第六章 タイム
フェルの日
今のところ 大時計は崩壊が進みながらもちゃんと正しい時間を示している
扉の上の文字は今は元の色になっている
タイムが戻るまでの間で城自体にいてはいけないのは ウィルキンズたちの行動で物語に必要なことが起きた時だ
今はその時ではないらしいが それでも別の道を作らないために…何より危険を避けるために 城には入らない方が良さそうだった
しばらく経ち ギュスターヴが集会所へ入ってきた
ダステ「何をしているんだ?」
ゼロ「…今タイムの物語の最中で 見守り中 もしかしたらがあるから…私が関わったことで…起こる変化…今まで大丈夫でも この世界は私の力が及ばない部分も多い」
ゼロがもう一度力を使い 集会所に今の映像を映そうとタイムの扉の前に立つ
すると扉の文字が赤く光ると同時に大きく揺れ 時刻を示す数字がわけのわからない時間になり数字が大きくなったり小さくなったり 異様な動きをし始めた
ゼロ「何…これ」
ゼロが慌てて反対側の壁に現在の大時計前の様子を映し出し ギュスターヴも振り向き見る
大時計の崩壊は酷く 以前一時クロノスフィアを台座から取り外した時とは比べ物にならない状態になっている
針は全てめちゃくちゃな動きをしており ウィルキンズが狼狽えている 油差しのセカンズが回る長針の上で文字盤の彫刻にノズルをカンカンと当てながら なんとか減速させようとしていると 大時計の動きは落ち着きを取り戻し 元の時間を示し動き始めた
ウィルキンズは大時計のマニュアルはどこだと叫ぶが セカンズたちは大時計の状態維持に必死になっている
ウィル「誰か場所がわかる者はいないのか!?本棚を探す者は!」
集会所でその様子を見ていたゼロも焦っていた
ゼロ「おかしい 誰もマニュアルの場所がわかってない…?わけのわからない場所を探してる…見逃して違う場所に移動したのか…?このままだと次の暴走に対処できない…!」
腕を横に振り映像を消す 文字が元に戻るのを扉の前で深刻な顔で待つ
ダステ「手伝いに行くのか」
ゼロ「本の場所が違う原因が 私にあるかもしれない 最近アンダーランドの本をいくつか書斎に持ってきてた 彼は…私が大時計に興味があるのを知ってる 私のせいでアンダーランドを崩壊させるわけにいかない」
ダステ「私にできることは」
ゼロ「書斎を探して もし時計の絵が表紙にある分厚い本があればそれがマニュアル 私は図書室を探す…」
もう一度扉の上を見ると文字が元に戻っている
ゼロは手を握って開く動作を2回行い
ゼロ「テレポート!」
それぞれの目的地への瞬間移動を発動させた
フェルの日 雪の降るウィッツエンド
この頃まだ小さな国だった
この日の午前中イラスベスとミラーナは2人でタイムの城に遊びに来ていた
まだ幼い姉妹にとって 城内はタイムと遊ぶ場所だった
彼の庭園は広く 楽しそうに走り回る姉妹の元にタネを植えた植木鉢を運ぶタイムがやってきた
イラスベス「チクタク!ねぇお花咲かせて!」
ミラーナ「咲かせてチクタク!」
彼女たちがつけた愛称で呼ばれ タイムは植木鉢に種を植え地面に置き その前に膝をつく
イラスベスとミラーナも植木鉢の前に膝をついて前のめりに覗き込んだ
タイム「いくぞ 何の花か当ててごらん」
植木鉢の上で円を描くと 芽が出てきてからはどんどん伸びて大きくなり やがて蕾になる
イラスベス「わかったわ!バラよ!」
タイムは笑顔のまま答えを言いはしなかったが 一緒に咲くのを見ていた
赤い薔薇が綺麗に開くと イラスベスとミラーナは歓声を上げてタイムと植木鉢の周りをぐるぐる走り回る
タイム「イラスベス ミラーナ そんなに走って目がまわらないのか?」
イラスベス「全然!」
ミラーナ「ぜんぜーん!」
イラスベスとミラーナはタイムの手を引かれ庭園の外へ行き 大時計の前まで一緒に歩いた
タイム「守るべき約束の話は覚えているか?」
イラスベス「お母様が教えてくれたわ!私もミラーナも」
ミラーナも頷く
エルズメアはよく言い聞かせてくれていると安心し 城の中を走る2人を見守った
この王家がタイムと出会って以来 受け継がれてきた約束
王位を継承するイラスベスにはこの約束以外にも大きな責任を背負うこととなる
