第七章 Otherworldly Story
集会所
【Otherworldly Story】
第七章 Otherworldly Story
集会所
出会いから17年
イラスベスとミラーナと再び会えることは嬉しかった
彼女たちと過ごす時間はかけがえのないもので あの時時計を閉じなくて良かったと心から思った
ただその後 アリスがクロノスフィアを盗む理由にもなったハイトップ家…大体王家に仕える帽子屋の息子タラントが かつての出来事を当然ではあるが覚えており あの時は申し訳なかったと茶会にタイムを誘った
ミラーナがタイムと知り合いであったことは王家に仕える彼らも知らないことであったらしいが 今回の件で明らかとなり…結果マッドハッターもタイムと会えるような環境だったために タイムはあの不快な時間をまた過ごすはめになる
引き止めるためかどうか以前に彼らは元々あぁなので仕方がないのだが タイムとしては苦手なタイプだった
仕返しにこちらもからかってやろうと時間を止め 三月うさぎが持つポットの紅茶の行先をティーカップではなくマッドハッターの帽子にしたが 再び時が動き出し 帽子に紅茶がかかるが その帽子の上が開き 中から出てきたマリアムキンの持つ小さなティーカップに見事紅茶は注がれた
思っていた通りにならず悔しがるタイムは そうされても楽しそうに茶会を続けるハッターたちを見てため息をついた
城の塔の上では姉妹が楽しそうに過ごしている
王冠の取り合いをしているように見えたのは気のせいだと思いたい
…ミラーナやハッターの誘いで城の外へ出ることが多くなった
それか自身の心境の変化か
理由は様々あるが 今までなら絶対にしてこなかったことだった
王家としか関わってこなかった分 新鮮ではあった
だんだんと楽しい気がしてきた その度 ライカスのアンダーランド人の心が戻るような気分になり この茶会も悪くないような気がしてきた
イラスベスとの関係も今の方が良い気はする
他者からの許しを得た彼女は以前よりはわがままな性格がマシになったようで 城では大人しく過ごしているらしい
アンダーランドに対するタイムの心配事は今はない ある程度穏やかに過ごすことができる
自身の城へ戻ったタイムは不在の間のことをウィルキンズから聞き 何事も問題がなかったことを確認すると集会所へ向かう
両開きの扉の取っ手を引く
そこには空虚で真っ暗な塔の内部 何も無い
驚いて扉を閉め 再び開けるが扉の先の景色は変わらない
振り返り 周りを見る 扉の場所に間違いは無いはずだった
タイム「…ゼロ?」
名前を呟く
もちろん返事はないが 急に不安になる
集会所が消えた もし本当にそうならば 理由はおそらくひとつだろう
モンパルナス駅の公安官室の奥
ゼロがいたら話したいことがあったのでギュスターヴは壁に手を伸ばす
その壁が ただの壁であったために 指を怪我するところだった
壁の前で立ち尽くす姿は他の人が見た場合 何があったのかと思うような状態だが 理解が追いつかなかった
壁の場所が変えられたのかと思い辺りを触ってみるが全てただの壁だった
ダステ「ゼロ?壁を変えたのか?」
返事が返って来ることはなかった
コリンズ理髪店においてもトビーが壁を通り抜けられないことに気づき ゼロの名を呼んでみたが 声が聞こえることも その姿を現すこともしなかった
壁だけが繋がりであり 生きている時代の違う彼らにとって状況を確かめる手段はなかった
1日だけの異常ではなく それが続くと彼女に何があったのか不安が大きくなる
物語の終わりは?約束は?
