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第一章 出会い そして

彼の心臓

出会いの日から1年が経とうとしていた12月の末


ゼロ「そういや 君らって何歳なの?」

いつもの“最近あった事に関する話”が3人分終わった後 ゼロがした質問がこれだった

1年間 特に気になるようなことでもないので誰も聞いてはいなかった年齢の話

この中ではテナルディエが一番年上に見える

ティナ「知らないのか?」
ゼロ「話の中に年齢が出てこないんだよ」
ティナ「ってことはダステも知らねぇのか」
公安官「確かに 出てこないな」

彼らの話全ての中で 確実な年齢に関する話は一切出てこない
かろうじてテナルディエはほんの少しあったけれど それでも大体の年齢しかわからないものだった

ティナ「俺はもうすぐで45だ」
公安官「あぁ 結構年上だったんだな」
ピレリ「私より上か」
ティナ「…俺が一番上なのか?」
ピレリ「私は29歳だ」
公安官「27だ」
ゼロ「おーピレリと近いじゃん ダステが一番年下なんだね」

テナルディエだけ3人の中では歳が離れていた
ゼロの出した酒や料理を楽しみながら こうした話を続けている
そうしていると時々 奥の扉が開いてタイムが現れる
ゼロに頼まれ仕方なく来ていたと言う彼も いつのまにか同じ曜日の同じ時間帯に ここへ来ることをルーティンにしているらしく
語り合う彼らも そんなタイムに既に慣れていた

仮の友人である5人は おそらく友人になっていた
ここで他愛のない話をする飲み仲間を友人と呼んでいいのか ゼロに言わせれば既に友人らしい
互いに助け合えない彼らだが 時に小さな悩みには助言をした その人を大きく変えることはできないけれど 小さな悩みぐらいなら解決できていた

テナルディエは預かっている子供の母親から送られてくる養育費のおかげで 前よりかは金繰りに悩んではないようだった
それがどのようなことか ギュスターヴは既に知ってはいたが そこはどのみちどうすることも出来ない なので何も言いはしないままだった
結局はそういうことだった 大きな悩みとは 物語に直結し 解決はできないままだった


それで その1年経つ前の12月に年齢の話をしている続きだが

ティナ「タイムとゼロは?」
ゼロ「数えてないけど…100超えると数えないよね」

そう言ってタイムの方を見ると タイムは同意するような顔はしていなかった
片眉を上げて 少し思い出すように一瞬上を見上げて 首を振る

タイム「年齢はわからない」
ピレリ「時間の始まりは時間も知らないのか」
タイム「…そうだな それも…」

タイムが城へ戻る時 扉の向こうに広がるのは 暗い世界に青い光 そのほんの一瞬の異世界の景色に 3人の興味は強くなるばかりだった

ただでさえ 現実ではあり得ないことばかりが起こるこの場所 そこに慣れ始めると 新しいものに興味が湧く

なにより 入るなと言われると入りたくなる
好奇心は時が経つほど大きくなり ついに入ってしまおうかという話になった 一番にピレリが言い出し テナルディエもそう思っていたと話した

ギュスターヴは真面目な男だが ゼロは別に従うべき対象ではなかったために この話にのった


3人は数日後の夜遅く ゼロも来ないと言っていたその日に 奥の扉をそっと開いた

テナルディエがゆっくりと覗くと そこにはいつも見えていた 暗い城内があった
快適な温度を保つ集会所と違い 城の中は肌寒かった

近くに誰もいないか確認し 遂に3人は扉の外へ出ていった
誰かの世界へ行くのはこれが初めてだった

別世界といえば一部屋の集会所のみだった彼らにとって 最初の広い広い別世界 見上げれば 天井はとてつもなく高く いくつもの尖塔が見える

ゴシック調の城内は 上を見ても下を見ても巨大な歯車があり あとは複雑に行き交う道と階段と尖塔 大きな城の中は 機械の内部に入ったようにも思えた
聞こえる音は歯車の動く音だろう

集会所の扉から直接世界へ繋がっているのはタイムの城だけだった
扉はそれのために繋がる道の先の尖塔の壁についていた

とりあえず前へ進んでみるが 基本的に道と階段しかなく 何かしらの部屋がありそうな場所が無さそうだった

タイムの城である以上 彼の生活スペースや 彼の仕事を行うスペースもあるはずだ
普段何をしているかを知っているわけではない 存在することこそ時間の仕事なら ここはただの家でしかない
それ以外に仕事があるなら どこでやっているのだろうか

