第六章 タイム
トゥーマリーの日
時間の海でアリスに追いついたタイムが調子に乗っていると波にのまれた…その頃
ゼロ「…じゃあ私は集会所に戻るよ エターナルの時はまだ半分も行っていなかったから大丈夫だったけれど…間に合うよう祈っているよ」
ウィル「我々も全力を尽くします ご主人様なら必ず取り戻せますよ 無敵ですから」
ゼロ「確かに…そうだね」
ゼロがその場から姿を消すと ウィルキンズはセコンズを集め始めた
アリスはタイムにクロノスフィアに衝突され…本来向かいたかったホルベンダッシュの日を通り越し さらに過去のトゥーマリーの日が映る海に飛び込むことになった
ホルベンダッシュの日は赤の女王がジャバウォッキーを従え タルジーの森での祭りを襲撃した日のことで ジャバウォッキーへの唯一の対抗手段であるヴォーパルの剣は奪われ それを扱う白の騎士は殺され 森は焼かれ 祭りに参加していた人々が犠牲になった
赤の女王は白の女王から王位と王冠を奪い アンダーランドの支配者となった
アリスの友人であるマッドハッター…本名タラント・ハイトップは先祖代々王家に使える帽子職人の一家の1人だったが この日にジャバウォッキーによって家族全員を殺されてしまっていた
赤の女王による統治の時代が終わったある時タルジーの森を訪れていたマッドハッターは 偶然あるものを見つける
それは彼がまだ幼い頃父親に見せたことのある紙製の小さな青の帽子 初めて作った帽子だが 捨てられてしまったはずだった
帽子があるということは 家族は生きている けれどそれならなぜ自分に会いに来ないのか…
アリスは悲しい過去に囚われ 弱ってしまったハッターを救うため 家族を助けるためにホルベンダッシュの日に向かいたかった
だがたどり着いたのはトゥーマリーの日
ホルベンダッシュよりもさらに前だった
アリスはまだ幼いアリスにも出会っていない若いハッターと会い 彼に案内されるままにウィッツエンドの城へ向かう
この日は白の女王が成人し行われることとなった王女の戴冠式の日だった
彼女は彼の家族にあらかじめ警告をして悲劇が起きないようにしたかったが その家族は戴冠式のために城にいたのでハッターについて行き 式が終わるのを待つことにした
…ウィッツエンドの民が集まっていた
ハイトップ一族は王冠の作成も行なっており 彼女たちに王冠をのせる役目があった
妹である後の白の女王ミラーナに王冠がのせられる
ウィッツエンドの王 オレロンからの言葉のあと 王妃エルズメアと大勢の民の前で 後の赤の女王…イラスベスに王冠が
しかし彼女の人より大きな頭に王冠のサイズが合わなかった このために調整されていたはずの赤い宝石の王冠だったが ハッターの父は被せられず苦戦していた
その様子にハッターが思わず笑ってしまった
それでも苦戦していると ついに王冠が割れてしまった
バラバラと地面に落ちる宝石
また笑ってしまったハッターの声をきっかけに 他の民も耐えられず 広間が笑い声に包まれる
もちろんイラスベスは怒り 民に叫ぶ
イラスベス「お黙り!みんな笑えなくしてやるよ!」
ついに怒りが頂点に達したイラスベスを 母のエルズメアは嗜めるように
エルズメア「そんなことを言わないの…どうやって笑えないようにするというの」
そう言うと 1人が大きな頭を袋で隠せばいいと笑いながら言う
イラスベス「お前が被りなさいよ!そうよ みんな…口を縫ってやる!その舌を刻んで 耳を切って そうよ!全員の首を…首をハネて…」
オレロン「イラスベス!」
父の言葉に イラスベスは黙る オレロンは怒りと失望の目で彼女を見ていた
オレロン「私は…お前がいつか女王にふさわしい人間になる日を待っていた…だがその日は来ない」
ミラーナは父が何を言い出すのか 不安になった
オレロンは民たちの方を向き
オレロン「ウィッツエンドの民たちよ 私が亡きあと王冠を受け継ぐのは…ミラーナ妃だ」