何もかもを投げ出して また同じことを繰り返したのか
それすらも知る術がなく ただ答えを待つしかなかった
あの場所に行かない日が続くと日々の生活の中で当たり前になっていたことを改めて認識する
他の時代の他の世界との交流
それが彼女の夢や願いが現実化されたものにすぎなくとも 彼らにとっても大切で必要なものになっていた
日常を過ごす中で心に小さな喪失感がある
1日の中のわずかな時間でも人生の中で多くの時間を共に過ごし 共に戦い 語り合い なんとなくこれからもずっと一緒にいるのが当たり前なのだと思っていた友人たち
その別れがこんなにも唐突で 何が何だかわからないまま終わっていっていいのだろうか
全てを決めるのはゼロの想造…納得はいかない
死を…選んだのだろうか
創られた世界全ての人々が消え去ろうとも 再現された世界の彼らに影響はない
彼女が死んだわけではなく…その結果記憶全ての消去…というより封印に近いことが起こったことによる全てのリセット
タイム「…何があったんだ」
全ての世界に自由に行き来できる力などない
彼らは彼女が作ったシステムにより交流を可能としていた
タイム「テンプス!テンプス・ホルロージュ・パンデュール!!」
タイムの声が城内に虚しく響く
集会所の扉から離れ意味もなく書斎や大時計の周辺へ向かい歩く
何を焦っているのか 何に苛立っているのか
知らない間に始まり気づけば終わるのが彼らにとっての物語であることはもうわかっているはずだった
この物語だけは終わらない
彼女とタイムが永遠である限り 集会所が閉じられることはないままでいられると思っていた
何を望んでいるのだろうか
全て彼女の想造通りに再現されただけの存在が その思いのままに…
帰宅したギュスターヴの様子がいつもと違うことに気づいたリゼットは子供を寝かせたあと彼に話を聞いた
しかし直接的なことが言えずうまく説明できないでいるとより心配された
リドルフォ・ピレリのように見せてしまえば信じるだろうが ただ話すばかりでは真偽の確かめようがなく 無意味な作り話をすることになり余計心配させてしまうかもしれない
嘘をつき続けるのも難しい 嘘はあまり得意ではない
ダステ「…連絡の取れない友人がいて…少し心配していただけなんだ」
リゼット「それは…レナルド?フーツさん?それとも…前に会ったトビーって方?」
リゼットの知る限り連絡の取り合う特に親しい友人が少ないために説明が難しい
ダステ「彼らではなくて…覚えていないかもしれないが 君も一度会っている女性だ 本当は今日少しだけ彼女と話をするつもりでいたんだが…」
ギュスターヴの話す友人たちのうち 会ったことのない友人たちはいなかった
今までずっと意図的に存在を隠していた
最近駅の営業後に関しては月の三分の一やってくる追加の公安官が行うため集会所には行けないが家に帰る頻度は上がっていた
それにより家族の時間が増え ゼロたちにそれを話すと大いに喜ばれた
良い友人だが その存在を伝えられない
ダステ「…説明が難しいんだ」
彼らの存在を証明することも難しい
繋がりはあの壁だけだった
ゼロの力…
リゼットはそれ以上聞くのをやめた
彼の悩みに寄り添いたいが無理に話させるのはよくはないだろう
ロンドンであった彼の友人は不思議な関係性だった
年上のトビアスがギュスターヴに敬語を使い ギュスターヴは軽い口調でトビアスと話す
異国の友人との交流がどのように行われていたのか どう出会ったのかわからないが 2人の間には長い間に作られた絆があるようだった
…そのトビーはリドルフォに現状を説明した
壁の向こうの友人たちにもうこのまま会えないのか 約束の日まで ずっと…?
ゼロに何があったのか心配していた
この状況でテンプスからも何も報告がないのは 余計に不安になる
彼が言っていた最悪の事態が引き起こされたのだろうか…ゼロ自身の手によって 全てが消え去り 集会所だけが消えたのかもしれない
トビー「ゼロ…テンプス…大丈夫なんでしょうか…」
リドルフォに解決できる悩みではなかった ただ話を聞いて彼はトビーを抱き寄せた 安心させたかった 方法を見つけられなかったが どう言葉をかけたらいいのかもわからなかった