明るい鐘の音が鳴ると タイムは音のする方を見た 楽しそうに駆け回っていた姉妹も気づき どこから音がするのか辺りを見ていた
タイム「ウィルキンズ!」
タイムが呼ぶと ウィルキンズは急いでタイムの元へ走ってくる イラスベスとミラーナがいることに気づくと軽くお辞儀をしてからタイムの前で背筋を伸ばす
ウィル「王女様のお側にいれば良いのですね」
タイム「祝福の鐘だからな 頼んだぞ」
2人をウィルキンズに任せてどこかへ行こうとするタイムだったが イラスベスとミラーナは彼のマントにしがみつき引き留めた
イラスベス「祝福の鐘ってなぁに?」
タイム「あぁ…命が宿った時鳴る鐘だ 時計を確認したいんだが…」
ミラーナ「ついてく」
タイム「いや あの部屋は…他のアンダーランド人の時計もあるからダメだ 危ない」
歩き出そうとするタイムだが姉妹はマントにしがみついたままついてくる
この2人を納得させるために時間を割けないと考えた彼は そのまま2人を横で歩かせ その後をウィルキンズもついて行った
生者の部屋の前でウィルキンズと一緒にいるように言われた2人は 生者の部屋へ入るタイムを見送った
タイム「さて…と」
生者の部屋の奥にある太陽を模った床の上に立つ そこにはひとつ懐中時計が降りてきていた タイムはその懐中時計を手に取り その上に手をかざし 回す
すると時計は動き出す 蓋に書かれた名前を読み上げると時計は上へ登って行った
生者の部屋の少し閉じかけた扉の前でその様子を見ていた2人は 見た目では特別凄いことが起きたわけではなかったので 少し残念そうに眺めていた
イラスベス「チクタクは今何をしたの?」
ウィル「祝福です 新しい命の誕生を祝い 名前を呼んであげるんです」
イラスベス「じゃあやるのを忘れたら その子は生まれてこれないの?」
ウィル「いえ ご主人様の力は城中に及びますから ここへ来なくとも時計に命を吹き込むことはできるんですよ 閉じるのは無理ですが」
タイムが部屋から出てくると ウィルキンズがお辞儀をして大時計の方へ歩いて行った
イラスベス「やらなくていいのに なんでやるの?私なら 嫌になっちゃう!」
タイム「お前たちが生まれた時にもこうして祝ったんだがな…」
イラスベス「そうなの?」
タイム「できる限りやっている このことも民に伝える事だぞ それが救いになる者もいるんだ」
イラスベス「…なんで」
タイム「いつかわかる日がくる…さぁ2人とも そろそろ帰る時間だ 時計まで送ろう」
イラスベスとミラーナはタイムに連れられ 時計まで戻り 城へ帰った
夢中で遊ぶうちに日は沈み 時間を見た2人は慌てて城の厨房へ向かった
今日はちょうど城の従者たちに暇を出している日で ほとんどの従者は城にいなかった
そういう日はエルズメアが料理を振る舞う
王の一人娘だった彼女だが 庶民的な王であった両親の影響を受けていた なので昔から従者に頼り切るのではなく 自分でもいろんなことができるようにしていた
その中でも 料理は得意だった
何より姉妹が楽しみにしているのは スイーツだった
幼い2人の王女は 母エルズメアの作るスクワンベリーのタルトが大好きだった
今日も作ってくれる約束をしていたので急いで向かうと すでにお皿の上にはたくさんのベリータルトがのっていた
エルズメア「あら ちゃんと時間通りに帰ってきたわね 召し上がれ」
スイーツ作りの後片付けをする母の背後にあるテーブルの前に立ち お皿の上のタルトを次々取って食べる
小さなミラーナよりイラスベスの方が食べるのが早く ミラーナが1つ食べるうちに皿の上から3つのタルトが消えた
どんどん食べているうちに最後の1個になっていた
それが食べたくて喧嘩し始めた姉妹をエルズメアは叱り タルトはもうおしまいだと言われた姉妹は残念そうに部屋を出て行った
イラスベスはアリを捕まえようと城の庭へ向かい ミラーナは反対方向へ進んだ後 急いで厨房に戻り こっそりと最後のタルトを掴んで持って行った
姉妹の部屋に戻り 急いで食べると タルトはボロボロ崩れて欠片が床に落ちる
それを足で蹴ってベッドの下に入れる だがそのベッドはイラスベスのベッドだった
