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第六章 タイム

三人の集会

【Otherworldly Story】
第六章 タイム
三人の集会

出会いから15年

テナルディエとの別れから何ヶ月も経った

時間を戻し 過去を消し 再び同じ時間を過ごした彼らだが それでもテナルディエの望みが叶い レ・ミゼラブルの物語が変化し 救われた人がいた
彼との別れの寂しさの後 そんな終幕を迎えられたことは喜ばしかった

テンプスは最後までテナルディエは変わらず 自分の望むままで勝手だと抱く怒りを素直に口に出していたが 他の友人たちがこの場で関わる上で確かに友情のあったテナルディエに対して そう簡単に切り捨てたりできないのも 理解しようとしていた


集会所にテンプスが来る回数が増えたのをギュスターヴもトビーも気づき始めた
ゼロがいる時 3回に1回テンプスもいる
以前は半年か数ヶ月かに1度来る程度で バグとの戦いの後は警戒の必要が薄れたのもあってより少なくはなっていたはずだ

そしてある時 ギュスターヴとトビーだけで話していると 普段は無いテンプスの扉が タイムの扉の右隣の壁に出現したのに気づくと すぐに中からテンプスが現れた
集会所に来る方法が2種類ある理由や違いはわからないが 今日は丁寧に壁を通って…もしくは扉を通るやり方で来た

テンプス「ダステ トビー 今日は話があってきた」
ダステ「話?」
テンプス「今後起こるかもしれない出来事への…忠告 そして頼み事だ」

その表情は 事の深刻さを表していた
テンプスが 彼のみでわざわざ2人に話をする…何事だろうか
テンプスは椅子に座り ギュスターヴとトビーは彼の方を向く

テンプス「…前提として 絶対にそうならないように私がいるのだが…仮に…仮にだ 主が物語が終わる際に…それを起因として ある事に気づいた場合 最悪全部の世界が…消える という話をしにきた」

流石に突然すぎる内容で 2人とも困惑していた
全く話が掴めない バグの脅威が去ったかと思えば 今度はゼロが原因で全部消えるというのだろうか

テンプス「あの方は…過去数回 記憶を失い その度に修復を繰り返してきた 全てあの方が自身で記憶を封じ込める結果になった 記憶は想造者にとって命と同等に守るべきものだが あの方は人間の精神を持った想造者であるがために…過去数回追い詰められ 記憶を消したり 自死しようとも…一時的な錯乱でそうなる危険性を持っている 今の主は比較的落ち着いた精神を持っているが…最近…心配になるような状態になっている だから あの方と接する時に 少し気にして欲しい 何かおかしな様子があれば 私に教えて欲しい そのために最近…無理を言って側に仕える頻度を増やしているんだが…お前たちの方が気を許しているだろうから…」

想造者は物語を現実化する力を持つが その世界に関する完璧な情報は彼らの頭の中にしかない そのため彼らの脳の機能が止まった場合…死んだ場合も物語は全て失われる
ただ記憶だけ失った場合 世界そのものの情報は本の存在により不安定ながらも消えはせず キャラクターは消滅…修復こそ可能だが 悲惨な状態になる 何より記憶を失った想造者は 想造力を一から身につけなければいけなくなるという

ただ世界の管理権が他の想造者に移っていたならば 例え元はその想造者が作ったとしても 問題なく存在できる

…テンプスの話ではゼロは過去数回 記憶の封じ込め もしくは自死未遂が原因で記憶を失い その度世界は崩壊し 今のゼロも世界の修復を現在の力でできる範囲内で終わらせているような状態なのだという

テンプス「主は自身にかけた想造による設定で 自死できないようになっている もし仮に行えば 記憶消去という形で自死は防がれる…これも精神状態が不安定な時にかけたせいで…こういった形になってしまったんだが…私は今まで防げたことはない あの動作をしてしまえば 一瞬で行えてしまう 私は主が記憶していなくとも存在できるから 問題ないのだが…世界はそのたびに一度滅ぶ 想造者として…あってはならないことだ だが過去の主のしたことで 何も知らない状態になった主を責めるのも…」

