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第六章 タイム

ライカス

イラスベスに連れられミラーナが着いたのはどこかの城の中
ミラーナがどこか尋ねてもイラスベスはわかるはずだとだけ言い 彼女の手を引っ張り目的の部屋の扉の前まで連れて行く

エルズメア「じゃあどうしてあなたのベッドの下にくずが落ちているの?」

その声を聞いて ミラーナは目を見開き姉を見る イラスベスはようやく気づいたミラーナに対し苛立っていた

イラスベス「ミラーナがやったのよ」

幼いイラスベスがそう言いながら幼いミラーナの方を見て母に訴える
ミラーナはここが幼い頃過ごした城なのだとわかった そして今がいつで これから何が起きるのか…全て理解した

エルズメア「あなたなの?ミラーナ」
イラスベス「言いなさいよ!」

扉の隙間から聞こえる あの日の会話
幼いイラスベスの言葉に合わせて今のイラスベスもミラーナに同じ言葉を言う
そして幼いミラーナも今のミラーナも同じタイミングで 母の…イラスベスの目を見て 小さな 可哀想な子の声であの時と同じ“いいえ”と言う

イラスベスはみるみる怒りが膨れ上がり 扉を押し開ける ミラーナが静止する声も聞かずイラスベスは部屋の中の幼いミラーナを指差しながら嘘つきと叫ぶ
突然現れたイラスベスを正面から見た幼いイラスベスは叫び声を上げる
その瞬間2人のイラスベスの体に赤錆が広がり固まってしまう さらに2人からサビは広がり 部屋の中にいたエルズメアとミラーナも飲み込む

アリスとハッターがたどり着いた時がちょうどサビが広がり始めたタイミングだった
イラスベスが落としたクロノスフィアを手に取り ミラーナはイラスベスをなんとか運び逃げ 4人を乗せたクロノスフィアはサビから逃げ始めた

フェルの日のアンダーランドはサビに飲み込まれ 上へと逃げるクロノスフィアを阻むように空もサビに染まるが なんとか時間の海へ逃げ込む

時間の海は荒れ 背後から大きな呻き声にも聞こえる音とともにサビが追いかけてくる

ハッター「急いでアリス!」

アリスはレバーを目一杯押し最大スピードになるようにする しかしサビも驚異的な速さで迫ってくる

どんどん海に映る世界もサビ色になる

“現在”にたどり着いたとして時計をくぐる余裕はあるのか 不安になりながら進む

クロノスフィアの台座の上で横たわるタイムは目を閉じているのでウィルキンズが不安そうに様子を見ている

タイム「ここだ…クロノスフィア…」

タイムが目を開く 透き通る青い光は失われ 声も力がないが それでもタイムはアリスたちを導くために必死に力を使った

アリスたちの目の前で時間の水が渦を描くように動き行くてを防ぐ
もう止まれないので飛び込むと そこは無限の空間だった すぐ先にタイムの城が見える
しかし安心していられない サビは無限の空間にまで追いつき 空の雲もサビに染まり落ちてくる

クロノスフィアごと城のステンドグラスに飛び込み 船から降りて走り出す
イラスベスを見捨てず運びながら逃げていたミラーナがサビに飲まれ 家族のいる巣箱を持っていたハッターもアリスの背後でサビてしまい
白うさぎやチェシャ猫たちも逃げていたがやがて追い詰められ 全員がサビてしまう

クロノスフィアの台座近くまで走ったアリスの姿を見つけ ウィルキンズはタイムの元へ駆け寄る

ウィル「ご主人様!来ましたよ!」

タイムもその方向を見るが サビは今にもアリスのかかとに触れそうにな程の距離に迫っている

ウィル「あと少し 時間があれば…!」

タイムはチョッキを開き 時計の針を指で押さえる 文字盤に青い電流が流れタイムは苦しむ声を上げるが それによってアリスの背後に迫るサビは動きを止める

しかしタイムの力もその場所しか及ばない 大時計とそれを守るアワーもサビに飲まれ 台座にまで迫り ウィルキンズが悲鳴と共に飲み込まれる

もう逃げられない タイムまでもだんだんサビに染まっていく
震える指で必死にアリスに迫るサビを抑えるが その心臓にまでサビは容赦なく広がる

タイムがサビに飲まれ 低く弔いの鐘が鳴る アリスの背後のサビは大きな音を立て また襲いかかる

アリスは必死に走る 足がサビに捕まりそれ以上前へ進めなくなっても 体を伸ばし 腕を伸ばし 手から台座にクロノスフィアを離し クロノスフィアと台座両方から光が伸び あとほんの少し あとわずかな時間 それさえあれば…