その直後イラスベスが部屋に入ってきて ミラーナに声をかけたが ミラーナは別に何もしていなかったと伝え 慌てて外へ出て行った 首を傾げなら 彼女はアリの巣箱に新しいアリを加えていた 小さいものが好きなイラスベスにとって大事なペットだ
巣に入って行くアリを見ていると エルズメアに連れられたミラーナが2人で部屋に入ってきた
怒った様子の母が急にやってきたので 何事だろうかとイラスベスは不思議そうな顔をした
エルズメア「もうタルトはダメだと言ったのに」
イラスベス「私何も知らない」
エルズメアは部屋の中を見る するとイラスベスのベッドの下のタルトの屑を見つけ指摘する そこにさっきまでミラーナがいたのを知っているイラスベスはミラーナが犯人だと母に言う
エルズメア「あなたなの?ミラーナ」
イラスベス「言いなさいよ」
ミラーナは母を見た後 下を向いた
小さな小さなミラーナは 母に叱られるのが嫌だった
ミラーナ「……いいえ」
首を横に振りながら 母の顔を見て言う
イラスベスは彼女を嘘つきだと言うが イラスベスのベッドの下にタルトが落ちていたのでエルズメアはイラスベスだと思っている
イラスベス「ひどいわ あんまりよ!」
そう言いながらイラスベスは部屋を飛び出した
慌ててエルズメアは後を追うが追いつけない
1人部屋に残されたミラーナはベッドの下を見ていた
…その様子をタイムは城の中で見ていた
ウィルキンズから機械の調子があまり良く無いと報告を受け 確認して再起動させたところ ちょうどエルズメアとミラーナが姉妹の部屋に怒りながら入る様子が映り 手を止めて見ていた
広い室内に弧を描いて操作台があり 3台の機械と繋がっていた
機械は上の巨大な注ぎ口から水が流れ 下の受け皿に落ちていて 3本の滝が流れるようだったが 水の流れは穏やかで 真ん中あたりが球体になるように膨らむ形で流れていた
タイムがそれぞれの機械の前に立ちレバーを操作すると 左右の水は止まり 真ん中の水だけが流れ続ける
真ん中に戻り操作台を見る そこにはいくつかのレバーと 中央に丸くくり抜かれた場所があり その中には線だけで描かれた動く絵があった
絵の上には横長の長方形にくり抜かれた穴があり そこにはフェルと書かれている
操作台の中には預言書と同じものが入っているようで それを見れる穴が空いているらしかった
真ん中だけ流れる水は球状になっている部分に“今”が映されていた
たまたまその瞬間を目撃していたタイムはそこに映ったやりとりを見ていた
外へ飛び出したイラスベスは雪のウィッツエンドを走る まっすぐ行った先には広場がある
18時の鐘が鳴る頃だった
ちょうどイラスベスの進行方向に 柱時計を2人がかりで運ぶカエルたちが歩いていた
ぶつかるかもしれない…そう思っていると カエルたちに向かって女性が飛びかかる
その出来事に驚いて目を向けていると イラスベスは足を滑らせ 広場中央にある王の石像の台座に飛び込む形で転んでしまう
強く頭を打ちつけ 仰向けになって倒れる彼女は台座に植えられた白い薔薇を見て景色がぼやけているのだとわかった
人々は倒れたのが王女だと気づき驚きのあまり恐る恐る近づくことになる
心配していると 彼女の頭が腫れて大きくなったと誰かが指摘した
そこへ飛び出したイラスベスを探すために外へ出てきたオレロンとエルズメア ミラーナが広場へ着いた
民が囲む中にイラスベスが倒れていることに気づいたオレロンとミラーナは駆け寄り 父はイラスベスを抱き上げて城へ急いだ
呆然と姉の倒れていた場所を見つめ涙を流すミラーナの手を引き エルズメアも城へ急いで戻った
タイムはフェルの日の絵に姉妹が描かれているのを見た
イラスベスが転んだ瞬間 タイムが腕を伸ばしたが ウィルキンズが飛び出してレバーを動かし水を止めた
ウィル「ご主人様…!」
タイム「それ以上言うな 何もしていない」
ウィル「ですが 今イラスベス様を止めようと…」
タイム「咄嗟に…だが…赤い文字が…」
数十分前のこと アリスはフェルの日へ着いた
彼女はまだ幼いアンダーランドの友人たちを見つけ 微笑ましい光景を見たあと すぐに広場へ向かおうとした
トゥーマリーの日のミラーナはフェルの日 18時の鐘が鳴った時 姉が広場で頭を打ったと言っていた
時間までに広場に行き その過去を変えようとしていたのだった