ざわめく民衆と父にそれはダメだと伝えるミラーナ
イラスベスは自身が長女なのに おかしいと父に訴えるが オレロンの考えは変わらない だからこそ民の前で宣言した
イラスベスは強い怒りと共に 人より少し大きかった頭がより大きくなった 全員に恨んでやると言い ハイトップ家全員を許さないと言い放ち 早歩きでその場を去ろうとする
ミラーナ「お姉様…」
イラスベス「…どうしてみんなにあのことを言わないの?」
そう言われ 何も言えないミラーナにイラスベスは怒りと悲しみを抱いたまま 誰も愛してくれないと嘆き 広間を出て行ってしまう
その後をミラーナとエルズメアが追い オレロンも続いた
騒ぎの後 人々はゆっくりとだが外へ出て行った
部屋に篭ったイラスベスにエルズメアが声をかける ミラーナは姉を怒らせるばかりだと思い 悩みながらもその場を離れ ハイトップ家に謝罪をしようと外へ向かった
オレロン王は広間近くの通路近くにある部屋の中で大鏡の横にある台座の上に置かれた石の受け皿に汲んだ水を流す
オレロン「時の水よ 呼んでくれ」
そう呼びかけると 波紋が浮かび 水が湧き上がるように動く 揺れる水は人型になった
水が動く間に 台座前の椅子に座ったオレロンは深くため息をついた
「王よ どうした」
すると人型の水は声を発した
オレロン「王位継承者をミラーナに決めた やはりイラスベスは国王の器には…」
そう言いオレロンは王冠を外し 手に持つ
「…そうか 自信を持つんだ 君はどれほど悩んで決めたのか私はわかっている イラスベスも今すぐには納得できないかもしれないが 時間をかけて伝えれば…」
オレロン「戴冠式で 民の前で宣言した イラスベスは民に怒るあまり“首をハネよ”と言おうとした あれでは…あの日から あの子は変わってしまった やはり私は…王である以前に父として 何も…」
「オレロン…私はいつでも 君の…君たちの味方だ」
オレロン「…私の亡きあともイラスベスとミラーナの助けになって欲しい 君のできる範囲で…イラスベスが君の元へ行くかはわからないが…時計はきちんと2人に贈る」
水はしばらく何も言わず揺れる
不安そうに揺れる水を見るオレロンに答える
「もちろんだ それが約束だ」
オレロン「王家の約束…そうだな だがこれは私の個人的な願いでもある」
「大丈夫だオレロン 私がついている」
オレロン「…ありがとう タイム」
水は元の通り受け皿に波紋を作り やがてそれも落ち着いて どんどん蒸発し消えた
何もなくなった受け皿と台座を前に オレロンはまたため息をついた
オレロン「フェルの日…」
…ウィッツエンドを統治する王家は特別な柱時計を2台有していた
それはかつてタイムが彼らに与えた無限の空間にある永遠の城へ行ける時計だった
王家との交流だけが タイムにとってアンダーランド人と関われる機会だった
王家はタイムやクロノスフィアのことを正しく民に伝え また城へ行く唯一の手段である時計を代々守り続ける約束をしていた
時計の所在は隠されていたが王家の子は幼い頃から親に許可を得て城を訪れていた
約束が守りタイムを助けることは王家にとってメリットがあった
国がジャバウォッキーの脅威に晒された時 タイムはヴォーパルの剣の在処を教え さらに助けになればと預言書オラキュラムを与えた
タイム「アンダーランドに脅威が訪れた時 預言書は教えてくれるだろう…時に絶望を示そうとも いつかは希望の日は訪れる」
王家は彼に感謝し その約束を守ることとなった
時計と剣と預言書は子孫にも大切に受け継がれた
1人の青年もまた 彼と交流していた
王の騎士団に所属する騎士の一人息子として生まれた彼だったが エルズメア王女に見初められ 多くの人からの期待を受け 立派な王になるために日々の勉強と剣の鍛錬を欠かさないでいた
だがこうして城を訪れる時間を削ることはなかった
