第一章 出会い そして
壁の中へ
出会いから1年が経ち 年が明けた1月半ばの頃
その日 テナルディエ 公安官 ゼロの3人で いつもの夜の集会を行なっていた
ピレリは別の町へ出掛けるから今日は来ない と言っていた
しかし用事が早く終わったのか 彼の扉がゆっくりと開かれた
なぜか 恐る恐る開けるように ゆっくりと
ティナ「よお ピレリ」
そう声をかけると 扉がバタンと閉まった
不思議に思ったテナルディエが立ち上がり 扉を引く
その後ろでは ゼロと公安官が どうしたんだろうかと手を止めていた
テナルディエが扉を引くと 思っていた位置より下に人がいる
ピレリではない
ティナ「誰だ?」
ゼロ「えっと…トビー…?」
…遡ること数日前
ピレリと共に暮らすトビーという少年がいる
彼はピレリの家族ではなく 孤児院から引き取った子供で 今は助手だ
ピレリはトビーに対しては酷い扱いをしていた 当時のことを思っても やりすぎなくらい
いつも ではなく あるタイミングで 一時的にではあった
なのでトビーは ピレリに対しては従順にならざるおえない状況で いつ彼が暴力的になるラインを越えるのか 怯えながら暮らしていた
普段を思えば ピレリは優しくはないが落ち着いた 普通の人だった
彼の仕事の手伝いを 刃物で怪我しそうになりつつもしている時も 同じ食事を共にするときも 引き取り手として ある程度普通だった
ただトビーは 仕方のないことだが いつもピレリの動向をうかがっていた
だからここ一年 ピレリが普段から少し明るく どこか楽しそうな様子だったことに 疑問を抱いた
仕事の時以外での笑顔を トビーに見せたことはほとんどなかった
暴力的な面に変化はなかったけれど
夜 お酒も飲まずに寝室に入るようになった
色々あった末に 寝る前に一緒に酒を飲むようにはなっていたのに
気になって ある夜閉めきれていなかった寝室の扉に気づき そおっと開いた
すると ピレリが壁の中へ飲み込まれるように前へ前へ進む姿を彼は見た
驚きながらも 気づかれないように 静かにその様子を見ていた
壁の中に姿を消したピレリを 扉の隙間から見送る形になったあと そっと扉を閉めて 慌てて寝床へ向かった
今のは夢だったのだろうかと バクバクうるさい心臓の音が聞こえる中考える
ゆっくり深呼吸をして 冷静に考えようとする
今日はお酒は飲んでない 今自分はたしかに起きている
なのにおかしなものを見た
トビーの頭は混乱する
もちろん あそこはいつでもただの壁 背を預けても飲み込まれないただの壁
なのにピレリが触れたら壁の中に入れる
そんなことがあるはずない なのに目の前で起こった
訳もわからないまま とにかく寝ようと必死に目を閉じる
次の日 ピレリはいつもと変わらない様子で起きてきた
そこからはずっと あの壁が気になる 一度触れようかと思ったが 怖くてやめてしまった
なによりそこはピレリの自室 そんな頻度で入ることはない
けれど時間が経つほどに 恐怖より好奇心が勝った
タイミングよく ピレリが丸一日以上家を開ける時があった
その日は店を閉め 頼まれていた掃除などを終わらせ その夜に ピレリの部屋へ入った
入るなとは言われていない 引き出しなどを開けるな 置いてあるものに触るな くらいだ
壁に触れるなとは言われていない
いざ部屋に入ると より緊張度が増した
この先にはピレリの何かしらの秘密があるのかもしれない
もし入ったことがバレれば ぶたれるのかもしれない
けどそれ一回の我慢で この先が知れる
直接聞いても この不思議な出来事に関して トビーに話すとは思えなかった
そっと ピレリが触れていたあたりの壁を触る
ピレリが壁に触れる様子を見る前の日まで そこはただの硬い壁だった
けれど 壁はトビーの指を飲み込んだ
不思議な感覚だった 水の中に手を入れたように滑らかに入っていくのに 何かに触れている感覚が全くない
まるでそこに 壁なんかないかのように