ただその前に幼いハッターに声をかけられ 断れないまま彼の家族の店へ案内された
そこでハッターが将来タルジーの森で見つけ 家族の無事を信じることとなった青い帽子を父親に見せるのを側で見ていた
しかし父ザニックはその紙製の帽子を少し修正しようとしていた時に力を込めすぎて破いてしまう
悲しそうにするハッターだったが ザニックは明日本物の帽子の作り方を教えるからと破れてしまった小さな帽子を捨ててしまう
ハッターは泣きながら上に上がって行く
ザニックはハッターに才能があると思い厳しく職人にしようとしていたが 初めての帽子をただ褒めて欲しかったハッターには伝わらなかった
その後ザニックに話しかけられたアリスだったが 時計を見ると18時になろうとしていたので急いで帽子店を後にする
18時の鐘が鳴り 広場を見回す
向こうから走ってくる赤髪の少女を見て それがイラスベスだと確信する
そしてカエルたちの運ぶ時計に頭をぶつけてしまうと思ったアリスは慌ててカエルたちに向かって飛び込む
時計は地面に落ち割れて壊れるが イラスベスは足を滑らせ転び 叫びながら石像に頭をぶつけてしまう
フェルの日 イラスベスが広場で頭をぶつける…
アリスは立ち上がり 過去は変えられないのだと思い知る
そして同じくフェルの日に追いつき それを見ていたタイムは アリスがなぜこの日に来たのか その行動を見て知った
過去を変えようとする無意味さと愚かさを見せつけられた時タイムは胸の時計の痛みを強く感じた
タイムはアリスの腕を掴み 側の時計店の中へ引きずり込む
アリスを睨みつける顔は老けたようにも見えるシワが増え 目の周りの黒い隈はアリスの知らないトゥーマリーの日での出来事の時よりも もっと酷くなっていた
彼の表情から余裕が無くなるほど追い詰められていた アリスはようやく事の重大さに気づいた クロノスフィアを失った事で 彼は死にかけている
タイム「お前の愚かさには驚かされる…」
タイムは苦しそうに喋りながら ゆっくりとアリスに近づく 後ずさるが 出入り口はタイムの背後だ
タイム「まるでわかっていないようだな…この行為がどれほど無謀で 万物を危険に……」
喋るほど苦しむタイムは強い痛みを感じ胸を抑える
この時 ウィルキンズが焦りマニュアルはどこかと叫ぶような大時計の暴走が起こっていた
タイムは痛みに苦しみ 側の棚に手をつく
店の中の時計の針が全て勢いよく回り 文字盤を覆うガラスにヒビが入ったり サビに染まる
現在において大時計が落ち着くと この時代のタイムの痛みも治った
店の中の時計が元に戻り動き始めたのを見た後下を向き 息を整え顔を上げ 殺気立った顔でアリスを睨む
青い目は少し灰色を帯びていた
タイム「クロノスフィアを返せ…今すぐに…大時計の元へ戻さなければならん…!」
アリス「お願い あと1度だけ使わせて!」
追い詰められたアリスは台の上に登りながらタイムに訴えかける 彼女も友達のために必死だった
アリス「ホルベンダッシュの日に戻ってハイトップ一家を救いたいの…」
タイム「そんなことをしても誰も救えない どこへ行っても無駄だ…私が必ず見つけ出す」
アリスは右側にある鏡の表面が水面のように少し揺れるのを見た
タイム「大時計を止めるわけにはいかない…時間からは絶対に逃げられんぞ…!」
アリスはタイムを見た
逃げ場はないはずだった そしてどこへ行っても クロノスフィアを取り戻すまで逃しはしないつもりだった
アリス「…ごめんなさい」
だがアリスはそう言ったあと 強くクロノスフィアを握りしめたまま横の鏡の中へ入っていってしまう
鏡はアンダーランドとアリスの住む世界を繋ぐ タイムが待つように言うが アリスは行ってしまった
タイムも同じように入ろうとしたが 予想通り通ることはできなかった
タイム「クロノスフィア…どこに…」
こうなってはタイムであっても行き先がわからない 追い詰められたタイムは急いで店の外へ出た
一度城の方を見たあと 船を置いてきた場所へ向かう
船を起こし 時間の海へ戻る 波は荒く 雷まで発生している
胸の痛みは消えない もう残り時間は少ない
タイム「彼女なら…もしかしたらアリスの居場所を…!」
タイムは“今”に向かって進んでいった
