このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第五章 テナルディエ

レ・ミゼラブル

ダステ「…愛が偏る人間も中にはいる 君の妻も娘だけを愛したり…君自身もそうなんだろう」


時間を戻す日がきた

ティナ「お前も俺を 悪人だと思うか」
ダステ「思うな だがそれは私が自分の思う正義を貫ける環境にいるからだろう」

テンプスは頭ごなしにこっちを否定し悪人だなんだと言ってくるが 彼のいる環境がどんな理由があろうと悪を許せないと彼に思わせるのかもしれないと 自分を納得させてみる

ゼロたちがまだ来ない 自然とギュスターヴと2人きりになり 物語を知る彼と久しぶりに2人きりになって 何を話すかに迷い ギュスターヴの方から口を開き 今の会話に至る

ティナ「…あの時一緒に殺されていた方がよかったのかもしれないな」

ギュスターヴがテナルディエの方へ顔を向ける

ダステ「愛は…人を変えるらしいが…君の場合変わりすぎじゃないか…そんなこと言うような人間だったか?」
ティナ「色々思い出してからずっとこうだ…ってかなんだその愛ってのは 俺は別にそれのせいでってわけじゃ…ただ 俺は自分の生き方に後悔してるだけだ 家族をほとんど死なせた 碌でもない俺でも やれることだけやって アゼルマのこの先の人生を多少マシにしたいだけであってだな…」
ダステ「…それが君の思い出した愛情だとは思うんだが」
ティナ「今更そんな…子供らには本当に関心なかったんだ だから碌でもない親なんだよ俺は そもそもロザリー以外助ける力もねぇしだな…というか口に出して説明するようなことでも無いんだよこんなクソみてぇな話…」

それは確かにそうだが…と小さく言いながら ギュスターヴはまた前を見た
それでも彼はテナルディエが 自分の人生を変えるという理由ではなく 1人残った娘のためにやろうとしているのは 十分 愛による彼の変化だとは思う
話を聞けるのも 友人としては喜ばしいが 確かに内容は碌なものではない

しかし やはりあの時死んでいればよかった という言葉は…

ダステ「…昔 死んだ仲間たちの代わりに死んでいれたならと 思う時があった」

テナルディエはギュスターヴが過去の話をした時 その場にいなかったので 彼の過去を知らない 初めて聞く話に 少し興味を持ち ギュスターヴの方を見た

ダステ「それと 過去の記憶を改竄してたな あと忘れたことも多かった 今は思い出したが」
ティナ「…俺と同じ…だな」
ダステ「あぁ同じだな」

しばらく 互いに黙り込む
ゼロの仕組んだことなのか ここに来た彼らには共通点がある

友人になれたのは どこかでシンパシーを感じていたからなのかもしれない

ダステ「君が いなければ良かったことは 物語上において こちらから見た時に いくつかあるが…」
ティナ「……あぁ」
ダステ「君がいないと それはそれで 不幸がある それだけ君は物語の中で 重要なことをしている それで何人かが不幸になっていても バルジャンとコゼットとマリウスのハッピーエンドは 君がいてこそだろう 君の妻も願いが叶った だから 死んでいれば良かったというのは…」
ティナ「お前 今それを考えていたのか」
ダステ「そうだ 時に悪人の存在も必要になる 物語と理想は また違うものだな…」
ティナ「…結局は 題名の通りってことか どうやったって」
ダステ「レ・ミゼラブル…か」


その後しばらくして 全員が集会所へ集まる


ゼロ「今と過去を想造力で無かったことにする それと同時にタイムが時間を戻して テンプスには状況を確認し続けてもらう とにかく去年の2月までは戻れるから あとは…ティナがうまくやればいい」

テンプスを除く全員が集まり 椅子に座って ゼロからこの先の流れを説明されていた

ゼロ「…じゃあ 始めよう」

タイムは背もたれに背をつけ 懐中時計を取り出し左手に持った
ゼロは深呼吸した後 手を握る

ゼロ「すぐ終わるから」

手を開いて握り また開く
タイムは懐中時計の蓋を開けた

扉の上の数字が一気に過去へ戻る様子を視界的に伝えてくる…どんどん月日が前へ戻るのだ
集会所はほとんど変化をしない場所なので 1年以上元に戻っても よくわからない

ゼロは目を閉じたまま前を向いて余計な想造をしないように集中していた タイムは懐中時計とテナルディエの椅子の後ろ側にあるレ・ゼミラブルの扉上の数字を交互に確認している

そして周りの景色が変わる
川の激流のような音と共に 水に飲み込まれる 水が触れる感覚はないが みるみるうちに集会所は彼らの見覚えのある場所へ変わる
気づかないうちに1人になり 立った状態でただ今の状態を眺めている
勢いよく景色が後ろから前へ時を遡るようにせせらぎの音と共に流れて変わる
そのうち 強い眠気に襲われ だんだん視界が暗くなる