集会所ではゼロとトビー テンプスが扉の前で悲痛な表情を浮かべていた
扉が 赤いサビに染まった それの意味を説明されていたトビーはショックで何も言えないでいた

赤い文字の数字が動かなくなった 時間が止まってしまっていた

ゼロ「…大丈夫 絶対に…正しい道を…」


クロノスフィアと台座の間に伸びた光の間で チリチリと火花が散り ゆっくりとクロノスフィアのサビが取れ 台座に戻る
光は戻り 回転し 蘇った力によって全てのサビが一気に消え去る

大時計も元に戻り正常に動く タイムも目の光が戻り 無事だったことに驚きながらあたりを見回す
アリスが駆け寄り声をかけると 大丈夫だと言って起き上がる

タイム「ウィルキンズ!」
ウィル「はいここに」

ウィルキンズを大声で呼ぶ 彼はタイムの足元にいたので 少し呆れた声で返事をした
タイムはウィルキンズを連れ全てちゃんと元通りになったか確認するためにすぐさま大時計を後にする

イラスベスとミラーナも元に戻る
クロノスフィアが台座に戻り 再び手にするのも難しいと感じ悔しがるイラスベスは 悲しそうな声で目の前の憎いミラーナに言葉をぶつける

イラスベス「全部あんたのせいなのに…!」
ミラーナ「そうね…私がタルトを食べたのに 食べてないって嘘をついたから…」

今まで一度もミラーナがそのことを言ったことはなかった イラスベスからすればそのミラーナの発言には驚きしかなかった
ずっとその話をするたびに口をつぐみ 顔を逸らし 現実に目を向けないようにしていたはずの…あのミラーナが

ミラーナ「こんなことになってしまったのは全て私のせいよ…ごめんなさい」

イラスベス「……ずっとその言葉が聞きたかったのよ」

ミラーナはイラスベスを抱きしめる 少し戸惑いながらもイラスベスも抱きしめ返す

長い間 その一言が言えないせいで 罪と向き合えないせいで どう接したらいいのかわからないでいたせいで 全て悪い方へ進んでしまった
ようやく 姉妹は和解した

すっかり勢いを無くし落ち着いたタイミングでハッターは話しかけ 家族を元の大きさに戻してもらい ようやく本当の再会を果たせた

問題は解決した

アリスはタイムを探していた
彼は生者の部屋に入り 全ての時計が問題なく動いていることを確認していた
目を閉じ 音を聞く 何事もない

タイム「…問題なし」

そこへアリスが入ってくる
クロノスフィアを奪われ 後一歩で世界が崩壊するまでの出来事があったが それでもタイムはアリスに穏やかに話しかける
彼女は罪悪感を抱き 彼の元へ来ていた そのタイムの態度も アリスには申し訳なく感じさせた