思い切って顔を突っ込んでみた
するとそこには 真っ白な道があった
右側を触ってみると しっかりとした壁だった
少しいった先に 扉が見える
不思議なのは すり抜ける壁だけじゃない
トビーは その先への恐怖心があまりなかった
ピレリが確実にいないからだとわかっているから…というわけでもなく
壁の向こうに手が消えても それが当然であるかのように 悲鳴一つあげなかった
一度ピレリが中へ入る様子を見ていたとはいえ その先に何があるかもわからないのに手を入れ 何もない という感覚に多少の驚きで終わる
トビーはピレリが実は人間じゃないのでは とも考えなかった
その時点で トビーも不思議の中で 不思議を当たり前のように受け入れるところが出ていた
中に入ろうという気に すぐなった
進もう あの扉を開けようと
ここまで来たら止まらないのか それとも何かしらゼロの力の影響を受けたのか
扉の目の前まではすんなり来た
しかし扉の“Otherworldly Story”という文字を見て 固まった
先ほどまでは一切脳内から排除されていた 人間の世界ではないのか?という疑問
恐る恐る 扉を開く
「よぉ ピレリ」
声に驚いて 扉を閉める
ピレリ と呼ぶその声が あまりにピレリと似ていて 思わず体が反応してしまった
そこから動けずにいると 扉が開く
「誰だ?」
「えっと…トビー…?」
名前を…呼ばれた
そして 今に至る
公安官「ピレリが言ってた あのトビー?」
ゼロ「だと思うけど」
ティナ「おいトビー こっちこい こっち」
手招きしても トビーは震えたまま動こうとしない
なにせ目の前にいるのはピレリと同じ顔で 同じ声の けれどピレリではない男だ
それがなぜか自分の名前を知っている
男2人が何を言っているのかわからない 名前だけしか聞き取れない
すると テナルディエに腕を掴まれる
トビー「うわぁ!!」
ティナ「お…おい…なんだよ」
ゼロ「いや 普通に驚くでしょ」
トビー「は…離してください!」
テナルディエは驚いた顔をする
トビーの言葉が フランス語で聞こえない
ティナ「こいつ 言葉通じてるか?」
ゼロ「…あーそっか…一回手を離そうか」
テナルディエがパッと手を離すと トビーは数歩後ろへ下がる
テナルディエが手招きしても来ないので 一度離れて 次にゼロが来た
ゼロ「おそらく 私の言葉しかわからないよね トビー 私たちはピレリの友人で 君を知ってる とりあえず部屋の中へおいで 大丈夫だから」
ゼロが手招きすると トビーはゆっくりと部屋の中へ進んだ
壁の道を進んだ時と同じ 不思議と何の恐怖心もなくなり 歩けた
ゼロ「よし」
ゼロがトビーの背後から 耳に触れる
一瞬驚いていたが 次にテナルディエの言葉を聞いて 彼はそちらに驚いた
ティナ「今ので何か変わるのかよ」
ゼロ「変わるよ 君らと同じで耳に力を使ったから」
トビーはテナルディエの言葉が急にわかるようになった
だんだんと訳が分からなくなってきた 一度落ち着いたはずなのに 頭を抱える
トビー「あ…あなたたちは 人間…なんですか?」
ノーと答えられたら すぐさま元の場所へ逃げようと思いながら 彼らに質問をする
ティナ「そりゃ人間さ いたって普通の」
公安官「そこにいる彼女を除けば」
ゼロ「で…でも悪い存在ではないから!」
一気にゼロとの距離があく
ピレリと同じ顔2人と 人間の姿をした人間ではないやつ
公安官「一度椅子に座らせたほうがいいんじゃないか?」
ティナ「それより力でこいつを落ち着かせろよ」
ゼロ「トビー 一旦椅子にどうぞ」
そういうと 公安官から一つ開けた椅子…つまりはいつもピレリが座っているトビーから一番近い椅子を指差す
トビー「……こ ここはどこ ですか」
ゼロ「…わかった わかったよトビー 気持ちはすごくわかる 座って話をしよう 教えるよ この場所と 私たちについて」
そうゼロが言うと ピレリの椅子が勝手に後ろ側へ動く さぁどうぞと言わんばかりに…