リドルフォ「しばらく待ってみれば 一時的なものだったとわかるかもしれない 彼らとは…連絡のとりようもないのだからな…」
トビー「…そうですよね…それしか…すみません初めてのことだったので 焦ってしまって」
1週間…2週間と経っても壁は壁のままで タイムは扉を開けるたびため息をついていた
本当にあの場所は無くなったのかもしれない
庭園の噴水の向かいにあるベンチに座り 水の流れる音に耳を傾ける
彼女は友人だと思っているかをよく確認する質問をしてきていた
彼女の不安は…彼女の恐怖とは なんだったのだろうか
テンプスは明確な答えを口にしない 彼女がそれを思い出すことのないように
タイム「…ゼロ?」
何かを感じた
いつもとは違う感覚
歪みのようなもの
立ち上がり庭園の外へ出て階段をいくつも登り集会所の階層へ向かう
扉の前に立つ姿は白く淡い光のように見え 振り向いた顔は驚きも喜びもなく ただいつも通りであり そのままタイムが側に来るまで待っていた
気になるのは怪我をしたのか右目に白い眼帯を貼り付けていることだろうか
ゼロ「久しぶり!ちょうどよかった 今集会所に行こうと思っててさ」
タイム「…その集会所がここ数週間ずっと無かったんだが?」
ゼロ「え?無い?!」
ゼロは慌てて扉を開く
そこにはいつも通りの集会所があった
他の扉も椅子もテーブルもチェストも写真も 全く問題なく存在していた
タイム「お前の来ない間ずっとここは空だったんだが…」
ゼロ「なんでだろ…世界を繋いでる部分が切れたのかな…でもなんでそんなこと起こるんだろ…うーん?テンプス…かな」
小さく何かを呟きながら部屋中を見て周り 分厚い本を出して開く
書かれた文字をなぞりながら確認し閉じて本をしまう
タイム「…ところで右目はどうしたんだ?」
そもそも怪我を負うことなどないような身体であり 想造力があればどんな怪我だろうと一瞬で治すことも可能であるにも拘らず眼帯をしているのは変に感じる
だから質問をしたのだが ゼロはタイムに背を向けたまま黙っており 真顔のまま振り向いて 何も答えずに笑みを浮かべた
タイム「何があった」
ゼロ「色々…修復できただけだよ 状態が安定しないから つけてるだけ」
はっきりとしたことは喋らない 説明したくないのか 説明できないようなことが起きたのか それはわからないが 酷い怪我であったりというわけではないとだけ説明された
ゼロ「まぁ集会所に問題なくてよかった!一時的に繋がらなくなったにせよ今は無事だし!」
しばらく部屋にいるとヒューゴの扉とトッドの扉が開く
ギュスターヴとトビーに説明をして 同じように眼帯を心配されるが その際も深刻な問題ではないのだと説明し いつも通り笑っていた
集会所が消えた理由 その際の焦りや悲しさ
ゼロが何か与えてきたのか 単に彼女の意識外での運命だったのか
集会所が消えていた…道が繋がらなくなっていた期間
そんなものがなかったかのように 今までと同じ日々が続く
しばらくするとゼロは眼帯を外して集会所に現れた
その右目は緑色だった
ダステ「目の色が変わったのか?」
ゼロ「変わったというか 戻った…かな 前はこうだったらしいよ」
元の彼女に戻ったと思っていた
だがどこか元気がないようにも見える
色が変わろうとその瞳は同じような力を宿していた
コンッという音がした後 ゼロのため息が聞こえる
書斎で向かい合って座り テーブルの上のチェス盤を前に腕を組み悩み 真剣な顔で駒を取り 意を決して置く
タイム「ずいぶんと悩んでるな」
ゼロ「君強いね」
タイム「こっちじゃない」
迷わず駒を置いた後 きょとんとした顔のまま盤上ではなくタイムを見て困惑するゼロ
少し考えた後 盤上に目線をおとし そわそわしだしたかと思えば 不安げな表情を浮かべ手で触れずに駒を浮かせ動かす
ゼロ「…1939年…来年の9月」
タイム「ギュスターヴの世界か」
ゼロ「始まるんだよ 戦争が…それも世界大戦が…パリは占領される ギュスターヴたちがどうなるかわからない」
第二次世界大戦がすぐそこまで迫る
ゼロはそれを心配していた
ゼロ「いつも通り過ごすだけだよ」
それ以上会話は続かないまま 静かなチェスは終わった
