第六章 タイム
一人の静けさ
目を開けて 部屋の暗さが嫌になった
何もない宙に向かって手を振ると 電気が全てつく
眠い目を擦りながら毛布をどかし 指を振って服を変える
靴の紐を結び ベッドから立ち上がる
時々 不安が夢に現れるのか この全てが現実でなかったという内容のものを見る
その度 酷い動悸と共に目が覚める
拭えない不安を晴らすために 必ず力を使って明かりをつける
これは現実なんだと 自分を安心させる
永遠の時を生きる上で休息も重要だ
寝ても覚めても 減るものはない 心は休まる 夢の内容にもよるが…それでも気晴らしとして睡眠というのは必要になる
テンプスの不安や心配はよくわかる ゼロが記憶を消す…もしくは死のうとするまでの期間がどんどん短くなっている このわずか数回の間に…
彼にもその理由はわからないという
2度とそんなことが起きてはならない きっと前もそう思っただろう それなのに 結末は同じだった
記憶がないのは…死んだのと同じだと思っているのに それすら良いと思えるほど 辛く悲しいのか いくらでもやり直せると思っているからなのか その中で 一体どれほどの犠牲を…
ゼロ「ダメだ やめよう」
部屋の外へ出る
ここはゼロが暮らすために作られた物語「白の世界」 彼女の住む家と庭とあとは山や海などの自然で構成された世界だ
守人と想造者以外は 自然維持のための必要最低限の生命体しかいない それも ゼロの生活区域内にはいない
今 守人はテンプスしかいない だが彼は普段守人たちのために作られた空間の自分の城で物語の時間管理をしている
契約をして守人をしてくれている想造者になりうる者もいるが 彼も普段は自分の世界にいる
彼女が目覚めてから 物語をある程度修復し終わるまでは3人でいたこの家も 今は彼女1人
孤独を埋めるために 何より友人が欲しくて作ったOWSだが それもひとつの終わりを迎えようとしている
広い屋敷の中を歩く あの世界は今深夜だろう
…タイムは関係なく起きているから 申し訳ないが話し相手になってもらおう
そう思い ゼロはOWSにつながる扉の方へ向かう テレポートか扉か どちらでも良いので基本その時の気分で決めている
集会所をわざわざ通る扉は なんとなくあの場所に顔を出したい時に使う
タイミングが良ければ ギュスターヴかトビーがいるかもしれない
それにしても 家にテーマパークのようなBGMをつけようかと思うほど 静かだ
昔 こういう静かな部屋が苦手だった気がする
…そう 人間だった頃
誰かの声か 音楽か 何でも良いから 流していた
最近 あの世界の影響を受けたのか それとも目覚めてから時間が経ったからなのか 想造者になる前の記憶も蘇る 実際の時間で計算すれば 何百年…それ以上なのかもしれない 永遠の存在に 何年 だとかは関係ないにしても 過ぎた年数は 今までの過ちの人生の愚かさを訴えてくる
1人でこんな静かで広い屋敷にいるから無駄なことを考えるんだ…
ゼロ「うん…得るものがない」
図書室に入り ずらっと並ぶ本棚の間を通り奥の部屋へ向かう 2階部分の真ん中から伸びる階段の右側奥の壁 触れた先が白い道
中を進み扉を開ける 集会所はしんとしていた
ゼロ「そりゃそうか」
誰もいないならいないで 独り言も増える
すぐ左を向いてタイムの扉を開ける
ここはいつも時計や歯車の音がする
けれど 今の気分だと これも静かだと思えてしまう
しばらく歩くがタイムの姿が見当たらない
そろそろ力を使って探そうかと思った頃 生者と死者の部屋近くまで来ていることに気づく
側まで行くと いくつもの時計から聞こえる針の音がする
中を覗き込んでみると 生者の部屋の通路奥にタイムが立っていた
生者の部屋は時間に関係なく 常に奥から眩い太陽の光が差し 部屋全体を染める 朝焼けか夕焼けか…
気づけば手は扉に伸びる 軽く押すだけでも蝶番の音が鳴り タイムがゼロの方を向く
ゼロ「…えっと スイングドアって便利だよね 軽く押せば開くし 勝手に元に戻るし…」
そう言いながら 生者の部屋の扉を押して 手を離し 元の位置に戻る様子を 飽きるほど見ただろうタイムに披露する
タイム「どうした」
目が合うなり訳のわからない話をされても タイムに怒っている様子はなかった
突然の訪問は何も初めてではない 彼女がこの時間に訪ねてくる理由が大体いつも同じだった
ゼロ「…大したことじゃない 永遠って何か 考え過ぎた」