トビーはようやく椅子に座った
ずっと警戒心は強いが 今のところはもう何もしてこないと思ってもらえた…かもしれない
ゼロ「では 説明がてら ジンはいかがかな?よく飲むでしょう?」
トビー「なんでそれを知って…」
そこまで言ったところで 机の上に酒瓶とグラスが現れる
何もないところから…突然に
トビー「え…?」
ゼロ「とりあえず簡潔に 一から説明を 私たちはピレリの友人 ここは集会所 君の住む世界とは別世界 彼らは同様に別世界の住人 こっちの彼 テナルディエに関しては住んでる時代が違うだけだけど 私たちはいつもここで集まって 色々話をしてのんびり過ごしてる 飲み食い無料だし それがここの存在理由だから」
トビー「え…あの…」
そしてゼロはさらに2人に目を向けて説明する
ゼロ「テナルディエ 1800年代のフランス人 君からすると過去の人 こっちの彼 ダステ公安官 1900年代のフランス人 未来の人 あの扉の向こうが彼らの住む世界 他に1人いるけど 今は私の後ろの扉の向こうの世界にいる 以上私たちとこの場所について」
やりきった感を出し こんなもんでいいでしょ と公安官とピレリを見る
トビー「あなたは…なんなんですか」
ゼロ「私?説明しても多分わかんないと思うけど」
トビー「ずっとわけがわからない こんなこと…」
ゼロ「…あんまり効いてないのかな まぁいいや」
ゼロは椅子に深く座り 笑顔を作るのをやめた
先ほどまでは抱かなかった 畏れを感じた
ゼロ「私は想造者ゼロ 想像したもの全てを現実化させる想造力を持ってる この場所も この家具全て そして 君たちも 私が現実化させた」
その言葉を 聞けば聞くほどトビーは混乱する
想造とは 彼女とは 自分の目の前にある全てが トビーの理解の範疇を超えていた
ありえない おかしいのに 目の前に確かにそれはある
ゼロ「物語の世界を現実化させたんだ 君はお話の中の人物 キャラクターなんだよ」
トビー「……え?」
ゼロ「本の中の 物語の中の 一員 それが君で ピレリで 君の住む世界も 物語の舞台って話さ まぁイギリス自体は現実にあるけど」
景色が一瞬でロンドンの上空に変わる
椅子に座っているはずなのに ふわふわとした浮遊感に気分が悪くなる
ゼロ「…まぁ君は 物語の名前を知るべきではないけど」
全く気づいていなかったが トビーが部屋に入った時点で スウィーニー・トッドの扉の上の題名だけ消えて見えなくなっていた
トビーはその反対側の 集会所の物語名しか知らない状態だった
トビー「なんで…」
ゼロ「始まればわかるさ」
景色が元の集会所に戻る
おかしな夢とは 思いようがなかった
ピレリと同じ顔の彼らは 目の前の女性は どうしようもなく現実だ
トビー「…ここに来たこと ピレリさんに話しますか?」
ゼロ「あぁ たぶん」
公安官「何か問題が…あるのか?」
トビー「勝手にここへ来たから…叱られてしまう」
ゼロ「……一応 君に対して何も言わないようには 伝えておくよ」
トビーは首を振る
トビー「あの人は…僕を不快に思えば 誰に何を言われてもいつも同じです あなたは全部を 知らないんですか?」
ゼロ「私は全知の神じゃない 君らのこと全てを知ってるわけじゃないけど 彼がどういうやつかくらいは ある程度わかってるつもり それでも 私は…感覚がだいぶ未来寄りだから」
スウィーニー・トッドの扉が開く
向こうに誰かがいるわけではない 勝手に…いや ゼロの力で開いた
ゼロ「それでも…やっぱり友人としてはね 彼にも良心はあると思いたいもんだからね 彼の暴力面は変わるだろうと思いたいんだ」
トビーは立ち上がる
何も言わずに 帰ろうとする
何も……そう思ったが 振り向いた
トビー「……これも 想造力?」
ゼロ「トビー 今度はピレリと来なよ その時には タイムを紹介するよ」
トビー「あぁ…あの人が 何もしなければ…」
トビーはまた来るだろうか
新しい出会いは 彼だけに限らない
