第七章 Otherworldly Story
終わりを記す日
集会所のチェストの中に入れて保管していた手紙を持ってきていた
いつかの日の自分からの質問が書かれた手紙は当時の不安を思い出す
「じいちゃん こっちの部屋にいたのか…」
トビー「どうした?」
「姿が見えなくて探してたんだよ 急にどっか行くんだから…」
それは隙を見て集会所に行っていたからなのだが 特に理由を説明せず謝って誤魔化した
リドルフォがいてくれたから今の幸せがある
ゼロが良い未来を思ってくれた
タイムもテンプスもいろんな話を聞いてくれた
テナルディエのために集会所で髭を剃ったこともあった やり直した時も同じように
ギュスターヴが今日来る
戦いもテナルディエのこともタイムのことも…知らない頃の彼
本当にもう一度会える 約束を果たせる
思い出が蘇る
テナルディエの宿屋で食事して あの後ここでもみんなで集まった
タイムの城を駆け回って戦って守り抜いて
庭園で青い薔薇を見た いや最初に見たのはタイムが咲かせた薔薇だった
マキシミリアン可愛かったな
ウィルキンズたちとももう一度…
下の階に降りる
ちょうど店に繋がる扉が開く
あの日のほんの少し好奇心が僕を救った
運命だったのかもしれない
一番記憶に残る頃の姿のまま立つギュスターヴを見ていると心が少年の頃に戻る
話せないことの方が多い
それでも会うことが何よりの意味を持っていた
出会いから56年
永遠を生きる彼女でも その年月の長さはよくわかっていた
ゼロ「お別れか…集会も最後だね」
トビー「今日までずっとありがとうございました 皆さんに会えて本当によかったです」
かつてのトビーは未来の自分に聞きたかった
みんなは自分と別れるのを寂しいと思ってくれるのか
ゼロ「寂しくなるな…君は一番長く一緒にいたから…」
みんなと別れるのは寂しいのか
トビー「僕も同じ思いですよ」
寂しいと思えるような仲で居続けられるのか なんて…気にしなくてもよかった
もう一度会えるその日まで別れ 残りの時間は家族のために……
トビー「…それでは また」
ゼロ「またね」
タイム「またいつか…」
テンプス「またいつでも来るんだぞ」
友人たちに見送られ 扉は閉じる
これで永遠を生きる彼らだけになった
開かれる扉は今後ひとつだけになる ゼロもテンプスも本来扉は開かなくてもここへ来られる
いや もうここに来る必要もないのだろう
彼の城に集まればいい この場所はもう役割を終えた
それから数年は誰もこの部屋に立ち入らなかった
人の来ない部屋は扉の上の時間だけが揺れ動くばかりで 扉は開かなかった
ある時 久しぶりに集会所を訪れたゼロは静かに椅子に座り 机の上に本とペンを置いた
紙の上を走るペンの音 インクの尽きないペンは彼女の中にある言葉を記す
これは偽物の物語
本来の物語から外れた 再現された空想の世界
それでも彼女は書き記し 寂しそうに終わりを打ち区切りをつける
本当に終わる時にはなんと書こうか 決めていなかった
話は続くのに 終わりと書き続けていることに気づく
ENDか?FINか?どちらでも同じだろうが 時に意味のないこだわりを持つ
復讐劇に巻き込まれ 命を奪われた理髪師に 同じような復讐心と憧れと憎しみを加えた悲劇
あの子は救われた 死なずにすんだ あの悲惨な結末ではなく 幸せになって欲しかった 望まずにはいられず 文字を書き 望む
手を強く握る
戦争の傷が今なお癒えず コンプレックスを抱えた公安官に 存在していたかもしれない友人や恩人
二度の戦争の時代を生き それでも今 目の前の幸せを愛し 前を向いて生きる
もう大丈夫だと 思いたい あの後の彼らのことを考えるたび 少し悲しくなっていたのだから 幸せでいてほしい
手を開く
生きるためならば 楽になるためならば
正しいことだけで生きていけるわけではない世界で 足掻いた宿屋 知らない過去 堕ちる彼を 見捨てられなかった
最悪な道を進ませるよりも この世界でなら 助けられるかもしれない人 指輪を擦り
手を握る
他者の願いで死ぬかもしれない思いをして 愛を利用され 優しさを利用され 命をかけて守らなければ 全てを失うかもしれない君が それでも最後には許す心を持つ君が
なぜだろう なんだったのだろうかと考えたままの世界で 不要なはずの それでも 考えたそれを
美しい命の輝き 役割 知らない自分の罪
手を開く
広がる世界 繋がる世界 白い小さな部屋の中でかわす会話 紅茶を一口飲み 帽子を取り 箱を開き シャッターを下ろし グラスを掲げ 鳴らし 誓い合い
聞こえる声が 見える景色が どこを切り取っても忘れ難い宝物になる
扉の開く音に喜んだ日 全てを察し落胆した日
年が明けるたび 花を飾るたび この場所があることが嬉しくて 彼らと別れ帰るたび 自己嫌悪し
それでもここが好きだった
こんな場所を望んでいた
胸を張って 作ってよかったと言えるか?
