやりと見える そこまで距離があるようにも見えない
光を目指してみるのか悩み しばらく時計の中を覗いたままでいた

すると光の奥から黒い人影が現れ ゆっくりとだがこちらへ向かっている
慌てて扉を閉めて 駆け足でその場を去る

その数分後 閉じられた扉が少し開き 数秒待ってから黒い手袋をした手が扉を押し開けた
高い帽子をかぶっているので頭を下げて 慎重に抜け出る
肩飾りが引っかかりかけながらも抜け出た彼は すぐに扉を閉め 森の奥へと歩いていった

タイムはこうして時々 アンダーランドへと来ていた
同じことの繰り返しで変わり映えのない日々 機械に囲まれ 真面目すぎるクロックに細かいことで文句を言われ…時間も心を持つ ついに耐えかねて城を飛び出す
そんなに遠くへは行けないが 気持ちをリセットできればいい

季節によって移り変わる景色は タイムにとって何度も見ても感動を覚える
色鮮やかで美しい新緑は優しく吹く風によって心地よい音がした
耳を傾けると 音楽と呼ばれるもののようで アンダーランド人の奏でる音楽は過去の旅で数回耳にした程度だが まさか葉音が女性の歌声に聞こえてくるとは 花々の歌声より心地よい

よくよく聞いてみると 本当に女性の声のようで 歩き続けているとだんだん声が近くなってきた
勘違いをしてしまったと思いながら声のする方へ向かってみる
タイムが時計の置き場所に選んだのは タルジーの森の中でも普段人のいないような奥深い場所だったので そんな場所で歌うのは誰かと興味を持った

木の影に隠れ 小川の向こうで歌う女性を覗き見る
せっかくの歌を中断させたくはないので 気づかれないようにゆっくり顔を出す

白いドレスのスカートを軽くつまんで 編み込んだ黒髪を揺らしながら軽やかに踊る少女の姿
歌はいつの間にか鼻歌に変わっていた

歌声の主の姿は見られたので 本来の目的を果たすため街へ向かおうと歩き出した

その時 少女の悲鳴が聞こえる
驚いて振り向き 先ほどの場所へ戻ると 馬に乗った兵士が彼女の前にいた
兵士に捕まれた腕をなんとか振り解き 走って森の中へ逃げ出した少女

事情を予想している暇はない
すぐに飛び出したタイムは水の流れを止めて小川を越え 兵士の乗る馬の時間を止めた
前のめりになった兵士は馬の頭部に体をぶつけ 何が起こったのかわからず かかとで蹴っても手綱を引いてみてもどうにもならず よくよくその姿を見てみると 走る姿勢のまま固まってしまったようだった
走って追いかけるしかないと馬から降りようとしたその瞬間 馬は駆け出し 降りる体勢になっていた兵士は簡単に振り落とされた

タイムはそこより前方で 助けた少女と共に木の影に隠れ 馬具をつけたまま誰も乗せずに走り去る馬を一頭見送り 別の方角へと歩き出した

タイム「走っている馬から落ちたんだ あの兵士はただでは済まんだろう しばらく追ってはこれまい」
「ありがとうございます…あなたが来てくださらなければ 私は攫われるところでした…」

少女は安堵し タイムにお礼をしなければと家へ案内した
彼女の住む町はタイムが行こうとしていたウィッツエンドだった
小さな町なので 大体何がどこにあるかは知っていた 彼女の家は目的地近くだろうかと思い 家の場所を尋ねた

少女が指差したのは 町の中心地にあるウィッツエンド城だった
タイムの反応を見て 自分がまだ名乗っていないことに気づいた少女

「私ウィッツエンド王国王女ローズといいます」
タイム「王家の者か!ちょうど良い 私は君たちに会うためここへ来る予定だったんだ」

かつてヴォーパルの剣をタイムから授かり 勇敢にジャバウォッキーに立ち向かった騎士がいた
彼は白い鎧に身を包んでいたため白の騎士と呼ばれた
やがて彼が中心となり村ができた後 町となり 今では小さな国になっていた
王家は彼の子孫だった
代々ヴォーパルの剣を受け継ぎ 再びジャバウォッキーが蘇る時には 白の騎士がその剣を手に戦う