END
出会いから1年が経ち 年が明けた1月半ばの頃
その日 テナルディエ 公安官 ゼロの3人で いつもの夜の集会を行なっていた
ピレリは別の町へ出掛けるから今日は来ない と言っていた
しかし用事が早く終わったのか 彼の扉がゆっくりと開かれた
なぜか 恐る恐る開けるように ゆっくりと
ティナ「よお ピレリ」
そう声をかけると 扉がバタンと閉まった
不思議に思ったテナルディエが立ち上がり 扉を引く
その後ろでは ゼロと公安官が どうしたんだろうかと手を止めていた
テナルディエが扉を引くと 思っていた位置より下に人がいる
ピレリではない
ティナ「誰だ?」
ゼロ「えっと…トビー…?」
…遡ること数日前
ピレリと共に暮らすトビーという少年がいる
彼はピレリの家族ではなく 孤児院から引き取った子供で 今は助手だ
ピレリはトビーに対しては酷い扱いをしていた 当時のことを思っても やりすぎなくらい
いつも ではなく あるタイミングで 一時的にではあった
なのでトビーは ピレリに対しては従順にならざるおえない状況で いつ彼が暴力的になるラインを越えるのか 怯えながら暮らしていた
普段を思えば ピレリは優しくはないが落ち着いた 普通の人だった
彼の仕事の手伝いを 刃物で怪我しそうになりつつもしている時も 同じ食事を共にするときも 引き取り手として ある程度普通だった
ただトビーは 仕方のないことだが いつもピレリの動向をうかがっていた
だからここ一年 ピレリが普段から少し明るく どこか楽しそうな様子だったことに 疑問を抱いた
仕事の時以外での笑顔を トビーに見せたことはほとんどなかった
暴力的な面に変化はなかったけれど
夜 お酒も飲まずに寝室に入るようになった
色々あった末に 寝る前に一緒に酒を飲むようにはなっていたのに
気になって ある夜閉めきれていなかった寝室の扉に気づき そおっと開いた
すると ピレリが壁の中へ飲み込まれるように前へ前へ進む姿を彼は見た
驚きながらも 気づかれないように 静かにその様子を見ていた
壁の中に姿を消したピレリを 扉の隙間から見送る形になったあと そっと扉を閉めて 慌てて寝床へ向かった
今のは夢だったのだろうかと バクバクうるさい心臓の音が聞こえる中考える
ゆっくり深呼吸をして 冷静に考えようとする
今日はお酒は飲んでない 今自分はたしかに起きている
なのにおかしなものを見た
トビーの頭は混乱する
もちろん あそこはいつでもただの壁 背を預けても飲み込まれないただの壁
なのにピレリが触れたら壁の中に入れる
そんなことがあるはずない なのに目の前で起こった
訳もわからないまま とにかく寝ようと必死に目を閉じる
次の日 ピレリはいつもと変わらない様子で起きてきた
そこからはずっと あの壁が気になる 一度触れようかと思ったが 怖くてやめてしまった
なによりそこはピレリの自室 そんな頻度で入ることはない
けれど時間が経つほどに 恐怖より好奇心が勝った
タイミングよく ピレリが丸一日以上家を開ける時があった
その日は店を閉め 頼まれていた掃除などを終わらせ その夜に ピレリの部屋へ入った
入るなとは言われていない 引き出しなどを開けるな 置いてあるものに触るな くらいだ
壁に触れるなとは言われていない
いざ部屋に入ると より緊張度が増した
この先にはピレリの何かしらの秘密があるのかもしれない
もし入ったことがバレれば ぶたれるのかもしれない
けどそれ一回の我慢で この先が知れる
直接聞いても この不思議な出来事に関して トビーに話すとは思えなかった
そっと ピレリが触れていたあたりの壁を触る
ピレリが壁に触れる様子を見る前の日まで そこはただの硬い壁だった
けれど 壁はトビーの指を飲み込んだ
不思議な感覚だった 水の中に手を入れたように滑らかに入っていくのに 何かに触れている感覚が全くない
まるでそこに 壁なんかないかのように
思い切って顔を突っ込んでみた
