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第六章 タイム

二人の出会い

集会所を開く100年前よりもずっと前

ゼロは初めて足を踏み入れた憧れの物語世界に感動しながら城の中を歩いていた
黒曜石の美しさ 広い空間 いくつもの通路 底の見えない暗さ 薄い青の光 歯車の音…全てが新鮮で 観光気分になっていた

玉座のある場所へ着くと 椅子に座って目を閉じ 頬杖をついている彼を見つけた
ゆっくりと歩いて近づき 階段上の玉座を見上げる
彼女の存在に気づいたからか 彼はゆっくりと目を開いた 青く光る目は透き通るような美しさで 思わず見惚れる

ゼロ「初めましてタイム」
タイム「…何者だ?」
ゼロ「私はゼロ・イストワール 想造者」
タイム「想造者とはなんだ」

タイムは立ち上がる
何か 違う そう感じた瞬間 彼女はすぐさま想造力を使い 防いだ
彼女の周りが強く光った

ゼロ「ま…待って!私の思考を止めると 世界全てが止まって君も止まる!」

急いでそのイメージをタイムに送る
一瞬遅ければ タイムの力で時間を止められてしまうところだった

タイム「止まる?なぜお前に私が止められる」
ゼロ「あれ…今…イメージを…君は…タイムなの?」

ゼロの言葉を聞いて 彼はより怒って階段を降りてくる

タイム「私はタイムだ…さっきお前もそう言っただろう!何をしに来た 何者だ さっさと答えろ 私はそうしてぐずぐずしている奴は嫌いなんだ!」
ゼロ「人違いをしてしまったんだ ごめんなさい 私のことは…“忘れて”」

そう言ってゼロは姿を消す そしてその言葉通り タイムはその数分の出来事をすっかり忘れ去ってしまった


波の音 歯車の音 暗い城の中

100年前 タイムに会いに行った

以前のことがあり 慎重になって接した
玉座で目を開けた彼は とりあえず話を聞いてはくれた ダラダラ話せば彼を怒らせる 言葉はまとめて来た上で伝えた それでも 時間の流れを速くした状態で聞かれる事にはなった

タイム「私と友人になりたい…?」
ゼロ「そう…です」
タイム「…いいだろう その集会には付き合う」

彼はゼロに同情していた
ゼロもタイムも 同じものを持っていた
永遠 役割 命の重さ…

タイム「お前も私も 似たものだ」
ゼロ「…そうなのかな」
タイム「そうでなければ 私はお前のやりたいことなどに付き合わない」
ゼロ「そうか…ありがとう」

思い出す 過去のこと
目が覚めた時 森の中だった
自分が何者だったか思い出せない ただ生きている
広い森の中 円形に木が生え そこだけは柔らかな草が生える広場のようになっていた
その真ん中で 体を起こした
青い空 ザァ…という音と共に揺れる葉 心地よい風
ゆっくりと深呼吸する 生きている 暖かな体 心臓の音 手を握って開く 両手を空に向けて伸ばし 今度はだらんと下げ ぼんやりと空を眺める

何者か わからない 何者かではあったはずだとわかるのが また妙な感覚だった
それが怖いのかもわからない 立ち上がる方法は知っているが そんな気が起こらない

忘れてはいけないことを忘れた気がする
いくらやってもそれがなんなのかがわからない

立ち上がり 歩き その場を離れ やがて川を見つける 水の中を覗き 自分の姿を知る

やがて知る過去の全て 自身の使命 役割

この時 ただ自分は自分であった


…ここまで話した後タイムから質問されたゼロは あまり言いたくはなかったが それでも答えた

ゼロ「森の中で目が覚めたあとしばらくして…振り返るとテンプスがいたんだ」
タイム「どんな顔だった」
ゼロ「…あの時はよくわかってなかったけど もう全部諦めた顔だった あぁまたか…って感じで…私はなんで彼がいるのか 全くわからなかったから 驚いてたんだけど それも同じだったっぽくて…」


全てを忘れた者を 責めることはただ虚しい
だが使命は 果たされなければならない
彼は悩む 課題は大きい どうすればいいのかわからないでいた そんな表情を見たのだった


昔を思い出す
自らのした事を 過去の自分を 恨めるのだろうか それは確かに自分なのに



出会いから16年

トビー「ずっと気になっていたんですが アンダーランドってどんなところなんですか?」

ゼロは楽しそうにその疑問に答えた
彼女にとっては夢の国でもある場所だった

ゼロ「アンダーランドは…不思議の国だから 人間以外にも犬や猫…うさぎも魚も人のように暮らしてる 虫も花も知性があって 魔法もある 3年前まで色々荒れてたけど…今は平和だし 行っても問題はないかな」