多くの悲劇を生んだ 逆の場合もあった
何度も見た物語の その前に何があったのか その後どうなったのか
インクを垂らすたび 自己満足なのだと理解しながらこの世界に飛び込む
あるひとりの想像
黒い世界 青い文字
最初の居場所や出会いはもう見れなくても 書き始めた時の楽しさは忘れていない
一度ペンを置く 立ち上がり チェストの上の写真を見る
あの日の会話が今でも聞こえてくる気がする
もう会うことはないのだろう
不安になり 目を閉じる
タイムがいる ウィルキンズたちもいる
世界の修復をしないといけない 前ほど頻繁には来られない これから他の世界のキャラクターたちにも会う 他の想造者にも出会う機会が増える
休んでばかりもいられない
最後の行を書かなければ
また机に向かい 座ってペンを手に取る
ENDかFINか どちらでも意味は同じ
これで最後だと思って書くだけの違い
扉の開く音が聞こえ 久しぶりのことだったので懐かしさの中振り向く
ゼロ「…久しぶり!」
タイム「久しぶりだな」
ゼロ「どうしたの?集まりはないのに…」
タイム「今日はなんとなく…お前がいる気がしてな」
ゼロ「ご…ごめん無意識に呼んだ可能性もある…」
椅子を引いて座る ゼロが本を広げているのを見て 何を書いているのか覗き込む
ENDのEを書き始めたタイミングだったので この物語をもう終わらせようとしているのを見られたくないゼロは 急いで本を閉じた
タイム「私に関する内容だったのか?」
ゼロ「君のことでもある…物語全体のこと」
タイム「あぁ最後のページを書いていたのか?」
彼女からの返事はない 肯定している
タイムが怒っているのだと思い慌てて本を開き まだ最後のENDではないのだと説明しようとする
タイム「物語が終わっても 続いていくんだろう?明日がなくなるわけではない 私はそこまで気にしてないぞ」
ゼロ「そうならいいけど…たまにこれで揉めたり……いや!気にしすぎかもね」
本を再び開き ENDと書き話を締める
まだ本当の最後ではないが この話に区切りをつけた
ゼロ「本当のエピローグは次にするよ ちゃんと…この場所で」
閉じられた本は手の中から消えどこかへ片付けられる
次に手を握って開くと 机の上にチェスセットが現れる
ゼロ「1回やろう!」
タイム「あぁいいぞ」
集会所の様子を自分の城で見ていたテンプスは 空中で映していた円形の映像を消し 別の映像を確認し始めた後 ため息をついた
テンプス「これは必要なこと…」
言い聞かせるように呟いた後 手を動かし また別の映像を自分の前に引き寄せ確認する…というのを繰り返した
しばらくすると 背後にある扉が開きゼロが中へ入ってくる
物語世界に何か変化はないか 異常はないか 目で見て確認できるこの部屋の中に彼女が足運ぶことは少ない
修復すべき世界の多さを恐れている
テンプス「まだ最後のページにしないつもりですか」
彼女の方を向くこともなく 話しかける
先程タイムと会話していた彼女とは雰囲気が違っていた
その手にはOWSの本を持っていた
ゼロ「エピローグは準備する もう少しあそこへ行く頻度も減らして やるべきことをやるよ」
テンプス「…そうですか」
テンプスが映像の確認のために動かしていた両手を下ろすと 全ての映像は目を閉じるように消え 部屋の中は各世界からの光が無くなった分少し暗くなる
急に無音になり テンプスが振り返った時のマントや靴の音が鮮明に聞こえる
テンプス「以前の主はチェスはしたことが無かった」
ゼロ「チェスが趣味のキャラと仲良く無かったのかな」
テンプス「…私もタイムに習おうかと…あなたを楽しませられるのなら」
ゼロが腕を上げると 部屋の明かりが少し強くなる テンプスは軽く会釈をしてからゼロの横を通り扉を開けて部屋を出る