王家に使える者として タイムとの交流が王家の義務であることは知っていたが 彼はそれ以上にタイムを尊敬していた
彼は大時計とクロノスフィアを守り アンダーランド人の命の管理も行っている 彼は王家に対しては特に優しかった
彼らが素晴らしい統治者であり タイムに敬意を払っていたからだが 青年が彼を好きになるには十分なほど タイムは素晴らしく見えた
怒らせてはいけない相手だと分かっていたが 青年の振る舞いに タイムを苛立たせる要素は無かった だから彼も安心していた
柱時計の扉を開けると 中に吸い込まれるように空気が流れる
城の中に置かれた柱時計から出てくると すぐにタイムを探した
…オレロンは 王になるまでの間 毎日必ずタイムに会いに来ていた
エルズメアと結婚し 前王の死後王位を継承した後でも彼はタイムに会いに行くのを欠かさなかった
だがいずれ彼の子が時計を受け継げば 以前ほどの頻度で会いには来れないと残念がるオレロンに対し タイムは時間の海の水を枯れない水差しに入れ分け与えた
オレロン「これは?」
タイム「時の水だ 器に注ぎ“時の水よ 呼んでくれ”と言えば ここへ来なくとも私と話せる 何かあればいつでも頼ってくれ」
オレロン「あぁ…ありがとうタイム」
オレロン王もエルズメア王妃もタイムを良き友と思っていた
タイムも2人のことをとても好意的に思っていた タイムと王家の関係は彼らのおかげでより良くなっていた
幼いイラスベスとミラーナも 城を訪れた
昔々の…幸せな記憶…
トゥーマリーの日…戴冠式の後…
笑ってしまったことを叱られたことから話が悪化し ついに父と喧嘩になって家を出ることをその場で決めてしまったハッターをアリスは追っていた
ハッターが父親と喧嘩別れしたままだったことを後悔しており 今のハッターがそうなってしまわないように説得する
だが未来のことを言っても 何も信じてもらえず アリスはハッターを説得するのではなく 家族に警告しようと城へ戻る
城の前ではまさに帰ろうとしているハイトップ夫妻がおり アリスは声をかけるが ミラーナも2人に声をかけた
王女であるミラーナに呼び止められたからには そちらが優先される
その会話の中で アリスはイラスベスがフェルの日に広場で頭を打ち それから人がすっかり変わってしまったことを聞く
それを避ければ イラスベスがあの性格になることもなく この日の出来事もホルベンダッシュの日の出来事も起きなくなる
そう考えたアリスはすぐにフェルの日を目指すため またクロノスフィアに乗り過去へ向かった
一方 不思議なアリスと別れ 友人の三月うさぎサッカリーとヤマネのマリアムキンが住む森の中の家の前で開かれるお茶会に参加していたハッターは これからここで住めばいいとマリアムキンに言われ 励まされていた
長机に白いテーブルクロスを敷き その上にお菓子やフルーツ ポットとお皿とカトラリーを並べ楽しそうに歌う
その上空に青い電流が走り そこから突然タイムの乗った船が現れ タイムが叫びながらハッターたちの背後の風車にぶつかりながら地面に墜落した
タイムは起き上がり 唖然とした表情で彼を見るハッターたちに 人を探していると伝える
ぶつかって投げ出されたにせよ 近い時間には着いたはずだと思っての行動だが 探している人物の名を告げた時 ハッターは彼女を招待していると教えた
待っていればいいと伝え ハッターは彼を長机の一番奥 自分と向かい合うようになる席に案内する
お茶を飲んで待てば すぐだと言いながら座らせる
タイムは自分が時間であると彼らに伝えたので ハッターは時間であるタイムにずっと気になっていたことを聞いた
ハッター「ずっと気になっているんですよ “もうすぐ”っていつなのか」
ハッターたちは突然現れて自分を時間と名乗り 大したものじゃないが大事だという何かを探していると やけに上からの口調で言ってきた