タイムは好きにすればいいとだけ言った

そこでゼロとテンプスという案内役と共にアンダーランドへ行ってみることになった

タイムの城も庭園もウィルキンズたちも 十分に不思議な存在だが そこに広がるアンダーランドは自分たちと同じような面もある…それでもやっぱりどこかおかしくて不思議で トビーの好奇心は尽きなかった

食べると体が大きくなるケーキ
小さなペガサスのような生き物
曲がった家 鳥が明るく挨拶して飛び立つのを見かける
人も動物も魚も 同じ場所で暮らしている

そこは白の女王が統治するウィッツエンドという場所らしい

アンダーランドは明るく美しい場所だった
なぜ彼は ここではなく あの世界に城を建てたのだろうか

トビー「クロノスフィアを守るために あの人は別の場所に暮らしているんでしょうか」
ゼロ「……どうなんだろうね 私は理由を聞いた事ないから」
テンプス「どちらかと言えば自分の身を守るための方が可能性が高そうだ」
トビー「…あの場所は いつも寂しいような感じがします タイムはそう思ってないかもしれないけど…」

魔法と不思議がたくさんある 楽しくて明るくて幸せな国

集会所で土産話を3人から聞いていたギュスターヴはその世界に同じような強い興味を抱いた

ダステ「ところで…3年前まではどうだったか…それは聞いていいのか?」
ゼロ「タイムは自分がいないところでなら アンダーランドの歴史は話していいって言ってたから 興味があれば まぁ 楽しい話ではないよ 赤の女王の統治時代のことだから」

タイムの世界は不思議の国のアリスが元で鏡の国のアリスは要素があるぐらいだが 一応ギュスターヴは本を読んだことがある
その赤の女王がハートの女王のことであるのは ゼロから説明されて理解した

ダステ「私が知るものより後に作られた話なのか」
ゼロ「そう だからタイムのように君の知らないキャラクターがいる」

暗い時代だった
赤の女王からの恐怖による支配
人々はジャバウォッキーを恐れ 女王を恐れ…やがてジャバウォッキーを打ち倒し白の女王の時代を取り戻すことを望み アリスを求めていた

不思議の国の帽子屋など ギュスターヴも知るキャラクターたちが イメージとは違う暗い世界になってしまったアンダーランドを救おうとしていた

そして3年前 アリスは戻った
19歳になった彼女は アンダーランドの仲間たちと再会し 子供の頃の出来事が夢ではなかったのだと思い出し そして預言書の通り 仲間たちと協力してジャバウォッキーを倒し アンダーランドに平和を取り戻したのだった

ゼロ「それ以前のお祭りの日に赤の女王がジャバウォッキーに襲わせて 白の女王から王冠を奪って 白の騎士を殺しヴォーパルの剣っていうジャバウォッキーを倒せる剣も奪って…犠牲者も多かった 彼女による支配は独裁的で 気に入らないとすぐ首をハネるような人間だから…とにかく血に塗れた時代だったと言えるよ 今は追放されてるけどね」


そう言ったあと ゼロは背後にある扉の方を向いた


ゼロ「…タイムさ 恋人がいるらしいんだけど 何か聞いてる?」
トビー「いえ何も」
ダステ「恋人って どう出会うんだ あの城で」

テンプスはゼロになんでそんな聞き方…と言いたかったが 踏みとどまり その言葉は心の奥にしまい込んだ

ゼロ「やっぱり知らない?実はさ タイムがここ最近頻繁に女性と会ってて…赤の女王なんだけど」
ダステ「さっきの話のか!?」
ゼロ「どう見てもそうだった だからさ…3年ってのもあって…そろそろ物語が…始まるのかな…と思って…」

タイムがアリスと関わったキャラクターと関係を持ち始めたなら それは物語のためのものだろうとはわかるが 嫌な予感しかしない

トビー「ど…どんな物語なんですか だって タイムは悪い人と…まさか あの人も悪役なんですか?!」
ゼロ「そうだけど…?同じ顔の悪役だよみんな」
トビー「えっ」
ゼロ「あれ…言ってなかった?」
ダステ「よく覚えていない…」
トビー「ギュスターヴは違うじゃないですか」

ゼロがきょとんとした顔をしているので トビーは首を振る ギュスターヴは正しいことをしている やり方はともかく 彼はただ職務を全うする真面目な公安官だ

ゼロ「でも主人公の立場から見ると 目的の障害になる それは悪役 悪人がイコール悪役じゃないしね 正義と悪は視点によって変わるもんだから」

確かに!と気づいたトビーの表情をゼロは面白そうにしながら見ている

ギュスターヴは1人 ならタイムは 主人公から見た悪かと納得していた

彼が悪役なんて考えつかない
なんだかんだ彼らを助け ゼロを助ける
長く付き合いがあればわかる 彼は正しくそして優しい 多少難のある性格をしてはいるが それでも彼は時間の化身として素晴らしいものを持っている