タイムは生者の部屋の出入り口まで来ていた
ゼロの言う 大したことじゃない…は案外重大な悩みだ
タイム「ここだと話すには向かない 書斎に行くか?」
ゼロ「ここでも良いんだ 部屋が静かすぎて 君のところに来たから」
タイム「行くぞ」
タイムがゼロの手を掴み書斎の方へ連れて行こうとするので わかったよ と言ってゼロはその手を一度離してもらい 隣に並んで歩く
書斎で椅子に座ると 丸テーブルと椅子を移動させ その上にチェス盤を置く
タイム「そろそろやり方は完璧になったか?」
ゼロ「一通り覚えたよ 将棋に似てるからかな」
タイム「今度その将棋というのをやるのも面白そうだな」
初めて会って以来 ゼロの提案を彼が無下にしたことはほとんどない
呆れられている時も確かにあるが 彼女の想像するタイムとしての姿を見たことはあまりない
これは彼のある一面を見ているだけでしかないのはわかっている
理想の…解釈を誤ったような感じはする
この物語を作り 彼が生まれた時点で 想造者になりうる者となってしまったことは 彼女にとって幸運だったが その時点から この世界の改変は始まっていたのかもしれない
彼がゼロの望むような人物であること その願いの強さが…そのまま彼という存在に影響してしまったのなら やっぱり失敗なのかもしれない
彼にその親切な一面が無いわけではない
心を開いた相手には穏やかに接する
タイム「チェックメイト」
ゼロ「…とりあえず しばらくは勝てそうにないな」
タイム「私の方が歴が長い 焦らなくとも この先時間をかければ互角にはなるかもしれないな」
ゼロ「そうなるといいなぁ でもこれやってると自然に時間は経つし 余計なこと考えなくていい」
同じ永遠を生きる存在同士だが 分かり合えないことはある 時間に対する考え方も 世界が違うと 変わる
ゼロの持つ恐怖心をタイムは持っていないように思えていた
ゼロ「女王ともやるの?チェス」
タイム「彼女はやらない」
ゼロ「普段会って何してるの?話をしたり…?」
タイム「彼女の話を聞いたり…頼み事をされるから それを…したりだな」
いつもする話よりもずっと楽しそうに 嬉しそうに話をする 彼のこんな姿 ここ十数年見ていない よほど彼女のことが好きなんだろう
ゼロ「…そっか 楽しそうでなにより」
タイム「心配いらない 彼女は…大丈夫だ」
ゼロ「いや…その……え?ねぇ…まさか知ってて…」
タイム「ジャバウォッキーと共にいたというのは知っている」
ゼロ「まさか 律儀に約束のために…?」
タイム「それは結果的にだ 私は彼女を愛しているからこそやっている 知っていても知らなくても 同じ思いを抱いたに違いない それに私ならば…」
ゼロ「そんな 彼女がどんな人か知ってるでしょ?あの日も…」
ゼロは続きを言うのをやめた タイムの表情が怒りに染まる 彼にとって大切な人について これ以上悪く言えば どうなるかわからない
…彼は何も考えず行動しているわけではない 彼女から聞いた話から アンダーランドでこの数年間何があったのかを知った 彼女がその時その地の支配者であった頃のことを
彼女は自分がどれだけ不幸で虐げられ 誰にも愛されず孤独だったかをタイムに訴えた それで彼がより同情して クロノスフィアを与えてくれればとの算段なのだろうが 結果はそれ以外全てをタイムは与えようとした クロノスフィアだけは 誰にも渡さない
タイムは彼女に同情している それでも不可能を可能とは言わない
彼は彼女を盲目に愛しているわけではない それでも そう思えるほど 彼女のしてきた過去を見ていないように思える
ただ知らないのかと思っていた頃もあったが ジャバウォッキーという存在と一緒にいる人物が得るものがなんなのか 支配できていた理由はなんなのか 彼がわからないはずがない
なんとなくでもわかっているのだろう
だが過去は変えられないというのがこの世界の理 どんな過去があってもやがてその人が変われば 過去の出来事が許されるか もしくは許されなくとも受け入れられるか…そんなふうになる世界がアンダーランドなのかもしれない それを許容できるのが この世界の住人なのかも…しれない
ゼロの過去の話を聞いても タイムは彼女を友人として受け入れた
ゼロ「罪のない者だけが石を投げよ…なのかな」
タイム「…その言葉の意味はなんだ」
ゼロの言葉に タイムは言葉を続け そしてゼロは彼の同情の理由を理解した