…またしばらくして 久しぶりに集会所へ来ていたテンプスがギュスターヴとトビーからあれこれ聞かれており 面倒くさいという感情を隠すことなく伝えたあと 渋々答えた
テンプス「だから 私は知らん!他の世界の修復のために主とあちこち出ていた間のことだ!」
ダステ「その間は見ていないのか?」
テンプス「緊急時以外は目の前の世界に集中する…本当に消失していたならすぐに直しに来ただろう」
ダステ「…そうか」
その物語が幸せな結末を迎えたあと
わずか数年で訪れるその日のことを思うと 心がざわざわとする
果たして彼らはその後どうなったのだろうか
再び起こる戦争 その過去
物語の世界で いずれ彼らが迎える日
その全てが終われば
きっと
END
【Otherworldly Story】
第七章 Otherworldly Story
集会所
出会いから17年
イラスベスとミラーナと再び会えることは嬉しかった
彼女たちと過ごす時間はかけがえのないもので あの時時計を閉じなくて良かったと心から思った
ただその後 アリスがクロノスフィアを盗む理由にもなったハイトップ家…大体王家に仕える帽子屋の息子タラントが かつての出来事を当然ではあるが覚えており あの時は申し訳なかったと茶会にタイムを誘った
ミラーナがタイムと知り合いであったことは王家に仕える彼らも知らないことであったらしいが 今回の件で明らかとなり…結果マッドハッターもタイムと会えるような環境だったために タイムはあの不快な時間をまた過ごすはめになる
引き止めるためかどうか以前に彼らは元々あぁなので仕方がないのだが タイムとしては苦手なタイプだった
仕返しにこちらもからかってやろうと時間を止め 三月うさぎが持つポットの紅茶の行先をティーカップではなくマッドハッターの帽子にしたが 再び時が動き出し 帽子に紅茶がかかるが その帽子の上が開き 中から出てきたマリアムキンの持つ小さなティーカップに見事紅茶は注がれた
思っていた通りにならず悔しがるタイムは そうされても楽しそうに茶会を続けるハッターたちを見てため息をついた
城の塔の上では姉妹が楽しそうに過ごしている
王冠の取り合いをしているように見えたのは気のせいだと思いたい
…ミラーナやハッターの誘いで城の外へ出ることが多くなった
それか自身の心境の変化か
理由は様々あるが 今までなら絶対にしてこなかったことだった
王家としか関わってこなかった分 新鮮ではあった
だんだんと楽しい気がしてきた その度 ライカスのアンダーランド人の心が戻るような気分になり この茶会も悪くないような気がしてきた
イラスベスとの関係も今の方が良い気はする
他者からの許しを得た彼女は以前よりはわがままな性格がマシになったようで 城では大人しく過ごしているらしい
アンダーランドに対するタイムの心配事は今はない ある程度穏やかに過ごすことができる
自身の城へ戻ったタイムは不在の間のことをウィルキンズから聞き 何事も問題がなかったことを確認すると集会所へ向かう
両開きの扉の取っ手を引く
そこには空虚で真っ暗な塔の内部 何も無い
驚いて扉を閉め 再び開けるが扉の先の景色は変わらない
振り返り 周りを見る 扉の場所に間違いは無いはずだった
タイム「…ゼロ?」
名前を呟く
もちろん返事はないが 急に不安になる
集会所が消えた もし本当にそうならば 理由はおそらくひとつだろう
モンパルナス駅の公安官室の奥
ゼロがいたら話したいことがあったのでギュスターヴは壁に手を伸ばす
その壁が ただの壁であったために 指を怪我するところだった
壁の前で立ち尽くす姿は他の人が見た場合 何があったのかと思うような状態だが 理解が追いつかなかった
壁の場所が変えられたのかと思い辺りを触ってみるが全てただの壁だった
ダステ「ゼロ?壁を変えたのか?」
返事が返って来ることはなかった
コリンズ理髪店においてもトビーが壁を通り抜けられないことに気づき ゼロの名を呼んでみたが 声が聞こえることも その姿を現すこともしなかった
壁だけが繋がりであり 生きている時代の違う彼らにとって状況を確かめる手段はなかった
1日だけの異常ではなく それが続くと彼女に何があったのか不安が大きくなる
物語の終わりは?約束は?