ゼロが目を開けると同時にタイムは懐中時計の蓋を閉じた

テンプスがテレポートしてきて ゼロたちの座る椅子の間に立つ
集会所に3人の姿はない

テンプス「この先の時間再構築も無事行われ 繋がりも確認しました 世界に問題はありません バグの発生も観測せず 時間は正常 彼らの内部時間も問題なく戻っています」
ゼロ「…やっぱりここが限界だったけど…あとはどれだけ元の道から外れるか…」



テナルディエは気がつくとあのあばら屋の屋根裏部屋の中にいて テーブルに置かれた紙を前に ペンを持って座っていた
急に手を止め ペンを置き 口に加えていたパイプを持ったまま 部屋のなかをキョロキョロと見回したので ロザリーが暖炉の側でかがみながら 怪訝そうな顔でテナルディエを見る アゼルマはベッドに腰掛け 何もせずただ座っていた

本当に戻ってこれた ロザリーが生きている エポニーヌの姿は見えない どこかへ出かけているのだろう
今はいつだろうか とにかく まずはバルジャンとの接触からうまくやって…

考えていると 扉が勢いよく開く
息を切らしながら 喜んだ様子のエポニーヌが叫ぶ

エポニーヌ「来るよ!」


テナルディエはエポニーヌの方へ顔を向ける


ティナ「…誰が」
エポニーヌ「旦那がよ」
ティナ「どの旦那だ」
エポニーヌ「サン・ジャック協会のよ」
ティナ「慈善家の…あの爺さんか」
エポニーヌ「そうよ」

テナルディエは全く嬉しそうにしないが 確信を持てないといつもそんな顔なので エポニーヌは特別不審には感じていなかった

ティナ「…確かか」
エポニーヌ「確かよ 辻馬車で来るわ」
ティナ「……そうか わかった」

これ以上何も聞かなくてもわかる 以前は確かめるために娘にとにかく色々聞いていたが 全ての回答が 今がいつなのか 現実を知らせ続けるだけで 無意味でしかないのはわかった


1832年2月3日
あの日の朝だ

…時間を戻す直前にされたゼロからの説明を思い出し どうすべきかを考える

ゼロ「ゴルボー屋敷にいる以上 事件は起こす やった上で うまくロザリーが捕まらないようにしないといけない」
ティナ「…あれがない方がいいんじゃないのか」
ゼロ「君がテナルディエだとバルジャンとマリウスに知らせるためかな…君の隣に住んでたのがマリウス だから事件のことを知ってる そしてポンメルシー大佐の息子 君がワーテルローで父親を助けたことを知ってる 遺言でお礼をするよう言われてるから 君が悪人だとわかっても 助けた バルジャンが君の家に来た時 部屋を覗けることに気づいた彼は見てた 一部始終全部 それで警察にも連絡して…ジャベールが待ち伏せしてた だから…君がテナルディエと知るにはまず…バルジャンを脅すつもりっていうのを盗み聞きしてる彼に知らせて 事が起きた時に合図するために密かに部屋で見ている…その状況を作らないといけない」
ティナ「…それだけか?」
ゼロ「彼が君をアメリカへ逃すようにするのも必要 となるとやっぱり君は捕まらないといけない 脱獄して死刑判決なのはマリウスも知ってるから 事件を起こすのは必須…結構危険だけど…だからその上でロザリーをどうするか 説明一切せずに その日は外へ出かけさせるとか…とにかく事件には関与させないで…その上で身を隠せる場所だけ伝えるとか」


バルジャンが帰った後 集会所へ行き その後パトロン・ミネットに話をつけ 必要なものを揃え 約束の時間までにロザリーにも話をした上で逃し 娘らに見張りをさせ で 事件を起こして…

あの時は金のためにやっていたから苦でもなかったが 自分が逮捕されて牢に入るために行うのだと思うと 最悪な気分だが これもわずかな罪滅ぼしのためだ やるしかない

下手な演技をしなくとも 要件さえ言えば 哀れな家族を助けようとバルジャンは動く 約束を守っている以上 こちらの正体はバレていないはずだ 嘘だけはおそらく見抜かれているかもしれないが それでも構っていられない

ロザリーには奴らが何者なのかも伝えなければ おそらく一緒になってやる気にはならないだろう うまく誤魔化せるかはわからないが…



戸を叩く音がした


やつが来た


そういえば 前のように暖炉の火を消したりしていないが それは大丈夫なのだろうか 関係ないと思いたい 流石に今の精神状態で 以前と同じ愚行はできない


テナルディエの心配は特に問題なかった 簡潔に それでも嘘を混ぜて話をする いくらなんでも以前と全く同じセリフは出てこない だがそれらしくやると 18時に60フランを持って 再びここで会う約束をつけられた
これで大丈夫だとひとまず安心した
アゼルマの手に怪我がないが そんな身体的な違いも 全く問題ないようで それなら残りを同じようにしつつ ロザリーは早いうちに屋敷から遠ざければいい

