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第五章 テナルディエ

友との別れ

出会いから15年

白い道を進み 黒い扉の上のこの世界の題名を もう一度しっかりと見る

早朝の集会所 彼らはすでにそこにいた
テナルディエを待っていた

15年前 初めてここに来た日には こんな感情を抱いてここへ来るなんて 思ってもみなかった
彼らが迎えてくれるのが嬉しい日が そして別れが惜しい日が…

彼は彼のしたことを 友人たちが受け入れているわけではないことは知っていた それでもここで語り合い 酒を飲み 別れ 共に戦い 信じあった日々が 彼らを友人と呼べる関係にしていた

15年…もう そんなにも長くここに来ていた この関係は そんなにも長く続いていた

そして今日が…これが…テナルディエにとって最後の集まりになる


歩いて そのまま正面の椅子を引き 座る
全員の顔を 順番に見た

悲しいわけではない 泣いて別れるような性格ではない これからもまだ 必死に足掻いて生きるしかないのは なんとなくわかっている
その中で 支えになるこの場所は失われる 友人たちとも 二度と会えない

だが 彼には家族がいる それこそ この集会が始まった頃のような関係にまで戻れなくても…それだけで十分だった

ティナ「…何を言って 別れればいいのか よくわからねぇな」

ようやくテナルディエが話し始める ゼロはその言葉に頷いて反応した

ティナ「俺がやり直すために 色々迷惑かけて悪かった だが…おかげでロザリーとティエリーを助けられた……ありがとう」

みんな それを聞いて驚きながらも ようやく笑みを浮かべた
少し重いような雰囲気も柔らかくなり 段々と いつもの集会所が戻ってくるようだった

ティナ「俺たちはニューヨークに行く もう聞いただろうが そうなると壁はもう繋げられない 今港のそばの路地に繋がっているが これが最後になりそうだ まぁ…向こうでも しぶとくやってやるつもりだから あんまり心配しなくてもいいけどな…」

テナルディエはポケットから懐中時計を取り出した タイムが直しただけあって その見た目は非常に綺麗な状態に戻っていた

ティナ「タイム…ピレリの時計はお前のところにあるんだよな」
タイム「あぁ」
ティナ「なら俺のも 持っていてくれ お前なら 永遠に持っていてくれそうだし 俺を…できるだけ長く 忘れないでいて欲しいからな」
タイム「…構わないが…本当にいいのか」
ティナ「もちろんだ」

そう言って テナルディエはタイムに時計を手渡した
その後またしばらく 何を言おうか考えているのか テナルディエは口を閉じた

ティナ「…悪いな できれば早く戻らないといけない……何を…言うべきなんだか」

どこへ行こうと テナルディエには壁をつなぐ力が与えられていたから もう会えないという心配を そうそうしたことはなかった
壁に触れれば その先にはいつも当たり前のように 同じ姿の集会所があった

ティナ「この場所とお前らと…こうして会えたのは 俺の中では幸福なことだったのかもしれないな それが全部運命でも 俺はやり直すチャンスを手にした 誰かに信じてもらえて 過去も思い出して ここでの時間は 俺の中で確かに大事なものではあったんだろうな それも今日で最後だ 最後に顔が見れてよかった」

ゼロは想造力を使い テーブルの上に少量のジンが入ったグラスを出した

ゼロ「ずっとしてなかったからね これで最後の乾杯だ」
ティナ「ピレリのやつか?」
ゼロ「乗り気だね それでいこうか」
ティナ「…てっきりそれだと…素面でやることじゃないことくらいわかってる」
ゼロ「でもせっかくなら…ね 締めるならあれだよ」

トビーとギュスターヴが頷き タイムは静かにグラスを持ち テンプスは少し嫌そうな顔をしたあと周りの様子を見て グラスを手に取った
テナルディエとゼロがグラスを掲げると 他の4人も同じようにした

ゼロ「私たちの永遠の友情に 乾杯!」

グラスを鳴らし ゼロは満足そうに飲み干した

そして いくつか会話をしたあと テナルディエは立ち上がる 時間が来たようだ
友人たちも立ち上がり テナルディエの扉の方を向いた

ティナ「…じゃあな」

いつもの別れの言葉が 最後に集会所に残された

扉を開け 中に入り 扉が閉じる
扉の上の文字は赤くなり 彼が物語の中へ戻り やがて船に乗り フランスを去るのだろうと 実感する

約束通りマリウスは現れ 残りの金を渡される
ロザリーとアゼルマを連れ 別の名を持ったテナルディエは船の上に乗る


物語はバルジャンが長い眠りについたことで幕を閉じる


この先 ニューヨークにたどり着いたテナルディエは 本来の道筋の通り 身を持ち崩し やがて奴隷商人となるのか
それとも また違う道を歩むのだろうか

たどり着いたその先で 家族はどうなっていくのか

ゼロはまた願った せめて少しでも 今より良くなることを

ガブローシュはその後 どんな名前で呼ばれることになったのだろうか

コゼットとマリウスは この先の時代も 穏やかに 幸せに 過ごせるだろうか


その後の物語は わからない 続いていくのだけは確かだった

ゼロは 何も見なかった
あの別れが ゼロにとっても最後であるべきだと 思っていた


誰もいない集会所で ゼロは本を閉じる
表紙にはレ・ミゼラブルと書かれていた

ため息をつき 机の上に置いた本を眺める

いつかこんな日が来るのは初めからわかっていた
その上で今までずっと関わっていた

わかっている
いつかはみんなと別れることになる

タイムだけが 永遠に残る
共に 残る

その時彼はまだここにいてくれるのか わからない

もし彼が選ばなければ もし彼が自分を突き離せば 2度と会えなくなるかもしれない

テナルディエとの別れが ゼロの中にあった不安を強くした


タイムの城の中は 集会所を作る以前から訪れていた
こうして歩いていると 冷静になれる 余計不安になる日もある

何か大きな…笛かラッパか 高い音が聞こえてくる
機械から出る低い音や鐘の音とも違う音に ゼロは覚えがあった



ゼロが4つの物語の中で最初に会い この世界を作り出すほどに強い思いがあったのは タイムのいるこの物語だ

懐かしいと感じる記憶の中で 高揚する心を感じる
席につき 暗くなり そして 荒れる海の音が聞こえる


やがて別れが訪れても 彼は自分と友人でいてくれるのだろうか
永遠の友人 必要な存在 何より憧れの…

別れが怖かった
それが自分にどれほどの影響を与えるのか その先どうなるのか


もう 2人 いなくなってしまった


ゼロ「…大丈夫」


波の音が聞こえる


今はもう忘れられた凄惨な事件も
そこにいた家族のことも
あの日腕の中にあった暖かさも

彼は覚えている
いつまでも…いつか眠りにつく日がくるまで…ずっと




END
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