何もかもを投げ出して また同じことを繰り返したのか
それすらも知る術がなく ただ答えを待つしかなかった
あの場所に行かない日が続くと日々の生活の中で当たり前になっていたことを改めて認識する
他の時代の他の世界との交流
それが彼女の夢や願いが現実化されたものにすぎなくとも 彼らにとっても大切で必要なものになっていた
日常を過ごす中で心に小さな喪失感がある
1日の中のわずかな時間でも人生の中で多くの時間を共に過ごし 共に戦い 語り合い なんとなくこれからもずっと一緒にいるのが当たり前なのだと思っていた友人たち
その別れがこんなにも唐突で 何が何だかわからないまま終わっていっていいのだろうか
全てを決めるのはゼロの想造…納得はいかない
死を…選んだのだろうか
創られた世界全ての人々が消え去ろうとも 再現された世界の彼らに影響はない
彼女が死んだわけではなく…その結果記憶全ての消去…というより封印に近いことが起こったことによる全てのリセット
タイム「…何があったんだ」
全ての世界に自由に行き来できる力などない
彼らは彼女が作ったシステムにより交流を可能としていた
タイム「テンプス!テンプス・ホルロージュ・パンデュール!!」
タイムの声が城内に虚しく響く
集会所の扉から離れ意味もなく書斎や大時計の周辺へ向かい歩く
何を焦っているのか 何に苛立っているのか
知らない間に始まり気づけば終わるのが彼らにとっての物語であることはもうわかっているはずだった
この物語だけは終わらない
彼女とタイムが永遠である限り 集会所が閉じられることはないままでいられると思っていた
何を望んでいるのだろうか
全て彼女の想造通りに再現されただけの存在が その思いのままに…
帰宅したギュスターヴの様子がいつもと違うことに気づいたリゼットは子供を寝かせたあと彼に話を聞いた
しかし直接的なことが言えずうまく説明できないでいるとより心配された
リドルフォ・ピレリのように見せてしまえば信じるだろうが ただ話すばかりでは真偽の確かめようがなく 無意味な作り話をすることになり余計心配させてしまうかもしれない
嘘をつき続けるのも難しい 嘘はあまり得意ではない
ダステ「…連絡の取れない友人がいて…少し心配していただけなんだ」
リゼット「それは…レナルド?フーツさん?それとも…前に会ったトビーって方?」
リゼットの知る限り連絡の取り合う特に親しい友人が少ないために説明が難しい
ダステ「彼らではなくて…覚えていないかもしれないが 君も一度会っている女性だ 本当は今日少しだけ彼女と話をするつもりでいたんだが…」
ギュスターヴの話す友人たちのうち 会ったことのない友人たちはいなかった
今までずっと意図的に存在を隠していた
最近駅の営業後に関しては月の三分の一やってくる追加の公安官が行うため集会所には行けないが家に帰る頻度は上がっていた
それにより家族の時間が増え ゼロたちにそれを話すと大いに喜ばれた
良い友人だが その存在を伝えられない
ダステ「…説明が難しいんだ」
彼らの存在を証明することも難しい
繋がりはあの壁だけだった
ゼロの力…
リゼットはそれ以上聞くのをやめた
彼の悩みに寄り添いたいが無理に話させるのはよくはないだろう
ロンドンであった彼の友人は不思議な関係性だった
年上のトビアスがギュスターヴに敬語を使い ギュスターヴは軽い口調でトビアスと話す
異国の友人との交流がどのように行われていたのか どう出会ったのかわからないが 2人の間には長い間に作られた絆があるようだった
…そのトビーはリドルフォに現状を説明した
壁の向こうの友人たちにもうこのまま会えないのか 約束の日まで ずっと…?
ゼロに何があったのか心配していた
この状況でテンプスからも何も報告がないのは 余計に不安になる
彼が言っていた最悪の事態が引き起こされたのだろうか…ゼロ自身の手によって 全てが消え去り 集会所だけが消えたのかもしれない
トビー「ゼロ…テンプス…大丈夫なんでしょうか…」
リドルフォに解決できる悩みではなかった ただ話を聞いて彼はトビーを抱き寄せた 安心させたかった 方法を見つけられなかったが どう言葉をかけたらいいのかもわからなかった
リドルフォ「しばらく待ってみれば 一時的なものだったとわかるかもしれない 彼らとは…連絡のとりようもないのだからな…」
トビー「…そうですよね…それしか…すみません初めてのことだったので 焦ってしまって」
1週間…2週間と経っても壁は壁のままで タイムは扉を開けるたびため息をついていた
