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第五章 テナルディエ

自由への遁走

その出来事の夜
2月の同じ日に捕まったパトロン・ミネットのグールメルとブリジョンが先に脱獄を終え バベやモンパルナスといった仲間と合流を果たしていた 40か50分ほどの間での出来事だった

雨風の激しい夜だった
午前1時 テナルディエは何らかの方法で前もって知らせを受けて 眠らず 時を待っていた
先ほどの2人が脱走の際 暗い夜の中 雨と強風の中屋根を伝い テナルディエの檻と向かい合っている窓の前を通り ブリジョンが窓の前で足を止めた それだけで 十分なことだった

午前2時 番兵が交代の時間になり 老兵だったのが新兵に変わった
犬を連れた看守が見回る時には その若い新兵は普通にその場におり 看守は問題がないのを確認し立ち去った

そしてさらに2時間後の4時に交代の番兵がやってきて見たのは テナルディエの檻の前で横たわり ぐっすり眠る若い新兵だった
檻の中にテナルディエはいなかった
壊れた鉄枷が床に転がり 天井とさらにその上の屋根にも穴が空いていて ベッドの板が一枚剥がされていた
檻の中には まだ中身が少し残る麻酔剤入りの葡萄酒が転がり それによって眠らされた新兵の剣はなかった

その状態が見つかった時 テナルディエはすでに手の及ばないところまで逃げてしまっているだろうと断定された

しかしその騒ぎを覗いていた部外者の影は 彼が今どこにいるのかを知っていた



ゼロがテナルディエに何かしてやって この脱獄を成し得たのかと言えば 彼女自身は直接何もやっていない
本来の物語を現実化するためにこの謎の多い脱獄劇の部分を想造力の超能力で何かするというのは 彼女が物語を見る側でいたいのでほとんど行われなかった

テナルディエはそれを言われてあっさり諦めた 本当に期待していたわけではないし 他に方法はあった 楽をできる道ではないが はなからこれしかないのだろう

この日までのテナルディエの持ち物は 監獄側から持つことを許されていた鉄の楔と ゼロに入手方法について助言された葡萄酒と 薬指にはめた指輪ひとつだけだった それ以外はもちろん持つことなどできなかった

監獄側が鉄の楔を持たせていたのは 後から思えば失敗だった
葡萄酒はうまく隠していた
これだけで テナルディエは見事檻の中からは出た

騒ぎが起きたその時点で テナルディエは確かに監獄新館の中にはいなかった けれどまだ危険な場所にいた
彼はまだ壁を繋げられないでいた


檻を抜け出し 新館の屋根に登ったが 先に逃げたブリジョンたちのようにまわりの路地を越えてはいけなかった
屋根の上から 煙突に結ばれたままの短くなった綱を見つけた ブリジョンたちが逃げた後に残されたものだが テナルディエはその綱を持ってみて これでは降りるのは無理だと別の道を探し始めた

暗い夜の闇の中 雨風吹き荒れようと 彼女の白い姿は 闇に浮かぶぼんやりとした光のようにそこにあり ただ何も言わず 語りかけることもせず テナルディエがどう動くのかだけに興味を持ち そこにいるのを隠さず 彼は彼女なら見えるだろうと闇の中で睨みつけ 彼女のいる方へ向かっていってすれ違いざまにでも文句を言ってやろうとしたが そっちに行く方がどうやらよさそうだと思い 何も言わない中で 少し助け舟を出すようなことをし始めているようだと気づき とにかく彼女のいる方へ向かい 彼の外での遁走は始まった

フォルス監獄のまわりの路地の壁が見える新館からは離れた場所にかつて一軒の家があり 少し奥まった建物と建物の間の板塀と掛け金のついた戸の先に 今では破屋となったその家の4階ほどの高さがある壁だけが残っていた