テンプスは深くため息をつく
そういえば彼は物語の守人だ キャラクターたちや世界 そしてゼロを守るのが彼の役目なのに 今までそれをゼロによって破壊されてきた
しかも ゼロ自身は全て忘れてしまう それをずっとそばで…見てきたのが彼なのだ

テンプス「…あの方が想造者になった理由がある それは今の主に恐怖を思い出させる 言えない 全て…言えない だがあの方が人間である限り消えない やがてまたその日が来るかもしれない だから…友人が欲しいという願いも…危険性はあれど…止めるわけにも…あの方の精神が悲しみや恐怖に支配されれば…あぁだがそれでも解決にならない 今までどの想造者でも 守人でも あの方を止められなかった 例え全て元に戻せるとしても…これではいつまで経っても…何度あの方が苦しむのを見ればいいのか…」

ギュスターヴとトビーは顔を見合わせる
テンプスは初めて会った時からいい印象を抱いたことがあまりないが…流石に可哀想に思える
想造力という圧倒的な力を前に 彼は何もできないでいる 彼女は 過去自分のした事をどう思っているかまだわからないが…その度ゼロに説明し 再び力を使い世界を修復できるように手助けをし 挙句また同じことをされてはたまったものではないだろう

テンプス「話が 長くなってすまない ただ…他の想造者たちにも こんな話はできない 私の力不足を指摘されるだけだ どうせ無理だと言われるだけで…あの方はとても良い方なのだ 人間だったせいで…人間が…長い時を生きることに耐えられないために…精神が強い方では無い方なのだ 私が それを…支えられない…どんなに理想の世界も あの方をごまかせない 夢なんだ 想造者とは…」

この様子では相当ストレスが溜まっているらしい
ここはそんな辛い心のうち全てを話しきり 落ち着くための場所でもある 2人は愚痴を聞いて 相槌をうっていた

テンプス「…それこそ!あの時も本当に大変だったぞ 100年前にこの世界を開いた時だ」
トビー「あぁ…年代を勘違いしてた…」
ダステ「過去を消して時間を戻して…それも修復か…確かに大変そうだが…」
テンプス「酷く取り乱していたんだ 自分のせいでまた世界が崩壊するのかと…過去の出来事を罪と感じておられるから…ただバグの発生は物語を作る以上避けられない それでも初めてのことで その上壊れる世界を目の当たりにして…」


100年前 今と同じように彼らは出会い 友人となり過ごしていたが ある時バグであるエターナルが発生し 3人はバグに飲み込まれ 集会所も彼らの世界も黒く染まり なんとかタイムの世界に逃げ延びた彼らだが 城にも黒く広がったバグが天井から流れ落ち 床を黒く染め 大時計の側に集まってそれ以上寄せ付けないように抵抗していたが そこまで崩壊が進んでは倒しきれないとまでなった

その時 ゼロは頭を抱えながらしゃがみ込む 酷く取り乱し テンプスは焦る
世界が崩壊するか ゼロの想造が発動し 自死未遂の後記憶消去が起こるか どのみち最悪な状況だった

助けを求める彼らを救えなかった
テンプスが急いで調べ上げ 本来の年代と違うタイミングで世界を開いたことがバグを生み出したことがわかった
何もできないと 嘆くゼロを落ち着かせることができない
想造者として目覚めてから世界を修復し 最初に作った世界 日が浅い状態でのバグとの遭遇 しかもただのバグではなかった

明確にタイムを狙っていた ゼロはこの時点で両腕が使えなくなっている

タイム「何かないのか!?」
テンプス「時間…時間を戻せないか…?」
タイム「…やれなくはないが 過去は変えられない 同じ事になる ゼロが 何かやれないのか」
テンプス「同じ事が起きるのは ただ時を戻すからか…主!動作ができなくとも想造力は使えるでしょう 方法はある!過去を…過去を消せば あなたが世界を開かない道を選べば…バグがここまで強大な状態にはならない 次にやつが来ようと 守りましょう 対策を 私が必ず さぁ立ってください タイムが時間を戻す あなたが過去を消す これなら…」