本当にあの場所は無くなったのかもしれない
庭園の噴水の向かいにあるベンチに座り 水の流れる音に耳を傾ける
彼女は友人だと思っているかをよく確認する質問をしてきていた
彼女の不安は…彼女の恐怖とは なんだったのだろうか
テンプスは明確な答えを口にしない 彼女がそれを思い出すことのないように
タイム「…ゼロ?」
何かを感じた
いつもとは違う感覚
歪みのようなもの
立ち上がり庭園の外へ出て階段をいくつも登り集会所の階層へ向かう
扉の前に立つ姿は白く淡い光のように見え 振り向いた顔は驚きも喜びもなく ただいつも通りであり そのままタイムが側に来るまで待っていた
気になるのは怪我をしたのか右目に白い眼帯を貼り付けていることだろうか
ゼロ「久しぶり!ちょうどよかった 今集会所に行こうと思っててさ」
タイム「…その集会所がここ数週間ずっと無かったんだが?」
ゼロ「え?無い?!」
ゼロは慌てて扉を開く
そこにはいつも通りの集会所があった
他の扉も椅子もテーブルもチェストも写真も 全く問題なく存在していた
タイム「お前の来ない間ずっとここは空だったんだが…」
ゼロ「なんでだろ…世界を繋いでる部分が切れたのかな…でもなんでそんなこと起こるんだろ…うーん?テンプス…かな」
小さく何かを呟きながら部屋中を見て周り 分厚い本を出して開く
書かれた文字をなぞりながら確認し閉じて本をしまう
タイム「…ところで右目はどうしたんだ?」
そもそも怪我を負うことなどないような身体であり 想造力があればどんな怪我だろうと一瞬で治すことも可能であるにも拘らず眼帯をしているのは変に感じる
だから質問をしたのだが ゼロはタイムに背を向けたまま黙っており 真顔のまま振り向いて 何も答えずに笑みを浮かべた
タイム「何があった」
ゼロ「色々…修復できただけだよ 状態が安定しないから つけてるだけ」
はっきりとしたことは喋らない 説明したくないのか 説明できないようなことが起きたのか それはわからないが 酷い怪我であったりというわけではないとだけ説明された
ゼロ「まぁ集会所に問題なくてよかった!一時的に繋がらなくなったにせよ今は無事だし!」
しばらく部屋にいるとヒューゴの扉とトッドの扉が開く
ギュスターヴとトビーに説明をして 同じように眼帯を心配されるが その際も深刻な問題ではないのだと説明し いつも通り笑っていた
集会所が消えた理由 その際の焦りや悲しさ
ゼロが何か与えてきたのか 単に彼女の意識外での運命だったのか
集会所が消えていた…道が繋がらなくなっていた期間
そんなものがなかったかのように 今までと同じ日々が続く
しばらくするとゼロは眼帯を外して集会所に現れた
その右目は緑色だった
ダステ「目の色が変わったのか?」
ゼロ「変わったというか 戻った…かな 前はこうだったらしいよ」
元の彼女に戻ったと思っていた
だがどこか元気がないようにも見える
色が変わろうとその瞳は同じような力を宿していた
コンッという音がした後 ゼロのため息が聞こえる
書斎で向かい合って座り テーブルの上のチェス盤を前に腕を組み悩み 真剣な顔で駒を取り 意を決して置く
タイム「ずいぶんと悩んでるな」
ゼロ「君強いね」
タイム「こっちじゃない」
迷わず駒を置いた後 きょとんとした顔のまま盤上ではなくタイムを見て困惑するゼロ
少し考えた後 盤上に目線をおとし そわそわしだしたかと思えば 不安げな表情を浮かべ手で触れずに駒を浮かせ動かす
ゼロ「…1939年…来年の9月」
タイム「ギュスターヴの世界か」
ゼロ「始まるんだよ 戦争が…それも世界大戦が…パリは占領される ギュスターヴたちがどうなるかわからない」
第二次世界大戦がすぐそこまで迫る
ゼロはそれを心配していた
ゼロ「いつも通り過ごすだけだよ」
それ以上会話は続かないまま 静かなチェスは終わった
…またしばらくして 久しぶりに集会所へ来ていたテンプスがギュスターヴとトビーからあれこれ聞かれており 面倒くさいという感情を隠すことなく伝えたあと 渋々答えた
テンプス「だから 私は知らん!他の世界の修復のために主とあちこち出ていた間のことだ!」
ダステ「その間は見ていないのか?」
テンプス「緊急時以外は目の前の世界に集中する…本当に消失していたならすぐに直しに来ただろう」
ダステ「…そうか」
その物語が幸せな結末を迎えたあと
わずか数年で訪れるその日のことを思うと 心がざわざわとする
果たして彼らはその後どうなったのだろうか
再び起こる戦争 その過去
物語の世界で いずれ彼らが迎える日
その全てが終われば
きっと
END