彼はいつも忙しそうにしている 集会所に来る頻度を思えば 彼は常に何かしらの仕事のために城の中にいるはずだった 予想が当たっているのならの話だが

集会所から真っ直ぐ進み続けていると より大きな音が近づいてきた

ピレリ「それにしても 何もないな」
ティナ「他の扉が見当たらねぇし 部屋なんてないのか?」
公安官「思っていたような場所ではなかったな…」

歩き続けると 奥に開けた場所があるように見えた
そこだけ上から降り注ぐ光以外のものが見えていて 3人はそこを目指してみた

すると さきほどから聞こえている大きな音がより鮮明に聞こえてくるようになった
それもまた 機械音だった

その時 城中に低い鐘の音が響いた
ゴーンという悲しげな音に 3人は一度上を見て 歩みを止めた
その音の正体は何か 時間を知らせる鐘かと思ったが 1時ではないのに一回しか鳴らなかった

公安官「…関係ないよな」
ピレリ「私たちに対して ではないだろう…たぶん」
ティナ「おい 静かにしろ」
公安官「どうした」

テナルディエが立ち止まり 壁に寄るように手で指示を出す
公安官たちはとりあえず従い そのあと テナルディエの視線の先を何とか見ようとした

ピレリ「おい どうしたんだ」

小さな声でピレリが言う
テナルディエはジッと行き止まりな道の先を見ている

ティナ「…足音がする この先だ」

歯車の音しか聞こえないが それでもテナルディエには確かに足音が聞こえたようだった
ここにいるのは タイムかゼロくらいなはずだ
できれば見つからないように探索したかったので とりあえずは隠れておいた

ティナ「こっちに来るな…やっぱりバレたか?」
ピレリ「まぁ最悪バレても…何とかなるだろ」

しばらく耳を澄ましていると 確かに誰か来ている
目の前には少し高さのある壁があり その上の奥の方から足音がする
右側に階段があり 上に行けるのだろう そしておそらくそこを歩いている
チラッと上の段に見えたシルエットはかなり大きく 背の高い帽子には見覚えがあった
足音の正体はタイムだ

そのまま彼は進み 大きな声で

タイム「ウィルキンズ!結果はどうなんだ!」

と言った
すると奥から別の声がする

ウィルキンズ「時間ぴったりです ご主人様!」

テナルディエたちはそっと顔を出し 何をしているのかを見てみた
ギュスターヴは普通に覗き テナルディエとピレリはその下からしゃがんで覗き込んでいた

階段の上には 巨大な時計があった
左右に2つずつ 花や雪の結晶の形が円の中にある装飾が回転し 光の灯る文字盤は裏で歯車が動く様子が影となって見えている
巨大さはもちろん圧倒されるが そこに施された装飾にも目を奪われる

城内は常に薄暗く 雲間とはるか地下からの青い光しかないような場所だが この大きな時計は文字盤だけが温かみのある黄色っぽい光を放っているので とても神々しく感じられた


この大時計を見て ギュスターヴが何かを思い出し 呟いた

公安官「タイムの…胸の時計…」
ティナ「胸の?」

半年以上前のこと 集会所にいる時 時間がゆっくり流れるようにしていた彼はそれを戻すために 胸の部分にある時計を見ていた

おそらくあの時計とデザインが同じだ

公安官「多分 タイムが時間を操る時に使っている時計と同じ形だ 彼の…心臓の位置にある時計」
ピレリ「時間の心臓は時計なのか?」
ティナ「あいつらしい心臓だな」

3人は壁際に寄るのをやめて 階段下まで進んだ
上ではタイムがウィルキンズという人物となにやら話をしている

タイム「今日も問題無しだな」

そう言って その場を離れるタイム
おそらくいなくなっただろうと判断したテナルディエたちは ゆっくり階段を上がった
登り切ると広めのスペースがあり 時計の下には潜れば向こう側へ行けそうな 天井の低い道がある

テナルディエが屈んでその先を覗いてみてみると 奥にも広い空間があるようで 中に一際強い光を放つ物体があった

ティナ「…なんだあれ」
ピレリ「どうした?」
公安官「何かあったのか?」

何か と聞かれるとよくわからない
ただ回転して 強い光を放ち続けている球体……としか言いようがない

公安官「あの球から同じ光が出てるな」
ピレリ「あぁ この時計の…同じだな」

彼は完全に その球体の方に意識が向いていた
テナルディエが気づいて後ろを見る頃には 既にタイムがいた

ティナ「うぉ…タイム…」

それを聞いて 公安官もピレリも振り向く
タイムは眉間に皺を寄せて 呆れた顔でこちらを見ている

タイム「入るな という言葉を忘れたのか?」
ティナ「忘れてはいない というだけの話だ」
タイム「…どこか部屋に入ったか?」
公安官「どこにも ただ歩いていただけだ」