アリスはポケットから父の形見の懐中時計を取り出し 指で撫でながら愛おしそうに触れる
最初の時と違い タイムはアリスの話をちゃんと聞き 最後まで待ってくれている

アリス「私はずっと時間は敵だと思っていたの 大切な人たちを奪っていくから…でも奪う前に与えてくれていたのね 大切な宝物よ 毎分 毎秒が…」

アリスはタイムに懐中時計を差し出す
それが彼女が大切にしている時計だと覚えていたタイムは 優しい目で時計を見る

タイム「あぁ…死んでしまったものだな 私に直してほしいんだな」

アリスは首を振る

アリス「あなたに持っていてほしいの」

タイムは驚き 少し戸惑いながら懐中時計を見る
彼は誰かに与えるのが当たり前だった アンダーランドの人々のために アリスの言う通り 多くを贈っていた

アリス「父はいつも言っていたわ“人のために行うことこそ価値がある”…あなたとは気が合いそう」

タイムはその言葉を言われ“ん?”という表情を見せ 懐中時計を受け取る

タイム「…時は友人にあらず…というが 君のことはいつまでも忘れないだろう…だが 2度と来ないでくれ」

そう言って笑うタイムと 返事の代わりに微笑むアリス
彼女はタイムに別れを告げ 生者の部屋を去った


その後タイムは部屋を出て もう一度大時計の前に行く
別の場所の鏡の前では アリスと友人たちが最後の別れの時を迎えている

大時計の前ではウィルキンズがセカンズたちに支持を出し 大時計の点検を行なっていた

ウィル「ご主人様 問題はないようです」
タイム「そうか」
ウィル「お許しになったのですか」
タイム「クロノスフィアは戻った あの子たちもこれで学んだだろう それならもう良い オレロンとの約束も果たした 私に文句があるのか?」
ウィル「いえまさか!ただちょっと…」

ウィルキンズは遥か昔 クロノスフィアが狙われた時の記憶が蘇り 冷や汗をかくような気分になった

ウィル「大時計様も戻られたようですから それを言われてしまいました 以前より酷い状況でしたし」
タイム「以前か…」

タイムとウィルキンズは大時計を見ながら 遥か昔を思い出していた


…数百年前


森の中で目を覚ます者がいた
風で葉の揺れる音 川の水が流れる音
それが耳に届く
鳥の鳴き声 小さなペガサスの羽音 花の噂話
どこか遠くから聞こえる甲高いラッパの音

ゆっくりと深呼吸する 生きている 暖かな体 心臓の音 手を握って開く 両手を空に向けて伸ばし 今度はだらんと下げ ぼんやりと空を眺める

何者か わからない 何者かではあったはずだとわかるのが また妙な感覚だった
それが怖いのかもわからない 立ち上がる方法は知っているが そんな気が起こらない

忘れてはいけないことを忘れた気がする
いくらやってもそれがなんなのかがわからない

立ち上がり 歩き その場を離れ やがて川を見つける 水の中を覗き 自分の姿を知る
彼は それでも何もわからなかった

どれくらいの時間ここにいるのか なぜここなのか
1人だという自覚があったが…幼い彼は ただ森の中を歩き回るだけだった

日が登り沈み 葉が色づき 散り それを繰り返す
森の外まで行こうという気にはならなかった
この場所にいなければいけない気がした

誰かを探していた

ある時 彼の前に現れた若い女性が1人で森にいる幼い子供を見て驚き 彼に家はどこかなど質問し その全てで彼が答えを持たなかったため 可哀想に思い保護しようとしたが 彼が強く拒否するので 仕方なく食べ物を持ってきてあげていた
服は着ていたが どれだけ着ていたのかボロボロだったので 親切な女性は服もあげていた

季節が巡るほどに 時が経つほどに 彼は女性の見た目が変わるおかしさに気づいていた
森の端に行き そこにある町を観察することもあったが その町も どんどん発展し 大きくなり 町を歩く人も 見た目が変わって行く

いつしか女性は森に来なくなっていた

彼は おかしいのは自分ではないかと思い始めた
どれだけの季節が巡ったのかわからないが もう数十年経つのに川を覗いて映る自身の姿はわずかに背が伸びたくらいで大差がない 他の人々より ゆっくりと時間が流れているような…

女性が最後に自分にかけた言葉はなんだったか


「あなただけが 違うのね」

きっとあの町へ行っても いつしか時間の流れが早い彼ら…いや 至って普通の時を過ごす彼らは どんどん変わっていき いつしか離れて行く

ずっと1人で この森に閉じこもった方が 悲しい思いをすることはない 目覚めてから森の外へ出たくなかったのは 記憶の奥底にこのことへの思いがあったからなのかもしれないと思った

しばらくした後 1人の男が彼の前に現れた

驚いて隠れようとする彼だが 気づかないうちに追いつかれ捕まってしまう

「行かないでくれ ようやく見つけたのに…」

背が高く その上に高い帽子を被り ボサボサのヒゲと青い瞳と横の伸びる肩飾 全身黒い服で長いマントを引きずっている
そんな男に急に腕を掴まれそうになったら 逃げるのも無理はない