タイムは預言の書完成以降 誰にそれを渡すかを考えていた
これは希望を与えるものであり 未来に起こる絶望を知り諦めさせるためのものではない
正しい使い方ができるのは誰か

選んだのは騎士の子孫だった

タイムが王と王妃に会っている一方で 彼の城では万物の大時計の化身クロックが 慌ただしく何かを探していた

クロック「預言の書は!?」
ウィル「ご主人様が持っていきましたよ」
クロック「どこに!」
ウィル「ウィッツエンドです」

タイムにとって希望を見せる預言の書は クロックにとっては絶望を振り撒くものだった
視点の違う2人の意見は割れ 王家に渡すことも危険だと否定していたクロックは 預言の書をより守りが堅固な部屋に保管しようと考えていた
ただいざ書を取りに行くとあるべき場所に無い

ウィルキンズはそんな2人の対立は知っていたが てっきり解決しているからタイムは持ち出したのだと思っていた

タイムが外にいるなら クロックは城を離れるわけにはいかない

クロック「…それ通りに動くことが全てのはずがないというのに」


この日 タイムはウィッツエンド王家に預言の書を授けた
彼らはタイムの存在を知り ヴォーパルの剣がどのように作られたのかを知った

タイムはアンダーランドへ行くための時計を2台持っていた
そのうち1台を王家に渡した タイムも王家も交流を望んだ
ウィッツエンドにはやがてピエール・ドローも生まれる 彼との再会の約束もある
この国に訪れる理由は多かった

特にローズとは会う回数が多かった
王女としての気品ある彼女はその名の通り薔薇のような美しさと愛国心に溢れる良き王族だった
彼女には王位継承者である聡明な兄と白の騎士である弟がいた
歳の近い兄弟である彼らはとても仲が良く 彼女はよく彼らの話をタイムにした
家族も国民も愛するローズにたくさんの話を聞き 気づけば王家や家臣 ウィッツエンドについてもかなり詳しくなっていた

タイムはアンダーランドの様々な時代を渡り歩き ウィッツエンド王家周りのことを中心にアンダーランドにとって重要な出来事や その中心人物についてを書き記した

全て覚えているわけではない
そう遠く無い未来の出来事で強く覚えていることといえば赤と白の女王の時代だろうか
その時代の自分を見つけた
会ってはいけないとわかっていたが 雪のウィッツエンドを歩く彼を見て違和感を覚えた
何も見なかったことにした
自分が何のために預言の書を書いているのかを忘れてはいけない


ローズ「タイム?」

彼女と会い 庭園を見せてもらっていた時 薔薇の花を見てふと未来で見た景色を思い出して つい余計なことを考えすぎた
彼女に謝り 話の続きをした
彼は自身の城に庭園を作ろうとしていた

彼はローズに影響を受けていた
逆にローズはタイムに影響されていた
互いの趣味を自分も楽しみ 共通の話題になっていた

彼らは良き友人だった


時が経ち ある時彼らの父である王が突然倒れ 命に別状はなかったが 体が弱り 限界を感じた彼は息子に王位を譲ることとした

ついに王位継承の儀式が行われることとなった日 タイムは新たな王に預言の書を授ける役を引き受けていた
元は前王が行なっていく予定であった役割なのだが 本来タイムから与えられたものだから是非…ということだった

王と王妃 王子と彼の妻 ローズ王女が朝から儀式を始めていた
彼らの弟は昼から行われる式典のために剣を隠し場所から回収しに行っていた
その剣を新たな王が白の騎士に与える これにより全ての継承は完了する