タイムがため息をつく
今日はゼロがいない 彼らの相手を押し付けることはできないだろう

タイム「ならさっさと戻れ 私は君たちの相手をしている暇はない」
公安官「……あの時計はすごいな あんなにも大きくて造形の細かい時計は初めて見た」
タイム「世界一の時計職人の 最高傑作だからな さぁ戻れ」
ティナ「あんたの心臓は時計だったか?これと同じ」
タイム「あぁそうだな 同じだ 世界の心臓 万物の大時計だ」
ピレリ「時計の中に 光る球があったが あれはなんだ?」
タイム「あれは……時の…いや世界の動力源だ クロノスフィアという 明日も仕事があるだろう もう戻れ」

ある程度打ち解けた相手には こうも穏やかに接してくれる
質問をすれば律義に回答する

ティナ「お時間いただけるか?俺はもっとあんたを知りたいんだ」
タイム「知ってどうする」
ティナ「仲良くなるのさ」
タイム「仲良くなってどうする ゼロみたいなことを言うな」
ティナ「ゼロみたいで悪かったな それでも……なぁ あんたにとって普通なことが 俺らからすれば 常に驚きの連続だ 生きてる世界が違うんだ 俺はこんな時計も 城も 機械人間も 見たことがない」

テナルディエはただただ興味本位でここにいる 本当に ただの興味本位 彼は今までタイムを利用対象として見ていなかった ゼロのがよっぽど使える能力を持っている
タイムの力が気になる あの球…何かがある もしかしたら

タイム「……話をする暇はないが 城内を歩き回ればいい あの時計の中と…今から行く場所に入らなければ 好きにしろ どのみち お前たちの興味を引く物など そう多くはないぞ」

そう言ってタイムは歩き出す
彼から許可が降りた あの時計の中は気になるし 今から行く場所とやらも気になるが
自由な範囲が増えるのは 悪いことではないだろう

どんどん進んでいくタイムについていく 余所見をしていると置いてかれそうで あまり周りを見る暇はなかった

そうしてたどり着いた場所には 左右門があり それぞれ上に アンダーランドの生者 アンダーランドの死者と書かれている

生者の部屋を覗いてみると 蓋の開いた懐中時計の動く音がうるさいほど鳴っていて 遠くの方から陽の光が差し 空高い場所にいるかのような空間だった

逆に死者の部屋を覗いてみると 上の方にアルファベットが書かれた物が吊るされ ずらっと奥まで道がある 左右には鎖が垂れ 何個も蓋の閉じた懐中時計がかけられている
こちらは静かで 通路の周りは水で満たされているようだった
死者…というだけあって まるでお墓のような雰囲気だった

タイム「この二つの部屋はアンダーランドの生命を管理するものだ 危険だから中に入るな お前たちが入って危険があるのは…以上だ いいか?城に入るなという決まり程度破ったところで迷子の危険ぐらいなものだが 今言った場所はアンダーランドの民たちを危機に晒す可能性がある だから いくらお前たちが好奇心旺盛でも ここだけはよせ いいな」


それだけいうと タイムはまた歩き出した
今度は元の道を戻っている

タイム「見るものなど ほとんどないがな」

そう言いながら どんどん進む

タイム「だが今日はもう戻れ 時間も遅い」
ティナ「あぁ確かにそうだな…そうだ 城の外には何があるんだ?」
タイム「ただ大地と岩山がある程度だ」
ティナ「…へぇ」

タイムに言われた通り その日の彼らは大人しく集会所のある扉へと戻った
扉を開け いつもの部屋を眺める

ティナ「…あの時計の中」
ピレリ「クロノスフィアが おそらくは最も価値があるな」
ティナ「俺らにとっては無価値だろうがな」
公安官「…気になるところではある」

しかしこれ以上知ろうとしても おそらくタイムは説明せず ゼロも答えないだろう

タイムの心臓 アンダーランドという世界の心臓部

彼らはようやく 真に別の世界を見た気がした

あの城の全てが 現実離れしている
大時計も タイムという存在も…



大時計の輝き
あんなにも美しいものを初めて見たかもしれない


これが異世界
物語の中の世界…



ティナ「…この部屋より 別世界って実感がわくな」
ピレリ「興味深い」
公安官「タイム以外に誰かしらいるようだし そちらも気になるな」

また行くか?と顔を見合わせ
…ひとまずは解散となった




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