午前3時ごろに廃屋の屋上へ辿り着いた時 テナルディエはその場に身を横たえた

彼がどうやってそこに辿り着けたのか…誰にもわからない 不可能に思われるようなほど 難しいことだった
ゼロは方向を示しただけであとは姿を消し テナルディエは自分で道を探すしかなく
雨もあって深い闇に包まれていたのが彼を助けたのは確かだが 屋根から屋根へ飛び移り 区画から区画を通りぬけ…そんなことができないほどの障壁がその道のりにはあり 屋根職人の道具でも使うほか…しかしそれにしても越えられないようなものがあった
寝台の板を橋のようにして 路地の壁の上を腹這いに進み監獄を一周したどり着く方法…それもまた 監獄のまわりの壁の高さの不規則さであったり また見つかることなく来ることの難しさがあった
物語の中で記された理論の上で テナルディエが逃げ延びた方法に関しては 結局わからないとしか書かれていない

ゼロはその時離れた場所にいて 自由のために闇の中を駆ける脱走者をその目で見た
高い壁も深い溝も振り続ける雨も夜の闇もまるでものともせずに突き進み 理論で説明のつかないような力強さを持っていた
数ヶ月間重い鎖を足にはめ ほとんど動けない檻の中の囚人であり 何より今までの生活や年齢をみてありえないような身体能力も 脱走囚人というものが その遁走の中で生み出す神秘の力なのだろうかとつい感心していた

雨に濡れ 服は裂け 手の皮を擦りむき 膝や肘は血にまみれ 息を切らし ようやく破屋の壁の上に辿り着き 身を横たえ力尽き
そこまでしてようやく着いた場所は 4階ほどの高さの壁の上 テナルディエは下に降りれるほどの縄も持っていない
希望を失った逃走者に 動く力はなく すっかり凍え 今はまだ暗い中だが やがては夜も開け 番兵の交代の時間にもなり 脱走は発見されるのだろうと怯えた

どうせゼロは側にいても 声をかけてはこないだろう 頼る気も起こらない彼は はるか下で街灯の微かな明かりで濡れた街路が真っ黒なのをただ呆然と眺める


近くの教会の鐘が鳴る いつもと変わらないはずの鐘の音も 今この状況で聞く4時の鐘となると ゾッとするようなものに変わる

この時ゼロは脱走がどのように発見されたか 檻の前の状態を確認するために一度監獄に戻った
監獄内が騒がしくなるのを離れた場所にいるテナルディエも感じていた

幅わずか30cmの壁の上にうずくまり 体を動かすことができない一方 今にも落ちそうな感覚にもなり さらに捕まるかもしれない恐怖もあった

ティナ「(落ちれば死ぬ…このままだと捕まる…)」

どうしようもないように思われた絶望の中 人目のつかない奥まった街路をこそこそと歩き ちょうどテナルディエのいるあたりの下に集まる4つの人影を見つけた
彼らは何者なのか確かめようと雨の音に少し邪魔をされながらも 死の淵に横たわる男の必死の集中力でなんとか会話を聞き取り そして希望の光を見た気がした

彼らは会話に盗賊の使う隠語を用いていた
しかもその特徴から その4人が逃げ延びていたパトロン・ミネットの連中であることがわかった

彼らは互いを見捨てないという盗賊の義理から テナルディエがどこかの壁の上に居ないかと 危険を顧みず監獄のまわりをうろついていたが 逃げるのに好都合な闇は仲間を探すには不都合で 雨も降り体は冷え切り監獄が騒がしくなり いよいよ危険だということになり やはり宿屋の亭主が自分たちのように逃げ延びるなんてことできはしないという話になり もう諦めて離れるところだった

テナルディエは彼らを呼び止めることはできなかった あまりに危険な行為だった
その時 ふと顔を上げて前を見ると そこにいつの間にか現れたゼロが 不安げで心配そうな目をこちらに向けながらしゃがんでいて 幅30cmの上には乗らず 同じ高さの宙に浮いて 黙って彼の服のポケットを指差していた
呆然としていたテナルディエがその意味に気づいたのを見ると 彼女は微笑んでから暁のほのかに白くなってきた空の中に溶けるように姿を消した