式典が行われようとした時 駆け込んできた兵士が叫んだ

「ジャバウォッキーが現れました!!」

広がる動揺
人々はすぐに逃げ出そうと出入り口の扉に向かって走り出した
悲鳴と怒声が混じり混乱する城内
しかし報告した兵士が叫び声を上げて倒れると 状況を理解した者から口を閉じた
城内に飛び込む矢に当たり 数人が倒れる

そして外から入ってきたのはウィッツエンド兵士とは違う鎧を着た男たち
また放たれた矢のうち ひとつがまっすぐタイムに向かって行く ローズは彼の前に立って守り 矢は彼女に刺さる

男たちは剣を持ち 今度は逆方向へ逃げ出す人々を切りつける
王と王妃 王子は護衛の兵が連れて背後の扉から先に避難していた
倒れたローズをタイムが抱きかかえる

タイム「なぜ庇った…!」
ローズ「咄嗟に体が…動いて…あなたは大切な…」

当たりどころがよくなかった 矢を上手く取り除く方法を持ってはいない どうしようもないなら せめて1人にはできない


「貴様らは何者か!」

式典の護衛についていた兵士が問う

「剣と書の真の継承者だ!」

彼らのつけている鎧は王国兵士ほど立派なものではない 古い物も多く全員バラバラだった
おそらくは盗品を身につけている 他国の兵士ではない
そんな連中がなぜ継承者…つまりはウィッツエンド王家と名乗るのか

外の護衛の兵はやられたのだろう
元々王家の護衛の騎士と兵がわずかにいるばかりの国で そのわずかな人員の半数は剣を取りに向かった騎士と共にいる

…ほんの少し時間が経つと広間に残っているのは兵士2名と数名やられてあと5人の男たち そしてローズとタイムになった

城の外ではジャバウォッキー襲来の知らせを受けた人々が慌てて避難していたり 城内で何があったのかを知り残る兵士も次々現れ

そして今 タルジーの森から全速力で馬を走らせ戻る騎士たちは ウィッツエンドに向かって飛ぶジャバウォッキーの後ろにいた


タイムの城では 突然数回鳴った弔いの鐘を聞き また争い事かと タイムに代わりクロックが向かっていた
式典の参加は了承し タイムが戻るまでの間だけクロックはタイムでもあるという約束をしていた
なので彼は生者の部屋に入り どの時計の音が聞こえないかを確認し 鎖から取り外し 時間の終わりを告げ 蓋を閉じる
人々が争うと 死者の部屋との往復がとにかく大変になる
これは役目で 弔いで 必要なことで 本来の寿命より長引くのは アンダーランドの民にとって不幸でしかない
それは苦しみの延長になる

ただどうしても 知っている名前を見ると手が止まる
タイムもクロックも心がある
そうあるべきではないと分かっていながら 特別扱いしてしまう
別れの時間を取ってしまう もしくは驚きから少しだけ蓋を閉じるのをためらってしまう
だからクロックはアンダーランド人と関わるのを避けていた

しかしタイムが王家と関わったことで クロックもなんとなく彼らを知っていた

数人の弔いを行なっており 作業的になってはいけないと一度立ち止まり 一呼吸おいてから目を閉じ ゆっくりと目を開ける

クロック「ウィッツエンドのローズ…」

ゆっくりと時計が降りてくる
鎖から外し 針の動かない時計を見つめる

タイムと親しい人物の死が目の前にある
寂しさより先に強烈な不安が押し寄せた
彼女の死は悲しいものだが 何が起こったのかわからない
病気だという話は聞いていなかった 今日は式典だ 兵の護衛を受けて城の中で家族やタイムといるはずだ
もちろん突然の死があり得ないと言いたいわけではない
ただ争い事か災害かすでに同じ時間に何人も亡くなっている中に 今まさにタイムが側にいるはずの人物の死が訪れたことには嫌な予感しかしない