ゼロは方法があると聞き なんとか落ち着いて立ち上がる

そしてタイムが時を戻し ゼロは想造力を使った
物語を始める日よりも前に…

テンプス「世界を放棄していれば やがて罪悪感に押しつぶされ記憶を消す なんとか助かった…というわけだ」

相当とんでもない出来事だったと知り 今回はバグを倒せたことに安堵した もしこれで失敗していたらと思うと…

テンプス「いずれ お前たちとも別れることになる 流石にそれは乗り越えられるとは考えているが…今の主が どのような方か 私も理解しきれていない…孤独な方だ だが今はお前たちがいる 友人という存在は…確かに重要だったと思える…昔話がすぎたな とにかく あの方の様子がおかしければ教えてくれ それ以外は何も気にせず 今まで通りでいい それが何よるあの方のためになる…こんな想造者と守人で…すまないな」

彼らは頷いた
過去の自分の過ちで彼女は苦しんでいるのかもしれないが 自分たちの存在がそれを癒せているのなら…

トビー「友達の頼みですから もちろんですよ」
ダステ「君には色々と助けてもらっているようだからな できることなら いくらでも頼んでくれ」
テンプス「…すまない」


テンプスは2人と別れ タイムの城の中へ向かう
同じことをタイムにも話し 対策しようとしていた
姿が見えなかったので書斎の戸を叩くと タイムの声が聞こえて そのまま入った

ゼロ「テンプス」
テンプス「……主」
ゼロ「どうしたの 深刻そうな顔して」
テンプス「…いえ すみません お邪魔をしてしまって」

タイムとゼロが室内でチェスをしていた 彼女はチェスのやり方を本で勉強しながら駒を進めており タイムはそれに付き合っているらしかった

テンプス「タイムに用があったのですが…あとできます 失礼します」
ゼロ「別にいいよ話してて 次どう動かすか考えとくし」
テンプス「いえ あなた様の時間を邪魔するわけにはいきません それでは」

そう言ってその場から姿を消す
ゼロは首を傾げていたが すぐにチェス盤に向き合った

タイム「…いいのか」

タイムが一言そう呟くと ゼロは頷いた

ゼロ「感謝こそすれ怒りはしないよ」

そうかとタイムは呟いた

ゼロは横のテーブルに置いていた氷入りの水を一口飲み 本を読み チェス盤を見て 難しい顔をする

ゼロ「…今度は間違えない」
タイム「そうしてくれ…それで どう動かす」
ゼロ「それはちょっと待って」
タイム「力を使えばいいだろう 無駄に…」
ゼロ「時間を使いすぎてる!…のはわかるんだけど こういうの力に頼るのはダメだから…!それだと勝っちゃうよ…」

タイムはため息をつき 仕方なく待つことにした


昔 テンプスが言っていた
ゼロがなぜ想造者になったのか
こんなにも想造者であることで追い詰められるのに なぜ永遠の存在になることを選んだのか

テンプス「…お前はその話を聞いたから あの方を受け入れたのかと」
タイム「私は彼女が以前の自分のせいで…今の使命を果たさなければならない話しか聞いていない」
テンプス「それか…なるほどな…まぁあの方は…本当は望んでいたんだ 想造者になることをずっと…だが過去の自分が それでも死を望む理由がわからないでいるのが 何より恐ろしいのだという 記憶を消すのもある意味では死を選ぶのと同じだと…思っているらしいからな」
タイム「…そんなことは私は知らない 知りたくもない」
テンプス「だろうな…無理にあの方といる必要もない お前が何者だろうと…あの方は受け入れ難いだろう 想造者は…自分本位だ そうでなければ 存在する意味がない…」



物語はもうすぐ終わる


いつか必ず終わる


ゼロ「よし 決めた」
タイム「早くしてくれ」


約束は必ず守ると言った



END
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