彼が最初に屋根の上に上がった時 先に逃げたブリジョンという男が 逃走の際に使って 新館の煙突のところに残っていた綱の切れ端を どこかで使えないかと持ってきていた それを思い出し 最後の望みをかけ 彼らのいる場所へ投げた

バべという男が「ロープだ!」といい
その綱を手に取ったブリジョンが「俺のだ」といい
モンパルナスという若い男が「宿屋の亭主に違いねぇ」と言った
後1人グールメルは先ほどから黙っている

4人の仲間は上を見た
テナルディエは少し頭を出して仲間たちに居場所を知らせた

彼らは別の綱と投げられた綱とを合わせてテナルディエに投げて渡そうとしたが それは無理だと思ったテナルディエは危険だろうと構わずついに声を出した

ティナ「凍えてる 俺はもう動けない 手が痺れて 壁に綱をつけるのも無理だ」
モンパルナス「じゃあ誰か登って行くしかならねぇ」
ブリジョン「4階の高さだぞ」

何か登る方法はないかと急いであたりを見ると テナルディエのいる壁に石膏の管がついていて ちょうど彼のいるあたりまで上がれるような 亀裂や割れ目の入った狭い管だった

モンパルナスはあれで登れるだろうと言ったが ほかの2人は子供でないと登れはしないだろうと言った
するとモンパルナスは考えがあるようで 今いる場所からバスティーユの方へ向かって行った

彼らがいる場所は扉のついた板塀の中で 人に見つかる心配はないように思われたが それでもモンパルナスの戻るまでの7、8分ほどがテナルディエにとってはとてつもなく長い時間のように感じた

残った仲間たち含め誰も口を聞かず 静かにモンパルナスが戻るのを待っていた

そして戻ってきたモンパルナスは 1人の少年を連れてきた 雨に髪を濡らす少年は 恐ろしい盗賊たちを前にしても堂々として 彼らの用を聞いていた

そしてやることを全部聞いた彼はすぐに仕事に取り掛かり 綱を持って上がり しっかりと結びつけ テナルディエを助けた
待ち望んだ救済によりテナルディエはようやく街路を踏み締め 先ほどまでの疲れや寒さも吹き飛んだのか平気そうな顔で 立っていた

逃げ延びてすぐの会話は プリュメ街というところでうまそうな仕事がある その場所についてはエポニーヌが調べた…話は手早く済まされ ひとまず身を隠そうということになっていた

テナルディエを助けた少年は 大人たちが別の話を進めているのを聞いていたが もう用はないらしいな と彼らに言ったあと立ち去った
その後全員が板塀の中から出た
少年は先の曲がり角で姿が見えなくなった するとそれを見ていたバベがテナルディエを呼び

バベ「お前 あの小僧の顔をよく見たか?お前に綱を渡したやつだ」

と聞いた だがテナルディエは疲労やようやく助かるという安堵や暗さもあって 助けに来た少年の顔など気にすることもなかった

ティナ「見てねぇな」
バベ「あれはお前の息子じゃなかったか?」
ティナ「へぇ そうか」

対して興味のなさそうな様子で バベもそれ以上言うことがないので ガブローシュについての話はそこで終わった

ひとまず身を隠し 時がくればそのプリュメ街へ向かうこととなり 全ての計画をその場で素早く決めて 身の隠し方から何から聞き終えたテナルディエは まず向かうべき場所があるので彼らからも監獄からも離れ 人がまだ少ないうちに人目のつかない路地の奥へ奥へと向かい 壁に触れた

手はするりと飲み込まれ 脱獄を達成した時とはまた違う笑みを浮かべ 中へと入る

ほんの数ヶ月この道を通らないだけでとてつもなく久しぶりで懐かしい感覚に陥る
この先の計画だとか 脱獄囚となったことだとか 生活だとか…それよりも今 逮捕されたことを知るゼロ テンプス そしてギュスターヴが 脱獄することさえ知るにしても自分が来たらどんな言葉をかけてきやがるかと 何より安全な場所であるからそんな興味が湧き
あとは時計を受け取る約束をしていたからタイムだけは探そうとか そんな目的で壁を抜け 扉を開ける