ゼロ「…それにしても どうやって会って なんで恋人になったんだろ…タイムがあぁも他人に好意を抱くなんて…よっぽどタイプだったのかなぁ」
テンプス「あの男は自分と似た存在に弱いだけでは…」
ゼロ「タイムが?」
テンプス「似た存在を求めてる あなたと違って 表に出さないだけなのかもしれません」

タイムの扉が開く 4人が揃ってタイムの方を見るので なんだ?と言いながら椅子に座った

ゼロ「君の恋人の話をしていたんだよ」
タイム「その話 どこから…」
ゼロ「この前見かけた 君の呼び方からして 恋人かなって」
タイム「…そうか」
ゼロ「城に人なんて来ないだろうし どうやって会ったのかなって」
タイム「彼女は時計を持っていた だからここへ来て 出会った」


城内をキョロキョロと見回しながら ハイヒールの音を鳴らし 彼女は急いで歩いていた
タイムはその侵入者を警戒し 近づいた
彼が前に現れると 彼女は驚き 怯み…そしてハッと気づいて 近づいていった

女王「クロノスフィアはどこ?」
タイム「何者だ」
女王「私は女王よ!」
タイム「王冠がないようだが」
女王「妹に奪われたの!王冠も 私の国も!」
タイム「それなら…女王ではないのか…君は何者だ」
女王「え?」

そう言われると彼女は言葉に詰まる

女王「私は…私は!…妹のせいで…何も」

独り言を言い出し タイムはため息をつく
どうしていつもクロノスフィアを求めるやつは 決まって自分勝手な態度しかしないのか
追い返したいがこちらの言葉が聞こえてないのか返事がない

タイム「…元女王 クロノスフィアは諦めて帰れ 元来た道をまっすぐ戻れ」
女王「嫌よ 私はクロノスフィアを…」
タイム「私から奪いにきたのか?この私から?残念だが無理だ さぁ 私はお前のような麗人に対して無理やり追い出すことはしたくないんだが」

女王は突然 白くメイクをしてあってもわかるほど真っ赤な顔で怒り出す

女王「私を馬鹿にしているの!?私の頭を 誰とも違う姿を!」
タイム「今の言葉のどこに馬鹿にする要素があったんだ いいからさっさと帰れ」
女王「嫌よあんな場所!アウトランドなんて…妹は私から全部奪った みんな私を裏切って ずっと嘘をついていたのよ もう誰も私のそばに居ない 誰も愛してくれない 誰も…ずっと1人 ジャバウォッキーちゃんもアリスに殺されて この頭だって 妹のせい 私は何も悪くないのに みんなが私を裏切って クロノスフィア…クロノスフィアがあれば!!」

そう叫んで上を見ると タイムと目があった
開かれた目は驚きと戸惑いが読み取れた 女王はそこで タイムという存在が持つ力を思い出した 本当に怒らせてしまった時 彼が何をできてしまうのか…

タイム「…そうか 何があったか知らないが…辛い目にあったようだな クロノスフィアはあげられないが 他のものならあげられるかもしれない」

タイムは女王の前に跪き 優しい声で話しかける
先程までとはまた違う態度で接され 女王は驚き 不安そうな顔になる

女王「なんで そんな話…」
タイム「同情だ アウトランドといえば何もない荒れ果てた土地だろう それなのに君がここに来れたのは…とにかく 何かの縁だ 助けになろう だが 今日の君とは話ができそうにない 一度帰って冷静になるべきだ 来た道を戻るんだ」

女王は笑った タイムからの同情を受けることでもたらされる何かを すでに予感していた
だからここは大人しく 帰ることにした

同じ道も戻る前に すでにその場からいなくなった彼に向けてなのか 呟いた

女王「そうよ 今度は私が…」



…この話をタイムだけの目線からかいつまんで説明された4人は 結局どこから来たのかの答えが返って来ていないことに気づいた
知り合ってその後また会うまでの経緯はわかったが…

ダステ「その 時計というのがあれば アンダーランド人もここへ来れるのか」
タイム「ゼロの力がなければ それ以外方法は無い」
トビー「その どんな人なんですか?クロノスフィアに危険が…」
タイム「確かにクロノスフィアのことはたまに言われるが…話せばわかってくれる 愛を持って接すれば 返してくれる 問題はない」

タイムが言うなら と2人も安心した
彼の力は強い 側にいながらクロノスフィアを奪われることもないだろうし 危険性も説明しているのだろう

ゼロ「…そっか」
テンプス「女王と会っている時のタイムをお前たちに見せてみたい」
トビー「え なんでです」
テンプス「この男基本せっかちだし人の話聞かないし上から目線だろ?だが女王相手だとずいぶんと下からで手もこんなふうに握って……」
タイム「馬鹿にしているのか…?」
ゼロ「イジれる要素見つけたからって嬉しそうだねテンプス…別にタイムだって恋ぐらいするよ」

あんまり想像つかないな…とギュスターヴは思った


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