するとそこには 真っ白な道があった
右側を触ってみると しっかりとした壁だった
少しいった先に 扉が見える
不思議なのは すり抜ける壁だけじゃない
トビーは その先への恐怖心があまりなかった
ピレリが確実にいないからだとわかっているから…というわけでもなく
壁の向こうに手が消えても それが当然であるかのように 悲鳴一つあげなかった
一度ピレリが中へ入る様子を見ていたとはいえ その先に何があるかもわからないのに手を入れ 何もない という感覚に多少の驚きで終わる
トビーはピレリが実は人間じゃないのでは とも考えなかった
その時点で トビーも不思議の中で 不思議を当たり前のように受け入れるところが出ていた
中に入ろうという気に すぐなった
進もう あの扉を開けようと
ここまで来たら止まらないのか それとも何かしらゼロの力の影響を受けたのか
扉の目の前まではすんなり来た
しかし扉の“Otherworldly Story”という文字を見て 固まった
先ほどまでは一切脳内から排除されていた 人間の世界ではないのか?という疑問
恐る恐る 扉を開く
「よぉ ピレリ」
声に驚いて 扉を閉める
ピレリ と呼ぶその声が あまりにピレリと似ていて 思わず体が反応してしまった
そこから動けずにいると 扉が開く
「誰だ?」
「えっと…トビー…?」
名前を…呼ばれた
そして 今に至る
公安官「ピレリが言ってた あのトビー?」
ゼロ「だと思うけど」
ティナ「おいトビー こっちこい こっち」
手招きしても トビーは震えたまま動こうとしない
なにせ目の前にいるのはピレリと同じ顔で 同じ声の けれどピレリではない男だ
それがなぜか自分の名前を知っている
男2人が何を言っているのかわからない 名前だけしか聞き取れない
すると テナルディエに腕を掴まれる
トビー「うわぁ!!」
ティナ「お…おい…なんだよ」
ゼロ「いや 普通に驚くでしょ」
トビー「は…離してください!」
テナルディエは驚いた顔をする
トビーの言葉が フランス語で聞こえない
ティナ「こいつ 言葉通じてるか?」
ゼロ「…あーそっか…一回手を離そうか」
テナルディエがパッと手を離すと トビーは数歩後ろへ下がる
テナルディエが手招きしても来ないので 一度離れて 次にゼロが来た
ゼロ「おそらく 私の言葉しかわからないよね トビー 私たちはピレリの友人で 君を知ってる とりあえず部屋の中へおいで 大丈夫だから」
ゼロが手招きすると トビーはゆっくりと部屋の中へ進んだ
壁の道を進んだ時と同じ 不思議と何の恐怖心もなくなり 歩けた
ゼロ「よし」
ゼロがトビーの背後から 耳に触れる
一瞬驚いていたが 次にテナルディエの言葉を聞いて 彼はそちらに驚いた
ティナ「今ので何か変わるのかよ」
ゼロ「変わるよ 君らと同じで耳に力を使ったから」
トビーはテナルディエの言葉が急にわかるようになった
だんだんと訳が分からなくなってきた 一度落ち着いたはずなのに 頭を抱える
トビー「あ…あなたたちは 人間…なんですか?」
ノーと答えられたら すぐさま元の場所へ逃げようと思いながら 彼らに質問をする
ティナ「そりゃ人間さ いたって普通の」
公安官「そこにいる彼女を除けば」
ゼロ「で…でも悪い存在ではないから!」
一気にゼロとの距離があく
ピレリと同じ顔2人と 人間の姿をした人間ではないやつ
公安官「一度椅子に座らせたほうがいいんじゃないか?」
ティナ「それより力でこいつを落ち着かせろよ」
ゼロ「トビー 一旦椅子にどうぞ」
そういうと 公安官から一つ開けた椅子…つまりはいつもピレリが座っているトビーから一番近い椅子を指差す
トビー「……こ ここはどこ ですか」
ゼロ「…わかった わかったよトビー 気持ちはすごくわかる 座って話をしよう 教えるよ この場所と 私たちについて」
そうゼロが言うと ピレリの椅子が勝手に後ろ側へ動く さぁどうぞと言わんばかりに…