今自分は生きている 時間も時計も問題ない
タイムの無事は明らかだが それは今まだ というだけの可能性がある

だがクロックは動けない 弔いの鐘はまだ鳴っている

手の中にある時計が消えたことに気づいたクロックは まさか落としたのかと慌てて下を見る
足元に時計はない 思えば地面に落ちた音はしていない

となれば タイムしかいない


ウィッツエンドの城内では 襲撃者が自分がなぜ継承者なのか叫んでいた 他の仲間はさっさと王たちも殺しに行きたかったようだが ボスに逆らえないのか 全員剣を構えたまま話が終わるのを待っていた

つまりは今よりはるか前の時代に 本来の子孫だった彼の先祖
そこへ突然現れた現王家その時は国というほどのものすらなかったウィッツエンドという地域を見事に占領し剣を手に入れる
さらに民を巧みに騙し 本来の英雄の子孫が彼らであることになってしまった

襲撃者はそれを聞き行動に出た
全てを取り戻すため 今のウィッツエンドを滅ぼし 本当のウィッツエンドを再興する

「……誰がそんなことを言ったんだ」
「ジャバウォッキーだ!!」

ジャバウォッキーは彼の味方であった
その真実を教えてくれたジャバウォッキーを自由にし 協力者となり 兵士の半数が剣の護衛につく式典の日を狙った

ジャバウォッキーの力 オラキュラム 剣…報酬と脅しを受け ごろつきが集まり襲撃をした

タイムは今すぐにでも叫び 伝えたかった
それはジャバウォッキーが人間の助力を得るためについた嘘だと

しかし今は…

ローズ「…みんなを助けて…タイム」
タイム「あぁ…」

ローズの目がゆっくりと閉じると タイムは時計の蓋を閉めた

ジャバウォッキーがウィッツエンドの町へ着いたのがわかる大きな音が響く
叫び声と建物が破壊される音

タイムは立ち上がる
兵士が剣を振ると 襲撃者は意図も容易く切られる
襲撃者が剣を振り上げると 動きが止まり その隙にまた兵士が攻撃する

堂々と子孫を宣言した男は違和感を抱き 後ろに立つタイムの魔法ではないかと驚き 彼に向かって死んだ仲間の件を投げる
だが機械の体を持つタイムは 剣で切れることを恐れないので 容易く手で払う

男の前に突然現れる懐中時計
蓋の名前をよく見ると 自分の名前が書かれている
時計の針は動いていない
邪魔だと時計を掴もうとするが 実体がそこにあるわけではなかったため 手はすり抜ける

その時計は今 クロックが手に持っていた
タイムは聞こえてくる音からなんとなくだがその理由がわかった気がした

兵士たちが後ろへ走り出し 1人まだ生き残っていたその男は何が起こったのかと思いながらも玉座の方へ歩き始める

戴冠式で被るはずだった王冠が台座に残されている
広間に残るのはタイムただ1人 武器は持っていない

「お前の後は 偽の王だ」
タイム「…時間切れだ」
「観念したなら おとなしく…」

ジャバウォッキーの低く恐ろしい叫び声が聞こえると同時に 広間の天井が崩れ落ちる
男はなすすべなく瓦礫の下敷きになり その瓦礫の上にジャバウォッキーが降り立った

タイムはローズを守るように覆い被さったが ジャバウォッキーが腕を振り 2人は瓦礫こそ避けられたが

ジャバ「時間の化身…」
タイム「ジャバウォッキー」
ジャバ「我を止めにきたか」
タイム「お前を止められるのは剣だけだろう」

ジャバウォッキーは飛び立つ
タイムを殺すというのはどういうことか もちろん理解している



剣は今どこにあるのだろうか
そう思った時 声が聞こえた
「タイム!」
ローズの弟の声だった
姿はない 声だけがそばで聞こえる
気づいて目を閉じた

タルジーの森 立ち上る煙が見えるので もうすぐそこまで来ているのがわかる
彼に渡していた時の水が使われている

彼の方へ強く意識を移す
揺れる水は人型になり 彼の様子がよく見えるようになる

彼はただ1人 剣を持ち力尽きようとしていた

ここまで来る途中 兵士と白の騎士に追われていると気づいたジャバウォッキーが方角を変え隊に向かって突っ込んでいった
騎士はジャバウォッキーの鋭い爪に切り裂かれ 他の兵士は噛み砕かれ 隊は全滅し ジャバウォッキーはまた町へ向かって飛び立った