ゼロ「テンプス…仲間に入りたかったのかな…」
そのままゼロは部屋の奥へ向かった
…数日後
ゼロ「タイムってさマッドハッターたちとあれからも会ってたんでしょ?」
タイム「そんなに頻繁にではないが…たまに外に連れ出されてたな」
タイム自身があまりその頃の話を集会でしないので聞く機会がないままだったが ミラーナの友人はタイムの友人になり
ウィッツエンドは再建され 今のアンダーランドは平和なまま続いていた
彼らはもういない
全てのアンダーランド人はみな同じ部屋にいて 同じ部屋へ移される
今あそこでみんな眠っている
タイム「ジャバウォッキーが蘇るたび なんとなくだが無くなった以前の記憶の断片のようなものが見えることがあった」
あの部屋でジャバウォッキーの死と誕生を見たことを思い出したのか タイムはゼロの知らない話を語り出した
タイム「だんだんと私が何をしたのか思い出してきた」
ゼロ「何があったのかわかったってこと?」
タイム「あぁ ウィルキンズやクロックも知らないことも含めてな」
それは聞いていいのだろうか
ウィルキンズから聞く限りでは タイムはある王家の子の体を奪っている
1人の王女の死に悲しむあまり…間違った選択をしたと…
ゼロ「聞いていたものとは違ったのかな」
タイム「間違ったことは言っていなかった ただその理由を知らなかっただけだ」
少し迷ったあと 彼女は思っていたとことを正直に聞いた
ゼロ「私が聞いていいの?」
タイム「退屈しのぎになるかもしれない…そんな程度の話だ」
ゼロ「なら…あっ」
タイムの方を向いたまま目を見開き 言葉を発した口はそのままぽかんと開いている
その目はタイムを見ていない 他の何かを見ている
ゼロ「誰かが…呼んでる」
変化した右目は緑色になり 中で光が揺れている
何か不思議なものに呼ばれているのか 2人の音以外は聞こえてこない部屋の中で声のする方を探しようにきょろきょろ見渡す
ゼロ「大勢の…」
ゼロの周りに光が生まれ 彼女の仕業ではないらしく驚いた表情を浮かべたまま 光にのまれて消えた
タイム「…話はまた今度だな」
彼女の消えた場所を少し眺め ため息をついて立ち上がる
城へ戻ろうと扉を開くと誰かがローブを引っ張る
タイム「なんだ!」
テンプス「ここにいたはずだ!」
タイム「あいつなら誰かに呼ばれてどこかへ行ったぞ 光だった」
テンプス「光!?最近修復した世界が原因か…!?」
タイム「私に聞かれてもわからん 他のところを探せ」
今でも声の聞こえるこの部屋は それでも寂しさは残り続ける
彼らは今でも扉の先にいるような気がしてしまう
いつかまたあの扉が開くなら
終わりを記す日はもっと先でいいはずだ
タイムはそっと扉を閉めた
END
集会所のチェストの中に入れて保管していた手紙を持ってきていた
いつかの日の自分からの質問が書かれた手紙は当時の不安を思い出す
「じいちゃん こっちの部屋にいたのか…」
トビー「どうした?」
「姿が見えなくて探してたんだよ 急にどっか行くんだから…」
それは隙を見て集会所に行っていたからなのだが 特に理由を説明せず謝って誤魔化した
リドルフォがいてくれたから今の幸せがある
ゼロが良い未来を思ってくれた
タイムもテンプスもいろんな話を聞いてくれた
テナルディエのために集会所で髭を剃ったこともあった やり直した時も同じように
ギュスターヴが今日来る
戦いもテナルディエのこともタイムのことも…知らない頃の彼
本当にもう一度会える 約束を果たせる
思い出が蘇る
テナルディエの宿屋で食事して あの後ここでもみんなで集まった
タイムの城を駆け回って戦って守り抜いて
庭園で青い薔薇を見た いや最初に見たのはタイムが咲かせた薔薇だった
マキシミリアン可愛かったな
ウィルキンズたちとももう一度…