先程知り合った 将来出会うらしいアリスの方が印象がよかったハッターは 追われているらしい彼女のために時間稼ぎをしようとしていた 何より彼の態度は気に入らない
…だが笑いながら彼に軽く質問したハッターに タイムは声を低くして伝える
タイム「私を怒らせると それは永遠に来なくなるぞ」
ハッターは彼が冗談に乗ってこず 一切笑いもしないので不満そうに彼を自分の席のそばまで移動させ サッカリーたちと時間関係のダジャレを言いからかっていた
タイムとしては聞き飽きた内容で 苛立ちはしたがアリスが来るまでの辛抱ではあったので大人しくしていた…が少ししたら思いっきり怒鳴り立ち上がる ハッターの冗談にも笑わず彼を睨みつける
どれだけ待っていたのか 気づけば空が少し赤みがかっている
タイム「…アリスはいつ来るんだ」
足止めもそろそろ限界かもしれない だが十分楽しんだ
ハッターは笑いながらタイムを見る
ハッター「僕は…“来る”なんて言ってない”招いた“だけだ」
その言葉で気づいたタイムは悔しそうな顔をする もっと早くに気づくべきだった
サッカリーとマリアムキンも まんまと騙されたタイムを嘲笑う
タイムは 頷き拍手を送りながら笑っていた
タイム「なるほど お見事だ」
ハッター「ありがとう」
なんだ 案外大丈夫かと安心するハッターに タイムは笑顔で話す
タイム「先ほど “もうすぐ”とはいつか…聞かれたが…“今”がいつか教えてやろう」
そう言いながら チョッキを開け 彼らに時計を見せる
文字盤はかなりひび割れが酷く 胸に時計がある事実共に ハッターを驚かせた
だがタイムは構わず続けた
タイム「今は お茶会のきっかり1分前だ」
彼の顔を見ると なぜか最初より顔色が悪い
目の周りが黒く 酷い隈のようだった
それにより彼の光る青い目がよりよく見えるように思えた
タイム「アリスがお茶会に加わるまでお茶会の1分前を何度も繰り返す お前とお仲間の間抜けな奴らもな」
聞き捨てならないとサッカリーが片耳を上げ マキシミリアンが腰の針を抜こうと椅子の上に立ち上がる
タイム「…楽しめ」
それだけ言うとチョッキのボタンを閉め 倒れた船を起こし また飛び立つ
彼を見送ったハッターたちは なんだったのかと思いながらようやくお茶会を始めようとした
ハッターが椅子から立ち上がり 椅子から降りたマリアムキンがベリーを口に運び サッカリーがカップに紅茶を注ぎ角砂糖をいくつかいれた
その瞬間 彼らの時間が巻き戻り ハッターは椅子に逆戻りし マリアムキンの刺したベリーは元の位置に戻り 彼女は椅子に吸い込まれるように戻され 紅茶から角砂糖が戻り 紅茶はポットに戻る
何が起きたのか困惑するマリアムキンとサッカリーだが ハッターは先ほどのタイムの言葉を理解した
ハッター「…お茶会の1分前に閉じ込められたんだ」
サッカリーが懐中時計を取り出し 針の動きを見ると 16時になろうと分針が動こうとすると 一気に15時59分に戻された
サッカリー「永遠にお茶会!!?」
サッカリーの叫びは 虚しく響いた
集会所ではゼロが忙しそうに映像を切り替えていた
アリスの動向 タイムの現在地 ウィルキンズたちの必死の努力
その全てを確認するのは大変だった
ゼロ「タイムも過去に向かった…」
流石に追うのに疲れたゼロは 一度映像を消す 頭を使いすぎた
ゼロ「…ちゃんと道を辿れてる 大丈夫」
タイムは時間の海に戻り アリスが別の時間に入った瞬間を遠くから見ていた
タイム「…ホルベンダッシュの日に向かうんじゃなかったのか…?」
アリスの話を忘れていなかったタイムは 彼女の行動を疑問に思いながらもハンドルを上下させ急いで向かった
時計の崩壊は進んでいる
海に投影される映像に幼いイラスベスが映る
タイム「イラスベス…」
タイムはフェルの日に向かうことを一瞬ためらい 覚悟を決め 時間の海へ飛び込んだ