END
今のところ 大時計は崩壊が進みながらもちゃんと正しい時間を示している
扉の上の文字は今は元の色になっている
タイムが戻るまでの間で城自体にいてはいけないのは ウィルキンズたちの行動で物語に必要なことが起きた時だ
今はその時ではないらしいが それでも別の道を作らないために…何より危険を避けるために 城には入らない方が良さそうだった
しばらく経ち ギュスターヴが集会所へ入ってきた
ダステ「何をしているんだ?」
ゼロ「…今タイムの物語の最中で 見守り中 もしかしたらがあるから…私が関わったことで…起こる変化…今まで大丈夫でも この世界は私の力が及ばない部分も多い」
ゼロがもう一度力を使い 集会所に今の映像を映そうとタイムの扉の前に立つ
すると扉の文字が赤く光ると同時に大きく揺れ 時刻を示す数字がわけのわからない時間になり数字が大きくなったり小さくなったり 異様な動きをし始めた
ゼロ「何…これ」
ゼロが慌てて反対側の壁に現在の大時計前の様子を映し出し ギュスターヴも振り向き見る
大時計の崩壊は酷く 以前一時クロノスフィアを台座から取り外した時とは比べ物にならない状態になっている
針は全てめちゃくちゃな動きをしており ウィルキンズが狼狽えている 油差しのセカンズが回る長針の上で文字盤の彫刻にノズルをカンカンと当てながら なんとか減速させようとしていると 大時計の動きは落ち着きを取り戻し 元の時間を示し動き始めた
ウィルキンズは大時計のマニュアルはどこだと叫ぶが セカンズたちは大時計の状態維持に必死になっている
ウィル「誰か場所がわかる者はいないのか!?本棚を探す者は!」
集会所でその様子を見ていたゼロも焦っていた
ゼロ「おかしい 誰もマニュアルの場所がわかってない…?わけのわからない場所を探してる…見逃して違う場所に移動したのか…?このままだと次の暴走に対処できない…!」
腕を横に振り映像を消す 文字が元に戻るのを扉の前で深刻な顔で待つ
ダステ「手伝いに行くのか」
ゼロ「本の場所が違う原因が 私にあるかもしれない 最近アンダーランドの本をいくつか書斎に持ってきてた 彼は…私が大時計に興味があるのを知ってる 私のせいでアンダーランドを崩壊させるわけにいかない」
ダステ「私にできることは」
ゼロ「書斎を探して もし時計の絵が表紙にある分厚い本があればそれがマニュアル 私は図書室を探す…」
もう一度扉の上を見ると文字が元に戻っている
ゼロは手を握って開く動作を2回行い
ゼロ「テレポート!」
それぞれの目的地への瞬間移動を発動させた
フェルの日 雪の降るウィッツエンド
この頃まだ小さな国だった
この日の午前中イラスベスとミラーナは2人でタイムの城に遊びに来ていた
まだ幼い姉妹にとって 城内はタイムと遊ぶ場所だった
彼の庭園は広く 楽しそうに走り回る姉妹の元にタネを植えた植木鉢を運ぶタイムがやってきた
イラスベス「チクタク!ねぇお花咲かせて!」
ミラーナ「咲かせてチクタク!」
彼女たちがつけた愛称で呼ばれ タイムは植木鉢に種を植え地面に置き その前に膝をつく
イラスベスとミラーナも植木鉢の前に膝をついて前のめりに覗き込んだ
タイム「いくぞ 何の花か当ててごらん」
植木鉢の上で円を描くと 芽が出てきてからはどんどん伸びて大きくなり やがて蕾になる
イラスベス「わかったわ!バラよ!」
タイムは笑顔のまま答えを言いはしなかったが 一緒に咲くのを見ていた
赤い薔薇が綺麗に開くと イラスベスとミラーナは歓声を上げてタイムと植木鉢の周りをぐるぐる走り回る
タイム「イラスベス ミラーナ そんなに走って目がまわらないのか?」
イラスベス「全然!」
ミラーナ「ぜんぜーん!」
イラスベスとミラーナはタイムの手を引かれ庭園の外へ行き 大時計の前まで一緒に歩いた
タイム「守るべき約束の話は覚えているか?」
イラスベス「お母様が教えてくれたわ!私もミラーナも」
ミラーナも頷く
エルズメアはよく言い聞かせてくれていると安心し 城の中を走る2人を見守った
この王家がタイムと出会って以来 受け継がれてきた約束
王位を継承するイラスベスにはこの約束以外にも大きな責任を背負うこととなる