下の階に降りる
ちょうど店に繋がる扉が開く
あの日のほんの少し好奇心が僕を救った
運命だったのかもしれない
一番記憶に残る頃の姿のまま立つギュスターヴを見ていると心が少年の頃に戻る
話せないことの方が多い
それでも会うことが何よりの意味を持っていた
出会いから56年
永遠を生きる彼女でも その年月の長さはよくわかっていた
ゼロ「お別れか…集会も最後だね」
トビー「今日までずっとありがとうございました 皆さんに会えて本当によかったです」
かつてのトビーは未来の自分に聞きたかった
みんなは自分と別れるのを寂しいと思ってくれるのか
ゼロ「寂しくなるな…君は一番長く一緒にいたから…」
みんなと別れるのは寂しいのか
トビー「僕も同じ思いですよ」
寂しいと思えるような仲で居続けられるのか なんて…気にしなくてもよかった
もう一度会えるその日まで別れ 残りの時間は家族のために……
トビー「…それでは また」
ゼロ「またね」
タイム「またいつか…」
テンプス「またいつでも来るんだぞ」
友人たちに見送られ 扉は閉じる
これで永遠を生きる彼らだけになった
開かれる扉は今後ひとつだけになる ゼロもテンプスも本来扉は開かなくてもここへ来られる
いや もうここに来る必要もないのだろう
彼の城に集まればいい この場所はもう役割を終えた
それから数年は誰もこの部屋に立ち入らなかった
人の来ない部屋は扉の上の時間だけが揺れ動くばかりで 扉は開かなかった
ある時 久しぶりに集会所を訪れたゼロは静かに椅子に座り 机の上に本とペンを置いた
紙の上を走るペンの音 インクの尽きないペンは彼女の中にある言葉を記す
これは偽物の物語
本来の物語から外れた 再現された空想の世界
それでも彼女は書き記し 寂しそうに終わりを打ち区切りをつける
本当に終わる時にはなんと書こうか 決めていなかった
話は続くのに 終わりと書き続けていることに気づく
ENDか?FINか?どちらでも同じだろうが 時に意味のないこだわりを持つ
復讐劇に巻き込まれ 命を奪われた理髪師に 同じような復讐心と憧れと憎しみを加えた悲劇
あの子は救われた 死なずにすんだ あの悲惨な結末ではなく 幸せになって欲しかった 望まずにはいられず 文字を書き 望む
手を強く握る
戦争の傷が今なお癒えず コンプレックスを抱えた公安官に 存在していたかもしれない友人や恩人
二度の戦争の時代を生き それでも今 目の前の幸せを愛し 前を向いて生きる
もう大丈夫だと 思いたい あの後の彼らのことを考えるたび 少し悲しくなっていたのだから 幸せでいてほしい
手を開く
生きるためならば 楽になるためならば
正しいことだけで生きていけるわけではない世界で 足掻いた宿屋 知らない過去 堕ちる彼を 見捨てられなかった
最悪な道を進ませるよりも この世界でなら 助けられるかもしれない人 指輪を擦り
手を握る
他者の願いで死ぬかもしれない思いをして 愛を利用され 優しさを利用され 命をかけて守らなければ 全てを失うかもしれない君が それでも最後には許す心を持つ君が
なぜだろう なんだったのだろうかと考えたままの世界で 不要なはずの それでも 考えたそれを
美しい命の輝き 役割 知らない自分の罪
手を開く
広がる世界 繋がる世界 白い小さな部屋の中でかわす会話 紅茶を一口飲み 帽子を取り 箱を開き シャッターを下ろし グラスを掲げ 鳴らし 誓い合い
聞こえる声が 見える景色が どこを切り取っても忘れ難い宝物になる
扉の開く音に喜んだ日 全てを察し落胆した日
年が明けるたび 花を飾るたび この場所があることが嬉しくて 彼らと別れ帰るたび 自己嫌悪し
それでもここが好きだった
こんな場所を望んでいた
胸を張って 作ってよかったと言えるか?