END
時間の海でアリスに追いついたタイムが調子に乗っていると波にのまれた…その頃
ゼロ「…じゃあ私は集会所に戻るよ エターナルの時はまだ半分も行っていなかったから大丈夫だったけれど…間に合うよう祈っているよ」
ウィル「我々も全力を尽くします ご主人様なら必ず取り戻せますよ 無敵ですから」
ゼロ「確かに…そうだね」
ゼロがその場から姿を消すと ウィルキンズはセコンズを集め始めた
アリスはタイムにクロノスフィアに衝突され…本来向かいたかったホルベンダッシュの日を通り越し さらに過去のトゥーマリーの日が映る海に飛び込むことになった
ホルベンダッシュの日は赤の女王がジャバウォッキーを従え タルジーの森での祭りを襲撃した日のことで ジャバウォッキーへの唯一の対抗手段であるヴォーパルの剣は奪われ それを扱う白の騎士は殺され 森は焼かれ 祭りに参加していた人々が犠牲になった
赤の女王は白の女王から王位と王冠を奪い アンダーランドの支配者となった
アリスの友人であるマッドハッター…本名タラント・ハイトップは先祖代々王家に使える帽子職人の一家の1人だったが この日にジャバウォッキーによって家族全員を殺されてしまっていた
赤の女王による統治の時代が終わったある時タルジーの森を訪れていたマッドハッターは 偶然あるものを見つける
それは彼がまだ幼い頃父親に見せたことのある紙製の小さな青の帽子 初めて作った帽子だが 捨てられてしまったはずだった
帽子があるということは 家族は生きている けれどそれならなぜ自分に会いに来ないのか…
アリスは悲しい過去に囚われ 弱ってしまったハッターを救うため 家族を助けるためにホルベンダッシュの日に向かいたかった
だがたどり着いたのはトゥーマリーの日
ホルベンダッシュよりもさらに前だった
アリスはまだ幼いアリスにも出会っていない若いハッターと会い 彼に案内されるままにウィッツエンドの城へ向かう
この日は白の女王が成人し行われることとなった王女の戴冠式の日だった
彼女は彼の家族にあらかじめ警告をして悲劇が起きないようにしたかったが その家族は戴冠式のために城にいたのでハッターについて行き 式が終わるのを待つことにした
…ウィッツエンドの民が集まっていた
ハイトップ一族は王冠の作成も行なっており 彼女たちに王冠をのせる役目があった
妹である後の白の女王ミラーナに王冠がのせられる
ウィッツエンドの王 オレロンからの言葉のあと 王妃エルズメアと大勢の民の前で 後の赤の女王…イラスベスに王冠が
しかし彼女の人より大きな頭に王冠のサイズが合わなかった このために調整されていたはずの赤い宝石の王冠だったが ハッターの父は被せられず苦戦していた
その様子にハッターが思わず笑ってしまった
それでも苦戦していると ついに王冠が割れてしまった
バラバラと地面に落ちる宝石
また笑ってしまったハッターの声をきっかけに 他の民も耐えられず 広間が笑い声に包まれる
もちろんイラスベスは怒り 民に叫ぶ
イラスベス「お黙り!みんな笑えなくしてやるよ!」
ついに怒りが頂点に達したイラスベスを 母のエルズメアは嗜めるように
エルズメア「そんなことを言わないの…どうやって笑えないようにするというの」
そう言うと 1人が大きな頭を袋で隠せばいいと笑いながら言う
イラスベス「お前が被りなさいよ!そうよ みんな…口を縫ってやる!その舌を刻んで 耳を切って そうよ!全員の首を…首をハネて…」
オレロン「イラスベス!」
父の言葉に イラスベスは黙る オレロンは怒りと失望の目で彼女を見ていた
オレロン「私は…お前がいつか女王にふさわしい人間になる日を待っていた…だがその日は来ない」
ミラーナは父が何を言い出すのか 不安になった
オレロンは民たちの方を向き
オレロン「ウィッツエンドの民たちよ 私が亡きあと王冠を受け継ぐのは…ミラーナ妃だ」