意識して 隣との壁の方を見ないようにする
気にしすぎて もし穴の先のマリウスと目でも合えば 彼はこちらを覗くのも聞き耳を立てるのもやめてしまうかもしれない

エポニーヌともこれ以上会話しようものなら ゼロとの約束を破ってでも 未来を改変したくなる 諦めろと 自分に訴える
欲深いから 全部失敗してきたんだ



テナルディエはバルジャンたちを外へ見送りに一緒に出ていく

慈善家の置いて行った包みを開きながら ロザリーはため息をつく 急に手紙を書く手を止めてから テナルディエの様子がおかしくなったのを彼女は感じていた
直前までの世間への恨みを叫んでいた彼が 今は落ち着いた穏やかそうな顔でいる 慈善家相手に貼り付けた笑顔を見せない 眉間に皺を寄せることもなく娘たちに声をかける
あまりに奇妙で 突然気がおかしくなったと思うほどだった

ティナ「あの慈善家がもう一度ここへ来たら 60フランどころじゃねぇ もっと手に入る」

慈善家を見送ったあと 部屋に戻るなり テナルディエがそう言った

この時点で すでに最初にすべきことはすんでいたので 順調だった

ロザリー「どういうことさ」

娘たちは暖炉の前に座っていたが テナルディエがバルジャンの置いて行った外套を持たせ しばらく外にいるように言い 2人は仕方なく屋敷の外へ出た

ティナ「仲間に話はつけた 18時は家主の婆さんは皿洗いに出てるしお隣もまだ帰らない 娘らは番につかす お前は別で仕事だ 野郎を降参させるつもりだが 抵抗はされるはずだ もし誰かに知られれば終わりだ お前は俺の言った場所へ行け もし何かあれば連絡がいく 娘らはすぐ出られるはずだから お前が無事で外にいればなんとかなる 成功はさせるつもりだが 対策だ いいか わかるな?」
ロザリー「ちょ…ちょっと待っとくれよ 何の話だい あの慈善家からもっと取るって?しかもなんだい まるで…しぐじるかもしれないのかい?そこまでするような相手だってなんでわかったのさ」
ティナ「ごちゃごちゃ言うな とにかく…パトロン・ミネットの力があればまず失敗はねぇが 用心しないで挑む気は無い いいかロザリー お前までやられるようなまねだけするな 何の心配もなくやらねぇと 俺の方が早々に降参することにもなりかねないからな」

そう言って テナルディエはロザリーに必要な情報だけ伝え 13時の鐘の音を聞き 急いで次に向かった
ロザリーは何が何だかわからないでいたが テナルディエはもうそれ以上話をする気がないらしいとなると 従うしか無い
今までずっと そうしてきたのだから


外へで出たテナルディエは 以前と同じように 集会所へ向かっていた 目的も同じく トビーに髭剃りを頼むためだ


トビー「さ どうぞ すぐに終わらせますね」

すっかり準備していたトビーがすぐにテナルディエを椅子に座らせ 軽やかな手つきで素早く終わらせる

ゼロとテンプスが 同じように集会所へ来た

ゼロ「どう うまくやれた?」
ティナ「雑な理由つけてロザリーは離せたぞ しくじった時のためとかなんとか言ってな」
ゼロ「じゃあこのままで大丈夫かな…指輪もあるようだし」
ティナ「あぁこれか 本来無くたって俺は外へ出られるんだろ?」
ゼロ「そうだけど そのままでいいよ 同じルートが通れる」
ティナ「それもそうか」

テンプスは時計や扉と壁の状態などの確認作業をして トビーは早々に片付けを済ませていた

ゼロ「…救えるのはロザリーだけだけど 君の自己満足にしかならなくても せめて別れ際だけでも 多少マシにしたって 今更 その程度の改変くらい影響なくできるからね」

ゼロがそう言って集会所を去り

テンプス「必死に足掻いて不可能を可能にしたんだ 後悔ないようにやりきれ これがどうしようもない悪人となったお前らしい結末なんだろうから」

テンプスが最後までテナルディエを好いていないことを全面的に伝えて ゼロに続き集会所を去った

トビー「テンプスは相変わらずですね…でももうここまで来たんですし 絶対に助けましょうね 奥さんのこと」

テナルディエは頷いた

トビーも去った集会所だが テナルディエはあと数分だけここで段取りを考えた後 戻るつもりだった

その最中 タイムの扉が開き 彼が入ってきた

ティナ「この後予定通り捕まるから 時計は受け取れないぞ」

手に持っているのが自分の懐中時計だと気づいたテナルディエは タイムが何か言う前に伝えた

タイム「わかっている ただ一応言っておこうと思ってな」
ティナ「なんだ」
タイム「必ず取りに来るんだ 約束だっただろう」

まさかタイムが わざわざそんなことを言うためにここへ来たのかと テナルディエは驚いた

ティナ「…お前がはっきりと教えてくれたおかげで 俺もなんとか気づけた 助けてもらってばっかりだな…今度は脱獄したらすぐにでも取りに来る 時間に無駄なく さっさとな」

そう言われ タイムは笑顔で頷いた


時間がきたのでテナルディエは戻り タイムも彼が帰るので 戻って行った




END
10/12ページ
スキ