多くの悲劇を生んだ 逆の場合もあった
何度も見た物語の その前に何があったのか その後どうなったのか
インクを垂らすたび 自己満足なのだと理解しながらこの世界に飛び込む
あるひとりの想像
黒い世界 青い文字
最初の居場所や出会いはもう見れなくても 書き始めた時の楽しさは忘れていない
一度ペンを置く 立ち上がり チェストの上の写真を見る
あの日の会話が今でも聞こえてくる気がする
もう会うことはないのだろう
不安になり 目を閉じる
タイムがいる ウィルキンズたちもいる
世界の修復をしないといけない 前ほど頻繁には来られない これから他の世界のキャラクターたちにも会う 他の想造者にも出会う機会が増える
休んでばかりもいられない
最後の行を書かなければ
また机に向かい 座ってペンを手に取る
ENDかFINか どちらでも意味は同じ
これで最後だと思って書くだけの違い
扉の開く音が聞こえ 久しぶりのことだったので懐かしさの中振り向く
ゼロ「…久しぶり!」
タイム「久しぶりだな」
ゼロ「どうしたの?集まりはないのに…」
タイム「今日はなんとなく…お前がいる気がしてな」
ゼロ「ご…ごめん無意識に呼んだ可能性もある…」
椅子を引いて座る ゼロが本を広げているのを見て 何を書いているのか覗き込む
ENDのEを書き始めたタイミングだったので この物語をもう終わらせようとしているのを見られたくないゼロは 急いで本を閉じた
タイム「私に関する内容だったのか?」
ゼロ「君のことでもある…物語全体のこと」
タイム「あぁ最後のページを書いていたのか?」
彼女からの返事はない 肯定している
タイムが怒っているのだと思い慌てて本を開き まだ最後のENDではないのだと説明しようとする
タイム「物語が終わっても 続いていくんだろう?明日がなくなるわけではない 私はそこまで気にしてないぞ」
ゼロ「そうならいいけど…たまにこれで揉めたり……いや!気にしすぎかもね」
本を再び開き ENDと書き話を締める
まだ本当の最後ではないが この話に区切りをつけた
ゼロ「本当のエピローグは次にするよ ちゃんと…この場所で」
閉じられた本は手の中から消えどこかへ片付けられる
次に手を握って開くと 机の上にチェスセットが現れる
ゼロ「1回やろう!」
タイム「あぁいいぞ」
集会所の様子を自分の城で見ていたテンプスは 空中で映していた円形の映像を消し 別の映像を確認し始めた後 ため息をついた
テンプス「これは必要なこと…」
言い聞かせるように呟いた後 手を動かし また別の映像を自分の前に引き寄せ確認する…というのを繰り返した
しばらくすると 背後にある扉が開きゼロが中へ入ってくる
物語世界に何か変化はないか 異常はないか 目で見て確認できるこの部屋の中に彼女が足運ぶことは少ない
修復すべき世界の多さを恐れている
テンプス「まだ最後のページにしないつもりですか」
彼女の方を向くこともなく 話しかける
先程タイムと会話していた彼女とは雰囲気が違っていた
その手にはOWSの本を持っていた
ゼロ「エピローグは準備する もう少しあそこへ行く頻度も減らして やるべきことをやるよ」
テンプス「…そうですか」