即死ではなかった騎士は だんだんと力の抜けていく体を引きずりながらもなんとか町のそばまでは来たが もう一歩も動けなくなり 時の水を使いタイムに助けを求めた

剣を取りに来て欲しい 王である兄もまた訓練を受けているので剣を振るう力がある

その兄で 王である彼は 両親や民を逃し ある程度してから 混乱するウィッツエンドの町へ戻ってきていた
騎士は 弟はジャバウォッキーを倒しただろうか タイムと妹はどこにいるのか 逃げ遅れている人はいるのか 確かめるために来ると 城が崩れている

急いで城内へ戻ろうとするが ジャバウォッキーに見つかってしまう

王の危機 剣の場所 取りに行ってこちらへ戻るのでは間に合わない

王の手元にヴォーパルの剣があれば 彼ならジャバウォッキーを倒せるだろう
往復するのでは間に合わない 彼に場所を伝えるのも難しい
だが騎士は一歩もう動けない 間も無く死ぬだろう
本当ならば騎士と王とで同時に同じ場所へ向かい 剣を受け渡しその場で倒すべきだ

騎士は言う どんな手を使っても…この身を捧げてもいい ウィッツエンドを救うために 力を貸して欲しいと

タイムは思いついた
彼は 時間の化身が機械の体に宿っている

それは機械である必要性はない

タイム「タルジーの森へ繋がるメインストリートを行け!!」

森の中へ身を隠せ という意味にとった王は一瞬拒否しそうになったが 表情からタイムに何か作戦があるかもしれないと思い すぐにその方へ走り出した

タイムはローズの側に座った

タイム「白の騎士 その剣をお前の兄に届けるために その身を私にくれるだろうか」
「構わない…どのみち私はもう…」

タイムの目から青い光が消える
その瞬間 時間が狂う 日が落ち夜になり夜が朝になり 逆に時間が戻り 元の昼に戻った
それはタイムにとってもクロックにとっても 死ぬかもしれないと思うような強い苦しみを伴ったが すぐに収まった

タルジーの森の中で 血を流し動かなくなった騎士の指がわずかに動き 力強く地面に手をつき 立ち上がり 剣を手に取り ふらふらと走り出し だんだんと目覚めるように力強くなり タルジーの森の入り口にまで辿り着く
その先には王の姿があり 騎士は構え 王に届けと剣を投げた

剣は弧を描いて飛び 王の側に上手く刺さり 王は剣を取った
視線の先に白の騎士の姿を見て ここまで届けた彼に感謝し ジャバウォッキーから逃げるのをやめて 勇敢に剣を構える

死闘の結果は王の勝利だった
ジャバウォッキーの首は落ち 弔いの鐘と祝福の鐘が同時に鳴った

振り返り 先ほど騎士のいた場所へ走っていったが そこには血の跡が残るだけで 弟の姿は無かった


時間の城では 突如として起こった出来事に強い不安を抱いたクロックが すぐさまタイムを探しに行こうとしていた

そんな時 クロックやウィルキンズはタイムの声を聞いた

彼は森の中で ふらふらと歩いていた
血はすでに止まっている…というより傷が癒えていた
彼は騎士の時計を手に持っていた
本来名前が書いてある蓋には何も書いていなかった

タイムはクロックに詳しく説明している暇がなかった
騎士の時計…すでにタイムの物に変わってしまった時計は 針が逆方向に回り続けている
傷を癒さなければとても走れなかった そのために本来行うことはできないと思っていた時間の逆行を試した
結果それは可能だった だが逆行を止めることができなかった 時間を止めるには大時計の心臓部が必要だった