明るい鐘の音が鳴ると タイムは音のする方を見た 楽しそうに駆け回っていた姉妹も気づき どこから音がするのか辺りを見ていた
タイム「ウィルキンズ!」
タイムが呼ぶと ウィルキンズは急いでタイムの元へ走ってくる イラスベスとミラーナがいることに気づくと軽くお辞儀をしてからタイムの前で背筋を伸ばす
ウィル「王女様のお側にいれば良いのですね」
タイム「祝福の鐘だからな 頼んだぞ」
2人をウィルキンズに任せてどこかへ行こうとするタイムだったが イラスベスとミラーナは彼のマントにしがみつき引き留めた
イラスベス「祝福の鐘ってなぁに?」
タイム「あぁ…命が宿った時鳴る鐘だ 時計を確認したいんだが…」
ミラーナ「ついてく」
タイム「いや あの部屋は…他のアンダーランド人の時計もあるからダメだ 危ない」
歩き出そうとするタイムだが姉妹はマントにしがみついたままついてくる
この2人を納得させるために時間を割けないと考えた彼は そのまま2人を横で歩かせ その後をウィルキンズもついて行った
生者の部屋の前でウィルキンズと一緒にいるように言われた2人は 生者の部屋へ入るタイムを見送った
タイム「さて…と」
生者の部屋の奥にある太陽を模った床の上に立つ そこにはひとつ懐中時計が降りてきていた タイムはその懐中時計を手に取り その上に手をかざし 回す
すると時計は動き出す 蓋に書かれた名前を読み上げると時計は上へ登って行った
生者の部屋の少し閉じかけた扉の前でその様子を見ていた2人は 見た目では特別凄いことが起きたわけではなかったので 少し残念そうに眺めていた
イラスベス「チクタクは今何をしたの?」
ウィル「祝福です 新しい命の誕生を祝い 名前を呼んであげるんです」
イラスベス「じゃあやるのを忘れたら その子は生まれてこれないの?」
ウィル「いえ ご主人様の力は城中に及びますから ここへ来なくとも時計に命を吹き込むことはできるんですよ 閉じるのは無理ですが」
タイムが部屋から出てくると ウィルキンズがお辞儀をして大時計の方へ歩いて行った
イラスベス「やらなくていいのに なんでやるの?私なら 嫌になっちゃう!」
タイム「お前たちが生まれた時にもこうして祝ったんだがな…」
イラスベス「そうなの?」
タイム「できる限りやっている このことも民に伝える事だぞ それが救いになる者もいるんだ」
イラスベス「…なんで」
タイム「いつかわかる日がくる…さぁ2人とも そろそろ帰る時間だ 時計まで送ろう」
イラスベスとミラーナはタイムに連れられ 時計まで戻り 城へ帰った
夢中で遊ぶうちに日は沈み 時間を見た2人は慌てて城の厨房へ向かった
今日はちょうど城の従者たちに暇を出している日で ほとんどの従者は城にいなかった
そういう日はエルズメアが料理を振る舞う
王の一人娘だった彼女だが 庶民的な王であった両親の影響を受けていた なので昔から従者に頼り切るのではなく 自分でもいろんなことができるようにしていた
その中でも 料理は得意だった
何より姉妹が楽しみにしているのは スイーツだった
幼い2人の王女は 母エルズメアの作るスクワンベリーのタルトが大好きだった
今日も作ってくれる約束をしていたので急いで向かうと すでにお皿の上にはたくさんのベリータルトがのっていた
エルズメア「あら ちゃんと時間通りに帰ってきたわね 召し上がれ」
スイーツ作りの後片付けをする母の背後にあるテーブルの前に立ち お皿の上のタルトを次々取って食べる
小さなミラーナよりイラスベスの方が食べるのが早く ミラーナが1つ食べるうちに皿の上から3つのタルトが消えた
どんどん食べているうちに最後の1個になっていた
それが食べたくて喧嘩し始めた姉妹をエルズメアは叱り タルトはもうおしまいだと言われた姉妹は残念そうに部屋を出て行った
イラスベスはアリを捕まえようと城の庭へ向かい ミラーナは反対方向へ進んだ後 急いで厨房に戻り こっそりと最後のタルトを掴んで持って行った
姉妹の部屋に戻り 急いで食べると タルトはボロボロ崩れて欠片が床に落ちる
それを足で蹴ってベッドの下に入れる だがそのベッドはイラスベスのベッドだった