END
目を開けて 部屋の暗さが嫌になった
何もない宙に向かって手を振ると 電気が全てつく
眠い目を擦りながら毛布をどかし 指を振って服を変える
靴の紐を結び ベッドから立ち上がる
時々 不安が夢に現れるのか この全てが現実でなかったという内容のものを見る
その度 酷い動悸と共に目が覚める
拭えない不安を晴らすために 必ず力を使って明かりをつける
これは現実なんだと 自分を安心させる
永遠の時を生きる上で休息も重要だ
寝ても覚めても 減るものはない 心は休まる 夢の内容にもよるが…それでも気晴らしとして睡眠というのは必要になる
テンプスの不安や心配はよくわかる ゼロが記憶を消す…もしくは死のうとするまでの期間がどんどん短くなっている このわずか数回の間に…
彼にもその理由はわからないという
2度とそんなことが起きてはならない きっと前もそう思っただろう それなのに 結末は同じだった
記憶がないのは…死んだのと同じだと思っているのに それすら良いと思えるほど 辛く悲しいのか いくらでもやり直せると思っているからなのか その中で 一体どれほどの犠牲を…
ゼロ「ダメだ やめよう」
部屋の外へ出る
ここはゼロが暮らすために作られた物語「白の世界」 彼女の住む家と庭とあとは山や海などの自然で構成された世界だ
守人と想造者以外は 自然維持のための必要最低限の生命体しかいない それも ゼロの生活区域内にはいない
今 守人はテンプスしかいない だが彼は普段守人たちのために作られた空間の自分の城で物語の時間管理をしている
契約をして守人をしてくれている想造者になりうる者もいるが 彼も普段は自分の世界にいる
彼女が目覚めてから 物語をある程度修復し終わるまでは3人でいたこの家も 今は彼女1人
孤独を埋めるために 何より友人が欲しくて作ったOWSだが それもひとつの終わりを迎えようとしている
広い屋敷の中を歩く あの世界は今深夜だろう
…タイムは関係なく起きているから 申し訳ないが話し相手になってもらおう
そう思い ゼロはOWSにつながる扉の方へ向かう テレポートか扉か どちらでも良いので基本その時の気分で決めている
集会所をわざわざ通る扉は なんとなくあの場所に顔を出したい時に使う
タイミングが良ければ ギュスターヴかトビーがいるかもしれない
それにしても 家にテーマパークのようなBGMをつけようかと思うほど 静かだ
昔 こういう静かな部屋が苦手だった気がする
…そう 人間だった頃
誰かの声か 音楽か 何でも良いから 流していた
最近 あの世界の影響を受けたのか それとも目覚めてから時間が経ったからなのか 想造者になる前の記憶も蘇る 実際の時間で計算すれば 何百年…それ以上なのかもしれない 永遠の存在に 何年 だとかは関係ないにしても 過ぎた年数は 今までの過ちの人生の愚かさを訴えてくる
1人でこんな静かで広い屋敷にいるから無駄なことを考えるんだ…
ゼロ「うん…得るものがない」
図書室に入り ずらっと並ぶ本棚の間を通り奥の部屋へ向かう 2階部分の真ん中から伸びる階段の右側奥の壁 触れた先が白い道
中を進み扉を開ける 集会所はしんとしていた
ゼロ「そりゃそうか」
誰もいないならいないで 独り言も増える
すぐ左を向いてタイムの扉を開ける
ここはいつも時計や歯車の音がする
けれど 今の気分だと これも静かだと思えてしまう
しばらく歩くがタイムの姿が見当たらない
そろそろ力を使って探そうかと思った頃 生者と死者の部屋近くまで来ていることに気づく
側まで行くと いくつもの時計から聞こえる針の音がする
中を覗き込んでみると 生者の部屋の通路奥にタイムが立っていた
生者の部屋は時間に関係なく 常に奥から眩い太陽の光が差し 部屋全体を染める 朝焼けか夕焼けか…
気づけば手は扉に伸びる 軽く押すだけでも蝶番の音が鳴り タイムがゼロの方を向く
ゼロ「…えっと スイングドアって便利だよね 軽く押せば開くし 勝手に元に戻るし…」
そう言いながら 生者の部屋の扉を押して 手を離し 元の位置に戻る様子を 飽きるほど見ただろうタイムに披露する
タイム「どうした」
目が合うなり訳のわからない話をされても タイムに怒っている様子はなかった
突然の訪問は何も初めてではない 彼女がこの時間に訪ねてくる理由が大体いつも同じだった
ゼロ「…大したことじゃない 永遠って何か 考え過ぎた」