ざわめく民衆と父にそれはダメだと伝えるミラーナ
イラスベスは自身が長女なのに おかしいと父に訴えるが オレロンの考えは変わらない だからこそ民の前で宣言した
イラスベスは強い怒りと共に 人より少し大きかった頭がより大きくなった 全員に恨んでやると言い ハイトップ家全員を許さないと言い放ち 早歩きでその場を去ろうとする
ミラーナ「お姉様…」
イラスベス「…どうしてみんなにあのことを言わないの?」
そう言われ 何も言えないミラーナにイラスベスは怒りと悲しみを抱いたまま 誰も愛してくれないと嘆き 広間を出て行ってしまう
その後をミラーナとエルズメアが追い オレロンも続いた
騒ぎの後 人々はゆっくりとだが外へ出て行った
部屋に篭ったイラスベスにエルズメアが声をかける ミラーナは姉を怒らせるばかりだと思い 悩みながらもその場を離れ ハイトップ家に謝罪をしようと外へ向かった
オレロン王は広間近くの通路近くにある部屋の中で大鏡の横にある台座の上に置かれた石の受け皿に汲んだ水を流す
オレロン「時の水よ 呼んでくれ」
そう呼びかけると 波紋が浮かび 水が湧き上がるように動く 揺れる水は人型になった
水が動く間に 台座前の椅子に座ったオレロンは深くため息をついた
「王よ どうした」
すると人型の水は声を発した
オレロン「王位継承者をミラーナに決めた やはりイラスベスは国王の器には…」
そう言いオレロンは王冠を外し 手に持つ
「…そうか 自信を持つんだ 君はどれほど悩んで決めたのか私はわかっている イラスベスも今すぐには納得できないかもしれないが 時間をかけて伝えれば…」
オレロン「戴冠式で 民の前で宣言した イラスベスは民に怒るあまり“首をハネよ”と言おうとした あれでは…あの日から あの子は変わってしまった やはり私は…王である以前に父として 何も…」
「オレロン…私はいつでも 君の…君たちの味方だ」
オレロン「…私の亡きあともイラスベスとミラーナの助けになって欲しい 君のできる範囲で…イラスベスが君の元へ行くかはわからないが…時計はきちんと2人に贈る」
水はしばらく何も言わず揺れる
不安そうに揺れる水を見るオレロンに答える
「もちろんだ それが約束だ」
オレロン「王家の約束…そうだな だがこれは私の個人的な願いでもある」
「大丈夫だオレロン 私がついている」
オレロン「…ありがとう タイム」
水は元の通り受け皿に波紋を作り やがてそれも落ち着いて どんどん蒸発し消えた
何もなくなった受け皿と台座を前に オレロンはまたため息をついた
オレロン「フェルの日…」
…ウィッツエンドを統治する王家は特別な柱時計を2台有していた
それはかつてタイムが彼らに与えた無限の空間にある永遠の城へ行ける時計だった
王家との交流だけが タイムにとってアンダーランド人と関われる機会だった
王家はタイムやクロノスフィアのことを正しく民に伝え また城へ行く唯一の手段である時計を代々守り続ける約束をしていた
時計の所在は隠されていたが王家の子は幼い頃から親に許可を得て城を訪れていた
約束が守りタイムを助けることは王家にとってメリットがあった
国がジャバウォッキーの脅威に晒された時 タイムはヴォーパルの剣の在処を教え さらに助けになればと預言書オラキュラムを与えた
タイム「アンダーランドに脅威が訪れた時 預言書は教えてくれるだろう…時に絶望を示そうとも いつかは希望の日は訪れる」
王家は彼に感謝し その約束を守ることとなった
時計と剣と預言書は子孫にも大切に受け継がれた
1人の青年もまた 彼と交流していた
王の騎士団に所属する騎士の一人息子として生まれた彼だったが エルズメア王女に見初められ 多くの人からの期待を受け 立派な王になるために日々の勉強と剣の鍛錬を欠かさないでいた
だがこうして城を訪れる時間を削ることはなかった