「時の進みが遅い時計は君だな」

少年は驚いていた なぜ目の前の男はそれを知っているのか

「私はアンダーランドの時間そのものだ だからわかる」

少年は彼がタイムであり 少年の時計は針の進みが他人よりもはるかに遅いことに気づき 探しにきたという

少年はタイムと手を繋ぎ 城へ案内された

タイム「長い時間1人だったのだろう ここではみな同じ 永遠の存在しかいない」

少年に同じ仲間ができた日だった
ウィルキンズもセカンズも彼を歓迎していた
そして大時計の前に立った時 彼は胸のざわめきを感じた その正体はわからないままだったが 今までずっと森の中で暮らし このように大きな機械を見たことがなかったから 恐れを抱いたのかもしれないと思った

タイム「さて 君の名は…」
「名前…?」
タイム「君にも名前はある 私がタイムと呼ばれるように……さてなんだったかな…確か…ライカス」

少年が青年になるのに100年の時を必要とした 彼はタイムに手伝いをしながら もう2度と離れていかない永遠の仲間たちと共に 楽しい時間を過ごしていた
庭園で花の世話をするのも バルコニーから大時計の点検をするセカンズたちを眺めるのも楽しかった

タイムも彼と過ごす時間が有意義なものであると実感していた 賑やかな城内での日々は 幸福そのものだった

ライカス「タイムはずっとみんなといるんだな」
タイム「…あぁ そうだ」
ライカス「時間も秒もいるけど 大時計は?」
タイム「失われた…以前は2人でいたんだが…色々とあってな」

生者の部屋でライカスは自身の時計を見せてもらった タイムが運んだ時計は他の時計よりもゆっくりと中の歯車たちが動き じりじりと針が動こうとしていた

ライカス「僕の1年は…大体12年くらいって本当か?」
タイム「針の速度からしてな」

中の構造が見える美しい時計 これが自分の命の時計だと思うと より愛おしく見えてくる

ある時 城の中を歩いていると 何やら大慌てでウィルキンズが通路を横切った

ライカス「ウィルキンズ?」

呼びかけられ足を止めたウィルキンズは振り向いた

ウィル「あぁライカス様 どうされましたかな?」
ライカス「そんなに急いでどうしたの?」
ウィル「時を見る装置に少し異常があったようで 確認しに行くところです」
ライカス「僕もついて行くよ」

ウィルキンズの後に続いてライカスも装置を見に行く 巨大な装置ということ以外さっぱりわからない機械だったが ウィルキンズ曰く過去と現在と未来を見られる装置だという 今までこの場所に来たことはなかった
タイムはライカスの行動範囲を決めるようなことを言ってくる時が多い 何十年もここにいると新しい場所に行きたくなるが 書斎兼客間であったり…何の部屋かも知らない扉だったり…


ウィルキンズは大時計の内部にあるバルコニーからクロノスフィアの台座を眺めるタイムの側にゆっくり歩いて近づいた

ウィル「閣下?」
タイム「あれが 望んだ姿なのだろうか…何十年考えようとわからない」
ウィル「このままでいいのではないですか?同じことを繰り返せば…」
タイム「馬鹿なことを言うな 2度と…!」

大時計を覗いた時 会話する2人を見つけたライカスはバルコニーに向かった
タイムが背後に来たライカスに気づき振り向くと 気づかれたことに驚いた彼と目があった

ライカス「何の話を?」
タイム「…ちょっとした話し合いだ」

タイムは一歩ライカスに近づき 同じ目線の彼と目を合わせたままでいる

ライカス「どうしたんだ」
タイム「…お前は大きくなった 他人よりも針が進むのが遅くとも やがて止まる日が来る…いつかまた巡り合うとしても それはまた数十年後になる ライカス アンダーランド人たちのように お前もいつかまた最後の時を刻むのか…?私たちのように 永遠の時を…生きるのはだめなのだろうか」