トビーはようやく椅子に座った
ずっと警戒心は強いが 今のところはもう何もしてこないと思ってもらえた…かもしれない
ゼロ「では 説明がてら ジンはいかがかな?よく飲むでしょう?」
トビー「なんでそれを知って…」
そこまで言ったところで 机の上に酒瓶とグラスが現れる
何もないところから…突然に
トビー「え…?」
ゼロ「とりあえず簡潔に 一から説明を 私たちはピレリの友人 ここは集会所 君の住む世界とは別世界 彼らは同様に別世界の住人 こっちの彼 テナルディエに関しては住んでる時代が違うだけだけど 私たちはいつもここで集まって 色々話をしてのんびり過ごしてる 飲み食い無料だし それがここの存在理由だから」
トビー「え…あの…」
そしてゼロはさらに2人に目を向けて説明する
ゼロ「テナルディエ 1800年代のフランス人 君からすると過去の人 こっちの彼 ダステ公安官 1900年代のフランス人 未来の人 あの扉の向こうが彼らの住む世界 他に1人いるけど 今は私の後ろの扉の向こうの世界にいる 以上私たちとこの場所について」
やりきった感を出し こんなもんでいいでしょ と公安官とピレリを見る
トビー「あなたは…なんなんですか」
ゼロ「私?説明しても多分わかんないと思うけど」
トビー「ずっとわけがわからない こんなこと…」
ゼロ「…あんまり効いてないのかな まぁいいや」
ゼロは椅子に深く座り 笑顔を作るのをやめた
先ほどまでは抱かなかった 畏れを感じた
ゼロ「私は想造者ゼロ 想像したもの全てを現実化させる想造力を持ってる この場所も この家具全て そして 君たちも 私が現実化させた」
その言葉を 聞けば聞くほどトビーは混乱する
想造とは 彼女とは 自分の目の前にある全てが トビーの理解の範疇を超えていた
ありえない おかしいのに 目の前に確かにそれはある
ゼロ「物語の世界を現実化させたんだ 君はお話の中の人物 キャラクターなんだよ」
トビー「……え?」
ゼロ「本の中の 物語の中の 一員 それが君で ピレリで 君の住む世界も 物語の舞台って話さ まぁイギリス自体は現実にあるけど」
景色が一瞬でロンドンの上空に変わる
椅子に座っているはずなのに ふわふわとした浮遊感に気分が悪くなる
ゼロ「…まぁ君は 物語の名前を知るべきではないけど」
全く気づいていなかったが トビーが部屋に入った時点で スウィーニー・トッドの扉の上の題名だけ消えて見えなくなっていた
トビーはその反対側の 集会所の物語名しか知らない状態だった
トビー「なんで…」
ゼロ「始まればわかるさ」
景色が元の集会所に戻る
おかしな夢とは 思いようがなかった
ピレリと同じ顔の彼らは 目の前の女性は どうしようもなく現実だ
トビー「…ここに来たこと ピレリさんに話しますか?」
ゼロ「あぁ たぶん」
公安官「何か問題が…あるのか?」
トビー「勝手にここへ来たから…叱られてしまう」
ゼロ「……一応 君に対して何も言わないようには 伝えておくよ」
トビーは首を振る
トビー「あの人は…僕を不快に思えば 誰に何を言われてもいつも同じです あなたは全部を 知らないんですか?」
ゼロ「私は全知の神じゃない 君らのこと全てを知ってるわけじゃないけど 彼がどういうやつかくらいは ある程度わかってるつもり それでも 私は…感覚がだいぶ未来寄りだから」
スウィーニー・トッドの扉が開く
向こうに誰かがいるわけではない 勝手に…いや ゼロの力で開いた
ゼロ「それでも…やっぱり友人としてはね 彼にも良心はあると思いたいもんだからね 彼の暴力面は変わるだろうと思いたいんだ」
トビーは立ち上がる
何も言わずに 帰ろうとする
何も……そう思ったが 振り向いた
トビー「……これも 想造力?」
ゼロ「トビー 今度はピレリと来なよ その時には タイムを紹介するよ」
トビー「あぁ…あの人が 何もしなければ…」
トビーはまた来るだろうか
新しい出会いは 彼だけに限らない
END