タイムは生者の部屋の出入り口まで来ていた
ゼロの言う 大したことじゃない…は案外重大な悩みだ
タイム「ここだと話すには向かない 書斎に行くか?」
ゼロ「ここでも良いんだ 部屋が静かすぎて 君のところに来たから」
タイム「行くぞ」
タイムがゼロの手を掴み書斎の方へ連れて行こうとするので わかったよ と言ってゼロはその手を一度離してもらい 隣に並んで歩く
書斎で椅子に座ると 丸テーブルと椅子を移動させ その上にチェス盤を置く
タイム「そろそろやり方は完璧になったか?」
ゼロ「一通り覚えたよ 将棋に似てるからかな」
タイム「今度その将棋というのをやるのも面白そうだな」
初めて会って以来 ゼロの提案を彼が無下にしたことはほとんどない
呆れられている時も確かにあるが 彼女の想像するタイムとしての姿を見たことはあまりない
これは彼のある一面を見ているだけでしかないのはわかっている
理想の…解釈を誤ったような感じはする
この物語を作り 彼が生まれた時点で 想造者になりうる者となってしまったことは 彼女にとって幸運だったが その時点から この世界の改変は始まっていたのかもしれない
彼がゼロの望むような人物であること その願いの強さが…そのまま彼という存在に影響してしまったのなら やっぱり失敗なのかもしれない
彼にその親切な一面が無いわけではない
心を開いた相手には穏やかに接する
タイム「チェックメイト」
ゼロ「…とりあえず しばらくは勝てそうにないな」
タイム「私の方が歴が長い 焦らなくとも この先時間をかければ互角にはなるかもしれないな」
ゼロ「そうなるといいなぁ でもこれやってると自然に時間は経つし 余計なこと考えなくていい」
同じ永遠を生きる存在同士だが 分かり合えないことはある 時間に対する考え方も 世界が違うと 変わる
ゼロの持つ恐怖心をタイムは持っていないように思えていた
ゼロ「女王ともやるの?チェス」
タイム「彼女はやらない」
ゼロ「普段会って何してるの?話をしたり…?」
タイム「彼女の話を聞いたり…頼み事をされるから それを…したりだな」
いつもする話よりもずっと楽しそうに 嬉しそうに話をする 彼のこんな姿 ここ十数年見ていない よほど彼女のことが好きなんだろう
ゼロ「…そっか 楽しそうでなにより」
タイム「心配いらない 彼女は…大丈夫だ」
ゼロ「いや…その……え?ねぇ…まさか知ってて…」
タイム「ジャバウォッキーと共にいたというのは知っている」
ゼロ「まさか 律儀に約束のために…?」
タイム「それは結果的にだ 私は彼女を愛しているからこそやっている 知っていても知らなくても 同じ思いを抱いたに違いない それに私ならば…」
ゼロ「そんな 彼女がどんな人か知ってるでしょ?あの日も…」
ゼロは続きを言うのをやめた タイムの表情が怒りに染まる 彼にとって大切な人について これ以上悪く言えば どうなるかわからない
…彼は何も考えず行動しているわけではない 彼女から聞いた話から アンダーランドでこの数年間何があったのかを知った 彼女がその時その地の支配者であった頃のことを
彼女は自分がどれだけ不幸で虐げられ 誰にも愛されず孤独だったかをタイムに訴えた それで彼がより同情して クロノスフィアを与えてくれればとの算段なのだろうが 結果はそれ以外全てをタイムは与えようとした クロノスフィアだけは 誰にも渡さない
タイムは彼女に同情している それでも不可能を可能とは言わない
彼は彼女を盲目に愛しているわけではない それでも そう思えるほど 彼女のしてきた過去を見ていないように思える
ただ知らないのかと思っていた頃もあったが ジャバウォッキーという存在と一緒にいる人物が得るものがなんなのか 支配できていた理由はなんなのか 彼がわからないはずがない
なんとなくでもわかっているのだろう
だが過去は変えられないというのがこの世界の理 どんな過去があってもやがてその人が変われば 過去の出来事が許されるか もしくは許されなくとも受け入れられるか…そんなふうになる世界がアンダーランドなのかもしれない それを許容できるのが この世界の住人なのかも…しれない
ゼロの過去の話を聞いても タイムは彼女を友人として受け入れた
ゼロ「罪のない者だけが石を投げよ…なのかな」
タイム「…その言葉の意味はなんだ」
ゼロの言葉に タイムは言葉を続け そしてゼロは彼の同情の理由を理解した
END