タイムの話し方は どこか怒っているようだった 表情は辛そうだが 責められている気分になる

ライカス「…確かに僕は永遠じゃないけど みんなそうだ 誰しもいつかは全てを失う 僕もその1人だ いつか必ず 終わりの日は来る 時間はそういうものだろう?止まらず流れる 否応なしに…でもそれまでの間 僕は君から離れないよ 君がしてくれたように」

ウィルキンズはタイムとライカスの顔を交互に見て 何か焦っている
タイムの機嫌があまり良くないようだった

ライカス「タイムもウィルキンズも 僕がいつか死ぬから…嫌なのか?」
タイム「…な…なに?」
ライカス「時が止まっても 眠る場所は君が守ってくれている そう思えば 永遠でなくても 悲しくない…僕は」

タイムは何も言わず ライカスの横を通りその場から離れてしまう
ライカスはしゃがんでウィルキンズに顔を近づける

ライカス「なんか変だったけど どうしたんだ?」
ウィル「いやぁ私にはなんとも…」

さらに時が過ぎた時


城全体が揺れるような感覚がする
セカンズたちが大慌てで大時計の方へ向かう
ただならぬ様子にライカスも後を追うと タイムが大時計の中央に向かって叫んでいる

タイム「捕まえろ!クロノスフィアを取り返せ!」

タイムが見ている方向にミニッツから逃げる1人のアンダーランド人の男性がいた
台座の方を見るとクロノスフィアが無い

タイム「あぁまずい 大時計の外に…」

身軽な男は追っ手を振り払い 落ち着いて乗れる場所を探しているのか 起動の方法を知らないのか ひたすら城の中を走って逃げる
自分が使いたいのでは無いのかもしれない 手に持ったままでいる

ライカス「タイム…!」
タイム「すぐに奪い返さなければ…もし過去の自分の姿を見てしまえば歴史が破壊される!」
ライカス「僕がやる ミニッツ!」
タイム「あまり安全では…」
ライカス「任せてくれ!」

タイムは少し悩んだ後ウィルキンズやセカンズたちに指示を出しながらライカスを援護させた
男は本来辿り着きたかった 元来た道を見失ったのか慌てながら上へ下へと移動する その背後を追うライカスとミニッツたちは決して見失わないように協力しあいながら追っていた

「邪魔するな!助けないといけない人がいるんだよ!」
ライカス「クロノスフィアを使っても過去は変えられないぞ!タイムがそう言っている!」

ぐるぐると城中逃げ回るうちに また大時計前にまで戻ってきてしまった 男は内部に逃げ込み 梯子を登り 歯車をものともせず奥へ進もうとする
セカンズ用の幅の狭い通路の上で ライカスはようやく男に追いつくと 男はバランスを崩し 落ちないようにするために咄嗟に床に手をつこうとして 空中でクロノスフィアを手放してしまう

男とライカスの“あ”という声が重なる
男は尻もちをついてしまい落ちかける クロノスフィアは宙を舞う

このままではクロノスフィアは大時計内部に落ちていってしまう この下にも機構が広がる たくさんの歯車が噛み合う場所に落ちたなら 最悪破壊されてしまうかもしれない

ライカスの行動は誰にも止められなかった
クロノスフィアを目で追い 腕を伸ばし 体をひねりながら 必死にクロノスフィアを掴む 目の前にクロノスフィアの台座が見えるが 視点がどんどん下がる 景色がゆっくりと動くように感じる 台座のある場所には タイムが立っている ギリギリ届くかもしれない距離で ライカスを捕まえようと 手のひらを上にして 下がるライカスの クロノスフィアを掴んでいる手の方を取ろうとした

だがタイムの手に届いたのは クロノスフィアだけだった

タイム「ライカス!!」

大時計の機構の中へライカスが落下する
突然のことで時間を操れないでいたタイムはクロノスフィアを元の場所へ戻し ライカスが落ちたであろう場所へウィルキンズやセカンズたちが急いだ


ウィル「か…閣下!!ライカス様が!」

ようやく辿り着いたタイムは 冷たい地面の上で倒れるライカスの姿を見て 言葉を失った


薄暗い城の下層
ライカスの周りに悲しそうな声で“チク”というセカンズたち
うつ伏せで泣いているウィルキンズ
膝をついてライカスに触れられないでいるタイム


タイムは…ライカスを睨みつける




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