変わらない集会所の景色 つい先ほどようやく緊迫した状況から解放され 疲労も怪我も寒さもなんともないように思われたが それすらもまだ緊張の中にいたのだろうか 今一番安全な場所に辿り着いたと実感した途端 またどっと疲れが襲い 思えば手はずっと震えているし 立つのも辛い
肘も膝も血だらけで他にもあちこち擦りむいたりしていて それが今になって痛みだし いつも自分が座っている椅子に手をかけようとしたが 手の皮もすっかりむけているので とにかく痛かった

脱獄した彼が壁の上からいなくなり 周辺にパトロン・ミネットを見つけはしたが彼はいないと気づいたゼロが もしや集会所へ向かったのかと思って戻ると そこでテナルディエが倒れ込んでいるのを見つけた

ゼロ「ティナ!?」

駆け寄って彼の冷たい体を起こす 意識がないわけではないが疲労困憊のようで やはりあの数十分の脱獄劇の最中に発揮した力は 奇跡のようなものだったのかもしれないと思い すぐに彼の体を乾かしてやったあと もう物語の部分は終わったし この先また数ヶ月の生活が語られはしないからと自分に言い訳しながら とりあえず簡易的なベッドを出して その上に寝かせた

ティナ「…結局 助けるのか?」

テナルディエが弱々しい声をなんとか出して話しかけると ゼロははっきりと返事はしなかったが 彼の怪我をみていて 応急処置ぐらいはいいだろうと 道具を出してから どの道具ならテナルディエの時代でも使っていいのか調べ出していた

ティナ「お前も…わけがわからねぇやつだな ただ見てるだけでいないと…ダメなんじゃないのか」
ゼロ「…ダメだよほんとは 私はピレリを助けなかったのに 君にだけこうするんだから でもここで君が倒れてるのに見捨てるなんて きっとみんなしないよ」

それが目的なのか 文句を言いたかったのか テナルディエはもう自分の行動がよくわかっていなかった
ゼロは逃げるのを見てるから来るだろう そうでなくてもギュスターヴが朝早く時計を合わせるために集会所へ来るから大丈夫だろう
そんなことを考えながら 集会所へ来ていた

ゼロ「…君 家族よりこっちに来る方が先なの?」
ティナ「いい隠れ場所だろ」
ゼロ「そっか…」

家族の話の方はする気がないような顔をしたので それ以上聞くのをやめた

テナルディエがゼロの持つものを見て嫌そうな顔をしたが彼女はそれを無視しながら桶に入れた水をひっくり返して傷を洗い流し その後出血はないか確認しながらガーゼを取り出す
傷跡は綺麗に洗い流されるのに服も床も濡れない妙な水を使われたのはもう驚きもしないが とにかくゼロが淡々と道具を取り出すのを眺めるだけなのも疲れる

とにかく傷は痛むが やってもらえるだけありがたいので 耐えながら大人しくするしかなかった
もう何か言う気力もなく 寒くも暑くもない室内で ゼロが道具を使う音だけを聞きながら 白い天井を眺めていた

ヒューゴの扉が開いてギュスターヴがいつもの時計合わせにやってくると 集会所の普段無い簡易的なベッドの上にテナルディエが寝転んでいてゼロがガーゼで膝の傷を押さえているという光景が目に入り 2人と目があった

ダステ「ティナ…久しぶりだな」
ティナ「…ちゃんと捕まってちゃんと出てやったぞ」
ダステ「そんなふうに言わないでくれ…私だってな…」
ティナ「わかりはしねぇさ 俺とお前じゃ話が違いすぎる」

上半身を起こして話をしたかったが そんな体力がもうないので ギュスターヴから顔を逸らしタイムの扉の方を向いてしまう
ギュスターヴは時計を確認して 一度は自分の世界へ戻ろうとしたが 開けた扉をすぐに閉めて振り向き 寝転がるテナルディエの側に立つ

ティナ「なんだ?」

なんとか起き上がろうとするテナルディエをギュスターヴは止めながら それでもまだ何も言わないで 言葉を探しているような顔のままいるので テナルディエは上体を起こした後