王家に使える者として タイムとの交流が王家の義務であることは知っていたが 彼はそれ以上にタイムを尊敬していた
彼は大時計とクロノスフィアを守り アンダーランド人の命の管理も行っている 彼は王家に対しては特に優しかった
彼らが素晴らしい統治者であり タイムに敬意を払っていたからだが 青年が彼を好きになるには十分なほど タイムは素晴らしく見えた
怒らせてはいけない相手だと分かっていたが 青年の振る舞いに タイムを苛立たせる要素は無かった だから彼も安心していた
柱時計の扉を開けると 中に吸い込まれるように空気が流れる
城の中に置かれた柱時計から出てくると すぐにタイムを探した
…オレロンは 王になるまでの間 毎日必ずタイムに会いに来ていた
エルズメアと結婚し 前王の死後王位を継承した後でも彼はタイムに会いに行くのを欠かさなかった
だがいずれ彼の子が時計を受け継げば 以前ほどの頻度で会いには来れないと残念がるオレロンに対し タイムは時間の海の水を枯れない水差しに入れ分け与えた
オレロン「これは?」
タイム「時の水だ 器に注ぎ“時の水よ 呼んでくれ”と言えば ここへ来なくとも私と話せる 何かあればいつでも頼ってくれ」
オレロン「あぁ…ありがとうタイム」
オレロン王もエルズメア王妃もタイムを良き友と思っていた
タイムも2人のことをとても好意的に思っていた タイムと王家の関係は彼らのおかげでより良くなっていた
幼いイラスベスとミラーナも 城を訪れた
昔々の…幸せな記憶…
トゥーマリーの日…戴冠式の後…
笑ってしまったことを叱られたことから話が悪化し ついに父と喧嘩になって家を出ることをその場で決めてしまったハッターをアリスは追っていた
ハッターが父親と喧嘩別れしたままだったことを後悔しており 今のハッターがそうなってしまわないように説得する
だが未来のことを言っても 何も信じてもらえず アリスはハッターを説得するのではなく 家族に警告しようと城へ戻る
城の前ではまさに帰ろうとしているハイトップ夫妻がおり アリスは声をかけるが ミラーナも2人に声をかけた
王女であるミラーナに呼び止められたからには そちらが優先される
その会話の中で アリスはイラスベスがフェルの日に広場で頭を打ち それから人がすっかり変わってしまったことを聞く
それを避ければ イラスベスがあの性格になることもなく この日の出来事もホルベンダッシュの日の出来事も起きなくなる
そう考えたアリスはすぐにフェルの日を目指すため またクロノスフィアに乗り過去へ向かった
一方 不思議なアリスと別れ 友人の三月うさぎサッカリーとヤマネのマリアムキンが住む森の中の家の前で開かれるお茶会に参加していたハッターは これからここで住めばいいとマリアムキンに言われ 励まされていた
長机に白いテーブルクロスを敷き その上にお菓子やフルーツ ポットとお皿とカトラリーを並べ楽しそうに歌う
その上空に青い電流が走り そこから突然タイムの乗った船が現れ タイムが叫びながらハッターたちの背後の風車にぶつかりながら地面に墜落した
タイムは起き上がり 唖然とした表情で彼を見るハッターたちに 人を探していると伝える
ぶつかって投げ出されたにせよ 近い時間には着いたはずだと思っての行動だが 探している人物の名を告げた時 ハッターは彼女を招待していると教えた
待っていればいいと伝え ハッターは彼を長机の一番奥 自分と向かい合うようになる席に案内する
お茶を飲んで待てば すぐだと言いながら座らせる
タイムは自分が時間であると彼らに伝えたので ハッターは時間であるタイムにずっと気になっていたことを聞いた
ハッター「ずっと気になっているんですよ “もうすぐ”っていつなのか」
ハッターたちは突然現れて自分を時間と名乗り 大したものじゃないが大事だという何かを探していると やけに上からの口調で言ってきた