彼は傷を治すどころか どんどん若返っていた
やがては記憶を残すことができないほどになり 思い出すことができるのかもわからない

記憶を失い どこに行くかもわからない自分をクロックが見つけるのにどれだけ時間がかかるだろうか タイムは自らの時計の針が正常な方向へと動き始めた時 その進みが極端に遅くなるように細工した

クロックに伝えたのは 千年代わりを務めて欲しいということ
そして大時計の心臓部を回収させるために 城に元の体があることを伝える
その頃には身体は幼い子供の状態にまで戻ろうとしていた だんだんと意識が薄れていく

この時計を元の場所へ戻せば 針の動きが遅いことに気づくはず
そうすればいつかきっと この体を探してくれる

それはもう自分ではないかもしれないが いつか思い出せたなら きちんと説明をしたい

アンダーランド全体と 目の前の国
それを天秤にかけた時 目の前の国を 王を救う選択をした
だから今 彼の身体でいる

千年経てば 元の時間に戻れば
もしかしたら記憶も蘇るかもしれない

あぁ こんな形で 人間の体を持ちたくはなかった
願っていた 彼らと同じ有限の存在に こんな理由でなりたくはなかった

タイム「…私に…名前を」

タイムは初めて自分だけの名前を 自分の命の時計につけた

タイム「…ライカス」

弔いの鐘が鳴り 祝福の鐘が鳴った
生者の部屋へクロックが飛び込むと そこにはライカスと刻まれた時計があった


森の中でタイムは眠り
次に目を開けた時には 彼は何も覚えてはいなかった




そう 気づけば 千年経っていた
だからなのか たまたまなのかはわからない

今なら森の中で歌う彼女が誰かわかる
以前のタイムは 彼女に想いを寄せていた
ほとんど忘れてなお あの歌だけは覚えていた
彼女と彼が過ごしたほとんどの出来事は今も思い出せない

彼の感情は理解できた
時計を閉じる時 時間でありながらただ1人を特別扱いすることの愚かさを感じながら それでも愛することを止めることはできなかった

彼はアンダーランドをジャバウォッキーから救った 仲の良かった王族を助けたいという思いからの行動で 結果守るべき世界を救った

クロックが納得するかはわからない
もっと他に方法があったと言われたら 否定はできない
当時の彼の思い全てを理解できたわけではない
わずかな間の記憶だけが 今になって…


ローズ「あなたのその名前は 自分でつけたの?」
タイム「いや アンダーランド人たちだ 誰が言い始めたかは知らないな」
ローズ「…時間だからタイムと名乗っているの?」
タイム「それ以外にどう言えば…」
ローズ「私たちはみんな人間だけど 人間とは名乗らないわ 人間というと…誰なのかわからないわ」

そう言って ローズは自分だけの名前を持っていてもいいのではないかと続けた
彼がタイムではあることは 名乗ることで決定するわけではない
いろんな呼び方をされても 時間は時間だ
なら時間自身が 自分をタイム以外で呼んでも 伝わるはずだ

タイム「…なぜ名前にこだわるんだ?」
ローズ「あなたの名前は…あなた自身を指す言葉は あなたという人に会っていなくても みんな口にするから…」
タイム「つまり?」
ローズ「…みんなの呼ぶような名前ではなく 特別な あなただけの名前で あなたのことだと絶対にわかるように 言葉にしたいことがあるの」

それはなんなのだろうかと首を傾げる

ローズ「……タイム様 この名前は確かにあなた自身のことで 目の前にして口にすれば あなた自身だとわかるけれど…」

ほんの少しだけ言い淀んでから 恥ずかしそうに呟いた

ローズ「私とあなたの間に通じる 愛称に…」

照れながら言われると なぜかこちらまで照れ臭くなるが

タイム「そうだな 何か違う名前を考えておこう」

そう言って 彼女に微笑んだ


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