その直後イラスベスが部屋に入ってきて ミラーナに声をかけたが ミラーナは別に何もしていなかったと伝え 慌てて外へ出て行った 首を傾げなら 彼女はアリの巣箱に新しいアリを加えていた 小さいものが好きなイラスベスにとって大事なペットだ
巣に入って行くアリを見ていると エルズメアに連れられたミラーナが2人で部屋に入ってきた
怒った様子の母が急にやってきたので 何事だろうかとイラスベスは不思議そうな顔をした
エルズメア「もうタルトはダメだと言ったのに」
イラスベス「私何も知らない」
エルズメアは部屋の中を見る するとイラスベスのベッドの下のタルトの屑を見つけ指摘する そこにさっきまでミラーナがいたのを知っているイラスベスはミラーナが犯人だと母に言う
エルズメア「あなたなの?ミラーナ」
イラスベス「言いなさいよ」
ミラーナは母を見た後 下を向いた
小さな小さなミラーナは 母に叱られるのが嫌だった
ミラーナ「……いいえ」
首を横に振りながら 母の顔を見て言う
イラスベスは彼女を嘘つきだと言うが イラスベスのベッドの下にタルトが落ちていたのでエルズメアはイラスベスだと思っている
イラスベス「ひどいわ あんまりよ!」
そう言いながらイラスベスは部屋を飛び出した
慌ててエルズメアは後を追うが追いつけない
1人部屋に残されたミラーナはベッドの下を見ていた
…その様子をタイムは城の中で見ていた
ウィルキンズから機械の調子があまり良く無いと報告を受け 確認して再起動させたところ ちょうどエルズメアとミラーナが姉妹の部屋に怒りながら入る様子が映り 手を止めて見ていた
広い室内に弧を描いて操作台があり 3台の機械と繋がっていた
機械は上の巨大な注ぎ口から水が流れ 下の受け皿に落ちていて 3本の滝が流れるようだったが 水の流れは穏やかで 真ん中あたりが球体になるように膨らむ形で流れていた
タイムがそれぞれの機械の前に立ちレバーを操作すると 左右の水は止まり 真ん中の水だけが流れ続ける
真ん中に戻り操作台を見る そこにはいくつかのレバーと 中央に丸くくり抜かれた場所があり その中には線だけで描かれた動く絵があった
絵の上には横長の長方形にくり抜かれた穴があり そこにはフェルと書かれている
操作台の中には預言書と同じものが入っているようで それを見れる穴が空いているらしかった
真ん中だけ流れる水は球状になっている部分に“今”が映されていた
たまたまその瞬間を目撃していたタイムはそこに映ったやりとりを見ていた
外へ飛び出したイラスベスは雪のウィッツエンドを走る まっすぐ行った先には広場がある
18時の鐘が鳴る頃だった
ちょうどイラスベスの進行方向に 柱時計を2人がかりで運ぶカエルたちが歩いていた
ぶつかるかもしれない…そう思っていると カエルたちに向かって女性が飛びかかる
その出来事に驚いて目を向けていると イラスベスは足を滑らせ 広場中央にある王の石像の台座に飛び込む形で転んでしまう
強く頭を打ちつけ 仰向けになって倒れる彼女は台座に植えられた白い薔薇を見て景色がぼやけているのだとわかった
人々は倒れたのが王女だと気づき驚きのあまり恐る恐る近づくことになる
心配していると 彼女の頭が腫れて大きくなったと誰かが指摘した
そこへ飛び出したイラスベスを探すために外へ出てきたオレロンとエルズメア ミラーナが広場へ着いた
民が囲む中にイラスベスが倒れていることに気づいたオレロンとミラーナは駆け寄り 父はイラスベスを抱き上げて城へ急いだ
呆然と姉の倒れていた場所を見つめ涙を流すミラーナの手を引き エルズメアも城へ急いで戻った
タイムはフェルの日の絵に姉妹が描かれているのを見た
イラスベスが転んだ瞬間 タイムが腕を伸ばしたが ウィルキンズが飛び出してレバーを動かし水を止めた
ウィル「ご主人様…!」
タイム「それ以上言うな 何もしていない」
ウィル「ですが 今イラスベス様を止めようと…」
タイム「咄嗟に…だが…赤い文字が…」
数十分前のこと アリスはフェルの日へ着いた
彼女はまだ幼いアンダーランドの友人たちを見つけ 微笑ましい光景を見たあと すぐに広場へ向かおうとした
トゥーマリーの日のミラーナはフェルの日 18時の鐘が鳴った時 姉が広場で頭を打ったと言っていた
時間までに広場に行き その過去を変えようとしていたのだった