ティナ「…なんだよ ギュスターヴ」

もう一度聞いた

ダステ「この先 君がどうなっていくのか 心配なんだ」
ティナ「全部わかってるんだろ」
ダステ「全てではない 君がその間 どう生きるのかも知らない…私は…友人として 見ているだけでいるのが 辛いのかもしれない」
ティナ「…俺はお前が一番嫌いそうな人間だろ お前らはテンプス側だろ 俺は…やめろ 心配だとか これ以上どうしようもねぇのに そんなこと言うな あとな俺はゼロの力があったから脱獄できたんだ もう十分介入してる ゼロのおかげで 俺は獄中で死なずに…」

止血はすでに済んで 2人の話を側で聞いていたので 急にこちらを向かれて驚いたゼロ

ゼロ「脱獄は どの物語でも成功してる 私はちょっと助言したくらいで 全部物語の通りだよ 私は何もしてない 私がいて成立する“本来の運命”なんかないよ それに一番嫌な結末にならないようにずっと逮捕のことも黙ってたしそれ以外のことだって…」

テナルディエはゼロの言葉を聞きながら 逮捕されてからもずっとはめていた薬指の指輪を取ってゼロの目の前に出す
不思議な輝きのある小さな石が埋め込まれた指輪 脱獄直後のテナルディエが持っているにしては やけに豪華で…

ゼロ「…これ…え?」

慌ててテナルディエの手から指輪を取り上げ 確認する

ゼロ「エターナルと戦う時に渡してた魔法の指輪じゃんか!!しかも身体能力向上の……まさか君これを使って…」

疲れ切っているテナルディエはため息をついてから頷いた
ギュスターヴもよくよくその指輪を見る 確かにどこか見覚えがある

遡ること2年ほど前 物語の世界の破壊を目的にするバグという生き物の1人 エターナルを倒すために戦った際 ゼロが人間である彼らが少しでも身を守れるようにと渡していた指輪がいくつかあり 呪文を心の中で唱え擦ると武器が出たり 少しだけ身体能力が上がったりするようなものだったが 戦いの後全てゼロに返したはずだった

しかしいまの今までテナルディエは渡されたもののうちひとつを持ち続け 今回その指輪に残っていた効力を使って 不可能にも思われるような脱獄を可能にしてしまった
つまり本来説明のつかないとされた部分をゼロの意思に反し想造力で解決してしまっていたのだ

ティナ「だから今更俺の怪我を手当してるとか 気にならねぇよな お前はもう十分 俺を助けてる この先のこといくら言ったっていいんだぞ」
ゼロ「言わないよ絶対!君がその目で見て その耳で聞くんだ 全部!君の人生なんだから…!約束は守る でもその時まで…前と同じ これくらいのことしかしないよ…とりあえず…指輪はもう」
ティナ「無理やりな力だってのはわかった もう使わねぇよ」

回収忘れに気づかないなんて あとでテンプスに何を言われるだろうかと頭を抱えるゼロだが テナルディエにはもうそれで十分だった 面白い顔も見れたし 血も止まって怪我が少しマシになった

ギュスターヴは仕事の準備があるので帰ったが その後もまだゼロはテナルディエの側にいて 最近の集会所でのことを話していた


壁を抜け すっかり明るくなった街路へ出る これからまた闇の中へ戻らなければいけない

運命がこの先 自分に何をもたらすか知らないが あの様子じゃろくなもんじゃなさそうだとため息をつく
だがもう 生きていくしか無い



テナルディエ一家はバラバラになっていた
それを彼はどう思っていたのか そしてこの先のことは?


…テナルディエから返された指輪を 集会所の椅子に座り眺めながら 片手で想造力を使い 本を出し 開く
まずいことをしたかもしれないと思ったが 結果的に筋書き通りにはなっているので 不具合だとか崩壊だとかはなさそうだった

ゼロ「…にしても なんで脱獄して早々ここに来たんだろ 隠れ場所に逃げるべきだろうに…家族だって…」



…次も2ヶ月後かと呟き 本を閉じた



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