テンプスが映像の確認のために動かしていた両手を下ろすと 全ての映像は目を閉じるように消え 部屋の中は各世界からの光が無くなった分少し暗くなる
急に無音になり テンプスが振り返った時のマントや靴の音が鮮明に聞こえる
テンプス「以前の主はチェスはしたことが無かった」
ゼロ「チェスが趣味のキャラと仲良く無かったのかな」
テンプス「…私もタイムに習おうかと…あなたを楽しませられるのなら」
ゼロが腕を上げると 部屋の明かりが少し強くなる テンプスは軽く会釈をしてからゼロの横を通り扉を開けて部屋を出る
ゼロ「テンプス…仲間に入りたかったのかな…」
そのままゼロは部屋の奥へ向かった
…数日後
ゼロ「タイムってさマッドハッターたちとあれからも会ってたんでしょ?」
タイム「そんなに頻繁にではないが…たまに外に連れ出されてたな」
タイム自身があまりその頃の話を集会でしないので聞く機会がないままだったが ミラーナの友人はタイムの友人になり
ウィッツエンドは再建され 今のアンダーランドは平和なまま続いていた
彼らはもういない
全てのアンダーランド人はみな同じ部屋にいて 同じ部屋へ移される
今あそこでみんな眠っている
タイム「ジャバウォッキーが蘇るたび なんとなくだが無くなった以前の記憶の断片のようなものが見えることがあった」
あの部屋でジャバウォッキーの死と誕生を見たことを思い出したのか タイムはゼロの知らない話を語り出した
タイム「だんだんと私が何をしたのか思い出してきた」
ゼロ「何があったのかわかったってこと?」
タイム「あぁ ウィルキンズやクロックも知らないことも含めてな」
それは聞いていいのだろうか
ウィルキンズから聞く限りでは タイムはある王家の子の体を奪っている
1人の王女の死に悲しむあまり…間違った選択をしたと…
ゼロ「聞いていたものとは違ったのかな」
タイム「間違ったことは言っていなかった ただその理由を知らなかっただけだ」
少し迷ったあと 彼女は思っていたとことを正直に聞いた
ゼロ「私が聞いていいの?」
タイム「退屈しのぎになるかもしれない…そんな程度の話だ」
ゼロ「なら…あっ」
タイムの方を向いたまま目を見開き 言葉を発した口はそのままぽかんと開いている
その目はタイムを見ていない 他の何かを見ている
ゼロ「誰かが…呼んでる」
変化した右目は緑色になり 中で光が揺れている
何か不思議なものに呼ばれているのか 2人の音以外は聞こえてこない部屋の中で声のする方を探しようにきょろきょろ見渡す
ゼロ「大勢の…」
ゼロの周りに光が生まれ 彼女の仕業ではないらしく驚いた表情を浮かべたまま 光にのまれて消えた
タイム「…話はまた今度だな」
彼女の消えた場所を少し眺め ため息をついて立ち上がる
城へ戻ろうと扉を開くと誰かがローブを引っ張る
タイム「なんだ!」
テンプス「ここにいたはずだ!」
タイム「あいつなら誰かに呼ばれてどこかへ行ったぞ 光だった」
テンプス「光!?最近修復した世界が原因か…!?」
タイム「私に聞かれてもわからん 他のところを探せ」
今でも声の聞こえるこの部屋は それでも寂しさは残り続ける
彼らは今でも扉の先にいるような気がしてしまう
いつかまたあの扉が開くなら
終わりを記す日はもっと先でいいはずだ
タイムはそっと扉を閉めた
END