先程知り合った 将来出会うらしいアリスの方が印象がよかったハッターは 追われているらしい彼女のために時間稼ぎをしようとしていた 何より彼の態度は気に入らない
…だが笑いながら彼に軽く質問したハッターに タイムは声を低くして伝える
タイム「私を怒らせると それは永遠に来なくなるぞ」
ハッターは彼が冗談に乗ってこず 一切笑いもしないので不満そうに彼を自分の席のそばまで移動させ サッカリーたちと時間関係のダジャレを言いからかっていた
タイムとしては聞き飽きた内容で 苛立ちはしたがアリスが来るまでの辛抱ではあったので大人しくしていた…が少ししたら思いっきり怒鳴り立ち上がる ハッターの冗談にも笑わず彼を睨みつける
どれだけ待っていたのか 気づけば空が少し赤みがかっている
タイム「…アリスはいつ来るんだ」
足止めもそろそろ限界かもしれない だが十分楽しんだ
ハッターは笑いながらタイムを見る
ハッター「僕は…“来る”なんて言ってない”招いた“だけだ」
その言葉で気づいたタイムは悔しそうな顔をする もっと早くに気づくべきだった
サッカリーとマリアムキンも まんまと騙されたタイムを嘲笑う
タイムは 頷き拍手を送りながら笑っていた
タイム「なるほど お見事だ」
ハッター「ありがとう」
なんだ 案外大丈夫かと安心するハッターに タイムは笑顔で話す
タイム「先ほど “もうすぐ”とはいつか…聞かれたが…“今”がいつか教えてやろう」
そう言いながら チョッキを開け 彼らに時計を見せる
文字盤はかなりひび割れが酷く 胸に時計がある事実共に ハッターを驚かせた
だがタイムは構わず続けた
タイム「今は お茶会のきっかり1分前だ」
彼の顔を見ると なぜか最初より顔色が悪い
目の周りが黒く 酷い隈のようだった
それにより彼の光る青い目がよりよく見えるように思えた
タイム「アリスがお茶会に加わるまでお茶会の1分前を何度も繰り返す お前とお仲間の間抜けな奴らもな」
聞き捨てならないとサッカリーが片耳を上げ マキシミリアンが腰の針を抜こうと椅子の上に立ち上がる
タイム「…楽しめ」
それだけ言うとチョッキのボタンを閉め 倒れた船を起こし また飛び立つ
彼を見送ったハッターたちは なんだったのかと思いながらようやくお茶会を始めようとした
ハッターが椅子から立ち上がり 椅子から降りたマリアムキンがベリーを口に運び サッカリーがカップに紅茶を注ぎ角砂糖をいくつかいれた
その瞬間 彼らの時間が巻き戻り ハッターは椅子に逆戻りし マリアムキンの刺したベリーは元の位置に戻り 彼女は椅子に吸い込まれるように戻され 紅茶から角砂糖が戻り 紅茶はポットに戻る
何が起きたのか困惑するマリアムキンとサッカリーだが ハッターは先ほどのタイムの言葉を理解した
ハッター「…お茶会の1分前に閉じ込められたんだ」
サッカリーが懐中時計を取り出し 針の動きを見ると 16時になろうと分針が動こうとすると 一気に15時59分に戻された
サッカリー「永遠にお茶会!!?」
サッカリーの叫びは 虚しく響いた
集会所ではゼロが忙しそうに映像を切り替えていた
アリスの動向 タイムの現在地 ウィルキンズたちの必死の努力
その全てを確認するのは大変だった
ゼロ「タイムも過去に向かった…」
流石に追うのに疲れたゼロは 一度映像を消す 頭を使いすぎた
ゼロ「…ちゃんと道を辿れてる 大丈夫」
タイムは時間の海に戻り アリスが別の時間に入った瞬間を遠くから見ていた
タイム「…ホルベンダッシュの日に向かうんじゃなかったのか…?」
アリスの話を忘れていなかったタイムは 彼女の行動を疑問に思いながらもハンドルを上下させ急いで向かった
時計の崩壊は進んでいる
海に投影される映像に幼いイラスベスが映る
タイム「イラスベス…」
タイムはフェルの日に向かうことを一瞬ためらい 覚悟を決め 時間の海へ飛び込んだ
END