ただその前に幼いハッターに声をかけられ 断れないまま彼の家族の店へ案内された
そこでハッターが将来タルジーの森で見つけ 家族の無事を信じることとなった青い帽子を父親に見せるのを側で見ていた
しかし父ザニックはその紙製の帽子を少し修正しようとしていた時に力を込めすぎて破いてしまう
悲しそうにするハッターだったが ザニックは明日本物の帽子の作り方を教えるからと破れてしまった小さな帽子を捨ててしまう
ハッターは泣きながら上に上がって行く
ザニックはハッターに才能があると思い厳しく職人にしようとしていたが 初めての帽子をただ褒めて欲しかったハッターには伝わらなかった
その後ザニックに話しかけられたアリスだったが 時計を見ると18時になろうとしていたので急いで帽子店を後にする
18時の鐘が鳴り 広場を見回す
向こうから走ってくる赤髪の少女を見て それがイラスベスだと確信する
そしてカエルたちの運ぶ時計に頭をぶつけてしまうと思ったアリスは慌ててカエルたちに向かって飛び込む
時計は地面に落ち割れて壊れるが イラスベスは足を滑らせ転び 叫びながら石像に頭をぶつけてしまう
フェルの日 イラスベスが広場で頭をぶつける…
アリスは立ち上がり 過去は変えられないのだと思い知る
そして同じくフェルの日に追いつき それを見ていたタイムは アリスがなぜこの日に来たのか その行動を見て知った
過去を変えようとする無意味さと愚かさを見せつけられた時タイムは胸の時計の痛みを強く感じた
タイムはアリスの腕を掴み 側の時計店の中へ引きずり込む
アリスを睨みつける顔は老けたようにも見えるシワが増え 目の周りの黒い隈はアリスの知らないトゥーマリーの日での出来事の時よりも もっと酷くなっていた
彼の表情から余裕が無くなるほど追い詰められていた アリスはようやく事の重大さに気づいた クロノスフィアを失った事で 彼は死にかけている
タイム「お前の愚かさには驚かされる…」
タイムは苦しそうに喋りながら ゆっくりとアリスに近づく 後ずさるが 出入り口はタイムの背後だ
タイム「まるでわかっていないようだな…この行為がどれほど無謀で 万物を危険に……」
喋るほど苦しむタイムは強い痛みを感じ胸を抑える
この時 ウィルキンズが焦りマニュアルはどこかと叫ぶような大時計の暴走が起こっていた
タイムは痛みに苦しみ 側の棚に手をつく
店の中の時計の針が全て勢いよく回り 文字盤を覆うガラスにヒビが入ったり サビに染まる
現在において大時計が落ち着くと この時代のタイムの痛みも治った
店の中の時計が元に戻り動き始めたのを見た後下を向き 息を整え顔を上げ 殺気立った顔でアリスを睨む
青い目は少し灰色を帯びていた
タイム「クロノスフィアを返せ…今すぐに…大時計の元へ戻さなければならん…!」
アリス「お願い あと1度だけ使わせて!」
追い詰められたアリスは台の上に登りながらタイムに訴えかける 彼女も友達のために必死だった
アリス「ホルベンダッシュの日に戻ってハイトップ一家を救いたいの…」
タイム「そんなことをしても誰も救えない どこへ行っても無駄だ…私が必ず見つけ出す」
アリスは右側にある鏡の表面が水面のように少し揺れるのを見た
タイム「大時計を止めるわけにはいかない…時間からは絶対に逃げられんぞ…!」
アリスはタイムを見た
逃げ場はないはずだった そしてどこへ行っても クロノスフィアを取り戻すまで逃しはしないつもりだった
アリス「…ごめんなさい」
だがアリスはそう言ったあと 強くクロノスフィアを握りしめたまま横の鏡の中へ入っていってしまう
鏡はアンダーランドとアリスの住む世界を繋ぐ タイムが待つように言うが アリスは行ってしまった
タイムも同じように入ろうとしたが 予想通り通ることはできなかった
タイム「クロノスフィア…どこに…」
こうなってはタイムであっても行き先がわからない 追い詰められたタイムは急いで店の外へ出た
一度城の方を見たあと 船を置いてきた場所へ向かう
船を起こし 時間の海へ戻る 波は荒く 雷まで発生している
胸の痛みは消えない もう残り時間は少ない
タイム「彼女なら…もしかしたらアリスの居場所を…!」
タイムは“今”に向かって進んでいった
END